転生したらバーサーカーのマスターになりました。   作:小狗丸

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「分かった。とりあえずジークに『変身許可』を出せばいいんだな?」

 

 ジークがランスロットに変身できると知った「黒」の陣営は、すぐさま彼が確実かつ安全に変身できるように体を調整した。ホムンクルスの製造者であるゴルドだけでなく、医療知識が豊富なケイローン、ゴーレム関係で人型の魔術回路に精通しているアヴィケブロン、果てにはダーニックまで協力してジークの体を調整したお陰で、制限時間こそあるもののランスロットに変身できるようになったのだ。

 

 しかしそれでもやはりランスロットへの変身は体の負担が大きいので、変身するにはマスターである俺の許可が必要だという安全処置が施されている。

 

「ああ、頼む」

 

「では私も一肌脱ぎましょう。私なら変身したジーク君の特訓相手になれますからね」

 

 ジークが頷くと頼光さんが彼の特訓相手を買って出てくれた。確かに彼女ならランスロットに変身したジークの特訓相手だけでなく、完全に暴走した時に取り押さえる役もやってくれるだろうし適任だろう。

 

「となると後は場所か。サーヴァント同士の特訓をするにはここは狭すぎるし、ダーニックにどこか広くて人目につかない場所がないか聞かないと……」

 

「あら? 場所でしたらマスターがいるじゃないですか?」

 

 俺がどこで特訓をするか考えていると、突然頼光さんが俺の方を見てきた。え? 俺? どういうこと?

 

「ほら、マスターが以前見せてくれたあのゔぃ……びしゃもんてん・ぱーてぃー? でしたっけ? あそこなら私達が特訓しても大丈夫かと」

 

「毘沙門天パーティー? ……もしかして『偉大なる過去と宝の大地(ヴィシュヌ・パージュー)』のことですか?」

 

「そう、それです」

 

「あそこか。確かにあそこならサーヴァント同士が特訓しても大丈夫そうだな」

 

 頼光さんの提案にジークが納得したように頷くのだが、何言ってんのこの二人?

 

 固有結界「偉大なる過去と宝の大地(ヴィシュヌ・パージュー)」は俺の切り札よ? 魔術師にとって奥義とも言える大魔術よ? それを○ラゴンボールの精神と時の部屋みたいに使おうとするか、普通?

 

「はぁ……。分かりましたよ。確かに今から特訓場所を探すのも面倒ですしね。じゃあ頼光さん、これを」

 

 俺はそう言うとポケットから勾玉を二つ取り出して頼光さんに渡した。

 

「これは?」

 

「俺の魔力を封じた勾玉ですよ。固有結界を使っている間はそれの維持に手一杯で、頼光さんに魔力を回す余裕がないですからね。魔力が必要になったらそれを使ってください」

 

「分かりました」

 

「感謝する、マスター」

 

 俺の言葉に頼光さんが頷き、ジークが頭を下げて礼を言う。それを見てから俺は自身の心象風景を具現化し、周囲の景色がミレニア城塞の中庭から、地面が無数の勾玉に覆い尽くされて光輝く武器か突き刺さっている世界へと変わる。

 

「よし、ジーク。『変身を許可する』」

 

「っ! あ、ああ……Arrrrーーーーー!」

 

 俺から許可を受けてジークは己の魔力を高めて雄叫びを上げる。すると次の瞬間、彼の体から漆黒の霧が噴き出て全身を包み、霧が晴れるとジークはランスロットへと変身していた。

 

「くっ……! やっぱり辛いな。気を抜けば意識を持っていかれそうだ……!」

 

「別に我慢する必要はありませんよ」

 

 やはり変身すると狂化の影響を受けるのか、ランスロットに変身したジークが理性を保とうと必死な声を漏らすと、すでに刀を構えて真剣な表情となっている頼光さんが言う。

 

「内なる狂気を抑えきれないのならば、むしろそれを曝け出しなさい。さぁ、私を貴方の兄弟を殺す憎き怨敵と思って挑みかかりなさい」

 

「敵……!? 仲間達の……あ、Arrrrrrーーーーーーーーーー!!」

 

 頼光さんの言葉でランスロットの理性のリミッターが外れたか。結局は暴走してしまったが、今回の特訓はジークの体に変身を慣れさせることだと思えば……って、んん?

 

 そう言えばジークが変身したランスロット(狂)の宝具って、手に持った物を全て自分の宝具に変えるトンデモ技能だったような……?

 

「………」

 

 周りを見る(地面に突き刺さっている光輝く武器が多数)。

 

「………」

 

 地面を見る(俺の意思で爆発する地雷兼ミサイルの勾玉が無限大)。

 

 ………。

 

 ……………。

 

 …………………。

 

 アレ? もしかしなくても、ここってランスロットにとってクッソ有利なフィールドじゃね?

 

「ランスロット! じゃなくてジーク! ちょっと待っ……!」

 

「Arrrrーーーーー!」

 

 俺が止めるより先に、ランスロットは地面にある勾玉を頼光さんに向けて蹴り飛ばし、蹴り飛ばされた勾玉は彼女の周囲で爆発して爆煙を生み出す。しかもランスロットはそれだけでなく、周囲にあった光輝く武器を手に取って、爆煙に包まれた頼光さん向けて投げつけた。

 

「っ!? 頼光さん!」

 

「大丈夫ですよ、マスター」

 

 俺が思わず叫ぶと煙の中から頼光さんの声が聞こえてきた。紫の雷を纏った刃が煙を切り裂くのと同時に、ランスロットが投げ放った光輝く武器を叩き落とした。

 

 煙の中から現れた頼光さんは傷一つ負っておらず、理性を失って完全に暴走しているジークだったランスロットを見て口元に妖しい笑みを浮かべる。

 

「ふふっ。これは中々……。どうやらジーク君の特訓だけでなく、私の特訓にもなりそうですね」

 

「Arrrr……!」

 

 武器を持って睨み合う頼光さんとランスロット。

 

 ……これって「偉大なる過去と宝の大地(ヴィシュヌ・パージュー)」保つのかな?


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