ゴルドとジークフリートが勝手にミレニア城塞を出て、獅子劫さんとモードレッドの元へ向かった件はすぐにミレニア城塞中に広まり、俺を含めた全ての「黒」のマスターとサーヴァントは、玉座の間に集まって緊急会議を開いた。
「……さて、皆に集まってもらったのは他でもない。単独で『赤』のセイバーを討とうとここから飛び出して行ったあの小物についてだ」
ゴルドのことを「小物」と呼ぶダーニックの表情は苦り切っていて、これだけで彼がどれだけゴルドの勝手な行動に腹を立てているのかよく分かった。
「全くあの人は……。一体どうしてこんなことをしたんだ?」
『『……………』』
ゴルドが何故単独行動に出たのか、その理由が理解できずに俺が思わず呟くと、この場にいた俺以外の「黒」のマスターが全員こちらへ視線を向けてきた。……え? 何コレ? 俺、何か変なこと言った?
「孔雀原さん……?」
「留人。お前、本気でそれを言っているのか?」
「え? 本気でってどういうこと?」
フィオレさんとカウレスの質問の意味が分からず、俺が首を傾げて聞き返すと、それまで黙って話を聞いていたセレニケが突然大声で笑いだした。
「アッハハハハハッ! ゴ、ゴルドの奴、孔雀原に全く相手にされていないなんて! あー、おっかしい!」
「……留人よ。あの小物が暴走した理由は、恐らくお前への対抗心によるものだ」
急に笑いだしたセレニケに俺が戸惑っていると、ダーニックが心底呆れたという表情で言った。
「俺への対抗心? 何ですか、それ?」
「リュート、ちょっといい?」
ダーニックの言葉の意味が分からずにいると、今度はロシェが苦笑を浮かべながら俺に声をかけてきた。
「僕達『黒』のマスターは、ユグドミレニアがこの聖杯大戦に勝利して組織として認められたら、その幹部とされる。そこまでは知っているよね?」
「それは当然知っているさ」
封印指定を逃れる後ろ楯がほしい俺は、それが目当てで「黒」のマスターになったのだから。
「じゃあ聖杯大戦での活躍で、幹部としての地位が決まることも知っているよね? ゴルドはさ、聖杯大戦が始まる前までは、ダーニックやフィオレの次くらいに高い地位になると思われていたんだ。もちろん本人もそう思っていたみたいだよ」
「それは……そうかもしれないな」
俺はロシェの言葉に少し考えてから頷く。
ゴルドは性格こそアレでサーヴァントのマスターとしての才能はないが、錬金術師としては一流で、家の魔術師としての歴史もユグドミレニア一族の中で古い方だ。
それに加えて、ゴルドはジークを初めとするホムンクルス達から魔力を抜き取り、サーヴァントとマスターへと供給するシステムを構築したり、ジークフリートという大英雄を最優のセイバークラスで召喚した。これらの事から考えれば、誰もがゴルドが聖杯大戦で活躍して、幹部となれば上位の地位となると思うだろう。
「でも実際に聖杯大戦が始まれば、ゴルドよりずっと活躍するマスターが現れた。それが貴方」
そこでロシェの言葉を引き継いだセレニケが、俺を指差してきた。
「俺、ですか?」
「そう。聖杯に偶然選ばれただけのマスターかと思えば、あの有名な剣の戦争の優勝者で?
ジークフリートにも負けず劣らずの優秀なサーヴァントを召喚して?
ホムンクルスからの魔力供給が受けられないトゥリファス圏外での戦いでは、固有結界なんて大魔術を使って『赤』のアーチャーを一人で倒して?
しかもそのジークとかいうホムンクルスを、擬似サーヴァントにして自分の手駒にして?
それに対してゴルドは、私達にさんざん偉そうなことを言っておきながら何も功績を立てていない。……そりゃあ、焦るわよ」
セレニケはそれはそれは楽しそうに、俺が最近やってきたこと、つまりはゴルドが焦る理由を右手の指を折りながら数える。この人、どれだけゴルドが嫌いなんだよ?
でも原作やこの世界で見たゴルドの性格を考えると、焦った上に俺に対抗心を懐いても仕方ない……のか?
「……つまり今回のゴルドさんの単独行動の理由は、自分だけで『赤』のセイバーを倒して俺の鼻をあかそうと考えた……ということですか?」
『『……………』』
俺の言葉に、俺以外の「黒」のマスター五人が同時に頷く。
「~~~~~! くっっっだらねぇ!」
いくらなんでもあんまりなゴルドの動機に、俺は思わずしゃがみこんで頭を抱えた。
ふざけんなよ! 何を考えているんだよ
今俺達がやっているのは聖杯大戦なんだぞ! 正真正銘の戦争、殺し合いなんだぞ! 魔術師の世界でよくある足の引っ張り合いとか決闘なんかとは訳が違うんだぞ! どれだけ優秀な魔術師でも、くだらない理由で一人で何の考えもなく行動して生き残れるわけないだろうが!
聖杯戦争中に一人でフラフラして生きていけるのは、誰とは言わないが青いセイバーを引き当てたブラウニーくらいなんだよ!
というかどうするんだよコレ? ゴルド一人が痛い目に遭うだけならまだ自業自得ですませられるけど、ゴルドが死んだらジークフリートまで消えて「黒」の陣営の戦力、大幅に下がるぞ!? せっかく「黒」の陣営の勝率を少しでも上げようと頑張っていたのに、かなりデカイ負けフラグが立つじゃないか!
「『赤』のセイバー……。その真名は、あの名高き円卓の騎士モードレッドだったか……」
俺が心の中で盛大に、ここにはいないゴルドに向かって怒声を上げていると、ランサーが重々しく口を開いた。
ちなみに「赤」のセイバーがモードレッドであることは既に、適当な理由で真名が分かったことにして「黒」の陣営に報告済みである。
「留人よ。一度戦ったお前に聞くが、モードレッドとそのマスター。ジークフリートとゴルドで勝つことは可能か?」
「無理ですね」
ランサーの質問に俺が即答すると、カウレスが呆れた顔となる。
「留人、お前……」
「いやいや、待ってくれ親友。これは冷静に戦力差を分析した結論なんだ」
考えてみてほしい。ジークフリートとモードレッド、お互いに一流のサーヴァントなのだが、肝心のマスターの差が大きすぎるのだ。
殺し合いに特化した歴戦の死霊魔術師の獅子劫さんと、腕は良いのだが聖杯大戦を甘く見すぎている錬金術師のゴルド。
戦いになればどちらが勝つかなんて、火を見るより明らかだろう。
「はぁ……。やはりそうか。……留人、フィオレ、カウレス。すまないが急いで
俺の言葉にダーニックは溜め息を吐くと、俺とフィオレさんとカウレスにゴルドの掩護を頼んできた。
確かにこんなところで、ゴルドはともかくジークフリートを失うわけにはいかないので、ダーニックの命令は正しいのだが、この命令こそが地獄の始まりであった。
「『黒』のマスター達よ。恨みはないがここで討たせてもらう」
「へぇ……。テメェが姐さんを殺したっていう魔術師か。会いたかったぜ……!」
カウレス達と一緒に、ゴルドと獅子劫さんが戦っているであろう場所へ行くと、そこで俺は
……俺、そろそろ泣いてもいいかな?