時は少し遡る。
ゴルドとジークフリートが向かった獅子劫さんとモードレッドの拠点は、原作通りトゥリファスから離れた街にある
「ゴルドはまだ生きているみたいだな。下手をしたらもう殺されているかも、と思っていたんだけど、随分と粘るな」
先程から聴こえてくる爆音は、まず間違いなくジークフリートとモードレッドが戦っている音で、まだサーヴァントの戦いが続いているということはゴルドもまだ生きているということだ。俺が素直に感心して呟くと、カウレスが目を細めて責めるような視線をこちらに向けてきた。
「留人。お前なぁ……」
「親友。これは別に単独行動に怒って言ったんじゃない。ゴルドは多少は腕が立つ魔術師かもしれないけど、所詮は『そこ』止まりだ。それに対して獅子劫さんはプロの傭兵で殺し屋で、ゴルド以上に腕が立つ魔術師を何人も殺してきた実績がある」
「………」
俺に言葉を遮られたカウレスだったが、俺が言っている意味を正しく理解したようで、何かを言おうとしていた口を閉じた。
「そしてこれは聖杯大戦。大戦……つまりは戦争、何でもアリの殺し合いで、獅子劫さんの得意分野だ。なのにゴルドはそれを理解せず、魔術師の決闘か、それの延長上のものだと思い込んでいる」
そうカウレスに説明をしている俺の脳裏には、獅子劫さんの拠点の前でノコノコと姿を現して、「正々堂々と勝負しろ!」と目を開けたまま寝言を叫ぶゴルドと、物陰からそのゴルドの無防備な背中に銃の照準を合わせている獅子劫さんの姿が鮮明に浮かび上がった。あのゴルドと獅子劫さんの性格を考えると、こんなシチュエーションになっても全くおかしくない。
「ミレニア城塞でも言ったけど、ゴルドが獅子劫さんに勝つ目はない。どれだけジークフリートが優秀でもな。……正直、すでにゴルドが殺されていて、この爆発が後から救援に来る俺達を釣る罠でも俺は驚かないよ。というか、むしろ納得する」
「それでも私達は行かなければなりません」
俺がそこまで言ったところで、背中に巨大な四本の金属製の腕……魔術礼装ブロンズリンク・マニュピレーターを装着したフィオレさんがやって来た。
「孔雀原さん。貴方がゴルド叔父様に思うところがあるのは分かりますが、ゴルド叔父様とジークフリートは『黒』の陣営にとって必要な存在。どれだけ獅子劫界離が危険な存在だとしても、助けにいかない理由にはなりません」
「いやいや! ちょっと待ってくださいよ、フィオレさん。別に助けに行かないなんて言っていませんよ」
足にある魔術回路の影響で自力では立てないフィオレさんは、ブロンズリンク・マニュピレーター装着時はその四本ある腕の二本を足代りにして、その結果、大抵の大人を見下ろせる視線の高さとなる。俺は真面目な顔でこちらを見下ろしてくるフィオレさんに、とっさに両手を上げて弁明をした。
「……そうですか。それならいいのです。では孔雀原さん。指揮はお願いしますね」
「え?」
機嫌が治ったフィオレさんは俺に指揮を任せると言ってきたけど何で俺? ここはフィオレさんが指揮をとるところじゃないの?
「この中で一番実戦経験が豊富なのは孔雀原さんですから。よろしくお願いしますね」
「「………」」
フィオレさんが笑顔でそう言うと、他の全員が頷いて俺の方を見てきた。……マジですか?
「はぁ、分かりましたよ。……とりあえず俺と親友はそれぞれのサーヴァントに担いでもらって、ジークとフィオレさんは自力でゴルド達がいる場所に急行。
ケイローンは遠方から戦場の監視。そして戦闘になれば掩護を。
ホムンクルス達はここで待機。何かあれば連絡するから、いつでも車を出せるようにしといてくれ」
俺が指示を飛ばすと全員が頷いて行動に移る。
……さて、それじゃあ行きますか。
頼光さんに担がれた俺と同じくアヴェンジャーに担がれたカウレスが、ゴルド達が戦っている現場に到着すると、やはりと言うべきか「黒」と「赤」のセイバー対決は「赤」側の勝利であった。
俺達が到着した頃には、ゴルドは全身が血だるまとなって地面に倒れており、ジークフリートはそんなゴルドを守るように立って剣を構えているのだが、彼も全身ボロボロで、肩で息をしていた。そしてジークフリート達に向かい合っているモードレッドと獅子劫さんは全くの無傷。
正直、ここまで差を見せつけられたら、もう笑うこともできなかった。
「ゴルド叔父さん!」
「セイバー!」
「……お前達か。すまない。マスターを敵の奇襲から守りきれなかった」
カウレスと俺が声を上げると、ジークフリートが視線だけをこちらに向けて謝罪してた。
ジークフリートがゴルドを守りきれなかった? ジークフリートの性格なら、マスターに迫る危機は絶対に見逃さないはずなのに?
「セイバー、どういうことだ?」
「ああ、その太っちょのことだったら、楽な仕事だったぜ。なぁ、マスター?」
「そうだな」
俺がジークフリートにどういうことか聞こうとすると、彼より先にモードレッドが口を開き、その彼女の言葉に獅子劫さんが頷く。
「よぉ、久しぶりだな、留人」
「……お久しぶりです獅子劫さん。それで? どうやってゴルドを倒したのか、聞いてもいいですか?」
右手に魔術礼装のショットガンを持ち、空いている左手を上げて挨拶をする獅子劫さんに挨拶を返してからゴルドを倒した経緯を聞くと、獅子劫さんは何でもないように答えてくれた。
「別に大したことはしてねぇよ? そこで倒れているオッサンは、俺達のねぐらの前に、そこにいるサーヴァントだけを連れてやって来たかと思えば、『魔術師の誇りをかけて正々堂々と戦え!』とか『この俺様が殺してやるぞ!』とか大声で言い出したんだ。
だけど俺達にはそれに応えてやる義理も義務もないから、挨拶代わりに奇襲でも仕掛けてやろうと思ってオッサン達の背後に回り込んだわけだ。するとオッサンは待つのに飽きたのか、サーヴァントだけを俺達のねぐらの中に行かせたんだ。
守ってくれるサーヴァントもいなくて油断しきっているマスターなんて、仕留めるしかないだろ? まるで『どうぞ襲ってください』と書いてあるような背中に
で、まだ死んでないオッサンに止めをさしてやろうと思ったら、そこのサーヴァントがスッ飛んできて今に至るってわけさ」
なるほど。つまりゴルドがジークフリートに馬鹿な命令を出した直後にあっさりと倒されたせいで、動けないマスターを庇いながら戦うジークフリートは、本来の力を発揮できずここまでボロボロになったと……。
なんてこったい。俺の予想、ほとんど当たっているじゃないか。……だけどいくら予想通りとはいえ、これは酷い。「自爆」と言ってもいい酷すぎる敗因だ。
『『………』』
攻撃の要であり守りの要でもあるサーヴァントを、自分から遠ざけるゴルドの行動に呆れているのは俺だけではなかった。頼光さんとアヴェンジャーは何を言ったらいいか分からないといった顔をしているし、カウレスは頭痛を堪えるかのように額に手を当てていた。
獅子劫さんはそんな俺達を少し見てから、残念そうな顔をして肩をすくめる。
「……しかしお前達が来たのなら、これ以上戦うのはこっちが不利だ。残念だがここは退かせてもら……」
「おいおい。それはちょっと早くないか? 『赤』のセイバーのマスターさんよ?」
獅子劫さんの言葉を若い男の声が遮った。
………っ!? こ、この声はまさか……!
嫌な予感を感じた俺が、恐る恐る声がしてきた方を見ると、そこには二人の男……英霊、それも原作で上位の戦闘力を持つ英霊の姿があった。
すなわち「赤」のランサー、施しの英霊カルナ。
そして「赤」のライダー、最速の英雄アキレウス。
……何でこの二人がこんなところにいるの?
「お前達は……?」
「貴殿が『赤』のセイバーのマスターか。俺は『赤』のランサー。マスターとの約定に従い、貴殿らの援軍としてきた」
「俺は『赤』のライダーだ。俺もランサーと同じなんだが……実際に命令してきたのはアサシンのマスターなんだよな」
カルナとアキレウスは獅子劫さんの言葉に答えると、次に俺達の方を見てきた。
「『黒』のマスター達よ。恨みはないがここで討たせてもらう」
「へぇ……。テメェが姐さんを殺したっていう魔術師か。会いたかったぜ……!」
………。
……………。
…………………。
いきなりだけど俺ってさぁ……。生き残って「黒」の陣営を勝利させるために、色々と頑張ってきたんだよ……。
それなのに一人の
二人の英霊に睨み付けられた俺は、思わず遠い目となってそんなことを考えたのであった。
「運命の女神は俺のことが嫌いなのかな……?」(by孔雀原留人)
「いいえ。私は貴方のことを大切に思い、いつも見守っているわ」(by微笑みを浮かべる