転生したらバーサーカーのマスターになりました。   作:小狗丸

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「マスター。お気を確かに」

 

 突然のカルナとアキレウスの登場に俺が呆然としてると、頼光さんが俺を守るように前に進み出た。

 

「ら……バーサーカー?」

 

「大丈夫ですよ、マスター。敵がどれだけ強大であろうとも、マスターはこの母が守りますから」

 

 流石に敵の前で真名を言うわけにはいかないのでクラス名で頼光さんに声をかけると、彼女は首だけをこちらに向けて優しい笑みを浮かべた。そしてその笑みを見て俺もようやく正気を取り戻した。

 

 そうだ。しっかりしろ、俺。ここで呆けていても殺されるだけだ。ここで生き残るにはマスターとしての役目を果たして、頼光さん達とこの戦いを勝利するしかないんだ。

 

 大丈夫。何とかなるさ。サーヴァントとの戦闘なんて、剣の戦争の時のも含めたら、もう何度も経験している。

 

 ただ今回は敵のサーヴァントが三騎で、三騎ともワールドクラスの知名度を持つ超強力な英霊で、全員その気になればこの辺りを一瞬で吹っ飛ばせる対軍宝具を持っていて、三騎のうち二騎がスキルや宝具でほとんど不死身なだけだ。

 

 ……………やっぱりちょっと、いや、かなり怖いな。できるのなら、今すぐこの場から泣きながら逃げ出したい。

 

 俺がそんな事を考えていると、ジークとフィオレさんの二人も遅れてこの場にやって来た。

 

「ゴルド叔父様!?」

 

「マスター、無事か! ……うぐっ!?」

 

 フィオレさんは地面に倒れ気絶しているゴルドを見て悲鳴のような声を出し、ジークは向こうにいるモードレッドの顔を見た途端、胸を押さえて苦悶の声を漏らした。ジークのあの様子……また初めて変身をした時のように、アイツの中のランスロットが暴走し始めたのか?

 

「ジーク、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫だ、マスター。もうあの時のように暴走したりしない……!」

 

 俺が聞くとジークは顔をしかめながらもそう答えた。……あれならしばらくは暴走することはないだろう。ケイローンは既に弓矢で俺達を援護できる場所にいるだろうし、これでこちらの戦力は全て揃った。

 

 さあ、考えろ。今回の戦闘の指揮者は俺だとフィオレさんも言ってくれただろ。前世の記憶が戻り、頼光さんを召喚した日から今日まで、一日も欠かさず続けてきた、「赤」だけでなく「黒」のサーヴァント全てと戦う事を想定した脳内シミュレーションを思い出せ。

 

 そう自分に言い聞かせると、思ったよりも早くどの様に戦うか作戦が決まり、俺はこの戦場にいる仲間達全員に指示を飛ばした。

 

「ジーク、親友、フィオレさんは、セイバーと協力して獅子劫さんとモードレッドの二人と応戦。あとついでにゴルドを守って! 『赤』のランサーは俺とバーサーカーが相手をする! 残りは『赤』のライダーを押さえてくれ!」

 

『『………!』』

 

「へぇ……」

 

「ほう……」

 

 俺が指示を出すとジーク達は頷いて即座に行動に移してくれて、それを見ていた獅子劫さんとカルナが感心した様な表情となる。しかし一人だけ、俺の言葉に苛立った表情となった者がいた。……アキレウスだ。

 

「おいおい……! 俺はお前と戦いに来たんだぜ? ……無視するんじゃねぇよ!」

 

「おっと」

 

「……!?」

 

 言葉と共に俺に向かって突撃しようとしたアキレウスだったが、それをアヴェンジャーが前に立ちはだかって止めてくれた。……やっぱりアキレウスの狙いはアタランテを殺した俺だったか。

 

「退けよ、テメェ!」

 

「クハハッ! それは出来んな。俺の役目はお前を押さえておくことなのでな」

 

「このっ! ………!?」

 

 行く手を妨害するアヴェンジャーに苛立ったアキレウスが手に持っていた槍を振るおうとした時、遠方より一本の矢がアキレウスを目掛けて飛んで来て、それをアキレウスは間一髪で回避する。さっきの矢はケイローンか。

 

「ちぃっ! 『黒』のアーチャーも来ているのかよ! 鬱陶しい!」

 

 よし。アキレウスは俺の指示通り、アヴェンジャーとケイローンが押さえてくれている。これで俺と頼光さんも、カルナの戦いに集中できるというものだ。

 

「『赤』のランサー。悪いけど場所を移さないか?」

 

「ああ、構わんよ」

 

 先程から攻撃もせずに、俺達の準備が整うまで待っていてくれたカルナにそう提案をすると、彼はやはりと言うかこちらの提案をあっさりと受け入れてくれて、俺と頼光さんとカルナは少し離れた場所へと移動した。……カルナと戦ったら余波が広すぎて、まず間違いなくジーク達を巻き込んでしまうからな。施しの英雄が提案を聞いてくれて助かったよ。

 

 

 

「ここならいいかな? 俺の頼みを聞いてくれて助かったよ。施しの英雄カルナ」

 

「……何?」

 

 場所移動の提案を聞いてくれた礼を言うのと同時に真名を告げると、カルナは僅かに目を見開いて俺を見てきた。いちいち「赤」のランサーと呼ぶのも面倒だからつい真名を口にしてみただけなのだが、いきなり自分の真名を言い当てられると流石のカルナでも驚くようだ。

 

「貴様、何故俺の真名を言い当てた?」

 

「俺は以前参加した亜種聖杯戦争で、インド出身のサーヴァントと一緒に戦ったことがあるんだよ。だから気配で分かる」

 

 嘘は言っていない。

 

 カルナの真名が分かったのは前世の原作知識のお陰だが、俺は「以前インドのサーヴァントと一緒に戦ったことがあって、その時感じた雰囲気からカルナがインドのサーヴァントだと改めて分かった」と言っただけだ。カルナの質問には全く答えていないが、彼はその事を気にしてはおらず、むしろ俺の言葉に興味を抱いたようで、次の質問を口にする。

 

「インドのサーヴァントか……。それは一体どんな英霊だ?」

 

「王様だよ。猿の勇者と一緒に魔王を倒した偉大な王様さ」

 

「………っ!?」

 

 この言葉だけでカルナは、俺が以前参加した亜種聖杯戦争、剣の戦争で契約したサーヴァントが誰だか分かったらしく、先程よりも大きく目を見開いて絶句した。

 

「……フ、フフフッ! まさかあの偉大なコサラの王と肩を並べた魔術師と、そのサーヴァントが俺の相手とは……! どうやら俺は良き戦いに恵まれたらしい!」

 

 絶句したかと思ったら一転して非常に嬉しそうな笑みを浮かべて槍を構えるカルナ。そういえばカルナって、こういう戦闘狂……と言うほどじゃないけど、強い相手との戦いを望むところがあったんだっけ?

 

「さあ、始めよう! 『黒』のマスターと『黒』のバーサーカーよ! お前達とならば熱き戦いが期待できよう!」

 

「来ます! マスター、指示を!」

 

「分かっています」

 

 マハーバーラタでは神の策略で弱体化させてようやく倒せたと言う、インド神話でも最強クラスの英霊、施しの英雄カルナ。一体どこまで俺と頼光さんの力が通用するのだろうか?


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