とある教会の中に三人の男女がいた。彼らは全員同じ場所を見ており、視線の先にはスクリーンのようなモノが空中に浮かび上がっていて、スクリーンには「赤」のランサーと、「黒」のサーヴァントとマスターが戦っている姿が映し出されていた。
「固有結界……。まさかあのような大魔術まで使えるとはな」
三人の男女の一人、黒いドレスを着た女性が、スクリーンを見ながら驚いた顔となって呟く。すると彼女の隣にいた人物が大きく頷く。
「ええ! ええ! これは素晴らしい! 固有結界! 自らの心証風景を具現化させて、文字通り『世界を塗り替える』魔術師の奥義の一つ! それを使える魔術師が、この聖杯大戦に参戦していようとは!」
テンションを上げて大声を出しているのは、中世のヨーロッパらしきデザインの服を着た、作家風の男だった。彼はスクリーンにから目を離すことなく、それでいて右手に持った羽ペンで、左手に持った白紙の本に高速で文章を書いていく。
「強力な魔術を操り、すでに『赤』のアーチャーを倒してみせた魔術師! そしてそれに従うのは美しくも頼もしい剣士のご婦人! 少々使い回されている感はありますがそれがいい! さあ、彼らがこれからあの大英雄であるランサー殿に何をしてくれるのか、我輩ドキドキが止まりませんぞぉ!」
興奮しながら執筆のスピードを更に早くする作家風の男を横目で見て、黒いドレスを着た女性がため息を吐く。
「たわけ。味方ではなく敵に期待をしてどうする? ……しかしあの魔術師の小僧が何をするのか、興味があるのは妾も同じだが。『マスター』もそうであろう?」
黒いドレスを着た女性が最後の一人に話しかける。マスターと呼ばれたのは、神父の服を着た、白髪で肌が黒い青年であった。
「そうですね。彼は非常に危険な存在のようだ。彼のお陰で私達の計画も大きく遅れているみたいですし」
そこまで言ったところで神父服の青年は、スクリーンに映る「黒」のマスターである青年を見る目を細める。
「この戦いの結果次第では、彼を最優先で排除する方針をとる必要がありそうですね……」
☆
見られているな……。
固有結界「
あの鳩は十中八九間違いなく「赤」のアサシンの使い魔で、鳩が見ている光景は「赤」のアサシンとそのマスターである天草四郎も見ていることだろう。正直、この物語の最後の敵となる天草四郎が見ている前で、これ以上手の内を見せたくないのだが、ここまできた以上止めるわけにはいかない。天草四郎の対策は後で考えることにして、今はカルナとの戦いに集中しよう。
「ほう……。まさか己の世界を創造する魔術を使うとは思わなかった。……見事なものだ」
カルナは俺の心象世界、無数の勾玉で覆い尽くされて、光り輝く数多くの武器が突き刺さっている大地を見回してから、感心したように言った。
「お前程の英雄にそう言ってもらえると光栄だ……ねっ!」
俺はカルナの足元にある勾玉を一斉に爆発させた。しかし当然というかカルナは無傷で、爆発の爆風を利用して飛び、宙に浮かぶと納得したように頷いた。
「なるほど。この大地にある奇妙な形の石、その一つ一つがお前の意思で動き、爆発する魔弾なのか。そして……」
そこまで言って、カルナはあらゆる方向から自分に向かって飛んでくる光り輝く武器の数々を、自分の持つ黄金の槍で打ち払っていく。
「この光り輝く武器もお前の意思で動かせるのか。……一目でヴィシュヌの武具の贋作だと分かるが、本物への敬意が感じられる良い武具だ」
迫り来る光り輝く武器を、黄金の槍で打ち払いながら冷静に観察をするカルナ。分かっていた事だけど、切り札の一つをこうもあっさりと防がれると傷つくな。……だけど!
「バーサーカー!」
「はい!」
俺が呼びかけると頼光さんは、俺が浮かび上がらせた勾玉を足場に跳躍し、空中に浮かぶカルナに迫る。そして今の彼女は刀を鞘に納めており、カルナが打ち払った光り輝く武器を手に取って振るう。
光り輝く武器は放ったのはカルナの命が狙いではなく、最初から頼光さんが手に取りやすいように空中に配置するためだ。
「はぁああっ!」
「……! くっ!」
頼光さんは槍を手に取って突くと、すぐにそれを捨て、次に棍棒を手に取って振るうとすぐにそれも捨てて、また別の武器を手に取り使う。当たり前のことだが、武器が異なれば武器の持つ威力や力の伝わり方や、射程距離といった全ての要素が大きく異なってくる。それらの差異がカルナの対応をほんの僅かに遅らせ、そして頼光さんは、その僅かな遅れを的確に突いて、カルナの体に攻撃を当てていく。
無窮の武練:A+。
頼光さんが持つスキルの一つで、このスキルを持つ彼女は武装を失うといった事態を初めとする、如何なる状況でも戦闘能力が低下することはない。それは自分が愛用している刀や弓矢以外の武器を使っても戦闘能力が低下しないという事で、裏を返せば頼光さんは、あらゆる武器も自在に操れるという事になる。
以前この固有結界内で頼光さんとランスロットの模擬戦をした時、俺はここがランスロットにとって有利なフィールドだと思ったが、頼光さんにとっても有利なフィールドであったのだ。
さあ、無駄話はここまで。頼光さんがカルナの気を引いているうちに、俺ももう一つの切り札を使うとするか。
俺が切り札である勾玉を握りしめた右手を空高く掲げて、手の内にある勾玉に魔力を送り、勾玉に刻み込まれた情報を起動させる。
魔力による問題はない。俺の服の下に仕込んである勾玉には、事前に魔力のみを封じた魔力タンク役の勾玉がいくつもあり、それが俺と頼光さんへ魔力を供給してくれる。……でもこれらの勾玉はもう二度と使い物にならないから、勿体無いと言えば勿体無いかな。
俺の右手の中にある勾玉が光を放ち、光は俺の上で輪の形状となって高速で回転をする。
以前参加した亜種聖杯戦争、剣の戦争で俺は、自分のサーヴァントから彼の宝具を模倣する許可をもらい、彼を召喚した聖遺物を加工して作った勾玉に、宝具の情報を刻み込んだ。それによって俺は勾玉に魔力を送ることで、剣の戦争で共に戦ったサーヴァントの宝具を再現することが出来るようになったのだ。
「あれは……!?」
カルナが俺の作り出した光の輪を見て驚いた顔になるが、もう遅い。
「バーサーカー!」
「はいっ!」
「しまっ!? ……!」
頼光さんが振るった光り輝く棍棒がカルナの脇腹に命中し、その衝撃によってカルナの体勢が崩れる。……今だ!
「これが俺の奥の手中の奥の手! 『
俺は空中にいるカルナに向けて、高速で回転する光の輪を投げ放った。