英霊の象徴とも言える宝具を模倣して使用する……。我ながらとんでもない無茶をしていると思う。
聖杯のバックアップ無しでサーヴァントを召喚したり、その力を使用するなんて、例え一瞬だけでも奇跡の領分だ。もし魔術協会が俺が「
俺がこんな奇跡の領分に足を踏み込むことができたのは、孔雀原家の魔術の特性と俺自身の「起源」が関係している。
孔雀原家の魔術は勾玉を使用した一種の宝石魔術で、魔術や魔力を封印しておける珍しい特性があり、更には俺の起源は「蓄積」と「開放」で、それが孔雀原家の魔術に非常に相性が良く、これらの組み合わせにより、宝具の情報を保存できるようになったのだ。……だけど宝具の情報を保存できた最大の理由はやはり、宝具の持ち主である英霊が模倣の許可を出してくれたのと、保存に使った勾玉が、その英霊の召喚に使った聖遺物を加工した物であることだろう。
だがそのお陰で俺は、カルナに通用する可能性がある作戦を考える事ができた。
……結論から言えば、カルナの最大の強みである黄金の鎧を破壊することは絶ッッッッッ対に不可能だ。
カルナの黄金の鎧は、古代インド神話に登場する神々ですら破壊することは困難であると諦めたような代物で、原作の資料でも「完全に破壊するのは不可能」とハッキリと書かれていた。そんなものがいくら一流のサーヴァントである頼光さんや、今使っている「
だから俺は、どうにか黄金の鎧の防御力を無視してカルナを倒せないかと考えた。黄金の鎧を貫く……正確には黄金の鎧の加護を貫く作戦を考えた。
……まあ、散々考えた末に考えついたのは、作戦とも言えない賭けであったのだが。
俺が考えた作戦というのは、カルナが神話通りの堅牢さと不死身さを再現しているのなら、こちらは神話で語られる「二つの最期」を再現するというものだ。
二つの最期の一つは、マハーバーラタに記されたカルナの最期。
そしてもう一つの最後は、マハーバーラタに並ぶ古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」に記された魔王ラーヴァナの最期だ。
俺は「
「第三の『黒』が令呪を捧げて願う! 我が魔術『
俺が令呪の一画を使った次の瞬間、「
よし、成功だ! 原作のジークが令呪をサーヴァントではなく自分に使うのを見て、自分でもできないかと試行錯誤していたのだが、予想以上に上手くいった。
ラーマーヤナに登場する魔王ラーヴァナは、千年にもわたる苦行により、神々を相手にしたら決して負けない特権と、不死の霊薬を飲んだことにより不死身となった恐ろしい魔王だ。
ラーマーヤナの主人公であるラーマ王は、魔王ラーヴァナとの一対一の決戦で、神より与えられた武器のブラフマーストラを使った。そして、ブラフマーストラの放つ熱が魔王ラーヴァナの体内にある不死の霊薬を蒸発させ、不死身でなくなった魔王ラーヴァナはラーマ王に退治された。
これが魔王ラーヴァナの最期で、この伝承からラーマ王が放つブラフマーストラには魔性に対して強い効果を発揮する特性の他に、不死を殺すという特性を持つ。
ここまで説明すればもう分かっていると思うが、俺が投げ放った「
そして令呪の力で輝きと熱量を増した光の輪は、頼光さんの一撃により空中で体勢を崩したカルナの胸に命中した。すると……。
「………っ!?」
今までにない痛みを感じたのか、それとも体に異変が生じたのか、カルナは驚きで目を見開いて自分の胸を凝視する。その視線の先では俺が放った「
よし! 第一段階成功! 続けて第二段階行くぞ!
カルナの傷を確認した俺は、続けて左手の令呪に魔力を送って発動させる。
「第三の『黒』が令呪を捧げて願う! バーサーカー! 宝具『釈提桓因・金剛杵』を使い、カルナの首を貫け!」
「承知!」
俺が令呪を使い頼光さんへ命令を出すと、それに頷いた彼女は天空より紫電を纏って先端が三つに別れている巨大な刃、金剛杵を召喚する。
釈提桓因・金剛杵。
インドラが聖仙を使って作り出した金剛杵を召喚し、それを高速で敵に投げ放つという、インドラの化身である頼光さんの宝具。本来はランサークラスで召喚された時の宝具なのだが、今回は令呪の力で無理矢理使用可能な状態にしたのだ。
そしてこの宝具の発動こそが俺が考えた作戦の第二段階。
マハーバーラタの最終決戦でカルナは、インドラの策略により黄金の鎧を奪われた上に、バラモンの呪いを受けて弱体化した状態で参戦した。そして最後はインドラの息子である宿敵、アルジュナに敗北して、彼が放った矢によって首をはねられて死んでしまう。
これがマハーバーラタに記されたカルナの最期。
サーヴァントには「生前の自分の死因に関する、もしくは類似している攻撃は通常の攻撃よりも効果がある」というルールがある。
インドラの化身である頼光さんの飛び道具(宝具)による攻撃。これはカルナの生前の死因であるインドラの息子のアルジュナの矢と類似している攻撃で、黄金の鎧の防御力が健在なカルナにも充分通用するだろう。
「あれはインドラの……!?」
驚いた顔したカルナがそう言葉を漏らした次の瞬間、頼光さんが投げ放った金剛杵は彼の喉元に命中した。