転生したらバーサーカーのマスターになりました。   作:小狗丸

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 留人と頼光がカルナと戦闘していた頃、当然ながら別のところでも戦いが繰り広げられていた。

 

 夜の街の上空を二つの影が高速で移動し、何度もぶつかり合う。二つの影のうち片方は「赤」のライダー、アキレウスで、もう片方は「黒」のアヴェンジャーであった。

 

「ああ、クソッ! あの魔術師はどこに行きやがった!」

 

 戦闘の合間に留人の姿を探していたアキレウスは、いつの間にか留人と頼光の姿が消えていることに苛立った声を上げる。そして、今彼らがどこに行ったのか知っているアヴェンジャーは、口元に小さな笑みを浮かべる。

 

(留人達はどうやら、固有結界内で『赤』のランサーと戦っているようだな。見たところあの『赤』のランサーは強力な英霊のようだが、さて一体どこまでやりあえるものか……)

 

 そこまで考えてアヴェンジャーは頭を切り替えて、目の前にいる「赤」のライダーに意識を集中させる。確かに留人達が戦っているカルナは強敵であるが、アキレウスもまたも強力な英霊であることを、これまでの戦闘でアヴェンジャーは理解していた。

 

「クハハッ! この俺を前に余所見とは余裕だな? 『赤』のライダーよ!」

 

 アヴェンジャーは内心ではアキレウスを強敵と認めているが、それでも挑発の意味も兼ねて、笑いながら声をかけると、続けて右の掌から青黒い怨念の炎を放つ。

 

「ちいっ!」

 

 アキレウスは一つ舌打ちをすると、アヴェンジャーが放った怨念の炎を腕の一振りで防いだ。カルナと同じく不死の加護を得ているアキレウスの体には、傷一つ、火傷一つついていないが、それでもアキレウスの意識を、ここにはいない留人達からアヴェンジャーに移し変えるのには充分であった。

 

「ああ、ウザッてぇ! お前さっきから何なんだ!? この俺についてこれる俊足の持ち主かと思えば、その変な炎……キャスターか何かか?」

 

「クハハッ! 俺のクラスが知りたければ自分で探り当ててみよ! ……だがそうだな。一つだけ教えてやれるとすれば、俺はキャスターではないぞ!」

 

 アキレウスの言葉に答えながら、アヴェンジャーは二度三度と掌から怨念の炎を放ち、それを槍で薙ぎ払いながらアキレウスは、留人達を探す前にまずこのアヴェンジャーを倒すことに決めた。

 

「ああ、そうかよ。そんなに遊んでほしいのなら遊んでやるよ。……だがな!」

 

「っ!?」

 

 アキレウスは一瞬でアヴェンジャーとの距離を詰めると、彼に向けて槍で突き、それをアヴェンジャーは間一髪で避ける。

 

「認めてやるよ。確かにお前のスピードは中々のものだ。もちろん俺の方が速いがな? だがお前の攻撃では、俺に傷一つつけることはできない。この意味は分かるな? お前じゃ俺に勝つことはできないんだよ!」

 

 不死の加護を持つアキレウスの肉体は、神の加護を持った者による攻撃以外では決して傷つくことはない。その事を自慢気に言うアキレウスだが、それを聞いてもアヴェンジャーの表情には僅かな動揺もなかった。

 

「クハハッ! 何を言うのかと思えばそんなことか。当然知っているさ。『聞いている』からな」

 

「聞いている……だと? 一体誰から……ッ!?」

 

 アヴェンジャーの言葉にアキレウスが眉をひそめた瞬間、彼の体に衝撃が走った。見ればアキレウスの肩には一本の矢が生えており、矢の存在を確認すると、激しい痛みを感じた。

 

 それは遠方にいるケイローンが、アヴェンジャーの援護のために放った矢であった。

 

「なん、だと……? この俺が射たれた? ……クッ!」

 

 自らの肩に刺さった矢を信じられないといった顔で見ていたアキレウスだが、直感で危機を感じとると、遠方から自分に向けて飛んできた数本の矢を、手に持っていた槍で全て払い落としていく。

 

 そしてアキレウスは理解した。この遠方から飛んでくる矢は、全て自分に傷を追わせることができる……つまり、神の加護を受けた者が放った矢であることを。

 

「これは……『黒』のアーチャーの仕業か!?」

 

「クハハハハッ! いつまでも驚いている暇はないぞ?」

 

 自分の体を傷つけられ、未だに驚いているアキレウスにアヴェンジャーが襲い掛かる。

 

 そこからはしばらくの間、一方的な展開になった。アヴェンジャーが放つ青黒い怨念の炎がアキレウスの動きと視界を遮り、そうして動きを止まったアキレウスを遠方にいるケイローンが狙撃する。

 

 通常の攻撃では決して傷つかないアキレウスの体には次々と矢傷が増えていき、今までどこか余裕を残していたアキレウスの表情からは、焦りの色が濃くなってきた。

 

「……! 調子に、のるなぁ! ……!?」

 

 アキレウスは、ケイローンからの矢を薙ぎはらって吠えると、こちらに向かってくるアヴェンジャーを迎え撃とうとする。しかしその直前にアキレウスの表情が変わり、大きく後ろへと飛んでアヴェンジャーと距離を取った。

 

「どうした? 『赤』のライダー?」

 

「……マスターから戻って来いってよ」

 

 突然のアキレウスの行動にアヴェンジャーが質問すると、アキレウスは無念だと言いたげな表情となって答え、アヴェンジャーに槍の切っ先を向ける。

 

「今回はここまでだ。しかし姐さんを殺したあの魔術師もそうだが、お前と『黒』のアーチャーは必ずこの俺が殺してやる。それまで精々首を洗って待っているんだな」

 

 アキレウスはそれだけを言うと、自分の宝具である三頭の神馬名馬が引く戦車を呼び出し、それに乗って夜空を駆けて街から離脱していった。そのアキレウスを見送ったアヴェンジャーは、懐から一本の葉巻を取り出して火をつけ、葉巻の煙を胸一杯に吸って吐き出すと、今まで後方から矢を放っていたケイローンからの念話が届いてきた。

 

《お疲れ様です。アヴェンジャー》

 

 ケイローンからの念話を聞いてアヴェンジャーは、葉巻を吸いながら肩をすくめた。

 

《それはこちらの台詞だ、アーチャー。あの『赤』のライダー、アキレウスを追い詰めたのはお前の矢だ。……それで自分の弟子と戦った感想はどうだ? 向こうはまだお前の事に気づいていないようだがな》

 

《………正直、あまりいい気はしませんね。ですがこれは聖杯大戦。現代に蘇ってもなお、過去の知己が敵味方に分かれて殺しあうということは珍しくないでしょう。そして私には叶えたい願いがある》

 

 まるで相手を試すようなアヴェンジャーの言葉に、ケイローンは少し間を空けてから答える。そしてそれを聞いたアヴェンジャーは、とりあえず納得したように頷く。

 

《だったらいい。他者を犠牲にして自分の望むものを求める。それが聖杯大戦……いや、戦いというものだ。例えかつての弟子を殺めて自分の願いを叶えたとして、その時のお前が何を思うのかは分からぬが……今はこの言葉を送ろう。『待て、しかして希望せよ』》

 

 そしてアヴェンジャーが念話でケイローンに言葉を送った次の瞬間、彼から離れた場所から赤い雷光が発生して天に昇っていった。


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