「……この俺を倒すと言ったか? ランスロット擬きのホムンクルス風情が?」
「やあぁっ!」
「……!」
小さく呟くモードレッドに、ランスロットの力を宿したジークがアロンダイトを振るうが、モードレッドはそれを手に持っていた自らの魔剣クラレントで受け止める。その次の瞬間、二人の周囲で激しい風が吹き荒れた。
「よく言ったな! その男の鎧を着て! その騎士の剣を持って! 俺を倒すとよく言ったな!」
「ぐぅうっ!」
モードレッドはジークの剣を力ずくで振り払うと、そのまま怒声を上げると共に剣を振るい、合計四度の剣撃をジークが辛うじて剣で受け止める。しかしそれでモードレッドの怒りが治まるはずがなく、むしろモードレッドの怒りと剣は激しさを増していく。
「ホムンクルス! お前がそのランスロットの霊基を宿している限り、テメェは俺の敵だ! お前の身体ごと、未だに現世にへばりついているその男の全てをブッた切ってやる!」
「そんな事は……させない!」
怒声と共に振るわれるモードレッドの剛剣を受け止めながら、ジークはモードレッドの目を見返しながら言葉を返す。そんなジークを見てモードレッドは内心で舌打ちをする。
(チッ! よくしのぎやがる。ただのホムンクルスや下手なサーヴァントだったら、とっくにブッ殺しているのに……。まさか、ランスロットの霊基がこのホムンクルスに力を貸していやがるのか?)
内心で考えながらもモードレッドは剣を振るう手を休めず、更にはモードレッドの剣は持ち主の怒りに応えるように赤い雷を刀身に纏わせ、ジークの剣とぶつかり合う度に強風と雷が吹き荒れる。
「おいおい……! まるで台風だ「姉さん! ボサッとしていないで、早くアイツを!」……何っ!?」
モードレッドとジークの戦いを見ながら冷や汗を流す獅子劫は、離れたところにいるカウレスの声を聞き、慌てて彼の方を見ると、そこにはカウレスと、ブロンズリンク・マニュピレーターの砲口をこちらに向けているフィオレの姿があった。
「マルス! 射撃命令!」
「うおおおおおっ!?」
フィオレの言葉と同時にブロンズリンク・マニュピレーターの砲口から無数の弾丸が高速で発射され、それを獅子劫は物陰に隠れて辛うじて逃れる。
「お前ら! いきなり撃ってくるとか卑怯じゃないか! 魔術師ならもっと正々堂々戦え!」
「黙れ、この筋肉ダルマ! これは聖杯大戦! 魔術師同士の決闘ではなく、ルールなんてない殺し合いだ! 油断している方が悪い!」
「カウレス。貴方……」
物陰に隠れた獅子劫は自分でも白々しいと思いながら叫ぶと、それにカウレスが即座に反論する。そんなカウレスにフィオレが驚いた顔となって弟を見て、獅子劫が盛大に舌打ちする。
「チィッ! まさか戦いを理解している魔術師が、留人以外にもいるとはな……!」
獅子劫は舌打ちした後、現在の戦いの状況を頭の中でまとめる。現在、戦況は獅子劫にとって不利となっていた。
獅子劫達の戦力は自分とモードレッドの二人だけ。それに対して向こうの戦力は、ランスロットの力を宿したジークにジークフリート、そしてカウレスとフィオレの四人。
向こうが半死半生となって気絶しているゴルドを守っていることを差し引いても、戦力は向こうの方が上である。しかも増援で来たはずの「赤」のランサーとライダーは、別のところで戦っていて、こちらに戻ってくる気配はない。
(これは欲を出さず、さっさと逃げとけば良かったかね?)
(今更そんなことを言っても仕方ないだろうが!)
獅子劫がモードレッドに念話を飛ばすと、苛立った調子でモードレッドが念話を返す。
(それで? これからどうするんだ、マスター?)
(どうするもなにも、このままだとジリ貧だ。最初の予定通りに逃げようと思うが……不服か?)
(別に不服じゃねぇが、ここからどうやって逃げるんだよ?)
(なぁに……。向こうさんは急所がモロだしだからな。そこを突かせてもらうだけさ)
モードレッドと念話を交わしながら獅子劫は獰猛な笑みを浮かべ、自分の右手に刻まれた令呪を見た。
(それに向こうの若者も言っていただろ? これはルールなんてない殺し合いだってな?)
そしてそれからしばらくした後、赤い雷が大地を震わせながら天へと昇った。