「ええっと……?」
獅子劫さんとモードレッドとの戦闘により、ジークフリートが脱落してしまった夜から二日後。俺は目の前の光景に戸惑っていた。
今、俺がいるのはミレニア城塞でサロンとして使われている大きめな部屋で、そこには俺と頼光さんとジークの他に、脱落したセイバー組とキャスター組を除く「黒」の陣営のサーヴァントとマスターが勢揃いしていて俺に注目しているのだ。
何故このような状況になったかと言うと、話は昨日ミレニア城塞に帰還して、ダーニックとランサーに任務の報告をした時まで遡る。
俺達も必死で戦ったのだが、結局ゴルドとジークフリートを援護しろという任務は失敗。ジークフリートが脱落してしまったと聞いたランサーは心から残念そうな表情を浮かべ、ダーニックは独断で行動した挙げ句に、最優のセイバークラスをろくに使いこなせず失ってしまったゴルドに対して強い憤りを見せていた。
ゴルド? ゴルドだったら一応生きている。
獅子劫さんから不意打ちで背後に魔弾を受けた時、とっさに体を金属にする魔術で身を守ったため、命だけは助かったようだ。しかし獅子劫さんの魔弾には強い呪詛が込められていて、そのせいでゴルドは未だに意識が戻らず治療中だ。
まあ、もっともジークフリートを失ってマスターでなくなった上に、ダーニックの不興を買った以上、怪我が治って意識を取り戻しても、ゴルドに「黒」の陣営での居場所はないだろう。少なくともダーニックが健在であることから、原作以上に肩身の狭い思いをするのは間違いない。
幸い、ダーニックとランサーは任務に失敗した俺達を罰するつもりはないようだが、それでもジークフリートを失った俺達の気分は重かった。しかしそんな俺達……というか俺に、相変わらず空気の読めないアストルフォが話しかけてきたのだ。
やはりと言うか当然と言うか、俺と頼光さんがカルナと戦っている姿は、アストルフォを始めとするミレニア城塞に残っていた「黒」の陣営の全員が見ていたそうだ。……もちろん俺が「
それによって興味を覚えたアストルフォは、どうして俺がサーヴァントの宝具を再現した魔術「
剣の戦争についてはアストルフォ以外のサーヴァントとマスターも気になっているようだが、剣の戦争の出来事を一から話すとかなり長くなる。だから任務から帰ってきたばかりで疲れていた俺は、明日説明するから興味がある人だけ聞きに来てくれとアストルフォに言ったのだ。
するとその次の日……つまり今日、この部屋に連れてこられた俺は、一部を除いた「黒」の陣営全員の前で、俺が剣の戦争で経験した出来事を話すことになったのである。
「まさか俺なんかの話を聞くために、こんなに集まるとは思わなかったな……」
「そんな事はない、孔雀原よ。お前が経験した戦いは、余も大いに興味がある」
「王の言う通りだ。その激しさだけは伝わっているが、詳細は今まで全く知られていなかった剣の戦争。それを唯一の生存者であり、優勝者の君から聞かせてもらえるなら、充分聞く価値がある」
俺が苦笑しながら半分以上本気で言うと、部屋で一番いい席に座っているランサーと、その横の席に座っているダーニックが答え、その二人の言葉に同じ部屋にいる全員が頷いた。
「そうですか……。それじゃあ話させてもらいます。俺が剣の戦争に参加したのは今から三年前……」
そして俺は、部屋に集まっている「黒」の陣営のサーヴァントとマスター達の前で、剣の戦争の出来事を一から話す事にした。
まず最初に、俺が剣の戦争に参加したのは一人で海外旅行をしている最中に偶然令呪が宿ったのが原因で、俺は剣の戦争を開催する為の数合わせとして無理矢理巻き込まれたこと。
次に、旅先で購入した珍しい石が偶然にも英霊を召喚する為の聖遺物で、それのお陰で俺は一流のサーヴァントを召喚して契約できたこと。
召喚した英霊がインドの二大叙事詩の一つ「ラーマーヤナ」に登場するコサラの王、ラーマ王であること。
そして、それから俺とラーマ王が剣の戦争でどの様な出来事を経験したのかを、休憩を挟んだり、途中での質問に答えたりしながら、俺は出来るだけ詳細に皆に話して聞かせた。
剣の戦争の出来事を話し始めたのは昼より少し前。しかし話が終わる頃には、日は地に沈みかけていた。
「……そして俺はバーサーカーになったランスロットの霊基と、その影響を受けて暴走を始めた聖杯の霊力の一部を勾玉に封じ込め、残った聖杯の魔力を自分達の願いに使って消費して、聖杯の暴走を阻止したんだ」
「なるほど。それが剣の戦争の真相か」
「……ラーマーヤナに記されしコサラの王ラーマ。
アーサー王に従いし円卓の騎士の一人、湖の騎士ランスロット。
アルスターの王族である魔剣の使い手、フェルグス・マック・ロイ。
フィオナ騎士団随一の騎士、『輝く貌』のディルムッド・オディナ。
そしてかの大いなる王……。剣の戦争の名に恥じない英霊ばかりだ。そんな超一流のサーヴァントが競い合う亜種聖杯戦争があったとは……」
俺が剣の戦争の出来事を話し終えるとランサーが心から感心したように頷き、ダーニックが表情を強張らせながら呟く。
「というか、そのライドーとかいう魔術師、悲惨すぎるだろ……」
「ああ、召喚されたサーヴァントの一騎が暴走したせいで、戦いの場ごと自分の屋敷を跡形もなく破壊されるとは……。クハハッ! そこまでいけば、悲劇と言うよりも喜劇だな!」
気の毒そうな表情となって、剣の戦争の主催者である魔術師のことを思うカウレスの言葉に、アヴェンジャーが笑う。
そうだな。確かにそんな事故とか不幸が一気に重なったせいで、ライドーは最後に暴走してあんな真似をしたのだろうな。
「それにしても孔雀原さん達、暴走したサーヴァントによく勝てましたね……」
「ええ。聞いた話だとその暴走したサーヴァント、他の四騎同時に相手をしても圧倒できる存在のはず……」
フィオレさんとケイローンが驚いた顔で俺を見てくる。
そう。サーヴァントの一騎が暴走した後、残った俺達は一時的な共同戦線をとって暴走したサーヴァントを倒したのだが、あれは本当にギリギリの勝利だった。
「それにしてもこのラーマって子、本当に美少年ねぇ。ああ……。実際に会ってみたかったわぁ」
セレニケが俺が話しながら書いたラーマ王の似顔絵を見ながら、うっとりとした表情で呟く。
ラーマ王の姿は俺の脳裏に焼き付いていて、何回も絵に描いているうちに、今では写真のような精度でラーマ王の姿を描けるようになっていた。……だけど何呼び捨てにしているんだよ? ラーマ「王」だろ? 王を付けろよ。って、俺が描いたラーマ王の似顔絵、懐にしまうなよセレニケ。
「ねぇねぇ! それで聖杯の魔力で願いを叶えたって言ったけど、君達はどんな願いを叶えたの?」
俺が内心でセレニケに抗議していると、アストルフォが瞳を輝かせながら質問してきた。ああ、そうだな。剣の戦争の出来事を全て話すのだったら、これも言っておかないといけないよな。
「あの時はいつ聖杯が暴走するか分からなくて急いでいたからな。……俺はとっさに、以前から聞いていたラーマ王の願いを叶えるのに、聖杯の魔力を使ったんだ」
「ラーマ王の願い、ですか?」
頼光さんの言葉に俺は一つ頷いて、ラーマ王の願いを口にする。
「ラーマ王の願いは、最愛の妻であるシータ王妃との再会。ラーマ王は魔猿バーリの妻から『離別の呪い』をかけられていて、その呪いのせいで魔王ラーヴァナからシータ王妃を取り戻しても、最終的には離れ離れになってしまった……。だから俺は、使用できる聖杯の魔力のほとんどを使って離別の呪いを解除して、残りの魔力でシータ王妃をラーマ王の前に召喚したんだ」
「だったらラーマ王とシータ王妃は再会できたんだな、マスター?」
「おおっ! じゃあハッピーエンドなんだね!? やったぁ!」
俺が聖杯の魔力をどの様に使ったかを言うとジークが尋ねてきて、アストルフォが飛び上がって我が事の様に喜んでくれた。
「ああ、ラーマ王とシータ王妃が再会できた時間はほんの数分だけだったけど、二人とも涙を流して再会を喜んで抱き合っていた。そしてその事に喜んだラーマ王は俺に何か礼をしたいと言ってきて、それで俺は冗談半分でラーマ王の宝具を使ってみたいと言ったんだ。するとラーマ王は『何だ、そんな事か』と笑って、自分の宝具を模倣する許可をくれたってこと」
俺がラーマの宝具の再現「
剣の戦争では何度も死にそうな酷い目に遭って、それは今でもたまに悪夢として見る。だけどあの時の再会を喜び合うラーマ王とシータ王妃の姿を思い出すと、死にそうな目に遭った甲斐があったと思う。
……そういえばラーマ王ってばこの世界から去る直前に、いつか俺をコサラ国の宮廷魔術師として雇ってくれるって言っていたけど、あの約束って今も有効なのかな?
本編の話に合わせて「番外編 転生したらバーサーカーのサーヴァントになりました。」のリュウトの性能と文章を一部変更しました。