転生したらバーサーカーのマスターになりました。   作:兵庫人

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「……頼光さん、逃げませんか? 聖杯大戦から」

 

 自陣の酷さを再確認した俺は、思わず頼光さんに半ば本気で聖杯大戦からの逃亡を提案した。前途が多難すぎる聖杯大戦なんか知ったことかと思う俺は決して悪くないと思うのだが、頼光さんは困惑した表情となって口を開く。

 

「逃げる……ですか? 逃げられるものなのですか?」

 

「逃げられる。今ならまだ」

 

 と、どこぞの魔術師殺しのようなことを言って、俺はポケットからスマートフォンを取り出す。そして人相は悪いが気の良いグラサンネクロマンサーか、女生徒が選ぶ時計塔で一番抱かれたい男性教師のどちらに電話をしようか悩んだその時……。

 

《行け行け僕らのグレートビックベン☆ロンドンスター♩》

 

 スマートフォンが突然呼び出しの着メロを歌い出し、一体誰かと画面を見ると「カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア」という、最近知り合った友人の名前が表示されていた。

 

「やあ、どうしたんだい『親友』? 君から電話をしてくれるなんて初めてだね?」

 

《……その親友というのはやめてくれないか?》

 

 俺が電話に出てフレンドリーに話しかけると、電話の向こうで親友ことカウレスが戸惑ったような声で返事をする。

 

《というか俺とお前って知り合ってまだ一ヶ月も経っていないよな? それなのに何で俺の事を親友って呼ぶんだ?》

 

 カウレスの言葉は尤もだがこれには事情がある。彼は俺と頼光さんが乗っ取ってしまったバーサーカー組の本来のマスターで、物語では聖杯大戦と最後の戦いを生き残り、最後の戦いが終わった後はユグドミレニアの代表となって聖杯大戦の後処理を担当する人物なのだ。

 

 つまりカウレスは物語の主要キャラの一人であり、運が良い人間はとことん幸運で運が悪い人間はとことん不運のこの「Fate/」世界のラッキーマン。だからこそ彼と一緒にいれば生存確率が上がると思った俺は、ユグドミレニアのマスターの一人として呼ばれてカウレスと知り合うとすぐに彼の友人となる事にしたのだ。……まぁ、全力で媚びを売っているとも言うが。

 

 という訳でどうか見捨てないでくださいカウレス様。貴方に見捨てられると俺の死亡確率が大幅に上がるんです。

 

「そんな寂しいことを言わないでくれよ親友? それで? 何の用なんだ?」

 

《……はぁ。まあいい。ダーニックさんがお前が無事にサーヴァントを召喚出来たのかを知りたがっている。お前、通信用の魔術を遮断しているから連絡が取れなくて、代わりに俺が電話をしたんだ》

 

「………」

 

 カウレスが溜め息を吐いてから言った言葉に俺は思わず無言になる。どうやら逃げ出すタイミングを完全に逃してしまったようだ。

 

《それで? サーヴァントは召喚出来たのか?》

 

「ウン。チャント召喚デキタヨ。心配シナイデクレヨ、親友」

 

 俺はカタコトでカウレスの質問に答えた。今の俺はスッゴイ渋い顔をしているのだろう。だって俺の方を見ている頼光さんが口元を隠して驚いた表情をしているのだから。

 

《そうか。安心したよ。じゃあ、ダーニックさんへの報告は俺からしておくから、お前も早くルーマニアに戻ってこいよ》

 

「分かった。じゃあ、また後でな親友。……はぁ」

 

 カウレスにそう返事をした俺は電話を切ってから深い溜め息を吐いた。これで頼光さんと一緒にダーニックの所へ行って、聖杯大戦に参加する事が決定してしまった。

 

「マスター……」

 

「大丈夫ですよ、頼光さん。まだやり様はありますよ」

 

 俺はこちらを気遣ってくれる頼光さんにそう答えた。

 

 そう、まだ大丈夫だ。まだ原作が開始されるまで正確な時間は分からないが猶予がある。その間に生き残る算段をつければいい。

 

 幸いダーニックは、俺をたまたま早目に令呪が宿っただけの数合わせにしか思っていないみたいだし、いくら召喚した頼光さんが強力なサーヴァントでも、それほど重要視されず自由に動けるはずだ。

 

 

 

 ……と、思っていた時期が俺にもありました。

 

 しかしルーマニアにある「黒」の陣営の本拠地にやって来た俺を、ダーニックは親愛の笑みで迎えてくれた。

 

 あれ、おかしいな? 初めて会った時のダーニックは、まるでそこらの石ころを見るような目で俺を見ていたはずなんだけど?

 

 頼光さんの素性とステータスを知ったダーニックと「黒」のランサーは最初は驚いて、その後すぐに「強力なサーヴァントとマスターを得られたのは嬉しい。これからの働きぶりに期待している」と笑顔で言ってくれた。だが俺には一つ分からない事があった。

 

 頼光さんが頼りになって期待するのは分かるし、そのマスターである俺もついでで期待するのも分かる。だけどダーニックは頼光さんのことを知る前から俺に期待するような目を向けていたのだが、それは何でだ?

 

「あの、ダーニックさん? 頼光さんはとにかく、俺はそれ程役に立つとは思えませんよ」

 

「フッ。謙遜する必要はない。孔雀原留人。君のことは調べさせてもらった。あの『剣の戦争』で勝ち抜いた君の実力を、私は高く評価している」

 

 ………!

 

 俺の言葉にダーニックは小さく笑って答え、それを聞いて俺は思い出した。

 

 そうだった。俺は過去に一度、ある亜種聖杯戦争に参加したことがあったんだった。

 

 前世の記憶を取り戻したショックですっかり忘れていた……。

 

 ☆

 

「ダーニック。『剣の戦争』とは一体何だ?」

 

 ユグドミレニアの居城の一室で、一組のサーヴァントとマスターが退室すると、「黒」のランサーが自分のマスターであり臣下であるダーニックに声をかける。

 

「はっ。剣の戦争とは『亜種聖杯戦争』の一つで、今まで確認されている亜種聖杯戦争の中でも特に激しく、そして特殊なものとされています」

 

 かつて日本の冬木の地で行われていた、過去の英霊を召喚して競い合わせ、そこから得た魔力から万能の願望機である「聖杯」を降臨させる儀式、聖杯戦争。

 

 六十年前の第三次聖杯戦争でダーニックが聖杯戦争の核である大聖杯を奪い取った際、聖杯戦争のシステムは世界中に知れ渡り、今では世界各地で聖杯戦争のシステムを真似た儀式が行われている。それが亜種聖杯戦争である。

 

 しかし亜種聖杯戦争のシステムは本来の聖杯戦争の劣化版に過ぎず、最大で五騎の英霊しか召喚できない上、降臨する聖杯も万能の願望機と程遠い物であった。ダーニックが口にした剣の戦争もそんな亜種聖杯戦争の一つで、今この部屋から退室したマスターは、その剣の戦争の優勝者であったのだ。

 

 ダーニックの言葉に「黒」のランサーは興味を持ったらしく、自らの臣下に質問をする。

 

「ほう? どのように激しく特殊だったのだ?」

 

「はい。剣の戦争で召喚されたサーヴァントの数は、亜種聖杯戦争で最大とされる五騎。そしてその全てが『セイバー』のクラスだったのです」

 

「なんと!?」

 

 ダーニックが説明すると「黒」のランサーは驚いた顔となる。

 

 普通、聖杯戦争で同じクラスのサーヴァントが複数召喚されることはない。それなのに剣の戦争で召喚されたサーヴァントは、全てが同じクラスで、しかもそれが全クラスで「最優」とされるセイバークラスであった。

 

 五騎の剣の英霊が競い合った亜種聖杯戦争、それ故に「剣の戦争」。

 

 剣の戦争の激しさと特殊さは、今まで確認されている多くの亜種聖杯戦争でも群を抜いており、ダーニックを初めとする多くの魔術師がその名を知り、五騎のセイバークラスが戦い合ったという事実に「黒」のランサーが驚くのも当然といえた。

 

「実は今まで剣の戦争の優勝者が誰か知られていませんでした。しかしあの男の身辺を調べている途中で……」

 

「彼がその優勝者である事が分かったという訳か」

 

 ダーニックの言葉を途中で「黒」のランサーが引き継ぎ、それにダーニックが無言で頷く。

 

 この事実をダーニックが知ったのは全くの偶然だった。剣の戦争はその激しさによって優勝者以外の参加者は全員死亡、優勝者も早々と姿を消して、剣の戦争は詳細の殆どが謎に包まれていた。

 

 しかし、今さっきまでいたマスターの身辺調査をしている途中で手に入った情報を照らし合わせた結果、彼こそが剣の戦争の唯一の生存者であり優勝者であることが分かったのだ。

 

「これは思わぬ拾い物だったな、ダーニック?」

 

「全くです。まさか我が一族にあの様な傑物がいたとは」

 

 口元に笑みを浮かべる「黒」のランサーに、ダーニックも同じく笑みを浮かべて答える。最初こそダーニックは、あのマスターをたまたま令呪が宿っただけの数合わせにしか思っていなかった。

 

 しかし調べてみれば、彼は過酷な亜種聖杯戦争に生き抜いた優秀な魔術師であり、それと契約したサーヴァントは一級品の英霊であった。これから起こる聖杯大戦に勝利するために強力な戦力を欲していたダーニックにとって、嬉しい誤算である。

 

 この時からダーニックの中で彼、孔雀原留人は有用な「駒」として認識されたのであった。

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