ユグドミレニアの本拠地にて頼光さんをダーニックと「黒」のランサーに紹介した後、俺と頼光さんは本拠地内の一室に案内されて、今日から聖杯大戦が終わるまでここが俺達の部屋だと言われた。
案内された部屋は一流のホテルのように綺麗で調度品も揃えられており、更には使用人役のホムンクルスも数人つけてくれた。これだけでダーニックが頼光さん……あとついでの俺にどれだけ期待しているのか分かるのだが、俺はそれに素直に喜ぶことができなかった。
使用人なんてつけられたらこっそり動くことなんてできないじゃないか。最悪、裏で「赤」のセイバーのマスターになる善人系死霊魔術師かプロフェッサーVとコンタクトをとろうと思っていたけど、いきなりその選択肢が潰されてしまった。
「あの、マスター? 一つお聞きしてもいいですか?」
俺が内心で頭を抱えていると頼光さんが話しかけてきたが、彼女が何を聞きたいのかは大体予想できていた。
「剣の戦争のことですか?」
「はい。先程のマスターとダーニック殿との会話から聖杯戦争に関することだとは分かるのですが、剣の戦争とは一体どの様なものだったのですか?」
予想通り、頼光さんの質問は剣の戦争のことで、俺の言葉に彼女は頷いて聞いてきた。
そうだな。もう終わったことだし、頼光さんにだったら話しても大丈夫だろう。
「剣の戦争とは今から三年前、俺が十六歳の時に参加した亜種聖杯戦争の一つで、参加した五騎のサーヴァントが全てセイバークラスだったことから、剣の戦争なんて呼ばれるようになったんですよ」
「セイバークラス五騎の聖杯戦争? そんな戦いに十六歳のマスターが参加を?」
俺が簡単に説明をすると頼光さんは驚いた顔となったが、俺はそれに肩をすくめてみせた。
「まあ、参加したと言っても自分の意志で参加した訳じゃなく、俺が参加したのはいくつもの偶然が重なった結果だったんですよ。
偶然、一人で海外旅行をした先で亜種聖杯戦争が行われて、
偶然、儀式のシステムが不具合を起こして、本来は四人のマスターでするはずがマスターの定員が五人になって、
偶然、その五人目のマスターに俺が選ばれて、
偶然、旅行先の露店商で買ったお土産用の珍しい石がサーヴァントを召喚するための聖遺物で、
偶然、俺を含めたマスター達が用意した聖遺物が全て、セイバークラスになれる英霊に関するものばかりで、
二重三重どころか五重の偶然が重なって、剣の戦争なんて言うセイバークラスだらけの亜種聖杯戦争に参加することになったんです」
「…………………………そんなことってあるのですね」
頼光さんは俺が剣の戦争に参加した経緯を聞いてしばし絶句した後、そう呟いた。
うん。気持ちは分かる。俺だって当事者じゃなかったら、こんな話絶対に信じない自信がある。
でも事実だ。魔術師としては貴重な亜種聖杯戦争の特例に参加できて幸運だと思うべきかもしれないが、俺個人としては「俺って呪われているのか?」と思いたくなるくらいの不幸であった。
「それから先は本当に自分でもよく生きていられたな、と思うくらいの地獄でしたよ……。あの戦争に参加したサーヴァントはどいつもこいつもトンデモ英霊ばかりで……。
剣からビームをブッパする奴こそいませんでしたけど、剣の刀身を光らせてビームサーベルみたいにしたり、刀身が刃どころかドリルの剣を叩きつけてきたり、自分の剣を何か別の光の武器に変えてぶん投げたりとか……。
お前ら全員、セイバー……剣士って言葉の意味を検索するか辞書で調べろって言いたくなるくらいのトンデモ剣士大戦でしたね……」
剣の戦争の事は本当に忘れられない出来事であった。こうして目を瞑るだけでも当時の記憶が鮮明に甦り、あまりの怖さに泣きそうになってくる。
というか、今思い返してみれば剣の戦争に参加した五騎のサーヴァントって皆、「Fate/Grand Order」に出てくるセイバークラスばっかりだったんだよね。
剣の戦争の時点で前世の記憶を取り戻せよ、俺。そうしたらもっと上手く立ち回って、十回以上も走馬灯を見なくてもすんだかもしれないのに。
「そうでしたか。それでその聖杯戦争でマスターが契約したのは一体どんな英霊だったのですか?」
「ああ、それは……」
コン。コン。
俺が頼光さんと話しているとドアがノックされる音が聞こえてきた。一体誰だろうとドアを開けると、そこには車椅子に座った一人の女性の姿があった。
「初めまして、孔雀原留人さん。私はフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアと言います」
ドアを開けた先にいたのは俺の親友であるカウレスの姉であり、原作で「黒」のアーチャーを召喚するマスター候補の女性であった。