カウレスが召喚するサーヴァントはアサシンではありません。
ダーニックが魔術協会へ宣戦布告をして数日後。今日、ミレニアム城砦では今だ召喚されていない四騎のサーヴァントが召喚されようとしていた。
俺と頼光さんは「『黒』のサーヴァントが揃う瞬間を共にむかえよう」とダーニックに誘われて、召喚の儀式が行われる城塞の広間に来ていた。そして俺達の前には、聖遺物を手に入れて右手に令呪を宿し、正式にマスターと認められた四人の魔術師の姿があった。
ゴルド・ムジーク・ユグドミレニア。
セレニケ・アイスコル・ユグドミレニア。
フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。
そしてカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。
四人とも原作で「黒」のマスターとして選ばれた魔術師であり、これで「黒」の陣営の魔術師は俺以外は原作通りとなったわけだ。これを喜べばいいのか、落胆すればいいのかはまだ判断がつかないが。
「全員、準備は整ったな? では祭壇にそれぞれが用意した聖遺物を置き、儀式を開始せよ」
ダーニックの言葉にカウレス達四人は祭壇に聖遺物を置いて、サーヴァントを召喚するための呪文を唱え始めた。
『『素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。手向ける色は“黒”。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。
告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!』』
呪文が完成した瞬間、広間が凄まじい光と魔力に満たされて俺は思わず目を閉じ、光が収まって目を開くと……俺は自分の目を疑った。
儀式は成功していて、広間には四騎のサーヴァントが召喚されていた。そしてゴルド、セレニケ、フィオレさんが召喚したサーヴァントは原作通りで、カウレスが召喚したサーヴァントだけは原作とは違っていた。
ここまでは俺の予想通りだ。カウレスが原作と違う聖遺物を手に入れた以上、召喚されるサーヴァントも違うのは当然だ。だけど……。
「おいおい……。なんてサーヴァントを呼び出しているんだよ、親友?」
「マスター?」
気づけば俺は、カウレスと彼が呼び出したサーヴァントを見ながらそう呟いており、それを聞いた頼光さんがこちらを見ていたが、この時の俺は彼女の視線と言葉に気づく余裕はなかった。それだけカウレスが召喚したサーヴァントが予想外すぎたからだ。
「はーい。皆、ちゅうもーく!」
予想外の出来事に俺が固まっていると、新たに呼び出された四騎のサーヴァントの一人、「黒」のライダーが広間にいる全員に聞こえるように声を上げる。……ああ、これは原作でもあった自己紹介イベントか。
「ボク思ったんだけどさ。この聖杯大戦が終わるまでボク達は味方なんでしょ? だったらさ、だったらさ、この際皆の真名を交換し合わない? じゃあまずはボクからね。ボクはアストルフォ。シャルルマーニュ十二勇士の一人でクラスはライダー。よろしくね」
周りの反応なんかお構いなしに真名の交換を提案して、更には自分の真名をあっさりと暴露してしまう「黒」のライダーことアストルフォ。
聖杯戦争において真名とは、そのサーヴァントの正体に戦い方、弱点を知るための最大のヒントであるため、それをあっさりと話したアストルフォに、彼のマスターであるセレニケは絶句。他のマスターやサーヴァントも似たような反応を示していた。そして……。
「アストルフォ……いや、ライダーよ。悪いが俺はその提案には答えられぬな。何故ならば俺は真名、過去なぞとうに捨てた存在なのだからな」
アストルフォの行動に対して最初に答えたのは、カウレスが召喚したサーヴァントであった。
「えー? じゃあ、クラスだけでも教えてくれない?」
アストルフォが残念そうな表情を浮かべて聞くと、カウレスのサーヴァントは口元に獰猛な笑みを浮かべて答えた。
「ああ、それならば答えよう! 俺こそは復讐の化身! 俺こそは黒き怨念! すなわち、エクストラクラス『
アストルフォの質問に声高に答えるカウレスのサーヴァント、アヴェンジャー。彼の真名を前世の記憶を持つ俺は知っていた。
この世界で最も有名な復讐劇の主人公、エドモン・ダンテス。
頼光さんだけでなくエドモン・ダンテスまで召喚されるだなんて……。本当にこの聖杯大戦どうなってしまうんだ?