フレンドリィショップに就職した   作:ダリエ

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六話

 ハローみなさん。

 今日も今日とて俺は勤労。お得意様のタマムシジムへの配達に行っている。最近は出勤の度に毎回行っている。男子禁制(もちろん挑戦者等は例外)というルールもなんのその。なんかもう普通に挑戦者じゃないのに入れていた。俺は男だよなと自問自答したくなる。

 近頃は顔パスで通してもらえる。もはや半ば通っている。だいたい週三日くらいで。当然だがこの頻度だ。ここの配達は俺が完全独占していた。

 

「はーい。商品のお届け以下略でーす」

 

 最初こそジムトレーナーになんだこいつみたいな目で見られていたが、最近は逆になんかもう生暖かい目で見られているし、俺が出入りするのに慣れたのか開き直って個人の配達物の届け先がジムなのも当然、ポケモンとは関係ない日用品まで頼む始末。

 

 いやまあ俺の居たフレンドリィショップはポケモン関連のグッズと、残りの自由枠は店長の趣向のために食料品がほとんどだったので新鮮な気持ちもあるにはあるが。

 

「はーい、では注文品お渡しするので何を頼んだか言ってくださーい」

「今日の晩御飯のおかず」

「シャンプーが切れちゃったから新しいの」

「トイレットペーパー」

「生理用品」

「お米」

「お酒とおつまみ」

 

 ん~……全部自分で帰りにスーパーで買ってぇ?

 

 そんなことを言いたいラインナップだった。こういうのが割とある。いやお買い上げありがとうございます案件ではあるんだよ?

 しかし腑に落ちない気持ちがある。だってもう俺じゃなくてもいいじゃん。クソ重いポケモンフーズとかじゃないならもう普通にアルバイトの女の子でもいいじゃん。でもおかげで俺の業務成績すげーじゃん。やっぱりありがとう。だいすき。

 

 だがこの事例がマシなことを俺は知っているので言葉には出さない。

 

 ある日のことだ。いつも通りに配達に来ていた時。見慣れない物があった。俺は気になって聞いてみた。

 

「どうぞ。そういえばこれだけなんかいつもの配達品と包装の感じが違いますね。割れ物とか精密機械とか高級品じゃないですよね?」

 

 そういう場合は扱いを少しばかり気をつけねばならないのだが……答えは予想と違った。

 

「これ? 下着。うふふビックリした? あっ、赤くなっちゃった。かわいー。またお願いしようかなー」

 

 やめよう。それは本当に自分で行って買ってください。

 

 女だらけの施設にいるだけで既にもうちょっとばかり肩身が狭いのに、下着を運ばされた上にそれでからかわれる我が身を労わってお客様。

 最近同僚にあいついつもタマムシジムばっか行ってるよなとか、絶対女好きだろとか、あとはここでは言えないような陰湿な陰口とかを言われて叩かれているっぽいんだぞ!

 まあそいつらも潰したアジトに出入りしていたようなので事件が終わったら後でムショにぶち込んでやる。あと女の子は好きです。それは批判される謂れはないと思う。

 

 それと下着は流石にジムリーダーに怒られたようで二度と頼まれることはなかった。嬉しいような残念なような不思議な気持ちがした。

 

 そんでまたある日のこと、配達のついでにもてなされ、お茶菓子をいただいている時に気になることがあったのでジムのおとなのおねえさんや後輩に聞いてみた。

 

「なんでこんなにみなさんウチで商品買ってくれるんですか?」

 

 流石にこの頻度はおかしかったからだ。

 

「えー。だってータマムシデパートってなんでもあるんだもんー! 見て見て、ポイントもこんなに!」

「あ、すごい。ご利用ありがとうございます」

「あとこのジムへの配達だと送料がジム負担になってお得なんですよ~先輩もどうですか?」

 

 なるほど、と思ったが理由がわからない。提携とかしているのだろうか。

 

「なんでぇー?」

「うふふ~それはエリカ様に聞いてくださ~い」

 

 と言われたから実際に聞いてみようとしたが、今日までどうにも機会がなくて話せることはなかった。

 

『――――!』

 

 今日も配達の為に入ったジムで、遠くからだが彼女のジムリーダーとして働く姿を見る。

 それを見ていたら抱えていた疑問はどうでもよくなった。昔から賢い彼女だ。きっと何か理由があるのだろう。ちょっとこちらのメンタルを削る配達くらいなら引き受けてもいいかとも思った。お得意様なのは純然たる事実だ。

 

(頑張れよ)

 

 俺はなんとなしに帽子を深く被ってその場を去った。

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

「エイジュちゃん。見て。トレーナーズスクールからお便りが届いてるわよ」

 

 仕事が早めに終わり帰宅した。最近は流石に色々とあり、結構疲れたので今はのんびりと家にいる。最近はトレーニングも怠りがちになっているので事件の解決を願うばかりだ。買い物から帰ってきた母が一通の封筒を持って来た。

 

「封筒? なんだろ」

「同窓会にはちょっと早いわよね? とにかく開けて見てみましょう!」 

「母さんに来たわけじゃないんだけどね……なになに」

 

 

 お久しぶりです。お元気でしょうか?

 この手紙は弊トレーナーズスクールタマムシ校を卒業した一部生徒様に郵送しております。

 昨今はロケット団の台頭もあり情勢が不安定です。

 その対策の一環として卒業生の皆様に在校生への特別授業の講師のお願いを送らせてもらっています。

 日時は~~~です。

 

 ご都合が合う方はこちらの手紙の最後にあるはいに丸を。

 それ以外の方はいいえに丸を付けてそのまま投函をお願いします。

 

 

 と手紙には書かれてあった。

 

「この日付ならエイジュちゃんも参加できるんじゃない?」 

「ああ……うん。最近はシフトも余裕あるからできなくはないけど」

 

 先の一件で人員が過剰気味に補充されたタマムシデパートは現在のところかなりシフトの余裕がある。特にトキワにいる間の俺は有給休暇の消化が全くと言っていいほどできていなかったので、こちらの上司からこの機会に休む様に言われたこともあり参加は余裕だろう。

 

(でもなぁ……)

 

 俺の内心としてはあんまり乗り気ではなかった。

 トレーナーズスクールへ通った末になったのがフレンドリィショップの店員だ。確かにポケモンとの関わりは根強いが俺が培ったバトルの腕はあんまり生かされていない。正直あそこではポケモンバトルばかりしていた上に、公衆の面前でチャンピオンになるとか言ってはばからなかったこともあり、今のざまであそこに胸を張って足を運べるかと言うと心底微妙なのだ。

 

 そんな風に煮え切らない俺に母さんは言った。

 

「行ってみたらいいんじゃない? スクールにはお世話になったんでしょう? 困っているのなら助けてあげなさい」

「…………」

 

 昔。俺がスクールに通い始めた頃だろう。

 その時は俺にとってこの世界は楽しいことだらけだった。まあ今も大人の世知辛さを感じつつも楽しんでいるが。とにかく楽しんでいた。

 昔の我が家ではポケモンは飼わない方針だったのでポケモンとはあまり触れあえず、近しい知り合いもポケモンと過ごしていなかった。だからテレビのポケモン関連のチャンネルばかり見ていた。

 

 だから俺は近所の学校の中でも多くのポケモンがいるというタマムシのトレーナーズスクールに勉強の末に狭き門をくぐって入学した。

 俺自身は夢が叶ってとても楽しかった。だが周りは必ずしもそうじゃなかった。

 

 当然だがポケモンが好きというやつ、興味がある、一緒にいたい、家にいるから詳しくなりたい、いつか自分で捕まえたい、一緒に旅をしたい、そんな似たような夢を持ったやつらが多くいた。

 

 一方でポケモンが嫌いというやつもいた。興味ない、苦手だ、怖い、中には自分の名声のために利用するだけだなんていうふざけたやつもいた。

 

 嫌いというやつにはポケモンの良いところを話した。興味ないというやつにはそいつの興味のあることに関係するポケモンを教えてやった。苦手というやつには苦手がなくなるように付き合った。怖いというやつには怖くなくなるように一緒に付き合ってあげた。

 

 自分の名声とかほざいたやつだけはどうしようもなく、ポケモンへの理解どころかまともな良識と常識すらなかったのでなんか退学になっていた。なんであいつ入学できたんだろう。謎だ。

 

 そういえばそいつと似た顔がゲームコーナーにいたような……まあいい。そいつもゴーリキーのふりしてる時に殴って気絶させて転がしておいたのが、後でやってきたジュンサーさんに連行されていたのをテレビでやってたし。

 

 さらにポケモンや学友と上手く接することができないやつには両方と仲良くなれるようにし、自分のバトルの腕を誇るのはともかく、それで調子にのって自分よりも弱い者をいじめるやつをさらに上のバトルで圧倒し、時には子供らしく喧嘩なんかもして友達になった。勉強が中々身につかないなんてやつにも居残って教えてやり、なんかよくわからないけど泣いているやつはポケモンと一緒に慰めたものだ。

 

 それを続けた。途中からはかつては逆の立場だった友達や後輩たちも一緒にやってくれて、むしろ始めた俺が余ってしまうほどだった。

 

 ほとんどのみんなは最後にはポケモンを好きになってくれただろうと思う。

 俺が卒業しても続けると言っていたが流石にもう廃れてしまったということか。少し寂しいがこれは仕方がない。

 

 しかし、思い返すとやっぱり俺のスクール時代全盛期だな。無双では?ドラマ一本いけるのでは?

 でも悲しいかな。卒業が十歳そこらでは恋愛とかほぼないし、ハーレムとかありえないし、そもそも性欲がなかったから甘酸っぱい思い出は何も無かったよ。

 

 というかトレーナーになって思ったんだけど、ずっとポケモンといたら個人としてのプライベートはほぼないんだよね。だから親はポケモンを飼ってないのかぁと気づいた時、俺はちょっと大人の階段を上ったんだと思う。

 

「そうだなー。一度行くのも悪くはないかな」

 

 まあしけた話はさておきだ。この世界に住む人たちにとってポケモンは当たり前の存在だ。俺が前の世界で多くの動物をいて当たり前だと思っていたのと同じように。

 

 だが俺にとっては違う。ポケモンは決して当たり前ではない。ただそこにいてくれる奇跡に感謝をするべき存在なんだと知っている。彼らと共にある今を感謝すべき存在。あちらにいた動物がほとんどいない(インドぞうはいた)この世界では隣人として仲良くすべきはポケモンだ。人はそれだけで生きていけるほど、人間という種族だけで栄えるほどは強くない。

 

 そんなことを言っても彼らには理解されないだろうし、なんなら直接言えば変な宗教みたいな文言だ。だから俺は少しでも彼ら彼女らにポケモンを好きになってもらえるように力を尽くしたつもりだ。

 

 かつて過ごした幼い青春の日々を思い出しながら、俺は丸をつけてポストに封筒を投函した。

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 約束の日。俺はきちんとした服装でトレーナーズスクールへとやってきていた。教壇に立つ以上はせめて身ぎれいにしなければと服を買ったのだ。当然タマムシデパート。宣伝になるかもしれないしね?

 なにより俺のここでの言動はフレンドリィショップやシルフの評判に関わるのだ。気を引き締めていく。

 

「あ」

「あら」

 

 少しずれて感嘆の声が二つ上がった。

 

 狭くなったように感じる門の先。そこに建つ懐かしい校舎の中に、相変わらず高そうな和服を着付けたタマムシジムのジムリーダーエリカがいた。そりゃそうだ。俺が呼ばれるなら彼女が呼ばれるのは当然だ。

 

「ええと……ごきげんよう」

「…………ああ。うん」

 

 彼女は花も恥じらうような、相変わらず可愛らしい顔を赤らめてそう言った。

 

 俺はここで続けて「なんで貴女のジムはウチの店の送料無料なの?」と言うべきか、それとも「当店のまたのご利用をお待ちしています」というべきか悩んだ。無論両方営業スマイルつきだ。

 

 その間に、懐かしい人が俺たちへと駆け寄ってきた。その人は俺たちがいた頃の担任の先生だった。どうやらまだこの校にいたようでちょっと嬉しい。

 

「いやぁ良かった! エイジュ君が来てくれて助かったよ! 最近生徒の指導に行き詰まりを感じていてね! 君のあれを参考にしたかったが大分傷んでしまって読めない所もあってほとほと困ってたんだ。どうか新しいカリキュラムを一緒に考えてほしい! このとーり!」

 

「「え」」

 

 今度は間違いなく俺たちの声が重なった。そうだろう、俺たちは特別講習のために呼ばれたのだと思って疑わなかったのだから。

 

「あの……特別授業の講師は? その為の私たちですよね? 生徒さんのために呼ばれたのですよね?」

 

 エリカが俺の心の声を代弁してくれた。いいぞぉ!あとでちゃんとまたのご利用ありがとうございましたってばつぐんの営業スマイルで言うからな!

 

「ああそうだとも。だがそれはエリカ君にお願いするよ。君はこの街のジムリーダーだし今の世代の子たちにも評判だからね」

「じゃあ俺は……?」

 

 おそるおそる聞いてみた。

 

「エイジュくんは僕たち教師やそれこそ君たちの世代の生徒だったら講義の席をとるために暴動すら起きるだろうけどね。今の若い子達には知名度が薄い、ただの卒業して就職したフレンドリィショップのお兄さんだから……その……諦めて先生と一緒にカリキュラムを作ってよ。そっちの方が彼らの為になるんだ!」

 

 先生は神妙な顔で言ったが、後進を導かんとやってきた俺にはあんまりにもあんまりな言葉だった。いや教科書作りもそりゃ大事だけど……やっぱ人の顔見てやった方がやる気が違うし。ええ~。

 

「あの……その……私はむしろエイジュさんのお話を聞きたいのですが

 

 後半か細いな!

 なにかフォローをしようとしているようだが、もうフォローのしようがないのかなんと言っているのかわからない。

 

(いいんだよ無理しなくても! そっちだって大事なことだとは分かってるから!)

 

 俺はなんとか声を出す。

 

「いいですよ……やりますよ。教科書作り! やればいいんでしょう!」

 

 俺は若干やけくそ気味に了承した。一体全体あの回想はなんだったのか。

 というか俺の昔作った物を使ってるのならコピーとかスキャンとかしておいてほしい。もしくは最初からそれ目的で呼んでほしい。ちゃんと来たから。

 

(ただこうなったら教師が馬鹿みたいに苦労する代わりに生徒とポケモンたちに成果が出るスパルタな高効率カリキュラムを作成してやる! 覚えているがいい! 大変だぞ!)

 

 その日。俺は夕焼け空が目に痛い帰り道で、人知れず空を見上げて一滴。何かがこぼれた。

 ちなみに休憩時間に覗いた講義室は、見事満席となっており、エリカが教鞭を執り、熱心に授業をしていた姿が見られた。ちょっと羨ましく、そして誇らしかった。

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

(ああ……このなんとも言えない感情をどうしてくれよう)

 

 その夜の出来事。わが母校の恩師によるあんまりにもあんまりな仕打ちにムカムカしていた。わざわざ有給を三日も取ったのに。もう激おこプンプン丸だ。これも全てロケット団のせいだ。絶対許さんからなロケット団。

 

(この怒りはロケット団で晴らさねばならぬ)

 

 エイジュは激怒した。必ず、かの邪知暴虐のロケット団をカントーの地から除かねばならぬと決意した。

 

 自身の戦力である四匹のポケモンをボールへと収め、かつての旅路を共にした荷物を持って家から飛び出る。そして、その勢いのままにタマムシを飛び出し、ヤマブキを通り越し、シオンタウンへと辿り着いた。

 

(フジ老人確認できずか……まさかベストタイミングだったとは。有給の間でタイミングが合うのなら参戦するつもりだったがちょうどいいか) 

 

 そろそろポケモンタワーの出来事が発生する頃合いだと思い、俺は行きがけにフジ老人が住んでいる家の窓をちょっとだけ覗き、姿のないのを確認したらすぐにポケモンタワーへと突入した。

 

 ここは幹部級が出張ってくるようなイベントじゃないので優先度が少し低かった。一応休みの時にちょくちょく来ていたのだがまとまった時間のある今日で良かった。

 

 ただ懸念事項が一つ。シルフスコープをあの子が持ちだせたのか怪しいのだ。どうにも上で暴れすぎて彼女は奥まではたどり着けなかったらしく、潜入させたストライクとベトベトンにシルフスコープの写真を見せたが、どうもそれを見ていないようだった。

 

(ピッピにんぎょう効けばいいけど)

 

 野生のポケモンやトレーナーを振り切りつつ片手にピッピにんぎょうを持って階段を上がる。シルフスコープがないのでこれは賭けだ。

 

 上の階層になるとガラガラに呪われたと思われるきとうしが数人絡んできたが、彼女らに当たる訳には行かないので穏便に正気に戻ってもらった。

 

 その後も似たようなやりとりをしてから最上階の階段に着いた。しかし何も感じない。どうやらガラガラの魂は天へと召されたらしい。

 

(助けてやれたらよかったが……)

 

 ガラガラがいつどこで殺されたのかが明確にわからないので手が打てなかった。もしも……を詮索しても意味のない事だが。

 

 俺は少しだけ立ち止まり、そしてまた歩みを進めた。

 

「着いた……む。誰か既に戦っているのか」 

 

 辿り着いた最上階では大勢のロケット団に誰かが囲まれていた。数は一人。見たところでんき技が使われているようだ。あっ、今ピカチュウの姿が見えた。さらに図鑑を片手に持っているのも確認できた。

 

 どうするべきかの判断をするために階段で一度身を潜める。適当に飛び出して邪魔になるのも悪いし、負けそうならば飛び出だせばいい。

 

(ピカチュウ……ということは博士の言っていた少年かな? 確かライバルの名前はなんだったっけ。まあそれならアユミ(あの子)と同じくらいの実力だろうから一応助太刀の準備を……!? なんであの子がここに!?)

 

 状況を見ていた俺の目に映ったのは孤軍奮闘する()()の姿だった。ピカチュウを連れた少女。金のポニーテールの少女。彼女を俺は知っている。優しい子だ。率先してバトルなんてする性質じゃない。

 

『そうじゃ。この前ピカチュウを連れた少年とイーブイを連れた少女が店に来なかったかな?』

 

 彼女の物であろう、床にぽつんと落ちている麦わら帽子を見て、前に聞いたオーキド博士の言葉を思い出した。

 

(そういうことか!)

 

 俺は咄嗟に飛び出しながら使わなかったピッピにんぎょうを放り投げ、彼女に声を掛けた。

 

「イエローちゃん! ここは俺に任せろ!」

「え! 店員のお兄さん!? どうしてここに!?」

 

 俺は手持ちを全員出してから、すぐに消耗しているイエローのピカチュウにかいふくのくすりを吹きかける。尻尾が尖っていないので♀のようだ。

 

「いいから! 俺なら一人でも大丈夫だ!」

「……わかりました! 私はあっちのおじいさんを!」

 

 イエローちゃんを奥へと先行させた俺は相手の頭数を確認する。

 

「なんだぁお前は? 俺たちロケット団の邪魔をするなんてどうなるかわかってるんだろうなぁ……!」

「相手の人数は五。一対一でちょうどいいな。行けみんな!」  

 

 俺の言葉に即座に反応してストライク、ニドキング、カイリュー、ベトベトンはそれぞれが相手に攻めかかった。

 

「おいおい! お前は数も数えられないのか? お前のポケモンは四匹! 数が一つ足りないじゃねえか!? 行けドガース!」

「がぁ~!」

「数が足りない?」

 

 ロケット団に育てられたせいか、容赦なく躊躇なく人間である俺へと向かってくるドガースは命じられるままにたいあたりを仕掛けてくる。見たところレベルは25前後。大したことはなさそうだ。俺はそのまま軽くしゃがんでから膝をばねにして勢いよく拳を突き上げて跳んだ。

 

「俺自身が残り一つの戦力ということだ! スカイアッパー!!」

 

 生き物というのは戦えば基本的にはデカくて重い奴が勝つと相場が決まってるんだ。この世界だと例外ばかりだけど。ポケモンってほんと不思議。ただまあ今回に限ってはドガースは60㎝の重さは1キロ。近接戦を選んだ時点で勝負は決まっている。なんたって相手は手も足も出ない。というか無いし。

 

「がぁ!?」

「は?」

 

 浮遊している相手のドガースに拳が直撃。すると声を上げてすぐにポケモンタワーの天井に衝突し、力なく落下したのをキャッチしてタワーの床に優しく寝かせる。しかし手加減してかくとうタイプの技を使ったというのに。やはりロケット団なんぞにはポケモンは育てられないらしい。ポケモンにごめんなさいをしろ。

 

「さあ。出すなら次のポケモンを出せ」

「え? は?」

「じゃあ次はお前だ。トレーナーバトルだ」

 

 俺は現状が理解できていない相手に拳を向けた。

 

「ひぃ! す、スリープ! かなしばりぃ!」

「遅い!」

 

 スリープから離れてすぐに相手の射線から外れる。そして加速してスリープへと跳んだ。

 

「とびひざげり!!」

「俺の手駒がぁ!?」

 

 俺の膝が見事に直撃したスリープもまた力尽きた。すまないとは思っている。それとさいみんじゅつ教えてください!

 

 俺は最後に残った男に対してゆっくりと歩み寄る。手持ちは見たところまだ戦っているようだ。みんなできるだけ周りに被害が出ない様に気を使ってくれていた。いい子だ。

 

「待て! 待て待て待て! 俺の手持ちはもういない! 降参する!」

 

 ロケット団の男は尻をついて後ずさる。思えばロケット団の奴とこうしてロケット団の姿として話す機会がなかったことを思い出す。ポケモンたちの決着を待っている間に少し話をしようかと語りかける。

 

「残念だが俺はポケモンじゃないからな。戦うのがトレーナーのお前相手でも一向に構わん! だが少し聞きたいこともある。それまでは待ってやろう」

「やめろ! 近づくんじゃねぇ! そもそも俺がてめえに何したって言うんだよ!」

「別に俺に限らずにさんざん好き勝手やっただろうに」

 

 遂にそいつは壁にあるポケモンの墓石に辿り着き、逃げる場所を失った。そうなると開き直ったのかそいつは叫ぶように吐き捨てる。

 

「ああそうだよ! 好き勝手やって何が悪いってんだ! どうせポケモンなんざ俺らに使われるだけのもんだ! どうなろうが知ったこっちゃねえ! そうだ! ロケット団に入りゃ思うままに生きられる!」

「お前らには悪の美学はないのかよ。首領の掲げる理想に共感したとかはなかったのか」

「ああ? 組織のつまんねえ古参みたいなこと言ってんなぁ。んなもんいらねえよ! 楽して手に入る力さえありゃ構わねえ! 俺がよければ構わねえ! 団員だろうがそうでなかろうがな! そこで戦ってるあいつらだってそう思ってるだろうさ!」

 

 俺は心底からの溜息を吐いた。この世のロケット団はここまでどうしようもない奴らなのかと。お前ら人間じゃねえってのは割と妥当な言葉かもしれない。

 

(少なくともあの頃の俺が戦ったサカキさんにはあったはずだ。美学も。矜持も。信念も。組織の強み、人が協力して生まれる力を信じられる男のはずだった。一度だけのバトルだけど……それをポケモンたちからも感じることができた)

 

 それがどうだ。こんな輩が集まったところでできるのは烏合の衆。それでは組織の質を落とすだけだ。それがわからない男じゃないはずだ。一体ロケット団はどうなっている?

 

 男はその間も好き勝手喚いている。いい加減うるさい。俺はポケモンたちの決着が近い事を確認してそいつへと歩み寄った。

 

「そうだな。さっきお前が言った質問に答えよう。お前らのやったこと。まず一つ。ガラガラを殺した。次に二つ目を言うならお前らのせいでこの安らかであるべき場所で本来はあってはならない醜い争いを俺のポケモンとお前のポケモンにさせてしまったこと。三つ。知り合いの少女をよってたかっていじめるという胸糞悪い光景を見せられたこと。そして最後は、ある意味でなによりも最初……」

「そんなこと知るか! 俺はこんなところで捕まっていい男じゃねえ! ウラァ!!」

 

 そいつはわるあがきか、それとも幻の勝機でも見えたのか俺に殴りかかってきた。

 

 ポケモンに人を攻撃する命令をしちゃいけないよ。フレンドリィショップのお兄さんとの約束だ。例外はあれど基本的に犯罪だからね。トレーナー同士ならたまたま流れ弾当たるとか日常茶飯事でわりとセーフも多いけどね。

 

 だけど……ポケモンバトルが許されているこの世界。必然的に規模が小さくなる人間同士の喧嘩というならよほどの重傷を負わせたり、それにかこつけて金品や物品の略奪をしなければ多少はお目こぼしをもらえるのだ。それがこの状況で、相手が明確な悪人であると言うのなら……それはもう察して頂きたい。

 

 というか我慢の限界だ。大人しくしていればこのまま縛って引き渡すだけで済ませてやったのに。

 

「聞けや! それは貴様らが栄光あるシルフカンパニーに喧嘩を売った事じゃあああ!!!」

「ぎゃーーー!!!」

 

 俺の拳はロケット団の顔に直撃した。

 

 その後、この光景を見たポケモンタワーにいる他のロケット団は全員が大人しく捕縛されたのだった。めでたし。

主人公エイジュくんのグレンへの移動方法模索エピソードを早めるかについて(3~5はネタ選択肢ですが結果は考慮します)

  • 1 本来の想定の時期で!
  • 2 いいよ早くこいよ!
  • 3 そんなことよりヒロインだ!
  • 4 そんなことよりポケモンだ!
  • 5 そんなことより労働だ!

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