「
ある昼下がりの日曜日に、
もう何度めの受けだ答えだろうか。はじめの頃は何の気なしに数えていたが、それが二桁を超えたころからバカらしくなってやめた気がする。そうしたあとだって、数えていたころの倍以上は訪ねてきているのだから、やめたのは正解だった。
赤色のリボンで結われたツインテールは、癖っ毛なのかウェーブがかかっている。今年中学一年生になったばかりであどけなさは残っているものの、将来は美人になるでだろう顔立ちをしている。休みの日で制服に身を包んでいるのは、学校の校則であるかららしい。
やれやれ、面倒な校則もあったものだ。
「白井黒子、俺を下の名前で呼ぶのはやめろ。恥ずかしすぎて悶え死にそうだ」
「どうしてですの? かっこいいではないですか。龍の牙だなんて。ぷぷっ……」
「歯ァ食い縛れ。顔面に青アザ作ってやらァ」
クソッタレ、なにが悲しくてこんな名前で呼ばれなにゃならんのだ。龍の牙が名前だなんて恥ずかしいにもほどがあるだろ。
「つーかよぉ、俺なんかを風紀委員に戻してどうしたいんだ?」
「『俺なんか』とはご謙遜ですわね。訓練でわたくしを相手に連戦連勝、並の
……毎度毎度聞かされて、耳にタコができるんじゃないかと思う。
どうやら俺みたいな才能に恵まれなかった人間が、白井のような才能溢れる人間に、たとえ訓練であろうと連勝できるのは普通ではあり得ないことらしい。
なにせここは――『超能力』がすべてを左右する街だからだ。
とはいえ、たとえ訓練であろうと女の子を、しかもこの前まで小学生だった女の子を相手にして勝ち続けられたとしても嬉しくないし全くの自慢にもならない。むしろこんなことを誇ろうものなら人格を疑われかねん。
白井はこの結果が悔しくてならないようだが、実践で役に立てなければ意味がない。本人に何回も言っているのだが、やはり悔しいものは悔しいようだ。
まぁ総じて言うとすれば……、
「どうだっていい。だから帰れ。な?」
「嫌ですの」
むぅ。わかっていたことだけど、強情なやつだなぁ。
ここまでしつこいと、もしかして俺に気があるんじゃないかと疑ってしまう。
だがそれはない。この白井黒子、お嬢様学校の上級生に絶賛片想い中の百合女なのだ。
「いい加減にしてくれよ。俺は誰かを助けられるような人間じゃないんだ」
「あなたがそれを言ってしまわれましたら、ほとんどの風紀委員は無力な存在になってしまうとお思いになりませんの? 第一七七支部のエースさん?」
「ちっ……」
ごろりと寝返りを打って百合中学生を視界から追い出す――が、先回りされていた。
「恥ずかしいですわよね? 自分の正体を隠すためだけに真夏でもフード付のパーカーを着て、その上からロングコートを羽織っていらしたのですから。わたくしもつい最近、ようやくあなたのことを見つけましたのよ?
俺のなかの我慢リミッターが限界を超えた。
「うっせぇ!! 俺のことを呼ぶんじゃねぇ!! 恥ずかしさで殺すつもりか!?」
こんな厨二病患者がつけそうな名前を一生背負わされた俺の気持ちも知らずに、そんなふうに笑いを堪えながら呼ぶんじゃねぇよ! 俺だって嫌だよこんな名前!
「そんなことは思っていませんわ。ただ、少々俺カッケー精神旺盛だったあなたが、今さら普通の格好で戻られるのは笑い話にしては上出来すぎると思っているだけですの」
「テメェそこ動くんじゃねぇぞ。ぶっ飛ばしてやる」
相手が女の子だとか中学生だとか知ったことか。こうまでおちょくられたら怒ってもいいと思うんだ。一発くらい殴ってもいいと思うんだ。だって百合少女だし。
「殴ると宣言されて動かないわけがないではありませんの。暑さで頭がやられたのではありませんの?」
「口の減らん生意気な後輩だな。そんな態度で本当に戻ると思ってんのか?」
「戻られるつもりのないお方に下手に出てもいいことはありませんから」
なんなんだろう。最近の中学生ってこんな感じなのか? 俺、耐えられそうにないよ。
しかし白井もよくやる。風紀委員の仕事や学生の本分もあるだろうに、毎日毎日勧誘というか、引き戻しに来るなんて働きすぎだろ。
俺だったらどんなに実力派の人間の引き戻しをするにしても、せいぜい一回や二回くらい断られたら諦める。しかもひねくれた言い回しをされていれば、正直二度も会いたいとは思うまい。なのに白井は毎日やってくる。
まあ、単に第一七七支部のエースの正体を看破した達成感や好奇心がそうさせているのだろう。
「なあ白井」
「……なんですの?」
俺の雰囲気の変化に気づいたのか、白井は嫌そうに口数を減らした。
「別に俺はやりたくないだとか、そんな下らない理由で断り続けてるわけじゃない。それはわかってくれるよな?」
「……わかりたくありませんけれど」
白井の表情が徐々に曇っていく。
俺は構わずに話を続ける。
「言いわけにしか聞こえないだろうけど、俺が正体を隠してたのは本当に知られたくなかったからなんだ。風紀委員になんて所属してた手前、今までどんな恨みを買ってたかわかったもんじゃない。だからこそ、今の俺の状態を知られるわけにはいかなかったんだ」
「……わかっていますわ」
「そりゃどうも。で、結局なんの収穫も得られずに時間を過ごしちまったんだ。多分、風紀委員には俺のほしい情報はないんだろうよ。『
「今まではというだけで、これからはわかるかもしれないではないですか!」
怒りの感情を剥き出しにした白井の叫びに面食らうも、すぐに話を再開する。
「たぶんない。だからもう風紀委員には戻らない。でもできる限りの協力はする」
「一般人による介入は認めるわけにはいきませんわ」
「厳しいねぇ」
といっても、それを厳しく教えつけたのはまだ正体を隠していた頃の俺なわけだから、後輩にしっかりと受け継がれているのなら、先輩冥利につきるというものだ。
「でもまあ、そういうわけだからさ。明日来ても明後日来ても、俺の答えは変わらない」
そこで言葉を区切ると、あえて強調して最後に告げる。
「――俺は、失われた自分の記憶を探さないといけないからな」
『学園都市』に住む高校生、虎王龍牙。
一年前以降の記憶を求めて、絶賛奔走中である。
お久しぶりの方はお久しぶり、はじめての方ははじめまして。
にじふぁんにて連載していた処女作、とある悪魔の絶対能力を大幅に改訂して再び連載することにいたしました。
おそらくは(覚えている方がいればですが)ネギま二次の方が印象深いと思われますが、神様転生にちょっと抵抗を覚えてしまい、こちらをリメイクすることにしました。
当時、まだ中学生だった私はこの名前がえらく気に入っておりまして、指摘を受けるまで主人公の名前が痛々しいものだとは思っていませんでした。
今回は名前をコンプレックスにしていますけれど、正直なところ、リメイク前の内容がさっぱり残っていないので、この名前でなくともよいのではないかと思ったところではありますが、やはりそこは処女作にして元祖主人公。
リメイクするにしてもこの名前がいいと思い、踏み切りました。
ぶっちゃけ、リメイクというより完全新作に近いですが。
さて。
こんな無粋なあとがきはさておき。
次回の投稿はおそらく時間がかかると思われますが、少しでも面白いと感じていただけたのなら気にかけてくださると幸いです。
以上、ぱっつぁんでした。
‐追伸‐
久しぶりにぱっつぁんって名乗ったなぁ。