何もかもダイスの女神に任せたらとんでもない主人公ができた 作:塩谷あれる
救助訓練
「それじゃ、行ってきます」
「はい、いってらっしゃい。あ、そう言えば卓夢君」
マスコミ騒動の翌日、いつも通り登校しようとする蓮田を、奈良戸が呼び止めた。
「何です?ほたるさん」
「昨日のマスコミ騒動、お昼頃にあったってのを聞いてふと思ったんですけど、貴方お昼はどうしてるんです?」
「ゲッ」
蓮田は痛いところを突かれ思わず呻く。『“個性”の被害を広めたくないから基本ボッチ飯です』とか、まぁ蓮田でなくても自分の母にあたる存在に言えるわけがない。恥ずかしすぎて死ぬ。
「いや、普通に食ってる、ます、よ?」
「敬語ガタガタになってますよ?よくよく考えてみれば、その仮面では食事がし辛かったですねぇ。家では普通に外して食事を摂っていたから失念していました。
…ふむ、時間は多少かかりますが、つけたまま食事が可能な仮面を作っておきます」
「…助かります」
奈良戸の提案に小っ恥ずかしそうに蓮田は(髪の無い)頭をカリカリと搔く。それを見て奈良戸は『仕方のない子ですねぇ』とでも言いたげな柔らかい苦笑を浮かべる。
「いえいえ、大方食べていないか独りでご飯を食べていたのでしょう?全く、言ってくれれば作りますのに」
「いや、なんか折角作って貰ったモンを作り直してくれってのは育てて貰ってる身としては申し訳ないって言うかですね…」
「15歳の子供が気にしすぎです。ほら、電車遅れますよ?」
ピン、と奈良戸が蓮田の仮面の額の辺りにデコピンを打つと、蓮田はハッ、としたように時計を見た。
「ヤッベ!?じゃ、い、行って来ます!!」
「いってらっしゃーい」
慌てて玄関の扉のドアを開き、駆けだす蓮田。流石は異形型と言うべきか、あっという間に見えなくなった。
「…ふーむ、それにしても、マスコミが何だって雄英に侵入できたんですかねぇ…というかそもそも、流石のマスコミだって、そこまでして入ろうとしますかねぇ」
蓮田が駅に向かうのを見送っていた奈良戸は、顎に手を当てて言った。
「んー、きな臭いですねぇ…うん、少々調べる必要がありそうです」
そう言って家の中へと入っていく奈良戸の顔は、普段の童女じみた姿とは打って変わって、どこか冷然さすら感じさせるものであった。
「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることになった」
(なった…か、昨日のマスコミ騒動が何か影響してんのかね…)
相澤の発言に蓮田は不審げな顔を浮かべる。ふと周りを見てみると、何人かは言葉の意図に気がついたようで、同じように疑問を顔に出していた。
「ハーイ!何するんですか!?」
「災害水難何でもござれ…
その言葉を聞いて、教室内が少しざわめく。戦闘同様に得意不得意が多少生じるジャンルだからだ。しかもそれは、“個性”だけでなく、性格、人相、声色なども影響する。考えてもみて欲しい。あの爆豪が誰かを救助、保護する様を。ビビらせることしかしないのは目に見えている。
(ま、俺も決して救助向けの見た目してるわけじゃねぇけどな…)
得体の知れない触手と薄気味の悪い無機質な仮面、これはこれで一般人には中々不気味だろう。
「訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」
「すっげー!!!USJかよ!!?」
時と場所は変わり、救助訓練の演習地。そこは様々な地形がさながらアトラクションの如く立ち並ぶテーマパークのようだった。
「水難事故、土砂災害、火事…あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……
(((USJだった!!)))
スペースヒーロー『13号』の説明に皆がずっこける。
(許可とってんだろうな…?ヒーローが著作権侵害でお縄とか洒落にならん)
「えー、始める前にお小言を一つ二つ……三つ…」
(((増える…)))
「四つ…」
蓮田が的外れな心配をしていると、13号の“お小言”が始まった。
「皆さんご存知だとは思いますが、僕の“個性”はブラックホール、どんなものでも吸い込んで塵にしてしまいます」
「その“個性”でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」
緑谷が13号の言葉を拾って補足を加える。隣の麗日はそれに残像ができるレベルで頷いていた。
「えぇ…しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にも、そういう“個性”がいるでしょう?超人社会は“個性”の使用を“資格制”にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます…しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないで下さい」
(へぇ…成る程、そりゃそうだ)
蓮田は13号の意見に感心を覚えた。『いきすぎた個性』、成る程思い当たる節がある。
「相澤さんの体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを、人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では…心機一転!人命の為に“個性”をどう活用していくかを学んでいきましょう。
君たちの力は人を傷つける為にあるのではない…救ける為にあるのだ、と心得て帰って下さいな。──以上!ご静聴ありがとうございました!」
13号がペコリ、と頭を下げると、ワッと拍手が巻き起こった。生のヒーローの観念を聞くことができてテンションが上がっているのもあるかとは思うが、13号の話はそれだけ生徒の心に刺さったようだ。
「……さて、そんじゃあまずは…」
そんな風景を尻目に、相澤が時計を確認する。その時──
ズズ…
「……?」
「……(何だ、あの黒い靄、みたいなもん…?)」
セントラルを見下ろせる位置にいた相澤と、偶然よそ見をしていた蓮田は、それに気づいた。その、黒い靄のような、煙のような塊の存在に。そしてそれが段々と大きくなっていることに。そこから、人のような形をした何かが現れ始めていることに。
「一塊になって動くな!!」
(オイオイオイ…冗談だろ…?)
黒い靄は大きく形を変え、人が出入りできるほどに大きく拡がった。そしてその中から現れるのは、全身に“手”を纏わりつかせた銀髪の青年、更にその後ろからまだ多くの人が続々と現れる。
「なんだアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってるパターン?」
「動くな!あれは…」
切島が暢気な言葉を零すが、それを相澤──“イレイザーヘッド”は否定する。そうしている間に、黒い靄はその大きさを保ちながら少しずつ人の形へと変わっていく。
「13号に…イレイザーヘッドですか…先日
「…やはり先日のはクソ共の仕業だったか」
「どこだよ…折角こんなに大衆引き連れて来たのにさァ…オールマイト…平和の象徴…いないなんて…
子供を殺せば来るのかなァ…?」
“手”の男が純然な悪意を以て発した言葉は、生徒達を萎縮させるのには十分だった。
「…なぁ先生!ありゃ一体何なんだよ!」
「落ち着け!あれは…
本来であればあるはずのない遭遇、早すぎる悪との対敵、まだ若い彼らにとっては、凡そ過酷すぎるといえる受難が幕を開ける。
※なお、約一名過酷どころか即無双可能な生徒がいる模様(黄色い切れっ端を尻目に見ながら)。
本当なら死柄木の喋りにはフォント使おうかなー、とか何とか考えてたんですが、よくよく考えたらSAN0って訳でもないのに特別扱いとかちゃんちゃらおかしいな、と考え直してやめました。多分邪神系統の本気モードでは一部フォント変えすることになるかも。