何もかもダイスの女神に任せたらとんでもない主人公ができた   作:塩谷あれる

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惨劇の真相

「……っは!こ、ここは…」

 

 静かな保健室で、緑谷出久は目を覚ました。隣のベッドには、同じように峰田と蛙吹が寝ているらしい。二つの寝息が聞こえた。

 

「やぁ、目を覚ましたようだね」

 

 ガラリ、という音を立ててベッドのカーテンが開く。そこには、トゥルーフォームのオールマイトと、短髪の背の高い男がいた。服装から察するに、警察だろうか。

 

「あ、オールマイト!って良いんですか!?その姿…」

「あぁ、問題ない。何故って彼は、私の最も仲が良い警察、塚内君だからね!…早い話が、私の真の姿を知る人間の一人という訳さ」

「ま、そういう事だ。さて、緑谷出久君。()()()()に居合わせた一人だね。相澤先生が治療中なもんで、君達から話を聞きに来たんだ。判る範囲で構わない。教えてくれないか?あの場所で、一体何起きたのかを」

 

 あの惨状、という言葉でその時の光景を思い出したのか、緑谷はさあっと顔を青ざめさせる。しかし、それでも、恐る恐る語り始めた。あの時、何があったのか、()に、何があったのかを。

 


 

「とりあえず、救けを呼ぶのが最優先だ。このまま水辺に沿って、広場を避けて、出口に向かうのが最善…」

 

 水難ゾーンでの戦闘を乗り越え、緑谷、峰田、蛙吹の三人は広場の方へと移動していた。

 

「そうね。広間は相澤先生と、蓮田君が何とかしてるみたい。それにしても凄いわね、彼。相澤先生にも負けない戦闘技術を持ってる」

 

 そう、同級生の蓮田が戦っている。その事実が、緑谷の勘違いを、考えの甘さを加速させた。自分達でも、ヴィランに立ち向かっていけると言う、その勘違いを。そしてそれは後に、思わぬ形で払拭されることになる。

 

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「ハハハ…どうかな、対平和の象徴──改人“脳無”」

 

 一撃。たったの一撃だった。それだけで先程まで、鎧袖一触の勢いでヴィラン達を薙ぎ倒してた相澤と蓮田が吹き飛ばされた。その光景は、緑谷達にとって衝撃の一言だった。自分達の思い描いていた甘い幻想を粉々に粉砕するかのような、そんな絶望的な光景がそこにはあった。

 

「グッ…蓮、田……動けるか?」

「…先、生……」

 

 それでも二人は、その絶望に真っ向から立ち向かうかのように、フラつきながらも立ち上がった。蓮田は先程から顔を抑えているので分からないが、相澤の方は頭部に酷くダメージを受けたのだろう。雨垂れのように滴り落ちる鮮血が痛々しい。

 

「オイオイ立ち上がるのかよ、感動的だねェ…一応言っとくけど、“個性”を消したところで無駄だよ。コイツのパワーは個性によるものじゃない……圧倒的な力の前では、アンタの“個性”は意味を為さないな」

「……とんだバケモノだな」

 

 自分の“個性”が通用しない。その事実を冷静に理解した相澤は、後ろで顔を抑えながら震えている蓮田を見た。いくら()()()の推薦と言うこともあって戦闘慣れしているとは言っても、このレベルの相手とは戦ったことはないのだろう、恐怖で震えるのも仕方がないと判断した相澤は、再び戦闘態勢を取る。

 

「蓮田!お前は下がっていろ。俺が足止めをしているうちに、他の奴らの避難を……」

「ち、う…せん、…」

「面倒だな…まとめてぶっ殺せ、脳無!」

「早く、逃げろ蓮田!」

「違う…ちガうんだ、先生…逃げなきャいけなのは…俺じゃ、ない。逃げテくれ…早く、頼む、から……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今スグ俺カラ、逃ゲテクレ」

 

 ごぽり。そんな冒涜的な音が、聞こえた気がした。

 

「■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!」

 

 悲鳴。そう表現するしかできないような強烈な叫び声が相澤の、死柄木の、緑谷の、この場全ての者の耳を貫く。そして叫び声を聞いた者達の心の中に、同時にえも言われぬ恐怖と、得体の知れない奇妙かつ冒涜的な、この世のとは思えない何かが入り込んできた。

 

「ハァッ、ハァッ…何、これ…蛙吹、さん、峰田、く」

 

 全身の震えが止まらないものの、緑谷はなんとか意識を保てていた。しかし他二人は…

 

「う、ああ、あぁ、ひ、いや、いや、いや、だめ、だめ、ごめんなさい、ごめんさい、いや、いや、いやぁあ!」

「あ……あぁ、………あぅ……」

「……!?二人、とも、し、しっかりして!」

 

 急に何かに取り憑かれたかのように呻き泣き始める蛙吹と、目を白黒させ意識が覚束ない峰田。そんな二人の様子を見て、緑谷は返って冷静になれたらしく、二人をなんとかして正気に戻そうとしていた。一方、セントラル広場では───

 

「ぐ、う、蓮田…お前、一体……」

 

 とてつもない悪寒と金切り声による痛みで頭を抑えて蹲る相澤。先の傷も加わって、もう彼は気絶寸前まで来ていた。意識は殆ど無いと言えるだろう。

 

「ぐ、あ、お前、なん、だよ、なんなん、だよ、ふざけんな、お、まえ、一体、何なんだよォオ!」

 

 死柄木は、悲鳴にも似た声を上げる。その足下には、赤いシミのようなものと、痩せこけた彼の腕があった。錆びついた鉈か何かで切断されたのか、断面がズタズタで、恐らく繋ぎ直すのは難しいだろう。

 

「クソ、クソ、クソォオ!テメェ、どうやって俺の腕をぶった切りやがったァア!」

 

 そう言って死柄木は蓮田を睨み付ける。よく見てみれば、蓮田の右手には、見るだけでクラつくような赤い血液がべったりと付着していた。皮膚が目映く光っている辺り、皮膚鉱化で手の表面をダイヤモンドにでも変えたのだろうか。

 

「ふざけんな、ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなぁあ!!やれ!!アイツをぶっ殺せ脳無ゥウウウウウ!!!」

 

 ギリギリと歯軋りをしながら、死柄木は脳無に命令した。脳無に思考は無い。理性は無い。感情は無い。よって恐怖もない。命令されるがままに、脳無は目の前の蓮田を殺そうと突撃する!!────憎むべきは思考無きことか、それが悪手だと、ただひたすらに気づきもせずに。

 

「■■■■」

 

 蓮田は、言語にならない声で何かを発した。すると蓮田の周りから黒い風が顕れ、脳無の黒い外皮を、筋肉を傷つけていく。しかし勿論、『超再生』の“個性”でたちまちに傷は治っていく。

 

「………■■」

「ハハ、ハハハハハハ!!!効く訳ねぇだろそんなの!!脳無は、ソイツは平和の象徴(オールマイト)を殺すために作られたんだ!お前のやっすい風如き効くわけが──」

「■■、■■■■■■■」

 

 蓮田は風を刃状から竜巻状に変え、脳無の肩の近くの筋肉に向けてブチ当てた。すると竜巻は、ガリリリリリリリリ!!!!!!というイヤな音を立てて、脳無の肉と骨を削り取っていく。余りの速さに、再生が追いついていないのが丸わかりだ。

 

「オイ、オイオイオイ!何やってる脳無!!さっさと再生させろ!!そんなヤツにやられてんじゃねぇ!!」

 

 次第に肉はどんどんと削られていき、もう右腕は殆ど残ってはいなかった。しかも不思議なことに、肉がちぎれた際に飛び出るはずの脳無の血は、殆ど流れ出てはいなかった。

 

「クソ、こうなったら俺が直接──!」

「いけません死柄木弔!!()()と戦うのは時期尚早だ!」

 

 一方的にやられ続ける脳無にしびれを切らしたのか、死柄木はついに蓮田の方に向かおうとするが、それをやってきた黒霧に止められる。

 

「クソ、何しやがる黒霧!放せ!」

「なりません!()()()からの伝達です!蓮田卓夢、ヤツと戦うにはまだ我々は弱すぎる!脳無を引き換えにしてでも今すぐ撤退しましょう!!それに、生徒を一人取り逃がしました。1時間もしない内に応援を呼ばれる!!」

「は?ふざけんじゃねぇぞ黒霧…お前、お前、お前………クソ、クソ、クソ、クソがぁあああ!!!!!」

 

 腕からの出血も構わずに首を搔いて叫ぶ死柄木。そして遂に諦めたのか、だらりと頭を垂らし、そしてじっとりと蓮田を睨み付けた。

 

「殺す…てめぇはかならず殺してやる!オールマイトよりも遥かに惨い死に方させてやる!!!覚えていやがれ蓮田卓夢……!!」

 

 その言葉を最後に、死柄木と黒霧は姿を消した。

 

「き、消えた…帰った、のか?」

 

 緑谷はその場で動くことができなかった。その光景の恐ろしさに。その光景の異様さに。そして哀しいかな。まだ狂気は終わらない。

 

「■■、■■■■■■」

 

 最早これにて終いだ、と言わんばかりに風を脳無に向けて放つのを辞めた蓮田は、今度は脳無の頭を思いっきり掴み上げた。勿論抵抗する脳無だったが、伸びていく触手によってどんどん蓮田との距離が広がり、攻撃が当たらなくなっていく。

 

「■■■」

 

 蓮田が短い呪文のようなものを唱えると、脳無を掴んでいる蓮田の手が、赤黒く変色していった。それと同時に、脳無にも変化が訪れる。

 

「ギィッ…ギィヤァアアアアアア!!!!!」

 

 今まで声を上げることもしなかった脳無が、ここに来て飛びっ切りの悲鳴を上げる。そして、その体は、 

 

「ギィア!ギャァ!ガアアアアアアアア!!!!」

「萎んで、いってる……?」

 

 そう、緑谷が呟いたとおり、脳無の体は見る見るうちに萎んでいった。まるで、ゴム風船から空気が抜けるように。そして彼の足下からは、夥しい量の血液が、滝のように溢れ出ていく。そしてそれは、なんの意図をしてなのか、何かの魔方陣を描くように垂れていった。

 

「■■、■■■■」

「ギャア!ギィ、ヤ゙ァアア゙ア゙ア゙ア゙!!!ギ、ギ、ギィ、ァ、アアアア……ッ」

 

 蓮田の手に一層の力が入る。すると血の魔方陣が、まるで待っていたかのように黄金色と翡翠色の光を放ち出す。

 

「あ、ガッ」

「これ、は」

 

 その光を見た緑谷達は、途端に何か、鈍器で殴りつけられたかのような感覚を覚えた。そして緑谷が最後に見たのは、もう用済みとばかりに手を放され落ちていく脳無と、脳無から何かを取り込んだ蓮田の姿だけだった。これが、緑谷出久が目撃した、あの惨劇の全てである。




※蓮田卓夢に関する追加情報が開示されました。
蓮田卓夢は仮面を外してから一定時間が経過すると、『■■■■』状態になります。『■■■■』状態中は全ステータスに大幅な強化補正をかけますが、自意識を失い、正常な思考はできないものとします。但し、■■系個性保持者がその場に複数人いる場合、その人物と彼の『クトゥルフ神話技能』を参照し、彼の方が数値が低かった場合、『■■■■』状態を無効化できるものとします。また、彼を含む■■系個性保持者は、『クトゥルフ神話技能』の上昇による最大SAN値減少を受け付けません。

というわけでスーパーSAN値チェックターイム!(1d10/1d100)
各々の結果は
緑谷(50)→SAN値チェック成功(47)、減少4
蛙吹(50)→SAN値チェック失敗(80)、減少10。不定の狂気。
峰田(40)→SAN値チェック失敗(43)、減少8、アイデアロール(80)成功。一時的狂気。
相澤(70)→SAN値チェック成功(25)、減少10。
死柄木(40)→SAN値チェック失敗(67)、減少5、アイデアロール(60)失敗。
脳無→SAN0
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