暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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よろしくお願いします。


#1 ヤミ×ノ×ビジョ

 小雨が降る夜の都会。

 

 1人の女が傘も差さずに歩いている。

 

 茶色の瞳を持ち、紅い髪を無造作に後ろで纏めており、黒のロングミリタリージャケットに赤のミリタリーズボンに黒のブーツを身に着けている。

 クール美人と言える鋭い顔つきでモデルをしていてもおかしくない美貌だが、周囲の人は異常なほどに彼女に目も向けない。

 そこにいることにすらも誰も気づいていないようだ。

 

「ホンマお偉いさんは簡単に言うてくれるわ。金払えば何でも叶うと思いよってからに……」

 

 彼女は小さく眉間に皺を寄せて、両手をジャケットのポケットに突っ込みながらボヤく。

 目的地のホテルのロビーに入り、髪や服に付いた水気を払う。

 

「さてさて、お仕事開始やな」 

 

 彼女はスポーツサングラスをかけて、階段に足を向ける。

 階段を上り始めると一気に駆け出しながら、白い靄のようなもので体を覆い、残像を残すほどの速度で移動する。

 30階ほど上がると、フロアに出る扉の前に立っていた見張りの首をへし折って倒す。

 彼女はフロアに入り、物陰に身を隠す。

 

「調べた限りやと念使いはおらんはずやけど……」

 

 そう呟くと、体を覆っていた靄『オーラ』が勢いよく風船のように広がっていき、フロアを通り抜けていく。

 

「……変な奴はおらんな。標的も確認。護衛は6。フロア貸し切りにして怯えるくらいなら、もっと護衛増やせばええのに。臆病なんか、呑気なんか……」

 

 念の四大行の応用技【円】にて、フロア内の気配を感じ取ってため息を吐く。

 しかし、すぐに顔を引き締めて、ズボンの太ももにあるポケットから刃が特殊な形状をしているナイフを取り出す。

 剣身の中が魚の骨のように刳り抜かれており、よく見ると刃の部分が鋸のようにギザギザになっている。

 

 ナイフを右手に握り、廊下を警戒しながら歩いている護衛に向かって一気に駆け出す。

 

「っぁ――!?」

 

 目を見開いて声を上げようとした護衛の男にナイフを投擲して、喉に突き刺す。

 

「ガ!?」

 

 男が刺さったナイフに手を伸ばそうとする。

 女がパチン!と指を鳴らす。

 

 するとナイフが突如消えて、女が瞬間移動したかのように隣に現れて、そのまま奥に走る。

 

 男は喉から血が勢いよく噴き出して倒れ、その音で他の護衛達も彼女の存在に気づいた。

 女は左手をポケットに突っ込んで、中の物を一番近くの護衛に投げつける。

 

「っ!!」

 

 護衛の男は銃を構えて、投げられたものの正体を見極める。

 

「コイン?」

 

 飛んでくるものはコインだった。

 男が思わず呆気に取られていると、パチン!と指が鳴る音がして、突如コインがナイフに変化した。

 

「は!? がっ!」

 

 目を見開いた男は避ける事も出来ず、額にナイフが突き刺さる。

 女は頭を仰け反らせて倒れて行く男のナイフを掴んで引き抜きながら通り過ぎ、銃を構えている男に向かって再びナイフを投げる。

 

「馬鹿が! っな!?」

 

 鼻で笑って発砲した瞬間、彼女がまた瞬間移動して銃弾を躱す。

 男は驚きながらも再び銃口を向けるが、女はもう目の前に迫っていた。

 

「なんだげっ!?」

 

 女は男の頭を掴んで、一気に180度ゴキリと捻って殺す。

 倒れて行く男に目もくれずに、床に落ちたナイフを拾う。

 

「これで後は部屋の中だけやなっとぉ!!」

 

ドバン!! 

 

 すぐ横の扉を蹴り壊す。

 もちろんすぐ目の前には、拳銃を構えた護衛の男達。

 

「死ねぇ!」

 

パン! パパン!

 

 と、一斉に発砲するが、女はオーラを強めて銃弾を躱しながらナイフを猛スピードで投擲する。

 ナイフは銃弾以上の速さで一番先頭にいた男の額に突き刺さって、頭が仰け反る。

 直後、男の額の上に女が現れて、すぐ横にいた男の首に蹴りを刺し込んで圧し折った。

 

「こ、このっ!」

 

 最後の1人が何とか銃口を向けるが、パチン!と音がしたかと思うともう女の姿はなく、あったのは何故か宙に浮かんでいるナイフだけだった。

 

「なっ!?」

 

「おもろいもんやろ?」

 

「!?」

 

 扉の方から声がして、目を向けると猛スピードで女が走ってきた。そして、落ちているナイフを掴んで未だ唖然と目を見開いている男の首を一閃する。

 女はナイフを振って、血を払う。男は首から血を噴き出して、ゆっくりと倒れた。

 

 そして部屋に残っているのは女と、髭を生やした小太りの男だけだった。

 

「ひ、ひぃ……!」

 

「……あんたがザコナイファミリーのボス、モアカンやな?」

 

「き、き、貴様! だ、誰の差し金だ!」

 

「知ったところで、もう報復なんざ出来へんようになるから聞くだけ無駄やろ」

 

「おのれぇ……! 暗殺者風情が……! な、ならば雇い主の10倍払ってやる!」

 

「寝言は寝て言えや。うちらの世界は命、信用、金の順で大事なんやぞ。ここで靡いたら、もう依頼が来んようになるやないか」

 

 ターゲットの言葉を呆れながら切って捨てた女は、まるで息をするように自然で、かつ滑らかな動きで男の胸にナイフを突き刺す。

 モアカンはあまりにも女の動きが自然過ぎて、何をされたのか分からず唖然と胸に刺さったナイフを見下ろす。

 

「……あ?」

 

「ほな、さいなら」

 

 女はナイフを刺したまま腕を横に振ってモアカンを投げ飛ばし、窓ガラスを突き破って放り出す。

 モアカンは呆然としたまま外に放り出されて、地面にまっすぐ落ちて行った。

 

「ふぅ……手応えないんもなんか疲れるわ~」

 

 女は首に左手を回してコキコキと鳴らしながら、またコインを取り出してコイントスをする。

 パチン!と指を鳴らすと、コインがナイフに変わって女はナイフをキャッチする。

 

 人が近づく気配を感じると、彼女も窓から身を乗り出して飛び出し、夜の街へと消えていった。

 直後に、下の階で待機していた部下達が駆け込んできた。

 しかし、部屋にあるのは死体のみ。

 彼らのボスは遥か下の地面に叩きつけられて、紅い池を広げていた。

 

 彼らは警察を黙らせて調査を始めたが、ボスがいた階は監視カメラを切っていたので、はっきりと犯人の姿を捉えた映像はなかった。

 このホテルには一般客も泊まっているし、誰でも入ることが出来るので、他の監視カメラの映像だけでは断定できなかった。

 こうして彼らは犯人探しよりファミリーを立て直すことに手を取られていくことになるのだった。

 

 

 

 

 女はホテルから離れて、電話を掛ける。

 

「……毎度どうも。お仕事終わりましたで。もうそろそろ一般人やら警察の下っ端やらわんさか目撃してはると思いますわ」

 

『―――』

 

「お早いことで。ほな、報酬は伝えた口座に」

 

『――――?』

 

「あ~、やめときますわ。連続で仕事引き受けると、互いに足が付くかもしれへんさかいなぁ。ほな、失礼」

 

 女は電話を切って、歩き出す。

 

「しばらくはのんびりしよか」

 

 その時、再び携帯が鳴る。

 

「はいはい」

 

『ラミナ、暇? 仕事手伝って欲しいんだけど』

 

「……断定し過ぎやで、マチ姉」

 

『で、来れる?』

 

「まぁ、ちょうど一仕事終わったところやし、かまへんけど。内容と報酬は?」

 

『殺しだよ。ちょっと相手が多いんだけど、ウボォーもノブナガも連絡がつかないからさ。5千万でどう?』

 

「相手は?」

 

『マフィア。十老頭直下のところ』

 

「……1億5千万」

 

『いいよ。じゃ、待ってるから』

 

 全く渋ることもなく承諾して電話を切られる。

 ラミナはため息を吐く。

 

「はぁ、もっと吹っ掛けたったらよかったわ。……十老頭なぁ。顔、隠しとこか」

 

 彼女の名はラミナ・ハサン。

 

 流星街出身の19歳。

 

 【リッパー】の名で知られるフリーの暗殺者である。

 

 


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