暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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今回は少し場面がコロコロと変わります(__)


#104 タンジョウ×ノチ×カイサン

 弟子達の期日当日。

 

 ラミナ、モラウ、ノヴは日課となったキメラアントの巣を観察していた。

 

「変わりなしってか。奴らが籠城を始めて今日で6日目。早けりゃ、そろそろ餌が尽きて新たに調達する必要が出てくる頃合いだが……」

 

「もう少し籠城するでしょう。籠城を止めるならば、また兵隊長以下が率いる隊やあの目玉だけの念獣が出てきて様子見をするでしょうからね」

 

「やな。空を飛べる蟻すらも出て来んし、抜け出す兵隊蟻もおらん。まだ余裕がある証拠やろ」

 

「まぁ、弟子共を待つには、余裕が持ててありがてぇけどな」

 

「来たところで出来ることやない思うけどなぁ」

 

「だろうが、それはそれでいい経験になるだろうぜ。ナックルはお前に喧嘩売ってくるだろうがな」

 

「売ってきたら殺してもええか?」

 

「駄目に決まってんだろうが!! 師匠に弟子を殺していいかなんて聞くんじゃねぇよ!」

 

「ほな、頑張ってお前が止めるこっちゃ」

 

「ぐ……!」

 

 ちなみに昨日、3人で「どっちの弟子が来るか賭けよう」という話になった。

 モラウとラミナが「ナックルとシュート」に賭け、そしてなんとノヴが「5人全員が来る」という大博打に出たのだった。

 

「ラミナよぉ……お前はもう少し自分の弟子を信じてやれよ」

 

「阿呆。信じたところで現実が変わるかい。どう考えたって、ゴンはナックルにもシュートにも勝てん。んで、ゴンが来れんならキルアも来ん。博打関係なく分かり切った話やでな」

 

「ったく……盛り上がりに欠ける奴だぜ」

 

「そもそも盛り上がる要素ないでな」

 

 ラミナが肩を竦めて、単眼鏡をノヴに投げ渡す。

 

 そして、一度念空間に戻ろうとした時、

 

 ゾワァ!!と、突如ラミナの背筋に怖気が走った。

 

「!!」

 

 ラミナは弾かれたように巣の方へと振り返った。

 それにモラウとノヴも動きを止めて、ラミナを見る。

 

「どうした?」

 

「……なんか……めっちゃ嫌な気配が……」

 

「まさか、護衛軍が……!?」

 

「いや……何かが来るっちゅう感じやなくて……単純にめっちゃ嫌な予感がしたんや」

 

 眉間に皺を寄せて巣がある方を睨みつけながら言うラミナの様子に、ノヴとモラウも気のせいと口にすることは出来なかった。

 

「……もうちょい様子見るわ。ネテロにいつでも動けるように言うとって」

 

「ノヴ」

 

「分かりました」

 

 モラウが残り、ノヴは念空間に飛び込む。

 

 ラミナの勘が的中したことが判明するまで、あと数十分。

 

 

 

 ラミナが悪寒を感じる少し前。

 

「ギイィイィイイィイイ!!!」

 

 巣の中に尋常ではない悲鳴が響き渡った。

 

 それにコルト達は目を丸くして、女王の悲鳴であることに気づいて慌てて駆け出す。

 

 そして、先日産まれた最後の軍団長、モントゥトゥユピーを加えた護衛軍一同は、

 

「いよいよ、ですか」

 

「うん、王の誕生だ。でも……」

 

「そうだねぇ。こりゃあ、女王が死ぬかもねぇ。残念だけど」

 

 念獣で女王を見守っていたアモンガキッドの視界に、腹の中で暴れる王と苦しみ叫ぶ女王の姿が見えていた。

 

 しかし護衛軍一同は慌てる様子も一切なく、悠々と立ち上がって王を出迎える準備を始める。

 

「いや~()()()()ねぇ。正直、餌もあと数日分しかなかったからさ。待ち構えてる連中をどうしようか悩んでたんだよねぇ」

 

「だニャ。下手したらキッドかユピーを隊の護衛につけようかって話になってたもんね」

 

「しかし、安心するのはまだ早いでしょう。早産である王の状態を確認しなければ、ここを離れられないかもしれません」

 

「そりゃあメンドクセェなぁ」

 

「どうなのですか? ()()

 

 シャウアプフがアモンガキッドに訊ねる。

 アモンガキッドは頭の後ろで両手を組んで、

 

「……うん。問題なさそうだねぇ。元気な王様だ」

 

 アモンガキッドの視界には、女王の腹を破り裂いて誕生した王が師団長相手に話をしていた。

 

 すると、女王の状態に気づいたペギーが慌てて駆けつけようとしたが、王の尻尾が素早く振られて頭を一瞬で吹き飛ばした。

 

「あらら……」

 

「どうした?」

 

「頑張ってくれてたペギー君が死んじゃった。女王想いのいい子だったのに、残念だねぇ」

 

()()()()()()()、少し急ぎますよ。これ以上、王を待たせるわけにいきません」

 

「だニャ」

 

 やや駆け足気味で女王の間へと向かうアモンガキッド達。

 

 到着すると、更に死体が一つ増えており、コルトが冷や汗を流しながら王の尻尾を拭いていた。

 

「メシはどこだ?」

 

 王が誰に対してでもなくそう呟いた直後、アモンガキッド達は跪いて王に声をかける。

 

「こちらで御座います」

 

 その声に王や師団長達が、護衛軍に顔を向ける。

 

「お食事の用意は出来ております」

 

「これからは私共4人が王の手足となり」

 

「王が望むもの全てを手に入れ」

 

「王の望み全てを叶えまする」

 

「何なりとお申し付けくださいな」

 

 シャウアプフ、ネフェルピトー、モントゥトゥユピー、アモンガキッドが順番に言葉を紡いで忠誠を示す。

 それに王は笑みを浮かべて頷き、ネフェルピトー先導の元、移動を始める。

 

 それを呆然と見送ったコルト達師団長は、女王の呻き声に正気に戻って慌てて駆け寄る。

 

「女王様!!」

 

「とにかく止血だ!!」

 

「オクター!」

 

「うむ!」

 

 コルトはもちろん、普段不真面目なヂートゥも真剣な顔で素早く動き、コルトは近くにいたタコ型の師団長オクターに声をかける。

 ティルガやビホーン、ホワッベも駆け寄り、出来ることを考える。

 

「どうだ!? 容態は!?」

 

「酷いな……。かなり悪い」

 

 オクターは女王を一目見て、顔を顰める。

 

「複数の臓器が通常の治療では修復不可能な程、潰されている。このままでは……」

 

「!! ネフェルピトー殿に声をかけてくる! 出来る限りの治療を!」

 

「うむ! ヂートゥ、ビホーン! 持ってきてほしいものがある!」

 

 コルトが駆け出し、オクターは慎重に女王の臓物を動かして傷を確認しながら指示を出す。

 

 ティルガは自発的に動いて、周囲の兵隊蟻を下がらせる。 

 そして、周囲を素早く確認して、

 

(ハギャ、ザザン、マンディス、ウェルフィン……。叛逆の恐れがあった師団長が来ていない)

 

 ティルガは女王の姿を見て、

 

(……無理だ。たとえ命を繋いだとしても、それでも長くないし、新たな王や兵隊蟻を産むだけの力は残らない。女王は死んだも同然……! 引き金は引かれた!)

 

 ティルガは恐れていた秩序の崩壊が始まったことを悟ったのだった。

 

 

 コルトはネフェルピトー達に追いついた。

 

「ネフェルピトー殿!」

 

「ん?」

 

「おや……」

 

 コルトの呼び声にネフェルピトーとアモンガキッドが足を止め、シャウアプフが案内を引き継いだ。

 

「女王様の御命が危ない……! 御力を貸して頂きたい!! あの男を修復した能力を!」

 

「あらら……」

 

「……彼はねぇ、ボクにとって必要だからやったことなんだ」

 

 アモンガキッドとネフェルピトーの反応に、コルトは嫌な予感が胸の中で大きくなっていく。

 

「王が産まれたらさー、彼女はもうボクらには関係ないんだ」

 

「言ったでしょ? コルト君。王が産まれたら、おいちゃん達と君達は別の軍になるってさ。残念だけど、おいちゃん達はもうそっちに手を貸す義理がないのよ」

 

「……!!」

 

 そして2人は揃って、コルトを地獄に叩き落とす言葉を口にした。

 

 

「「女王(アレ)は、もう要らない」」

 

 

 そう告げて、ネフェルピトーとアモンガキッドはコルトに背を向けて歩き去る。

 

 コルトは怒り、絶望、悲観、焦燥など様々な感情に襲われながら、足取り重く来た道を戻る。

 

「やはり、駄目だったか」

 

「……ティルガ」

 

 ティルガが腕を組んで、壁にもたれ掛かっていた。

 コルトは顔を顰めて、両手を握り締める。

 

「オクターでは止血縫合の応急処置で手一杯だそうだ。潰れた臓器までの修復は無理だろう」

 

「……そうか。……なら!」

 

「外にいる人間達に頼るか? 我らを殺しに来た者達に。我らが殺してきた者達の同胞に。我らの仲間を殺してきた敵に。それが何を示すか、理解しているのか?」

 

「……ああ。女王様が助かるならば、喜んで俺の命を差し出す!!」

 

「……」

 

 ティルガは数秒目を瞑り、懐から折り畳んだ紙を取り出してコルトに投げる。

 コルトはキャッチして、訝しみながらもその紙を広げる。

 

 それは巣を中心に描かれた地図のようで、巣から離れた場所にバツ印が記されていた。

 

「……これは」

 

 戸惑いながら顔を上げたコルト。

 ティルガはコルトに背を向けて、

 

「人間達が潜んでいる場所だ。白旗を持って行けば、話は聞いてくれるやもしれん」

 

 そう言って、ティルガは歩き出す。

 

 何故そんな情報を知っているのか。

 

 尋ねたかったが、まずは女王の命を救うことが最優先だと意識を切り替え、急ぎネテロ達の元へ向かうために駆け出した。

 

 

 

 ラミナは、巣を単眼鏡で観察していた。

 その隣でモラウはいつでも連絡して、かつ逃げられるように備えていた。

 

 その時、ラミナの目に衝撃的な光景が映る。

 

「っ!! 巣の壁が一部吹き飛びよった……!」

 

「なんだと……?」

 

 空いた穴から、尻尾が生えた人型のキメラアントが現れ、尻尾を壁に突き刺したかと思うと、腕を組んだまま体を持ち上げ、直後一気に巣の頂上まで跳び上がった。

 その後から蝶の羽を持つ男型のキメラアント、そして赤黒い肌をした長身のキメラアントが翼を生やして飛び出したかと思うと勢いよく壁に激突し、最後に猫のようなキメラアントと、あの戦った護衛軍のキメラアントが姿を現して、念獣に乗って頂上に上がる。

 

「……空いた穴から5匹の蟻。内1匹はうちと戦うた護衛軍と思われる蟻や」

 

「……おいおい、まさか……」

 

「ネテロに連絡せぇ」

 

 ラミナは全力で顔を顰めて単眼鏡を外し、最悪の結果に苛立ちを抑えきれずに単眼鏡を握り潰した。

 

「王が産まれよった。まずは女王と師団長共を掃討する用意すんで」

 

 戦力は王と護衛軍が圧倒的に上だが、やはり数と繁殖力の脅威を無視するわけにはいかない。

 しかも周囲の餌の少なさから大移動する可能性もある。

 

 一纏まりになっている今が叩き潰すチャンスなのだ。

 

 モラウが頷いて連絡を取ろうとすると、

 

「っ! なんか飛んで来よる!」

 

 巣の方からキメラアントと思われる影が、まっすぐこっちに向かってきていた。

 モラウはすぐさま逃げる準備をするが、ラミナはキメラアントがある物を持っていることに気づいた。

 

「ちょい待ち。……白旗ぁ?」

 

「はぁ?」

 

 ラミナの言葉に、モラウも顔を向ける。

 

 そこには明らかに白旗を握った鳥型のキメラアント、コルトが飛行していた。

 

「頼む! 話を聞いてくれ!! こちらにはもう敵意はない!」

 

「……どうするんや?」

 

「聞くだけ聞こうぜ。王の話も聞けるだろうしよ」

 

「……話せ」

 

「我々は降参する!! ただし、条件がある! 女王を助けてくれ! もう女王に子を産む力はない!!」

 

「……王が産まれたからか?」

 

「……そうだ。すでに王は産まれた。女王の腹を力づくで引き裂いて」

 

「「!!」」

 

「女王はすでに瀕死の重体だ! このまま女王が死ねば、もう師団長達や兵隊蟻達の枷が完全に解けて収拾がつかなくなるぞ!!」

 

「……巣を飛び出す奴が出るんか?」

 

「確実に出る。もうすでに動き出した師団長がいてもおかしくはない! そうなれば世界中に散って、自分の国を造ろうとするはずだ」

 

「兵隊蟻に生殖能力ってあんのか?」

 

「ジンの話では女王が死ねば出来るようになりよるらしいで。種の生存本能って奴やな。別にキメラアントだけに見られることやない。……人間も混じっとるんや。すでに生殖能力を失った女王を、死んだとみなす可能性は十分あり得る」

 

「……お前さん、名前は?」

 

「……コルト」

 

「よし、コルト。今からお前を俺達のボスの所に連れて行く。今と同じ話をボスにしてくれ。ただし、信じるかどうかは分からない。そして、信じてもらっても、お前が生きて帰れる保証はない。それでも行くか?」

 

「無論だ! 一刻も早く頼む!!」

 

 コルトは一切躊躇することなく頷いた。

 それにラミナはため息を吐いて、モラウは頷いて携帯電話を取り出して、ノヴに連絡を取る。

 

 その後、ノヴが現れて、ネテロがいる念空間への入り口を開く。

 

 モラウ、コルト、ラミナ、ノヴの順に念空間に入り、すぐさま話し合いを始めるのであった。

 

 

 

 その頃、巣では。

 

 オクターは女王の傍に控えていたが、それ以外の師団長達はつい先ほど目の前で見せつけられた()()()()()を見下ろしていた。

 

 それはペギー()()()モノと、タンドル()()()モノ。

 

 ビホーンは顔を顰めて、

 

「信じられねぇぜ、全く。部下を……仲間を喰いやがった」

 

「そいつは間違いだな。あれは俺達とは全く別の生き物だ。恐らく自分以外の生き物は全部餌さ」

 

 ホワッベも嫌悪感を顔に浮かべて言い放つ。

 

 そう、王はペギーとタンドルを殺しただけではなく、喰ったのだ。

 

『ふむ……やはりマズい。だが、肉団子よりはマシか』

 

『では、()()()が済み次第、ここを出て餌を探しに行きましょう。我々もお供致します』

 

『うむ。よかろう』

 

 と、軽い腹ごなし気分で2人の死骸を食い散らし、満足したら女王や他の師団長に目も向けずに去っていった。

 

 ビホーンやホワッベ、ヂートゥ達はそれを遠巻きに見ていることしか出来なかった。

 

 ヂートゥは王達が旅立ったことで、いつも通りの雰囲気に戻っており、すでにペギー達の死骸に何の感情も向けずに、腰に両手を置いて口を開く。

 

「ところで、俺達はどうする? このまま女王様が死ねば、ここにいる理由はなくなるぜ?」

 

 その言葉に答える者はおらず、全員がお互いの顔を見合わせる。

 

「くくく!」

 

 笑い声が響き、ビホーン達は顔を向ける。

 

 そこにいたのは今まで姿を見せなかったハギャとザザンだった。

 

「もうすでに意味はねぇんじゃねぇか?」

 

「女王にはもう生殖能力はないんでしょ?」

 

「なっ!?」

 

「それもそーか」

 

「うむぅ……確かに新たな王も産めぬし、かといって重体の女王を動かすことも出来ぬ。何より、もはや餌もまともに調達も出来ぬ。オイラ達が女王に命を捧げる理由はないか……」

 

「!!?」

 

 ハギャとザザンの言葉にビホーンとホワッベが目を丸くするが、ヂートゥやビトルファンが同調して更に目を見開く。

 

 ハギャも大きく頷いて、

 

「もう女王に王国を造るのは不可能! ならば、俺達それぞれが王を目指すべきだろう? 俺達は好きにさせてもらうぜ!」

 

 そう言うハギャやザザンの背後に、フラッタやヒリンなど兵隊長達が姿を見せる。

 ハギャ達の行動に追随すると示すかのように。

 

 ビホーンはそれに声を荒らげる。

 

「お前! 自分が何言ってるか分かってんのか!? そんな勝手が許されると思うか!?」

 

「ふん! 俺達だけじゃねぇぜ、きっと。ここを出たいと思ってんのはよ」

 

「なにぃ……!? っ!? お前ら……!?」

 

 ハギャがそう言い、ビホーンが更に目を吊り上げるが、その隣をヂートゥやビトルファン、ブロヴーダなど半分以上の師団長がハギャ側に歩み寄っていき、ビホーンは唖然と目を見開く。

 

 結果、ハギャ、ザザン、ヂートゥ、グローク、ブロヴーダ、ウェルフィン、マンディス、メレオロン、ビトルファンの9人が『王』を目指すことを表明した。

 この場に残ったのは、ビホーン、ホワッベ、ティルガの3人のみ。

 

 その事実にビホーンとホワッベは顔を強張らせて、

 

「分かったか? どっちが少数派かってことがよ」

 

「それにさぁ。そもそも女王が死にかけの今、誰が私達を許さないってのよ? 王や護衛軍はいないし。そもそも、もう王達は私達に命令する立場じゃないじゃない」

 

 ザザンが小馬鹿にするように薄ら笑いを浮かべて言い放つ。

 それにハギャや他のキメラアント達も頷き、

 

「そういうこった。ここまできたら師団長や兵隊長とかだって、もう意味なんてねぇよ。安心しろよ。別に女王の治療の邪魔もしねぇ。する価値もねぇからな。がはははは!!」

 

 ハギャは笑いながら身を翻して歩き出す。それにフラッタやヒリン達も続き、ザザンやヂートゥ達も後に続く。

 

「じゃあな! せいぜい人間共に殺されねぇように気をつけな!」

 

 と、言い残して。

 

 それを見送ることしか出来なかったビホーンは、苛立ちを隠さずに吐き捨てる。

 

「くそっ!!」

 

「やっぱ……こうなったか。こりゃ、もう俺達の隊の連中も止められないな」

 

 ホワッベはため息を吐く。

 

 その予想通りビホーンやホワッベ達の隊にいた兵隊蟻達も、続々と捨て台詞のようなテレパシーを飛ばしてきて巣を飛び出して行った。

 

 ティルガといつの間にか傍にやって来ていたブラールは巣に残り、他の隊からはコアラ型の兵隊長キメラアント、コランがわざわざ巣に残った。

 

「……そういえば、コルトの奴はどうしたんだ?」

 

「あいつなら巣を飛び出したままだぜ」

 

「こんな時にどこ行ったんだ?」

 

「……人間達のところだ」

 

 柱に腕を組んでもたれ掛かっていたティルガが、ビホーンの疑問に答える。

 

 それにビホーンはもちろん、ホワッベも目を丸くする。

 

「人間の!?」

 

「人間ならば女王の治療が出来る可能性があるだろうからな。それに賭けたようだ」

 

「大丈夫なのか?」

 

「さぁな。そこまで我に分かるわけがない。人間からすれば女王を助けるメリットがないからな」

 

「じゃあ、なんで残ってるんだ?」

 

「巣を出た所で人間達が待ち構えている可能性が高い。ならば、コルトが見事交渉を成立させれば、こちらの方が安全になるかもしれんからな。それに……流石にあの女王をこのまま見捨てるのは心情的に、な」

 

 体を欠損しながらも必死に王を育もうとしてきたのに、その結果が王に腹を引き裂かれて、心配どころか感謝すらされずに見捨てられ、女王を守るべき兵隊蟻達からすれもほとんど見捨てられた。

 たとえ女王に食われた人間の記憶があるとはいえ、今の自分があるのは間違いなく女王のおかげだ。

 

 それを生殖能力を失っただけで見捨てるのは、キメラアントらしいのかもしれないが、ティルガからすれば薄情過ぎると思ってしまったのだ。

 

 そんなティルガの感傷も空しく、その数時間後にコルトが帰ってきた時には、巣に残っているのはオクター、ビホーン、ホワッベ、ティルガ、ブラール、コラン、そして12匹ほどの雑務兵しか残っていなかった。

 

 

 

 ノヴの念空間に入ったコルトは、ネテロと向かい合い、ラミナとモラウに伝えた言葉をもう一度伝えていた。

 

「頼む!! 俺の命でいいならば捧げる! 王や護衛軍の情報も全て話す!! だから、女王を助けてくれ!!」

 

「……」

 

 ネテロはまっすぐコルトを見据えて、話を全て黙って聞いていた。

 

 その様子をモラウとノヴは固唾を飲んで見守り、ラミナは壁際で腕を組んで座っていた。

 

(まぁ、普通に考えたらありえへん取引やわな。女王こそ一番殺したい存在なんやし)

 

 今は生殖能力が無くなっているかもしれないが、助けた後に回復する可能性も否定できない。

 それだけの生命力を持っていることは十分考えられる。

 

「……いくつかよいかな? コルトとやら」

 

 ネテロは一切表情を変えずに、顎髭を撫でながら口を開く。

 

「たとえ我らであっても必ずしも救える保証は出来ん。それは了承してもらいたい。人間サイズのキメラアントは、我らも初めてじゃからの」

 

「……ああ」

 

「そして、女王を治療するには巣の中に人間を送り込まねばならん。その場合、お主以外の蟻達に襲わぬように説得することは可能なのかのぅ?」

 

「……保証は出来ない。だが、その時は……倒してくれて構わない」

 

「……ふむ。では、最後じゃが……」

 

「ああ」

 

「女王を救えなんだとしても、お主らは我らの監視下に置かれることになる。それは、どうかの?」

 

「……俺はそれで構わない。だが、他の兵達に関しては……」

 

「もし、野に出て人間を襲う可能性があると判断した場合、殺すことになる。以上の点が受け入れられるならば、儂らも全力を尽くそう。どうかな?」

 

 ネテロの言葉に、コルトは一度顔を俯かせたが、すぐに決意を固めた顔を上げる。

 

「全て受け入れる。女王の命を救う可能性があるのならば、迷うまでもない」

 

「……相分かった。お主の覚悟、確かに受け取った」

 

 ネテロは力強く頷いて、

 

「ノヴ、モラウ、一度協会に戻るぞ。研究チームと医療班が手配出来次第、巣へと向かってもらう」

 

「「は!」」

 

「ラミナ、お主はどうする?」

 

「……流石に協会に行く気はせん。やから、NGLで巣から出てきた蟻共を始末出来るだけ始末するわ」

 

「うむ」

 

「なぁ、飛び出しそうな師団長の中に、海でも活動できる奴とかおるか?」

 

 ラミナも立ち上がって、コルトに声をかける。

 

 コルトは頷いて、

 

「いる。グロークという鰐の顔を持つ師団長だ。他にも兵隊長以下にそれなりに水中でも動ける者も存在する」

 

「ふぅん……。なら、そっちは【シーフ】達に頼むか。おい、ネテロ。流石にNGLを出た蟻共の対処は他のハンターも出せるやろ?」

 

「うむ。手配させるつもりじゃ」

 

「なら、逃がしてもうた空を飛べる奴や陸型の蟻はそっちに任せればええか……。はぁ、やからさっさと援軍呼べっちゅうたのに」

 

 ラミナはため息を吐いて愚痴を言い、出口へと向かう。

 

 その後、ラミナは目につく限りの兵隊蟻達を仕留めていくが、師団長や兵隊長格の姿は見つけることは出来なかった。

 

 

 ラミナの奮戦空しく、キメラアント達は世界中へと旅立ってしまったのだった。

 

 

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