暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#107 アラタ×ナ×オシエゴ

 山脈に潜んでいたキメラアントは4匹で、全て戦闘兵で兵隊長ですらなかった。

 

 3時間もかからずに仕留め終えたラミナ達は、夜中ではあるが岩場に移動してそのまま修行を始めた。

 

「虎咬拳は両手を鈎爪状にし、両手に【凝】をして威力を高めるんや。基本的に攻撃は掌打で、叩きつけた際に爪で相手の身体を引っ掻き抉る」

 

「ふむ……確かに我、というか蟻の多くに最適な武術だな」

 

「せやな。んで、もう1つ技として……」

 

 ラミナは右手を鈎爪状にしてオーラを集中させて、すぐ横の岩壁に向かって掌打を鋭く叩き込む。

 その瞬間、手首を素早く捻って、ギャリ!と抉って岩壁を円形に抉り取る。

 

「って感じで、更に傷を大きくすることも出来る」

 

「ふむ……」

 

「虎咬拳は掠っただけでもそこそこ肉を抉れるし、弾かれた程度やったら素早く腕を引くか振るかすれば、同じく肉を抉ることが出来る。更には相手の攻撃も掌で受け止めたり、弾くことが出来れば、手首の動きだけですぐさま肉を抉ることが出来る攻防一体の拳法なんや」

 

 カストロは何故か【ダブル】に力を注いでしまったが、虎咬拳のみに注力していれば【伸縮自在の愛】ですら引き千切れた可能性もあっただろうとラミナは考えている。

 故にラミナはあれから時間があった時はネットなどで情報を集め、研究はしていたのだ。

 

 しかも、虎咬拳はゴンの能力の元ネタとなっている【邪拳】をバランスよく組み合わせた拳法でもある。

 

「この鈎爪の構えから、握れば外部破壊の『拳』、二本の指を突き出せば局部破壊の『指』、そのまま叩きつければ内部破壊の『掌』になる。そこに裂傷破壊の『爪』を合わせて生まれたんが【虎咬拳】なんや」

 

 まさしく破壊のみを目的とした武術なのだ。

 

「普通の人間でも、身体を鍛えて【凝】が出来ればそこそこの実力者扱いされるやろうな。それにうちみたいに身体操作できる人間にも使い勝手が良くて、意外と暗殺向きでもある。まぁ、うちの場合はもう心臓潰せるから、わざわざ虎咬拳に固執する理由はないけどな」

 

 だがティルガに関して言えば、キメラアントの身体能力の高さと虎と混ざっているということ、そして虎咬拳という名前と戦い方から、フィーリング的にも相性()抜群で、世界で最も虎咬拳と相性がいい存在だろう。

 恐らく、極めれば世界で一番の虎咬拳の使い手となれる。

 

「本来なら戦闘開始からずっと両手に【凝】をした状態で戦いたいが、それやと体の防御力が下がってまうし、相手に両手がヤバいと教えるようなもんや。まぁ、お前の場合、人間相手やったらそれでもええんやけど、師団長以上と戦うとなれば流石にリスクが高い」

 

「うむ」

 

「やから、お前は【堅】と【流】をとことん極めんとあかん。理想は【流】と同じ速さで【硬】を使えるようになることやけど、流石にそこまでは時間が足りん。やから、岩壁を相手に【流】と虎咬拳の修行、その次に強化系、放出系、変化系の系統別修行、そんで【堅】の修行。これを毎日行ってもらう」

 

「……その言い方はかなり無茶なやり方なのだな?」

 

「超無茶苦茶やな。本来なら系統別修行は1日1系統が原則。しかも、段階的に難易度を上げていく。けど、お前らにそこまでの時間はない。やから、キメラアントの身体能力に期待して、最初からハイレベルでかなり負荷をかける修行をしてもらう。そんで、能力に関係する部分だけを集中的に鍛える。かなり偏ってまうけど、それでもすでにお前らは中堅クラスのプロハンターや念使いと同等以上やから、十分戦い抜けるだけの力は身に付くと思う」

 

「其方がそう考えているならば、我に否はない。早速始めよう」

 

「頑張りや」

 

 ティルガはすぐさま岩壁に歩み寄って、両手を鈎爪状にして壁に向かって振るい、叩きつける瞬間に【流】を行う。

 

「最初はゆっくりでええで。動きの一つ一つを確認しながら、どう動かせばええんかを理解すること」

 

「ああ」

 

 ラミナはティルガに軽くアドバイスをして、次にブラールに顔を向ける。

 

「ブラールはすでに能力が出来とるから、系統別の修行は念獣の具現化と操作の練習で十分やろ。んで、両目を瞑った場合の対処法なんやけど、具現化した梟の視界は全部同時に見れるんか?」

 

 ブラールは小さく首を横に振り、指を4本立てる。

 

「見れる視界は同時に4つまで。それ以上の場合は順次切り替え、やな?」

 

 ブラールは頷く。

 

「ほな、お前は常に最低一羽を傍に置いとけ。戦闘になった場合、両目を瞑っとっても、その置いとる梟の視界を両目の代わりに出来るでな。もちろん、それに頼り切るんもあかんけどな」

 

「……」

 

「けど、それでもお前にゃ反撃手段があまりにもない。その手段を考えながら、【堅】を維持したまま念獣の操作の練習しよか。それに慣れてきたら、山の中で樹にぶつからんように飛び回りながら練習な。後はオーラを纏わせた羽根の状態で操ってみよか」

 

 ブラールは小さく頷く。

 

「ほな、まずは羽根を操る練習から。まずは10枚。余裕がありそうやったら、限界ギリギリまで増やしてみぃ」

 

 ラミナの言葉に頷いたブラールは、早速羽根を散らして操り始める。

 

 ラミナはその間に次の修行の準備をしようと森に向かう。

 

 その間にノヴからメールが来て、ヂートゥの対処はモラウとナックルが動き、ノヴとシュートはゴンとキルアの様子を確認して3日後辺りにカイトを見せる予定で動くとのこと。

 

「……問題はゴンの念が戻るまで王達が大人しくしとるかどうかやけどな」

 

 ゴンは一か月念が使えない状態になっている。

 その間に王達が動けば、ゴンがどれだけ戦いに参加したくても参加出来ない可能性はある。 

 

 流石に【絶】状態の人間を連れて行く余裕は誰にもない。

 

 ぶっちゃけた話、ラミナの【脆く儚い夢物語】であればトリタテンを除念出来る可能性は高い。

 だが、もしゴンがカイトを見て暴走する可能性があるならば、そのままの方がいい。

 

(一応、カイトに会わせる前にうちも様子見とくべきか……?)

 

 ジンの依頼である以上、やはりある程度ゴンの様子を確認しておくべきかもしれないと考えるラミナ。

 

 とりあえず、ジンにゴンとカイトの状況をメールで伝えることにして、素早くメールを打って送信する。

 

 そして、木の実や果物を収穫しながらティルガ達の元に戻る。

 

 ティルガは丁寧に、されど出来る限り速く腕を振って岩壁に掌打を叩き込んでいる。

 ブラールは30枚ほどの羽根と念獣八羽を同時に操りながら、【堅】を維持していた。

 

(ふむ……やっぱティルガは集中力が高いな。まぁ、強化系はやる気になった事に対しては特に集中力を発揮しよる性格の連中が多いから驚くことやないんやけど。ブラールはちょいと飛ばし過ぎやけど、まだ現実的な範囲内で試しとるな)

 

 操作系の人間も強化系同様、本人独自のペースに任せた方が成長しやすい傾向にある。

 

 自分が操作する側故に、他の者から行動やペースを決められるのを嫌うのだ。

 己が認めている人間や団体に従うことに納得していれば、その限りではないが。

 

 そして、その『基準』こそが能力に大きく作用する。

 

 そのため、操作系を主体とした能力は本人の性格や思考を反映する鏡とも言われている。

 

(ブラールに関しては、やっぱ羽根か翼を起点とした能力が良さそうやな。一番ええんは梟に攻撃能力を持たせることやけど……あの透明になれる能力を考えれば、下手に弄ると攻撃用と監視用ではっきりと姿が変わる可能性があるなぁ)

 

 最適なのは羽根を起点とした能力。

 翼は引き千切られたら終わりだからだ。

 

(ただ羽根を撃ち出すのは効果が薄い可能性がある。一番予想しやすい能力やしな。けど、羽根を刺すことで発動する能力は流石に容量オーバー。それに羽根を刺すことで相手に梟の視界が見えるかもしれんし……)

 

 単純な能力にすると、威力を高めるためにオーラを大量に消費する必要がある。

 しかし、消費を抑えて効果的な能力となると、制約が難しくなる。

 

 手頃な消費オーラで、そこそこ効果のある能力。

 

 すでに念獣を具現化する能力があるだけに、中々に難しい。

 

(まぁ、そこら辺はもう少し様子を見るか。ブラールは話せんだけで、思考が止まっとるわけやないみたいやし。あれだけの能力を考える頭もある。自分で手頃な能力を思いつく可能性はある)

 

 ラミナはそう考えて、しばらく2人の修行を見つめていた。

 

 そして、1時間後。

 ブラールがオーラを使い切って、ぐったりと座り込む。

 

 羽根が地面に散らばり、念獣はブラールの周囲に下り立つ。

 

 ラミナは収穫してきた木の実をブラールに投げ渡して、ティルガに声をかける。

 

「よっしゃ。ティルガ、次の修行行こか」

 

「む? 分かった……ふぅ」

 

 ティルガは頷いて、小さく息を整える。

 打ち込んでいた岩壁一面にはボコボコに凹んでおり、もはや元の面影は一切ない。

 

「手は大丈夫か?」

 

「ああ。特に問題ない」

 

「よし。ほな、次はこれや」

 

 ラミナが両手に持っていたのは、拳大の石と木の葉だった。

 

「強化系の修行『石切り』」

 

 そう言って、ラミナは手頃な高さの岩の上に石を置き、右手人差し指と中指で木の葉を挟む。

 そして、木の葉に【硬】を使い、素早く石に向かって真横に振り抜く。

 

 すると、石は刃物で切られたかのように、スパッと2つに割れる。

 

 ティルガとブラールは小さく目を丸くする。

 

「【周】と【硬】で葉っぱを強化して、石を切る。これだけや。一枚の葉っぱで、200個の石を切ればクリアやな」

 

「……そんなに綺麗に切れるのか……」

 

「修行を積めばな。うちの場合は能力の関係で、効果と結果がイメージしやすいっちゅうんもある。やから、お前は縦に振り抜いた方が切りやすいやろうな」

 

「ふむ……」

 

「ま、とりあえずやってみぃ。石はそこに用意しとる。ブラールは休憩ついでに、石を置いてやり」

 

 ラミナはティルガに木の葉を手渡して、用意した大量の石を指差す。

 ティルガは頷いて、早速ブラールが石を岩の上に置き、間合いを確認してから木の葉に【硬】を行い、勢いよく腕を振り下ろす。

 

 石は全く抵抗なく縦に斬り分かれる。

 すぐさまブラールが新しく石を置き、ティルガも素早く腕を振り上げて、また振り下ろす。

 

 それを30回ほど繰り返していると、ティルガは眉間に皺を寄せて、歯を食いしばりながら石を切る。

 

 石は最初と比べると、明らかに切れ味が落ちており、途中からは無理矢理割っている感じになっていた。

 

(ぐ……! こんな小さな葉を強化するだけで、ここまで……!)

 

 ラミナはティルガの表情から何を思っているかが手に取る様に分かって苦笑する。

 

(葉っぱと石やから簡単そうに見えるけど、葉っぱで石を切るっちゅう普通ではありえへん結果を出しとるんやから、そら消耗するオーラも集中力も想像以上に負担するわな)

 

 『石切り』の難易度レベルは4。

 葉や紙など明らかに石より柔らかく脆いものを、石以上の堅さに強化して攻撃する修行だ。

 

 つまり、レベル1の石で石を砕く修行に比べると、格段に【周】【硬】に込めるオーラ量が増えるのだ。

 それを200回維持し続けるには、かなりの体力、精神力、オーラを操る技術力、オーラ量全てが求められる。

 

 石を切る度に、木の葉も確実に強度は落ちていく。

 切れば切るほど必要なオーラ量が増えていくという、上限が見えない地獄の作業なのだ。

 

 ちなみにレベル2は砕く石より小さい石で砕き、レベル3は細めの木の枝で石を砕く修行である。

 

(ぶっちゃけ、【堅】を3時間維持出来る奴でも200個割るんは重労働。流石に今のティルガやと70個割れれば十分すぎる程や) 

 

 そう考えていると、47回目で木の葉が破れてしまった。

 

「ぐ……!?」

 

「そこまで」

 

 ティルガはガクリと膝をついて、肩で息をする。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……己の未熟さを叩きつけられるな」

 

「阿呆。初めてであそこまで出来たら大したもんや。そこらへんの念使いやったら、10回出来るかどうかやぞ」

 

 実際強化系を極めたいとする者や、ビスケのような基本的に戦闘では体術に依存する能力者でもない限り、『石切り』まで行わない。

 やってレベル2まで。

 

 強化系能力者でも、能力次第ではレベル2で止まる。

 

 ラミナは能力の関係上、『石切り』の修行をしたことがある。

 ラミナは具現化系であることもあり、更には今よりも格段に未熟だったため、初回は29回と散々だった。

 

 なので、ティルガの47回は十分すぎる結果なのである。

 

「30分くらい休憩しよか。あ、【絶】で休みや」

 

「ああ」

 

 ティルガにも木の実を投げ渡し、ティルガは岩にもたれて体を休める。

 ブラールもティルガの隣に座る。

 

 ラミナも岩に腰掛ける。

 

「……巣に来た他の者達も、これくらいは出来るのか?」

 

「ん~……まぁ、お前よりは出来ると思うで。流石にオーラを操る技術では、お前は敵わんからな」

 

「……やはり其方達に降って正解だったな。今の我らが暴れても、すぐに殺されていただろう」

 

「ま、それだけの実力者が出てくればの話やけどな。人間も一枚岩やないし。カイトはともかく、お前ら師団長以下に倒されたハンターもおるから、ぶつける相手を間違えると喰われるだけやな」

 

「だが、揃えようとすれば揃うのだろう?」

 

「そらな。総数が段違いなんや。少なくとも師団長以下を殺す数は揃うと思うで」

 

「……師団長以下は、か」

 

「王と護衛軍はかなり数が絞られるやろな。もっとも、こっちも被害を度外視して戦力投入すれば話は別やけど。まぁ、その判断は人間共にゃ無理やろうけどな」

 

「何故だ?」

 

「責任取りたぁないんよ。人間の国や組織のほとんどは実力だけで王になれるわけやない。多くはコネクション、つまり他の人間達から担がれることで成り上がる。その結果、そこから蹴り落とされることを恐れ、出来る限り周囲から攻撃される要因を造りたぁないんや」

 

「……そんな者達が、人の上に立っているのか……」

 

「やから、うちみたいな殺し屋でも仕事があるんや。実力があっても、才能があっても、人脈があっても、いずれ必ず衰えるでな。永遠やない事を知っとるからこそ、手放したがらん。他国で起きとることには基本的に他人事で、責任は現場に押し付けよるから、今回もハンター協会の責任にするやろうな」

 

「……」

 

「はっきり言うとくぞ。たとえ、あの王がどこかの国を攻め落として、人間にも善政を敷いたとしても、うちらはあの王を殺すことになる」

 

「……人間と……共存の道を選んでも、か?」

 

「無理や。連中が人間を喰わず、他国に手を伸ばさんっちゅう契約をしても、キメラアントが人間を食らって進化した事実がすでに出来てしもた以上、人間は絶対に存在を認めん。『自分達に取って代わるかもしれないバケモノ』が仲間入りすることをな」

 

 支配層の人間からすれば、人間とも繁殖でき、人間を食し、人間よりも強い存在など嫉妬の対象でしかない。

 自分が支配している世界を脅かす存在を、支配する快感を知った欲深い者が認めるわけがない。

 

 そして、支配される側は喰われるかもしれない恐怖に襲われる。

 支配する側の『喰わない』と言う言葉などをすぐに信じる者はそういないだろう。

 

「人間っちゅうんはおかしなもんでな。普通に殺されるよりも、喰われることの方が怖く感じるらしいんよ。まぁ、人間を喰う奴なんざ普通ちゃうから当然かもしれんがな」

 

「……我らとて、王が師団長を喰らったことは衝撃的だった。前世の記憶もある故に、その気持ちはわかる」

 

 だからこそ、ティルガは己がキメラアントとしては生きれないと思ったのだ。

 

「お前らやコルトは王になるつもりもないことは分かっとるでな。やから、下手なことをせんかったら、殺されるこたぁないやろ。最悪、匿える場所はあるでな」

 

 流星街ならばティルガとブラールくらいであれば受け入れてくれるだろうとラミナは推測する。

 もちろん、ティルガとブラールが流星街に溶け込めればの話だが。

 

「さて、再開しよか」

 

「ああ」

 

 ラミナは若干重苦しくなった空気を切り替えるように言い、ティルガも頷いて立ち上がろうとする。

 それをラミナは制止する。

 

「そのままでええで。座ったままでも出来る修行やからな」

 

「そうなのか?」

 

「おう。次は変化系の修行『形状変化』や」

 

 ラミナは人差し指を立て、指先にオーラで数字を形作る。

 そして、素早く0~9まで形を変える。

 

「こんな感じでオーラで数字を作る。目標は一周5秒。まずは1分を目標にしぃ」

 

「分かった」

 

「ブラールはもうちょい休憩。オーラをかなり消耗しとるしな。ただし、念獣は最大数を維持する事」

 

 2人は頷いて、早速各々の修行を始める。

 

 ティルガが指先に集中して、オーラを変えていくが、5に辿り着くころにはすでに1分過ぎていた。

 

(変化系は慣れしかないからな。レベル1から始めるしかない。っちゅうか、変化系能力にでもせん限り、これ以上のレベルはあんま意味ないんやけどな)

 

 操作系、変化系、具現化系の修行は限度を見極めないと、良くも悪くも開発した能力に大きく影響する場合が多い。

 

 しかし、変化系の修行はオーラを操る技術を高めるには最適なので、しないわけにもいかない。

 

(バランスは悪ぅなるけど……少しでも早く能力の完成と修練に力を注ぎたいでなぁ。ティルガにはかなり無理させてまうけど、諦めてもらおか)

 

 そして、更に数時間後。

 すっかり日が昇ってしまったが、ラミナは次の修行をティルガに課す。

 

「次は放出系の修行『打ち上げ』」

 

 ラミナは右手を空へと向けると、そこから念弾が放たれて10mほど打ち上がって弾ける。

 

「これだけや。けど、念弾にオーラを固めること、体から離れたオーラを維持すること、そんでそれを勢いよく撃ち出すのは大変やで。今と同じくらいの大きさの念弾を、速く放てるようになればクリアや」

 

「ふむ……」

 

「いきなりやるんに自信がないなら、まずは掌の上にオーラの玉を出して維持する練習からでもええで。最低1分、維持出来たら十分や」

 

 ラミナはそう言って、手本のように右手の上に拳大のオーラの玉を浮かべる。

 

 それに頷いたティルガは右手の平を上に向け、そこにオーラの玉を浮かべて、それを維持することに集中する。

 

「ブラールはまた【堅】の練習。まずは少しでもオーラ総量を増やす」

 

 ブラールは小さく頷いて、【堅】を始める。

 正直、ラミナは無茶苦茶なことを言ったつもりだったのだが、ブラールは思ってた以上にケロッとして【堅】をしていた。

 

(思とったよりオーラの回復が早い。生命力の差か? これやったらオーラを限界まで使わせても、丸一日寝込むことはないかもしれん……)

 

 素の状態でも、首を切り離した程度なら丸一日は生きていられる生命力を持つキメラアント。

 

 心身の疲労程度ならば、人間の数倍の回復力はあるとラミナは推測した。

 

(それは護衛軍や王も同じ……いや、これ以上と考えるべきやな。それやったらカイトと戦うた後でも【円】を使える状態まで、すぐに回復したんは納得出来る)

 

 それは同時に下手な殺し方をすれば、制約と誓約を使い、死後に強まる念を生み出す余裕があるということに他ならない。

 

(ホンマ、厄介やな……。そもそも傷つけるんも厄介やっちゅうのに)

 

 ラミナは小さくため息を吐き、ティルガ達の修行に意識を戻す。

 

 ティルガはオーラを打ち上げ始めていたが、全く勢いはなく、風船のようにふわふわと浮いて、1mほどでパン!と割れる。

 

「むぅ……」

 

「オーラは掌だけや無くて、全身から打ち出すイメージや。水鉄砲や空気砲、もしくは物を投げる時のイメージ。全身から腕、そんで掌から打ち出す」

 

「全身から……」

 

「もしくは体の中心に玉をイメージして、その玉を体の中心から腕を通して押し出す感じやな。まぁ、こればっかりはイメージや感覚が人それぞれやでな。自分で掴むしかないで」

 

 ティルガは頷いて、まずはひたすら念弾を放つことに集中する。

 

 2時間後、再びブラールがダウンしたところで、再び休憩となった。

 ティルガは休みながらも、右掌を見つめて眉間に皺を寄せていた。

 

「……難しいな……」

 

「こればっかりはな。(っちゅうても、この2時間でそこそこ真っすぐに3mは飛ぶようになっただけ早いんやけどな)」

 

 ティルガはゴン並みに素直で集中力がある。

 

 しかも、集中しながらも思考力が衰えるどころか加速し、常に頭の中で思考錯誤している。

 つまり、ラミナやキルアのような分析的思考も兼ね備えているのだ。

 

(ティルガの場合、蟻の本能と前世の人間の人格が上手く合わさったっちゅうところか……。ある意味、ゴンとキルアのいいとこ取りしたようなやっちゃな。まぁ、蟻の身体能力がなければ平凡やったかもしれんけど)

 

 あくまで、この異常な成長率はキメラアントの生態が大きく作用しているからだ。

 

 恐らく、数日もせぬ内に頭打ちになるだろう。

 それでも十分強いのだが。

 

(けど、この感じなら細かく教えんでも一気に叩き込めるだけ叩き込んで、後は実践と鍛錬の方がええかもしれんな。能力のイメージも伝えた方が、より修行のイメージも出来るかもしれん)

 

 そう考えたラミナは予定を変更することにした。

 

「ティルガ。先にお前に会得させたい能力について言うわ。そんで、イメージがどれだけできるか素直に言うてんか?」

 

「分かった」

 

 ラミナは地面に絵を描いたり、簡単な動作を見せながら能力の概要を説明する。

 

 全てを聞き終えたティルガは目を瞑って腕を組み、頭の中でイメージを組み立てていく。

 

「……」

 

「どうや?」

 

「……イメージは問題ない、と思う。だが、それだけに今の我では完成させられないとも思っている」

 

「それが分かれば十分や。むしろ、足らん部分が分かることが重要やでな。制約と誓約を組み合わせれば、その足らん部分を補える可能性はあるし。あくまで、うちの能力は提案や。お前が一番ええと思う形に仕上げればええ」

 

 伝えたのはあくまで素案。

 

 最終的にはティルガが自分で自分に合う様に創る必要があるのだから。

 

「いや、其方の話してくれた能力に全く不満はない。むしろ、魅力的で実現したいと強く思っている。だからこそ、妥協はしたくないのだ」

 

 間違いなく、完成すれば自分にとって最適な能力だ。

 

 そのため、是非とも完成させて戦いに挑みたいと、ティルガは思っている。

 

「なら、修行するのみやな」

 

「うむ」

 

「基本的に念に関しては、今までやらせたことと【堅】の練習。もう少し、それを続けてから組み手も取り入れていくで」

 

「ああ。よろしく頼む」

 

 

 ティルガは至るべき場所を目指して、更に修行にのめり込むのだった。

 

 




ちなみに『打ち上げ』はレベル2の修行です。
そして、軽々とお手本をしたように見えたラミナですが、実はあれが全力だったりしますw

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