暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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少し遅れました。

新年度ですね。
コロナの影響がハンパねぇ(-_-;)

新入職員が来るはずだったのに、感染予防でオリエンテーションが中止となって、何故か新入職員は今月は自宅待機。
けど、退職者は変わらず人が減り、休校で子供の面倒を見なければならない方々も休むので、ただただ現場の人手が減っただけ(-_-;)

利用者様がいるので休業も出来ず、我々は非常事態宣言が出ようと出社ですよ。そして、人手が足らないから、過酷の業務状態ですよ。
収入が減らないから、国の補償とか無縁の話になりましたし。

まぁ、収入があるだけマシなのでしょうけども。
正直、私以上にコロナの脅威に晒されている過酷な医療現場の方々にも何かしらの補償出してやれよ日本政府と思ってしまいますね。

と、言う状況ですので。
ちょっと更新遅れるかもしれません(__)

皆様もコロナはもちろんですが、過労などにもお気を付けください!


#108 サイカイ×ノチ×サイカイ

 ティルガ達が修行している頃。

 

 ドーリ市にいるゴンは……。

 

 ノヴの弟子であるパームとデートをしていた。

 

 パームはナックル達同様ノヴ達に置いて行かれ、出された条件は『ゴン達が勝利したらNGLに来てもいい』というものだった。

 そのため、パームは能力でビスケを探し出して呼び出し、食事を作るなどのサポートを行っていた。

 

 パームは少々情緒不安定な一面があり、ゴンはもし自分達がナックル達に勝てなければ、どんな償いでもすると約束していたのだ。

 そして、ナックル達の見送りから戻ってきたゴンに、パームが出した条件は『付き合って』という予想外なものだった。

 

 それをゴンは戸惑うことなく了承し、ゴンとパームはデートをすることになった。

 

 しかし、ゴンは現在ナックルの能力【天上不知唯我独損】の影響で念能力が一切使えない。

 ナックルからカイトの保護終了とキメラアント達が巣から飛び出して世界に散ったことを聞かされたキルアは、ゴンを守るために陰から2人のデートを見守っていた。

 

(……何してんだろ……俺)

 

 キルアは護衛のためとはいえ、2人の和やかなデートをストーカーのように後をつけていることに疑問を抱き始めていた。

 

 普段のパームはボサボサの髪に化粧もしていない顔だったのだが、今回は髪も手入れや化粧もして、別人としか思えないほどの美人になっていた。

 そのせいか、ゴンとデートしている姿が思ったよりサマになっており、意外とお似合いに見えてきていたのだ。

 

(いやいや、挫けるな。俺はゴンを守らないといけないんだ……!)

 

 ヂートゥを筆頭にキメラアント達が暴れたニュースはキルアも確認していた。

 

(陸生の動物と混ざった兵隊蟻の多くは、間違いなくミテネ連邦内にいるはず。パタ市の奴はともかく、他のキメラアントが現れてもおかしくはない)

 

 キルアは気持ちを切り替えて、ゴンの護衛に専念することにした。

 

 

 そして、数時間後。

 もうすぐ夕暮れになろうとしている時。

 

 ゴンとパームは移動を始めて、街外れの森に向かう。

 キルアも後をつけて、見つからないように最大限警戒して進もうとすると、

 

「なんや? ゴンの奴、落ち込み過ぎて女に走りよったんか?」

 

「っ!?!?!?」

 

 背後からいきなり声をかけられ、キルアはビクゥ!と体を跳ね上げて、口を反射的に両手で押さえて飛び出そうになった声を全力で呑みこむ。

 

 振り返るとそこにいたのは、呆れた顔でゴン達の背中を見ていたラミナだった。

 

「な、なんでお前がここに……!?」

 

「一応、今後もお前らが蟻討伐に参加するやろと思てな。お前ら……特にゴンの様子を一度見とこ思たんや」

 

「……場合によっては強制的に隔離するため?」

 

「まぁな。現状、復讐だけで動くガキなんざ足手纏いになる可能性が高い」

 

「……」

 

「ま……あの様子やと、別の意味であかんかもしれんけどな」

 

「あ、あれはゴンが誘ったわけじゃねぇよ。パームが無茶苦茶なこと言ったんだ……!」

 

「パーム……? それってノヴの弟子やろ? なんで、そいつがゴンとデートすることになっとるんや?」

 

 ラミナは眉間に皺を寄せて訝しむ。

 

 キルアは顔を顰めながら事情を説明し、話を聞き終えたラミナは呆れるしかなかった。

 

 まさかこの状況でデートを要求するなど、お気楽にも程があるだろう。

 

「ナックルといい、シュートといい……。あいつらの弟子って、もうちょっとマシな奴おらんのか……?」

 

「とりあえず、後追うぜ。ゴンは今念を使えないんだ。兵隊蟻に襲われたらマズイ」

 

 キルアはそう言ってゴン達の後を追い、ラミナもその後に続く。

 

「で、実際のところカイトはどうなんだ? 操られてるって話だったけどさ」

 

「ん~……ま、そのまんまやな。護衛軍の能力で操られとる」

 

「元には戻せないのか? クラピカの鎖を解除した能力とかさ」

 

「操作系能力は下手な解き方すると、操られたモンに障害が残りかねん。やから、一番安全なんは背負うタイプの除念師か、術者本人に解除させるかや」

 

「そっか……。じゃあ、やっぱゴンは意地でも参加すると思うぜ」

 

「やろな。見極めはやっぱ今のカイトを見た時の反応次第か……。はぁ……気ぃ付けろや。ああいうタイプは、大抵復讐に囚われるとええ方向に動くこた少ないで」

 

「……だとしても、俺はゴンと一緒に戦って、ゴンを全力で支える。そう決めたんだ」

 

「……ふぅん……」

 

 覚悟を語るキルアに、ラミナは何やら納得した、感心したような表情を浮かべて顔を向ける。

 

 それにキルアはどこかむず痒さを感じて、

 

「な、なんだよ?」

 

「……シュートに勝ったっちゅう話からなんとなく思とったけど……どうやらイルミの呪縛は振り切ったみたいやな」

 

 グリードアイランドとは雰囲気がまるで違う。

 ブレブレだった芯が完全に固定され、今までバラバラだった欠片がピッタリと組み合わさった感じだ。

 

 シルバやゼノを思わせる雰囲気を纏っており、オーラも静かでありながら力強さで漲っている。

 

「なんだよ? イルミの呪縛って」

 

「……あぁ、言うてなかったか? ハンター試験の頃までな、お前のここにイルミの針が埋め込まれとってん」

 

「……はぁ!?」

 

 ラミナが額の少し上辺りを指差し、それにキルアは目を丸くして驚きの声を上げ、慌てて口を塞ぐ。

 

 ゴンとパームはお互いのことに集中していて、キルアの声が届くことはなかった。

 キルアはそれにホッとして、すぐにラミナに小声で詰め寄る。

 

「どういうことだよ……!」

 

「やから、イルミの念が籠められとった針がお前の頭に刺さっとってん。まだ念を知らんお前を死なせんようにしたかったんやろうな。念能力者や敵わないと思わせる相手と相対した時、すぐさま逃げるように思考や動きを誘導しとったんや。心当たりあるやろ?」

 

「っ……!!」

 

 それはまさしく、キルアがここ最近まで必死に振り払おうとしていた習性と思考だった。

 それがただ鍛えられたからだけでなく、実際に操られていたからだったのは、やはり屈辱だった。

 

「親父達は……」

 

「もちろん知っとったで」

 

「……けど、なんでそれをお前が知ってんだよ?」

 

「その針を引っこ抜いたんがうちやからや。ほれ、お前らがネテロと遊んどった飛行船の時や。お前の頭を撫でた時にな」

 

 その言葉に、キルアはラミナに頭を撫でられた後、妙に頭がすっきりしたことを思い出した。

 考えてみれば、それからはあまり人を殺したくなるような衝動は起こっていなかった。

 

 そして、そこからキルアはようやくラミナがなぜククルーマウンテンに来たのか、イルミと戦ったことがあるのかを理解した。

 

「お前は俺の針を抜いたから……!」

 

「そうやな。イルミに喧嘩売られて、休戦する条件にシルバとの面会。んで、シルバが出した手打ちの条件がお前との婚約や」

 

 キルアは全て原因が自分であったことに頭を抱える。

 

 もちろん、ラミナのポカミスが大きな要因ではあるが、それでも全てのきっかけはキルアであることは否定しようがない。

 

(ってことは、ヨークシンでの親父達とクモのゴタゴタも俺が原因じゃねぇか……!? そりゃ、あの糸女が俺にキレるはずだ……!)

 

 本当によく殺されなかったなと、今更ながらに思った。

 

 いくらゾルディック家と敵対するのはリスクが大きいからとはいえ、よくラミナはこれまで我慢してくれたなと心の底から感心する。

 特にグリードアイランドの時など、もっと冷たく対応されてもおかしくなかったし、カルトもよく幻影旅団に受け入れられたなと思う。

 

(俺、めちゃくちゃ図々しい奴じゃねぇか……!!)

 

 キルアはもはやゴンどころではないほどに自己嫌悪に襲われていた。

 

 ラミナはその姿に若干の同情と、ようやくこれまでの苦労を理解してくれたことに少なからずスカッとした気持ちになる。

 

「まぁ、今更一年前のことでどうこう言う気ないわ」

 

「ぐっ……」

 

 それはそれで自尊心を傷つけられる。

 

 ラミナは苦笑しながらキルアの頭に手を伸ばそうとして、何故か途中で手を止めて、肩に手を置いて軽く叩く。

 

 その時、ラミナは顔を鋭くして、ある方向に目を向ける。

 そして、キルアもラミナと同じ方向を睨んでいた。

 

 ラミナはキルアが気付いたことに僅かに感心する。

 

「ほぉ……気ぃ付いたんか」

 

「ああ……。これ……兵隊蟻の気配だろ?」

 

「やろな。……向こうもこっちの気配を、なんとなく程度やけど感じとるみたいやな」

 

「ちっ……ゴンの近くで戦うわけにもいかないし。けど、ゴンから離れるのも……」

 

「ゴンの方なら安心しぃ。他の覗き屋がおるから、そっちにも見張らしとる」

 

「他のって、クモ?」

 

「んや。蟻」

 

「はぁ!?」

 

 驚くキルアを無視して、ラミナは気配の方へ歩き出す。

 キルアは唖然とするが、すぐにハッとして慌ててラミナを追いかける。

 

「な、なんで蟻が一緒にいるんだよ……!?」

 

「二十匹くらいの蟻がな、巣から出ずにこっちに投降したんや。その内数匹はモラウの保護下に、ほとんどは巣に残って、最後の2匹がうちと行動しとる」

 

「大丈夫なのか?」

 

「少なからず信頼は出来るで。んで、その内の1匹の能力が隠密密偵系の能力でな。それをゴンにも付けさせとる」

 

「……やっぱり兵隊蟻も能力開発してたのか……」

 

「いや、そいつは特殊な例やな。ほとんどの蟻は能力を開発する余裕がなかったみたいやで。護衛軍の連中に目をつけられんようにな」

 

「どういうことだよ?」

 

「護衛軍と師団長以下の蟻は、王が産まれたら指揮系統が変わるんや。護衛軍は王に忠誠を誓い、師団長以下は引き続き女王に従う。師団長のほとんどは強欲で下剋上を企んどったらしくてな。それを護衛軍の1匹に脅されて、王が産まれるまで抑え込まれとったらしいで」

 

「……つまり、兵隊蟻同士で睨み合っていたってわけか……」

 

「そういうこっちゃ。やから、ほとんどの師団長は気が知れた相手以外には能力を見せるどころか、創ったことすらも口にしたことはないらしいで。今うちとおる蟻も能力を隠しとったみたいやしな」

 

「なるほどな……」

 

「でも、やっぱ基礎の四大行の方は未熟でな。今、うちと一緒におる2匹に関しては、うちが鍛えとる。お前も来るか?」

 

「え?」

 

 まさかのお誘いにキルアは目を丸くする。

 

 そもそもラミナがキルア達に念を教えてくれた理由はシルバの依頼だからであって、別に親切心でも何でもない。

 もちろん、丁寧に教えてくれたことは親切心ではあるが、それは指導する依頼である以上下手に手を抜いて、キルアが死ねばシルバ達に殺されるかもしれないというのが大きい。

 

 事実、ラミナはヨークシン以来、キルア達に指導することを明確に拒絶していた。

 

 なので、ラミナがまさか特訓に誘ってくるとは思ってもいなかったのだ。

 

「いいのかよ?」

 

「今のお前やったら、討伐隊に加えても文句ないで。殺す覚悟も出来とるみたいやし、暗殺術も受け入れとるようやしな」

 

「……」

 

「ただ、ゴンは別やで。理由は言わんでも分かっとるな?」

 

「……ああ」

 

 今のゴンの精神面は落ち着いているようで、非常に崖っぷちなのだ。

 カイトが無事だと思い込むことで、普段の己を保てているに過ぎない。

 

「はっきり言うとくけどな。今のカイトは操られとることを無視しても、まともな状態やない」

 

「っ……! 正直……どれくらいなんだ? カイトが助かる可能性は……?」

 

「……」

 

 キルアの質問に、ラミナはただ小さく首を横に振る。

 

 それにキルアは歯を食いしばって、両手を握り締める。

 

「っ……!」

 

「人を強制的に操る能力は『洗礼』となんら変わらん。しかも、操作系の場合は条件を満たし続ければ、ずっと操り続けることが出来るんや。そんな害意しかないオーラを数時間浴びるだけで、一般人なら廃人になるやろな」

 

「……」 

 

「普通でそれや。あの護衛軍のオーラの禍々しさから考えると、いくら強靭な精神力の持ち主やっても数週間も浴び続ければ心も体もボロボロになってまう。イルミの針を考えれば、納得出来るやろ?」

 

「……ああ」

 

「操作系能力は基本的に条件を満たした時点で死んだも同然。除念出来たとしても、操られる前に戻るわけやない。やから、カイトが助かる可能性は、限りなくゼロに近い」

 

「……」

 

「正直、うちはゴンがクラピカ以上に復讐に囚われる可能性が高いと思うとる。けど、ゴンじゃ護衛軍にゃ勝てん。変な制約でも作ったら別やけど、そんなもんに縋るなら、他の手練れ呼んだ方がマシやでな」

 

 ラミナの言葉に、キルアは複雑そうに顔を顰める。

 ゴンの想いも、ラミナの考えも理解できてしまうからだ。

 

 今回の討伐任務はネテロまで出張っていることから、絶対に失敗が許されず、場合によっては命を犠牲にしても成し遂げる必要があると考えられる。

 

 そこに私怨で動く者が参加するなど、普通は認められるものではない。

 私怨で動く者ほど、行動が読めない存在はいない。

 

 ただでさえ王や護衛軍の行動は読み切れないのに、仲間にまで気を配るのは弊害以外の何物でもない。

 

 暗殺者であるラミナからすれば、それは何よりの不安要素なのだ。

 

「まぁ、尻拭いはお前がすることになるやろうから、それならそれで動くだけやけどな」

 

「……まぁ……俺はゴンを全力でフォローするだけさ。カイトに関しては、俺だって負い目があるしな」

 

「そこらへんは好きにすればええやろ。うちは前払いされた依頼料分働くだけやでな」

 

「それにしちゃ王と護衛軍の討伐まで参加するのか?」

 

「連中の特性を考えると、流星街にも手が伸びそうやからな。NGLで殺し切れんかったんを、クモの連中や流星街の長老共に突っつかれると、どうせ参戦させられることになるやろうし」

 

「クモって流星街とまだ繋がってんの? マフィアンコミュニティーに喧嘩売って、流星街にも損害出したんだろ?」

 

「長老連中はマフィアンコミュニティーよりクモの方を重要視しとる。同郷やし、別に流星街の人間に手ぇ出したわけでもないでな」

 

 念の存在を知っている流星街の長老達からすれば、どう考えても幻影旅団の方がマフィアンコミュニティーより頼りがいがある存在だ。

 

 マフィアンコミュニティーはあくまで商売相手に過ぎないのだ。

 

 その言葉に納得するように頷くキルア。

 

 その時、兵隊蟻が動き出した。

 それに合わせてラミナとキルアも駆け出して、相手を誘導する。

 

「どうする?」

 

「もう少し離れたら、待ち構えればええやろ」

 

「どっちが殺る?」

 

「それも考えとるから安心しぃ」

 

 軽やかに、されど静かに、かつ高速で森を駆ける2人。

 

 その背後から荒々しく、まるで恐怖を煽るかのようにわざと音を立てて、兵隊蟻が追いかけてきていた。

 

 それにラミナは呆れの表情を浮かべる。

 

「うちらが逃げとると思とるんか。相手の実力も見抜けん雑魚みたいやな」

 

「1匹だけか……」

 

「こっちは風上やし、ゴン達はもう大丈夫やろ。……そろそろええか」

 

 ラミナとキルアは足を止めて、後ろを振り返る。

 

 その数秒後に現れたのは、耳が長く、両腕に羽毛が生えているキメラアントのラモットだった。

 

「おお~……人間の臭いがすると思って追ってきてみりゃ。憶えてるぜ。お前、あの時のガキだろ」

 

 ラモットはキルアを見て、凶悪な笑みを浮かべる。

 ラミナはポケットに両手を突っ込んで、キルアに目を向ける。

 

「戦うたことあるんか?」

 

「俺達が一番最初に会った蟻だ。その時はまだ俺も能力が完成してなかったし、ゴンも殺す気で戦ってないから、仕留め切れずに逃げられたんだ」

 

「ふぅん……」

 

「そっちの女は知らねぇが……不運だと観念するんだな!」

 

 ラモットは2人の余裕に気づかずに、何やら悦にひたっていた。

 

「これからお前が味わうのは地獄の苦痛!!」

 

「で、どうすんだよ?」

 

「すぐに分かる」

 

「無視すんじゃねぇ!! 人間風情がぁ!!」

 

 ラモットの怒号に、ラミナとキルアは全く表情を変えない。

 それにラモットは更に怒りのボルテージが上がる。

 

 ラミナはポケットに両手を突っ込んだまま、ラモットの背後に目を向ける。

 

「お前の覚悟。見せてみぃ、ティルガ」

 

「ああ」

 

「「!!」」

 

 ラモットが背後を振り返ると、茂みからティルガが現れる。

 

 ティルガはずっとラモットの風下に位置しながら、【絶】で追いかけていたのだ。

 もちろん、ブラールの能力で離れた場所から監視しながらであるが。

 

 キルアも現れたティルガに目を丸くし、更に感じた気配の強さにも驚愕する。

 

 キルアもティルガの存在には気付いていなかったのだ。

 少し大型の獣がいるような気配は感じていたが、ラモットのように兵隊蟻だとはっきり感じ取れなかった。

 

「お、お前は……ティルガ……!?」

 

「……あいつがもう一匹の方?」

 

「ああ。元師団長のティルガや」

 

「な、なんでアンタがこんなところに……!?」

 

「ティルガ。疲れとるやろうが、ちょうどええ獲物や。修行の成果、実践してみぃ」

 

「分かった」

 

 ティルガは頷いて、ラモットを鋭く見据える。

 

 ティルガは【堅】の修行で一度オーラを使い果たしてから、【絶】でオーラの回復に努めながらラミナについてきて潜んでいたのだ。

 

 ラミナとティルガの会話に、ラモットはようやくティルガがここに現れた理由を理解した。

 

「てめぇ……! 人間風情の下につきやがったのか? 師団長が落ちぶれたもんだぜ!」

 

「……そうか。お前にはあの者達がただの人間にしか見えないのだな……」

 

「あぁ? 何言ってやがる」

 

「いや、なんでもない」

 

 ティルガはもはや何を言っても、ラモットではラミナ達の人外さを感じることは出来ないだろうと判断した。

 

 ティルガは腰を僅かに落として、鈎爪状にした両手を構える。

 そして【練】を発動し、両手にオーラを集める。

 

 その構えにキルアは目を丸くした。

 

「あれは……!」

 

「見覚えあるやろ?」

 

「虎咬拳……。ラミナが教えたのか?」

 

「ああ。あいつは強化系やったでな。虎の蟻っちゅうんもあって、相性抜群やと思てな」

 

「……確かに……」

 

「っちゅうても、教え始めてまだ1日やから、まだまだ見かけだけやし、能力も完成しとらんけどな。まぁ、今回は本気でうちらに同行出来るんかの確認みたいなもんや」

 

「それにしちゃあ、かなりの圧を感じるけど……」

 

「師団長やしな。元々の身体能力が高いんやろ」

 

 ラモットも流石にティルガの構えがはったりではないこと直感で理解した。

 

 元々師団長であるティルガは、兵隊長であるラモットより実力は上だ。

 念を会得してからはやや自信過剰になっていて、師団長相手でもそう簡単に負けないと思っていたのだが、その自信を見事に圧し折られた。

 

(あの爪に触れたら殺られる……!)

 

 ラモットは冷や汗が流れ出して、無意識に半歩右足が下がる。

 

 背後にはラミナとキルア。

 

(後ろの人間共を一気に狙えば……!)

 

 ラモットの視線が背後に向き、それにティルガはラモットが何を考えているのかに気づいた。

 

「言っておくが、後ろの女はあのアモンガキッドと戦って生き残った者だぞ?」

 

「!?!?」

 

 ラモットは目を限界まで見開き、後ろに下がろうとしていた足が止まる。

 

 あのバケモノの護衛軍と戦って、生き残った人間。

 

 そんな者と絶対に戦いたくない。

 

 ラモットはようやく己に逃げ道がないことを理解した。

 

「ぐ……!」

 

「同じキメラアントのよしみだ。我がここで殺してやる。人間に殺されるより、まだマシだろう?」

 

「っ……!!」

 

「覚悟しろ。我はお前を食い千切る」

 

 

 虎の爪牙が、血に染まる。

 

 


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