暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
うん……ちょっとしんどいっす(-_-;)
頑張ります。
ラモットは必死にこの窮地を乗り切る方法を考えていた。
(冗談じゃねぇ、冗談じゃねぇ!! やっとクソッタレなコルトから解放されたってのによぉ!!)
まだ巣を飛び出して1日しか経っていない。
まだ数人しか人間を食べていない。
まだ自分の縄張りを見つけてもいない。
まだまだ、まだまだやりたいことがあるのだ。
こんなところで死にたいわけがない。
しかし、前門の虎、後門の怪物の状態だ。
さらに、
(ティルガがここにいるってこたぁ、あの背後霊のブラールも近くにいるはず……! ここを上手く逃げれても、奴に追いかけられたら意味がねぇ!!)
ラモットはやはり己がとことん追い込まれていることを理解する。
「お前には感謝している」
「……あ?」
ティルガの唐突な感謝の言葉に、ラモットは一瞬理解が追い付かずに訝しむ。
もちろん、ラミナやキルアも小首を傾げる。
「お前のおかげで我らは念能力を会得し、今ここに立つことが出来る」
「……ふぅん。あいつが、なぁ……」
ラミナはジト目をキルアに向ける。
キルアは頬を引きつかせて、顔を背ける。
どう考えても、ゴンとキルアと戦ったことが原因で、ラモットは念能力に目覚めている。
そしてティルガの言葉から、ラモットがきっかけでキメラアント達は念能力を会得したということだ。
「……まぁ、護衛軍は生まれつき使えとったみたいやし。お前らのせいとも言い切れんか」
「……あ、ああ」
キルアはただ頷くしか出来なかった。
ラモットの念能力を目指めさせたのはゴンなのだが、その可能性を一切考えていなかったキルアも同罪である。
「やけど……最初に目覚めたっちゅう割には、随分とお粗末なオーラやなぁ」
「あのティルガって奴が特別ってこと?」
「かもしれん。巣に残っとった師団長共は、あいつと大差なかったと思うし」
ティルガ達も隠れながら修行していたと話していたので、ほとんどの兵隊蟻はまともに修行などしていなかったであろうことは想像に難くない。
「ま、護衛軍相手に戦いを挑むわけにゃいかんし、同じ兵隊蟻も同様。巣の外やとうちら以外の相手は基本敵にならんかったやろうから、熱心に修行なんぞせんかったんやろな」
「しかも、同じ師団長でも敵になる可能性があるから尚更、か」
「そういうこっちゃ」
そう頷くラミナの視線の先では、ティルガが更に腰を屈めていた。
もう十分別れの言葉は告げたのだろう。
体に纏うオーラが更に力を増す。
ラモットは歯軋りをして、ティルガを睨みつけていた。
「行くぞ」
両脚に力が込められたと思った瞬間、ティルガが一瞬でラモットの目の前へと移動した。
ラモットは目を限界まで見開いて、反射的に全力で横に跳ぶ。
ラモットの胸があった場所にティルガの右腕が勢いよく風を切る。
ティルガはすぐさまラモットを追い、左掌底を下から突き上げるように繰り出す。
ラモットは上半身を大きく仰け反って、ティルガの爪を躱す。
「ちぃ!!」
苦々しく顔を歪めたラモットは仰け反った勢いで、右足を振り上げる。しかし、ティルガは冷静に右手で払いのけようとする。
それにラモットはギリギリで足を止めて、片足で後ろに跳び下がる。
「ぐっ……! (あの手をどうにかしねぇと……!)」
ラモットは本能的にティルガの両手の危険性に気づいており、攻め辛さを感じていた。
ティルガはラモットの葛藤に気づきながらも、それを無視して再び攻めかかる。
猛スピードで掌底の連打を放ち、ラモットは冷や汗を流しながら必死に躱していく。
しかし、ラモットとティルガでは元々の身体能力に差があるため、ティルガは徐々にラモットを追い込んでいく。
「このクソがぁ!! 舐めんじゃねええ!!」
ラモットは怒りに顔を歪めて叫びながら、両前腕部から3枚の刃を生やす。
「いくらその手がヤバかろうが、この刃までは防げねぇだろぉ!!」
ラモットはただただ全力で【練】を発動して、右腕を全力で振り抜いて斬りかかる。
しかし、ティルガは一切顔色を変えることなく、
「やはりお前は楽観が過ぎる」
ティルガはそう呟いて、迫る刃を両手で挟みこむように振るい、その刃を噛み砕いた。
「なっ……!?」
「【虎咬拳】。これが我が巣を出て得た力。そして、これは……お前が見下した人間達が築き上げた力だ。我ら蟻では、決して造り上げることの出来ぬ技。ただ快楽のために力を振るうお前に負ける道理はない」
そう告げたティルガは左腕を素早く振るい、ラモットの右肘に左掌底を当てて手を捻り、ラモットの腕を抉り千切った。
「がああああ!?」
ラモットは目を見開いて、痛みと恐怖に叫ぶ。
キルアはティルガの虎咬拳の威力に、目を丸くする。
「なんつぅ破壊力……。片手を捻っただけだってのに。確かにカストロもかなりの破壊力だったけどよ」
「カストロは【ダブル】のせいでオーラを両手に注ぎきれんかったでな。それでもあの威力やった。それを考えれば、ティルガのあの威力はむしろ当然やでな」
「本当に大丈夫かよ……。教えたばっかなんだろ? それでアレって……もし敵に回ったらかなり厄介な相手になるんじゃねぇの?」
「んなもん、いちいち気にしながら鍛えられるかい。あいつの性格上、よほどのことがない限りうちと戦うことはまずないやろうし」
「……俺らはあるのかよ」
「そらぁお前ら次第やろ」
ラミナは肩を竦めて、ティルガ達に意識を戻す。
ティルガはトドメとばかりに、右掌底を繰り出そうとしていたが、
「ウオアアアアア!!」
「「「!!」」」
ラモットはがむしゃらに雄たけびを上げながら、左腕を振り上げて全てのオーラを刃に集中して【硬】を発動する。
それにティルガは全力でジャンプして、ラモットの攻撃を躱す。
勢いよく叩きつけられたラモットの腕は、地面が砕ける。
上空に跳び上がったティルガにキルアは悪態をつく。
「馬鹿……! なんで上に……!?」
どう考えても、悪手だった。
空中ではどうやっても動けないのだから。
ラミナは腕を組んで、黙ってティルガを見上げていた。
ラモットも跳び上がったティルガを見上げて笑う。
「ふはっ、ふはははは!! 偉そうにほざいてっからだぜぇ、ティルガ元師団長さんよぉ!!」
ティルガは後悔するような表情を見せず、むしろ決死の覚悟を決めた表情をしていた。
「……まだ我では無理かもしれぬが……。だが、せっかくの実戦の機会を無駄にする気はない!!」
ティルガは右手にオーラの玉を作り出す。
そして、それをまだ上昇している自身の真上に撃ち上げる。
「なにして――」
「ぎはははは!! なんだそりゃあ!? 何処に撃ってんだ!?」
キルアは訝しみ、ラモットは高らかに笑う。
だが、ティルガとラミナは真剣な表情のまま、放たれた念弾をまっすぐに見据える。
「行くぞ……! これが我が授かった真の能力、【
ティルガが叫んだ瞬間、念弾は1m大の大きさになり、その場で停止する。
そして、ティルガは体を翻して、
「なぁ!?!?」
「ぬぅ!!」
ティルガが念弾を蹴って飛び出すのと同時に、念弾が破裂し、その爆風を追い風にしてティルガは更にスピードを上げた。
黄色の旋風がラモットに襲い掛かり、ラモットは咄嗟に跳び下がるが避け切れずに左腕の刃が砕かれ、右脇腹から血が噴き出す。
「がああ!?」
「まだまだ行くぞ!!」
ティルガは勢いを緩めずに駆け抜け、周囲の樹を足場にして動き回る。
さらに再び進行方向に念弾を生み出して、それを踏んで跳び上がる。今度は爆発しなかった。
「なっ!? 念弾を足場に!?」
「ほぉ……土壇場の集中力で成功させよった」
「あ、あれはお前が教えたのかよ?」
「おう。どや? ええ能力やろ? 念弾を撃つんは放出系やから相性ええし、念弾を停めるくらいやったら操作系でも大したもんやないしな」
「あの爆発は?」
「ティルガが触れた場合は一定の衝撃で破裂する。他の奴が触れた場合は……」
「くそがぁ!!」
ラモットは叫びながら、ティルガが踏み台にした念弾を自分も利用しようと念弾に飛び乗った瞬間、
念弾が爆発した。
「があああ!?」
「っちゅう感じで、すぐに爆発する感じや」
「……なるほどな」
キルアは顎に手を当てて、ティルガの能力を考察する。
(自分のオーラだから爆発してもダメージは少ない……。けど、それ以上にヤバイのは、やっぱりあの両手だ)
ティルガの能力の起点は、あの両手。
だが、それが分かっても、能力を防ぐ術がほとんどない。
(近づけば普通に虎咬拳で対応し、少し離れただけならば虎咬拳をフェイントに念弾を放ち、大きく距離を取られたら念弾の足場を大量に作って攻めかかればいい……。念弾が駄目でも、虎咬拳はそう簡単には潰されない。そして、キメラアントの身体能力……! 武術の特性も合わさって、ゴンの【ジャジャン拳】より応用力があって破壊力も遜色ない。マジで敵じゃなくて良かったぜ……。っていうかラミナの奴、カストロの試合を見ただけでこんな能力思いついてたのかよ……!)
キルアはティルガと【虎咬迅嵐】の相性の良さと、ラミナがそんな能力を考えていたことに慄く。
キルアは少しでもティルガの戦い方を観察しようと集中するが、ティルガはそれ以降念弾を放つ様子は見せず、樹を足場にして飛び回ってラモットに攻めかかる。
「……なんでもっと念弾を使わないんだ? まだオーラに余裕はありそうなのに」
「言うたやろ? まだ教えたばっかやって。正直、2回もよぉ使えたもんやしな」
「そうなのか?」
「四大行は鍛えとったけど、系統別の修行はしとらんかったでな。放出系関係はさっぱりやったんや。朝までは念弾を維持してまっすぐ飛ばすんも苦労しとったわ。強化系やし、ゴン同様本番で力を発揮するタイプみたいやな」
「なるほど……」
「ま、元々あれを使わんでも、虎咬拳だけで十分勝てる相手なんやけどな」
そう話す2人の前で、ティルガとラモットの勝負は決着がつきそうだった。
ラモットは完全にティルガのスピードに目が付いて行かず、ただただ匂いと気配がする方向に身体を向けることしか出来なかった。
ティルガは【絶】と【練】を組み合わせながら、ラモットの感覚を惑わしていた。
「ぐっ……!」
「お~……流石虎の性質を引いとるだけはあるなぁ。本能的に【絶】を織り交ぜるとは」
ラミナはティルガの戦い方に感心し、キルアも頷いて同意する。
ラモットは目を血走らせ、歯を砕かんばかりに食いしばっていた。
「こんな……こんなところでぇ……! (俺が……俺が死ぬ……!?)」
ガサッ!
「!! そこかアアアア!!!」
ラモットは最後の好機と右拳に【硬】を発動して、音がした場所に飛び掛かって拳を振り抜いた。
しかし、そこには誰もおらず、拳は空を切った。
「なっ……!」
「遅い」
「っ!?!?」
真上から声がして、ラモットは目を限界まで見開いて目だけを上に向ける。
そこにいたのは、逆様で顔の前で両腕を交えて爪を構えているティルガ。
口元は両腕で隠れていたが、縦に鋭い虎の瞳が間違いなくラモットの瞳を見据えていた。
それにラモットは、大きく口を開けて鋭い牙を覗かせている虎の幻像が見えた。
そして、ティルガはその
「くっそ――」
ティルガが両腕を広げたのと同時に、最後の叫びを上げようとしていたラモットの顔が一瞬で粉々に引き千切られる。
頭部を失ったラモットの身体はゆっくりと前に倒れる。
着地したティルガは、30秒ほどラモットの身体が動かないのを確認して、息を吐く。
「ふぅ~……」
「お疲れさん。能力も上手く使えたやないか」
「ああ……。だが、最初の2回以降は使える気がしなかった」
「それが分かるだけでも十分過ぎるっちゅうねん」
ラミナは呆れた目を向けながら言う。
しかし、すぐに目を真剣なものにして、
「んで、気分はどうや?」
「……流石に何ともない、と言える気分ではないな」
「それが普通や。別にそれで連れて行かんっちゅう気はないから安心しぃ。躊躇せんことが重要やでな」
「ああ」
「さて……キルア」
「ん?」
「ほれ」
ラミナはポケットから黒い羽根を取り出して、キルアに投げ渡す。
キャッチしたキルアは訝しんだように羽根を観察する。
「なんだよ、これ?」
「それが覗き屋の部品や。片目を閉じれば、ゴン達がおる場所が見えるはずやで。ま、今はドーリ市に戻っとるみたいやけどな」
「マジ!?」
キルアは慌てて右目を閉じる。
映ったのは、ドーリ市でゴン達が過ごしていた拠点の家だった。
「い、いつの間に……!?」
「ここはもうええで。この周囲に兵隊蟻もおらんでな」
「ああ」
「これ、うちの今の番号とアドレスや。来る気になったら連絡しぃ。ただし、ゴンは連れて来たところで無視すんで」
「ああ、サンキュ」
キルアは頷いて、猛スピードでドーリ市へと向かう。
その後ろ姿を見送ったラミナとティルガ、そして樹の上に潜んでいたブラールが音もなく飛び降りてきた。
「……恐ろしい少年だったな。だが、あれほどの者ならばネフェルピトーが見逃すとは思えんが……。それにラモットが無事だったのも不思議でならん」
「そん時はまだあそこまでちゃうかったんやろ。うちも少し驚いたでな」
「其方がもう1人いるように感じて、正直気が気でなかったぞ……。我の存在にも勘づいていたようだしな」
「そやなぁ。ま、とりあえず今日は休もか」
ラミナはそう言って、一度コルトがいる屋敷に戻ることにした。
ティルガ達を伴って歩き出したラミナは、さきほどのキルアを思い出す。
(……最初からアレやったら、うちもキルアを旅団に誘ったやろなぁ。まぁ、ゴンのことで揉めたやろうし、マチ姉が面倒になりそうやけど)
マチとキルアがいがみ合う光景が容易に想像できる。
だが、それはそれで周囲は楽しむだろうなとも思う。ラミナが巻き込まれるのは間違いないが。
(流石に、もうガキ扱いは出来んか)
と、地味にラミナの中でキルアの立ち位置が大人側に変わったのだった。
それで婚約うんぬんが変わるわけでもなかったが。
キルアは森の中を猛スピードで駆け抜けながら、ラミナから渡されたブラールの羽根を見る。
「羽根ってことは、もう1匹は鳥型の蟻か……。結局、そっちは視線は感じても気配の場所までは見抜けなかったな」
何かがいる気がしてはいたのだが、どこに潜んでいたのかまでは全く分からなかった。
しかし、だからこそラミナも連れて行くことを認めたのだと納得も出来た。
「それにしてもゴンの奴……結局ここに何しに来たんだ?」
ラミナと合流してからはゴンの動向を知らないので、何があったのかまでは分からない。
ちなみにラミナは時々覗いていたが、正直馬鹿馬鹿しくて口にするのも面倒になっていた。
(……それにしても、ラミナから誘ってもらえるなんてな……)
キルアは渡された連絡先が書かれたメモを見つめる。
ククルーマウンテンの時にも連絡先は教えてもらったが、それはあくまで修行のためだ。
つまり、今回は初めて仲間として連絡先を教えてもらったことになる。
その事実に気づいたからか、妙に体が軽くなった様に感じるキルア。
そして、その感覚に戸惑うのだった。
(……俺、嬉しいのか? ……まぁ、確かにラミナに一人前扱いされたのは嬉しいか)
今回の試練でラミナの背中を追いかけていた事実に気づいた。
目標でもあるラミナに認められたのだから、嬉しいのは当然だろうとキルアは納得した。
僅かに引っかかるような感覚を頭の隅に追いやって。
それが恋愛感情だと気づくのはもう少し先のこと。
2人の関係が、ちょ~~~っとだけ進みましたw