暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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お待たせしました(__)


#110 イカリ×ノチ×ヤサシサ

 ラミナとキルアが再会した翌日。

 

 ノヴ達はゴンの様子を確認しながらカイトを匿う場所であり、次の作戦に関わる場所を探していた。

 

 そして、見つけた場所は、

 

「【東ゴルトー】?」

 

「ああ」

 

 本日の修行を終え、コルト達がいる屋敷で休んでいたラミナはノヴの報告に眉間に皺を寄せる。

 

 ノヴも眼鏡を直しながら頷き、小さくため息を吐いた。

 

「なんで、んなとこに?」

 

「王達がそこにいることが判明したからだ」

 

 ノヴの言葉にラミナはもちろんティルガ達も目を見開く。

 

「よう見っけたな。ただでさえ、あの国は情報集まらへんのに」

 

「私の弟子の能力だ」

 

「お前の弟子って……パームとか言う奴やろ? ゴンとデートしとった」

 

「ああ……。あいつの能力は稀少ではあるんだが、少々性格がな……。すでにパームは私の指揮下に戻している。これ以上暴走をさせる気はない」

 

「やったらええけどな」

 

 ラミナはジト目を向けたまま、肩を竦める。

 

 ノヴは誤魔化すように小さく咳をして、眼鏡を直しながら、

 

「私はこれから東ゴルトーの首都の【ペイジン】に向かう。明日、ペイジン近くの山の中の屋敷でゴンとカイトを会わせる予定だ」

 

「ほな、そこに行ける入り口をここにも作っとってな。一応、うちも確認するわ」

 

「分かった」

 

「ところで、モラウらは?」

 

「モラウとナックルはヂートゥとか言うパタ市で暴れた蟻の対処に向かっている。シュートは引き続きゴン達の観察をさせている」

 

「……あいつらじゃヂートゥはキツイんちゃうか? 逃がさんようには出来るやろうけど……」

 

「今回は仕留めるのは目的じゃない。ナックルのポットクリンをヂートゥに憑けるためだ。ナックルはポットクリンを憑けた相手の居場所を大まかに把握できるらしいからな。場所さえ分かれば、相性のいいハンターを向かわせることが出来る」

 

「ふぅん……」

 

 ラミナは納得したように頷き、それ以上口出しをすることはなかった。

 

 ノヴはその後すぐに出発し、ラミナはティルガやブラールの【堅】の修行を見ながらのんびりとしていた。

 

「それにしても、東ゴルトーとはなぁ……」

 

「どのような国なのだ?」

 

 【堅】を続けながらティルガが質問する。

 

「正式名称は【東ゴルトー共和国】。NGLの反対側にある国で、共和国とか言うときながら独裁政治を敷いとる排他的な国やねん。携帯電話は所持禁止で、ニュースとかも国営放送しか見れんから虚偽放送ばっか。で、国民には『指組』っちゅう面倒な監視体制を敷いて、革命や亡命を阻止しとるんや」

 

「『指組』とは?」

 

「無差別に組まされた集団で、他の集団を監視したり他国のスパイを見つけさせるんや。家族もバラバラの集団に組まされるから、犯罪者が出たら家族どころか集団全員が処罰されてまうんよ。その代わり、反乱を企んでいる証拠や現場を押さえたら報奨金、スパイを見つけたら報奨金って感じで褒美も出して、ある程度成果を出せば集団に属する者達の階級が上がるらしいで」

 

「……我ら兵隊蟻よりもえげつないな……」

 

「まぁ、やからこそこれまで国として成り立っとるんやろ。そんで、よほどのことでもない限り、NGL同様情報が出回らん厄介な場所でもある」

 

「なるほど……。キメラアントからすれば絶好の狩場となるか」

 

「そやな。ハンター達から逃げた兵隊蟻が逃げ込めば、追い込むんはかなり面倒になってまうなぁ」

 

「……師団長は下手したら逃げ込むぞ? 特にヂートゥはあの者達と戦って、脅威を覚えれば迷わず王達の元に向かいかねん。そうなれば、誰も追いつけぬぞ?」

 

「そやなぁ……。まぁ、念空間で閉じ込める能力者とかおるかもしれんし、様子見するしかないやろな」

 

 そこらへんの手配はモラウ達の仕事なので、ラミナは結果を聞くのみである。

 

「問題は王らが東ゴルトーでどう動くかっちゅうことやな。NGLみたいにどっかに巣を作るだけやったら、まだマシやけど……」

 

「……恐らく碌なことはすまい。奴らは念能力者を餌として好んでいる。今更国を1つ押さえ込んだところで大したことは出来ん。だが、奴らも使える手駒が欲しいはずだ。護衛軍が些事ばかりに手を割かれるわけにはいかないからな」

 

「ふむ……念能力者を生み出す方法を連中は知っとる。ただ、あの操作系能力はあくまでオーラを使わせるようにするだけ。手下にしても大した意味はないやろうし……。つまり、別の手段で手下を作る、か?」

 

「可能性は十分にある」

 

「東ゴルトーの人口は約500万……。もし、国民を手下にするんやったら……約5万が念能力者として目覚めるかもしれんっちゅうわけか……」

 

「……奴らならやりかねんな」

 

「……」

 

 ラミナの推測にティルガも同意し、ブラールも頷く。

 

 だが、それを為すには国民が逃げないことが大前提となる。

 流石にキメラアント達では、完全に国を封鎖することは不可能なはずだとラミナは考えたが、すぐさまそれを否定する考えが浮かんで顔を顰める。

 

「国のトップ連中をネフェルピトーの能力で操れば、国民を抑え込むことは出来るか……」

 

「っ……! ……確かに」

  

 ラミナの独り言のように発せられた言葉に、ティルガは一瞬目を見開いてすぐに顔を顰める。

 ネフェルピトー達ならばやりかねない……いや、確実にやると理解できてしまったからだ。

 

 ラミナの推測通り、王達は東ゴルトー総帥であるディーゴを殺して操り人形にし、軍隊もほぼ人形に変えた。それ以外の人間はほとんど食用肉として選別されてしまった。

 その悪魔的所業を見ていた国の上層部達は、服従したフリをして一部を残して宮殿と首都を抜け出すか、王達では担えない国の運営業務をやらされている。

 目的はまさしく『選別』と『造兵』である。

 

「造った念能力者をどう操るんかは流石に分からんけど……。まだ能力が分からん護衛軍2人のどっちかが、それを解決する目途があるんやろな」

 

「恐らくな」

 

「はぁ~……面倒やなぁ」

 

 流石に国2つを巻き込む戦いの中心に参加するなど、ラミナの立場からすれば厄介でしかない。

 一つ星になったとは言え、まだ新人ハンターであり、暗殺者で、しかも幻影旅団の一員が何故こんな大事に関わっているのかと今更ながらにツッコミたくなる。

 

(ネテロが同じことに気づいとらんわけないやろうし……。これでも十二支んやら他のプロハンターを呼び出す気配がないんやから、天下のハンター協会と言えど所詮は一民間団体っちゅうことか。まぁ、ハンター証の効果も国の協力があってこそやから、当然っちゃあ当然なんやろうけど)

 

 多くの者がハンター証を求める理由は、普通では入れない場所や施設を利用出来たり、好待遇を受けられるからだ。

 しかし、それはその対象の国や施設を管理する者達がプロハンターと言う存在を認めているからに他ならない。

 

 つまり、その者達が『ハンター協会はもう信用しない』となると、プロハンターという存在はただのならず者になる可能性があるのだ。

 そして、それを決めるのは国の長達だ。

 

 なので、ハンター協会は国の意向には出来る限り忖度する必要がある。

 

 今回のキメラアント討伐は間違いなくその忖度が足を引っ張っているのだが、それをどうにかする能力はネテロにもないのだ。

 

(例の副会長派とか言う連中も面倒やけど、ネテロからすればハンター協会を存続させる手段の1つではある。下手に上層部を関わらせて失敗すれば、ネテロ以外も責任を取らされて一気に協会がガタガタになりかねんやろうし……)

 

 だからと言って、現状手が足りないのも事実だ。

 しかし、そこらへんの者を呼び寄せても被害が増え、餌になるだけだ。なので、ベテランと呼べる実力者を呼ぶことになるのだが、そのような者は大抵それなりの立場に立っている者が多い。なので、失敗すれば社会に大きな影響を与える可能性もある。

 なので、ネテロやハンター協会が増援に及び腰になるのもラミナは理解は出来る。同じくらい苛立ってもいるが。

 

 これ以上考えると、殺気が漏れそうなのでラミナは考えるのを止めて、憂さ晴らしとばかりにティルガ達と組み手をすることにしたのだった。

 

 

 

 そして、翌日。

 

 ラミナ、ティルガ、ブラールは先んじてノヴと共に、ノヴが確保した東ゴルトー内の隠れ家に移動する。

 

 そこは首都のペイジン近くの森の中にある古城だった。

 

「こらまた随分と……いくら古城とはいえ、流石に国の管理ちゃうんか?」

 

「その通りだが、その点は問題ない。すでにこの国の重役の一人と接触に成功して、ここはその者が管理していた城だ」

 

「……それはつまり……」

 

「……ああ。王と護衛軍はすでに事実上この国を支配下に置いた。私達はその重役の亡命を条件に協力を要請した」

 

 ラミナは恐れていた事態が現実なものとなったことに盛大に顔を顰める。

 

「蟻達だけでも厄介やのに、今度は操られた人間か。しかも国軍。まぁ、念能力者は喰われたと考えても、兵器を大量に抱えとる状態であの念人形に操られとるとなると、かなり厄介やで?」

 

 NGLで操られていたカイト並みに動けるかは分からないが、それでもそこらへんの人間やハンターでは間違いなく一方的に殺される。

 更に問題は、

 

「ゴンやナックル、シュートはそいつらの相手が出来るんかも怪しいで?」

 

「……そうだな」

 

 キルアは恐らく必要とあれば殺すことが出来る。故に殺さずに無力化することも出来るだろう。

 しかし、ゴン、ナックル、シュートの3人は間違いなく手加減する。操られた者が手加減された攻撃で沈黙する可能性は低い。故に下手すれば操られた兵隊に負ける可能性がある。

 

 ノヴもその可能性を否定できずに眉間に皺を寄せる。

 ラミナはその様子に最悪操られた連中は自分が引き受ける必要があると判断し、小さくため息を吐く。

 

「流石に東ゴルトーにチャリオットや他の殺し屋連中呼ぶわけにゃいかんやろうし……」

 

「……流石にそれはやめてくれ。世界中に散ったキメラアント相手ならば偶然出会ったという言い訳が通じるが、この国で暴れれば流石に会長やお前との関連を否定できない。元々この国で殺し屋が活動することは非常に少ない。いくらキメラアントが現れたとしても、ハンターではなく殺し屋が現れたというのは誤魔化し切れない」

 

「やろな」

 

 ラミナは肩を竦める。

 その後はゴン達が来るまで、遠目にペイジンを観察する。しかし、王達はペイジンから更に離れた宮殿にいるそうなので、ペイジンを眺めた所で特に何もないのだが。

 

 その頃、ゴンやキルアはコルトと面会しており、NGLであったことを詳しく聞いていた。

 キルア達はゴンがコルトと会えば、問答無用で襲い掛かるかもと恐れていたが、特に問題なくむしろ友好的に接したことでホッとしていた。

 

 そして、ゴン達はノヴの能力でペイジンの古城に移動する。

 ラミナが先に来ていると聞いていたゴン達だが、そこにラミナの姿はなかった。

 それに首を傾げるキルアだが、先にカイトと会うことを優先したため古城の一室に入り、シュートはカイトを封じ込めた鳥籠を部屋の奥に設置する。

 

「ここにカイトがいる。だが、もうお前達が知っている彼ではないぞ?」

 

 シュートの言葉に、緊張感が増すゴンは顔を強張らせながらも頷く。

 

「大丈夫。絶対俺達が治してみせる」

 

 ゴンの言葉に小さく頷いたシュートは鳥籠の入り口を開く。

 すると、そこから小さな人形のようなものがゆっくりと出てきた。

 

「【暗い宿】。ある一定以上のダメージを与えると、その者を鳥籠に閉じ込めることが出来る。全身でも、一部でも。そして、鳥籠から出れば元の大きさに戻る。用心してくれ。念は使えないが、それでも手強い」

 

 徐々に大きくなっていく()()がカイトだと気づくまで、それがあのカイトだと頭が受け入れるまで、ゴンは時間がかかった。

 キルアはすぐに理解はしたが、やはり自分が作り出した現実に歯を食いしばる。

 

 もはや見た目すらもカイトとは呼べないカイトの姿に、ゴンは何も言えない。

 ただただ、必死に目の前にいるのがカイトだと受け止めるだけで精いっぱいだった。

 

 ナックルはそんなゴンの様子に顔を顰めながらも、

 

「……どうやら兵隊蟻の訓練に利用されていたらしい。近づく奴を機械的に攻撃してくる」

 

 ナックルの言葉にゴンは何も答えず、ゆっくりと一歩踏み出す。

 

「カイト、もう大丈夫。大丈夫だよ」

 

 まるで子供を宥めるように声をかけながら、ゆっくりと歩み寄る。

 そして、後2歩というほどまで近づいた時、

 

 カイトの右拳がゴンのこめかみに叩き込まれる。

 

 ゴンは数歩後退るも、倒れることはなかった。

 

 殴られた個所から血が流れ出すも、それを拭うことなくゴンは再びカイトへと歩み寄る。

 

「あの時以来だね。カイトに殴られるの」

 

 初めてカイトと出会った時のこと。

 自分がハンターを目指すきっかけとなった時のことを思い出す。

 

「あれは痛かったなぁ……」

 

 寂しそうに呟きながら、ゴンはまたカイトの間合いに足を踏み入れる。

 

 すぐさまカイトが拳を振るい、ゴンは抵抗せずに殴られる。

 しかし、今度は吹き飛ばされずに踏ん張って、すぐにまた歩み寄ってまた殴られるを繰り返す。

 

 ゴンが殴られる音が部屋に響き渡り、それにナックルは顔を顰めて、止めようとする己を必死に抑える。

 

「いいのか? このままやらせといて。ゴンも念でのガードは出来てないんだろ?」

 

 モラウがキルアに問いかける。

 キルアもナックル同様顔を顰めながらも、

 

「大丈夫……ゴンなら気づくよ。……もしかしたら、もう分かってるかもしれない。その上で……」

 

「……確かにな。反射で避けようとか防ごうとするのを、力づくで抑えてわざと攻撃を喰らってる感じだ」

 

 キルアの言葉にノヴも同意する。

 その言葉にナックルは驚きと戸惑いを覚える。

 

(マジか……? いくら機械的な動きとはいえ……。今のゴンが数分やそこらで看破できるようなレベルじゃねぇはずだ)

 

 キルアはゴンの心情を少なからず理解していた。

 同じく今のカイトを作り出してしまった要因の一人なのだから。

 

 ゴンは身体で現実を理解しようとしていた。

 目の前にいるカイトが幻でもなく、目の前にいるカイトを生み出したのは自分が弱かったからだという事実を。

 

(カイトはこんなに弱くない……。カイトの拳は、もっと痛い!!)

 

 ゴンはカイトの攻撃を完璧に見切って躱す。

 

 その動きにナックルやシュートは目を見開く。

 

 そして、ゴンは優しくカイトの身体に抱き着いた。

 

 それにカイトは動きを止める。

 

「ごめんね、カイト。俺達のせいでこんな……。少し休んでいいよ。後は俺達に任せて……」

 

 ゴンはそう呼びかける。

 それに応えるようにカイトは身体から力を抜き、ゴンは聞こえたのかとカイトから離れるが、ゴン以外の者達の目には全く違う現実が映されていた。

 

 カイトの上に念人形が出現していたのだ。

 

「……あれは……」

 

「レベル2……。ゴンには視えねぇだろうが、カイトに触れると発動する」

 

 ナックルの言葉に、ゴンは自分の希望が裏切られたことを理解する。

 

「クリアするにはかなり高度な戦闘技術が必要になる。カイト自身の念は俺の能力で封じてあるから、あれはカイトを操っている者の念能力。気をつけろよ。もう一度触れると、攻撃してくる」

 

「……どうすれば……どうやって止めたの?」

 

「……俺とナックルの能力上、相応の深手を彼に与えた。やむを得なかったとはいえ、すまない」

 

 シュートは自責の念に堪えながら、ゴンに謝罪する。

 いつものゴンならば、シュートが謝ることではないとすぐに否定したはずだが、流石にそんな余裕はなかった。

 

 込み上がってくる感情を、両手を握り締めることで必死に抑え込み、カイトに背を向ける。

 

「カイト、もうちょっと待ってて。すぐに戻す」

 

 ゴンの誓うような言葉に、ナックルは一瞬背筋に怖気が走る。

 

「キルア……」

 

 キルアの傍にやってきたゴンは、キルアに声をかける。

 

 

「あいつは……俺一人でやる」

 

 

 そう宣言したゴンは、キルアの答えも聞かずに部屋を後にした。

 

 

 その後ろ姿をキルアは、寂し気に見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 古城の外に出たゴンやキルア達。

 

 すると出た所に、腕を組んだラミナが立っていた。

 

「ラミナ……」

 

 ゴンは様々な感情が湧き上がって、どう声をかければいいのか分からなかった。

 

 ラミナはそんなゴンを真っすぐに見据えていた。

 

「……なんや。随分としおらしくなっとるやないか」

 

「……うん。俺が弱かったばっかりに……」

 

 ラミナの言葉に、ゴンは俯いてしまう。

 

 ナックルやシュートはそんなゴンに労わるような目を向けるが、

 

 

ゴンッ!!

 

 

 と、突如ラミナがゴンに拳骨を叩き込んだ。

 

「!?!?」

 

「なっ!?」

 

 ゴンは痛みに声を上げることも出来ずに頭を押さえて蹲り、キルアやナックル達は目を丸くする。

 

「ド阿呆。今更自分の未熟さを反省するなんざ遅いにもほどがあるわ。ヨークシンでうちが殴った時からどんだけ経っとんねん」

 

 ラミナは呆れた目で、痛みに呻くゴンに向かって言い放つ。

 

「そもそもお前が未熟やなかったことなんざあったか? ハンター試験でも、ククルーマウンテンでも、天空闘技場でも、ヨークシンでも、グリードアイランドでも、うちが知っとる限りお前はずっと分不相応なことばっか宣う未熟モンや。念を覚えて、たかが1年足らずのお前が誰の足も引っ張らんとかのぼせ上がるにもほどがあるわ」

 

「っ……!」

 

「言うたやろ。高望みできるんは相応しい実力があるモンだけやってな。それをカイトがあんなんになってようやく理解するとか、どこに同情すればええんや?」

 

 ラミナの言葉にゴンはただただ項垂れるしかなかった。

 

 それにナックルが我慢出来ずに反論しようとしたが、モラウに肩を掴まれて止められる。

 

「師匠……!」

 

「止めとけ。これからを考えれば、ラミナの説教は必要だ」

 

「ぐっ……!」

 

「はっきり言うで、ゴン。うちはお前に蟻討伐に参加出来る実力はないと思うとる。今のキルアはともかく、お前は絶対的に足手纏いや」

 

「っ!!」

 

 はっきりと戦力外通告を告げられたゴンは、ただただ悔し気に顔を顰める。

 

 キルアはゴンを心配気に見つめるも、ラミナが言うことも正しいため声をかけられなかった。

 

 ラミナに叩きつけられた現実に、ゴンは両手を握り締め、歯を食いしばって耐える。

 

 それにラミナは小さくため息を吐いて、

 

「はぁ……今回はホンマに堪えとるみたいやな。普段やったら『俺を鍛えてよ』とか言うてくるやろうに。なんで言うべき時に言わず、言わんでええ時に迷わず言うんやろな、お前は」

 

「……ん?」

 

 今のラミナの言い方にキルアは首を傾げた。

 今の言い方はまるで鍛えてやってもいいという風に聞こえたからだ。

 

 ゴンはそれに気づいていないが、ガバリ!と勢いよく顔を上げる。

 

「ラミナ、俺を鍛えてよ!!」

 

「嫌じゃボケ」

 

ガビーン!!

 

 ゴンはまさかの即答に、先ほどまでのシリアス感が一瞬で吹き飛んで固まる。

 

(((じゃあ、なんで言ったんだよ……)))

 

 キルア、モラウ、ナックルは盛大に呆れ、シュートとノヴも同じく呆れていた。

 

「うちは今、他の奴らを鍛えとるでな。お前まで面倒見る気ないわ」

 

「そんなぁ……」

 

「ま、勝手にうちらが修行しとるところに顔出すんは構わんけどな」

 

「え?」

 

 ゴンはポカンとした表情でラミナを見る。

 ラミナは肩を竦めて、

 

「組み手とかは人手が多い方がええでな。別にうちらの修行の邪魔せんかったら、近くで修行しようが何も言う気はないで」

 

 つまり、片手間ではあるが鍛えてやってもいいと言っているのだ。

 それを理解したゴンは笑みを浮かべ、キルアは苦笑する。

 

「本当にいいのかよ?」

 

「あの状態で放置しても無駄そうやからな。やったら、まだお前らに監視させる方がマシや」

 

「……見てたのか? ……例の覗き屋か?」

 

「まぁな」

 

 ラミナはブラールの能力で中を覗いていた。 

 それで最後のゴンの雰囲気から、目を放すのは少々危ういと判断を下したのだ。

 

 もちろん、まだゴンは念が使えない状態だが、今後の作戦次第では念が使える状態になってから動く可能性もある。それならば、せめて師団長クラスには勝てるだけの戦力にすべきだとラミナは考えたのだ。

 

「……お前ってさ」

 

「あん?」

 

「やっぱ変なところで優しいよな」

 

「何がやねんド阿呆」

 

 キルアの言葉にラミナは盛大に顔を顰める。

 キルアは肩を竦めて、笑みを浮かべてゴンに声をかける。

 

「頑張ろうぜ」

 

「うん!」

 

 まだ不安なところはあるが、それでも笑顔を取り戻したゴンを見て、キルアは少しだけホッとした。

 

 ということで、ゴンとキルアも明日からティルガ達の特訓に参加することになった。

 

 

 

 ゴン達を先に帰らせたラミナは、ティルガ達を外に待たせたまま古城の中に入る。

 

 帰り道はすでにノヴに入り口を設置させているので問題はない。

 

 ラミナはカイトがいる部屋に入り、未だ立ったままのカイトを見据える。

 念人形は消えており、レベル1の状態に戻っていた。

 

 特に表情を変えることなく、カイトに歩み寄る。

 

 近づいてきたラミナに、カイトは攻撃を仕掛けるが、ラミナは易々とカイトの拳を右手で掴んで止める。

 触られたことでカイトは一度動きを止める。

 

 ラミナはカイトの腕を放して、数歩後ろに下がる。

 

 すると、カイトの上に念人形が具現化する。

 

「はぁ……。これは高ぉ付くで、ジン」

 

 ラミナは小さくため息を吐いて、右手にソードブレイカーを具現化する。

 

「……恨むんやったら、負けた自分と胸糞悪い依頼をしてきた師匠を恨みや」

 

 カイトにそう言って、ラミナは念人形を見上げる。

 

 

 そして、その刃を振り下ろす。

 

 

「【脆く儚い(フラジャイル)……夢物語(ホープ)】」

 

 

 これが救済だったのか。それとも凶刃だったのか。

 

 それが分かるのは、そう遠いことではなかった。

 

 


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