暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#112 ホンノウニイキルモノ×タイ×ヤミニイキルモノ

 時は少し遡る。

 

 王が産まれて2日。

 

 女王を見捨ててNGLの巣から飛び出した元師団長の一匹、鰐のキメラアントのグロークはバルサ諸島周囲の無人島の1つにいた。

 

 グロークは『大食いキング』を目指し、海を移動していた。

 理由は外敵の少なさと餌の多さである。

 

 人間は水中を自由自在に動けない。

 故にグロークに迫るには船を使わなければならないのだが、船を使って接近すればグロークならばすぐに気づくことが出来る。他にもグローク同様海に飛び出した兵隊蟻達がおり、その者達と協力しながら移動しているので必ず船のエンジン音が響けば先にグローク達が気付ける。

 

 そうやって備えながらも、グローク達は意気揚々と海を渡り、海の生き物や立ち寄った島の生物を次々と食い荒らした。

 

 そして、グロークは食事を終え、浜辺で寝転んで体を休めていた。

 

「フゥ~……さぁて、次はどっちに行くか……。そろそろ動物や魚も飽きてきたし、人間がいる島でも探すか?」

 

 何より小さい島ではすぐに食い尽くしてしまう。

 もちろん、小さい動物は放置しているが、腹が満たせそうな大きさの動物はほぼ食い尽くしてしまったのだった。

 

「まぁ、まだ旅立って数日だ。もう少し移動すれば、ちょうどいい島の1つや2つ見つかるワな」

 

 そう考えて昼寝でもしようとした、その時。

 

『タ、タスケテクレェ!!』

 

「おワ!? な、なんだ!?」

 

 突如グロークの頭にテレパシーが響いてきた。

 

 グロークは目を丸くして、体を起こして周囲を見渡す。

 すると、水平線ギリギリの海が不自然に揺らいで盛り上がったように見え、下級兵と思われる兵隊蟻からのテレパシーが途切れた。

 

 しかし、同じく海で餌を探していた他の兵隊蟻達から止めどなくテレパシーが届いてきた。

 

『やられた! タイタやられた!!』

 

『どこからの攻撃だ!? いきなり爆発したぞ!? っ!? なっ!? ギャアアア――!』

 

『また!? どこ!? 何処に隠れているの!?』

 

『いや、急に何かが現れたように見えましたよ!? その何かがタイタ達に当たって爆発しました!』

 

『ミエナイ! 魚ダケ! ミエナイ! ミエナガアアアア!!』

 

「んだぁ……!? 何が起きてんだ!?」

 

 グロークは入り乱れ、そしてどんどん減っていくテレパシーに事態が呑み込めずにただただ浜辺で立ち尽くしていた。

 

 その間も海面が不自然に揺らいで波立ち、その度にテレパシーが消える。

 

「敵か……!? けど、姿が視えねぇって何だよ? 人間? けど、船なんてどこにもねぇぞ?」

 

 見渡す限り海しか見えない。島は近くにはグロークがいる島しかない。

 つまり、敵は海の中にいることになる。

 

「人間が海の中を自由に泳げるってのか? それともアモンガキッドみてぇに念獣でも出してんのか?」

 

 グロークが考えている間も兵隊蟻達の信号はドンドン減り、遂に何も聞こえなくなった。

 

「くそっ! 何だってんだ!」

 

 グロークは正体を確かめるべく、海に飛び込む。

 猛スピードで海中を進み、荒れていた場所に近づくと前方にバラバラになった兵隊蟻達の死骸と血が辺り一面に漂っていた。

 

(いくら下級兵と雑務兵しかいなかったとは言え、全員が例外なくバラバラにされてやがる……。一体どんな奴がいやがるんだ?)

 

 グロークは最大限警戒しながら周囲を見渡すが、敵の姿は見当たらない。

 今の騒動で魚達も離れており、僅かに見当たるのは海底に潜む生き物と血の臭いに誘われてきた鮫ばかり。

 その鮫もグロークが見る限り、普通の鮫で特にオーラを纏っているようにも見えない。

 

(ちっ……! オレは【円】とか【凝】とか細けぇの苦手なんだよな……)

 

 グロークはほとんど人間だった頃の記憶はなく、どちらかと言えば動物寄りの思考で行動するタイプだった。

 まどろっこしい国を造りたいわけでもなく、気ままに餌を貪り、気に入った雌を犯して孕ませればそれで十分なのだ。

 

 故に念能力の修行も真面目にやっておらず、単純にキメラアントの身体能力だけで活動していた。

 

 そのため、グロークは目に映るものや鼻で感じるもの以外に敵を探す能力はなかった。

 

 グロークは舌打ちして、一度島に戻ろうとした時、

 

 右手から何かが迫ってくるのを水の揺らぎから感じ取った。

 

 咄嗟にオーラを強め、両腕を交えて身を守ろうとした直後、腕に何かが勢いよく当たって猛烈な衝撃に襲われる。

 

「グゥアアアア!?」

 

 グロークは後ろに吹き飛ばされるが、必死に体勢を整える。

 グロークにとっては致命傷を与えるものではなく、ただただとてつもない衝撃が叩きつけられただけだったが、それでも生きてきて一番のダメージだった。

 

(ヤ、ヤバかったぜ……。何だったんだ……? 本当に何も見えなかったぞ?)

 

 得体の知れない攻撃にグロークも混乱し、全力で周囲の気配を探るもやはり何も見当たらない。

 

(くそぉ……! 誰だ!! 何処に隠れてやがる!!)

 

 聞こえるわけもないが、徐々に怒りが頭を支配しながら周囲を睨みつける。

 

 その直後、グロークの真下で爆発が起こった。

 

「グオオオオオ!?」

 

 グロークは海から吹き飛ばされ、弧を描いて先ほどまでいた浜辺に背中から勢いよく落ちる。

 

 もちろん、浜辺に落ちたくらいでどうにかなるグロークではないので、すぐさま立ち上がる。

 

「一体……一体何が起こってやがる……!?」

 

 

ふははははは!! ふははははははは!!!』 

 

 

「!? だ、誰だ!?」

 

 突如聞こえてきた高笑いにグロークは目を丸くして、その姿を探す。

 だが、やはり人影らしきものはどこにも見えない。

 

『我が攻撃を受け切るとは、流石〝修羅の謫仙〟や〝刃花の紅玉〟を苦しめた〝暴食の混獣蟻(こんじゅうぎ)〟の師団長だ!!』

 

 そんなグロークの混乱を尻目に、高らかに謎の声が響き渡る。

 

「どこだ!! 何処に隠れてやがる!! 姿を見せやがれ、この臆病者がぁ!!」

 

『ほぉ……言うではないか。よかろう!! ならば刮目せよ!! そして後悔するといい!! 我が神秘を目にすることを!!』

 

「なんだと……?」

 

 

『光学迷彩解除!! 浮上せよ、【世界を渡る秘宝艦(サウザンド・ワンピース)】!!』

 

 

 直後、浜辺から離れた海面が大きくうねり、海が盛り上がり始める。

 

 海はどんどん高くなり、突如弾けたかと思うと、

 

 

 巨大な船が、水を排出しながら姿を現した。

 

 

 グロークは大きく目と口を見開いて、唖然と突如海中から現れた巨大船を見上げる。

 

「な……な……な……な……!」

 

 巨大船は未だ浮上を続けており、遂には()()()()()()()()

 

『ふははははは!! さぁ、その目に! 記憶に! 魂に刻むがいい!! これこそが我が〝不止の暗艦〟【アーク】たる所以!! そして、我ら怪盗団【ザ・ファントム】の象徴であり、完全無欠の移動要塞!! 【世界を渡る秘宝艦(サウザンド・ワンピース)】である!!』

 

 【世界を渡る秘宝艦(サウザンド・ワンピース)】。

 相互協力型能力で具現化された空海対応型移動要塞で、シーフがリーダーを務める怪盗団【ザ・ファントム】の拠点でもある。

 

 神字や制約と誓約によって、メンバー達のオーラや能力を強化して造り上げた船は全長100m、全幅18mの見た目フェリー船だ。魚雷や機雷、ミサイルを打つことも出来、【隠】を組み合わせた光学迷彩で姿を隠すことが出来る。

 

 その正体は具現化した船の1/3程度の小型船である。

 盗んだ宝はメンバーの一人が具現化した念空間の倉庫に収納しており、【世界を渡る秘宝艦】発動中は博物館のような様相に変わる。

 

 ちなみにシーフ本人は特質系能力者で、能力名は【絆の二十面相(ワイルドマスク)】。

 己を含めたメンバー全員に仮面を身に付けさせることを制約とし、【世界を渡る秘宝艦】発動中は怪盗団の一員となった仲間の能力を増幅させる。生身での戦闘時には、仮面を交換したメンバーの能力を一時的に使用することが可能である。

 

 基本的に【世界を渡る秘宝艦】発動中は艦長席に座っていることが制約の1つだが、予告状を送りつけた場所に忍び込む際は一定時間離れて活動することが出来る。

 

 これが盗み成功率100%の理由である。

 空を飛び、海に潜れる船などそう簡単には追えないし、見失った隙に能力を解除されると見分けがつかなくなってしまうのだ。

 

 ちなみに巨大船にした理由は『インパクトがデカい方が、より相手の目を惑わせることが出来るから』である。

 

「こ、これも念……なのか? ……ん?」

 

 呆然と船を見上げていたグロークの目に、船首に立つ人影が見えた。

 

 それは腕を組み、潮風に銀の長髪を靡かせる女騎士だった。

 

 女騎士―【チャリオット】は無機質な瞳でグロークを見下ろす。

 

「目標・視認」

 

『うむ! ここからは任せよう!』 

 

「了解・出撃」

 

 チャリオットは船首から戸惑うことなく飛び出す。

 

 すると、背中と足裏からオーラが噴き出して、猛スピードで浜辺へと飛翔する。

 

「な、なんだよ一体……!?」

 

 すぐ傍に着地したチャリオットに、グロークは完全に混乱していた。

 

 チャリオットはグロークの反応を無視して、まっすぐ見据える。

 

「討伐・開始」

 

 拳を構えたチャリオットはグロークに向かって駆け出す。

 

「っ!! なめんじゃねぇ!!」

 

 勢いよく迫ってきたチャリオットに、グロークは意識を切り替えて口を大きく開いて待ち構える。

 

 チャリオットは一切躊躇することなく、右拳を振り抜く。

 グロークはその拳を噛み砕こうとその口を勢いよく閉じる。

 

 グロークは大きく顔を仰け反らせて、後ろに数mほど滑って後退する。

 

 しかし、倒れることなく、すぐに体勢を立て直して得意げに笑みを浮かべる。

 

「へっ! やるじゃねぇか! ちょっと痛かったぜ。けど、お前はすげぇ痛そうだワなぁ」

 

 愉快気に語るグロークの目には、右肘から先を失ったチャリオットの姿が映っていた。

 

「思ったより脆い鎧だワな。簡単に噛み砕けちまったぜ」

 

「……」

 

 チャリオットは一切表情を変えずに、喰われた腕に目を向ける。

 

「損傷・確認。具現化系ユニット・修復開始」

 

「あ?」

 

 訝しむグローク。

 

 直後、チャリオットの右肘からオーラが噴き出したかと思うと、あっという間に右腕が復活した。

 目を見開いて固まるグロークを尻目に、チャリオットは右手を離握手をして感覚を確かめる。

 

「動作・異常なし。戦闘続行・支障なし」

 

「な、なんだよ……。お前……!?」

 

「コードネーム・【チャリオット】・殺し屋」

 

「殺し屋ぁ? だ、だとしても、どうやって腕を再生させやがった!? いくら念能力でも、そんな簡単に再生するもんじゃねぇだろ……!?」

 

「我・身体・人間・否」

 

 チャリオットは拳を握った右腕をグロークに向けて突き出す。

 

「操作系ユニット・放出系ユニット・起動。ライトアーム・ロケットパンチ・発射」

 

 すると、右肘からオーラが噴き出して、勢いよく右手が発射された。

 

「なぁ!? ガフッ!?」

 

 驚いて固まってしまったグロークの鳩尾に、放たれた右拳が突き刺さってくの字に吹き飛ぶ。

 チャリオットの右手は巻き戻されたかのように、チャリオットの身体に戻る。

 

 そして、足裏からオーラを噴き出して、大量の砂を巻き上げてグロークへと飛び迫る。

 

「このっ!! くそがぁ!!」

 

 グロークは起き上がりながら体を捻って、尻尾を全力で振る。

 

「強化系ユニット・出力増強。身体構成・具現化系ユニット・硬度増強」

 

 猛烈な勢いで迫る尻尾に、チャリオットは冷静に言葉を呟き、左腕を顔の横に上げてグロークの尻尾を完璧に受け止める。

 

 吹き飛ぶどころか動くことすらなく、先ほどのように砕けるどころか凹みすらしなかった。

 

「なっ……!? (嘘だろ……! 噛みつきと大して威力は変わらねぇんだぞ!? なのに、今度は傷1つ付かねぇだと!?)」

 

「出力・硬度・問題なし。戦闘・継続」

 

 チャリオットは右アッパーを繰り出して、グロークの出っ張った下顎に叩き込んだ。

 

「ゴブゥ!?」

 

 牙が数本折れ飛ばして顔を跳ね上げるグローク。

 

 続けてチャリオットは左手を広げて、グロークの胸に向ける。

 すると、左手の平が僅かに開き、小さな銃口が露出する。

 

「放出系ユニット・起動。レフトハンド・オーラキャノン・発射」

 

ドォン!!

 

 左手からバスケットボール大の念弾が発射されて、グロークの胸に叩きつけられてくの字に吹き飛ばす。

 

 グロークは浜辺を勢いよく転がっていき、仰向けに止まる。

 胸から煙が上がっているが、グロークは呻きながらゆっくりと起き上がる。

 

「ぐ……! 何なんだよ、お前は……!?」

 

「……標的・損傷軽微。標的硬度推測値・修正。放出系ユニット・出力増強・オーラ消費量増加。標的潜在能力不明・オーラ消費量増加・危険・可能性あり」

 

 グロークはチャリオットの人間離れした戦い方に、ただただ戸惑う。

 チャリオットもグロークの想像以上の頑丈さに内心驚いていた。

 

 それを船から観戦していたシーフは腕を組んで、グロークの頑丈さに感心していた。

 

「ふむ……我らの魚雷にも無傷で耐えきっただけはある。あの【ゴーレム】の攻撃にも無傷とはいかぬとはいえ、軽傷で耐え抜くとはな」

 

「大丈夫なの? ジョーカー。あのチャリオットが倒すのに手間取るなんて、只事じゃないわよ?」

 

 豹の仮面を被る仲間の女が、シーフに声をかける。

 シーフは仲間からはジョーカーと呼ばれている。

 

「問題ないさ。確かに今は手間取っているが、まだゴーレムも本気ではないだけだ。相手は念能力を持つキメラアント。下手に決めにかかって、反撃を喰らえばタダではすまない可能性があるからな」

 

「けど、チャリオットの攻撃に耐えるなんて、やっぱりこの眼で見ても信じられないわ。チャリオットって言えば、その名の通り戦車の如く頑丈さとパワーで敵を薙ぎ倒していく闇の世界でも上位に入る実力者。その攻撃を受けてすぐに起き上がって、一度とは言え噛み砕くなんて……」

 

「ってゆーか、俺はあの腕の再生の方に驚いたけどな」

 

 肩に棘が生えたライダースーツを着た女性や髑髏仮面を着けた男の言葉に、仲間はそれぞれに反応を示す。

 

「故に彼女は【ゴーレム】なのさ。あの身体は全てオーラで具現化されている」

 

「けど、それにしては……」

 

「硬く、パワーがあり、念弾を撃てるのはありえない、か?」

 

「ええ」

 

「答えは簡単だ。あの身体もこの【世界を渡る秘宝艦】同様、相互協力型の能力で造られているのさ。まぁ、正確には強制徴収型能力、かな?」

 

「強制徴収型能力?」

 

「あの身体を具現化して操っているのは本人だが、それ以外の強化や放出系は他者から無理矢理オーラを引き出して使っているんだ。意識を失わせた囚人や奴隷を使ってな」

 

 とある兄妹がいた。

 兄妹はとても仲が良く、兄は研究が好きで、妹は戦いが好きだった。互いに念を修得し、それぞれに念を極めようとしていた。

 

 だがある時、妹は事故で四肢を失い、寝たきりの身体になってしまった。

 

 それに嘆いた兄はある装置を作り上げた。

 寝たきりの妹に新しい体を造る装置だ。

 

 妹のオーラを増幅させて、【チャリオット】の身体を具現化させ、意識をその身体に移す。

 それ自体は珍しい能力ではないが、やはり戦闘力はどうしても低くなり、長時間身体を維持するのも難しかった。

 

 その課題を克服したのが『オーラ強制徴収装置』である。

 妹が寝ている装置の周りに、数人の人間を同じく装置に寝かして妹の装置に繋ぎ、その者達を『ユニット』及び『オーラの燃料タンク』として活用する術を編み出したのだ。

 

 強化系、具現化系、放出系、変化系、操作系の五系統を持つ人間達を繋いで、それぞれに強化させる『ユニット』。更に系統関係なく人間達を繋いで、単純にオーラを補充する『燃料タンク』としたのだ。

 

 繋ぐ人間達は死刑囚や奴隷、犯罪者達のみとしており、そのために殺し屋となって仕事をしながら人材調達を行っていたのだ。

 

 兄は妹を救け、研究を続ける金と()()を得る。

 妹は偽の身体とは言え、戦うことが出来る。

 

 故に【チャリオット】である兄妹は、よほどのことがない限り依頼人を裏切らないのだ。

 

 【チャリオット】の正式名にして、能力名は【人造戦乙女(ヴァルキュリアドール):ブリュンヒルデ】。

 

 美しい兄妹愛が成した、人道的目的で生み出された非人道的な能力である。

 

「変化系ユニット・起動。レフトアーム・オーラブレード・展開」

 

 チャリオットの左手が変形して、剣と成る。

 

 剣を構えて猛スピードで飛び出し、グロークに一気に迫る。

 

「ぐぅ! うぉらアアアア!!」

 

 グロークは折れた歯を食いしばりながら、全力でオーラを籠めながら尻尾を叩きつけようと振り抜く。

 

 チャリオットは徹頭徹尾表情を変えることなく、剣となった左腕を振り上げて、グロークの尻尾を難なく斬り落とした。

 

「ギャアアアア!?」

 

 チャリオットはすぐさま刃を切り返して、グロークの右脚を斬り落とす。

 グロークは仰向けに倒れて、痛みにのたうち回る。

 

 チャリオットは足裏からオーラを噴き出して、高速で飛び上がってグロークの真上に移動する。

 

 そして、右貫手を構え、

 

「変化系ユニット・強化系ユニット・起動。ライトアーム・オーラドリル・駆動」

 

 右手が勢いよく回転を始め、ドリル状になる。そして、硬度を強化して、全力で右手をグロークの顔面目掛けて突き出す。

 

「や、やめろオオオオオゴゴッ――!!」

 

 グロークの喉奥に、無慈悲のドリルが突き刺さる。

 仰向けになっていたためにドリルは脳をも貫いて挽き潰す。

 

 ビクリと大きく体を跳ねさせて、グロークの身体から力が抜ける。

 

 完全に動かなくなるまでチャリオットはずっとドリルを押し込み続け、死んだことを確認して右手を元に戻す。

 

「討伐・遂行確認」

 

『ふはははは!! 見事だ、〝金剛傀儡〟【ゴーレム】よ! その死骸は我らが貰い受ける!』

 

「了解。今後・任務続行?」

 

『うむ。もう少し近海を捜索する。少しでも討伐数を増やせば、報酬も増えるだろうからな!』

 

「了解」

 

 チャリオットはグロークの死骸を担いで、船へと戻る。

 そして、周囲にまだ潜んでいた兵隊蟻を次々と討伐していくのだった。

 

 

 

 

 時は変わって、ラミナとキルア達が修行を始めた頃。

 

 場所はミテネ連邦が一国【ハス共和国】の街。

 

 普段は楽し気な声で賑やかな街なのだが、今は悲鳴と怒号が飛び交っていた。

 

 街中にパトカーが走り回り、警官達が顔を強張らせて拳銃を構えて、ある生物に銃口を向けていた。

 

「カブシ! カァブシ!!」

 

 暴れていたのはカマッスだった。

 

 パトカーを片手で掴んで持ち上げて、猛スピードで近くの建物に投げて叩きつける。

 警官達は発砲するも、カマッスの硬い筋肉が覆う身体を貫けずに弾かれる。

 

 それに警官達は顔を恐怖に染め、構えた拳銃は震えている。

 ロカリオ共和国や他国で出現しているキメラアントの情報はもちろん警官達も知っている。その全てが甚大な被害を受けている事も、そして被害のほとんどが警官ばかりだという事も。

 まだキメラアントであるという情報はなく、新種の魔獣とされているが、それでも時期的にその新種の魔獣だと警官達は嫌でも理解してしまう。

 

 次にニュースで被害者として報じられるのは、自分達。

 

 その事実に警官達は恐怖で支配されてしまう。

 

 そして、それを証明するかのようにカマッスの目が警官達に向く。

 

 その時、

 

ガサッ!

 

 カマッスのすぐ横にある公園の茂みが動いて、音を立てる。

 

 それに全員が目を向けるのと同時に、茂みからフードを被った少年が顔を出す。

 

「ふぅ……。む? なんじゃ、取り込み中のようじゃのぅ」

 

 脳天気に言う子供に、警官達は一瞬唖然としてしまうが、すぐにハッとして、

 

「危ない!! すぐに逃げなさ――」

 

「カブシ!!」

 

 警官の警告も空しく、カマッスは少年にターゲットを変えて、勢いよく駆け出して襲い掛かる。

 

 警官達は発砲しようとするが、少年に当たる可能性があり、発砲を躊躇してしまう。

 

 そして、カマッスの大きい右手が少年へと迫る。

 

 それに警官達はカマッスに少年の頭が握り潰される光景が頭を過ぎり、絶望に襲われる。

 

 

ズドン!!

 

 

 カマッスが右腕を伸ばし切ると同時に、鈍い音が響き渡る。

 警官達は思わず目を瞑って顔を背ける。

 

 そして、ゆっくりと目を開いて顔を向けると、飛び込んできた光景に目を見開く。

 

 上から押し潰すように伸ばされたカマッスの右手を。

 

 

 少年は左腕一本で受け止めていた。

 

 

「カ、カブシ……!?」

 

「う、嘘だろ……?」

 

「な、なんだあの子供は……」

 

「ふむ……随分と節操のない虫じゃの。まぁ、虫に節操を求めるのもおかしな話かの? いや、人と混ざっておるのじゃから間違ってもおらんのか? う~む……面倒な輩じゃのぅ」

 

 少年―【アルケイデス】は周囲の反応を気にも留めずに呑気に独り言を呟く。

 

 それにカマッスは馬鹿にされたと感じた。

 

「ウ゛~! カブゥシッ!!」

 

 カマッスは右手を放して左拳を握り締め、左腕を勢いよく振り被る。

 

 それに今度こそ警官達は最悪の光景を想像する。

 

 カマッスが左拳を振り下ろす。

 

 

 猛烈な勢いで迫るその拳を、アルケイデスは右裏拳で難なく弾いた。

 

 

 アルケイデスは軽く振っただけのように見えたのに、カマッスの左腕は物凄い力で弾かれたように跳ね上がった。

 カマッスは数歩後退し、僅かに痺れる左手に驚く。

 

「カブッ!?」

 

「ふむ。力は中々じゃの。やはり四本脚故に力を乗せやすいということか」

 

「カブゥ……! カァブッシイイイイ!!!」

 

「おぉ」

 

 カマッスは両腕を上げて怒りに叫び、全身から膨大なオーラを噴き出す。

 

 想像以上に力強いオーラに、アルケイデスは小さく感嘆の声を上げる。

 

「カァブ、カブカブカブカブカブカブカブカブ!!!」

 

 カマッスは強烈なラッシュを繰り出して、アルケイデスに叩きつける。

 

 警官達は今度こそ終わりだと思ったが、

 

 

ダダダダダダダダダダ!!!

 

 

 アルケイデスも高速で両腕を動かして、小さな拳でカマッスの大きな拳を全て弾いていく。

 

 その場から一歩どころか半歩も動いておらず、踏ん張る様子も見せずに涼しい顔でカマッスの猛攻を防ぐアルケイデスに、ようやく警官達はアルケイデスがただの子供ではないことを理解する。

 と言っても、アルケイデスはフードを深く被っているので、本当に子供なのかどうかも判断出来ていないが。

 

「ふむふむ。どうやら力に任せて、オーラについては全くの未熟のようじゃのぅ。まぁ、小童並みの知能しかないお主が蟻の中でどれほどなのかは知らんがな」

 

「カ、カブ……!」

 

「どうやら、お主からはこれ以上得るものはなさそうじゃの」

 

 そう言ったアルケイデスは、未だ連続で殴りかかっていたカマッスの右手首を難なく掴んで、軽く捻ってカマッスの右腕を肘あたりで引き千切った。

 

「カブッシャア!?」

 

 自慢の腕がいとも簡単に千切られたショックと痛みに悲鳴染みた声を上げる。

 

「ほれ、驚いておる場合か」

 

 アルケイデスはいつの間にかカマッスの後ろ脚を掴んでいた。

 カマッスは振り解こうとしたが、直後物凄い力で引っ張られたかと思ったら、地面に背中から叩きつけられていた。

 

「カブシッ……!?」

 

「まだまだじゃのぅ。力にかまけておるからじゃ」

 

 警官達は目にした光景を受け入れられなかった。

 自分達よりも小さい子供が、自分達よりも大きい怪物を片手で持ち上げて叩きつけたのだから。

 

「カブ……! カブゥウ!!」

 

 カマッスは左腕を振り上げて、左拳にオーラを集中させる。

 

「む」

 

 アルケイデスはそれを見て、後ろに跳び下がる。

 カマッスはそれに構わず左拳を勢いよく地面に叩きつけた。

 

 地面が爆ぜて土が舞い、一瞬カマッスの姿を隠す。

 

 直後、カマッスが土煙から猛スピードで飛び出してきて、アルケイデスに背を向けて一目散に逃げ出した。

 アルケイデスはその逃げ足の速さに呆れるやら感心するやらだった。

 

「やれやれ……潔いと言うべきか、情けないと言うべきか。はぁ……普段ならばあんな小童放っておくところじゃが……」

 

 そう呟いたと思ったアルケイデスの姿が消えたかと思うと、すでに数百mほど離れていたカマッスの真横に現れる。

 

「カブゥ!?!?」

 

「スマンが依頼主の意向での。見かけた虫は一匹残らず踏みつぶすようにと言われておる」

 

「カッ、カァブシイイイ!!」

 

 カマッスは恐怖を振り払う様に左腕を振る。

 

「遅いわい」

 

 アルケイデスがそう言うと、カマッスの左腕が半ばから千切り飛ばされる。

 

「ガッ!? カァブウウ!!」

 

 カマッスは一瞬痛みに呻くが、すぐに気を取り直して鋭い口をアルケイデスに向けて鋭く突き出した。

 

 

 それをアルケイデスは、【凝】を行った右人差し指でいとも簡単に受け止めた。

 

 

「抗う心意気は認めてやるが、せめて【凝】くらい使うべきじゃったのぉ。さすれば、指2本は使わされたじゃろうな」

 

 アルケイデスは素早くカマッスの鋭い口を摘まんで引き下ろす。

 

 カマッスは全く逆らえずに頭を下げる姿勢になり、その勢いを利用してアルケイデスは跳び上がって、空中で逆様になりながらカマッスの上に移動する。

 

「恨むなら、虫なんぞに生まれ変わった己を恨むんじゃぞ」

 

 アルケイデスが足を振り下ろす。

 

 カマッスはちょうど頭を上げているところで、アルケイデスの爪先がカマッスの頭に軽く触れた瞬間、

 

 

ドヂャン゛!!

 

 

 と、カマッスは一瞬でペシャンコに潰れて、息絶えた。

 

 アルケイデスはまさしく虫のように潰れたカマッスの死骸の傍に下り立ち、パーカーのポケットに両手を突っ込む。

 

「ふむぅ……。虫に食われて虫になっただけでも不運じゃというのに、虫になったせいで虫けらのように潰されて殺されるとは……。なんとも哀れじゃのぅ。まぁ、殺した儂が言うことではないかもしれんが」

 

 アルケイデスは苦笑して、駆け寄ってくる警官達の気配を感じ取る。

 

「さて……引き止められる前におさらばするとしようかの。連絡が来るまで暇じゃし、この周囲の虫共くらい駆除しながら、ラミナの顔でも見に行くとするか。ゼノの孫もおるようじゃしの」

 

 楽し気に笑みを浮かべるアルケイデスは、その場から一瞬で姿を消す。

 

 その日以降、ハス共和国でキメラアントの目撃・被害情報が上がることは一切なかったそうな。

 

 しかし、ハス共和国内の各地でペシャンコに潰された未確認生物の死骸が発見されたのだった。

 

 




【ザ・ファントム】の戦闘シーンは別の機会で。

【チャリオット】の能力はハンゾーの【分身の術】の強化版のような物ですかね。

【アルケイデス】は少しでも卓越した実力の鱗片を感じ取って頂ければ幸いです。
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