暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#113 ライホウ×ト×ヒトツノタノミ

 ラミナとキルア達が合流して1週間が経過した。

 

 キルア達は修行を続けており、ラミナは修行の面倒を見ながら裏の情報筋からキメラアントの情報を集めたり、モラウやノヴも時折顔を出しながらハンター協会から派遣されてきたハンター達と共にキメラアントの捜索と情報収集に動いていた。

 

 ゴンはラミナとキルアの監督の元、基礎修行と組み手に終始していた。

 

 全身に超重量の重りを着けて走り込みや筋トレをさせられたり、その状態でナックルやキルアと組み手をしていた。

 

 ブラールはシュートと組んで修行していた。

 シュートは3つの手を操りながらブラールを追い回し、ブラールは能力を発動しながらシュートから逃げ続ける鬼ごっこである。

 2人は森の中を飛び回り、互いに能力の精度向上を目指していた。

 

 ティルガはひたすら能力向上とナックルやラミナとの組み手をしていた。

 

「おい、キルア」

 

「ん?」

 

「ゴンとの組み手、もう少し殺気出してやりぃ」

 

「え? ……そういうことか。分かった」

 

 キルアはすぐにラミナの意図に気づいて頷く。 

 

 そして、すぐにゴンとの組み手を始める。

 ゴンはいきなり殺気を出して襲い掛かってくるキルアに戸惑うが、すぐにキルアの猛攻にそれどころではなくなり、必死に動き回っていた。

 

 それにナックルは盛大に顔を顰めて、ラミナに顔を向ける。

 

「オイコラ。何企んでんだぁ?」

 

「何もクソも、ゴンに少しでも肌で殺気を感じ取って反応出来るように鍛えるだけや」

 

「あぁん?」 

 

「ゴンは所々獣染みとる癖にどうにも気配や殺気に鈍感やねん。視線とかも気付けるんが理想やけど、流石にそこまでは無理やろうから、せめて気配と殺気だけでも反射的に反応出来るレベルになってもらわんと」

 

「ゴンだってそれなりに死線を越えてんだ。それくらいもう出来るだろ」

 

「出来る状態になるまで時間かかんねん、あいつは。戦闘になってからでないと敏感にならんなんざ遅すぎるわ」

 

「……まぁ、な」

 

「護衛軍はもちろん、師団長以下も混ざった動物によっちゃあ気配も殺気もギリギリまで隠して攻撃できる奴が多い。特に【絶】は天性のモンや。つまり、今のゴンではエンジンがかかる前にやられる可能性があんねん。やから、気配や殺気くらい普段の状態から反応できるようになってもらわんと、ネフェルピトーと戦うどころやないで」

 

 特にネフェルピトーやアモンガキッドは、感覚の範囲外から一瞬で襲い掛かってこれるだけの身体能力や念能力を持っている。

 その一瞬に反応できる反射的な動きを身につけておかないと、何も出来ずに負ける。

 

 キメラアントの恐ろしいところは、ネフェルピトー達と同じことを出来る可能性が兵隊長クラスでもあるということだ。

 ブラールも梟の特性から気配を出来る限り感じさせずに近づくことは可能だし、ティルガやコルトの話では体を透明に出来る師団長もいるという話を聞いている。

 

 なので、ゴンの感覚を鍛えるのも必須事項なのだ。

 

 しかし、時間が足りない。だから、実戦形式で鍛えるしかない。

 

「ま、もうゴンに関しては勝つよりも死なんようにする術を叩き込むしかないでな。現状を続けるしかないわ」

 

「……確かにな」

 

 死ななければ、いつかチャンスが来る。

 それは経験豊富な者ほど、その事実が何よりも重要であることは身に染みている。

 

 勝つ手段も重要ではあるが、それは自分が無事で、その勝つ手段を使える状態であることが絶対条件。

 ゴンは少なくとも【ジャジャン拳】という相手を殺しうる技があるので、一番の課題はその技を十全に使えるように戦い、生き残ること。

 

 故に少しでも身体能力や身のこなしを向上させ、気配や殺気を感じる感覚を鍛える必要があるのだ。

 

「ネフェルピトーに辿り着くまでに、他の護衛軍や兵隊蟻に遭遇するかもしれんしな」

 

「……ボスの話じゃ、ハンター協会が続々と蟻を討伐または捕獲してるらしいが、数匹は逃げて東ゴルトー方面に向かったらしい」

 

「らしいな。けど、まだ師団長らしき奴は見つかっとらんのやろ?」

 

「ああ。コルトやティルガに確認してもらった限りじゃな。ただ、隣のハス共和国でもキメラアントが出たらしいが、なんでも子供に叩き潰されたらしいぜ」

 

「子供ぉ?」

 

「おう。フードを被ったガキで、とんでもねぇ力を持ってたそうだ。警官が多数目撃してる。そのガキはいなくなったらしいがな」

 

(アルケイデス、やな。こっち来とるっちゅうことはネテロにでも呼ばれたか……)

 

 アルケイデスの存在を知ったラミナ。

 連絡する手段はないので、会おうにもどうしようもないのだが。

 

(まぁ、来とるなら来とるでええか。あの爺なら護衛軍でもない限り殺されやせんやろうし。1人でも東ゴルトーに行けるやろ)

 

 出来れば自分達が行く前に、仕留められるだけ仕留めておいて欲しいと思うラミナだった。

 一番は護衛軍も1匹くらい殺してくれることだが、流石にそこまで他人任せにするわけにもいかない。

 

(なにより、そんなことまでされたら後からどんな無理難題を言われるか分からんでな)

 

 ラミナは小さくため息を吐いて、ティルガの組み手をして気晴らしすることにした。

 

 

 ラミナとティルガの組み手は、かなり激しいものだった。

 

「はああああ!!」

 

 ティルガが気合に吼えながら、鈎爪状にした両手を連続で繰り出し、鎌鼬の如く風を斬り裂きながらラミナに攻めかかる。

 

 しかし、その猛攻をラミナは柳のように紙一重で、されど軽々と躱していく。

 

「ぐっ……!」

 

「速さに力も申し分ないけど、狙いも軌道も素直過ぎや。構えた瞬間に何処を狙う気なんかすぐに分かってまうで」

 

 ティルガは一度距離を取って、呼吸を整える。

 ラミナはポケットに両手を突っ込んで、仁王立ちする。ちなみにゴンやキルア達も2人の組み手を観戦していた。

 

「虎咬拳を極めたい気持ちも分かるけど焦り過ぎや。虎咬拳は確かに強力な武術やけど、それだけやとゴンの【ジャジャン拳】と変わらん。ええか? 必殺技で大事なんは『確実に当てること』。フェイントや蹴り、その牙とかも使えるもんは全部使って、それを織り交ぜろや」

 

「全部……織り交ぜる」

 

「その両手以外にも注意を向けさせるんや。『死なんまでも、やられたら動きが鈍る』とかな。ゴンに言うたんと同じや。一つしか注意せんでええなら、なんも怖ないんや」

 

「なるほど……」

 

「それと蹴りやフェイントを織り交ぜる程、虎咬拳の威力はギリギリまで隠すことも出来る」

 

 ラミナはポケットから両手を出して、拳を構える。

 

 そして、ティルガに詰め寄って右フックを繰り出す。

 

 ティルガは左手掌を構えて掴もうとするが、直前で右拳が止まり、ラミナの左脚が振り上がる。

 それを右腕で防ごうとしたティルガだが、ラミナは左脚を直前で止めて、右脚を折り曲げることで身を屈ませる。そして、それまで見せた以上の速さで左ストレートをティルガの鳩尾に叩き込んだ。

 

「ごっ!!」

 

 ティルガは顔を顰めて、後ろに下がる。

 

 ラミナは立ち上がって、腕を組む。

 

「こういうこっちゃ。フェイントを織り交ぜて相手の防御を誘導し、自分の一番の攻撃を叩き込めるようにチャンスを作るんや。やけど、それにはそれぞれの攻撃が脅威と思わせるか、無視出来んと思わせなあかん」

 

「確かに……我にとって其方の攻撃はどれも無視できるものではない。それ故にフェイントの効果が上がるということか……」

 

「そやな。キルアやったら電撃に暗殺術、ナックルは【天上不知唯我独損】、シュートにも【暗い宿】と、触れられたらヤバイと思わせるモンがある。ゴンにはそれがないから未熟っちゅうことや。まぁ、念能力者の戦いは基本的に接触を避けるんが定石やから、躱せるなら躱した方がええんやけどな」

 

「……我の場合は虎咬拳、と言う訳か。だが、避けられれば意味はない」

 

「そういうこっちゃ。やから、体術やフェイントとかの技術は重要や言うとるんや。理解したか?」

 

「ああ」

 

 ティルガは真剣な表情で頷く。

 ラミナは難し気に眉間に皺を寄せているゴンにも顔を向けて、

 

「お前も頭に刻んだか?」

 

「……うん」

 

「お前は性格的に武術は向かんやろうから、ナックルやキルアとの組み手で独自に覚えるんが一番早い。そんで、これが殺意を持てっちゅう理由でもある」

 

「え?」

 

「お前のことや。トドメ刺す時くらいやないと、殺気なんて籠めれんやろ? つまり、敵からすりゃあ殺気がない攻撃は恐れるに足らんっちゅうわけや。うちやったら、殺意がない攻撃なんぞ無視するでな」

 

「……」

 

「ティルガも同じや。籠める殺気に差があってもええけど、フェイントやからって気ぃ抜くとカウンター喰らうで」

 

「ああ」

 

「ほな、ティルガは少し休憩。他の連中は特訓再開せぇや」

 

 ラミナが指示を出した、その時。

 

 

「ふむ……感心感心。思っておったより師匠っぷりが様になっておるのぅ、ラミナ」

 

 

 頭上から響いてきた声に全員が弾かれたように顔を上げる。

 

 樹の一番上にフードを被った少年―アルケイデスが口元に笑みを浮かべて立っていた。

 

「げっ……」

 

 ラミナは頬を引きつかせて、カエルが潰れたような声を出す。

 

 そして、ティルガとキルアはアルケイデスの気配を読んで背筋に悪寒が走った。

 

(っ!? なんだ……あの得体の知れん者は……!? キルアやゴンとは……いや、ラミナとすらも比べる気にならん血と死の気配……!?)

 

(ネテロ会長や爺ちゃん、親父と同格……? いや、もしかしたらそれ以上……!? 冗談だろ……!?)

 

 アルケイデスは樹の上から軽やかに飛び降りて、音もなく着地する。

 ラミナは眉間に皺を寄せて、腕を組む。

 

「……よぉここが分かったな」

 

「あれだけ闘争の気配を出しておれば嫌でも気づくわい。それにしても……」

 

 肩を竦めたアルケイデスは、音も気配もなくスゥとキルアの正面に移動して、覗き込むように顔を近づける。

 キルアはその動きに逆に動けなくなり、目を見開いて緊張で冷や汗を流す。

 

「っ……!!」

 

「ふむふむ、ほうほう。お前がゾルディックの小童か。中々面白い成長をしとるのぅ。ラミナの影響か?」

 

「っ……う、うるせぇな……」

 

「くくく! 初心じゃのぅ。じゃがまぁ、確かによく鍛えられておるし、いずれゼノやシルバの坊主を超えるのも可能じゃろうな」

 

「……」 

 

「そこのもう1人の坊主も今はまだ未熟で些か歪じゃが、見込みはありそうじゃの。そっちの2人も、まぁ小童達ほどではないにしても、中々に将来有望そうじゃな。少し甘いところもあるようじゃが……まぁ、儂らのように殺し屋でも闇の住人でもないのじゃから、あまり気にすることもあるまいて」

 

 ゴン、ナックル、シュートを順に見て、評価していくアルケイデス。

 

 ゴンやナックル達は突然現れた只者ではないであろう見た目子供の言葉に眉を顰める。

 

「オイコラ。誰なんだ? こいつは」

 

「コイツは【アルケイデス】っちゅう殺し屋や。こんな見た目でも齢80を楽に越えとる世界最強最悪のクソジジイの一人や。流星街と外界を繋ぐ顔役でもあり、うちも含めて流星街の外に出た住人の世話役や。うちの師匠言うても過言やないな」

 

(こ、こいつがアルケイデス……!?)

 

 キルアは目を丸くする。

 

 ゼノやシルバ、そして珍しくキキョウから『もし出会ったら絶対に手を出さず、逆らうな。敵対すれば、ゾルディック家は滅ぶと思え』と何度も聞かされたことをよく覚えている。

 

(そう言えば、お袋の故郷は流星街だって聞いたことあったな。それに執事にも流星街出身がいるってゴトーが……。親父がお袋と結婚した時とかにコイツと会った可能性は高いか……)

 

「くくく! まぁ、クソジジイは否定せんがの。世界最強最悪と言うのは、否定させてもらいたいのぅ。まだゾルディックの長老も存命じゃし、衰えてはおるがネテロの奴もおるでな」

 

「んで、そのネテロの依頼でここに来たんか? ジジイ、ネテロから暗殺の婚前契約受けとったんやろ?」

 

「うむ。最初は断ろうと思ったんじゃがのぉ。随分と切羽詰まっておる顔をしておったからな。奴をそこまで追い詰める相手じゃ。噂程度ならば捨ておいたかもしれんが、細かく知った以上放置するのも少々寝覚めが悪い」

 

「……まぁ、猫の手も欲しいところやったから、爺が参戦してくれるんはありがたいけどな」

 

「あぁ、言うておくが儂が手を貸すのは王の討伐だけじゃ。他の護衛軍とやらはお主らで相手してもらうぞい」

 

「おいクソジジイ」

 

「くくく! ネテロの手伝いが依頼じゃからのぉ。ま、お主らが動くまでは雑魚共の始末くらいはしてやろう。隣のハス共和国の方はあらかた始末してきたがの」

 

「ほなら、とっとと東ゴルトーに突っ込んでこいや」

 

「そこまで老骨を折る気はないの。そもそもネテロやお前がしっかりと始末しておれば済んだ話ではないか。儂はお前の尻拭いで来たという事を忘れるでないわ」

 

 アルケイデスの言葉に、ラミナはそっぽを向く。

 それにアルケイデスは苦笑し、ティルガとブラールに顔を向ける。

 

「ふむ……。ラミナが鍛えておるとはいえ、これまでの蟻とは一味違うの。特に虎の娘」

 

「こいつは師団長やったでな」

 

「ほうほう、なるほどのぉ。それにしても、虎に虎咬拳を教えるとは、お前はそういう発想を思いつくのがほんに上手いのぅ」

 

「どこぞのクソジジイに何度も殺されかけたでな」

 

 ただでさえ当時は体も体術も未熟だった。

 そんな状態でアルケイデスに鍛えられたのだ。肉体スペックに差があり過ぎて、小技を考えるしかなかったのだ。

 

「あの頃のお前はまだ可愛げがあったがのぉ。どこでその可愛さを捨ててしもうたのか……」

 

「お前にいきなり流星街に攻め込んだマフィアの拠点に放り込まれた時や」

 

「……おぉ、そんなことあったのぅ」

 

 アルケイデスは思い出したように声を上げ、ラミナはもちろんキルア達も呆れた表情を浮かべる。

 

 アルケイデスはふざけていたわけではなく、ラミナ以外にも色々鍛えてきた者達が数え切れないほどいるため純粋に忘れていたのだ。

 

「っていうか……ラミナ、アルケイデスの弟子なのかよ……」

 

「さっきも言うたやろ。流星街から出る奴らはこのクソジジイの世話になるんや。やから、クモのほとんどもうちと同じくこのクソジジイに鍛えられとるで」

 

「あのクロロや他の団員も?」

 

「そやな」

 

「ルシルフルはもちろん、クモの連中は流石に飛び抜けておったから、よぉ憶えておるのぅ。今ではすっかり儂より有名になりよったがの。まぁここ最近、一番名を良くも悪くも広めたのはラミナじゃがな」

 

「ほとんどクロロの依頼のせいやけどな」

 

 そう言って、ラミナは肩を竦める。

 

 アルケイデスはくつくつと笑い、

 

「あ奴らに振り回されるのは昔からじゃろうに。さて、今日は久方ぶりにお前の飯でも馳走になろうかの」

 

「いきなりやなオイ。まぁ、どうせ今日も作るやろうけど」

 

 屋敷にいる間の食事はラミナが作っていた。

 パームも料理が出来るが、パームは現在ノヴの手伝いで蟻の捜索や王達の監視をしているので、ここにはいなかった。

 

 だから、料理が出来るのはラミナしかいない。

 

 ゴンとキルアはグリードアイランドでも食べたので驚くことはないが、ナックルやシュート、ティルガ達は想像以上に美味い料理に目を丸くしていた。

 

「前に忠告してやった駄賃じゃよ。誼でわざわざ伝えてやったんじゃ。お得じゃろう?」

 

「はぁ……粥でええか? ジジイやから顎弱いし、喉詰まらせたらいかんやろ?」

 

「アホ言うでないわ。まだまだ鉄くらいなら噛み砕けるわい」

 

「何の自慢やねん」

 

「ほれ、さっさと案内せぃ」

 

「はぁ……へいへい」

 

 ラミナはため息を吐いて歩き出し、アルケイデスもそれに続く。

 ティルガとブラールも付いて行き、キルアも行こうとするが、ナックルに声をかけられて足を止める。

 

「おいキルア。あのガキみてぇな奴のこと、どこまで本当なんだ? 確かにバケモンみてぇに強ぇとは思うが……」

 

「強いなんてレベルじゃねぇよ。それこそ、殺し屋界のネテロ会長みたいなもんさ。殺し屋やってて、アルケイデスの名前知らない奴なんかいないって断言できるくらいだね」

 

「キルアのお父さんより強いの?」

 

「多分な。親父や爺ちゃんも絶対手ぇ出すな、敵対したら家は滅ぶって言ってたし。……実際、さっきアイツを見た時、親父や兄貴、クロロよりも不気味に感じたしな。……むしろネフェルピトーに近い感覚だった」

 

 キルアの言葉に、ナックルは眉間に皺を寄せてアルケイデス達が去っていった方を見る。

 そこにゴンがもう1つ気になっていたことを尋ねる。

 

「ねぇ、婚前契約って何?」

 

「ん? ああ、依頼方式の1つだよ。つっても、この方法を選ぶなんて殺し屋同士で殺し合う時くらいさ。互いに自分自身をターゲットに指定して報酬を事前に用意し、暗殺勝負をして殺した方に報酬が入るんだ」

 

「けど、ネテロ会長は殺し屋じゃないよね?」

 

「よく使われるのが殺し屋同士ってだけさ。けど時々、腕に自信がある奴が名のある殺し屋に勝負を挑むために使うことがある。例えばヒソカみたいな奴がな」

 

「ネテロ会長も?」

 

「そういうことだろうな。アルケイデスは正体不明で有名だったけど、ビスケみたいに子供みたいな見た目してたなら納得出来る。ビスケもあの見た目で60近いんだ。他にもいたっておかしくない。だから、ずいぶん昔に依頼して、ずっと殺し合いしてたってわけさ。結構そういう遊びが好きらしいしな、ネテロ会長」

 

 ゴンはハンター試験での飛行船での遊びを思い出し、ナックルとシュートはモラウからネテロ会長の噂を聞いたことがあったので、納得の表情で頷いてしまう。

 

「ゴン、グリードアイランドで言ってたこと憶えてるか? お前の親父は念能力者としては世界で5本指に入るって話」

 

「うん」

 

「多分、アルケイデスは残った5本指の一本だ。それも、その中でも上に位置するな」

 

「あの人が……」

 

「ふん! また殺し屋かよ」

 

 ナックルは不満げに腕を組んで吐き捨てる。

 キルアは呆れた目をナックルに向ける。

 

「ラミナを呼んだのはネテロ会長じゃないんだろ? 会長が他のプロハンターを呼ばなくて手が足りなかったって、ラミナがボヤいてたしな。そんで、今回は会長も好き勝手に増援呼べないんだろ? 今あちこちに散ったキメラアントの捕獲や討伐に動いてるハンター達は、国や市からの要請でようやく動き出したくらいで、こっちに全然来ないみたいだし」

 

「……まぁ、な」

 

「だったら、ハンターじゃない実力者を呼ぶしかないだろ? それがアルケイデスだったってだけさ。それにアルケイデスが参戦するのは、あくまで王の討伐のみ。護衛軍まで手を割く余裕はなさそうだしな」

 

「つまり……王から護衛軍を分断することになるだろう俺達とは別行動、と言う訳か」

 

「ああ」

 

 シュートの言葉にキルアは頷く。

 キルアは3人に背を向けて、

 

「だから、アイツが何者かなんて気にするだけ無駄さ。そんなこと気にしてたらラミナや俺も問題だし、ティルガ達なんてもっと論外だ。そんなこと気にしてる余裕はないぜ。今の俺達じゃ、まだ護衛軍一匹を抑え込むだけでも命がけだ。ラミナがいてもようやく二匹。本当に猫の手も欲しい状況だ。この際、実力があって信頼できるなら誰でもいい。……それこそ、クモでもな」

 

 そう言い残してキルアは屋敷へと戻っていった。

 

 ゴンはともかく、ナックルとシュートはやはりどうにもしこりが残り、気晴らしにゴンの組み手に付き合うことにしたのだった。

 

 

 

 

 そして、深夜。

 

 ラミナとアルケイデスは屋敷の屋根の上で酒を飲んでいた。

 

「お前と酒を飲むのは初めてじゃのぅ」

 

「そう言やぁそうやなぁ」

 

「ふむ。意外と感慨深いもんじゃな」

 

「何やねん、気持ち悪い。死ぬ予感でもあるんか?」

 

「うむ。実はの」

 

 ラミナの冗談に、本気が混じった言葉で頷くアルケイデス。

 

 それにラミナも顔を鋭くして、

 

「……本気か?」

 

「うむ。数十年ぶりに本気のネテロの顔を見て、この仕事を引き受けた時になぁんとなくの」

 

「……」

 

「悔しいもんじゃのぉ。この数十年、老いぼれていくネテロを見て、殺す気にもならんかった儂も悪いが……。生まれたばかりの若造なんぞに、ネテロを本気にさせられたんじゃからな」

 

「嫉妬かい」

 

「そりゃあ嫉妬くらいするわい。儂が一番殺したかった男を蘇らせたのじゃからな。じゃから、儂こそが今一番王とやらを殺してやりたいんじゃよ」

 

「……まぁ、やる気あるんはええけど。それでも死ぬ気するんか?」

 

「うむ。ネテロが決死を覚悟しておるようじゃからの」

 

「……それだけの相手やからっちゅうにしては、随分と往生際が良さすぎるんちゃうか? それに何でうちに明かすんや?」

 

「お前に頼みがあっての」

 

「あん? 頼み?」

 

「……もし儂が死んだら、流星街を出る連中の世話役を引き継いで欲しいんじゃよ。お前にの」

 

 ラミナはまさかの頼みに目を見開く。

 

「………本気で言うとるんか?」

 

「うむ。本気も本気じゃよ」

 

 アルケイデスはグラスを一気に傾けて、酒を喉に流し込む。

 

「ふぅ……。お前は殺し屋としても、ハンターとしても、幻影旅団としても、顔が広い。流星街とも繋がりを残しておるし、実力も申し分ない。今日の指導も中々のものじゃったしの。お前ならば最低限の面倒は見れよう。邪魔をする者も少なかろうしな。ゾルディックも流星街の人材を引き入れやすくなるでな、手伝ってくれるじゃろうて」

 

「……」

 

「……お前には言うておこう」

 

「あ?」

 

「奴の心臓にはの、『薔薇の種』が埋め込まれておるそうじゃ」

 

「薔薇の種……? ………っ!! まさか……!? 【貧者の薔薇(ミニチュアローズ)】か……!?」

 

 アルケイデスは小さく頷く。

 

 ラミナは目を限界まで見開いて、ただただ唖然とする。

 

「もちろん、あくまで奥の手じゃ。自爆なんぞする気は儂もネテロも無い。じゃが、それでもの。死地に行くならば、やることはやっておかねばの」

 

「……ほんならうちに言うんはちゃうんとちゃうか? うちかて同じ死地に行く可能性があるんやぞ? 護衛軍に負けるかもしれんし」

 

「くくく! お前が出し惜しみなぞせねば、護衛軍の一匹二匹確実に仕留められるじゃろうに」

 

「簡単に言うなや」

 

「まぁ、駄目じゃったら、その時はその時じゃて。じゃが、儂が今頼むならばお前じゃというだけのことよ」

 

 アルケイデスはグラスを置いて、ゆっくりと立ち上がる。

 

「人生はままならんものよのぉ。ネテロを殺すために培った力を、ネテロを助けるために使うんじゃからな」

 

「……」

 

「まぁ、それもそれで面白いがの。殺し屋が己が死に場所を選べるわけも無し。覚悟を決めて後を託せるだけ、満足せねばなるまいて」

 

「……」

 

「ではの、ラミナ。殺されるまで、死ぬでないぞ」

 

 アルケイデスは軽やかに夜の帳へと身を投げ出して、闇の中に姿を消す。

 

 ラミナはアルケイデスが消えた場所をしばらく見つめ続け、

 

「……爺っちゅうんはこれやから……。好き勝手言うて、勝手に押し付けよってからに」

 

 ラミナはグラスに残った酒を飲み干して、アルケイデスが置いたグラスの横に自分のグラスも置いて立ち上がる。

 

「爺臭い世話役なんざ御免や。流星街はそもそもなんにも縛られん場所。まさしく流星みたいに、勝手に流れ落ちて、勝手に燃え尽きるだけ。それでも押し付けたいんなら、生き残って無理矢理言い聞かせに来いや」

 

 そう言い放って、2つのグラスを踏み砕く。

 

「蟻と薔薇なんぞに殺されたら、【アルケイデス】の名が泣くで」

 

 ラミナは自室へと足を向ける。

 

 

「ちゃんと踏み潰してこいや、お師匠」

 

 


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