暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#114 アサノヒトマク×ト×ヨルノカイギ

 修行を始めて2週間が経った。

 

「ふわぁ~……」

 

 朝。

 起床したキルアはあくびをしながら寝室を出て、リビングに向かう。

 

「水……」

 

 喉の渇きを感じ、眠け眼のままリビングの隣にあるキッチンに入ると、スポーツブラにホットパンツ姿のラミナが立っていた。

 

「っ!!」

 

「お、キルアか。おはようさん」

 

 キルアは一瞬で目が覚め、ラミナはフライパンを振るいながらキルアに挨拶する。

 

「お、お前な……! ちゃんと服くらい着ろよ……!」

 

「ええやんけ別に。裸っちゅうわけやないんやし。相変わらず初心なやっちゃな。仕事しとった時は女の裸くらい見ることあったやろ」

 

「仕事してた時はそれに集中してたから、いちいち女の裸を意識したりしねぇよ。仕留めるチャンスを窺うことに全神経注いでたんだから」

 

 キルアは頬を僅かに赤くして、腕を組んで言い訳する。

 もちろんキルア的には言い訳ではなく本当の事なのだが、ラミナには誤魔化しにか聞こえなかった。

 

 ラミナは肩を竦めて、完成したスクランブルエッグを皿に移そうとコンロの前から離れて、キルアに背を向ける。

 

 その時、キルアはラミナの背中に刻まれている蜘蛛の刺青を目にする。

 

「!! ……それが旅団員の証って奴か……」

 

「ん? ああ、せやで」

 

「その数字はお前が入った順番ってことか? カルトが『12』?」

 

「ちゃうちゃう。『11』はクラピカに殺されたウボォーが持っとった番号や。カルトはヒソカが持っとった『4』やな。まぁ、カルトは刺青なんざ入れとらんやろうけど」

 

「ふぅん……」

 

「んで? 何しにここに来たんや?」

 

「ああ、水飲みたかったんだよ」

 

「あっそ。飯出来たから、とっとと隣来ぃや」

 

 ラミナは皿を持って、リビングへと向かう。

 キルアはそれを見送って、コップを手にして水を一杯飲んでからリビングへと向かう。

 

 リビングにゴンやナックル達の姿はまだなく、いたのはティルガとブラールだけだった。

 

 そして、ブラールはいつもの恰好だが、ティルガはラミナ同様スポーツブラにハーフパンツとラフな格好だった。

 

「お前もかよ……」

 

「む? 何がだ?」

 

 ティルガはキルアが何に呆れているのか分からずに小首を傾げる。

 ティルガはただラミナと同じ格好をしているというのもあり、更に自分がキメラアントであることから自分が欲情の対象になるなど欠片も考えていないのだ。

 

 確かにティルガはキメラアントだが、耳や尻尾、手足の毛以外の身体つきは人間の女とほとんど変わらない。

 そして、十分美女である。

 

 前世となった少女も、まだそこらへんの感性を知る前にキメラアントに喰われたので、性欲などについては無知に等しかった。

 それ故に普段のティルガからは女っ気が一切ないのだ。

 

 自分が雌、または女であるという自覚が、ラミナ以上に全くないのだから。

 

「はぁ……まぁいいか」

 

 キルアは注意するだけ無駄だと理解して、ため息を吐いて諦めるのだった。

 

 

 

 

 修行は順調と言えば順調だが、十分かと訊かれれば間違いなく「ノー」である。

 

 ゴンは言わずもがなだが、ティルガもゴンの【ジャジャン拳】同様本来なら時間をかけて鍛え上げる能力なので、一定レベルまで成長すればそこからは時間がかかることになる。

 ブラールは能力の性質上、成長の確認が手間も時間もかかる。

 

 キルアも自分の修行よりゴンの相手をすることに時間を割いていて、自己の研鑽に集中し切れていない。

 もっとも、これはラミナがゴンを押し付けてたのが一番の原因であるが。

 

 だが、ラミナもラミナで修行があり、キメラアントの情報収集もし、更に何だかんだでゴン達の食事も作っているので、地味に屋敷にいるメンバーの中で一番忙しかったりする。

 

 ラミナはティルガ達の修行を見ながら、ノートパソコンを開いて情報収集をしていた。

 

「ふぅん……思たよりヨルビアン大陸に渡っとるな。兵隊蟻の奴ら」

 

 ニュースやハンターサイト、情報屋サイトなどを色々調べた結果、ヨルビアン大陸での目撃、捕獲、討伐情報が増加傾向にあった。一方ミテネ連邦では減少傾向にある。

 もっとも、NGLや東ゴルトーの情報はないのでロカリオ共和国、ハス共和国、西ゴルトー共和国の情報のみだが。

 

(ロカリオはうちやモラウ達がメインで動いとるし、ハスはアルケイデスが潰し回ったらしいから当然として……。西ゴルトーは派遣されたハンター連中やと思うけど、ほとんど逃げられとんなぁ……。まるで()()()()()()()()()()みたいに)

 

 もちろん、全ての兵隊蟻が逃げたわけではない。

 3割は捕獲されたが、残りは全て東ゴルトーに逃げ込まれたらしく、討伐された兵隊蟻はゼロとのことだ。

 

(まぁ、最終目標は東ゴルトーやから、逆に言えば王の元に集めたとも言えるか……。随分と厭らしいこと考える奴がおるみたいやなぁ)

 

 ラミナは明らかに作為的なやり方に眉を顰める。

 だが、それでも悪意しかないとも言い切れず、指摘したところですぐに言い訳が出来る状態だ。

 

 東ゴルトーは元々排他的な国で、ハンター協会とも距離を置いている。

 故に王はもちろん、兵隊蟻を東ゴルトーに追いやることで、ハンター協会が東ゴルトーに踏み込む正当性を作ったとも言えるのだ。

 

 ハンター協会上層部は王と護衛軍がいる場所はすでに知っているはずなのだから。

 

(これを考えたんはネテロやない。下手に兵隊蟻やハンターが踏み込める状況なんぞ作れば、王と護衛軍が東ゴルトーから出る可能性がある。少なくとも、今この作戦を行うメリットがネテロにはない。一番利益を得るんは……次期会長に手が届く副会長とか十二支んとかの側近。今の十二支んを考えれば、可能性が高いんは副会長かジン。けど、ジンは数万人規模の無関係の人間に被害が出る方法を選ぶ性格ちゃうし、そもそもジンの命令に従うハンターなんぞ数えられるくらいしかおらん。つまり、黒幕は副会長のパリストン)

 

 黒幕を断定したラミナだが、先ほども考えた通り、だからと言って現状パリストンを糾弾することに意味はない。

 ラミナはそもそもジンからの依頼なので、むしろ逆に糾弾される可能性がある。

 

(なるほど……。噂通り、厄介な性格と思考の持ち主みたいやな。引っ掻き回すだけ引っ掻き回すも、ちゃんと黙らせるだけのメリットを提示して、納得させるだけの利益も出しよるっちゅうわけか。こらぁしばらくハンター協会は近寄らん方がええな)

 

 確実に面倒事になる。

 下手したらパリストンが仕掛けたという証拠を見つけることなく。

 

(この戦いでネテロが会長職から身を引く可能性は高い。どうやっても被害は尋常やないし、すでにNGLで失敗しとる。責任論は絶対出るし、副会長なら出すやろな。それこそ下っ端を総動員してでも)

 

 ラミナはうんざりした表情を浮かべる。

 

「……まぁ、今考えた所でどうにもならんか」

 

 と、すぐに横に置くことにしたのだが。

 

 その時、携帯が鳴る。

 

「連絡か?」

 

 ラミナが携帯を取り出そうとすると、ティルガが顔を向けて訊ねてきた。

 ラミナは小首を傾げて、

 

「そう言えば、前も携帯が鳴った時に反応しとったな。なんか感じるんか?」

 

「ああ、電波を感じるようだ。兵隊蟻が使う信号に近いからだろう。電話ならばある程度内容も分かる」

 

「……」

 

 サラリと恐ろしい事を告げられたラミナ。

 

「……範囲は?」

 

「我はおよそ半径50mほどだ。ブラールも恐らくそれくらいだろうな」

 

 ラミナは思わず天を仰ぐ。

 

(つまり、隠密行動中は携帯での連絡は絶望的っちゅうことやな……)

 

 東ゴルトーは原則国民の携帯所持を認めていない。

 つまり、東ゴルトー内で携帯の電波を受信すれば、それは潜入している者がいるという証でしかない。

 

(いや、でも王と護衛軍は信号を使えんっちゅうとったな……。つまり、先に師団長以下の兵隊蟻を始末すれば、まだ行けるか?)

 

 それでもかなりキツイ作戦になるのは間違いないだろうが。

 

 とりあえず、ラミナは先にメールを確認することにした。

 送信主は【シーフ】だった。

 

「…………ほぉ、結構な蟻を仕留めたみたいやな。お、師団長も一匹仕留めたか」

 

 内容はキメラアントの討伐報告だった。

 ミテネ連邦近海にいるキメラアントをほぼ全て仕留めたらしく、依頼続行の有無を聞いてきていた。

 

(まぁ、あんま頼りにならんけど、ハンター協会も動いとるし。バレたら面倒やから、ここまででええか)

 

 依頼終了の連絡をして、用意していた報酬をすぐさま振り込む。

 

 その様子を遠くで見ていたキルアが近づいてきた。

 

「アルケイデス以外にも声をかけたのか?」

 

「アルケイデスはうちやないっちゅうに。うちが声をかけたんは【チャリオット】と【シーフ】や。海を泳げる蟻を仕留めてもらおと思てな」

 

「……どっちも十分大物じゃねぇかよ……」

 

「まぁな。おかげで30億も出費やわ。後でネテロに領収書出したろ」

 

「さっ……!?」

 

「あの2人を動かすんはこれくらい出さんとなぁ。ま、それだけの価値はあったみたいやで。師団長の一匹を仕留めたらしいで」

 

「師団長を……!」

 

「ティルガ。師団長に鰐のキメラアントおったやろ?」

 

「ああ。グロークという名だ」

 

「そいつを仕留めたらしいわ。これで海を泳げる師団長はもうおらんのやな?」

 

「そのはずだ。海を渡れる能力を創っていれば話は変わるがな」

 

「そこまでは流石に面倒見れるかい。まぁ、もうヨルビアン大陸に渡っとるみたいや…から……」

 

 ラミナは言いながらある事実に気づいてしまい固まる。

 キルアとティルガが首を傾げると、ラミナは険しい顔になってパソコンを凄まじい速さで操作する。

 

「お、おい……どうしたんだよ?」

 

「…………あかん。流星街の近くにも目撃情報出とる……」

 

「あ……」

 

「忘れとったぁ~……」

 

 ラミナは右手で顔を覆って項垂れる。

 

 キルアも頬を引きつらせて、

 

「ヤバイんじゃないか? あそこって、NGLよりも情報出ないんだろ?」

 

「せやな……。流石に全く蟻が来んわけないやろなぁ。兵隊長レベル数匹やったら大丈夫やろうけど……。嫌な予感するなぁ……」

 

 NGLと東ゴルトーと来て、流星街に蟻が行かないわけがない。

 流星街にはハンター協会も手を出さないだろうから、流星街の関係者で対応するしかない。

 

(……クロロに連絡するか? いや、まずはシャルやな。シャルに様子見てもらおか……)

 

 ラミナはシャルナークにメールを送って、流星街の様子を確認してもらうことにした。

 

(もし流星街に被害出とったら……爺共がうるさそうやなぁ。報復とか出来もせぇへん癖に……)

 

 流星街には暗黙の掟が存在する。

 

『我々は何者も拒まない。だから、我々から何も奪うな』 

 

 流星街に関わるモノに手を出せば、絶対に報復する。

 

 それを警告する言葉である。

 

 故にマフィアンコミュニティーを始めとする世界は、流星街に手を出さない。

 

 流星街に住む者を1人でも理不尽に殺せば、何十人と住人を犠牲にしようとも絶対に報復する。

 

 だから、キメラアントが流星街に手を出せば、間違いなく死んだ女王や東ゴルトーにいる王に報復しようと考えるだろう。

 成功率は皆無であったとしても。

 

 そして、もう1つ。

 ラミナには嫌な予感があった。

 

「……うちのことがバレたら、面倒な要求が来そうやなぁ」

 

「お前って流星街と縁切れたんじゃねぇの? ヨークシンで流星街と繋がってるマフィアンコミュニティーと敵対したんだろ?」

 

「縁切るくらいやったら殺しに来とるわ、あの街の長老共は。それがないし、アルケイデスも何も言わんかったっちゅうことは、マフィアンコミュニティーと揉めた程度大した問題やないっちゅうことや。実際、別に誰かが死んだわけでも、奪われたわけでもないでな。けど、流石にキメラアント相手に1人も被害が出んわけないやろうから……NGLでミスったことを盾になんか言われそうやな。……メンド臭ぁ」

 

 盛大に顔を顰めるラミナに、キルアは同情することしか出来なかった。

 

(ハンター協会でも流星街の防衛なんて動かないだろうしな。ただでさえ、今も戦力出し渋ってる感じがあるし)

 

 今回は国が大きく関わっている。

 結局一民間団体でしかないハンター協会では、表向き世界から認められていない流星街にハンターを派遣するなどまずありえないだろう。

 

 下手したら流星街にキメラアントを集めさせて、流星街を戦場とされていた可能性もあったと考えれば、まだマシと言えるかもしれない。

 

 そう考えながら、疲れ切った顔で携帯で誰かにメールを打っているラミナを見つめるキルアだった。

 

 

 

 そして、日が暮れた頃。

 

 モラウ、ノヴ、パームが屋敷に顔を出した。

 

「おう。頑張ってるみてぇだな」

 

「お疲れっす。王達が動いたんっすか?」

 

「焦んなよ。まずは飯、っていうか食いながら話そうぜ」

 

 と、言うモラウの提案で、今晩は外でバーベキューをすることになった。

 コルトは赤ん坊が気になるので、カイトの仲間達と共に屋敷内で過ごすことにした。

 

 なので、バーベキューは討伐隊のみで行うことになった。

 

 もちろんラミナが調理する事になるのだが、今回はパームもいるので非常に楽だった。

 

 始めは食べることに集中して、バーベキューに舌鼓を打つ。

 

 そして、1時間ほど味わってから、モラウが本題に入る。

 

「王達は東ゴルトーから動く気配はねぇ。何を企んでるかまではまだはっきりしてねぇが、碌でもねぇことだけは確かなようだ」

 

「……昨日、東ゴルトー内から密告があった。すでに総帥は王に殺され、ネフェルピトーに操られているらしい。抵抗した者達も皆殺しにされ、生き残った者達は王達に表向きに服従を誓い、軍はすでに王達の人形にされているとのことだ」

 

「ちっ!! 好き放題やりやがって……!」

 

 ナックルは盛大に顔を顰めて舌打ちし、ラミナとブラール以外の面々も顔を顰めている。

 

 ラミナは顎に手を当てて、

 

「ふむ……思たより人間的な動きをしよるな。女王に比べて効率的に人間を管理し、餌、繁殖、戦力として利用するっちゅうところか」

 

「ああ」

 

「んで、ティルガ達が言っとったように、選別を始めるか」

 

「恐らくな。事実、密告者の話じゃ総帥を操ってる王達は、近いうちに開催予定だった建国記念大会の準備を続けているそうだ。それも全国民を強制参加させる方向でな」

 

 モラウの言葉に、全員が王達が国民を利用しての念能力者の選別を行うのだと確信する。

 

「で? 俺達はどう動くんだ?」

 

「恐らく大会前日か当日をタイムリミットとして動くことになるだろう。会長はギリギリまで別行動。我々はゴンの念が戻るまで現状を維持して、その後各々のやり方で東ゴルトーに潜入する」

 

「ゴンの念が戻るんは8日後くらいやったか? そこから大会までは?」

 

「10日ほどだな。だから、ゴンの念が戻る前日には国境前に移動するぜ」

 

「ってことは、修行は出来てあと6日くらいか……」

 

 ゴンは右手を見つめて呟く。

 それにキルアやナックル達も頷き、ティルガも真剣な表情で拳を握る。

 

 そして、モラウとノヴはラミナに顔を向ける。

 

「でだ、ラミナ。そろそろお前の能力について話してくれねぇか? もちろん話せる範囲で構わねぇし、真偽まで追及もしねぇからよ。今回の作戦にはあらゆる局面に対応できるお前の能力は絶対不可欠だ。だから、お前の能力を把握しとかねぇと俺達もフォローもバックアップも出来ねぇし、お前にどこまでやらせていいのか分からねぇ」

 

 その言葉にキルア達もラミナに顔を向ける。

 

 ラミナは腕を組んで眉間に皺を寄せ、1分ほど考え込むも最後は大きくため息を吐く。

 

「………はぁ~~。しゃあないか……」

 

「感謝するぜ」

 

 ラミナは右手にブロードソードを、左手にフランベルジュを具現化する。

 

「うちの能力は見ての通り『武器の具現化』や。能力名は【刃で溢れる宝物庫(アルマセン・デ・エスパダ)】」

 

「それがあの様々な能力を持つ武器のネタなのか? 本来、普通の具現化能力は一つの武器を具現化するだけでもかなりの手間と時間がかかるはずだろ?」

 

「そやな。簡単に説明すると、使いたい武器を創った念空間に納めることで、複数の武器を具現化することが出来るようになるんや」

 

 ラミナの説明にモラウ達は納得、感心の表情を浮かべる。

 

「なるほどな……。念空間を運搬や相手を閉じ込めるためじゃなく、能力強化のバックアップにしたのか」

 

「しかし、それだけではあそこまでの能力を個別に付与など出来ないのでは?」

 

 シュートの疑問に、キルアやナックル達も頷く。

 ちなみにゴンは会話について行けなくなってきていた。

 

 ラミナは小さく肩を竦めて、

 

「そこは制約次第やろ。回数制限付けたり、具現化できる武器の種類を限定したりな。それに武器には好き勝手に能力を付与できるわけやないし」

 

「ふむ……。確かにそれならば……」

 

「けど、それにしちゃああのNGLで女王の巣を襲った時に見せた威力はおかしくねぇか? 防がれたとはいえ、あの護衛軍が2匹がかりだったんだぜ?」

 

「これのことか?」

 

 ラミナはブロードソードを消して、螺旋剣を具現化する。

 

「こいつの能力名は【天を衝く一角獣(ウニコルニオ・レランパーゴ)】。高電圧の電気を纏って、高速で飛ぶうちが使う最速の投擲武器や。ただ、一度使えば確実に壊れて、具現化できるストックが減ってまう。使い方を誤らんかったら、あと2回が限度やな」

 

「お前の武器は壊れれば、具現化可能回数が減るってことか?」

 

「ああ。正確にはうちの意志に反して消えた場合やけどな。壊されるか、うちの両手から離れて数分経過するか、やな」

 

「なるほど……」

 

「他にも高威力の武器があるけど、使えば武器が壊れてオーラを大量に消費するデメリットもあるでな。やから、使いどころを間違うと必要な時に使えんくなってまう。東ゴルトーで補充できるとは思えんしな」

 

「ノヴの念空間に予備を仕舞っておくか?」

 

「いや。言うたけど、何でもかんでも武器を念空間に入れられるわけやないねん。入れられる武器の方にも、制約があるんや」

 

 流石にオーラを持つ武器でなければならないことや回数制限の具体的な数字は話さない。

 話しても問題ないかもしれないが、どこで対策を立てられるか分からないので出来る限りボヤけさせることは当然のことである。

 

 ラミナは旅団員の能力を模倣した武器の事も話さず、他の武器についても能力は話しても制約までは話さなかった。

 

 だが、その情報だけでもモラウ達にとっては膨大で、凄まじいものだった。

 

「……それだけの武器と能力をよく使いこなせるもんだぜ……」

 

 どの武器や能力が適切か。

 常にコンマ秒での判断が求められる戦いを強いられるに等しいラミナの能力に、モラウ達は改めてその実力に慄かされる。

 

 ただでさえ、命がかかっている戦いは極度な緊張を強いられる。

 その状況で、更に周囲の環境や敵の戦い方に能力などを推察しなければならない。

 

 そんな中で更に武器と能力の選別までしなければならないなんて、とんでもない集中力まで要求される。

 

 流石のモラウやナックルでも、毎度毎度そんな戦いは御免だと思ってしまった。

 

 しかし、更にキルアが爆弾を放り込む。

 

「それだけじゃねぇだろ」

 

「あん?」

 

「爺ちゃんやクラピカから聞いたぜ。お前もクルタ族の【緋の眼】みたいに変わるんだろ? 瞳がさ」

 

「瞳が変わるだと?」

 

「それがお前が仕事の時とかにサングラスをしてる理由だろ?」

 

 キルアは鋭くラミナを見据える。

 

 ラミナは肩を竦めて、

 

「まぁ、あまりにも目立ってまうからな。印象に残り過ぎるんも困るんや」

 

「ホントに瞳が変わるのか?」

 

「ああ。瞳が金色に変わるんや。うちは【月の眼】て呼んどる。正式名称は知らんがな。部族は大分前に滅んだらしいし」

 

「月の眼……」

 

「悪いけど見せられへんで。発動だけでも体力めっちゃ使うし、他にも色々副作用があるでな」

 

「つまり、それだけのパワーアップが出来るということですか?」

 

「パワーアップとはちゃうな。【月の眼】を発動したうちはオーラが特質系に変わる。んで、目にした奴のオーラとうちのオーラを同質にする」

 

「!? 同質!? ってぇことは……!」

 

「相手のオーラを無害化することが出来る。そして、相手の【発】を無効にすることが出来る、ということか……?」

 

「全部やないけどな。けど、うちへの影響は完全に消せる。お前らの能力もな」

 

『……!!』

 

 モラウ達はもちろん、話を聞いていたキルアも唖然としてしまう。

 

「けどなぁ、キメラアント相手やと元々の身体能力に差があるから、使いどころがあるか怪しいんやけどな。師団長までやったら十分やけど、王や護衛軍にゃ使った時に仕留められんかったら負けるやろな。やから、この戦いでは【月の眼】は期待せんとって」

 

「……確かにそうだな。俺達だって【練】無しじゃ兵隊長クラスに勝つのは厳しいだろうしな」

 

(確かに……。だからこそ、ラミナは暗殺術や体術を重要視してたんだ。相手の念を無力化したところで、元々の地力で負ければ意味がないから)

 

 キルアはラミナの強さの理由をようやく理解できた気がした。

 

 だが、それだけ万全に備えているラミナでも、王や護衛軍相手では厳しいと言わざるを得ないのだ。

 

 キルア達ではもっと厳しい、いや絶望的というのは当然のことだった。

 

(やっぱりこの作戦成功の鍵はネテロ会長とラミナだ。2人を気兼ねなく全力で戦える状況を作るのが俺達の任務ってことになる。けど……)

 

 キルアはゴンを横目で見る。

 

(間違いなくラミナにとって、ゴンは一番の不安要素だな。ナックルだって感情的に動くことはあるけど、状況判断を見誤るほど周りが見えない奴じゃない。けど、ゴンは違う。良くも悪くも一直線……。それはラミナにとって最も致命的な隙を生むかもしれない不安要素)

 

 だから、ラミナは厳しいとしか言えない言葉でゴンを追い込んだ。

 

 

(だから俺は今まで以上にゴンのフォローに徹する必要がある。ゴンの目をネフェルピトーに集中させること。それがゴンはもちろん、ラミナのサポートにもなる!)

 

 

 キルアは改めて己の役目を理解して、覚悟を決めるのだった。

 

 




前回ティルガが雌であることに驚く声が多かったのでw
まぁ、話し方や性格が男前ですから仕方がないかもしれませんけどねw

次回はラミナ対キルアをお届けしたいと思います!

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