暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

116 / 153
#115 ジンライ×ノ×ダンス

 修行を始めて3週間。

 

 ゴンの念が戻るまで一週間を切ったが、修行のペースは相変わらずである。

 そして、期日が近づくにつれてティルガやナックル達の気合は高まるばかりだが、ゴンはどこか集中しきれていない様子が目立つようになっていた。

 

 ゴンの休憩中、キルアはラミナに歩み寄って単刀直入に訊ねる。

 

「どう思う?」

 

「……どっちつかずっちゅう感じやな。ゴンの性格からすれば」

 

「……それって……」

 

「今回の戦いを考えれば良い傾向。ゴンの本来の良さを考えれば最悪……やな」

 

「……」

 

 それはつまり『殺す気になってきている』ということだ。

 

 ラミナからすれば自分が注文したことなので、ラミナ自身に文句はない。

 だが、キルアやナックル達、そしてレオリオやクラピカからすれば複雑なんてレベルの問題ではないだろう。

 

「まぁ、今は生き残ることが最優先や。お前の懸念は分かるけど、とりあえず今は後回しにしぃ。死んでしもたら、それどころやないでな」

 

「……ああ、分かってる。……分かってるつもりさ……」

 

 キルアは顔を顰めて俯く。

 

 ゴンの眩しさに憧れ、救われたと思っているキルアからすれば、その眩しさに陰が差すのは死にも等しい恐怖だった。

 

 復讐に走る辛さと虚しさは、クラピカとラミナを間近で見て来て理解しているつもりだ。

 クラピカと違うのは仇が知り合いでも友人でもないこと。だから、ヨークシンのように人間関係での板挟みになる可能性はほぼないと言える。

 だが、だからこそ復讐を正当に果たした時、ゴンの精神はどう変化するのかが想像出来ないのだ。

 

 止めるのも心情的に難しい。けれども、このまま果たさせることも心情的に難しい。

 

 心情面での板挟みにキルアは答えを見つけることが出来なかった。

 

 故にキルアに出来るのは、傍に居てゴンを支えることだけ。

 

 それでも十分ではあるが、それだけしか出来ないというのも否定できない現実だった。

 

「キルア」

 

「ん?」

 

「本番も近いし、今日は少しマジで組み手しよか」

 

「は?」

 

「互いに【発】ありでやってみよかっちゅうとんねん。お前もそろそろ自分の修行に集中したいやろ?」

 

「! ……分かった」

 

「今日のゴンの組み手はナックルとシュートに頼んどき。ティルガは今日は組み手無しで休ませるつもりやし」

 

「……ああ」

 

 キルアは小さく頷いて、ゴン達の元に戻る。

 ラミナはその後ろ姿を見送りながら、

 

(やれやれ……人付き合いに関しては、まだまだヒヨッコやなぁ。とっとと本音をぶつけてしまえば、もう少し楽になるっちゅうのに)

 

 だが、ゴンが初めての友人という事を考えれば、及び腰になるのも仕方がないともラミナは理解していた。

 だからこそ、ラミナはこれも経験であると思い、そこに対するアドバイスはしなかった。

 

(まぁ、ゴンに関してうちが出来ることはもうないでな。流石にこれ以上はジンに配慮する理由もないし)

 

 ゴン自身が念を使えない状況でも参戦することを決めた以上、ラミナが口出す事ではない。

 ゴンはすでにプロハンター。実力はともかく、社会的には一人前と言えるのだから。

 

 実際ジンにも明確にゴンのことを頼まれたわけではない。

 

(ま、今はキルアとの戦いやな。あいつの能力を全部知っとるわけやない。流石のうちも電撃を浴びれば動きは鈍る)

 

 ラミナは意識をキルアとの組み手に向け、戦略を練り始めるのだった。

 

 

 

 ゴンの元に戻ったキルアは、複雑な表情を浮かべたままだった。

 

「どうしたの? キルア」

 

「いや……この後、ラミナと試合することになってな。ちょっと緊張してんのかも」

 

「ラミナと……?」

 

「ああ。だから、今日の組み手はナックルとシュートとしてくれ。俺はラミナとの戦いに集中したい」

 

「うん。分かった」

 

 ゴンはキルアの心境に気づかずに笑顔で頷いて、修行に戻る。

 

 キルアはゴンの姿を見て、ポケットの中で右手を握り締める。

 

 頭を過ぎるのは、カイトと再会した時のゴンの言葉と顔。

 

 

『あいつは……俺一人でやる』

 

 

 怒りに歪んだ顔で言い放った決意の言葉。

 

 だが、キルアはその言葉を聞いた時、胸に鋭い痛みが走った。

 そして、その痛みは、今も時折キルアを襲う。

 

(ゴンの気持ちも分かる。恩人で、ハンターを志すきっかけになったカイトがあんな姿になったんだ。誰だって怒り狂う。……けど……)

 

 キルアは胸に走る痛みと共に、顔を俯かせる。

 

(俺だって……カイトやお前と一緒に戦ったんだぜ?)

 

 そうゴンに言ってやりたかった。

 

 そして、その後にこう言いたかった。

 

 『一緒にアイツを倒して、カイトを助けようぜ』、と。

 

 けど、どうしてもゴンを前にすると、声に出せなくなる。

 

(分かってる。……怖いんだ。お前に嫌われるのが……。お前を失うのが……)

 

 この戦いで死んでしまうかもしれないというのに、絆どころか命を失ってしまうかもしれないというのに。

 

 キルアは死ぬ以上の恐怖を覚えていた。

 

 

 

 そして、日が暮れた直後。

 

 ラミナとキルアは、互いに両手をポケットに突っ込んで向かい合っていた。

 

 2人の間には凄まじい緊張感で満たされており、観戦するつもりでいたゴンやナックル達も緊張して唾を飲む。

 

「準備はええか?」

 

「ああ」

 

「先に言うとくけど、流石に【月の眼】までは使う気はないで。あれは反動がデカいでな」

 

「別にいいよ。その方が俺にも勝ち目があるからな」

 

「ほぉ……言うやんけ」

 

「……グリードアイランドの時より俺は強くなった。けど、だからってお前に勝てるだなんて、もう自惚れやしない。だから……本気で、全力で……殺す気で行くぜ」

 

 キルアはポケットから手を出して、腰を据えて構える。

 力強いオーラを纏い、瞳は静かに、そして冷たく沈んでいく。

 

 ラミナは両手をポケットに突っ込んだままだが、同じく力強いオーラを纏い、油断なくキルアを見据える。

 

 傍目には舐めているように見えるが、そこにいる全員がラミナに隙がないことを見抜いていた。

 

「……行くぜ」 

 

「さっさと来いや」

 

 直後、キルアは【神速】を使わず、素のままで飛び出してラミナへと攻めかかる。

 

 爪を鋭く伸ばして、ラミナに貫手を繰り出すキルア。

 

 ラミナは半身になって躱すが、キルアはそれを読んでいたかのように連続で貫手を繰り出していく。

 嵐のような猛攻をラミナは柳のように躱す。 

 

 キルアはそれに焦ることなく、冷静に手刀も織り交ぜて攻撃パターンを変化させる。

 

 その時、ずっとポケットに突っ込んでいたはずのラミナの右拳が、気づけばキルアの目の前に迫っていた。

 

「っ!? ぐっ!?」

 

 なんとか頭を傾けて、頬を掠めながらも直撃を躱したキルア。

 だが、直後にラミナの右足がキルアの腹部に叩き込まれて、くの字に吹き飛ぶ。

 

 キルアは空中で体勢を整えて地面を滑りながら着地し、再び勢いよく駆け出す。

 

 ラミナは片足立ちの姿勢で、迫ってくるキルアを見据えている。

 

(やっぱり速さも体術もラミナが上……! 【神速】なら上回るのは間違いないけど、充電が尽きれば終わりだ!)

 

 故に少しでもこの状態で何かしろの活路を見つけなければならない。

 

 確実に【神速】や【雷掌】を直撃させる隙を作らなければならない。

 

(何よりせっかくの組み手だ。もっとラミナの戦い方を観察する! 俺だって同じ暗殺術を使えるんだ。参考に出来る技や動きがあるはず!)

 

 キルアは直前で歩幅を縮めて、【肢曲】を発動して残像を生み出しながらラミナの背後へと回り込もうとする。

 

 だが、ラミナもすぐさま同じく【肢曲】を使って、キルアを追いかけるように残像を生み出す。

 

「くっ……!」

 

「歩幅を変えんと使えんたぁ、まだまだ未熟やな」

 

 ラミナは本物のキルアを見極めて、ラッシュを繰り出して襲い掛かる。

 

 キルアは舌打ちして、ラミナの拳の嵐を躱し、いなし、防ぐ。

 反撃の隙を見極めようとしたおかげか、ラミナの左腕が蛇のようにうねったのを見逃さなかったキルア。

 

 だが、速さに身体が付いて行かなかったためにガードが間に合わず、ラミナの左拳がキルアの右頬に叩きつけられる。

 

 キルアは頭を仰け反らして後ろに吹き飛ぶが、宙返りをして衝撃をいなし、すぐさま地面を蹴って再びラミナに攻撃を仕掛ける。

 すると今度はキルアが【蛇活】を使って猛攻を仕掛けるが、ラミナはすり足で後ろに下がりながら柳のように不規則に動くキルアの両手を躱す。

 

 キルアは素早く屈んで右足払いを繰り出すが、ラミナは軽やかに跳んで躱す。

 そして、ラミナが空中で腰を捻って、キルアの顔面目掛けて左足で蹴りを放つ。

 

 キルアは屈んだまま体を後ろに倒して蹴りを躱し、そのまま両足を持ち上げて両腕で地面を全力で押して飛び蹴りを繰り出す。

 

 空中にいるラミナもキルアのように上半身を仰け反り、勢いよく飛んだキルアの蹴りは外れてしまう。

 大きく体が仰け反った姿勢のラミナは、その場で腰を捻って回転して右肘をキルアの脇腹に叩き込む。

 

「がっ!」

 

 キルアは呻き声を上げて横に吹き飛ぶ。

 ラミナは右足で着地したかと思うと、そのまま片足だけで地面を蹴ってキルアに勢いよく迫る。

 

 そして、そのままの勢いで右ストレートを繰り出した。

 

(【神速】『電光石火』!)

 

 キルアは身体に電気を流して、能力を発動する。

 

 バヂン!とキルアの身体から電気が迸り、目にも止まらぬ速さで体勢を立て直し、逆にラミナの頬にカウンターを叩き込んだ。

 

「!?」

 

 ラミナは足を踏ん張って倒れることはなかったが、身体に一瞬電撃が走って数秒その姿勢のまま動きが止まる。

 キルアはその隙にラミナから距離を取り、【神速】を解除する。

 

 それにティルガは目を丸くし、ゴンやナックルは歓喜する。

 

「あのタイミングから完璧なカウンターを……!?」

 

「凄いよキルア!」

 

「よっしゃあ!!」

 

 シュートはキルアの力を身を以て知っているので特に驚くことも無かったが、それでもやはりラミナに一撃を加えたことに小さく笑みを浮かべていた。

 

 キルアは追撃することなく、油断せずに構えている。

 ラミナは痺れが解けて、口端から流れた血を腕で拭う。

 

「……なるほど。電気で筋肉や神経に負荷をかけて身体能力を上げ、相手に微弱ながら電気を浴びせて動きを鈍らせるんか。よぉ考えたもんやな。もらってええか?」

 

「嫌だね」

 

「そら残念(まぁ、勝手に創るけど)」

 

 ラミナは肩を竦める。

 

(けど、ホンマによう考えたもんやな。多分、イルミの呪いを克服するために考えたんやろうけど……)

 

 恐らくシルバやイルミすらも、キルアが電気を能力にするなど考えてもいなかっただろう。

 

 電撃に耐える訓練など普通は考えないし、行わない。

 間違いなくゾルディック家に生まれた故に創ることが出来た能力だ。

 

「……流石にその速さと電気は厄介やなぁ」

 

「そりゃどうも」

 

「ほな、第2ステージに行こか」

 

 ラミナは右手にブロードソード、左手にフランベルジュを具現化した。

 

「……さぁ、こっからだ……」

 

 キルアは額から汗を流しながらも、妙な高揚感を感じて口を僅かに釣り上げる。

 

 グリードアイランドでは【発】を使わせることすら出来ない実力差があった。

 もちろん、その時はまだ【神速】は完成していなかったし、今も【神速】無しでは結局敵わないが。

 

 それでも【神速】を使えば、ラミナに能力を使わせるまでに戦えるようになった。

 

 その事実に喜ばないわけがない。

 

(右手の剣はグリードアイランドのドッヂボールで使ってたな。確かこの前話してた能力の1つで、高速の斬撃を放つことが出来る剣。もう一振りは初めて見る。剣の見た目からじゃ能力は分からないのが厄介だな……。話してた能力が全部かどうかも分かんねぇし)

 

 キルアは笑みを抑え込んで顔を鋭くする。

 

 しかし、次の瞬間にはラミナがブロードソードを構えて、キルアの目の前に迫っていた。

 

「!?」

 

「あれが全速力や言うたか?」

 

「っ……【神速】『電光石火』!」

 

 ラミナが【一瞬の鎌鼬】を発動して、高速の斬撃の嵐を放つ。

 それと同時にキルアも【神速】を発動して反応速度を限界以上に上げる。

 

 だが、それでもラミナの斬撃速度は凄まじく、『電光石火』でも回避行動に専念しなければならなかった。

 

「くっ……!」

 

 ラミナはすぐさま追撃を放とうとしたが、今度は逆にキルアがラミナの懐に入り込んでいた。

 

「!!」

 

「『疾風迅雷』」

 

 キルアはプログラムされた攻撃を繰り出そうとしたが、ラミナも反射的にブロードソードを逆手に持ち替えて【一瞬の鎌鼬】でキルアに高速で斬りかかる。

 

 『疾風迅雷』はそのラミナの斬撃にも反応して、更なる対処に身体が動こうとしていた。

 

 だが、ラミナは左手のフランベルジュを消し、すぐさまブロードソードに変えて左手でも【一瞬の鎌鼬】を発動する。

 

(っ!! 駄目だ……! 『電光石火』!!)

 

 キルアは自分の意志では動けない『疾風迅雷』では対処に失敗する可能性があると判断して、『電光石火』に切り替える。

 

 バヂン!と一度電気が弾け、キルアは猛スピードで後ろに下がる。

 

 だが、ラミナは呼吸を整えるどころか、躊躇なくキルアを追いかけてきた。

 

(充電が尽きるまで攻め続ける気か!?)

 

「戦闘前に充電するとこ見せたんは失敗やったなぁ」

 

 オーラを電気に変える。

 それだけならば、天空闘技場で戦ったナグタルと同じタイプの能力だとラミナも考えていただろう。

 

 だが、ラミナは見逃していなかった。

 

 スタンガンを腕に当てて、身体に電気を流すキルアの姿を。

 

 すでにオーラを電気に変えることには成功している。今更イメージ修行などする意味はない。

 つまり、それは他の意味を持つ行為ということになる。

 

 考えられる中でラミナが一番可能性が高いと睨んだのは、まさしく『充電』である。

 

 ナグタルが見せた弱点をキルアが忘れるわけはない。

 

 それを制約か何かで補っていることは予想していたが、その答えが単純に充電だったとはラミナも知った時には笑うしかなかった。

 

「さぁて、あと何分保つんや?」

 

「ぐっ……!」

 

 ラミナは【練】を更に強めて、キルアから付かず離れずの距離を保って高速の斬撃を放ち続ける。

 

 キルアは電速で駆け回りながら反撃の隙を窺うが、あと一歩近づけない。

 それでも牽制で攻撃を繰り出すキルア。

 

 観戦しているゴンやナックル達の目には、高速で動き回って入り乱れる電光と明かりに反射する刃の光がまるで舞い踊っているように映る。

 

 それだけラミナとキルアの戦いは洗練されており、激しいものだった。

 

 すると、ラミナは左手のブロードソードを消して、ハルバードを具現化した。

 

「あれは……! 俺の時に使った武器だ!」 

 

 ナックルの声が僅かに聞こえたキルアは、先日のラミナの話を思い出す。

 

(オーラを弾く鎧を生み出す能力か! しかも長物かよ!)

 

 片手でハルバードを振り回して、勢いよく突き出すラミナ。

 それをキルアは紙一重で半身になって躱し、右手をハルバードに伸ばして掴む。

 

 その瞬間、ラミナは右手のブロードソードを消す。 

 

「痺れろ!」

 

「『起動せよ』! 【不屈の要塞(スティール・ジェネラル)】!」

 

 鎧を展開して、左手の籠手でハルバードに流されたキルアの電撃を弾く。

 

「悪いが、効かん」

 

 ハルバードを両手で掴んで、全力で横に薙ぐ。

 キルアは横に吹き飛ばされて、地面を数回バウンドして体勢を整える。

 

「ぐぅ……! (ハルバードには電気が流れた……! それに【流】でダメージを減らせた。ハルバードにはオーラを弾く能力はない!)」

 

 キルアは作戦を考えるが、その前にラミナがハルバードを振り回しながら攻めかかる。

 

 ブロードソードではなくなったことでラミナの攻撃速度が下がったと判断したキルアは、すぐさま『疾風迅雷』に切り替えようとしたが。

 

 

 何故か『疾風迅雷』が発動しなかった。

 

 

 キルアは目を丸くするが、ハルバードの刃が上から迫ることに気づいて、慌てて横に跳んで躱す。

 

「っ! (しまった……! あの鎧でラミナのオーラが……!)」

 

 『疾風迅雷』は正確には『相手の害意を示すオーラの揺らぎ』に反応して、迎撃行動に出る。

 

 だが、今のラミナはオーラを鎧で覆い隠している。

 

 そのせいで『疾風迅雷』が反応しなかったのだ。

 

「マジかよ……!?」

 

「ポケッとしとんなやぁ!!」

 

「!!」

 

 ラミナが舞う様にハルバードを操って、キルアに攻めかかる。

 

 斬り下ろし、振り上げ、薙ぎ、突き、更に殴蹴を組み合わせ、キルアに息つく暇を与えない。

 

 ハルバードを振り下ろすも、キルアが後ろに躱して刃を地面を叩きつける。

 すると、ラミナはそのまま前に出てハルバードを地面に直立に立てたかと思うと、跳び上がってポールダンスの要領でハルバードを柱にして体を振り回し、勢いよく蹴りを放つ。

 

 キルアは『電光石火』で跳び上がってラミナの蹴りを躱す。

 

(くそっ! 動きが変わってやり辛ぇ! 速さで勝っても、あの鎧がある限り【神速】も【落雷】も意味をなさない……! でも、今【神速】を解除すれば、あの攻撃の餌食だ!)

 

 歯を食いしばるキルアは、ラミナが握るハルバードに目を向ける。

 

(あれが能力の本体。あれを壊すしかない! けど、そんなことをラミナが気付いていないわけがない!)

 

 キルアはポケットに左手を入れる。

 それにラミナは目を細める。 

 

「喰らえっ」

 

 まるで居合を抜き放つかのように、ポケットから左手を抜くのと同時に超合金ヨーヨーをハルバード目掛けて猛スピードで投げ放つ。

 

 だが、

 

「甘いわ阿呆」

 

 ラミナはヨーヨーを右拳で真横から殴って弾き飛ばす。  

 

 だが、それがキルアの狙いだった。

 

 キルアが『電光石火』で一瞬にしてラミナの左横に移動する。

 右手刀を構えており、爪先に電気とオーラを集中させていた。

 

「!!」

 

「『雷斬』!!」

 

 全ての電気を消費して放つ光速の斬撃。

 

 その速さにラミナは直感でハルバードを動かすも、ハルバードは半ばから焼き切られる。

 

 ハルバードが破壊されたことにより鎧も消える。

 

 キルアが放った超速の雷剣は、そのままラミナの顔へと迫る。

 

 

 そして、キルアの切り札はラミナの顔に叩き込まれた。

 

 

 ラミナの髪紐が焼き切れ、紅い髪が血のように広がる。

 

 ゴンやナックル、シュート、ティルガ、そしてブラールすらも驚愕に限界まで目を見開く。

 

「キルア……!!」

 

「やりやがった……!!」

 

「ラミナは無事なのか!? あの攻撃をまともに浴びたぞ!!」

 

「っ! いや、よく見ろ……!」

 

 シュートの言葉に全員が改めてラミナとキルアに目を向ける。

 

 『雷斬』が直撃したと思われたラミナだが、未だに倒れるどころかよろける様子も見られない。

 

 全力で目を凝らしたゴン達の目に映ったのは、

 

 

 左こめかみから血を流しながらも、キルアの手刀を右手で掴んで受け止めている金色に瞳を輝かせるラミナの姿だった。

 

 

 ラミナはギリッ!とキルアの右手首を握り締める。

 

 キルアは痛みに顔を顰めて、右足を蹴り上げる。

 それにラミナは手を放して、体を僅かに仰け反らして蹴りを躱す。その隙にキルアは後ろに下がって距離を取る。

 

 キルアはすぐに構えるが、右手で小さくガッツポーズをして、口に笑みが浮かぶのを抑えられなかった。

 

っし……!」

 

「……まさか……使わされるたぁなぁ……」

 

 ラミナは右腕で血を拭い、【月の眼】を解除する。

 

 使うつもりがなかった【月の眼】を使わされた。

 

 それはつまり、使わなければ死んでいたと思わされたことに他ならない。

 

 ラミナが油断していただけのことではあるが、それでも全員がそれだけの差があると思っていたのも事実だった。

 

「……くくくっ! くははははは!!」

 

 ラミナは右手で顔を覆って笑い出す。

 

「くくく! 少し前まで念も知らんヒヨッコとも呼べんかったクソガキが、ここまでになるとはなぁ……!」

 

「……うっせぇよ」

 

「ふん……。ホンマ、今のお前やったら本気でゾルディック家から奪い盗る価値はあるかもしれんな」

 

「え……?」

 

「さて……【月の眼】を使ってしもた以上、この試合はうちの負けやな」

 

 ラミナは上機嫌そうだった顔を、苛立ちに歪めて右手で前髪を掻き上げる。

 

「けど……クソガキを調子に乗らせたままなんもムカツクわ。やから――」

 

 次の瞬間、ラミナが右拳を振り被ってキルアの目の前に現れた。

 

「!? ごあ゛っ!!」

 

 ラミナの拳がキルアの鳩尾に叩き込まれて、身体がくの字に曲がる。

 

 更にラミナは左手に柳葉飛刀を4本具現化して、キルアの影に突き刺して【裏を縛れば表も同じ】が発動する。

 

 体が縛られたように動かなくなり、オーラを出せなくなったキルアは目を見開く。

 

「こ……れは……!」

 

「終わりや」

 

「!!」

 

 終わりを宣言した直後、ラミナの両腕がブレて黒い風がキルアに襲い掛かる。

 

 直後、右頬と胸に強烈な衝撃が走ったキルア。

 

 キルアは吹き飛ぶのを感じた瞬間、意識を闇に落とす。

 

(くそっ……ここまでか、よ……。けど……近づけてる。近づけてるぞ……親父や……ラミナの背中に……!)

 

 

 そう実感しながら気を失うキルアは、悔しさと、それ以上の充足感で心が満たされていた。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。