暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
マチ達がザザン達を殲滅した頃。
ラミナ達は東ゴルトーに潜入する準備を終え、いよいよ国境に向かおうとしていた。
「うちらは基本的に村や町には近づかん。寄るにしてもうちだけや。お前らは護衛軍や東ゴルトーに逃げ込んだ兵隊蟻に面が割れとるからな」
「ああ」
「んで、ゴン、キルア」
「ん?」
「なに?」
ラミナはすぐ近くで同じく準備をしていたキルア達に声をかけ、持っていた袋を2人に投げ渡す。
「何これ? ……服?」
「東ゴルトーの上級国民だけが着れる服と、そいつらが身に着けとるバッヂや。軍服は流石にガキ過ぎて無理やろうからな」
「いつの間に用意してたんだよ?」
「王が東ゴルトーに入ったて聞いた時や。少しでもバレる可能性は下げときたいでな。うちは姿を消せる手段が他にあるけど、ゴンは限界あるやろ? 今の東ゴルトーはガキがそこらへん歩いとっても目立たへんかもしれへんけど、見つかったらアウトなんは変わらんからな」
ラミナの言葉にキルアとゴン、そしてティルガとブラールも首を傾げた。
「なんで歩いてても目立たないって思うんだ?」
「うちの予想が正しければ、すでに選別は始まっとる」
『!!』
ラミナの言葉にゴン達は目を丸くする。
「恐らく国境付近、正確には首都ペイジンの真反対の地区からもう始めとるはずや。国民大会の日に一気に約500万人も選別できるわけがない。一日では絶対に終わらん。その間、国民にずっと騒がれずに待たせるとか出来ると思うか?」
「……確かに。どう考えても不可能だな」
「でも、だからって残り10日近くで選別できるほど兵隊蟻っているの? どっちにしろ国民に騒がれないかな?」
「そこでネフェルピトーの能力や」
「っ!! そうか……! 軍人を操ればいい……!」
「……なるほどな。操れば、その者のオーラを操れるのは実証済み……。たとえ念能力者ではなくても、無理矢理オーラを引き出して拳にでも集中させればいいのか」
キルアとティルガの言葉に、ラミナは頷いて、ゴンは顔を顰める。
「東ゴルトーの国民にとって、軍人は総帥の代弁者に等しい。操った軍人達を通達と案内役と称して村に行かせて選別を行えば、他の村や町にバレる可能性はゼロに近いでな。あの国は政府関係者しか電話を持てへんから、他の村や街に簡単に連絡が付かん。軍人が迎えに行くからいつでも出発できる準備しとけとか言うとけば、連絡を取る暇も隙もあらへん。誰か暴れれば堂々と軍を動かして殴れるし、家や村に押し込む大義名分も出来るから王達からすれば万々歳やな」
「……なんとも恐ろしい方法を考え付くものだな」
同じ種族とは思えないほどの悪辣さに、ティルガはもはや怒りも湧き上がらない。
ラミナはそれに肩を竦めるだけで答える。
「今日から選別が始まっとると考えれば、うちらが国境を越えた時にはすでに50万人が選別され、5千人が次世代の兵士として生き残っとる計算になる」
「……」
「うちらはペイジンを目指す以上、どこかでその選別の場面に出会うかもしれん。その時の覚悟はしときや。耐えるも地獄、止めるも地獄やぞ」
耐えることを選択すれば、目の前で弱者が殺されるのを見逃すことになる。
王達を殺すためとは言え、目の前の助けられる命を見殺しにするのは並大抵の精神では耐えられないだろう。
止めれば選別が中断されることが出来るかもしれないが、同時に王達に侵入者の存在を教えることになる。
それこそ兵隊蟻が押し寄せ、最悪王や護衛軍が出てくるかもしれない。そうなれば、作戦は間違いなく破綻する。
「……恐らく選別を止めたところで王は出て来ないし、護衛軍も王の傍から離れんだろう。この選別を提案して主導しているのは護衛軍達のはずだ。王はむしろ我々を王宮で待ち構え、我々が来るのを楽しみにすらしているはずだ。だが、護衛軍は王に危険が迫るのを防ぎたい。故に逃げ込んだ兵隊蟻を使って使い潰す勢いで我々を殺しに来るだろう」
「まぁ、それならそれで兵隊蟻を根絶やしに出来るし、王宮が手薄になるメリットもあるけどな」
「せやな。けど、兵隊蟻の数が分からんし、師団長クラスもおる。ハンターから逃げ切った連中は念能力の重要性を思い知ったはずや。間違いなく能力を開発しとるはず。油断は出来んで」
「けど、能力を開発してても、絶対的に修行不足だろ?」
「かもしれんが……元々のポテンシャルが高いんや。能力次第で護衛軍に厄介さで匹敵する可能性はあるで。下手すれば、本番ではまともなコンディションで挑めんかもしれん。ええか? 作戦に望むための最低ラインはしっかりと死守せぇや。王と護衛軍を仕留め損ねれば、被害はこの国どころやなくなるで」
ラミナの言葉にゴン達は真剣な表情で頷く。
その時、ラミナの携帯が震える。
携帯を取り出して中を確認すると、シャルナークからだった。
内容は流星街を侵略した蟻の殲滅報告。ザザン達の容姿なども載せられていた。
「流星街の蟻は問題なく殲滅できたみたいやな。ティルガ、サソリみたいな尻尾を持つ女の蟻は知っとるか? 女王蟻を名乗とったそうや」
「ザザンだな。元師団長だ」
「なるほど。ほな、これでシーフと合わせて二匹の師団長を仕留めたっちゅうことか」
「……ハンター協会は悉く逃がしたみたいだけどな」
キルアは嘆いて小さくため息を吐く。
各国各都市の要請にてキメラアント捕獲に動き出したハンター協会だが、戦闘兵雑務兵クラスのキメラアントは次々と捕獲・討伐に成功しているが、兵隊長クラスに至っては反撃されて半数近く逃げられ、師団長クラスに至っては全員に逃げられていた。
目撃されている師団長は現在4匹。
『【ネバスカ】の獅子男』として堂々とテレビの前に姿を晒したハギャ、警察官を大量に殺したブロヴーダ、ウェルフィン、そしてナックル達が仕留め損ねたヂートゥだ。
「ティルガの話やと、好戦的な師団長は後3匹。そうやな?」
「ああ。ビトルファン、マンディス、メレオロンという者達だ。メレオロンに関しては見つからないのは当然だろうが、ビトルファンとマンディスに至っては正直まだ見つかっていないのが不思議なくらいだ」
「というと?」
「まずメレオロンだが、カメレオンの特性を持つキメラアントで戦闘力は師団長最弱だが、姿を消すことが出来る。【円】ならば見つけることが出来るが、使えなければまず見つけるのは不可能に近い」
「暗殺向けのキメラアントか……。面倒やな」
「対してビトルファンは単純に図体がデカくて、見た目も人間とかけ離れてる。本人も自覚しているが頭は良い方ではないから、身を隠すなど絶対的に苦手なはずだ。マンディスも両腕に鎌があるからそれなりに目立つ。奴も大雑把な性格だからずっと隠れるなどとは考えにくい」
「確かに見つからないのが不自然だな」
「まぁ、実力者はハンターだけやないしな。うちらみたいな裏社会の念能力者もおるし、傭兵とかもおる。そいつらと出会って殺し合った可能性はあるでな。実際、流星街にも現れとるし」
「……確かにな」
「問題は逃げられた元師団長達やな。ネバスカに出たハギャっちゅう獅子男は、ハンターから逃げた後、東ゴルトー方面へと向かったっちゅう情報がある。ロブスターと狼の師団長も同じく東ゴルトー方面へと逃げたらしい。……十中八九、目的地は王と護衛軍がいる宮殿やな。逃げ込んできた兵隊蟻を護衛軍が信用するかは怪しいところやけど……戦力が欲しい連中なら受け入れると考えるべきやな」
「また師団長に戻るわけか……」
「でも、信頼関係が築けないなら隙はあるんじゃない?」
「確かにそうやけどな。護衛軍にとって師団長以下の兵隊蟻が時間稼ぎの使い捨てなんは間違いないやろうし、師団長以下もそれは理解しとるやろうけど……。王と護衛軍の実力を肌で知っとる連中なら、少々命懸けでも信用を得るために働くやろな」
「なんで?」
「考えられるのは2つ。ほい、キルア」
「……1つは純粋に王の庇護が欲しいから。護衛軍が信用できなくても、王から信用を得られれば殺される可能性は低くなるし、王の部下である以上おこぼれに与れる。それに王と護衛軍がいれば、そう簡単に負けるわけもない」
「2つ目は?」
「打算的な意味での王の庇護さ」
「打算的? 1つ目と何が違うの?」
「簡単に言えば【NGL】と【裏のNGL】さ。この場合、NGLが王と護衛軍。裏のNGLが師団長。王の庇護の元で自分の好き勝手したいってわけさ。んで、最終的な狙いは王と護衛軍の寝首を掻くこと」
「どちらにしてもや。信用を得るまでは必死に働かざるを得んっちゅうのがネックやな。王と護衛軍にとって今回の国民大会は失敗する気もなければ、させるわけにもいかん。師団長連中にとっては、ここで活躍すれば目的は果たせたも同然。やから、うちらを全力で仕留めに来るはずや。全兵力を費やしてもな」
互いにすでに後に退けない状況であるということを、ゴンもようやく理解する。
「っちゅうことで、出来る限り姿を隠しておく方が得策や」
ラミナはまっすぐゴンと目を合わせて言い放つ。
ゴンは悩まし気な表情を浮かべるも、小さく頷いた。
しかし、ラミナとキルアはその頷きを信じていない。
絶対にその場面を見れば、ゴンは手を出す。
そう確信していた。
(まぁ、そこはキルアが止めるなりフォローするなりするやろ。そこまではうちも面倒見きれんわ)
ラミナは小さくため息を吐いて、ティルガ達に顔を向ける。
「ほな、そろそろ行くで。今日中に国境を越える」
「ああ」
「……」
ティルガとブラールは頷き、ラミナはキルアを見る。
「命の懸け所、間違えんなや」
「……ああ」
キルアは真剣な顔で小さく頷く。
ラミナはそれに何も言わずに、ゴンとキルアに背を向けて歩き出す。
ティルガとブラールも後に続き、ラミナ達はホテルを後にするのだった。
そして、宣言通り。
ラミナ達は夜を迎えた頃に国境を越えて、東ゴルトー共和国に入国した。
「さぁて、ここまでは問題なく来れたな」
「周囲にも人や蟻の姿はない」
「……」
ブラールの偵察結果を代わりに報告するティルガ。
それにラミナは頷き、携帯を操作して地図を表示する。
「……ここから一番近い町が南にあるな。一度そこでうちの推測が正しいかどうか確認しよか」
「分かった」
ラミナが音もなく駆け出し、ティルガも後に続いてブラールも音もなく飛翔する。
3人揃って夜の森を走っているとは思えないほどの速度で移動する。
20kmほどの距離を1時間もかからずに走り抜いて、目的地付近に到着した。
手前の森の切れ際で足を止めて茂みに潜り込み、気配を探る。
「……やっぱ、こういう嫌ぁな推測は当たってまうなぁ。ホンマ、やんなるわ」
「……全く人気がないな。そして……凄まじい血の臭いがする」
「……」
「ブラールも人の姿は見つけられないそうだ」
「やろうな……」
ラミナは茂みから立ち上がって、町の中へと足を進める。
明かりも点いていない真っ暗な町。
周囲が森であることもあり、ホラー映画の世界にでも入り込んだように錯覚するラミナだった。
流星街ですら、まだ人の気配や小さな明かりがあるのでここまで不気味ではない。
ラミナはすぐ近くの一軒家に歩み寄る。
扉に手をかけると、一切の抵抗なくノブが回って扉が開く。
家の中に入るも、やはり中はもぬけの殻だった。
一見すると何も起きていないかのようだが、ラミナは素早く部屋の中を見渡して違和感の正体を探す。
「……あそこか」
ラミナは壁際に立てかけてある箪笥へと歩み寄る。
そして横にズラすと、壁に大量の血痕が張り付いていた。
「これは……」
「ま、抵抗してやられたっちゅうとこやろな。床も大雑把に血を拭き取った跡がある。最悪バレても構わんけど、今すぐは困るっちゅうところか。素人やったら違和感は持っても、ここまでは気づかんやろうし」
「すでに選別が終わっているとしても……選別に漏れた者達はどこに? まさか死体までも王宮に運んだというのか?」
「それはないと思うで。流石に死体は邪魔になるはずやし」
ラミナはそう言いながら外に出て、地面に目を凝らす。
そして、大量の足跡や何かを引きずった跡を見つけ、その方向へと目を向ける。
ラミナがその方向に足を向ける。
ティルガ達も後ろに続き、3人が辿り着いた先は町外れの森の中。ポツンとそこだけ草も生えていない土が剥き出しの空間があった。
ティルガは到着した瞬間に、土の下から凄まじい血の臭いを嗅ぎ取った。
「……まさか、この下に?」
「そうゆうことやろな……。けど、これではっきりしたな。すでに選別は始まっとる」
「……ゴン達は本当に大丈夫なのか?」
「キルアに期待するしかないやろ。それにナックルも怪しいでな。モラウは大丈夫やろうやけど……どこまで我慢出来るか。はぁ……」
「……スマヌが我も何度も目撃すれば、どこまで我慢出来るか自信はない……」
正直に申告するティルガの言葉に、ラミナは特に怒ることも呆れることもなく、今後の展開について考える。
高速で作戦を練り直したラミナは、ティルガに顔を向ける。
「作戦変更しよか。ゴン達が選別を妨害する前提で動く」
「つまり?」
ラミナはニヤリと笑みを浮かべて、携帯を取り出す。
「ゴンやナックルが暴れる前に、先にうちらが暴れたる。少なくともうちらとゴン達の2組で動き回って、キメラアントの戦力を分散させる。後はそこにナックル達が加わってくれれば、更に敵は戦力を分散せざるを得ん。そうなればそれぞれの負担は減って、こっちの勝ち目はデカくなる」
「……確かにそれならば……」
「もちろん、言うほど簡単ちゃうけどな。うちらの存在の発覚が早まるの事実やし、向こうかて動きを変えてくるんは間違いない。体力的にも精神的にも追い詰められるんは確実や。下手したら作戦当日は自滅覚悟で足止めするしかなくなるかもしれん。それくらい綱渡りや」
「……」
「それでも、向こうにもそれなりにプレッシャーはかけられるはずや。やる価値は十分あるで」
そう言ったラミナはキルアとシュート、ノヴにメールを送る。
そして、答えも聞かずにラミナ達は選抜妨害に向けて動き出すのだった。
ラミナ達が東ゴルトーに入り込む数日前。
首都ペイジン近くの宮殿にて。
中央階段前の広間に、数体のキメラアントの姿があった。
2体は護衛軍のシャウアプフとアモンガキッド。
その前にハギャ、フラッタ、ヒリンの3体がボロボロの姿で土下座をしていた。
「おやおや……随分と可哀想で殊勝な姿になったねぇ。前の自信に溢れてた頃とは残念なくらい落ちぶれたねぇ」
「っ……!」
アモンガキッドの言葉にハギャは土下座したまま怒りに顔を歪める。
だが、
「……おっしゃる通りです。私は巣を出て、少々浮かれておりました。NGLで人間に追い詰められた事実を甘く見ていたようで……。やってきたハンターに手も足も出ませんでした……」
と、殊勝な言葉を述べる。
感情が読み取れるシャウアプフには全く意味はなく、アモンガキッドも感情は読めなくてもハギャのそれが演技であることは容易に見抜いていた。
しかし、
「まぁ、それだけのこと」
「残念なことに、おいちゃん達は猫の手も借りたいところだったからさ。獅子の手はありがたいところだねぇ」
と、受け入れることに決めた。
それにハギャ達は心の底からホッとして、再び頭を下げる。
「感謝致します……! この御恩、必ずお返しし、王のお役に立ってみせます!」
「期待していますよ」
「そんじゃあ、まずは傷の治療をしておいでよ。その後にプフっちが君達に合う能力を見繕ってあげるからさ」
「……我々に合う能力、ですか……?」
「そ。残念だけど、ちまちまと君達が能力を完成させるのを待つわけにはいかないんだよねぇ。君達がここに来たことはバレてるだろうからさ。ハンターとかが来るのは間違いないよ。だからさ、君達には早々に戦えるようになってもらわないとね」
アモンガキッドの言葉に、ハギャ達は納得出来たような出来ないような表情を浮かべる。
「まぁ、損はないんだからさ。やってもらうだけやってもらいなよ。別にプフっちに能力がバレるわけでもないしねぇ」
「……承知しました。シャウアプフ殿、どうかよろしくお願い致します」
「……いいでしょう。王を守る戦力が増える。それだけのこと」
「感謝致します!」
再びハギャ達は頭を下げて、治療へと向かう。
その後ろ姿をシャウアプフとアモンガキッドは無感情に見送った。
「さぁて……あと何体くらいが逃げ込んでくるかねぇ」
「そう多くはないでしょう。すでに我々が巣を出て一か月……ほとんどの兵隊蟻がすでに討伐されるか捕縛されているでしょう。師団長だった者でもなければ、経験豊かな人間には敵わないでしょうね」
「だといいけどねぇ。まぁ、残念なことにすでに彼らが来ちゃった以上、人間達が近い内に入り込んでくるよ? 多分、それなりの実力者が」
「以前あなたが殺し損ねた者……ですか?」
「その可能性は高いだろうねぇ。残念だけど」
「ならば余計にあの者達を早々に使えるようにしなければいけませんね。少しでも消耗させ、時間稼ぎをしてもらわなければ」
「そうだねぇ。今のピトっちの人形は兵隊長クラスにも勝てないからねぇ。
「そういうことです。では、私は王のところに戻ります。あの者達の治療が終わったら、また呼んでください」
「あいよ」
シャウアプフが階段へと足を向けて、アモンガキッドは中庭へと進む。
その頃、ハギャは歯を噛み砕かんほどの力を込めて歯を食いしばっていた。
ちなみに今は下級兵に案内されている。
「くそっ……! この俺様があんな無様を晒すことになるなんて……!」
「けど、ハギャ様ぁ。あのままじゃ本当に死んでましたよ?」
「分かってる! だから屈辱に耐えてまで、土下座したんだろうが!」
ハギャが八つ当たり気味に吠えたその時、
「カブファッファッファッファッ!! 何やら聞き覚えがある声がしたと思えば、ハギャではないか!」
元師団長のビトルファンがズシン! ズシン!と音を立てて歩み寄ってきた。
「ビトルファン? なんだ、お前も来てたのか」
「おう! オイラは巣を出てから、まっすぐここに来た!!」
「は? 最初から王の元を目指してたのか?」
「おう! オイラは馬鹿だからな! 王になるとか無理だ! だが、他の師団長の元に降るのも納得できん! ならば、あの護衛軍が従う王に降ろうと思ったのだ! 今はこの宮殿で守衛長を任されている!!」
「……なるほどな。(ちっ……厄介な奴が先に来てやがったな)」
ハギャは内心で舌打ちする。
確かに頭は良くないが、直感的に最善の道を選ぶことがあるのだ。
今回もハギャは『まだ師団長は来ていないはず』と思い込んでいた。
そして自分同様、他の師団長がハンター達から逃げてくるまでの間に、他の者達より王や護衛軍の信用を得て、一歩先の立場を獲得したかったのだ。
しかし、ビトルファンがいることでいきなり躓いてしまった。
「しかし、随分とやられたな! 早く治療して来るといい! カブファッファッファッファッ!!」
「へっ、そりゃどうも。……そういやぁ、お前もシャウアプフ殿から能力を授かったのか?」
「おお! そうだぞ! オイラにピッタリの能力を創って頂いた!!」
「へぇ……どんな感じで創って貰えるんだ?」
「繭に包んでもらって半分眠った状態で、己の思考や願いを反映させて能力を組み上げていく感じだな!! 催眠誘導という方が正しいかもしれん!! なので、実際にシャウアプフ殿が何かをするわけではない!」
「……なるほどな」
ビトルファンの言葉に、ハギャはアモンガキッドの説明と齟齬がないことに頷く。
「カブファッファッファッファッ!! シャウアプフ殿を疑って、自分1人で能力を考えたところで良い能力が出来るとは限らんぞ?! ならば、たとえ護衛軍の方々に能力がバレることくらい大したことではなかろうよ! 別に能力はそれだけしか創れんわけはないのだからな!!」
「……それもそうだな。本当にお前は頭がいいのか悪いのか分からねぇ奴だな」
「カブファッファッファッファッ!! この程度は頭の良さなど関係なかろうよ! ではな、ハギャ!!」
ビトルファンは豪快に笑って、ハギャ達の横を通り過ぎていく。
それを見送ったハギャは自信を取り戻したかのように不敵に笑う。
「ふん! 上等じゃねぇか。あいつに出来て俺様に出来ないわけがねぇ。どうせ醜態を晒したんだ。今はそこに上塗りされたくらい、どうってことねぇさ」
「そうですよ! ここからのし上がればいいんですよ!」
「だが、俺にだってプライドはある。繭に包まれるなら、それを機に名前を変えて再出発だ」
「へ? 名前変えるんですか?」
「ああ。ハギャは負け犬の名前だからな。これからは……レオル。俺はレオルだ」
これまでの己と決別する決意として、改名するレオル。
その後、治療を終えたレオルはシャウアプフから能力を授かるために繭になって眠る。
繭から孵った未来、王者となった己を夢見て。