暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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ホントに遅くなってスイマセン(__)


#122 セイギ×ハ×ソンザイシナイ

 ラミナ達が本格的に選別の妨害を始めた頃。

 

 ゴンとキルアも東ゴルトーに潜入していた。

 

「ラミナからメールが来てるな」

 

「なんて?」

 

「……ラミナの予想が当たった。すでに選別は始まってるらしい」

 

 キルアの言葉にゴンは顔を顰める。

 

「多分、この辺りの村や町もすでに選別は終わってると考えるべきだな」

 

「どうする?」

 

「まずは近くの村も確認しようぜ。どのくらいのペースで選別が進んでいるのか分からねぇと判断出来ない」

 

「分かった」

 

 キルアはラミナからの作戦はまだ伝えなかった。

 1つは言った通り、選別の状況をこの目で見ないと判断が付かないため。

 

 もう1つは、この段階で動くことにキルアはまだ不安だったからだ。

 正確には『ゴンが動く』ことが、だが。

 

 キルア自身はゾルディック家の訓練や仕事で長期間の活動には慣れている。

 能力の使いどころさえ間違えなければ、9日後の作戦当日に体調を整えることは十分に可能だ。

 

 だが、ゴンは流石に厳しいと言わざるを得ない。

 手の抜きどころを知らないだろうし、一度作戦を始めれば緊張で身体を休めるなんて難しいだろう。

 

 ただでさえ実力的に最も厳しいゴンが消耗することは本番に響く可能性が高い。

 

 ネフェルピトーと戦うならば、万全のコンディションで臨ませたいキルアだった。

 

 だが、そんなキルアの願いも届かず、キルア達が訪れた村もすでに選別を終えた後だった。

 しかも埋められていた死体が、野犬に掘り返されて肉を喰われているという最悪の場面を目の当たりにした。

 

「決まりだな。国境近くの村や町はほぼ選別が終わってる。簡単に計算すれば50万人……。5千人が生き残って、49万5千人が死んだことになる」

 

「っ……!」

 

 ゴンは歯を食いしばり、両手を握り締める。

 キルアはそれにやはり不安を感じるも、ラミナからの提案を話すことにした。

 

「実はラミナからのメールには続きがあったんだ」

 

「え? 続き?」

 

「ああ。選別を妨害して、騒ぎを起こす。それで選別を中断させて、国民を逃がす」

 

「!!」

 

「けど、この作戦は綱渡りだ。この段階で妨害すれば、確実に王達に俺達の存在がバレるし、もちろんそれに対して対策を練ってくるはずだ。下手したら潜伏してる爺さん達やモラウ達の行動を邪魔する可能性もある」

 

「……」

 

 キルアの言葉にゴンは眉を顰めて考え込む。

 

 キルア達はとりあえず移動を再開する。

 

「まず確実に王達の元に逃げ込んだ師団長達が出てくる。最悪護衛軍の1人が出しゃばってくる可能性もある。けど、ネフェルピトーはまず出てこないと思う。ネフェルピトーの能力と広範囲の【円】は選別遂行と王の防衛に絶対不可欠だからな」

 

「……けど……」

 

 ゴンは複雑な表情を浮かべるも、すぐに覚悟を決めた表情に変えて、

 

「やろう……! 選別がすでに始まってるなら、黙って様子を見てるなんて無理だよ」

 

 キルアはその言葉を予想していたので、驚くことも怒ることもなかった。

 

「……分かった。やろう」

 

 それにゴンも頷こうとしたが、

 

「ただし、俺1人でだ。お前は潜め」

 

「え!? なんでさ!? 2人の方が――!」

 

「大事な目的を忘れんな!」

 

 キルアの言葉にゴンは言葉を詰まらせる。

 

 キルアは真剣な表情でゴンを見据える。

 

「言っただろ? 動き出せば消耗は避けられない。ネフェルピトーを倒すんだろ? 気持ちはわかるが、他のことに目を向けてる余裕はない」

 

「……」

 

「それにお前にはワリーが、陽動だけなら俺1人の方が動きやすい」

 

「……」

 

「安心しろよ。ラミナだって動くんだ。あいつと連絡を取りながら上手く掻き回すさ」

 

 ゴンはラミナの名前を聞いて、決して無理をするわけではないと思い、渋々だが頷いた。

 

「……分かったよ。でも、何かあったらすぐに連絡してよね」

 

「それはこっちのセリフだ、バーカ。……お前こそ、本当に分かってんのかよ?」

 

「……キルア?」

 

 突如鋭い顔を向けてきたキルアに、ゴンは戸惑う。

 

「約束しろよ! 絶対に動くな!! たとえ目の前で何人人間が殺されてもだ!! 約束しろ!!」

 

 切羽詰まった表情で迫るキルア。

 

 それにゴンはどう答えればいいのか、分からなかった。

 ただ頷けばいいのも何か違う気がしたのだ。

 

 しかし、答えが出る前にキルアが冷静に戻った。

 

「……悪い。俺も少しピリピリしちまってる。……俺の方からメールを入れる。電話は出来る限り控えろよ。師団長以下の蟻は携帯の電波を感じ取れるらしいからな」

 

「……うん」

 

 2人はその後やや微妙な空気の中、互いの動きを確認しながら移動する。

 キルアはラミナに自分だけ参加することを伝え、途中でゴンと別れることにした。

 

 しかし、その直前に背後から何か視線を感じ取った。

 

「!」

 

 キルアは鋭く後ろを振り返る。

 だが、そこには誰もいなかった。

 

「どうしたの?」

 

「……いや、何でも。(勘違いか? けど、アモンガキッドって奴の念獣か、姿を消せるって話の師団長の可能性もある……。油断は出来そうにないな)」

 

 キルアはとりあえず、泳がすことに決めた。

 

「気を付けろよ、ゴン。どこに誰が潜んでてもおかしくないんだからな」

 

「うん。分かってる。キルアも、気を付けてね」

 

「ああ」

 

 そして、2人は互いに互いへの不安を抱えながらも、互いに互いを信じて二手に分かれるのだった。

 

 

 

 その頃、シュートは眉間に皺を寄せて考え込んでいた。

 

 もちろん理由はラミナからのメールだ。

 

(……確かに一考の価値はあるし、やるだけの価値もある……。だが、師団長とて油断できない存在だ。下手をすれば、ラミナも含めてモラウさん達以外の全員がこれでリタイヤする可能性もある)

 

 シュートの弱点ともされる臆病さが、潜伏を強いる現状では大きな武器となっていた。 

 自分達の命はもちろん、東ゴルトーや世界中の命の危機でもあるのだ。それくらいは当然だろう。

 

 だが、目の前の男はそうではない。

 

「おい、いい加減話しやがれ。誰からのメールで、どんな内容だったんだよコラァ」

 

 ナックルはただ潜んでいる現状に非常に苛立っていた。

 当然だろう。こうしている間にも数十万という人間が死んでいるのだから。しかも、自分達のすぐ近くで。

 

 世界のために、この国の人間達には犠牲になってもらう。

 

 その考えはナックルには絶対的に納得できるものではなかった。

 

 ナックルはただでさえ、未だにキメラアント達の討伐に反対しているのだから。

 

 故にシュートはラミナからの提案を話せば、ナックルはすぐさま飛んで行くことは想像に難くなかった。

 

 だが、話さないのも問題だろう。どうせいつかはバレるのだから。

 

「……ラミナからだ」

 

 シュートはナックルの動きに注意しながら、ラミナからの提案について話した。

 

 全てを聞き終えたナックルは、案の定を勢いよく立ち上がった。

 

「迷う理由なんざねぇだろコラァ!! 俺らも参加する!! そう伝えろぉ!!」

 

「落ち着け、ナックル」

 

「落ち着いてんだろぉが!! オウ!? それともテメェはこのまま大人しくしとけってのか!?」

 

「だが俺達まで動けば、最悪作戦当日に動けるのが会長とモラウさん達だけになってしまう。そうなれば本末転倒ではないのか?」

 

「ぐっ……!」

 

「別に動くなというわけじゃない。今すぐラミナ達と同調する必要はないと言ってるんだ、俺は」

 

「……あ?」

 

 ナックルは勢いに冷や水を浴びせられたおかげか、シュートの言葉を冷静に受け止める余裕が出来ていた。

 

「ラミナ達、そしてキルア達が動いた場合、騒動は国境側に集中する。つまり、兵隊蟻達はこの国を横断することになるんだ。今、俺達がいるこの中央部をな」

 

「!」

 

 シュート達がいるのは東ゴルトー中央部の森林に生える大樹の上だ。

 宮殿より来るであろう敵に最も早く遭遇するのはシュート達である可能性が高い。

 

「俺達の能力は奇襲に向いてる。だから、共倒れの可能性を少しでも遅らせるために、ここは耐える時だ」

 

「……!!」

 

 ナックルはシュートの力強い言葉に、歯を食いしばる。

 本当は今すぐにでも駆け出したかった。

 

 だが、それはただの我儘だとも気付いている。

 

 ラミナ達を信じ、作戦の事を考えれば、ここはシュートの言う通り耐えるべきだ。

 

 ラミナとキルア達が動けなくなった時に、その尻拭いをするために。

 

 それが仲間である自分達の役目だと、ナックルは理解していた。

 

「………ちっ、わぁったよ。待てばいいんだろ待てばよ!!」

 

 ナックルは苦渋に顔を歪めたまま、ドカッ!と自分を押し付けるように座り込む。

 

 なんとか説得に成功したことにシュートはホッとし、ラミナ、キルア、ノヴに自分達の決定を連絡する。

 

 

 

 ちなみにノヴは、モラウにはこの事を一言も話さずに作戦を粛々と進めていたのだった。

 

 

 

 

 それぞれが方針を決めている中。

 

 ラミナ達はまだ選抜が始まっていない町を見つけて、森の中に潜んでいた。

 

 町中には軍人達がおり、その真上にはあの人形遣いの念獣が浮かんでいた。

 それはまさしく軍人全員がネフェルピトーの人形と化していることを示していた。

 

「行かないのか?」

 

「今行って軍隊を制圧したら、うちはただの気が狂った悪モンやないか。軍人共が選別を始めんとここに住んどる奴らを味方に出来ん」

 

「……そうか」

 

 それはつまり、誰かが死ぬかもしれないのを待つということに他ならない。

 だが、その前に倒してはラミナの言う通り、ただの犯罪者である。

 

 すると、軍人達が町民達に号令を出し始めた。

 

「これより国民大会に向けて移動する際の組み分けを行う!!」

 

 軍人の言葉に町民達は戸惑いの表情を浮かべて顔を見合わせる。

 

「グズグズするな!! さっさと広場へと集まれ!!」

 

 銃を持つ軍人の高圧的な指示に住民達は慌てて動き出す。

 しかし、軍人達は理不尽に住民達を責め立てる。

 

「遅い! 何をしている!!」

 

「さっさとせんかぁ!!」

 

 軍人の1人が近くにいた男に殴りかかる。

 

 男は頬を殴られて歯を数本折れ飛ばしながら吹き飛んで地面を転がった。

 

「ひぃっ!?」

 

「きゃああああ!?」

 

 まさかの光景に町は阿鼻叫喚に包まれる。

 

 それを見ていたラミナは立ち上がる。

 

「始まりよったな」

 

 ラミナ達の目には確かに軍人の拳にオーラが集まっていたのを見逃さなかった。

 

「お前らはここにおりぃ。流石に目立つでな」

 

「ああ」

 

 ラミナはティルガ達にそう言って、ハラディを具現化して【朧霞】で姿を消す。

 

 素早く町の中に潜入したラミナは左手にソードブレイカーを具現化し、猛スピードで軍人達に迫る。

 

 そして、軍人達の念獣達を次々と斬っていく。

 ソードブレイカーを振るう度にラミナの姿が露になるが、すぐさま【朧霞】を再発動して姿を消す。

 夜で暗く、更に混乱している一般人の町民達に、ラミナの姿が捉えられるわけがなく、突然崩れ落ちる軍人達に更に混乱を深めていく。

 

 20分と掛からずに全ての軍人を行動不能にしたラミナは、少し離れた場所で武器を消して能力を解除し、今駆けつけたように演技をして声を張る。

 

「た、大変だ!! わ、私が住んでた村が突然兵士達に襲われた!! こ、ここまで来る途中の村も同じく惨殺されていた!!」

 

「そ、そんな……!?」

 

「兵士達は明らかにまともな様子じゃなかった! 何かに操られたみたいに! このままじゃ他の町や村の人達も殺されてしまう!! 急いで近隣の村や町に知らせてくれ!! 私も他の町に行く!!」

 

 そう言ってラミナはすぐさま駆け出して森へと飛び込む。

 

 それを見送った町民達は、ラミナの走り去り方が鬼気迫っていたかのように見えて、ラミナの話の信憑性を上げた。

 

 町は完全に大混乱に陥り、他の村や町に向かう者、家族を連れて国境へと目指す者、家に引きこもる者と様々に反応が分かれた。

 

 その様子を木陰で確認したラミナ達は、猛スピードで駆け出して町民達がすぐには来られない町を目指すことにした。

 

「これでネフェルピトーはうちらの存在に気づいたやろうな」

 

「どう動くと思う?」

 

「まぁ、もう少し様子見やろ。他の町でも邪魔者が現れへんか確認するまではなっとぉ」

 

 ラミナはティルガの質問に答えながら、携帯が震えたことに気づいて取り出す。

 

「キルア達か?」

 

「ああ。キルアは参加。ただし、ゴンは別行動。シュートとナックルはうちらを狙うであろう兵隊蟻を奇襲するために引き続き待機。ノヴとモラウは当初の予定通りに動くみたいやな」

 

「そうか……」

 

「それともう一個」

 

「ん?」

 

「うちの仲間が師団長の一匹を仕留めたらしいで」

 

「「!!」」

 

 ティルガとブラールが目を見開く。

 

 メールはパクノダからだった。

 

「師団長はマンディスっちゅう名前や。これで行方不明の師団長は二匹か……」

 

「ビトルファンとメレオロンだな。もしかしたら、2人ともこの東ゴルトーにいるやもしれん」

 

「そう考えとく方がもしもの時に驚かんでええか。正直、今はキルアとゴンの動向の方が重要やな」 

 

「そう言えば、何故キルアとゴンは別行動を?」

 

「まぁ、単純に考えればゴンには向かん作戦やでな。出来る限り相手に捕捉されんように動き回らなあかんから、キルア1人の方が楽っちゅうんは確かやな。それにキルアが囮になることでゴンから目を逸らすことも出来る」

 

「ゴンの力を温存させるためか……」

 

「そう考えるべきやろうな。とりあえず、キルアとは連絡を取り合っていかんとなぁ。下手に近寄り合うと総攻撃に遭いかねん」

 

 その後、ラミナ達は数十キロ離れた村に到着し、再び軍人達を無力化していく。

 ここでもラミナは演技をして、村人達を扇動して騒動を大きくしてから村を素早く離脱する。

 

 村からそれなりに離れたところで、携帯を取り出してキルアにメールを送る。

 

 数分後に返信が来て、キルアも扇動を始めたことの報告と場所、そして次へ向かう予定の場所が記されていた。

 

「ふむ……うちらがおる方とは逆方向やな。よぅ分かっとるわ」

 

「これで3か所……。ネフェルピトーには我々の存在は嫌でも伝わっただろう」 

 

「そやな。うちらの存在は確実に気づいたはずや。さて……どう出てくるか……」

 

 ラミナは右手で顎を撫でて思考に耽る。

 

 ティルガは腕を組んで眉を顰める。

 

「まず間違いなく護衛軍は出てこないだろうな」

 

「まぁな。こんな場所まで出向くことはまずないやろ。っちゅうことは師団長共が出てくるんやろうけど……」

 

「それだけではないと?」

 

「それやとキメラアントの姿を国民に見られてまう。流石にキメラアントの姿を見て、全員が従うわけがないでな」

 

「ああ」

 

「やから、多分ネフェルピトー達は戒厳令を出すはずや。国民を家に引きこもらせて、外におる連中は犯罪者として容赦なく処分する。んで、家を調べるという名目で押し入り、選別を手早く行う。悲鳴が聞こえても、反逆者の仲間を匿っとったとでも言えばある程度は納得させられるし、指組のシステムを利用して町丸ごとを不穏分子として処理するっちゅうところか……」

 

「その間に師団長が率いる兵隊蟻が、我々を狙うというわけか」

 

「やな」

 

 ラミナは頷いて、ティルガは更に眉間の皺を深める。

 

 どう考えても苦難しか待ち構えていない。

 それでも選別の被害者を減らすためには仕方がないかとティルガが考えていた、その時。

 

 

「まぁ、さっきうちらが扇動した連中も()()()()()し、すぐにうちらが捕捉されることはないやろ。それか、うちが反逆者のフリでもして、()()()()()()か……。いや、人形の視界を共有しとるわけでもなさそうやし、あんま意味ないか」

 

 

 ラミナの言葉に耳を疑ったティルガ。

 

「ん? どした?」

 

「……いや」

 

「……お前、まさかうちが善意で選別を止めたとでも思てたんか?」

 

「……」

 

 もちろんティルガも100%善意とは思っていない。

 だが、それでもやはり少しでも死者を減らそうと思ってくれていると、どこかで考えていた。

 

 ラミナは呆れた眼でティルガを見る。

 

「アホか……。うちらは正義の味方でも何でもないんやぞ?」

 

「……それは分かっている。しかし――」

 

「うちにとって、この国の人間はすでに死人と同じや。ほっといても選別で大多数が死ぬ。それやったら、ここで王達を確実に殺すための生贄になってもらおやないか。んで、運が良ければ生き残る。それだけのこっちゃ」

 

「……っ!」

 

「言うとくけどな。うちはもちろん、ネテロのジジイやモラウ達も、この作戦での()()被害人数は500万人と考えとるで。すでに東ゴルトーの国民は犠牲者として計算しとる。まぁ、モラウは納得しとらんやろうけどな」

 

 ネテロとて選別がすでに始まっていることなど予想していたはずだ。

 その上で作戦開始時間を大会前夜0時と定めた。

 

 つまり、ネテロは王と護衛軍を確実に殺すために、国民を見捨てたに等しい。

 

 それをラミナは理解していた。

 

「確実に王達を殺すためには、この国を潰す必要がある。うちもその判断に賛成や。やから、少しでもうちらの負担を減らすために、国民には死んでもらう」

 

「そ、それでは本末転倒ではないのか……!?」

 

「何がやねん。これ以上世界で犠牲者を出さんために、この国を生贄にしただけのことやろ。間違えんなや、ティルガ。うちらはこの国を救いに来たんやない。王と護衛軍を殺すために来たんや」

 

「……」

 

「それともう1つ。ええか、ティルガ。うちらはこの国の国民より()()()()()()()()()。間違っても、国民を庇って死ぬことはありえへん」

 

「……何故だ?」

 

「うちらが()()()やからや。今、この国にうちら以外に戦える奴がおらん。つまり、うちらが死ねば国民は死ぬ。やから、うちらは絶対に先に死んだらあかん」

 

 医療者や救急隊などと同じ理屈である。

 

 助けなければいけない存在のために、命懸けで動くことは間違ってもいないし、尊い事である。

 だが、それで助ける人がまだいるのに、助けなければいけない人より先に倒れては意味がないのだ。

 

 それこそ、本末転倒だ。

 

 犠牲者を減らすためにも、()()()()()()()()()()()()

 

 その矛盾を抱えなければいけないのだ。

 

 その結果、助けられたかもしれない、助けられたであろう命を見捨てなければならない時は必ず来る。

 

「やから言うたやろ。見捨てるも地獄、救うも地獄やてな」 

 

 目的を遂行するためには、助けた命を利用しなければならない時もある。

 

 それが今だと、ラミナは考えている。

 

「うちらは戦争しとるんや。その時点で善悪なんざ意味はない」

 

 たとえ世界を救うためであっても、それは『人間にとっての世界』に過ぎない。

 

 一方の立場に偏ってる時点で、正義なんてものには程遠いとラミナは思っている。

 

「戦いに正義はない。もし、あるとしたら……『勝った者が正義』、や」

 

 どんなに非情で卑怯な手を使おうが、勝利という結果がそれを覆い隠す。

 

 それほどに『勝利』という事実は強いのだ。

 

「もうこの国では人間とか、キメラアントとか関係ないねん。この国におるのは『生き残る者』か『死ぬ者』のどっちか。それだけや」

 

「……」

 

「もういっぺん覚悟決め直しぃ。うちらは戦いに来たんであって、救いに来たわけやない。うちらが勝ったら、周りが勝手に救われる。その程度のことや」

 

 ハンターは一民間組織の一員であって、公僕ではない。

 

 正義だの大義名分などとは本来程遠い存在だ。

 

 暗殺者など論外である。

 

 故に世界を救うなどと言う戦いに参加するなどありえない。

 

 

 この戦いは、ただ凶悪な生物を殲滅するだけのこと。

 

 

 正義という言葉など、絶対に似合わない。

 

 

(ま……暗殺者の盗賊が参加しとる時点で、今更やけどな)

 

 ラミナはそう内心で自虐しながら、思い詰めた顔をしているティルガを見つめていた。

 

(さて……後どれくらいで連中が動くか)

 

 恐らく半日も猶予はない。

 

 そう予感するラミナの予想は、またも的中するのだった。

 

 


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