暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

126 / 153
#125 ジンライ×ノ×ダンスパーティ

 キルアとラミナは震源方向へと顏を向ける。

 

 そこから現れたのは巨大な大玉に乗り、周囲の樹々を薙ぎ倒しながら突っ込んでくる兵隊蟻だった。

 

 腰から長い虫の脚が伸び、大玉の上でバランスを取っている。

 

「また原始的なやっちゃなぁ!」

 

「ちぃ!」

 

 ラミナとキルアは立っていた枝から跳び上がる。

 

 直後、2人の立っていた樹が大玉がぶつかって圧し折れた。

 

 2人はそれぞれ別の樹の幹に着地する。

 だが、樹の裏側から殺気を感じた。

 

 キルアが降り立った場所に綺麗な横一文字の亀裂が走り、ラミナが降り立った場所にズドン!と巨大な棘が生えた。

 

 しかし、すでにラミナとキルアの姿はそこにはなかった。

 

「「!!」」

 

 大玉に乗っていたキメラアントとコローチェは目を見開く。

 

 視界に映ったのは、首が捩じ切られて両腕を破壊された尾に巨大なハサミを持つ兵隊蟻と、頭部が粉砕されて巨大な針が生えた尾が引き千切られた兵隊蟻だった。

 

(一瞬で頸椎部を捩じ切り両腕を破壊……! もう一方も頭を破壊して尾を引き千切った……!? 単独の接近戦では勝ち目がねぇ!)

 

『奴はどこだ!?』

 

『隊長、上です!!』 

 

 コローチェと大玉蟻は上を仰ぎ見る。

 

 樹上では、猿系の特徴を持つキメラアント達や蜥蜴やカエルの特徴を持つキメラアント達が、それぞれ武器を構えてラミナとキルアを囲んでいた。

 

『一斉にかかるのです! 懐に入られたら死ぬと思いなさい!!』

 

『『『『『『はっ!!』』』』』』 

 

 キメラアント達はコローチェに命令されるまでもなく、一斉に2人に飛び掛かっていた。

 

 だが、ラミナとキルアは焦りや絶望を浮かべるどころか、涼しい顔をしていた。

 

 ラミナは左腕でキルアの左手を掴んで引っ張り、自分の左肩に乗せる。

 それと同時に右脚を鋭く振り上げ、棍棒を握っていた兵隊蟻の顎を蹴り抜いて頭部を砕く。

 

 キルアはラミナの背後から迫ってきていたハンマーを振り上げているカエル蟻を見据えながら上に跳び上がって、トンカチを握る両腕が長い兵隊蟻の右腕を掴む。

 ラミナはキルアが跳び上がった反動を利用して前転し、顔に伸びてくる兵隊蟻の指を躱す。

 

 頭を下にしたラミナは右手に大太刀を具現化して、右にいた槍を突き出そうとしていた太った兵隊蟻の股から頭まで一瞬で槍ごと両断し、大太刀を消す。

 キルアは掴んだ腕を引き寄せながら、両断された兵隊蟻が握っていた槍の先を左手で掴み、すぐ下にいたカエル蟻の額目掛けて投擲して額を貫いた。

 

 ラミナは体を起こしながら左腕で【蛇活】を繰り出し、長い指を持つ兵隊蟻の胸を貫いて心臓を潰す。

 更に最初に殺した兵隊蟻の身体を蹴って跳び上がり、キルアが引き寄せていた両腕が長い兵隊蟻の額を爪を研ぎらせた手刀で突き刺し、更に腕を薙いで頭部を砕く。

 

 ラミナが右脚を伸ばすと、その上にキルアが当然のように着地する。

 

 ラミナが身体を捻って左脚を振り上げる。それに合わせてキルアは軽く跳び上がり、振り抜かれるラミナの左脚に両足を乗せて一気に飛び出す。

 

 飛んだ先には、異様に長い尾で鶴嘴を持ち、両手にハンマーを持つ兵隊蟻。

 その兵隊蟻はすでに鶴嘴をラミナに向けて振るい伸ばしていた。

 

「っ!?」

 

 いきなり飛び掛かってきたキルアに驚いた兵隊蟻は、何も出来ずに首を捩じ切られた。

 更に伸ばしていた尾は、ラミナに軽々と手刀で斬り落とされ、尾で持っていた鶴嘴をラミナは素早く掴み取って、背後に振り返りながら投擲する。 

 

 投げられた鶴嘴は、キルアの左から迫って来ていた太い腕と蜥蜴のような尻尾を持つ兵隊蟻の側頭部に突き刺さった。

 

 キルアはラミナが投げた鶴嘴を頭を下げて躱しながら、鶴嘴を投擲して伸ばされたラミナの右腕を掴む。

 そして、全力で腰を捻って回転し、ラミナを引き寄せる。途中で手を離して両手を組み、目の前まで引き寄せていたラミナの足裏に組んだ両手を添える。

 

「ふう!!」

 

 息を鋭く吐きながら両手を振り抜いてラミナを投げ飛ばし、ラミナは樹の幹に張り付いて固まっていた蜥蜴蟻へと飛ぶ。

 

 あっという間に仲間がやられた衝撃で固まっていた蜥蜴蟻は、為す術なくラミナに首を引き千切られた。

 

 一分と経たずに樹上の部隊が全滅したことに、大玉蟻は即座に撤退を決めた。

 

(樹上での複数攻撃ですら全く歯が立たない!)

 

『下がれ!! 態勢を立て直す!!』

 

 まだ控えさせていた部下達に念話を飛ばして、撤退しようと動き出す大玉蟻。

 

 しかし、キルアが素早く枝を飛び移り、大玉蟻へと猛スピードで迫る。

 ラミナもそれを追いかけながら、コローチェに殺気を飛ばして牽制していた。

 

 キルアが大玉蟻の背後に迫ろうとした、その時。

 

 別角度から様子を見ていたラミナの目に、口角を吊り上げる大玉蟻の顔が映った。

 

(罠か!!)

 

 ラミナは左手に掌大のチャクラムを具現化した。

 

 その直後、

 

 

ボォウッ!!

 

 

 大玉蟻の尻が爆発して火を噴いた。

 

「くくく、ヒャーハッハァ!! どうよ!? 俺の一発はよォオ!?」

 

 高らかに笑う大玉蟻。

 

 樹々は爆発で薙ぎ倒され、所々火が点いている。

 

 それに大玉蟻はキルアも吹き飛んだと確信した。

 

「ヒャーハハハハ!! ざまぁみやがッ!?」

 

 高笑いをしていた大玉蟻の側頭部にスローイングナイフが突き刺さって、大玉蟻は横に吹き飛んで大玉から落ちる。

 

 コローチェが目を見開いて視線を向けると、そこにはキルアを脇に抱え、僅かに体から電気を放出しているラミナがいた。

 

 ラミナはキルアを放り投げながら着地する。その左肩には帯電しながら高速で回転しているチャクラムが引っ付くように浮いていた。

 チャクラムは左腕を滑るように移動し、左人差し指に引っ掻けられて止まる。

 

 ラミナは顔を顰めて、右手を離握手する。

 

「ッつぅ~……! あかん……めっちゃ痺れるわぁ……。お前、よぅこんな能力創る気になったわ、ホンマ」

 

「……今の。まさか俺の能力を真似したのか?」

 

「まぁなッ!? いッつぅ~……!」

 

 ラミナは肩を竦めようとして、ビリッと身体に電流が走って一瞬硬直し、すぐに顔を顰める。

 

 キルアは複雑な表情を浮かべながら、腕を組む。

 

「お前って電流に耐える特訓とかしてんのかよ?」

 

「しとるわけないやろが。お前んとこのイカれた一家と一緒にすんなや」

 

「だったら無茶にも程があんだろ……。俺だって痛くないわけじゃないんだぜ?」

 

「いやぁ……流石にお前やあの蟻みたいに速すぎる連中に対応するにゃこれくらいせないかんかと思てなぁ……」

 

 ラミナはチャクラムを消し、顔を顰めて腕を回しながら答える。

 

小生意気な雷童子(ブリッツ・ギア)

 

 ヂートゥ戦などに備えて創った能力で、キルアの【神速】を参考に創ったものの、やはり身体能力を上げるほどの電流を身体に流すのはラミナでもキツ過ぎた。

 

 流石に電気拷問を耐える特訓などしたこともないし、考えもしなかったので、ラミナの電気耐性はそこらへんの人間と大差ない。

 それでも『ちょっとキツイ』レベルで済んでいる時点で十分おかしいのだが、ラミナはもちろん、同じ能力を使っているキルアもそこには気付かない。

 

「こらぁ……やっぱ使っても1,2秒やな……」

 

「動けるのか?」

 

「まぁ、1,2分もすれば戻るやろ。今はまず……」

 

 ラミナはコローチェへと顔を向け、キルアも鋭く視線を向ける。

 

 コローチェは顔を顰めて腕を組んでいた。

 

「傷1つ付けることも出来ずに、あっという間に戦力が半分以下ですか……。困ったものですわね」

 

(まぁ、相手があの女であれば仕方がないことやもしれませんが……)

 

 NGLにいた時はまだ念について無知だったとはいえ、師団長ですら歯牙にもかけなかった実力者。

 いくらあの時から強くなったとは言え、やはりそう簡単に実力差が埋まるものではなかった。

 

『フラッタ、レオル様に連絡なさい。ネフェルピトー様に一度指示を仰ぎます』

 

 コローチェは上空にいるフラッタへと念話を飛ばす。

 

 しかし、フラッタから返事が返ってこない。

 

『……フラッタ? フラッタ!! 何をしているのです!? フラッタ!?』

 

 

 

 

 大玉蟻が爆破を放つ少し前。

 

 フラッタは変わらず空から戦場を俯瞰していた。

 

 と言っても、フラッタの視界には地上の光景が当たり前のように見えているのだが。

 

衛星蜻蛉(サテライトンボ)】。

 

 フラッタが会得した念能力は、ブラールと同じく偵察用念獣を生み出すものだった。

 見た目は普通の蜻蛉にしか見えない。ブラールと異なり、姿を隠すことはできないが、その分具現化できる数は多い。

 

 更にフラッタは虫の特徴でもある『複眼』を利用して、全ての【衛星蜻蛉】から送られる映像を見ることが出来る。

 

 故にフラッタの視界にはほぼ死角がなく、自分は安全地帯から敵を観察することが出来る。

 

『レオル様。陸軍はほぼ壊滅です。全く歯が立ちませんね。能力すらまともに使わせることが出来ていません』

 

『ちっ……所詮は雑魚共か……。少しでも良い。何か情報はないのか?』

 

『紅髪の女の方は武器を生み出すか、別空間から取り出すことが出来るようです。子供の方は以前NGLで見た奴ですね』

 

『そうか……』

 

『コローチェの話では、紅髪の女の方は例のアモンガキッド殿と戦って生き延びた女のようです』

 

『なんだと……? ちっ……フラコックやウィゼリス達を殺した奴か。厄介だな……』

 

 レオルは眉間に皺を寄せ、顎髭を触りながら唸る。

 

 ラミナのことはアモンガキッドが『君達じゃ念を覚えたところで勝てる相手じゃない』と言っていたこともあり、警戒対象として覚えていたのだ。

 

(今ならそう簡単に負けるとも思わねぇが……アモンガキッドの野郎から逃げ延びた事実は無視出来ねぇ。正面から挑むのは危険だな……。だが退くにしても、せめてネフェルピトー達が撤退も仕方ないと思わせるだけの有益な情報を手に入れねぇと、俺の評価が下がっちまう……!)

 

『フラッタ。何としてでも地底湖まで誘き出せ! 流石に水の中なら連中も動きが鈍るし、能力を使わざるを得ねぇだろ』 

 

『了解』 

 

(せめて連中の能力を知らねぇと話にならねぇ。何としてでも連中に能力を使わせる!)

 

 レオルはもどかしさを感じながら、フラッタ達の連絡を待つのだった。

 

 フラッタはレオルの言葉をコローチェに伝えようとした、その時。

 

 

 突如目の前に梟が出現し、足の爪で顔を引っ掻きに来た。

 

 

「なっっ!?」

 

 フラッタは驚愕しながら両腕で顔を庇う。

 

 梟の突然の出現に、フラッタは反射的に【衛星蜻蛉】からの視界の大部分を切って、目の前の存在に集中してしまう。

 しかし、梟と己が両腕で視界がほぼ潰されてしまった。

 

 それ故に、後方下から静かに、されど高速で迫る存在に気づけなかった。

 

 フラッタは背中に衝撃と熱さを感じ、直後激痛が走って羽根の感覚を失った。

 

「がぁ!?」

 

 悲鳴を上げながら、何とか視線を向ける。

 

 そして捉えたのは、音もなく風を切り裂きながら飛ぶ黒い翼を持つ黒づくめの少女、ブラールであった。

 

 更に視界の端に映ったのは、自分の背中に生えているはずである羽根の一枚だった。

 

 フラッタが見たもの全ての意味を理解する前に、フラッタは身体に重みを感じ、下に引かれるような感覚に襲われる。

 

 落下を始めたのだ。

 

 

「あ、ああ……! うあああああああああ!?」

 

 

 フラッタは【衛星蜻蛉】や念話を使う余裕もなく、ただただ悲鳴を上げて落下する。

 

 ブラールは素早く旋回して再びフラッタへと迫る。

 その翼にはオーラが集中していた。

 

 ブラールの新たな能力【無音飛空艇(ステルスウィング)】。

 

 翼や羽根を強化するだけの能力で、高速で飛ぶことで風圧と合わせて翼に僅かに切れ味を持たせ、羽根を矢のように鋭く撃ち出すことが出来る。

 ありふれたちっぽけな能力かもしれないが、音を出さずに飛べる梟の特性を持つブラールならば、十分すぎるほどの奇襲力を発揮するのだ。

 

 ブラールは慌てふためきながら落下しているフラッタの背中を両足で蹴り飛ばし、フラッタの落下の方向を変えた。

 

「がっ、ああああああああ!?」

 

 自分が襲われる、奇襲されるとは夢にも思っていなかったフラッタにとって、この状況から立ち直れるほどの精神力も経験もない。

 

 念話で助けを呼ぶことすら思いつかず、フラッタはただただラミナ達が戦っているジャングルの端へと落ちていく。

 

 地上まであと数秒というところまで迫った。

 

 その時、フラッタは地上に人影を捉えた。

 

 それは――

 

 

 オーラを集中させた右鈎爪を構える、ティルガだった。

 

 

「!?!?(な、何故、ここに!?)」

 

「恨みはない。だから――」

 

 ティルガは構えたまま、フラッタ目掛けて全力で跳び上がる。

 

「我を恨んで、死んでくれ」

 

 そう呟き、風を切り裂きながら右鈎爪をフラッタ顔面目掛けて振るう。

 

 フラッタは【練】を使うどころか、腕で防御することもせず、迫る虎の爪をただただ見つめていた。

 

 そして、ティルガの右鈎爪がフラッタの顔面に触れた直後、

 

「――【虎咬拳】」

 

 素早く右手首を捻り、一瞬にしてフラッタの頭部を喰い千切った。

 

 頭を失ったフラッタの身体は血を流しながら、受け身もとれずに勢いそのまま地面に落下した。

 

 ティルガは着地して、小さく息を吐く。

 

「……ふぅ~……」

 

「……」

 

 傍にブラールも下り立ち、静かに翼を折りたたむ。

 

「……フラッタ以外に空を飛んでいる者は、いないな……?」

 

「……」

 

 ティルガの問いに無表情のまま頷くブラール。

 

 それにティルガも頷き返し、

 

「ならば、ラミナに合図を。……敵の覗き屋は、始末したとな」

 

 ブラールは頷いて、ラミナへと合図を送るのだった。

 

 

 

 

 ラミナとキルアが、コローチェが妙に慌て始めたことに訝しんだその時。

 

バタバタバタッ!!

ホーッ!!

 

「「!!」」

 

 2人の頭上で梟が音を立てて羽ばたき、鳴きながら飛び立っていった。

 

「あれは……!」

 

「上の覗き屋を仕留めた合図……! 行くで!! 一気に奴を仕留める!!」

 

「ああ!!」

 

 ラミナとキルアはコローチェに猛然と駆け迫る。

 

 それにコローチェは歯を食いしばりながら、一度距離を取ろうと後退する。

 

(まさかフラッタがやられた!? まだ他にも仲間が潜んでいたのですか!?)

 

『モルモ!! フラッタはどうしたのですか!?』

 

『こちらも連絡が取れませんですます! 上空にも姿が見当たりませんですます!』

 

『他に敵の足音は!?』

 

『感知範囲内にはいないですます!』

 

『くっ……!! 仕方ありませんか……。モルモ、わたくしが死ねば指揮はあなたが執りなさい。地上では勝ち目はありません。地底湖まで誘き寄せるのです』

 

『コローチェ様……!?』

 

『その後は何としても敵の情報を護衛軍の方々とレオル様に伝えなさい。特に護衛軍の方々には、必ず伝えなさい! この者達の刃が王様に届くことだけは、何としてでも防がねばなりません……!』

 

『……了解致しましたですます。必ずや、成し遂げますです』

 

『頼みましたよ、モルモ。では、ごきげんよう』

 

 コローチェは全てを受け入れて柔らかな笑みを浮かべ、この後の全てを部下に託して別れを告げる。

 

 ラミナとキルアはコローチェの悟ったような笑みを見逃さなかった。

 

「この状況で浮かべるにしちゃあ嫌な笑みやな」

 

「ああ……あれは死を覚悟した類の表情だ」

 

 2人が感じ取ったのを裏付けるように、コローチェは足を止めてラミナ達と向かい合う。

 

 ラミナ達も数メートル距離を開けて足を止める。

 

「……どうした? 諦めたのか?」

 

「……まぁ、そうとも……言えますわね。王様からお預かりした部隊は半壊。どうやらフラッタも殺されたようですし。……まだ仲間がいたとは、完全にしてやられましたわ」

 

「「……」」

 

「ここから逆転する手はわたくしにはありません。恐らくレオル様はわたくしを助けることなどしないでしょう。残った部下ではあなた達には逆立ちしても勝てませんし、先ほどの動きを見れば、わたくしではあなた達からどう足掻いても逃げ切れませんわ。ですので……」

 

 コローチェは最初のように左脚を上げて構える。

 

「偉大なる王の配下として、偉大なる王を産んだ女王陛下の兵隊蟻として、敵たるあなた達に、ただ一矢報いたい。それだけのことですわ。願わくば……その一矢が今後のあなた達を苛立たせる傷とならんことを」

 

 左脚に集中していたオーラが更に膨れ上がる。

 

 そしてオーラは形を変え、膝から下がグリーブと長さ70cmほどの両刃の剣が一体化した脚甲となった。

 

「「!!」」

 

「【舞い踊る白鳥(トルナード・ガンバ)】。これがわたくしの能力ですわ」

 

 コローチェはその場でバレエを踊るかのように高速で舞う。

 

 それに合わせて左脚の刃も舞い、斬撃の旋風が巻き起こる。

 

 更にコローチェは左脚の刃を地面に突き刺して立ち上がり、右足を振り上げる。

 右脚にも脚甲が具現化する。

 

 コローチェの真っ白な躯体とバレリーナのルルベのような佇まいは『美しい』としか表現しようがなく、纏う覚悟も相まってラミナとキルアはコローチェはこれまで出会った兵隊蟻の誰よりも手強いと感じた。

 

「……ちっ。護衛軍以外の蟻が、ここまで打算なく王に従っとるたぁなぁ」

 

「予想してなかったわけじゃないけど、流石にちょっと驚いたな」

 

 軽口を言いながらも、ラミナは右手にブロードソードを、左手にチャクラムを具現化し、キルアは構えながら目を細める。

 

「お前、なんでそこまで王に忠誠持っとるんや? 王は生まれた時、師団長を喰ったんやろ?」 

 

「……美しい。そう思ったのです。ただ、それだけですわ」

 

 コローチェは生まれたばかりの王を見ていない。

 

 一番最初に見たのは、新天地を求めて巣を旅立つ王の後ろ姿だった。

 

 だが、コローチェはその後ろ姿がとてつもなく美しく見えた。

 

 だから、NGLを飛び出して、真っ先に王の元へと走った。

 

 コローチェが王の元へ辿り着いたのは、東ゴルトー制圧直後。

 

 その時にただ一度だけ、コローチェは王と対面することが出来た。

 

「凛々しく、美しく、気高く、何より強くて、恐ろしい……。同じキメラアントと思うことすら不敬。そう心の底から理解させられるほどの存在圧。……そんな御方に仕えたいと思うのは、おかしい事ですの?」

 

 どうひっくり返っても手が届かない存在。

 

 同じ王を名乗ることすら烏滸がましい。

 

 ならば仕える以外にどんな選択肢があるのだろう?

 

 コローチェは心の底からそう思っていた。

 

「正直なところ、わたくし、レオル様達の思考が理解できませんの。何故、あの御方の寝首を掻けると思えるのか。恩を売ったところで、信を得たところで、何故王様を裏から操れると思えるのか。何故自分も王になれると思えるのか」

 

 あの王が『この配下は殺すのが惜しいから重用しよう』と、本気で考えると何故思えるのか。

 

「王様は完全無欠の存在ですわ。護衛軍はもちろん、わたくしも……この世全ての生物は王様の雑用を担うためだけの駒。代わりなどおらず、逆に王様はわたくし共が出来ることならば全て容易に為せる。王とは絶対の孤高たる存在。わたくしは王様の栄光を形作る石粒程度の礎。十分ですわ。それだけで、十分なのです」

 

 王が頂点にいる。

 

 それだけでコローチェは満足なのだ。

 

 褒められたいと思うことすら烏滸がましい。己を知ってほしいと思うことすら烏滸がましい。傍に置いてほしいと思うことすら烏滸がましい。

 

 真なる忠義とは『何も求めず、されど王が為したいことに全身全霊全命で臨むのみ』。

 

 ただそれだけでいいのだ。

 

 そもそも本来、兵隊蟻とはそういう存在なのだから。

 

 コローチェはただ、キメラアント本来の生き方に戻っただけに過ぎないのだ。

 

 ()()()()()()()が、ラミナとキルアに脅威を感じさせている。

 

「改めまして……兵隊長が一、コローチェと申しますわ。我が王の偉業を防がんとする愚かで勇敢なる戦士様……どうか、お覚悟を」

 

 コローチェは右手を左胸に添えて優雅な礼をし、まるで舞台挨拶するかのように名乗り、口上を述べる。

 

「……幻影旅団が11番。殺し屋、ラミナ・ハサンや」

 

「プロハンター、キルア・ゾルディック」

 

 ラミナとキルアもそれに敬意を表して名乗り返す。

 

 それにコローチェは感謝するかのように小さく微笑み、次の瞬間には顔を鋭くする。

 

 

「では、踊り合い(殺し合い)ましょう」

 

 

 そして、3人は同時に飛び出した。

 

 

 

 

 勝負はあっという間だった。

 

 まずラミナとコローチェが距離を詰め、互いに高速の斬撃を放って、剣戟を繰り広げる。

 

 ラミナの背後からキルアが爪を研ぎらせて飛び出し、コローチェに斬りかかる。

 

 コローチェは勢いよく体を捻りながら右脚を上げ、バレリーナのようにその場で回転する。

 ラミナは後ろに弾かれて、キルアは舌打ちして攻撃を中断する。

 

 コローチェはスケートのように猛スピードで滑り出し、ラミナに詰め寄る。

 

 そして、左脚の刃を振り上げながらまた体を捻って逆立ちし、その場で勢いよく両脚を広げて回転を始めた。

 

 剣圧で風を巻き上げて、まさに竜巻が如くラミナへと襲い掛かる。

 

 ラミナは斬撃の嵐を紙一重で躱し、キルアがコローチェの横に回り込んで攻めかかろうとする。

 しかし、コローチェは両腕で跳び上がって、両脚の刃を振り乱してキルアの接近を防ぐ。

 

 ラミナはブロードソードを消して、左手のチャクラムを回転させる。

 高速で回転するチャクラムは帯電を始め、腕を滑るように移動して左肩で止まる。

 

 直後、ラミナの身体に電流が流れ、僅かに髪が逆立つ。

 

 それを見たキルアも【神速】を発動し、全身に電気を纏う。

 

 コローチェは目を見開くも、すぐに顔を鋭くして両脚の刃を振るう。

 

 

 直後、ラミナとキルアの姿が消え、コローチェの四肢が斬り飛ばされた。

 

 

「!?」

 

 目を限界まで見開いたコローチェの目の前に。

 

 

 爪を研ぎらせ、互いの手の甲を合わせるように手刀を構えるラミナとキルアがいた。

 

 

「「終わり()」」

 

 

 ラミナとキルアは同時に告げ、手刀を繰り出す。

 

 コローチェはそれに小さく微笑み、

 

「ごきげんよう」

 

 2つの雷槍がコローチェの顔を吹き飛ばし、白い髪が乱れ舞う。

 

 ラミナとキルアは同時に能力を解除すると、コローチェの胴体と四肢が地面に落ちる。

 

「あっづッ! くぅ~……! 全っ然慣れへんわぁ~」

 

 ラミナは痺れに顔を顰めてボヤく。

 

 キルアはポケットに両手を突っ込んで、呆れ顔を浮かべる。

 

「そんな簡単に慣れられてたまるかよ……。ところでさ」

 

「ん? イヅッ!?」

 

「……はぁ。そのチャクラムの能力、俺にも使えんの?」

 

「っつぅ~……! ……残念ながら、うちしか使えん。そこまで都合がええもんには仕上がらんかったでな」

 

「そうか……」

 

 顔を顰めながら、キルアの質問に答えるラミナ。

 

 キルアはもちろん予想していたことなので、特に落胆することはなかった。

 

「それにしても、まさかあそこまで王に忠誠を誓う蟻がいたなんてな」

 

「まぁ、コルトらみたいに女王に忠実な奴らもおったんや。護衛軍以外にも1、2匹は出てもおかしないやろ」

 

「まぁ、な……」

 

「それよりも……レオル様とか呼んどったけど、そんな名前聞いたことないなぁ」

 

「フラッタって奴は確かハギャって奴の側近だったんだよな?」

 

「そのはずやけど……。まぁ、ええか。動き続ければ、いずれ分かるやろ。さて、他にも潜んどる蟻はまだおるやろうし、まずはそいつらを始末しよか」

 

「ああ」

 

「ほな、行こ――」

 

 再び移動を再開しようとしたその時、ラミナの耳が何かを捉えた。

 

 反射的にキルアの襟を掴んで、後ろへと引き込む。

 

「!?」

 

 キルアが目を丸くして驚きの声を上げようとした、その時。

 

 

ヒュゥン!

 

バシュ!!

 

 

 何かが風を切る音がして、ラミナの右肩から血が噴き出したのだった。

 

 

 




1匹くらい護衛軍以外で王に忠誠MAXな蟻がいてもいいかなと思いまして、コローチェさんにお願いさせて頂きました。

【舞い踊る白鳥】の元ネタはデジモンフロンティア『フェアリモン』、FGO『メルトリリス』です。

チャクラムの細かい説明は次回で。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。