暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#126 ソゲキ×ノチ×ツイゲキ

 ラミナは右肩から血を噴き出して、身体を仰け反らせる。

 

 キルアは放り投げられて着地しながらラミナを振り返る。

 

「ラミナ!!」

 

 ラミナは右足を後ろに滑らせて倒れないように堪え、後ろに跳び下がる。

 

 顔を顰めながら右肩を左手で押さえる。

 

「焦んな。掠っただけや。っ!! 2時の方角!!」

 

「!!」

 

 ラミナの忠告にキルアは顔を向けて構えるも、

 

バシュン!!

 

「あぐっ!?」

 

 左首元に衝撃を感じて、後ろに吹き飛ばされた。

 しかし、キルアは倒れることなく、両足で踏ん張って堪える。 

 

「なにっ、か付いてる……!?」

 

 キルアは顔を顰めながら、首元に付いている何かを掴む。

 

 それはデカい奇形のノミのような生き物だった。

 

「ノミ……!?」

 

「止まんな!!」

 

「!!」

 

 キルアは目を丸くするが、ラミナの怒号に弾かれたように走り出す。

 

 ラミナはブロードソードを具現化して、キルアの隣を走る。  

 そして、キルアが持つノミに目を向ける。

 

「撃たれた箇所は?」

 

「ダメージはほとんどないけど、血の勢いが止まらない。そっちは?」

 

「うちはもう止まっとる。十中八九、そのノミのせいやろな」

 

「【円】は?」

 

「あかん。発砲音すら聞こえんのやから、最低200mは離れとるやろうな」

 

「方角は?」

 

「2時から5時の間。ジャングルの外の可能性が高いな。一気に行くで」

 

「ああ」

 

 ラミナとキルアは急転回し、狙撃位置へ向けて全速力で疾走する。

 【円】を維持しながらで、ブロードソードでいつでも斬り落とせるように備える。

 

 キルアはその斜め後ろから追走していた。

 

「上、上がるで」

 

「ああ」

 

 2人は枝の上に跳び移る。

 

「やっぱ地面の振動で俺達の位置を?」

 

「やろうな。空は誰もおらんみたいやし。それにしても、ええ腕しとんな」

 

 ビュン!とラミナ達の真下を蚤弾が通過する。

 

 それはラミナ達が地上を走っていれば、間違いなく直撃していたコースだった。

 

「やっぱ敵は地上の足音しか分からんみたいやな」

 

「けど、近づけば流石に樹の振動も伝わるぜ?」

 

「その時はその時やて。それにうちはもちろん、お前なら能力で躱せるやろ」

 

「まぁな」

 

 2人は同時に跳び上がって、ジャングルの上に出る。

 進行方向に見えたのは、高い岩が何本も聳え立つ岩礁地帯だった。

 

 その1本の高い岩の上に小さな人影が見えた。

 

「あいつか!」

 

 標的を捕捉した2人は、更に速度を上げるのだった。

 

 

 

 

 狙撃手も2人に捕捉されたことに気づいた。

 

「見つかっちまったぜぇ♪」

 

『では、予定通り動くのですます!』 

 

「オ~ッケイ」

 

『ボクも出るのですます! しっかりやるのですます!』

 

「オ~ッライ」

 

 狙撃手は岩から飛び降りる。

 

 ジャングルから飛び出したラミナとキルアは、もちろんそれを見逃さなかった。

 

「逃がすかよ!」

 

「あれは逃がすと面倒やでな」

 

 追撃しようと疾走する2人。

 

 だが、突如目の前の地面が爆ぜる。

 

「「!!」」 

 

「モルモ~!!」

 

 飛び出してきたのは、オーバーオールを着たモグラを思わせるキメラアント。

 

 ラミナは一瞬顔を顰めて、キルアに顔を向ける。

 

「キルア! 追え!!」

 

「!! 分かった!!」

 

 キルアは足を止めず、むしろ一瞬だけ【神速】を発動して一気に駆け抜ける。

 

 ラミナも速度を緩めずにモグラ蟻へと攻めかかる。

 

 だが、モグラ蟻が飛び出してきた穴から、更に数体のキメラアントが飛び出してきた。

 

「!! ちっ!」

 

 ラミナは急ブレーキをかけて横に跳び、キルアを追わせないように回り込んで進路を塞ぐ。

 

「モルモルモル。上手く分断出来たのですます」

 

 モグラ蟻のモルモは、部下を周囲に展開させながら笑う。

 

「……お前がうちらの位置を探とった奴か」

 

「モルモですます! コローチェ様の仇! 覚悟するですます!」

 

 つぶらな瞳をしたモルモはビシッ!と太い爪でラミナを指しながら宣う。

 

 それに合わせて周囲のキメラアント達も武器や爪を構える。

 

「……今更お前ら程度が相手になる思てるんか?」

 

「関係ないですます! コローチェ様が見せた覚悟にボクらも続くですます!」

 

「……(嘘やない……。けど、それだけでもなさそうやな……)」

 

 ラミナはモルモ達からコローチェと同じ覚悟を感じ取ったが、それだけではない何かがあると感じた。

 

(現状を考えれば、ここで全滅するよりも撤退するべきや。コローチェを倒したうちらに、手下の自分らが勝てるわけないんは理解しとるはず……。それでも挑んでくるだけの何かがある。しかも、わざわざうちらを分断までして……。罠…もやろうけど、情報収集が狙いか? うちらの能力を探ろうとしとるっちゅうわけか)

 

 モルモ達の狙いをすぐに看破したラミナ。

 

 それはつまりキルアの方にも、それなりの数の敵が待ち構えているはずだ。

 

(師団長が向こうにおったら、ちと厄介やな……。とっとと倒して、合流しよか)

 

 ラミナが左手にファルクスを具現化する。

 

 すると、1匹のキメラアントが前に出てきた。

 

 筋肉質の身体に、胸元が大きく開けたシャツ、黒のズボン、そして蝙蝠を思わせる翼をマントのように靡かせている。

 ウェーブがかったミディアムロングの金髪で、濃いめの顔つきをしているナルシスト風の雄型キメラアントだ。

 

「うふふふ♪ 可愛い顔して怖そうねぇ」

 

 口元に手を当てて、高めに作った声と女口調で話す蝙蝠蟻。

 

「ヴァトパス! 見せてやるのですます!」

 

「うふふふ♪ お任せよぉん」

 

 ヴァトパスは妖艶な笑みを浮かべて頷くと、頭上で両手を組んでオーラを集中させ、

 

「ふんぬはぁ!!!」

 

 思いっきり野太い男の声で叫びながら、組んだ両手を地面に叩きつける。

 するとオーラが何条もの線となってラミナを囲うように広がっていき、オーラ溜まりが二十か所ほど出来る。

 

 そして、そこから土や草、根が盛り上がり、土塊のヴァトパスを形作る。

 

 現れた20体ほどの偽ヴァトパスは、ボディビルダーのようなポーズを決めて、ラミナを取り囲む。

 

「ほぅ……」

 

「おほほほほほ! ただの土人形と思ってると痛い目を見るわよぉ! アタシの【ビューティクレイド】の戦闘力はそんじょそこらの下級兵より上よ!」

 

 高笑いをあげながら得意げに語るヴァトパス。

 

 ラミナは呆れ顔を浮かべ、小さくため息を吐く。

 そこに背後に回り込む気配を感じ取った。

 

「シッカーー!!」

 

 鹿の角を持ち、左腕が蟷螂のような鎌状の爪になっているキメラアントが、掛け声と共に左腕を掬い上げるように振り上げ、地面を掘り起こしてオーラと共に土石流を放つ。

 

 更にその反対側に犬の頭にゴリラの腕を持つキメラアントが立ち、大きく口を開けてオーラを収束させる。

 

「ウゥオーー!!!」

 

 遠吠えと同時にオーラをエネルギー波として放出した。

 

 ラミナは顔色1つ変えることなく、高く跳び上がって躱す。

 

 そこに槍を振り上げた狐顔のキメラアントと、二振りの鉈を振り上げる豚顔のキメラアントが飛び掛かって来ていた。

 

(念も連携もよぅ考えられとるな。あのコローチェの部下だけはあるわ。まぁ……)

 

 ラミナはキメラアントの連携に感心しながら、両手の武器を消して柳葉飛刀を具現化する。

 

「まだまだ甘いわ!」

 

 叫びながら柳葉飛刀を投擲して、飛び上がっていた2匹のキメラアントの額や胸に突き刺す。

 

 柳葉飛刀を消して鎖鎌を具現化し、犬頭のキメラアントに向けて放つ。

 

 犬頭キメラアントは息を吸い、オーラの咆哮で纏めて吹き飛ばそうとしたが、

 

 

 鎖鎌が口を開けた巨大な狼の頭部になって、噛みついてきた。

 

 

「グゥア!?」

 

 攻撃することも忘れて驚いた犬頭キメラアントは、一歩後ずさった直後上半身を喰い千切られる。

 

 落下しているラミナは鎖鎌を消して、右手にレイピアを具現化する。

 そして、鹿頭キメラアントに向けて鋭く3回突き出し、額、喉、胸に穴を空ける。

 

「シガッ!?」

 

 着地したラミナは左手にファルクスを具現化して【円】を発動し、ヴァトパスや偽ヴァトパスを全て範囲内に取り込む。

 

「なに!?」

 

 驚くヴァトパスを尻目にラミナは躊躇なくファルクスを二度振るう。

 

 直後、偽ヴァトパスは首、四肢、腰など斬り飛ばされてバラバラになり、地面に崩れ落ちる。

 

 ヴァトパス本体も首、腰、右肩、右手首、左脚付け根が斬り飛ばされていた。

 

「な、なに……が……」

 

「……ちっ。逃げよったか、あのモグラ」

 

 ラミナはファルクスを消して、舌打ちする。

 

 一番最初に飛び出してきたモルモがいつの間にかいなくなっていた。

 【円】でも感じられなかったことから、恐らくヴァトパスが能力を発動し、波状攻撃を仕掛けた時にいなくなったのだろうとラミナは考える。

 

(やっぱ狙いはうちの能力を探るためか……)

 

 少し離れた場所の地面に穴が開いていた。

 そこからモルモがラミナ達の戦いを観察していたのだろうと推測する。

 

「ちっ……(これでうちの情報は護衛軍とレオルとやらに渡ったっちゅうことか)」

 

 また舌打ちし、顔を顰めたラミナはヴァトパスに目を向ける。

 

 ヴァトパスも顔を顰めてラミナを睨んでいた。

 

「やってくれたわね……。流石はコローチェ様達をあっという間に倒した子だわ」

 

「……レオルとやらはどこにおるんや? あの狙撃手がおる方か?」

 

「……いえ、恐らくはここから東……中央部付近で踏ん反り返ってるわ。もっとも、今は苛立って歯軋りしてるでしょうけどね……」

 

 正直に問いに答えるヴァトパスに、ラミナは片眉を上げる。

 

「えらい素直に話すやないか」

 

「アタシはコローチェ様の部下、更に言えばビトルファン様の部下なのよ。ハギャなんて知ったこっちゃないわ」

 

「……ハギャ? 来とるんはレオルっちゅう奴やろ?」

 

「改名したのよ。理由なんて知らないし、興味もないけど」

 

「なるほど……」

 

「アタシ達はハギャの援軍としてここに来たの。全く……ヘタクソな指揮のおかげで、アタシ達だけじゃなくてコローチェ様まで犬死になんてね……」

 

「……それが兵士っちゅうもんや。うちらも含めて、な」

 

「……そうね。あの化け物達に挑むなんて、アタシは死んでもゴメンだわ。さ……さっさと行きなさいな。アタシはどうせもう助からないし、流石にこれ以上話すことはないわ」

 

「さよで……ほな、さいなら」

 

 ラミナは肩を竦めて背を向け、背を向けたまま軽く手を上げてヴァトパスの元から去る。

 

 ラミナは腕を組んで今後の予定を考える。

 

(キルアの方はどうするか……? 師団長の方も無視出来へんでなぁ)

 

 モルモも恐らく師団長の元に向かっているはず。

 

(護衛軍に知られるんは止めようがない。けど、動き回れる師団長の方は、ここで消しておきたいところやな)

 

 だが、キルアの方に行けば、師団長も姿を眩ませるだろう。

 部隊全滅とモルモが手にした情報を理由に撤退すれば、護衛軍から処分されるまではいかないはずだ。

 

 それに追い込まれた獣は厄介事を呼び込むというのがラミナの経験則だ。

 しかも、その獣は念能力を使うことが出来る猛獣。

 

 殺せる時に殺すが最善。

 

 ラミナは駆け出して、レオルがいるであろう場所を目指す。

 

 空を飛んでいるであろう梟に、キルアが向かった方向を指差して。

 

 

 

 

 その頃、レオルはようやく届いた報告に絶叫したくなっていた。

 

『何の冗談だ!?』

 

『冗談ではないですます! 部隊はほぼ壊滅! コローチェ様とフラッタは死亡したですます!』

 

『それでテメェはのこのこ逃げ帰ってきたってわけか!?』

 

『ボクはコローチェ様の命令で護衛軍の方々に敵の情報をお伝えに行かねばなりませんですます! 地底湖に関しても観測、伝令用の部下を配置していますです!』

 

『くっ……!』 

 

『では、ボクは宮殿へ戻るですます!』

 

『おい、モルモ! モルモ!』 

 

「ちぃ! 俺にも情報寄越せってんだよ……!」

 

 レオルは何も情報を寄越さずにいなくなったモルモに怒りを覚える。

 

(くそっ! コローチェが死んだのはいいが、フラッタは予想外にも程がある! 敵に空を飛べる奴がいたのか……!? それとも狙撃系の能力か? ……NGLで使った遠距離攻撃? いや、あれはネフェルピトーとアモンガキッド2人がかりで逸らすのが精一杯だった代物だ。使えばかなり目立つ。他にも能力がある? それともガキの方か?)

 

 レオルは完全に思考の渦に嵌っていた。情報が無いので当然ではあるが。

 だが、レオルはラミナと違って念能力に通じているわけでもなく、戦闘の経験も浅い。念の修得も他人の力に頼りまくってきたことも、ラミナ達の念を推測する材料を不足させている。

 

(くそっ!! 敵の能力を探ろうにも、もう俺に手札がねぇ……! ヒナはヂートゥの除念で動けなくなっちまったし、そのヂートゥも宮殿で能力はこれからだ。他の師団長を呼んだところで、当て馬になるわけねぇだろうし……)

 

 すでに預かった部隊は壊滅だ。

 地底湖にいるのは海で活動する生物と混ざった兵隊蟻達だ。地上に呼んだところで、ほとんど戦力にならない。

 

 更にまだレオルはコローチェばかりに気を取られて気付いていないが、コローチェの部隊は王の配下の中で実は最も兵隊長クラスが多い精鋭部隊だった。

 念を扱える兵隊蟻も多く、連携も鍛えていたこともあり、最も練度が高い部隊だったのだ。

 

 それをレオルは全く活かすことが出来なかった。これはコローチェのミスもあるが、配置や作戦を決めたのはレオルなので、一番やらかしたのはレオルであるのは間違いない。

 

(地底湖部隊の報告を待つか? ……いや、今、俺の周囲を守る奴がいねぇ。ここで敵のどっちか一方でも来たら勝ち目が薄い……! ここは一度退くべき!)

 

 レオルは撤退を決めて、即座に身を翻して駆け出す。

 敵が来るかもしれないのに、のんびり歩いて移動など出来るわけがない。

 

 だが、その判断を下すのが、少しだけ遅かった。

 

 森を抜けて岩場に入った時、

 

「!!!」

 

 背中に怖気が走って、反射的に振り返る。

 

「ちっ……勘がええやっちゃな」

 

 スゥと音もなく姿を現したのは、ラミナだった。

 

「……テメェがアモンガキッド殿と戦って生き延びた女か……」

 

「そう言うお前はハギャやんな? 逃げまくりの獅子男」

 

「っ!! ……ハギャ? 誰だ、そいつは? 俺はレオルって名前でな」

 

「あっそ。まぁ、どうせ死ぬんやから、どうでもええわ」

 

 ラミナは心底どうでもいいとばかりに適当に答えて、ファルクスを具現化する。

 

 それにレオルは歯を食いしばり、手を握り締める。

 

(くそっ!! ここで……こんなところで死ぬわけにはいかねぇんだよ!!)

 

 レオルは無我夢中で能力を発動し、右手に小型の機械を具現化する。

 

謝債発行機(レンタルポッド)】。

 

 レオルの能力。

 他者の能力を1回1時間レンタルすることで発動することができる。 

 

 ラミナは目を細めて、ファルクスの柄を握り締める。

 

(このタイミングで武器でもない物を具現化……。操作系……? けど、念獣を具現化して操るタイプには見えん。かといって生物や物を操る様にも見えん。実物を操るんやったら、今具現化するんは遅すぎて不自然。つまり操作系能力やない。なら、最も可能性が高いんはうちやクロロと同系統……! 複数の能力を保存、または発現するための媒体!!)

 

 見ただけでレオルの能力を看破したラミナは、すぐさま【円】を発動する。

 

「っ!? ぐっ!!」

 

 レオルは【練】を発動しながら、発行機を手早く操作していく。

 

(早く! ここから逃げられる能力を……!) 

 

 しかし、無慈悲にも先にラミナの攻撃の方が速く、ファルクスが二度振られる。

 

 直後、レオルの身体が切り裂かれ、血が噴き出す。

 

 血が噴き出したのは右肩、右脇腹、左太腿、右上腕、左肘。

 

 左肘から先は腕から離れ、地面へと落ちていく。

 

「ぐあああああ!?」

 

 レオルは目を見開き、全身から汗を噴き出しながら絶叫する。

 

 ラミナは小さく舌打ちして、ファルクスを消してブロードソードを具現化し、レオルに斬りかかる。

 

 だが、その前にレオルが動いた。

 

「あああああぁオオオオオオオオ!!」

 

 血走った目を見開いたまま、発行機のボタンを押す。

 

 すると、発行機から小さな紙が排出され、レオルはそれをなりふり構わず牙で引き裂いた。

 

「!!」

 

 ラミナは僅かに目を見開くも、能力発動前に斬り殺せばいいと、そのままレオルに斬りかかる。

 

 しかし、ラミナが次に目にしたのは、

 

 

 戦闘機のような翼を背中に生やしたレオルだった。

 

 

「なっ……!?」

 

「飛べえええええ!!」

 

 レオルの懇願にも近い叫びに応えるかのように、翼のエンジンから火が噴き出して、勢いよくレオルを空へと押し上げる。

 

「ちぃ!!」

 

「おぉぼえてろよおお!! 下等な人間があああ!! 絶対……絶対にその首を喰い千切ってやるからなあああああ!!!」

 

 レオルは屈辱と怒りのままに吠えながら猛スピードで飛び去っていく。

 

 ラミナはレオルを見送るしかなく、ブロードソードを消して顔を顰める。

 

(【天を衝く一角獣】は後1回……。アレ程度にゃ使えん、か。流石に追いかけるんは無謀やな)

 

 小さくため息を吐いて、ポケットに両手を入れる。

 

(手負いの獣にしてしもたんが吉と出るか、凶と出るか……。奴の能力がどこまで他人の能力を使えるか次第やな。あの手の能力は面倒な制約があるはず。確実なんは『対象の能力を見る、または聞くこと』『対象に直接接触して条件を満たすこと』。後は回数制限や時間制限次第やけど……。ほぼ間違いなく本来の能力の持ち主は、能力が使えなくなっとるはず。しかし、今の蟻達に命綱でもある能力を貸し出すとは思えん。つまり、本人の意志関係なく能力を徴収するタイプ)

 

 ラミナは来た道を戻りながら、考察を続ける。

 

(少なくとも、うちは奴に能力を奪われる可能性は低い。武器だけ見せても意味がないんは、同じ能力のクロロのお墨付きや)

 

 ラミナの具現化武器は【刃で溢れる宝物庫】の能力によって生まれた副次的能力と言える。

 故にラミナの能力を奪う場合、【刃で溢れる宝物庫】について知らねばならないのだ。

 

(問題は他の連中の能力。特にノヴとナックルの能力は奪われれば最悪)

 

 モラウの能力は煙管を媒体とするため、能力をコピーしたところで発動条件を満たせない。 

 だが、ノヴとナックルはそこまで難しくはない。

 

 そして、その2人の能力は今回の作戦の要とも言える物だ。

 

 絶対に奪われるわけにはいかない。

 

(とりあえず、全員に連絡しとかなあかんな)

 

 携帯を取り出して素早くメールを打つ。

 

 すると、突如ティルガが真横に下り立った。

 

「あ? ティルガ?」

 

 

「キルアが重傷だ。今ブラールを救助に向かわせている」

 

 

 一瞬ティルガの言葉を理解出来なかった。

 

「……なんやと?」

 

「敵の能力が恐ろしく強力だったようだ」

 

 ティルガはブラールの羽根をラミナに手渡す。

 

 

 目を瞑ったラミナが見たのは、血を大量に流して倒れているキルアと謎のタコ。 

 

 

 そのすぐ横にはキメラアントの頭が2つ転がっており、何やら叫び合っている。

 

 キメラアントと思われるタコは、何故かキルアに手を伸ばして助けようとしていた。

 

「……場所は?」

 

「すぐ近くの地底湖だ」

 

「……ティルガ、ルォントン市に戻って、軍の駐屯地から救急箱持てるだけ持ってこい。車盗んでもええ」

 

「承知した!」

 

 ティルガは頷くや否や、すぐに全力で駆け出した。

 

 ラミナもすぐさま走り出し、全速力で地底湖に向かうのだった。

 

 

 

 

 キルアの意識はもはや消える寸前だった。

 

(や…べぇ……。血ぃ流し…過ぎた……)

 

 地底湖に飛び込んで、狙撃手―イカルゴにあっという間に勝利したキルア。

 だが、イカルゴの漢気が気に入り、殺さずに助けたのだが、その隙を突かれて地底湖に潜んでいたオロソ兄妹の能力に襲われた。

 

 オロソ兄妹の能力【死亡遊戯(ダツ・DE・ダーツ)】。

 

 妹が具現化したバッヂを取り付けた対象に発動し、兄が具現化したダーツゲームとリンクする。

 ダーツの的が対象の身体の部位と繋がっており、ダーツが刺した的とリンクした部位にダツが突き刺さる。このダツは対象に触れるまで存在しないため、防ぐことも避けることも基本不可能なのだ。

 

 この能力は一度発動するとオロソ兄妹ですら解除できず、このダーツゲームに失敗すると、それまで相手に与えていたダメージ全てがオロソ兄妹にはね返るという制約を背負っている。

 

 これにキルアは基本成す術なく何度もダツに身体を貫かれる。

 

 それでも何とかダーツゲームの種類とオロソ兄の性格を看破して、最後の一投を【神速】で防ぎ、やられた振りをしてオロソ兄妹を誘き出して仕留めることに成功した。

 

 だが、それまでのダメージと、丸1日不眠不休で動き続けたことによる消耗によって限界を迎えてしまい、遂にその場で倒れてしまった。

 

 全く思うように体が動かず、明らかに大量出血によるショック状態に陥っていた。

 

(くそ……せっかく……ここ…まで……来たのに、よ……)

 

 ようやくラミナの背中が見えてきたのに。

 

 ここで終わってしまうのか。

 

 遂に視界までボヤけてきた。

 

(悪ぃ……ゴン、ラミナ……役に…立て、な……)

 

 意識が闇に落ちようとした、その時。

 

 キルアの腕をイカルゴが掴んだ。

 

「………タコ?」

 

 

タコってゆうなああああ!!

 

 

 イカルゴがお決まりになっている雄叫びを上げた、その時。

 

 

バサァ!!

 

 

 キルアとイカルゴの真上で翼が羽ばたく音がした。

 

 イカルゴが弾かれたように上を見上げると、ブラールがゆっくりと降下してきていた。

 

 イカルゴは突然のブラールの登場に目を丸くする。

 

 キルアはブラールだと理解したところで限界を迎えて気絶した。

 

「お前は……!? なんで、こんなところに……!?」

 

「……」

 

「コイツを……? お前、人間の仲間に……!? いや、今はそれはどうでもいい! コイツを病院に運びたい! 手伝ってくれ!!」

 

「……」

 

「上に仲間がいるのか……。そいつならコイツを助けられるのか!?」

 

「……」

 

「分からないって……。医者を探すなら俺が知ってる! この先の地下水流に乗ればすぐだ!!」

 

 イカルゴの言葉に、ブラールは判断できずに僅かに眉を顰める。

 

 だが、突如地底湖に顔を向ける。

 

「おい! 早く決めねぇとコイツが死んじま――!!」

 

 イカルゴが苛立ちながらブラールに怒鳴ると、イカルゴも地底湖の上を移動する人影を視界に捉えた。

 

 それに目を丸くすると、その人影は猛スピードで近づいてきて、ブラール達の傍に着地した。

 

「ったく、面倒なところで倒れよってからに」

 

 【親愛なる姉様との絆】を使って移動してきたラミナは、小さくボヤきながらも素早くキルアの傍に跪く。

 

「……ちっ。首と腹の傷か……」

 

 全身穴だらけだが、特に首と腹部からの出血が酷かった。

 首はイカルゴのノミによるもので、腹部は何度もダツで刺されたものだ。

 

 ラミナは上着を脱いでキルアの腹部に巻いて縛る。

 

「とりあえず、上に戻ろか。今ティルガに救急箱取りに行かせとる」

 

「……」

 

「待ってくれ! この地下水流の先にモグリの医者がいる! 裏社会専門の闇病院だ! 王達の手も届いてない!」

 

「いつ襲われるか分からん場所に連れていけるかい。それやったら、まだ上の方がマシや」

 

 ラミナはキルアを背負いながらイカルゴの提案を否定する。

 

「なんでお前がキルアを助けようとするんか知らんけど、気になるんやったら勝手に来いや。ブラール、お前がええんやったら運んだり」

 

「……」

 

 ラミナは再び【親愛なる姉様との絆】を発動して、入口へと戻る。

 ブラールはイカルゴに顔を向け、イカルゴが頷いたので渋々と言った感じで足を掴ませて飛ぶ。

 

 その後、地上に戻ったラミナは気絶したキルアを背負ったままルォントン市目指して駆け出し、ブラールも後に続く。

 

 イカルゴは地上に出た所で放り出され、そこからは放置されたが全速力で追いかける。

 

 1時間後。

 

 ブラールの梟によって、救急箱を乗せた車を運転するティルガと合流に成功したラミナは、キルアの治療を始めるのだった。

 

 

_______________________

ラミナ’sウェポン!(ホントにお久し!)

 

・【生意気な雷童子(ブリッツ・ギア)

 チャクラムに付与された能力。

 

 キルアの【神速】を模倣した能力。

 

 手元で回転させることで発動・発電し、身体に装着することで全身に電気の負荷をかけ、身体能力を急激に向上させることが出来る。

 ただし、放出することは出来ず、能動的にしか身体を動かせない。

 

 キルアで言う『電光石火』限定の能力である。

 

 ただし充電を必要としないため長時間の運用が可能であるが、ラミナは電流に耐える訓練をしていないため、現在では長時間の使用には耐えられない。

 更に他の者に使用することも出来ず、重ね掛けも不可能である。

 

 制約は『手元で回すことで発動する』『回転速度に合わせて電力が上がる』『重ね掛けは出来ない』

 

 




キルアは原作より軽傷ではありますが、倒れるには十分すぎるほどの傷だと判断しました。

ティルガの運転技能はラミナによる指導の賜物ですw

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