暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#127 イカリ×ト×イカルゴ

 ラミナから命からがら逃げ延びたレオルは、森の中で斬り落とされた左腕を押さえながら蹲っていた。

 

「グウウゥ……!! チキショオォ……!」

 

 大量の脂汗を流しながら歯を食いしばる。

 

「絶対ぇ許さねぇ……! 殺す、殺してやる……!!」 

 

 額を地面に擦りつけ、血走った目を見開きながらラミナへの恨み言をずっと呟いていた。

 

(クソがぁ……!! 俺様の腕をよくも……!)

 

 全ては油断していたレオルの自業自得なのだが、もちろんレオルは認めない。

 レオルはゆっくりと立ち上がる。

 

「クソ……! 獲物2匹を仕留めるだけの仕事だったはずなのに……! フラッタも部隊も失って、終いにゃ片腕まで……!」

 

 成果はほぼゼロ。

 標的が何者かが分かっただけだ。

 

(ネフェルピトーに治療を頼むか? いや、俺の腕程度で手を取られるわけにはいかねぇって断られるか……。そもそも斬り落とされた腕もねぇしな)

 

 どう言い繕っても失敗したのは事実だ。

 モルモの報告を聞いた護衛軍はレオルを容赦なく斬り捨てるだろう。

 

 ここからレオルが逆転するのは不可能に近い。

 

 すると、そこに。

 

 

「あははははははは!! あははははははははは!!」

 

 

 と、場違いな笑い声が聞こえてきた。

 

「あ? この声は……」

 

 顔を向けると、少し離れた場所を槍を持ち、功夫服を着た蜥蜴顔のキメラアントが猛スピードで走っていた。

 

「あいつは……! おい! バジリャン!」

 

「んん? おお!? これはこれは、レオル隊長ではないですか! あはははははは!!」 

 

 バジリャンは楽しそうに笑いながら、レオルの元へと駆け寄ってきた。

 

「おお!? レオル隊長!? そ、その腕は!?」

 

「……敵と遭遇しちまってな。気にすんな。それよりバジリャン。お前、こんなところで何してる?」

 

「おお! そうでしたそうでした! モルモ殿から地底湖に誘い込んだ敵について偵察し、その後レオル様と護衛軍の方々に報告せよと御命令を受けまして!」

 

「そうか……。お前に頼んでたのか……」

 

「あははははは! 僕、コローチェ様ほどではないですが、足には自信がありますので!」

 

 バジリャンはグリーンバシリスクのキメラアントだ。

 水の上を走り渡ることが出来、更に足もそこそこ速い。

 

 そのため地底湖では陰に隠れて、キルアの戦いを観察していたのだ。

 バレたらヤバいので、ほとんどイカルゴとオロソ兄妹からの念話での情報だったが。

 

 そして、戦いが終わるや否や「あはははははははは!!」とバレないように超小声で笑いながら水の上を走って逃げ出したのだ。

 

「それで? 獲物は仕留めたのか?」

 

「はい!!」

 

 あまりにも速攻で頷かれたので、一瞬レオルは理解できなかった。

 

「……ホントか?」

 

「オロソ兄妹が見事に仕留めました!! 2人から報告が来たので、間違いないと思います!!」

 

 まさかの吉報にレオルは思わず笑みを浮かべる。

 

(これなら仕事を最低限こなしたと報告出来る! まだ次に繋げられて、挽回するチャンスを手にする可能性がある……!)

 

「よくやった! お前は宮殿に戻ったモルモと合流しろ。俺様はネフェルピトー殿に連絡を入れて、この後の指示を仰ぐ」

 

「あははははは!! 分かりました!! では、失礼しまっす!!」

 

 バジリャンは頷いた直後、駆け出してレオルの前から去っていく。

 

 レオルはそれを見送ることなく、痛みも忘れてすぐさま携帯を取り出す。

 

『――もしもし?』

 

「レオルです」

 

『あぁ、お疲れ。どう? 仕留めた?』

 

「それが……1人は仕留めたのですが、もう1人は返り討ちに会い、逃がしてしまいました。申し訳ありません……」

 

『ふぅん……。強かったの?』

 

「……お預かりした部隊は水軍以外壊滅。コローチェの部隊もモルモ以外は……。私も片腕を奪われ、フラッタがやられました」

 

『あらら……。随分と派手にやられたねぇ』

 

「今、モルモがそちらに報告へ向かっていますが……仕留め損なったのは例のNGLでアモンガキッド殿と戦って生き延びた女です。やはり、王を狙ってのことでしょう」

 

『へぇ……あの女が来てるんだ。ちょ~っと面白くなってきたかニャ?』

 

「……どうしますか? 情けない限りですが、追撃するには少々戦力が……」

 

『全っ然足りないだろうねぇ。君もやられたみたいだし……。いいよ、一度戻っておいで』

 

「はっ」

 

 通話が終わり、携帯を仕舞う。

 

 そして小さく安堵の息を吐く。

 

「はぁ……なんとか、持ちこたえたか……」

 

 だが、まだまだ綱渡り状態だ。それも針金レベルの綱。

 いつ切れてもおかしくない。今切れてもおかしくない。

 

「問題はここからだ。次の戦いでの俺の立場……。ヂートゥなら貸しがあるから何とかなるかもしれねぇが、他の連中ならどうにかして言い包めねぇと……。ウェルフィンだったら、かなり面倒な取引になりそうだな……」

 

 レオルは再びラミナへの怒りが膨れ上がってきて、歯軋りしながら宮殿を目指すのだった。

 

 

 

 

 ラミナは車の後部座席でキルアの治療を行っていた。

 上着は脱いだままで、救急箱から針と糸を取り出してキルアの服を脱がす。

 

「輸血パックまであったんか。助かるわ」

 

「すまないが、扱い方が分からなかったから適当に運べるだけ運んだ。他にも保存食や酒などもあったから一応持ってきたが……」

 

「構へん構へん。コイツは頑丈やし、少しくらいの毒や菌にも耐えられる。少しくらい扱いが雑でも問題ないやろ」

 

 申し訳なさげに眉尻を下げるティルガの言葉に、ラミナは処置を続けながら苦笑する。

 

 素早く、されど繊細に傷の消毒と縫合を行っていく。

 

「……傷の治療まで出来るのか……」

 

「縫合はおっかない姉が得意やでな。傷の治療は出来た方が暗殺の仕事に差し支えんからな。簡単に手を組めん裏の人間は、そう簡単に病院やら行けんからな」

 

 イカルゴが言っていた裏社会専門の闇病院だとしても、金や裏取引で売られる可能性もあるし、毒殺される可能性もある。

 特に殺しを専門とし、賞金首になりやすい暗殺者は尚更警戒が必要となる。

 

 なので、自分で治療ができるに越したことはないのだ。

 

「それにしても、どんな能力にやられたんや? おい、タコ。お前の能力か?」

 

「タコってゆうなぁーー!!」

 

「言うなって、タコやろが」

 

「ぐぅ!! ……はぁ。俺じゃねぇよ……。いや、首の傷は俺だけどな」

 

「あ? あの狙撃、お前やったんか? うちが見た時人間やったはずやったけど、タコって姿まで擬態出来たか?」

 

「あれも俺の能力の1つだ。死体に潜り込んで操ることが出来る。で、他の傷はオロソ兄妹って奴らの能力だ」

 

 イカルゴはオロソ兄妹の能力を簡単に説明する。

 それにラミナは納得の表情を浮かべる。

 

「……なるほど。そらぁ流石にキルアでも手間取るか……(っちゅうか、うちやったらやられとったかもしれん……)」

 

 ラミナは流石にダーツゲームの種類までは把握していない。

 念の分析に気を取られて、そこまで頭が回らなかった可能性が高い。

 

 しかも、話を聞く限り、そう簡単に除念も出来ない。

 バッヂに気づけばいいが、気づけなければ除念しようがない。相手がいないから【月の眼】も使えない。

 

(キルアやからこそ、トドメを防ぐことが出来た。……下手したら全滅しとったな)

 

 やはり今後も油断は出来そうにないと改めて実感するラミナ。

 

 だが、相互協力型能力であるのは不幸中の幸いだった。

 

(もし単一の能力やったら、あの獅子男に使われとったかもしれん……)

 

 生首状態ではあったが、キメラアントの生命力ならば、あと半日は生き延びるはずだ。つまり、その間はあの兄妹の能力を使うことが出来るということだ。

 

「あぁ、そうや。ハギャの奴、なんか改名しとったで?」

 

「改名?」

 

「レオルとか名乗とったわ。理由は知らんけど」

 

「……奴の事だ。能力を創ったことで、それまでの自分と決別するとでも考えているのだろう」

 

「ふぅん。またガキっぽい頭しとんなぁ。とりあえず、ハギャ、ビトルファンがここにおるんは確定っぽいで。タコ、他にも師団長来とるんか?」

 

「いい加減タコって呼ぶなあああ!!」

 

「名前知らんし」

 

「あ、そうだった。いいか!? 俺はイカルゴだ! イ・カ・ル・ゴ・な!!」

 

「なんでイカやねん。タコの癖に」

 

「うるせぇな! 俺だって……俺だってイカに生まれたかったんだよおおおお!!」

 

「「「……」」」

 

 悔しそうに涙を流しながら崩れ落ちるイカルゴに、ラミナ達は呆れた目を向ける。

 

「人間やなくて動物の方の記憶もあるんか……。っちゅうか、タコってそんなこと考えとるんやな。お前らもあるん?」

 

「あることはある。だが、あ奴のような感情までは憶えていない」

 

「……」

 

「さよで。んで、イカタコ」

 

「んだよ、イカタコって!? イカで止めてくれよ!! イカで止めてください!!」

 

「やかましいわ。ええから他の師団長の情報、さっさと吐けや」

 

「うぐぅ……! ……俺が知ってるのはハギャ、ビトルファン、ウェルフィン、ブロヴーダの4人だ。けど、お前らと戦う直前にヂートゥも来たって話も聞いたぜ」

 

「メレオロンっちゅう奴は?」

 

「少なくとも俺は知らない。多分、俺と一緒にいた他の連中もな」

 

「……はぁ。喜ぶべきなんか、厄介なんが他の場所におるんを嘆くべきか……。まぁ、ここにおらん奴のことを考えとる場合ちゃうか」

 

「そうだな。残りの5人がここにいるのは事実。そちらの方が差し迫った問題であろうな」

 

「せやな。ま、今はキルアの回復が最優先やな。もうすぐモラウ達の作戦も始まるし……。そうなれば連中はうちらを狙う余裕はなくなるやろ」

 

 レオルと会った時の状況を加味して、すでに王達の元に兵隊蟻はほとんど残っていないだろうとラミナは考える。

 

「……よし」

 

 ラミナはキルアの傷の手当てを全て終える。最後に点滴と輸血の処置を行って、一通りの治療を全て終了した。

 

 両手を水で洗い、アルコールで消毒して車から降りる。

 

「ふぅ~……」

 

「もう大丈夫なのか?」

 

「明日の朝まで容体が変わらんかったら大丈夫やろ。今のところ落ち着いとるし、大丈夫やと思うけどな」

 

 ラミナはトランクを開けてそこに腰掛ける。

 食料が詰められた箱から酒を取り出して蓋を開け、直接口を付けて瓶を傾ける。更に缶詰を開けて中身を口に放り込む。

 

「んで? イカ、お前はこれからどうするつもりや?」

 

「……どうするって……言われても……」

 

 今更、王の元には戻れない。戻ったところで、またキルア達と戦わなければいけなくなる。

 しかし、国外に出るのも気が進まない。自分の見た目はどうやっても人としては生きていけないからだ。人に紛れることなど絶対出来ない。

 

 死体を操って紛れ込んでも、1カ月もそこにいられない。死体である以上腐っていくからだ。

 

 だが、他に行く場所はない。

 どこに行っても自分は異形の生き物だからだ。

 

「……」

 

「……ま、キルアと縁があるんやったら、キルアが起きてから決めたらええわ。もちろん、何もせんかったら、やけどな」

 

 ラミナは目を細めてイカルゴを見据える。

 

 イカルゴは身体が締め付けられたような圧迫感を感じて冷や汗が流れる。

 

「っ……! わ、分かってる。俺はもうお前らと戦うつもりも敵対する気も無いさ……! あいつには命を助けられたしな」

 

「……やったら、ええけどな」

 

 ラミナは視線を外して、食事を再開する。

 

 イカルゴは大きく息を吐いて、

 

「はぁ~……。……それにしても、まさかアンタ達が人間と一緒とはな」

 

 イカルゴはティルガ達に顔を向ける。

 

 ティルガはラミナから缶詰を受け取りながらイカルゴに顔を向ける。

 

「王に降った者がいるように、人間に降る者がいてもおかしな話ではあるまい? 念や世界についても人間の方が詳しいのだから」

 

「それはそうだがよ。なんでここにいるんだよ?」

 

「このまま王達を暴れさせれば、人間に降ったコルト達の立場が危うい。それに……やはり元人間の身として、奴らの所業は目に余る。1人くらい、生み出してしまった責任を取るべきだろう」

 

「……そうか」

 

 イカルゴは悩まし気に顔を顰めて、何やら考え込む。

 ティルガはそれを見つめながら缶詰を開けて、車の横に座る。その横にブラールも座り、同じく缶詰を開けて食べ始める。

 

 ラミナは乾パンの箱を取り出して、イカルゴに投げ渡す。  

 

「うおっ……! い、いいのか?」

 

「まだあるでな。最後の晩餐になるかもしれんのやから、味わって食べや」

 

「……」

 

 イカルゴは頬を引き攣らせるも、何も言わずに大人しくその場に座って箱を開ける。

 

 ラミナは酒瓶を傾けて一口飲むと、イカルゴにある問いかけをする。

 

「お前らってどうやって能力を創っとるんや? NGLでは護衛軍から碌に教わっとらんかったんやろ?」

 

「……護衛軍の1人、シャウアプフだ。奴の繭で一度寝ると、催眠誘導的な感じで自分に合った能力を創ることが出来る」

 

 ラミナはイカルゴの話を聞いて、顎に手を当てる。

 

「ふぅん……なるほどなぁ。それで選別した国民に能力を持たせると。お前らはその実験の一環か……」

 

「恐らくな。けど、誰でもってわけじゃなさそうだったぜ。知性が低い下級兵はあまり習得できなかったしな。目覚めるまで時間もかかってたし」

 

「……能力のイメージが上手く纏まらんっちゅうことか。お前は何日くらいかかったんや?」

 

「目覚めるまでなら2日くらいだ。そこから能力を完成させるのに3日くらいかかった」

 

「……なるほど。それで納得出来たわ。お前らの歪さっちゅうか、あべこべさが」

 

「あべこべ?」

 

「能力を使うくせに【練】や【堅】は全然使わんへんねん。普通は能力……【発】は四大行や【堅】【凝】をある程度実戦レベルまで鍛えた上で創るもんや。やけど、お前らはそれをすっ飛ばしとるから、能力は凄いのに妙に隙が多いんや」

 

「……なるほどな」

 

「結局、蟻の身体能力や混ざった動物の特性に頼っとるんよな、お前らって」

 

 なので、ラミナからすれば念への警戒度が数段下がる。

 能力も本能的なものが多いので、一度見ればある程度看破出来てしまうのだ。

 

 駆け引きが未熟なのだ。

 

 念での戦闘において、最も重要と言える『駆け引き』が。

 

 フラッタならば、あの時に空を飛んでいなければ、まだ生き延びることが出来ただろう。結局ラミナ達はフラッタの能力を看破出来なかったのだから。

 

 コローチェも1人で突っ込んでこなければ、まだラミナ達を追い込めただろう。

 

 あと一歩。

 あと一歩、能力の使い方が考え切れていなかった。

 

 それが全ての敗因となっているのだ。

 

「まぁ、それで大抵の奴には勝てるからしゃあないことかもしれへんけど。それに護衛軍からすれば、お前らが死のうが大した問題やないから、そこまで世話する気はないっちゅうことなんやろうな。反乱起こされても面倒やし」

 

 ラミナは肩を竦めて、また酒を煽る。

 

 それにイカルゴは複雑な表情を浮かべる。

 ラミナの言葉を否定する材料が1つも無かったからだ。むしろ納得する気持ちの方が強かった。

 

 その姿を見たティルガは、話題を変えるためにラミナに顔を向ける。

 

「これからどうするのだ? キルアの回復まで待つのか?」

 

「ん~……そうやなぁ。ここで待つ理由はないけど……流石に舗装されとらん道路を走るのはキルアには厳しいやろうし……。かといって近くの街に行っても休める場所がなぁ」

 

 ラミナは眉を顰めながら、腕を組む。

 

 元々の予定ではラミナは首都に向かう予定だった。

 包囲作戦を開始するモラウ達のサポートのためだ。

 

 キルアはゴンと一度合流する予定だったので、焦って移動する必要はない。

 

「……」

 

 ラミナは眉を潜めたままイカルゴに目を向ける。

 

「……な、なんだよ」

 

「……はぁ」

 

 ラミナは小さくため息を吐いたと思ったら、一瞬でイカルゴの背後に移動し、ブロードソードを具現化してイカルゴの頭に切っ先を向ける。

 

「!?」

 

「動くなや」

 

「な、なんだよ……!?」

 

「お前、さっきもううちらに敵対する気はない、キルアに恩があるとか言うとったけど……」

 

「う、嘘じゃねぇって……!」

 

「それをどう証明すんねん。ついさっきまで殺し合いしとったんやぞ? お前はティルガ達とは事情がちゃう。信用する根拠がゼロや」

 

「っ……!」

 

 イカルゴはラミナの言葉に顔を歪める。

 

「NGLの時は、まだ生まれたばっかで女王や護衛軍、他の蟻達の目から逃げるんが無理やったから渋々言うこと聞いとったて、無理矢理ではあるけど言い訳できるし、喰われる前の人間の記憶のこととかで同情的な面もある。けどや、女王が死んだ後の行動は全部お前らの意思やんな。お前は好き勝手するためにNGLを出て、ここに来て人間を、この国を食い潰すことに加担した。やのにキルアに絆されて、今は王達を裏切った。そんなフラフラしとる奴の何を信用したらええんや?」

 

「っ!!」

 

 イカルゴは歯を食いしばって、両手を握り締める。

 

 ラミナやティルガはそれを侮辱されたことへの怒り震えていると捉えた。

 

 しかし、今イカルゴが考えていることは、

 

 

(そうだ……。そうだよ……! 俺、スゲェ薄情な半端者じゃないか……!! 情けねぇ……なんて情けねぇんだ!!)

 

 

 自己嫌悪だった。

 

(キルアに友達(ダチ)になれるって、カッコいいって言ってくれたから……浮かれてただけ……! 何の、何の覚悟も示してない……!)

 

 ただ付いてきただけだ。

 

 何故それでラミナ達から信頼を得られると思っていたのだろうか。キルアが認めてくれれば大丈夫と思っていたのだろうか。

 

(違うだろ! そうじゃないだろ! こいつらは仲間。命がけの戦いに挑む戦友なんだ! なんでキルアが認めてくれれば、他の奴らも信用してくれると思ってたんだ……!? 敵だった俺を!)

 

 ティルガ達がいたから? 

 

 キルアを助けてくれるような人だから?

 

 イカルゴはすでに受け入れてくれていると思い込んでいた自分に腸が煮えくり返っていた。

 

「……分かった。お前が信用できないなら構わねぇ……好きにしてくれ」

 

 ラミナはピクリと片眉を上げる。

  

「俺はお前を撃った。本来ならアンタにもケジメをつけさせて貰わなきゃいけなかったんだ……。これはキルアがどうこう言える話じゃない」

 

「……」

 

「だから、アンタが俺を斬るっていうなら……俺は受け入れる」

 

「…………ギリギリ及第点、やな」

 

 ラミナはブロードソードを下げる。

 それにイカルゴは意外そうな表情を浮かべて、ゆっくりとラミナを振り返る。

 

「……殺さない、のか?」

 

「言うたやろ。キルアが起きてから決めたらええってな。お前程度、その後でも殺せるわ」

 

「……じゃあ、なんで……」

 

「命令や。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「!!!」」

 

 イカルゴとティルガは目を丸くする。

 

「キルアに何かあれば、分かっとるやろうが殺す。元々お前の処遇はキルア次第や。キルアを守り切らんと、どうせお前は死ぬ」

 

「……だ、だからって……」

 

「ティルガ、ブラール。お前らも残れ。イカルゴが怪しい素振りを見せれば、即殺せ。もしその時、キルアが起きとったら、キルアに殺させろ」

 

「っ!!」

 

「……分かった」

 

「……」

 

「お前もええな? イカ」

 

「だ、だから、なんで……」

 

「もし、ここに襲撃に来る奴がおれば、ほぼ確実に蟻。お前はキルアを守る為に、元仲間と戦わなあかん」

 

「!!」

 

「それが出来ず、キルアやティルガが死んだら、お前がさっきほざいた覚悟もその程度やったっちゅうこっちゃ。ただし……やり遂げれば少なからずその覚悟は本物やと、うちらに示すことはできる」

 

「……」

 

「達成報酬は()()()()()()()()()()()

 

「「!!」」

 

「やからって信用されるとか思うなや? お前がこれからうちらと共に戦うんやったら、今の覚悟程度じゃ全く足りんで。ちゃんと考えとけや」

 

 ラミナはブロードソードを消し、まだ固まっているイカルゴの横を通り過ぎて、またトランク部分に腰掛ける。

 

「うちは夜が明け次第、ペイジンに向かう。ティルガ達はキルアが起き次第、こっちに来ればええ」

 

「承知した」

 

「……」

 

 ティルガ、ブラールは頷き、イカルゴは未だに茫然としている。   

 

(何を考えてるんだ……? こいつは……)

 

 ラミナの意図が全く読めない。

 今の命令にラミナの利点が全くと言っていいほどないのだから。

 

(まるで()()()()()()()()()()()()()()()みたいじゃないか……)

 

 そして、イカルゴが仲間になるのを受け入れるつもりでいるような気さえする。

 

 そう、まるで()()のような。

 

(いや、今考えるのはそこじゃない……! 今はキルアを守り切ることに集中すべき……! 例え、他の連中と戦うことになっても……!)

 

 イカルゴは頭を横に振って、気持ちを切り替える。

 

 その様子をラミナは酒を飲みながら見つめていた。

 そこにキルアに気を付けながら、後部座席に腰掛けたティルガが小声でラミナに声をかける。

 

「……何故あのようなことを?」

 

「ん?」

 

「我が言うのもなんだが、流石に信用するのは難しいのではないか?」

 

「まぁな。けど、お前が思てるより結構キツイこと言うとるんやで? ついさっきまで仲間やった連中を殺せっちゅうとるんやしな。アイツ、見た感じ根が善良っちゅうか……身内意識強そうやからな。一度仲間や思たら、そう簡単に殺せへん性格やと思うわ」

 

「……確かにな」

 

「けど、アイツが今後もキルアと動くんやったら、元仲間を殺す覚悟を持ってもらわんとあかん。お前らと同じように、な」

 

「……」

 

「連れていくなら戦力として数えんと邪魔なだけや。うちらは猫の手も借りたい所やでな。けど、これ以上ゴンやナックルみたいな奴に来られても困るんや。キルアもそこまで面倒見られへんやろし。覚悟決めれるなら、覚悟してもらわんとなぁ」

 

「もし、それでキルアが死んだら?」

 

「元々はキルアが蒔いた種や。裏切られてもキルアの責任やでな。そこまで面倒見れるかいな」

 

 ラミナは肩を竦める。

 

 ラミナとしては十分すぎる程、キルアに譲歩している。

 そもそもキルアがさっさと起きれば、こんな真似しなくて済んだのだから。

 

 その他に理由があるとすれば、やはりティルガ達の存在が大きい。

 

 状況が違うと先ほどは言ったが、やはり一度はチャンスを与えないと今後降伏したキメラアント達を受け入れるのが難しくなってしまう。

 

 もちろん、それまでの行動にもよるだろうが、イカルゴに関しては恐らくそこまで殺人を犯していないのではないかとラミナは考えている。

 ここで前例を作っておけば、色々と敵の戦力を吸収しやすくなる。

 

(どうせモラウやナックル、ゴンも殺したくないとか言う蟻が出るやろうしな)

 

 小さくため息を吐くラミナ。

 そして、ティルガに目を向けて、

 

「ちゃんとお前も見定めときや。今後引き入れた蟻の纏め役はお前になる可能性もあるで。少なくともこの戦場では、お前が一番うちらと一緒におるしな」

 

「……自信はないが、努力しよう」

 

(お前もいつ殺したぁない相手に出会うか分からんしな)

 

 正直いちいち自分が見定めするのもメンドクサイ。

 だから、ここでそれぞれに自分で見定め、自分で責任を取るような体制を作っておきたいのだ。

 

 

 こうして、地味にイカルゴは重要な役割を任せられてしまったのだった。 

 

 




ええ、メレオロンを連れたゴンを見たら、崩れ落ちるでしょうねw

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