暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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ちょっといつもより長くなりました(ーー;)


#128 センニュウ×ト×ゴウリュウ

 7日目、夜明け。

 

 ラミナはティルガ達と別れ、単独ペイジンへと向かっていた。

 

 高速で森や荒野を駆け抜け、猛スピードでペイジンへと迫っていた。

 

(モラウ達は今日の0時ジャストに作戦開始……。ペイジンの包囲は成功したらしいな)

 

 途中の街を簡単に偵察をした際、人形兵達が慌てたようにペイジンへと移動を開始していた。

 

 とりあえず、目に付いた人形兵は行動不能にしたラミナだが、以降はペイジンに到着することを最優先として移動に専念していた。

 

(恐らく師団長もペイジンに入る。電話はもう無理。メールも最低限やな)

 

 ノヴの【4次元マンション】内でも通話は可能だが、問題はその電波は遮断できるのかということだ。

 恐らくだが、不可能だとラミナは考える。

 

 少なくともラミナ側の電波が傍受される。

 

 ティルガ達にも今後はメールにするようにと伝えてある。

 メールの内容までは流石に傍受されないだろうから、動きが読まれることはないだろう。

 

(幸運なんは護衛軍や王は電波傍受は出来んっちゅうことやな。まぁ、アモンガキッドの念獣が来たら分からんけど)

 

 それでも今はこの()()()()に集中するべき。

 

 ラミナは思考を一時中断して、首都ペイジンを目指すのだった。

 

 

 

 そして、昼前にはペイジンへと到着した。

 【朧霞】で姿を消し、到着直前にメールで決めた待ち合わせ場所を目指す。

 

 建物の屋根に跳び上がると、所々で銃撃音が響き、建物の屋根を白装束の男達が動き回っている。

 

 モラウの【紫煙機兵隊(ディープパープル)】だ。

 

 銃撃しているのは人形兵。

 

 キメラアントと思われるような姿はない。

 

(大規模な戦闘はなし。お互い……いや、ネフェルピトーはまだこっちの正体が分からず様子見っちゅう感じか。アモンガキッドの念獣がおる気配もない。つまり、完全に専守防衛の構え)

 

 街外れにある鐘がある高台へとやってきたラミナは、柱の陰に潜んでいるノヴの姿を見つける。

 

 ラミナも能力を解くと、挨拶を交わすことなくノヴが開いた入り口へと飛び込む。

 

 中にはモラウもいた。

 

「おう、待ってたぜ。キルアは大丈夫なのか?」

 

「まぁ、山場は越えたと思うで。後はアイツの体力次第やろな」

 

 ラミナは肩を竦め、それにモラウ達も頷く。

  

「一応そっちの話を聞かせてくれねぇか? メールとかで簡単には把握してるがよ」

 

 モラウの言葉に頷いて、ラミナは昨日の戦いや得た情報について話す。

 

 王の元に来たと思われる師団長、レオルの片腕を斬り落としたこと、念能力と四大行の熟練度のあべこべさ、そして仲間に引き入れたイカルゴのこと、キルアの負傷のこと。

 

 全てを聞き終えたモラウ達は腕を組んだり、顎に手を当てて考え込んでいた。

 

「……敵には師団長が5匹、か。で、念能力もばっちり開発してると……」

 

「しかし、四大行やその応用技は未だ未熟。兵隊蟻のほとんどを仕留めたことで、敵には手駒は残っていないに等しい……」

 

「まぁ、護衛軍からすりゃあ師団長以下は時間稼ぎの駒としか思ってねぇみてぇだけどな」

 

「そらぁもうすぐ何でも言うこと聞く兵隊が出来るでな。欲望まみれの女王蟻のお古やいらんっちゅうことやろ。師団長は打算的な忠誠しかない奴らばっかやし、兵隊長以下は忠誠心があっても、知性や実力的には護衛軍からすれば今一つやろうしな」

 

「なるほどな……」

 

「しかし、厄介であることには変わりありません。師団長は未だ誰1人能力が判明していません。獅子男はラミナの推測が正しかったとして、危険度が上がることはあっても下がることはありませんしね」

 

「ああ、しかも手負いの獅子だ。激しい感情は能力に大きく影響する。連中の能力は間違いなく発展途上! ラミナにやられたことで何かしら変化が起きても不思議じゃあない」

 

「まぁ、まだ作戦まで1週間もあるんや。時間稼ぎしたいんはこっちも同じ。じっくりと観察して、さっくりと仕留めさせてもらおか」

  

 ラミナの言葉にモラウとノヴも頷く。

 

 少しでも選別を長く止めるために人形兵をここに留め、護衛軍の意識をここに集中させたい。

 

「連中はどう動くと思う?」

 

「護衛軍は間違いなく宮殿に閉じこもるでしょうね」

 

「やろな。アモンガキッドの念獣が出て来んのが証拠や。護衛軍は王のお守りに全神経を注いどる」

 

「ってこたぁ、ここに来るのは師団長達ってわけだ」

 

「獅子男は当然として……あと何匹来るか、やな。いきなり5匹全員来ることたぁないやろうから……ティルガの情報からしてヂートゥとブロヴーダが可能性として高いか」

 

「だが、それはラミナの存在がバレなければの話でしょう。こちらが3人とバレれば、師団長全員が出てくる可能性は十分にありうる」

 

「やなぁ……うちはしばらく情報収集に徹するか。姿を消して、動き回ってみよか」

 

「頼んだ。俺はこれまで通り【紫煙機兵隊】を操って、前に出る」

 

「では、私は動き回ってラミナの存在を隠す囮になるとしましょう」

 

「いや、しばらくノヴも身を潜めて様子を遠くから観察していてくれ。お前の能力を敵に見られるのは、まだ早い」

 

「せやな。空飛べる奴がまだおらんとも限らんし、地面を歩く振動で居場所を探る奴もまだ残っとるし。ノヴの能力を推測される情報はまだ出さん方がええ」

 

「……分かりました」

 

「ほな、集合場所は適時メールで」

 

「ああ」

 

 ラミナは念空間を出て、【朧霞】で姿を隠す。

 

 すぐにビルの上へと跳び上がり、ビルの屋上を跳び移っていく。

 

(現状、面倒なんはあのモグラやな。空にも気を付けなあかんけど……)

 

 ラミナは途中で手頃なビルのベランダに飛び込む。

 窓ガラスの傍にもたれ、室内に耳を澄ませる。

 

『銃声、止んだか?』

 

『分かるかよ。ここで下手に顔出して、見つかったら俺らが撃たれちまう』

 

『そうよ。どうせ国民大会まで外には出られないんだし』

 

 碌な情報はないとラミナが判断して、他の場所へと向かおうとした時、

 

『そう言えば聞いたか? 将棋とかチェスのプロが宮殿に連れて行かれたって話』

 

(……宮殿にやと?)

 

 ラミナは眉を顰めて、元の位置に戻る。

  

『ホントなの? それ』

 

『間違いねぇみたいだぜ。隠し持ってた携帯で確認したし。この国にいるそれぞれの盤上競技のプロで一番強い奴らが連れて行かれたらしい。どうやら総帥様のお客人の相手をしてるみたいだぜ』

 

(……蟻が将棋にチェス……? なんのために……?)

 

 ラミナは顎に手を当てて考え込む。

 

(大会までの暇潰し。それ自体はおかしなことやない。やけど、なんでボードゲームなんや? いくら護衛軍でも王の護衛の最中にそんなことするわけない……。つまり、遊んどるのは王っちゅうことになる……)

 

 しかし、わざわざ盤上競技を選んだ理由が分からない。

 暇潰しだとしても、自分達を狙うわけでもなく、ただ遊ぶだけ。

 

(人間を食い物と思とる王が人間とゲーム? ありえへんとは言い切らんけど……なぁんか嫌な予感がするなぁ)

 

 作戦の邪魔となる確証など無いが、何かが引っかかる。

 しかし、どういう状況かなど確認しようもないので、ラミナは嫌な予感を抱えたまま作戦を続けるしかないのであった。

 

 

 

 

 その頃、宮殿側ペイジン郊外。

 

 レオルは苦々しい顔を浮かべて、ペイジンに踏み込もうとしていた。

 

 もちろん、左腕は斬り落とされたままだった。

 

「ちっ……人間共が……。こんなところを攻めやがって……!」

 

 レオルは結局宮殿に戻ることが出来ないまま、ペイジンに再び派遣された。

 止血等の簡単な治療は出来たが、まだ時々鋭い痛みが走り、傷口が火傷をしているかのように熱を帯びている。

 

「宮殿は目と鼻の先なんだ……! アモンガキッドかモントゥトゥユピーのどっちかくらい寄越せってんだ」

 

 レオルは先刻のネフェルピトーからの電話を思い出して、歯軋りをする。

 

『……レオルです』

 

『敵がペイジンにも現れた』

 

『ペイジンに……!?』

 

『ボクらは王の護衛に集中するよ。人形達もペイジンに集めるから、上手く使って』

 

『……他の戦力はお貸し頂けるので?』

 

『ヂートゥが起きたから、もう少ししたら向かわせるよ。あと、帰って来させた兵隊長達も。絶対仕留めてね。確実に仕留めたのを確認したら、帰ってきていいよ。……言っとくけど、これが最後のチャンスだからね?』

 

『……心得ております』

 

『ニャハハ。期待、してるよ』

 

 心にも思っていない言葉を思い出して、レオルは右手を握り締める。

 

(ヂートゥはありがてぇが、それでも俺を含めて4、5人しかいねぇ……。もし、あの女もここにいたら、勝ち目はねぇ……!)

 

 完全にラミナの存在がトラウマになっているレオル。

 

(まずは敵を見つけて、作戦を練る。後はどうヂートゥを嗾けるか、だな)

 

 顎に手を当てて、行動指針を立てていく。

 

(くそ……! ヒナがまだ動けねぇのが痛いな……。ヒナの除念はヂートゥが死ぬか、ヂートゥにあの変な念をかけた能力者を仕留めねぇと空かねぇ。そいつがここにいれば……いや、そいつがここにいたら、もう能力を防ぐことが出来ねぇ。あの能力も『見た』とは言い切れねぇし……)

 

 レオルの【謝債発行機】は相手の能力を直接見るか、詳しく聞くことが制約の1つとなっている。

 だが、ヂートゥに憑いていたナックルの【天上不知唯我独損】のポットクリンは能力が停止状態だった。それだけで『能力を見た』と言えるかどうかをレオルは自信がなかった。

 

(俺がヒナの能力を借りちまうと、ヂートゥに憑いてた念がどうなるか分からねぇし……。俺が敵に念をかけられるわけにはいかねぇ。やっぱり他の連中を上手く使って、当て馬にするしかないか……)

 

 レオルはドンドン袋小路へと追い込まれていく感覚に襲われ、焦りと苛立ちが込み上げてくるのだった。

 

 

 

 

「…………ん」

 

 キルアはゆっくりと目を開く。

 

 視界に映ったのは、車と思われる天井だった。

 

「ここ……は……?」

 

「お。起きたか。どうだ? 気分は」

 

 イカルゴが顔を覗かして、声をかける。

 それにキルアは目を丸くして、イカルゴが誰か、自分が何をしていて、何が起こったのかを思い出して、飛び起きる。

 

「タコ!? ここどこだ!? どれくらい寝ていた!?」

 

「タコって言うなぁ~~!!」

 

「早く!!」

 

「落ち着け、キルア」

 

 掴みかかりそうな勢いでイカルゴに詰め寄るキルアに、ティルガが声をかける。

 

「ティルガ……!」

 

「ここは地底湖近くの森だ。寝ていたのは約1日。もうすぐ日が暮れる」

 

「……俺の治療をしたのは……」

 

「ラミナだ。其方が気絶した直後にラミナが回収して、ここで治療した」

 

「……そうか。ラミナは?」

 

「ラミナはモラウ達のサポートのために、先にペイジンへと向かった。我とブラールはこの後ラミナの元へと向かう予定だ。キルアは特に言われていないが……」

 

 ティルガはイカルゴに顔を向ける。

 

「イカルゴの処遇と……責任はキルアに任せる、と」

 

「……イカルゴを連れて行って、もし裏切った場合、俺が殺せってことか……」

 

 キルアは点滴の針を外しながら、ラミナの意図を正確に読み取る。

 ティルガはそれに頷き、

 

「それならば、ラミナはイカルゴに狙撃されたことを不問とするそうだ」

 

 ティルガの言葉に、キルアは呆れた顔を浮かべる。

 

「……相変わらず甘いんだか適当なんだか……」

 

 キルアは車から降りて、ストレッチをして身体の調子を確認する。

 

「……まだちょっと戦闘は厳しいか……」 

 

「そういえば、少し前にゴンから電話がかかってきた。事情は簡単に伝えてある。どうやらナックル達と一度合流するつもりらしい」

 

「ん、分かった。早速電話してみる」

 

 キルアはティルガから携帯を受け取って、早速ゴンに電話をかける。

 

『――キルア!?』

 

「ああ。悪ぃ、心配かけたな」

 

『ホントに大丈夫!? 死にかけたって聞いたよ!?』 

 

「もう大丈夫だって。んで、今どこだ?」

 

『【マンダイ市】の近くの森だよ。ナックル達とも合流したところ』

 

「そっちは何かあったか?」

 

『あ!! 忘れてた!! キルア、ティルガはまだいる!?』

 

「ティルガ? ああ、いるけど?」

 

「む?」

 

『メレオロンって知ってる!? 仲間になったんだ!!』

 

「なんだと?」

 

「「メレオロン!? 仲間ぁ!?」」

 

 キルアはもちろん、電波で会話を聞いていたティルガやイカルゴ達も驚きに目を丸くする。

 

「な、なんでメレオロンって奴が仲間になってんだよ!?」

 

『え? なんでも王達に復讐したいんだって』

 

「……復讐? 元師団長が王達に? 本当に信用できるのか?」

 

『うん。少なくとも俺は話を聞いて、本当だと思ったよ。信用できるって思った。自分の能力についても教えてくれたし』

 

「……」

 

『とりあえず、直接会って話してみてよ。その上で俺達が考えた作戦を聞いてほしいんだ』

 

「……分かった。ティルガ達も連れてくぜ。ラミナにも一報入れとく」

 

『うん! じゃあ、俺達もそっちに向かうよ! 中間地点で会お!』

 

「ああ」

 

 キルアは通話を終えて、ティルガに顔を向ける。

 

「どう思う?」

 

「……分からん。いくら取り入るためとは言え、復讐を理由にするのは怪しまれはしても、信用される要素はあまりないだろう。しかし、ゴンはそれを信用できると言った。会ってみるべきだとは思う」

 

「……それしかないか」

 

「だが、その前に」

 

「ん?」

 

「其方もイカルゴをどうするか決めるべきだろう。正直、メレオロンよりも動機が不明だぞ?」

 

「「あ」」

 

 キルアとイカルゴは顔を見合わせて、声を上げる。

 

 キルアは一度深呼吸し、顔を引き締めてイカルゴを見据えて、ただ一言。

 

「来るか?」

 

「!!!」

 

 イカルゴはその言葉を期待していたが、実際に言われると言葉に詰まってしまった。

 

「あ……い……い、いいのか?」

 

「良いも何も、俺達もう友達(ツレ)だろ?」

 

「っ!!!」

 

 イカルゴは涙が溢れ始める。

 

 キルアは小さく笑みを浮かべて、

 

「もう一度訊くぜ? ――来るか?」

 

「ああ……行く。行くよ!!」

 

 イカルゴも笑みを浮かべて頷く。

 

 キルアは頷いて、すぐに顔を引き締める。

 

「1つ言っとくけど、もう仲間になった以上、次にこんなことあっても、もういちいち礼を言わないからな。俺がお前を助けるようなことがあっても、お前も俺に礼を言うなよ」

 

 キルアの言葉にイカルゴは不思議そうな顔を浮かべる。

 

「ツレがツレを助けるのは当然だろ?」

 

「!」

 

「これから色々協力して何かやってく時があるだろうけど、サポートし合うのは特別なことじゃねぇからな。当たり前のことで礼を言うのは、かっこ悪いだろ?」

 

 イカルゴは目を限界まで丸くして固まる。   

 

 それはイカルゴが憧れていた世界だった。

 強い信頼で結ばれ、背中を預け合って命懸けで戦う世界。

 

 キメラアント同士ではダメだった。

 

 誰も彼も打算的で、欲深くて、本能的で、信頼なんて出来やしない。

 それでも人間と仲良く出来るわけなく、仕方なくそのままレオルの元にいた。

 

 諦めかけていた。

 

 だが、その世界が、殺し合いをした人間から齎された。

 

 自分をカッコいいと言ってくれた相手から。

 

 嬉しくないわけがない。

 

「う……うぅ~……! 俺……俺……もう死んでもいぃ~!」

 

 イカルゴは涙腺が決壊して、男泣きを始める。

 

 それにキルアやティルガは意味が分からず、混乱する。

 

「な、なんで急に泣いてんだよ……!?」

 

「だってこんな……俺なんかに、こんな……」

 

 キルアは何となく理由を察して、ため息を吐く。

 

「はぁ……お前なぁ……」

 

 キルアはイカルゴの前に屈んで、目を鋭くする。

 

「オメーがこれから足を突っ込む世界はな、アリよりよっぽどシビアだからな!!」

 

 キルアの真剣さにイカルゴは涙を止める。

 

「命を懸けることと、命を軽く扱うことは、似てるようで全然違うぞ。生死の境で生きてる奴は、死んでもいいなんて絶対思わない」

 

 ラミナも、キルアも、もちろん死ぬ可能性は考慮している。

 しかし、それは『死なないギリギリのライン』を見極めるためであって、『死んでも仕方ない』などとは微塵も考えてはいない。

 

「毎日完璧な体調管理スケジュールをこなしながら、致死量ギリギリの毒をいつでも躊躇いなく飲める奴が生き残れるんだ。これから戦うとこは、そんな世界さ」

 

 そのキルアの言葉に、ティルガは納得の表情を浮かべる。

 

(確かにラミナは常に自身や我らのコンディションを考慮して作戦を決めていたな……。……そうか。よく修行で限界まで【堅】をさせられたのは、我々のオーラ量をある程度把握するためのものか……)

 

 修行の意味、ラミナの行動決定の要素の1つをようやく理解したティルガだった。

 

 ラミナは修行を通して、ティルガ、ブラール、キルア、ゴンのオーラ総量を把握していた。

 もちろんナックルのように正確な数値化をしてるわけではないが、経験則で把握している。

 

 それに合わせて、汗、呼吸、話し方、動き等で体調を把握しているのだ。

 

「来れるか? こっちへ」

 

 挑発するように問いかけるキルアに、イカルゴは不敵な笑みを浮かべる。

 

「へっ、愚問だな。楽園が目の前にあるんだぜ? 行くさ! 何を置いてもな!」

 

「……よし、決まりだな! じゃあ、合流場所に向かおうぜ!」

 

「車で行こう。我が運転する」

 

 イカルゴを迎え入れたキルアは、ティルガの運転する車で合流地点に向かう。

 

 

 

 到着した場所は街の郊外にある廃ビル。 

 

 キルア達が指定された部屋に入ると、ゴン達がすでにいた。

 

「キルア!」

 

「おう」

 

「怪我は大丈夫なの?」

 

「ああ、ラミナのおかげでな。2,3日もすれば問題ねぇよ」

 

「よかったぁ。あ! 紹介するよ! 彼がメレオロンだよ!」

 

 ゴンが振り返って手で示したのは、フード付きのツナギのような服を着た緑色の肌をした目が大きいキメラアント。

 

 元師団長のメレオロンだ。

 

「よう。よろしくな」

 

 メレオロンは気安い感じで右手を上げて挨拶する。

 それにキルアはティルガを振り返る。

 

 しかし、ティルガはメレオロンを見て、僅かに首を傾げていた。その後ろにいたブラールやイカルゴも同じく。

 

「……どうしたんだ? まさか、メレオロンじゃないのか?」

 

「……いや、メレオロンなのは間違いないのだが……。我が知っているメレオロンとはどこか違う」

 

「違う?」

 

 ティルガの言葉にブラールとイカルゴは頷き、キルアやゴン、ナックル達は首を傾げ、メレオロンは苦笑する。

 

「我が知ってるメレオロンと言う師団長は、常に軽薄な雰囲気で何を考えているか分からない者だ。戦闘力が低いこともあって、任務の大半は部下任せの怠け者で臆病者と思われていた」

 

「……けど、今目の前にいるコイツは……」

 

「ああ。真逆…とまでは言わないが、妙に凛としていて芯が通っている……ラミナやキルア達にも通ずる雰囲気を纏っている。……何があった? 復讐とやらに関係あるのか?」

 

「……まぁな」

 

 メレオロンは真顔になって、僅かに俯く。

 

「と言っても、大したことじゃねぇ。お前らと同じだよ。人間だった頃の記憶が少しだけ戻ったってだけさ」

 

「……」

 

「それで思い出しちまったんだよ。あいつが……ペギーが、人間の時の俺の里親だってな」

 

 ティルガ、ブラール、イカルゴはそれで全てを理解した。

 

 ティルガは腕を組み、無念そうに目を瞑る。

 

「……そうか。ペギーが其方の……」

 

「今なら分かるぜ。お前とブラールもそうなんだろ?」

 

「……ああ」

 

「やっぱりな……。まぁ、運がいいたぁ口が裂けても言えねぇな」

 

「ペギーってのは、どんな奴だったんだ?」

 

 ナックルが盛大に顔を顰め、腕を組んで訊ねる。そうでもしないと、涙が溢れそうだからだ。

 

「師団長の1人だ。戦闘力は高くなかったが、理路整然とした口調で知性が高く、コルトと共に参謀役を務めていた。……王が産まれた直後、瀕死の女王を助けようとして王に殺され……喰われた」

 

「なっ……!?」

 

「ペギーは、コルト同様あまり人間の記憶を思い出していなかったようだったが……」

 

「だろうな。……けど、そんなこたぁ関係ねぇんだよ。あいつは間違いなく俺の知ってるペギーだった。名前も同じで、いっつも分厚いNGLの教本を抱えてたしな。……それだけで十分だった」

 

「……ああ、確かにペギーはいつも本を抱えていたな……。我も様々な知識を教えて貰った」

 

「だから、俺は王に復讐する……! 二度も恩人を奪われたんだからな! 俺も蟻だとか関係ねぇ! 俺は俺だ! 俺から恩人を奪ったアイツらを俺は許せねぇ!!」

 

 メレオロンは覚悟を決めた顔で宣言する。

 その覚悟が偽りではないと確信したキルアとティルガは、顔を見合わせて頷く。

 

「分かった。俺は信じるよ」

 

「我も信じよう」

 

「……ありがとよ。ぜってぇ役に立ってみせる」

 

 次にキルアがイカルゴを紹介し、ゴン達は『キルアが信用するなら』と何の疑いの言葉も出さずにイカルゴを受け入れる。

 

 イカルゴは思わず呆気にとられ、同時にラミナが妙に脅すように言ってきた理由を理解した。

 

 ラミナは、あまりにも簡単に敵だった者を受け入れるゴン達が非常に危なっかしいと思ったのだ。もちろんラミナとてコルトやティルガ達を受け入れたが、この作戦中に仲間にするのは危険度が違う。

 故にラミナはイカルゴの性格を見極めた上で脅し、妙な取引を持ち掛けて、裏切りにくい心境を作り出したのだ。

 

「んで、ゴン。考えた作戦って何だよ?」

 

「うん。メレオロンの能力なんだけど……」

 

「メレオロンの?」

 

「見てもらった方が早いと思うんだ。いい?」

 

「ああ、もちろん」

 

 メレオロンは頷いて、前に出る。

 

「まず1つ目だが、これはティルガ達も知ってることだが【透明になる能力】だ」

 

 スゥとメレオロンの姿が背景と同化するが、キルア達は【円】を使うまでもなく、気配や視線でそこにいると分かる。

 

 メレオロンは透明化を解いて、肩を竦める。

 

「まぁ、これはもう聞いてるとは思うが、この能力は【円】を使えば簡単にバレちまう。それに臭いや視線とかでもな」

 

「ああ。ティルガから聞いてる」

 

「だが、これは俺の本当の能力を隠すためのフェイク。本当の能力は、こっちだ」

 

 メレオロンは軽く息を吸ったかと思うと、突然姿が消えた。

 

 更に先ほどまで感じていた気配や視線、臭いなども感じ取れなくなったことに、キルアとティルガは目を丸くする。

 

「一瞬で消えた……!?」

 

「臭いも一瞬で消えただと? ブラール、【円】だ」

 

「……」

 

 ブラールは頷いて、【円】を発動する。

 キルアは【凝】を使って周囲を見渡すも、メレオロンの姿や痕跡も見当たらない。

 

「……【円】でも分からないそうだ」

 

「【凝】でも分かんねぇ……。オーラも出さずに一瞬で消えるなんて……」

 

「プハー」

 

「「「「!!?」」」」

 

 戸惑っているキルア達の前に、突然メレオロンが現れる。

 それにキルア達は目を丸くし、ゴンやナックル達はドッキリが成功したかのような笑みを浮かべる。

 

「ど、どうやって……!?」

 

「俺はずっとここにいたぜ? お前らが気付かなかっただけさ」

 

「な……!?」

 

「これが俺の2つ目の能力【神の不在証明(パーフェクトプラン)】。俺が呼吸を止めている間、何人たりとも俺の存在に気づけない。【円】を使っても、俺を触ってもな」

 

「……マジかよ」

 

 キルアはメレオロンの能力の恐ろしさを一瞬で理解して、悪寒が走った。

 もし、この能力で後ろから攻撃されても絶対に気づけない。カウンターどころではない。あのオロソ兄妹の能力同様、攻撃されたという事実を認識できるのは攻撃された後なのだから。

 

 自分達がメレオロンを危惧していたのは間違いではなかった。

 

 そして、仲間に引き込めたことは、王や護衛軍を討伐したのと同じレベルのファインプレーであった。

 

「そして、3つ目」

 

「ま、まだあるのか?」

 

「むしろ、これが本命さ」

 

 メレオロンは不敵に笑い、ゴンの肩に右手を置く。

 そして、息を吸うと今度はメレオロンだけではなく、ゴンまでも姿が消えた。

 

「なっ!?」

 

 キルア達は再び気配を探ったり、【円】を使うもやはり2人の存在を感知できなかった。

 

 すると、キルアの顔のすぐ傍で小風が吹く。

 

 それにキルアが訝しんだ、その時、

 

 

 突如キルアの右頬に拳を触れさせたゴンが現れた。

 

 

 その後ろにはメレオロンがゴンの左肩に手を置いていた。

 

 ティルガ達はそれに目を限界まで見開き、キルアも目を見開いて硬直していた。

 

「……ゴンにも【神の不在証明】が……?」

 

「その通り! これが第3の能力【神の共犯者】。【神の不在証明】の発動中、俺が手を触れた者にも【神の不在証明】が連動する! どうだ? 役に立ちそうか?」

 

「……ああ。最高だ!!」

 

 キルアは思わず笑みがこぼれる。

 

 今キルアの頭の中では、物凄いスピードでメレオロンを組み込んだ戦略が浮かび上がっていた。

 

「俺達はラミナかナックルのどっちかと組ませたらどうかって思ってるんだ」  

 

「……そうだな。理想はラミナと組んでもらうことだ。ラミナとメレオロンが組めば、護衛軍どころか王さえ殺せるかもしれない」

 

「でしょ!?」

 

「けど作戦を最優先に考えれば、速攻で護衛軍の1匹を仕留めて、残りの3匹と戦ってるどこかに参戦してもらうのがいいな。一番はナックル達のところだ」

 

「……お前らの所の方がいいんじゃねぇのか?」

 

「俺らもその方が助かるけど、ラミナとナックルっていう選択肢が出来る方がメレオロンが活きる。それでモントゥトゥユピーを倒して、俺達の所に来てくれる方が効率がいいし、勝率も上がる」

 

「……確かにモラウさんとノヴさんの能力は足止めに最も向いている。キルアの作戦が現実的だろう」

 

 シュートが顎に手を当てて、キルアの告げた作戦に同意する。

 

「けど、問題もある」

 

「問題って?」

 

「1つ目はラミナがアモンガキッドを仕留めるまでメレオロンが息を止めていられるか。突入場所のすぐ近くにいればいいけど、そうじゃなかったら一度どこかで息継ぎがいる。そうなると、高確率でバレる」

 

「……ネフェルピトーの【円】とアモンガキッドの念獣。その両方をやり過ごせると楽観視出来ぬか」

 

「ああ。ネフェルピトーの【円】は戦闘になれば消せるかもしれないけど、アモンガキッドの念獣はそうもいかない。宮殿中に配置してるはずだし、突入直後なら能力を解除する可能性は低い。いくら早く息継ぎしても、1,2秒はかかる。バレないと思う方が難しい」

 

「そりゃあそうだな」

 

「2つ目。これが一番の問題」

 

「あん?」

 

「ラミナがメレオロンをどこまで信用できるか、さ」

 

 キルアの言葉にメレオロンを除く全員が「あ~」と納得の表情を浮かべた。

 

「ラミナは俺達が信用できるって言ったところで、絶対に自分で確認するまで判断しない。しかも、内容は作戦当日の肝だ。命が懸かった状況で、ラミナがメレオロンを信用して命を預けるとは、悪いけど俺は思えない」

 

 キルア達でさえ、一緒に戦えるようになったのは東ゴルトー潜入の直前だ。

 ゴンに関しては、まだ認められたとは口が裂けても言えない。

 

「殺し屋にとって『共闘』なんて、最も警戒するシチュエーションだ。よほどの関係でもない限り、完全に信頼するなんてありえない。それこそ、旅団員でもないと無理だと思う」

 

「けど、俺達は殺し屋じゃねぇ。後ろから襲い掛かるなんざ、ありえねぇだろ」

 

「俺達の場合は少し理由が変わると思う。例えば……チャンスを逃さず、躊躇なく殺せるかどうか、とかね」

 

「ぐっ……」

 

「チャンスを逃す奴なんて、殺し屋は絶対に信用しない。今回の作戦は躊躇すれば、一瞬で全部がひっくり返るかもしれない戦いばかり。ラミナからすれば、殺すのを躊躇する奴と戦うなんて絶対に避ける。ぶっちゃけ此処にいるメンバーのほとんどが、ラミナからすれば絶対共闘したくないと思われてると思うぜ。いくらメレオロンの能力が凄くてもな。だから、メレオロンはナックルと組むことをメインに作戦を練るべきだ」

 

 キルアはそう言いながら、携帯を取り出して素早くメールを打つ。

 

「とりあえず、ラミナにメレオロンの能力の事を伝えとく。ナックルと組ませようと考えてるのもな」

 

「随分と用心深いんだなぁ、ラミナって奴は」

 

「殺し屋はそれくらいじゃないと務まんないからな」

 

 メレオロンは呆れながら言い、キルアは携帯を仕舞いながら肩を竦める。

 ティルガはキルアに顔を向けて、 

 

「そろそろ我らはラミナのところに行ってもいいか?」

 

「ん? ああ、そうだな……。俺達はどうするか……」

 

 キルアは顎に手を当てて、今後の方針を考えようとしていたその時、キルアの携帯が鳴る。

 

 取り出して着信画面を見ると、ラミナからだった。

 

 スピーカーモードにして通話ボタンを押す。

 

「もしもし?」

 

『おう。傷はどないや?』

 

「ほぼ塞がってる。2,3日もすれば万全に戦えると思うぜ?」

 

『そら良かった』

 

「それで? そっちはどうなんだ?」

 

『今モラウが街を引っ掻き回しとる。うちとノヴはもうしばらく身を隠して、あっちの動きを観察することになった。うちは今、姿を隠しながら街外れの建物の上で電話しとる』

 

「敵の動きは?」

 

『今は兵士人形しか来てへんけど、そろそろ師団長の1匹2匹来るやろうな。護衛軍は動く気配は全くなし。念獣もな』

 

「そうか……」

 

『ところで、さっきのメール。ホンマやろな?』

 

「ああ。実際に見た。ティルガの鼻にブラールの【円】でも分からなかったし、俺も視線や気配が全く分からなかった。触られてもな」

 

『ふぅん……。メレオロンっちゅう奴、そこにおるんか?』

 

「いるぜ」

 

「俺に何か用か? 疑い深い殺し屋さんよ」

 

『王に復讐するために命を懸ける覚悟。ホンマにあるんやろな? それとも、自分で殺したいってクチか?』

 

「……いや、流石にそこまで自惚れちゃいねぇさ。……まぁ、殺れるなら、殺りてぇけどな。だから、あんたらが王を殺してくれるってなら、喜んで力を貸すぜ」

 

『……ほな早速、その覚悟見せてもらおやないか』

 

 ラミナの言葉にキルア達は首を傾げる。

 

『ティルガ、ブラールと一緒にペイジンに来い。車で構わんでな』

 

 突然の招集にナックルは思わず眉を吊り上げて、大股で携帯に歩み寄る。

 

「何させる気だコラ、あぁ!?」

 

 

『その能力で、ノヴと一緒に宮殿に潜入してもらう』

 

 

「「「「「「!?!?」」」」」」

 

 キルア達は目を丸くする。

 

「ほ、本気かよ!?」

 

『本気も本気や。うちらの作戦は、ノヴの能力で出口を宮殿内に設置しとることが大前提や。つまり、どっかでノヴには宮殿内に忍び込んでもらわんとあかん』

 

「……それは……まぁ」

 

『けど、そのためにはあのネフェルピトーの【円】をどうにか潜り抜けなあかん。やから、どっかでネフェルピトーを宮殿の外に誘き出す必要があったんやけど……そのメレオロンの能力を使えば、ネフェルピトーを遠くに誘き出さんでええからな』

 

「け、けどよ……俺が息を止めれるのは良くて2分くらいだぜ? どうやっても【円】のド真ん中で息切れしちまうぞ?」

 

「それにアモンガキッドの念獣はどうすんだよ?」

 

『ノヴ達が忍び込むと同時に、うちも宮殿を襲撃して護衛軍の注意を引きつける』

 

「「はぁ!?」」

 

 キルアとナックルがとんでもない作戦に声を荒げる。もちろん他の者達も目を見開く。

 

「馬鹿言ってんじゃねぇよ! 護衛軍4匹に師団長、下手したら王まで出てくる可能性があんだぞ!?」

 

「テメェ1人で何とかなる連中じゃねぇだろが!!」

 

『護衛軍は出てきて3匹や。1匹は護衛のために王の傍から離れんやろうし。師団長なら逃げ切れるやろうしな』

 

「だからって1人で行くのは無茶過ぎるよ!」

 

『ノヴとメレオロンだけで行かせる方が無茶やろが』

 

「じゃあ俺らも――!」

 

『怪我人も未熟モンもいらん。っちゅうか、敵の注意をあちこちに分散させるわけにもいかんやろが』

 

「けど……!」

 

『ティルガとブラールはペイジンに到着したら、モラウと合流して人形兵士と来た師団長達の相手。キルアは治療に専念、イカルゴはその護衛。ゴン、ナックル、シュートはうちらが失敗してもうた時のために待機。こっち来たところで、うちらは相手にせぇへんで。モラウ達にも話は通しとる。アホらしい仲間意識で全員で来て、作戦不可能にでもなったら、目も当てられんでな。プロ名乗るんやったら、しっかりと局面見極めぇや』

 

「あっ、ちょっ、待て――」

 

 一方的に指示を出されて、通話を切られてしまう。

 

 それにキルア達は盛大に顔を顰める。

 

「あいつ……無茶苦茶なこと考えやがって……!」

 

「どうする? 皆で行く?」

 

「……」

 

 ゴンは首を傾げて、キルアに訊ねる。

 

 キルアは眉間に皺を寄せて腕を組む。

 そこにイカルゴが声をかける。

 

「けど、キルアは安静にしとくべきじゃないか? まだ傷も癒えてないし、自分でも2,3日は満足に戦えないって言ってたじゃないか」

 

「う……」

 

「ゴンもキルアの傍にいるべきだと我は思う。ナックル達もペイジンの近くに来るのは問題ないと思うが、ペイジンに来ても我らと共にモラウと合流するのが限界だろう。ナックルの能力はヂートゥに見られている。効果まではバレていないだろうが、殴られては危険だというのは広まっている可能性があるし、ナックルが重傷を負って能力が解除されたらヂートゥを抑え込むのが難しくなる」

 

「ぐ……ちぃ!」

 

 ナックルは顔を顰めて、舌打ちする。

 そして、メレオロンに顔を向ける。

 

「無理すんなよ、メレオロン」

 

「ああ。分かってるよ」

 

「……ホントにちゃんと考えとけよ」

 

「キルア?」

 

 キルアはポケットに両手を突っ込んで、真剣な顔でメレオロンを見つめる。

 それにゴン達は首を傾げる。

 

「お前も言ってたけど、この作戦に参加すると途中で能力が解けて護衛軍に見つかる可能性が高い。そうなれば、護衛軍に裏切り者ってバレるんだぜ? ……もし、お前が裏切るつもりなら、逃げるなら今だぜ」

 

「っ!! オイコラ、キルアぁ!! テメェ、まだメレオロンを疑ってんのかよ!!」

 

「疑ってねぇよ。けど、この世に絶対なんてない。どんなに覚悟を固めていても、逃げ出したくなる時はあるからな」

 

「……ありがとよ、キルア。けど、この潜入作戦は今後に大きく影響するんだろ?」

 

「……ああ、間違いなくね」

 

「じゃあ、やるしかねぇな」

 

「おいおい、大丈夫なのかよ!? ラミナの奴、下手すりゃお前を囮にするかもしれねぇんだぞ!?」

 

「ラミナはそんなことしないと思うけど」

 

「ああ」

 

「うむ」

 

「……」

 

 ナックルの言葉をゴンが否定し、キルア、ティルガ、ブラールも同意する。

 それにナックルは顔を顰めて腕を組む。

 

「けど、それを否定する証拠もねぇだろ!? 暗殺者だったら、もしもの時は誰かを犠牲にするかもしれねぇじゃねぇか!!」

 

「それは言い過ぎだと思うぜぇ、ナックルよ」

 

「メレオロン……!?」

 

「ラミナって奴がもし俺を囮にする気だったら、あの護衛軍相手にまず自分が囮になるなんて言わねぇと思うぜ?」

 

「そう言う事。ラミナはメレオロンに酷い役目を押し付けたような言い方をしといて、実は安全を確保しようとしてんのさ。ノヴの能力ならいつでも撤退できるしな。ティルガ達だけを呼び寄せたのも、俺達の姿をギリギリまで隠すためだ。国民大会に潜り込む可能性もある以上、敵に姿を見られるリスクは極力減らすべきだからな」

 

「だったら、俺はやり遂げるだけさ。戦闘力がない俺が出来ることは、こう言う裏工作とかだろうしな。俺もお前らの仲間になったんだ。一緒に命懸けさせてくれよ」

 

「……ちっ!」

 

「んで、これをやり遂げれば、無事メレオロンはモラウ達の信頼も勝ち得るってわけ。作戦遂行に必要な大仕事をやったんだ。ハンター協会からも庇護を受けられる可能性は高くなる」

 

「……そうだな。モラウさんなら、コルト同様責任を負うと言って認めさせるだろう」

 

 キルアの推測にシュートも頷く。

 それにはナックルも納得せざるを得ず、更に眉間に皺を寄せる。

 

 キルアは小さくため息を吐いて、

 

「ったく……ラミナもはっきりそう言えばいいのによ。……悪役を演じ過ぎなんだよ」

 

 ティルガもその呟きに内心で大いに同意し、ラミナのどこか照れ隠しのようなやり方に小さく笑みを浮かべる。

 

「では、すぐに向かうとしよう」

 

「ああ」

 

「ブラール、キルア達に羽根を渡しておいてくれ。それで向こうの様子を確認することが出来る」

 

「……」

 

「俺達も途中まで同行するぜ。なぁ、シュート」

 

「ああ。すぐに駆け付けられるように備えておく必要はあるだろう」

 

「ゴンは俺とイカルゴと一緒だ。俺達は歩いてペイジンに向かうぜ」

 

「うん」

 

 いよいよ作戦に向け、本格的に動き始める討伐隊であった。

 

 

 

 

 

 ちなみに電話を切ったラミナは、

 

「あ、ゴンに『会ったら一発ぶん殴る』て言うん忘れとった。……まぁ、ええか。黙ってぶん殴れば」

 

 と、警戒していたメレオロンをサラッと仲間に引き込んでいたゴンに、八つ当たりをすることを決めていたのだった。

 

 

 




本当にアモンガキッドの参加で、ノヴの宮殿潜入難易度が跳ね上がっている(ーー;)
自業自得なのですがね。

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