暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
ボォーーー!!
沖合いの船から大きな汽笛が鳴らされる。
『只今をもちまして、四次試験を終了とさせていただきます! 受験生の皆様は速やかにスタート地点にお戻りください! これより1時間の猶予時間を与えます! それまでに戻らなければ全て失格となりますのでご注意ください! なお、スタート地点に到着後のプレートの移動は無効です! 確認され次第失格となりますのでご注意ください!』
放送が島に響き渡る。
直後、スタート地点周囲の森から人影が次々と姿を現す。
ラミナも木の上から飛び降りて、スタート地点に出る。
1時間後に集まったのは10人。
ラミナ、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、ヒソカ、イルミ(ギタラクル)、ハンゾー、頭にターバンを巻いた青年、髪を後ろで纏めている老人。
ラミナはゴン達に近づく。
「あれから間に合ったんやな。って、妙にボロボロやないか」
「色々あったんだ。まぁ、ゴンのおかげだな」
「ああ、あの後ゴンと合流したんか」
「この近くでな。ゴンがいなかったら絶対見つけられなかったし、見つけられても死んでたかもしれねぇな」
「ほぉ~」
クラピカもレオリオの横で小さく頷いているので、本当にそこそこ危険な状況だったようだ。
そのゴンはキルアと笑い合っているが、ふとした時に空元気のような雰囲気を纏っていた。
「……ゴンの奴、なんかあったんか?」
「……恐らくな。まだ何も聞いてないが」
「ふぅん。まぁ、そこらへんはお前らに任せるわ。お前らの方が付き合い長いでな」
そう言って、ラミナは近づいてくる飛行船を見上げる。
飛行船が着陸すると、リッポーとビーンズが降りてくる。
「それではプレートを確認させてもらおう」
全員がプレートを見せて、問題がない事を確認して全員合格となり飛行船に乗り込む。
ゆっくりと上昇して、移動を始める。
受験者達は前回と同じように自由行動となり、ゆっくり体を休めることになった。
ラミナは再び大量に食事を摂る。
テーブルには皿が高く積まれており、近くでパフェを食べていたキルアや同じく食事をしていたレオリオが呆れながら見ていた。
「よくそんなに食えるな……。前も凄かったけどよ」
「胃もたれしねーの?」
「ングング……ゴクッ。ふぅ……。この程度でするかい」
毒に耐えられる体をしているラミナからすれば、胃もたれなど全く問題ない。
なので、食べられる時には食べるべきだという考えが刷り込まれている。
その後も食べ続けていると、
『えー、これより会長が面談を行います。番号を呼ばれた方は2階の第1応接室までお越しください。それでは、受験番号44番の方。44番の方、お越しください』
「面談? このタイミングで?」
「まさか……これが最終試験か?」
「それはないんちゃうか? あの爺さんは面接程度で決めるタイプちゃうと思うけどな」
「俺もそう思うな」
「そういや、キルアとゴンは爺さんと遊んだんやっけか?」
「そーそー。あの爺さんはどっちかと言えばややこしくして楽しむタイプだね」
キルアの言葉にラミナは納得するように頷く。しかし、レオリオはこれまでのハンター試験の事から疑うことを止められないようだった。
ヒソカの面談。
質問1:お主以外の9人の中で一番注目しているのは誰かの?
「……99番♥ 405番も捨てがたいけど一番は彼だね♣ いつか手合わせ願いたいなぁ♠ くっくっくっ♦」
質問2:では、8人の中で一番戦いたくない者は?
「それは……405番だね♠ 99番もだけど、一番は彼かな♦」
53番、ポックルの面談。
質問1について。
「注目しているのは399番と404番だな。見る限り一番バランスがいい」
質問2について。
「44番とは戦いたくないな。正直、戦闘では敵わないだろう」
キルアの面談。
質問1について。
「ゴンだね。ああ、405番のさ。同い年だし」
質問2について。
「53番かな。戦ってもあんまし面白そうじゃないし」
191番、ボドロの面談。
質問1について。
「44番だな。嫌でも目に付く」
質問2について。
「99番と405番だな。子供と戦うなど考えられぬ」
ハンゾーの面談。
質問1について。
「44番と399番だな。44番はダントツにヤバいし、399番は三次試験で一緒だったが、あいつも相当ヤバイ」
質問2について。
「もちろん44番だな。399番はまだ理知的だから、殺されたりはしないだろうから戦えるなら戦ってみたいぜ」
イルミ(ギタラクル)の場合。
質問1について。
「99番、399番」
質問2について。
「44番」
ラミナの面談。
質問1について。
「う~ん……。99番と405番やな。両極端なタイプが揃とるでな。見てて飽きんわ」
質問2について。
「……99番やな。下手に怪我させると厄介事になりそうやし」
レオリオの面談。
質問1について。
「405番だな。恩もあるし、合格してほしいと思うぜ」
質問2について。
「そんなわけで405番とは戦いたくねぇな」
クラピカの面談。
質問1について。
「いい意味で405番。悪い意味で44番。どっちつかずで399番」
質問2について。
「理由があれば誰とでも戦うし、理由がなければ誰とも戦わない」
ゴンの面談。
質問1について。
「44番のヒソカが一番気になってる。色々あったから」
質問2について。
「う~ん……99・399・403・404番の4人は選べないや」
以上の面談結果をもとに、ネテロは筆を走らせる。
その結果を見て、愉快そうに笑う。
「ほぉ! 思ったより偏ったのぉ」
出来上がったものを見た試験官達は目を見開いて、それを凝視する。
「会長……これ、本気ですか?」
「大マジじゃ」
(((確かに本気の目だ……)))
「試験が楽しみじゃのぉ!」
ネテロが愉快そうに笑う後ろで、サトツ達試験官は不安に襲われるのだった。
その後、3日ほど飛行する。
ラミナ達にはそれぞれ個室が与えられ、ゆっくりと過ごすことが出来た。
到着したのは審査委員会が経営するホテルで、試験終了までは受験生の貸しきりになっている。
その中の大広間に受験生達は集まっていた。
ラミナ達の前にはネテロを始めとする試験官が揃っており、ネテロの横には布が被せられたボードのようなものが置かれている。
「さて、最終試験は1対1のトーナメント形式で行う。そして、その組み合わせは……こうじゃ!」
ネテロが布を取り払う。
露わになった組み合わせにゴン達は目を見開く。
トーナメント表はひどく歪だった。
人によって戦う回数が違い、レオリオとイルミに関しては最大2回しか戦う機会がない。
「げっ」
「ふぅん♥」
ラミナの相手はヒソカだった。
ヒソカは嬉しそうに笑みを深める。
「最終試験のクリア条件だが、いたって明確じゃ。たった1勝で合格である!!」
ネテロの言葉に全員がこのトーナメント表の意味を理解する。
「ってことは……」
「さよう。つまりこのトーナメントは勝った者から抜けていき、敗けた者が上に登っていくシステムじゃ」
「この中から不合格者はたった1人ってことか?」
「その通りじゃ。しかも誰にでも2回以上の勝つチャンスを与えられておる。何か質問は?」
「組み合わせが公平でない理由は?」
「うむ。当然の質問じゃな」
ボドロの質問にネテロは頷く。
「この組み合わせは今までの試験の成績をもとに決められておる。簡単に言えば、成績のいい者にチャンスが多く与えられているということじゃ」
その言葉にキルアがピクリと反応する。
「それって納得出来ないな。もっと詳しく点数の付け方とか教えてよ」
(確かにハンゾーはともかく、ゴンがキルアより成績が良いんは意外やな)
ゴン、ハンゾー、ラミナ、ヒソカが一番試合数が多い。次点でクラピカにポックル。キルアはその2人よりも試合数は少ない。
単純に実力だけで決めたわけではなさそうだった。
「ダメじゃ」
「なんでだよ!」
ネテロはバッサリと切り捨てて、キルアは納得出来ずに食い下がる。
「採点内容は極秘事項でな。不合格者も出る以上、全てを言うわけにいかん。まぁ、やり方くらいは教えよう」
ネテロはゆっくりと3本の指を立てる。
「まず審査基準。これは大きく3つじゃ。身体能力値、精神能力値、そして印象値。これらの3つから成る。身体能力値は敏捷値・柔軟性・耐久力・五感能力等の総合値を。精神能力値は耐久性・柔軟性・判断力・創造力等の総合値を示す。だが、これはあくまで参考程度じゃ。最終試験まで残ったのじゃから、今更じゃな。重要なのは印象値!!」
ネテロは最後の『印象値』という言葉を強く言う。
「これはすなわち、前に挙げた基準では測れない『なにか』!! 言うなれば、ハンターの資質評価と言ったところかの。それと諸君らの生の声とを吟味した結果、こうなった以上じゃ!」
ネテロの説明にラミナやクラピカは納得するように頷く。
しかし、キルアは未だに納得出来ず困惑の表情を浮かべていた。
(資質で俺の方がゴンに劣っている……!?)
ラミナはその困惑をキルアの背後で感じ取っていた。
(まぁ、印象値に関してはキルアはそつなくこなし過ぎたんが大きいやろうなぁ。レオリオやクラピカの四次試験での話を聞くと、ゴンはかなりレオリオのために無茶したみたいやし)
ゴンはキルアほど戦闘技術はない。
なので、今までそれを補う何かが際立ったのだろう。
四次試験でのヒソカからプレートを奪った方法も、ヒソカから興奮気味に聞いた。その内容を聞いたラミナは確かに凄いと素直に感心した。奪った後はお粗末だったかもしれないが、それでもその集中力と技術、度胸は素晴らしいの一言に尽きる。
四次試験では受験者1人1人の後をつけていた試験官もそれを評価したのだろう。
キルアも凄い子供ではあるが、そつなくこなし過ぎてハンターらしい行動と言うのが目立たなかったのだろう。
(まぁ、うちもなんで高評価なんかは分からんけど)
ラミナも自分の評価に内心困惑していた。
ゴンの話を聞く限りだと、そこまで目立つことはしてないと思っている。
「さて、最終試験に戻るぞい。戦い方は単純明快。武器オーケー、反則なし、相手に『まいった』と言わせれば勝ち! ただし、相手を死に至らせてしまった者は即失格!! その時点で残った全員が合格となり、試験は終了じゃ」
「ふぅ……」
「残念♣」
殺し無しと言う言葉にラミナはホッとして、ヒソカは残念そうに呟く。
そして、さっそく第一試合が始まった。
「第一試合! ハンゾー対ゴン!!」
ハンゾーとゴンが前に出て、他の受験生は壁際に寄る。
(身体能力面やと圧倒的にハンゾーが上。しかも、さっきのルールやと気絶させても意味はない。……えげつな~)
この試験は聞く限りでは実力が上ならば有利のように見える。
しかし、よく考えると実力者の方が制限が多いルールになっている。
今までのゴンを考えると、実力で劣っていようが絶対にまいったと簡単には言わないだろう。
その場合、実力が上の者が取れる手段は限られている。
気絶させても駄目。殺すと脅しても、殺せば失格になるので駄目。痛め続けて、運悪く死んでしまっても駄目。
出来るのは『拷問』か『説得』の2つくらいだろう。
イルミならば相手を操作すればいいだけだが、念能力を使える者は少ないのでそれも出来ない。
常人なら勝ち目がない時点でギブアップするだろうが、ゴンがするとは思えなかった。
「始め!!」
開始と同時にゴンが横に全力で走り出す。
しかし、ハンゾーは音も出さず一瞬でゴンの目の前に移動する。
「!!」
「おおかた足に自信ありってとこか。認めるぜ」
ハンゾーは鋭い手刀をゴンの首筋に叩き込む。
「子供にしちゃ上出来だ」
ゴンはうつ伏せに倒れる。
ハンゾーはゴンの横に立って見下ろす。
「さて、決闘ならこれで終わりなんだが……」
ハンゾーはメンドそうに呟きながら、ゴンを仰向けにして体を起こす。
そして、ゴンの意識を覚醒させる。
「ほれ、目ぇ覚ましな」
「っ……!」
ゴンは意識がはっきりするも、体が思うように動かず吐き気がする。
「気分最悪だろ? 脳みそがグルングルン揺れるように打ったからな。分かったろ? 差は歴然だ。早いとこギブアップしちまいな」
「……嫌だ!」
やはりゴンは拒絶する。
直後、ハンゾーはゴンの側頭部を強く叩き、脳を再び揺らす。
脳を強く揺さぶられたゴンは強烈な吐き気に耐え切れず、嘔吐してしまう。
「げほっ!……おえっ!」
「よく考えな。今なら次の試合に影響は少ない。意地張ってもいいことなんか1つもないぜ。さっさと言っちまいな」
「………誰が言うもんか!」
直後、ゴンの腹部に拳が突き刺さる。
ゴンは再びうつ伏せに倒れて呻く。
その姿にレオリオがたまらず叫ぶ。
「ゴン! 無理はよせ! 次があるんだぞ! ここは――」
「レオリオ」
クラピカが呼び止める。
「お前がゴンの立場ならまいったと言えるか?」
「死んでも言うかよ! あんな状態でえらそーにしやがって! 分かってるが言うしかねぇだろ!」
「矛盾だらけだが、気持ちはよくわかる」
レオリオの矛盾な意見にクラピカも頷く。
ラミナは腕を組んで、静かにゴンを見守る。
(ゴンとの試合やなくて助かったかもしれんなぁ)
恐らくラミナでもハンゾーと同じようにするだろう。しかし、それでもゴンはまいったと言わないだろうし、ラミナもあれ以上の事をするのは気が引ける。しかし、それではゴンにまいったと言わせる方法が思いつかない。
かと言って、自分がまいったというのも納得出来ない。なので、手詰まり感全開になる気しかしなかった。
その後、なんと3時間。
ゴンはまいったと言わず、ハンゾーはひたすらゴンを攻撃する。
「もう……3時間だぜ」
「もはや血反吐も出なくなっているぞ」
ポックルとボドロが慄くように言う。
すると、レオリオが遂に我慢の限界を迎えた。
「てめぇ、いい加減にしやがれ! ぶっ殺すぞ! 俺が代わりに相手してやるぜ!」
「……見るに堪えないなら消えろよ。これからもっと酷くなるぜ」
レオリオが一歩踏み込むと、黒服の試験官達がレオリオの前に立ち塞がる。
「1対1の勝負に他者は入れません。仮にこの状況で手を出せば、失格になるのはゴン選手です」
「っ!」
すると、ゴンがゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫だよ、レオリオ……。こん……なの平気さ。ま……だまだやれる」
「……」
ハンゾーも流石に顔色を変えて、僅かに歯を食いしばる。
すると、ハンゾーはゴンを押し倒して、うつ伏せにして左腕を掴む。
「腕を折る」
ハンゾーの言葉にレオリオ達は息を呑む。
「本気だぜ。言っちまえ!」
「……い、嫌だ!!」
ボギッ
会場に耳障りな音が響く。
ゴンは左腕を押さえて、歯を食いしばっている。
「……さぁ、これで左腕は使い物にならなくなったぜ」
ハンゾーはゴンを見下ろして、言い放つ。しかし、その顔に余裕は一切ない。
ラミナは小さくため息を吐くを、隣から殺気が溢れてきて目を向ける。
そこには歯を食いしばって怒りに震えるレオリオがいた。
「クラピカ、止めるなよ。あの野郎がこれ以上何かしやがったら、ゴンにゃ悪いが抑えきれねぇ……!」
「止める? 私がか? 大丈夫だ。恐らくそれはない」
クラピカも目を見開いている。瞳が赤く点滅しており、怒りに震えている。
「なら、うちが止めるで」
「「!!」」
ラミナはレオリオとクラピカの背後に回って、小さく殺気を放ちながら言う。
2人は四次試験での感覚を思い出して、体が固まる。
「たかが左腕が折られたくらいで騒ぐなや。本来ならもう殺されてもおかしくないねんぞ」
「っ……! けどよ……!」
「お前らの自己満足でゴンの覚悟踏み躙る気か? それでも我慢出来へんのやったら、レオリオ。お前がこの試験やめる言うたら、ゴンは今すぐ合格できるで。ただ……その時にゴンがハンター証を素直に受け取ると思うか?」
「っ!!」
レオリオはラミナの言葉に右手を握り締める。
ゴンは絶対に受け取らない。
それしか思い浮かばなかったからだ。それどころか「レオリオにあげるよ! これを売ればお金になるんでしょ?」とか言って渡してくる可能性が高い。
そうなればレオリオも絶対に受け取らない。しかし、それではゴンはハンターとして活動することはないだろう。
ここでゴンを助けても、同じようにゴンの今までを踏み躙ることになることも理解出来てしまった。
「けどよぉ……けどよぉ……!」
「理解したなら我慢しぃ。それにゴンがまだやる気やったら、追い詰められるんはハンゾーや」
「……あ?」
「ハンゾーがゴンを殺して、失格になる覚悟をしたら話は別やけどな。けど、その覚悟がハンゾーに出来へん限り、ゴンに降参させる術はなくなる。ゴンからすれば、1本折られたんなら他の腕を折られようと構わんっちゅう覚悟がしやすくなったやろうしな」
ラミナの言葉にレオリオとクラピカは納得出来るようで出来ない感覚に襲われるが、それでももう少し見守ることに決めた。
ラミナは殺気を収めて、ゴンに目を向ける。
いつの間にやらハンゾーが片手で逆立ちしながら、忍について話し始めている。
話すのと逆立ちに集中しているようで、ゴンの瞳が力強くなっていることに気づいていない。
(……こら、まだ諦める気ないな)
その考えを肯定するかのように、ハンゾーが何やら決め顔で言い放った瞬間、ゴンが左脚を振ってハンゾーの顔を蹴る。
「あ」
ハンゾーは完全に不意打ちを食らい、顔から床に落ちる。
ゴンは痛みに呻くも、ふらつくことなく起き上がった。
「って~~! くそ! 痛みと長いおしゃべりで頭は少し回復してきたぞ!」
「よっしゃあああぁ!! ゴン! 行け!! 蹴りまくれ!! 殺せ!! 殺すのだ!!」
「それじゃ負けだよ、レオリオ……」
「調子ええやっちゃな」
レオリオは鬱憤を解消するように叫ぶ。
それにクラピカとラミナが呆れる。
そんな声など聞こえていないようで、ゴンはハンゾーに言い放つ。
「この戦いはどっちが強いかじゃない。最後にまいったって言うか言わないかだもんね」
その言葉にハンゾーが飛び起きる。
ハンゾーは鼻血を流しているのに決め顔をして、
「わざと蹴られてやったわけだが……」
「うそつけー!!」
レオリオがツッコむ。
ハンゾーはそれを無視して、鼻元を拭う。
「分かってねぇぜ、お前。俺は忠告してるんじゃないぜ。命令してるんだ。俺の命令は分かり辛かったか? なら、もう少し分かりやすく言ってやろう」
ハンゾーはゴンに歩み寄りながら左前腕に巻いてある布の下から刃を引き出した。
その瞬間、再び空気が一気に張り詰める。
「脚を斬り落とす。二度とつかないようにな。取り返しのつかない傷を見れば、お前も分かるだろう。だが、その前に最後の頼みだ。まいったと言ってくれ」
脅かすように刃を見せて言う。
直後、
「それは困る!」
と、ゴンが言い放った。
その言葉に全員がポカ~ンとしてしまう。
「脚を斬られちゃうのは嫌だ! でも、降参するのも嫌だ! だから、もっと違う方法で戦おうよ!」
「……なっ! 立場分かってんのか、テメー!!」
無茶苦茶な言葉にハンゾーが声を荒らげる。
「勝手に進行すんじゃねぇよ! 舐めてんのか! その脚、マジでたたっ斬るぞコラァ!!」
「それでも俺はまいったって言わない! そしたら俺は血が一杯出て死んじゃうよ」
「む……」
「そうなると失格になるのはあっちの方だよね?」
「あ、はい」
「ほらね! それじゃお互い困るでしょ。だから、考えようよ」
ゴンの言葉に、ハンゾーは完全に困惑して顔を顰める。
そして、外野はゴンの言動に笑いが抑えられなくなる。
「もう大丈夫だ。完全にゴンのペースだ」
「……なんちゅうワガママな……」
(ホンマに見事なもんやで。ああいう場を一気に引っ張っていく才能っちゅうんは裏の世界の人間には滅多におらんタイプやなぁ)
ラミナも苦笑しながら、ゴンの動向を見守る。
ゴンの恐ろしいところは、その言動に裏がないとはっきり分かってしまうことだ。それ故に絶対にまいったと言わないのも本気なのだろうと分かってしまう。
もちろん今のはルールがあるから故のものだ。ルール無用の殺し合いでは、ただ相手の怒りを買うだけだろう。
ヒソカのような変人でもない限り。
(ウボォーやノブナガは好きそうやけどな)
無邪気故に毒気を抜かれてしまう。それだけで場の空気を一気に支配してしまった。
一度抜かれてしまうと、再び戻すのはかなり難しい。
ハンゾーは歯軋りをして必死に突破口を探る。
そして、剣をゴンの額に突き立てる。
再び空気が張り詰める。
「やっぱりお前は何にも分かっちゃいねぇ。死んだら次もくそもねぇんだぜ。片や俺はここでお前を殺しても、来年またチャレンジすればいいだけの話だ。俺とお前は対等じゃねーんだ!!」
ハンゾーの様子を見ていたラミナは、
(お前の負けや、ハンゾー)
そう確信していた。
事実、追い詰められているはずのゴンは全く揺らいでいない。対する有利だったはずのハンゾーは汗を流し、間違いなく追い詰められていた。
「何故だ。たった一言だぞ……? それでまた来年再チャレンジすればいいじゃねぇか。命よりも意地が大切だってのか!? そんなことでくたばって本当に満足か!?」
ハンゾーの叫びにゴンは全く揺らぐことなく、
「親父に会いに行くんだ」
力強く言った。
「親父はハンターをしてる。今は凄く遠いところにいるし、一度も会ったことはないけど。それでも会えると信じてる。でも、もし俺がここで諦めたら、一生会えない気がするんだ。だから退かない」
己に誓う様に言うゴン。
「退かなきゃ……死ぬんだぜ?」
改めて剣を突き立てて告げるハンゾー。
それでもゴンはやはり揺らがない。
数秒見つめたハンゾーは目を瞑って、剣を引く。
「まいった。俺の負けだ」
剣を仕舞って、降参を告げる。
「俺にはお前は殺せねぇ。かと言って、お前にまいったと言わせる術も思い浮かばねぇ。俺は負け上がりで次に賭ける」
そう言って、ハンゾーはゴンの前から去ろうとするが、何故かゴンは不満そうな表情を浮かべた。
「そんなの駄目だよ、ずるい!! ちゃんと2人でどうやって勝負するか決めようよ!」
「……そう言うと思ったぜ。馬鹿か、てめぇは!! てめぇはどんな勝負をしようがまいったなんて言わねぇよ!!」
「だからって、こんな風に勝ったって嬉しくないよ!」
「じゃ、どうすんだよ!?」
「それを一緒に考えようよ!」
無茶苦茶理論をまだ展開するゴン。
ハンゾーは坊主頭に青筋を浮かせて、
「要するにだ。俺はもう負ける気満々だが、もう一度勝つつもりで真剣に勝負をしろと。その上でお前が気持ちよく勝てるような勝負方法を一緒に考えろと。こーゆーことか!?」
「うん!!」
「アホかーー!!!」
ハンゾーはゴンをアッパーで殴り飛ばす。
ゴンは避ける事も出来ずに吹き飛ばされて、床に倒れて気絶する。
「……阿呆」
ラミナは呆れて、そう言うことしか出来なかった。
「おい、審判。俺の負けだ。しかし、そいつが目覚めたら、きっと合格を辞退するぜ。一度決めたら意志の強さは見ての通りだ。不合格者はたった1人なんだろ? ゴンが不合格ならこの後の戦いは全て無意味なものになるんじゃないか?」
「心配ご無用。ゴンが何と言おうと合格じゃ。それは変わらんよ。仮にゴンがごねて儂を殺したとしても、資格が取り消されることはない」
「なるほどな」
ハンゾーはネテロの言葉に納得して、控えに戻る。
ラミナは隣に来たハンゾーを苦笑しながら迎える。
「災難やったなぁ」
「全くだぜ」
「ゴンが空気を変えよった時に、その空気に乗っかってやればまだ可能性はあったやろな」
「……あ~……確かにそうかもな。意地を張り過ぎたのは俺もか」
「いやぁ、あれはしゃあないやろ。うちらみたいな裏のもんに、あのまっすぐさは毒みたいなもんやで」
「……そうかもな」
「意味分からんよなぁ。満足出来んでも、納得出来れば死を受け入れられるんはなぁ」
「全くだ」
ハンゾーは苦笑して、ラミナに同意する。
ラミナは試験官に運ばれていくゴンを見送って、前に出る。
それに合わせてヒソカも前に出て、会場の真ん中で向かい合う。
「第二試合! ラミナ対ヒソカ!!」
因縁の対決が再び始まろうとしていた。