暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
また心が折れることがありまして……。
やっと復帰です。
亀更新は続くかもしれませんが。
この作品も心の支えなのは間違いないので、絶対に最後まで、いや、ラミナとキルアの結婚生活を書き切るまでは止めません!
それだけはお約束したいと思います!
ラミナはビルの上に座り込み、キルアとの電話を終えて疲労の顔を浮かべていた。
「はぁ……まさか行方知れずやった元師団長を味方に引き込むたぁなぁ……。しかも、なんちゅう能力を創っとるんや……」
ラミナはまたため息を吐いて、額に手を当てる。
(電話越しの感じやと嘘はついてへんとは思う……。やけど……
考えられる裏切りパターンを思い浮かべるラミナ。
まだメレオロンと実際に会っていないので、やはり完全に信用することなど出来ない。
メレオロンの能力が恐ろしく暗殺向けなのだから尚更だろう。
「どうでしたか?」
考え込んでいるラミナの背後にずっと控えていたノヴが声をかける。
ラミナは一時思考を中止して振り返る。
「とりあえず、裏切る可能性は低そうやな。後は実際に会ってみんと何とも言えんわ」
「そうですか……。しかし、師団長全員の居場所を把握出来たのは大きい。後は王についた師団長達を始末することが出来れば文句無しなのですが……」
「焦んなや。まずはここに来た連中に集中せんと」
ラミナは腰からノヴから預かった単眼鏡を取り出して覗き込む。
ペイジンの街中ではモラウと【紫煙機兵隊】が動き回って、人形兵士を次々と倒していた。
単眼鏡を動かして、キメラアントの姿を探す。
「蟻の姿はなし。全っ然出て来ぉへんな」
「ペイジンには来ていたはずですが……」
「地下通路に潜り込んで、そのままや。他の仲間を待っとるんか、なんか作戦があるんか……」
ラミナはため息を吐いて、頭を掻く。
「探ろうにも地下やから潜り込んだら逃げ場ないし、例のモグラにバレてまうでなぁ。ブラールがおったら覗けるんやけど、声までは分からんし……」
「私やモラウも足音までは消せませんしね。巣穴から出てくるまで待つしかありませんか……」
「まぁ、ティルガ達が来るまでの丁度ええ時間稼ぎにはなるけどな。とりあえず、今のうちにモラウを少し休ませよか」
「そうですね」
その後、数時間ごとにモラウとラミナは交代しながらペイジン内を動き回って、兵士人形を減らしていく。
しかし、それでも人形兵士は尽きることなく、次々と各地からやってきていた。
そして、夕暮れを迎えた頃にティルガ達が合流した。
モラウも含めて、ノヴの【4次元マンション】内に入って、メレオロンとの顔合わせをする。
「ナックルくらい来る思てたんやけどな」
「……其方があれだけ言えば、ナックルとて来るに来れんと思うのだが……」
「アイツやったら意地になって反発しそうやないか」
「モラウ達の名前を出したのが効いたんだと思うぜ?」
メレオロンが肩を竦める。
ラミナはそれに肩を竦め返して、目を細めてメレオロンを見据える。
「さぁて……メレオロン。改めて、覚悟見せてもらおか。王を殺すために犬死する覚悟……あるか?」
ラミナの脅すような言葉に、メレオロンは苦笑する。
それにラミナは片眉を上げる。
「……なんやねん」
「いや、キルアやティルガ達の言ってた通りだったんでな。お前さんなら、俺を見極めるためにわざと怖がらせるようなことを言ってくるだろうってよ」
ラミナがティルガを睨みつけると、ティルガはわざとらしく顔を背ける。
メレオロンは笑みを浮かべて、
「これはゴンにも言ったんだが……俺はもうアンタらを信頼してる。だから、たとえこの先信頼を裏切られても、後悔も責めもしねぇ」
「けど、それはゴンやナックル達に対してだろ? 俺らやラミナは今会ったばかりだぜ?」
「まぁ、そうなんだが……アンタらはナックル達の師匠なんだろ? アイツの師匠ってんなら信頼するには十分だし、そっちの殺し屋さんは昨晩の電話で十分さ」
「あん?」
「アンタのその疑り深さは、俺にはよぉ~く理解できる。俺は殺し屋じゃあねぇが、俺の能力は非常に暗殺向けで脆いからよ」
「脆い?」
「コイツの能力は『気づかんだけ』で、実際には触れるし【円】でも触っとる。攻撃を透過するわけちゃうから、普通にダメージを負ってまう。攻撃した側は気づかんけどな」
「その通り。俺からすれば能力を知る奴は少なければ少ない方がリスクが減るってわけだ。だから、最初はゴンにだけ教えて、他の連中には教えないつもりだったんだよ。だからこそ、殺し屋のアンタの疑り深さや慎重さは、俺にとっては逆に信頼できる要素になるのさ。まぁ、ゴン達、そして何よりティルガ達がアンタを信頼してるからってのもデカいけどな」
「なるほどな。普通は同族嫌悪するもんだが、逆にそれが信頼する根拠にもなるってわけか」
「そういうこと」
ラミナはそれに僅かに眉を顰めるも、それ以上は何も言うことはしなかった。
それにモラウはニヤつき、ノヴ達も笑みを浮かべるが、すぐに顔を引き締める。
ラミナも同じく顔を鋭くして、
「ほな、ある程度動きを決めとこか。ノヴ、メレオロンは潜入に備えて打ち合わせしとけや。その後はメレオロンはその時までここで待機。ノヴは待機するなり、外で動き回るなり、好きにせぇ」
「オーケー」
「モラウとうちは引き続き、外で人形兵士と師団長達を引きつける囮役やな」
「おうよ」
「ティルガとブラールはもう少しここで待機」
「……よいのか?」
「まだうちらとお前らが一緒におるところを見られるわけにゃいかん。お前らが出るんは、ノヴとうちらが宮殿潜入を始めた後や。多分やけど車で誰かが来たんはもうバレとるやろうからな。ここでお前らが出ると合流したんはお前らやとバレかねんし、元師団長のお前がおるっちゅうことは、まだ姿を見せてへんメレオロン、そしてクロロ達が仕留めた師団長達もおるかもしれんと警戒されてまう」
「つまり、騙し討ちを狙うってわけか」
「レオル……ハギャとかウェルフィンっちゅう奴はそう簡単に騙せんやろうけど、他の連中やったら可能性があるやろ。ティルガは嫌かもしれんが、ここは怪我や消耗を限界まで減らさんとあかんでな」
「……承知した。其方やメレオロンが命を張るのだ。我が我儘を言うわけにはいくまい」
正直に言えば、いくら敵となったとは言え元仲間だ。
堂々と敵対したことを伝え、互いに覚悟を決めてから殺し合いをしたい。その方が心情的に楽だからだ。
しかし、ここで我儘を言ってモラウが大怪我を負い、ラミナ達の作戦に支障をきたしたら目も当てられない。
簡単に方針を決めたラミナ達は、すぐに作戦を再開するのだった。
宮殿。
宮殿3階『玉座の間』では、街で噂されていた通り王がプロ棋士達との娯楽に興じていた。
玉座の間には現在シャウアプフが王の傍に控えており、入り口をモントゥトゥユピーが守護している。
ネフェルピトーとアモンガキッドは玉座の間の外で宮殿内の警戒に務めていた。
「ンニャ~……暇だニャァ。やっぱりペイジンに行けばよかったニャア」
「残念ながら、ピトっちにここを離れられたら、おいちゃん過労死しちゃうよ」
床に座って壁にもたれ、頭の後ろで腕を組みながらネフェルピトーは退屈を隠さずにボヤく。
その横に座っていたアモンガキッドは苦笑しながら、1人将棋で遊んでいた。
「1人でやって面白い?」
「残念ながら全然。王がさっき将棋のプロ棋士殺しちゃったからねぇ。ちゃんと教えてもらいたかったのに」
「にゃははは。残念だったねぇ」
アモンガキッドの口癖を真似してネフェルピトーが笑う。
すると、アモンガキッドが盤上の駒を回収した。
「さて、王はまだまだ遊ぶだろうから。おいちゃん達は真面目なお話をしようかねぇ。残念だけど」
「というと?」
「ペイジンのことだよ。そろそろヂートゥ君も出る頃だろうけど……流石に彼だけでこの状況がひっくり返るとは思えないんだよねぇ。残念だけど」
アモンガキッドは肩を竦めて、駒の1つを手で遊ぶ。
ネフェルピトーもぶっちゃけ同感なので、特に何も言わずに視線で続きを促す。
「厄介なのは、残念なことにおいちゃん達は未だに敵さんの情報を碌に知らないことさ」
「そうだニャア……。例の女、街を包囲した連中くらい? はっきりしてるのって」
「そうだねぇ。後はヂートゥ君に念をかけた奴もいるみたいだねぇ。けど、他はほとんど分からない。なのに、こっちはもう軍としては壊滅に近いし、遂にペイジンまで包囲されちゃった。残念なことに」
アモンガキッドはパチンと手前側に『玉将』を置く。
そして、その両側に『金将』を置き、金将の前にそれぞれ『飛車』『角行』を置く。
「これがおいちゃん達としよっか」
「玉将はともかく、他はどれが誰なの?」
「金将がピトっちとプフっち。飛車がユピっちで、角行がおいちゃんかな? まぁ、細かくはいいじゃない」
「まぁね。それで?」
「ぶっちゃけ、残念なことにおいちゃん達の陣営、残りの連中って『歩』に等しいんだよねぇ。まぁ、ビトルファン君が辛うじて『香車』って感じかな?」
「他の師団長達も『歩』? 人形兵がじゃなくて?」
「人形兵は残念ながら雑兵にもなってないねぇ。今もじゃんじゃんやられてるんでしょ?」
「うん。そろそろ考えないと選別に困るかもニャア」
「そうだねぇ。でだ、問題は敵さんさ」
アモンガキッドは反対側に『飛車』を置いた。
「まず、おいちゃんと戦って、レオル君やコローチェちゃんの部隊を壊滅した、あの女ハンター」
「そいつと一緒にいた奴は殺したらしいね」
本当は生きているが、あれから報告も確認もされていないのでネフェルピトー達は勘違いしたままである。
「それで、次にペイジンを包囲してる連中。こいつらの実力はまだ不明。まぁ、とりあえず『歩』にしとこうか」
『歩』の駒を6個纏めて並べる。
その後ろに『銀将』を置いた。
「それは?」
「司令官はいるだろうからねぇ。いきなり現れたのもあるし」
そして、銀将の隣に『桂馬』を置いた。
「これがヂートゥ君に念をかけた奴。おいちゃん達はこれだけしか知らない。しかも、『飛車』の彼女以外は実力が残念なくらい不明」
「んニャ~……」
「でも一番の問題は、あちらさんの玉将」
アモンガキッドは一番奥に『玉将』を置く。
「これが飛車の彼女なら、話は簡単だ。でも、おいちゃんの勘では残念ながら彼女は玉将じゃあない」
「まぁ、あれだけ動き回ってたらニャア」
「じゃあ、ペイジンを包囲してる奴らの中に? それも違うとおいちゃんは思う」
「なんで?」
「おいちゃん達はペイジンに『行けない』んじゃなくて『行かない』だけ。あちらさんだって、それを考えてないはずがない」
アモンガキッドは目の前の『玉将』を優しく撫でる。
「向こうの目標は間違いなく王。だから、向こうの『玉将』は王を倒せるか、封じることが出来る念能力者のはず。そんな切り札を無闇においちゃん達が出てくるかもしれない場所に出すわけがない。力を温存させるのが定石さ」
「うん、それは分かるよ」
あの王に勝てるかどうかはともかく。
お互いにそう思ったが、わざわざそれを口にすることはない。
「ここから考えられることは、敵さんがいつ本気で来るか」
「そんなの分かるの?」
「別に難しいことじゃない。おいちゃん達が一番来てほしくないって思うのはいつ?」
「……『選別』、だね」
「その通り。その時は残念ながら嫌でも敵が潜り込む隙が出来ちゃう可能性が高い。残念なことに、こっちの駒はどんどん減ってるしねぇ」
「ボク達が動かないといけなくなると……」
「そうしないと王が飛び出しかねないからねぇ。今はゲームで遊んでるからいいけど、『選別』中は王も見てるだろうから」
「ふむ……」
「だからと言って、ここでレオル君達を下げるわけにもいかないんだよねぇ。残念なことに」
「ここで敵をフリーにするのは無理だよニャア……」
「そうだね。少しでも敵さんにプレッシャーをかけて消耗させないとねぇ」
レオル達が負けるとしても、少しでも傷を負わせ、殺して貰わないといけない。
ただでさえ、敵がどれだけ忍び込んでいるのか分かっていないのだから。
「決戦は大会当日か前日。出来れば、それまでにあの女ハンターだけでも始末したいねぇ」
アモンガキッドはラミナを想定した『飛車』を手に取り、手で遊ぶ。
「多分なんだけどね?」
「ンニャ?」
「あちらさんの『玉将』は
「ハンター協会会長、ねぇ……。
「だっておいちゃん、ハンターの記憶持ってるから」
ネフェルピトーは僅かに目を丸くする。
「まぁ、正直記憶ッて言うより『記録』ってかんじだけどねぇ。ビゼフ君に外のことを聞いたら、NGLから散った兵隊蟻達の討伐と捕獲にハンター達が動き回ってるらしいよ。だから、王を確実に仕留めるためにハンター協会会長が出張ってくると思うんだよねぇ」
「ふぅん……。その会長さんは王とボク達全員を相手に出来るの?」
「流石に無理だと思うねぇ。それが出来るなら、NGLの時点で突っ込んできてると思うよ?」
ネフェルピトーはアモンガキッドが何を言いたいのか分からずに首を傾げる。
アモンガキッドはその姿に苦笑し、
「つまり、今暴れてる連中の狙いは、こっちの戦力を減らして、おいちゃん達護衛軍が出なきゃいけないようにしたいってことだねぇ。王からおいちゃん達を引き離したいのさ」
「なるほどニャア」
「それを踏まえた上で、どう動こうかねぇ……」
アモンガキッドは顎を手で撫でながら思案する。
ネフェルピトーは楽しみなのか、尻尾がうずうずと揺れていた。
「互いに互いを熟知した
「ん? 向こうもこっちを知ってるって何で分かるの?」
「残念なことに、兵隊蟻のほとんどは王に忠誠を誓ってるわけじゃないからねぇ。ハンターから逃げてきた連中ばっかりで、おいちゃん達を隠れ蓑にしてるだけだからねぇ。あの女相手じゃあ、殺されたくないからって色々と喋っちゃう子多いと思うんだよねぇ」
「あ~……兵隊長以下は馬鹿な子多いからねぇ」
「そういうこと。それにレオル君達の話だとコルト君は巣に残ったみたいだし、彼からも情報は聞き出しただろうからねぇ。だから、ハンター達は聞いたはずだよ? おいちゃん達護衛軍は王から離れることはないだろうってさ」
「その通りだと思うけど?」
「なら、護衛軍が出てきたらびっくりするだろうねぇ」
ネフェルピトーは今度ははっきりと目を丸くする。
「おいちゃん達は人間がやりそうなことを思いつくことが出来る。でも、残念ながら向こうはおいちゃん達が何をしでかすかは想像しきれない。何故なら、おいちゃん達は生まれから前代未聞だからねぇ」
人間サイズのキメラアントなんて前代未聞。人間を食べるキメラアントなんて前代未聞。人の言葉を話すキメラアントなんて前代未聞。人の記憶を持つキメラアントなんて前代未聞。念を使うキメラアントなんて前代未聞。
ここまでの全てがほぼ前代未聞。
そんな存在の思考を全て読むなんて不可能だ。
「レオル君が
独り言のように呟いたアモンガキッドは、苦汁を舐めさせられた女の顔を思い浮かべながら、『飛車』を握り潰した。
ペイジン。
ノヴを傍に控えさせながら単眼鏡を覗いていたラミナは、建物の屋上にある姿を見つけた。
「! モラウの進行方向に蟻1匹。……特徴からして、ヂートゥやろな」
ラミナの言葉に顔を鋭くするノヴ。
だが、ラミナはあることに気が付いてしまった。
「……なぁ、ナックルはヂートゥに憑けたポットクリンを解除したとか言うとったか?」
「いや、そんな報告は聞いていない。……いないのか?」
「見当たらへん。確か居場所分かるんやなかったか?」
ノヴはそれに答えずに、携帯を取り出してどこかに電話をかけ始める。
「……ナックルか? ヂートゥに憑けたポットクリン、どこにいるかまだ分かるか?」
ナックルにかけたと理解したラミナは、引き続きヂートゥの動きを監視する。
「……場所は宮殿付近。ここ数日は移動した様子はない、か……。分かった。……ポットクリンの反応は消えていない。位置は地図と照らし合わせた限りでは、宮殿付近だそうだ。少なくとも、ここ数日は大きく移動していない」
ノヴは電話を切って懐に仕舞いながらナックルから聞き出した情報を伝える。
それにラミナは顔を顰める。
「……流石に宮殿からペイジンまで移動すれば、ナックルも気づくやろ。やのに、反応はそのままで、ヂートゥはここにおるっちゅうことは……」
「宮殿に除念出来る者がいる……! 厄介なことになってきたか……」
「いや、そうとも言い切れへんでぇ」
ラミナはゆっくりと立ち上がりながら、ノヴの言葉を否定する。
その言葉にノヴは眉を顰める。
「どういう意味だ?」
「宮殿に反応があるっちゅうことは、敵の除念は恐らくオーソドックスな『抱える』タイプ。つまり、ナックルが死ぬ、または自分の意思で解除するか。もしくはヂートゥが死ぬか。このどれかが起こらん限り、除念師はナックルの能力を抱え続けることになる。っちゅうことは、アイツを捕らえることが出来れば……」
「除念師を無力化することが出来る、というわけですか」
「まぁ、モラウにそれだけの余裕があれば、やけどな」
ラミナは肩を竦めて、サングラスを取り出す。
「ノヴ、いっぺん引っ込みぃ。モラウはヂートゥで手一杯になるやろうから、うちが他の人形兵士や他の蟻共を狙うわ。今ペイジンにおるんはヂートゥだけやないし。多分、レオルはどっかで隠れて見とると思うんよ」
「……あなたが言っていた他者の能力を奪う能力、ですか」
「多分な。この手の能力は、相手の能力を実際に見るんが制約になっとることが多いでな。ヂートゥは考えるタイプちゃうみたいやし、当て馬には最適やろ」
そう言いながら、さりげなく単眼鏡を覗いて、モラウとヂートゥの様子を確認する。
すると、ヂートゥがモラウを殴ったかと思うと、突如モラウとヂートゥがオーラに包まれて、その場から姿を消した。
「!? モラウとヂートゥが消えた……!?」
「なんだと……!?」
ラミナは街に展開された【紫煙機兵隊】の様子を確認する。
「……周囲の【紫煙機兵隊】は動きは止まったけど消えとらんか……。ちっ……念空間に引き込むタイプか」
「モラウの人形達は消されない限り、命令通りに動くでしょうが……。問題は他の蟻にやられれば、モラウの能力がバレてしまう」
「それはもう諦めるしかないやろ。モラウの能力でバレたらあかんのは、煙管が能力発動の媒体やっちゅうことや。煙を操ること自体はバレても、対策される可能性は低い」
ラミナは単眼鏡をノヴに投げ渡しながら、サングラスをかける。
「ティルガ達はまだ出さんとってや。まずは覗き屋を仕留める」
「本当に1人でいいのですか? 獅子男の狙いはあなたの可能性が高い。手負いの獅子は、油断出来ませんよ?」
「いや、むしろあの獅子
「……何故?」
「
「……混ざり過ぎている?」
ノヴは眉を顰めて訝しむ。
ラミナは顔を向けずに、説明を続ける。
「NGLでうちらが手間取ったんは護衛軍の存在や【円】だけやない。連中の目的がはっきりしとったからや」
「目的……女王蟻への餌の供給、ですか」
「せや。けど、今のあいつらは打算で動いとる。さて、それは兵隊蟻の特性か? 獅子の本能? それとも――」
「人間の欲望か」
ラミナの言葉を先取りしたノヴに、ラミナは頷いて人指し指を立てる。
「兵隊蟻の特性が勝っとるなら、打算的に動く理由はない。ヂートゥと一緒にモラウを潰しに行くべきや。獅子の本能があるなら、腕を一本失くした状態でここに来るわけがない。とっとと逃げ出すべきや」
ラミナは話しながら中指を立て、最後に薬指を立てる。
「そんで、人間の欲望が勝っとるなら……ただの頭に血が昇っとる阿呆や」
ニィと口を吊り上げるラミナ。
ノヴは眼鏡を指で直しながら小さく笑う。
「身の丈も知らんクソガキを殺すんはいつでもええわ。あのモグラの方がよっぽど面倒やでな」
左手にハラディを具現化しながら言い放つラミナ。
「もっともっと苛立ってもらおうやないか。苛立てば苛立つほど、死神が首輪を嵌めにくるだけやでな」
「……もし、それで更に能力が進化したら?」
「んなもん、決まっとるやないか」
ラミナは肩を竦めて、姿を消しながら歩き出す。
「逆立ちしたなるほどの――暗殺時や」