暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
目指せ、年末決戦!
ラミナが単眼鏡でモラウ達が消えたのを確認した同じ時。
レオルもビルの陰からヂートゥとモラウが消えたのを確認していた。
(ヂートゥの能力が発動したな。結局詳しくは分からなかったが、これで8時間は戻って来ねぇ)
ヂートゥが「あのサングラスの相手は俺がする!」と宣言した時に、邪魔をしないためにと嘘をついて、どんな能力か訊きだそうとしたのだが……。
「スッゲェんだぜ!! 鬼ごっこするんだけどさ! 一度始めると8時間は遊べるんだ!」
と、ハイテンションで話すだけで要所要所しか分からなかったのだ。
とりあえず分かったのは、念空間にお互いを閉じ込めて8時間鬼ごっこするということ。
レオルは足に自信はないので、正直微妙な能力だと思った。
相手だけを閉じ込めるのであれば最高だったのだが、自分も閉じ込められたら意味はない。
(俺の【謝債発行機】は一度に1つの能力しかレンタル出来ねぇ……。そうじゃなかったら最高だったんだが……)
どこでも1対1になれる念空間ならば、自分の能力を見られずに済む。
だが、そうそう上手い話はない。
正直、レオルはこんな制約を造った覚えはなかったのだが、残念ながら自然とそうなってしまったのだ。
(だが、シャウアプフの話だと今後も成長すれば能力を改善することが出来るらしいからな。そうなれば、俺に敵はいねぇ!)
レオルは不敵な笑みを浮かべる。
だが、それにはそれ相応の努力と経験が必要で、何よりそれまでヂートゥが生きていることが絶対条件なのだが。
しかも、レオルの能力は回数制限付き。そこまで改善するにはキメラアントであろうとも数年レベルの修行が必要となることを、レオルは未だに理解していない。
教わっていないのだから当然ではあるのだが。
ラミナが聞いていれば、鼻で笑っていただろう。
クロロですら多くの制限に縛られているのだから。
『おい、モルモ。他の連中の動きはどうだ?』
『地上にいた連中は急に動きを止めたですます!』
『やはりあのサングラスが指揮官だったか……。他に動いてる奴は?』
『地上にはいないですます! でも、人形兵らしき者達が地面に落下してるですます! 動いてる敵がいるようですます!!』
『車で来た奴らか……。バジリャンから何か報告はあったか?』
『はっきりとは確認出来ていないようですますが、あの女らしき姿を見たそうですます!』
『っ!! あの女が来てるだとぉ!? どこだ!? どこにいる!!』
『動きが早すぎて追い切れないようですます!』
モルモの報告にレオルは舌打ちをする。
現在レオルの最優先事項は間違いなくラミナである。
レオルにとって幸運なことは、ネフェルピトー達もラミナの排除が優先事項になっていることだ。
なので、ここでラミナに標的を定めるのは決して間違いではない。
それがラミナの狙いでもあるのだが。
(だが、今の俺達じゃとてもじゃねぇが敵わねぇ)
しかし、レオルも馬鹿ではない。
怒り恨みを募らせていても、事実を受け入れる冷静さはまだあった。正確にはラミナに腕を斬り落とされたことが若干のトラウマになっているだけなのだが、レオルはまだその事実に気づいていない。本能で気づくのを恐れている。
(そもそもモルモもバジリャンも戦闘向きの兵隊蟻じゃねぇし、今更兵隊長をぶつけたくらいでどうにかなる相手でもねぇ……。かといって、俺も片腕を失くしたし、能力も見せちまった。あれだけでどんな能力までかは分からねぇだろうが、これ以上情報を渡すわけにはいかん……! 万全を期すには、師団長が最低でも後2人、駒がいる!)
レオルは顔を顰めて携帯を取り出して、ネフェルピトーに連絡し、応援を頼む。
ネフェルピトーは特に怒ることなく快諾し、ウェルフィンとブロヴーダを送ると言った。
レオルは礼を言って、通話を終える。
(これでここの戦力は最低限揃う。だが、問題はウェルフィン達が来るまでに、どう現状維持するかだな……)
絶対にモルモとバジリャンをやられるわけにはいかない。
この2体がやられたら、もうレオル達には索敵手段がなくなる。そうなるとウェルフィン達が到着しても、その戦力を十全に活かせず、恐らくレオルはネフェルピトー達に切り捨てられる。
(今はまだ攻め時じゃない……。一度退くか)
『モルモ、バジリャン。ウェルフィン達が応援に来る。それまでは前のように地下に潜れ。索敵は最低限で良い』
『了解ですます!』
『あはははは! 了解しましたー!』
レオルは2体に指示を出して、自身も地下へと向かう。
「首を洗って待ってろよ……! 必ず殺してやるからな……!」
ラミナへの憎悪を滾らせながら。
ラミナは【朧霞】で姿を隠したまま、空を見上げて眉を顰める。
(一雨来そうやな……)
いつの間にやら空は灰色で覆われていた。
更に夜になるにつれて、何一つ輝きの無い漆黒の空へと転じ始めている。
時折、ゴロゴロと鳴っていることから雷も落ちる可能性がある。
(降り方次第で【朧霞】が使えんくなるか。でも、雨音でモグラの索敵を妨害出来るかもしれんなぁ)
ラミナはビルを跳び移って、モラウとヂートゥが消えた場所に降り立った。
【凝】を使って現場を注意深く観察するも、残念ながらヂートゥの能力の痕跡は見つからなかった。
(完全に独立した念空間……。となると、下手に外から能力を解除したらどこに飛ばされるか分からんな……)
ラミナは小さく舌打ちする。
(それにしても……まさか念空間型の能力を創るたぁなぁ。あのスピード狂がそんな小難しいことを思いつくとは考えもせんかった)
ラミナがイカルゴから聞いている話では、シャウアプフの能力開発は暗示によるものだったはず。
つまり、ヂートゥはあの能力を創りたいと思うような情報があったということになる。イカルゴの言葉が正しければ、であるが。
(ネフェルピトーは『人形』。シャウアプフは『繭』。アモンガキッドは『念獣』。モントゥトゥユピーは不明やけど、話に聞いた性格上、ヂートゥ同様細かいことを考えるタイプやない。なら、師団長に似た能力者が? けど、それはヂートゥに真似したいと思わせるほど自分の能力を話したっちゅうことになる。可能性があるんはブロヴーダくらいやけど……)
あまり現実的ではない。
ならば、考えられる要因は
そこから推測出来る能力は、
(ナックルの【天上不知唯我独損】。それとモラウの【監獄ロック】か……)
ナックルの能力の詳細は知らなかったはずだ。
なので『殴られたこと』と『ポットクリン』が大きく影響してると考えられる。
モラウの【監獄ロック】は恐らく十全に走り回れなくされたストレスがあったからだろう。
(やとしても、奴の絶対の強みは『速さ』。それを無視するわけない……。つまり、全速力で走り回れる空間を創り出すことを目的にし、速さを活かす制約を組み込んどるはず……)
だが、いまいちラミナは自分の推察に確信が持てない。
何故なら、わざわざ念空間を創ってまでスピード勝負をする利点が少ないと思ってしまうからだ。
しかし、理由は至極単純だった。
ヂートゥはただ『思いっきり走れて、邪魔されない場所』が欲しかっただけなのだから。
そこにただ勝敗を決める能力を組み込んだだけ。
まだまだ穴だらけの未完成の能力なのだ。
(まぁ、モラウの能力なら問題ないやろ。どれくらいで帰ってくるか分からんけど、それならそれで考えればええし)
とりあえず、【紫煙機兵隊】は解除されず、接近する敵には防衛行動を行っている。
もうしばらくはバレずに時間稼ぎ出来るだろう。
すると、ラミナの頬に水滴を感じた。
空を見上げると、サングラスや頬に更に水滴が降り注いだ。
それは一気に勢いを増し、大雨と言えるほどの本降りになった。
「……さぁて……第二ステージやな」
【朧霞】を解除したラミナは、周囲の気配を探る。
「ウロチョロしとった奴も消えた。レオルの気配もまた潜りよったし……」
濡れて垂れてきた前髪を掻き上げながら、レオルの狙いを推測する。
「ま、考えるまでもないけどな。増援の到着待ちと【紫煙機兵隊】の動きの確認やろうな」
ラミナはニヤリと嗤い、
「あの猫男、随分とビビっとるみたいやなぁ。そぉんなにモグラを殺されたないんか? そぉんなに1人でうちに挑むんが怖いんか?」
レオルの本心を見抜いたラミナは、地面に下り立ってあちこちに倒れている人形兵の身体をまさぐり、銃器やら手榴弾やらを回収する。
更にまだ活動中の人形兵達も無力化しながら装備を色々と回収していく。
そして、2時間後。
レオル達が逃げ込んだであろう地下への入り口の前に立つ。
地面を確認すると、明らかに人のモノではない足跡が複数確認出来た。
ここに潜んだことを確認したラミナは、大きく息を吸いこんで、
「おぉい、獅子男ぉ!! 随分と穴倉が好きなんやなぁ!! もうライオンやなくて、スナネコって名乗ったらどないやぁ!? うちの喉噛み千切るとか言っとったのに、随分と逃げ隠れしとるやないか!! そんなにうちが怖いんかぁ!? そんな臆病な蟻、初めて見たわぁ!!」
と、大声でレオルを挑発した。
反響が消えた直後、凄まじい殺気が奥から噴き出してきた。
「ゥオオオオオオオオオオオオオ!!!」
更にレオルの咆哮が轟く。
ラミナはそれらを涼しい顔で受け流し、
ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!!!!
両脇に構えたマシンガン2丁を地下道に向けて連射した。
連射しながら地下道を下り始め、時々銃弾を床や壁に打ち込む。
ラミナの足音は【暗歩】で全く聞こえないと言うレベルで小さいので、恐らくモルモには銃弾の方が響き、ラミナの足音はまともに把握できないはずだと考えていた。
途中で足を止めてマガジンを交換し、連射を続けながら進軍する。
レオルの殺気は衰えるどころか増しているのだが、気配は動いていないようだった。
待ち構えて、決着をつけることにしたのだろうと推測したラミナは、口端を吊り上げる。
連射を止めたラミナは両手の機関銃を放り投げ、手榴弾を十数個ほど取り出してお手玉を始める。
そして、高速で両腕を動かして全手榴弾のピンを外し、更に高速で両腕を振るい、地下道の奥に全て投げ放つ。
「ド阿呆。誰が獣臭い穴に入るかいな」
意地の悪い笑みを浮かべたまま言い放ち、身を翻して来た道を戻り始めるラミナ。
十数個に及ぶ手榴弾の群れは、地下道の奥に吸い込まれるように転がっていき、
一気に炸裂した。
地上を揺るがすほどの大爆発。
地下道中に爆炎と衝撃波が雪崩のように流れる。
ラミナが地下道から飛び出して、真上に全力で跳び上がった。
その真下を爆炎と爆煙が勢いよく噴き出し、地下道の入り口が吹き飛んだ。
「お~。思たより威力あったなぁ」
すぐ近くのビルの屋上に降り立ったラミナは、モウモウと煙が立ち上がる地下道の入り口を見下ろしながら呟いた。
すると、その横にノヴが降り立ち、呆れたような雰囲気を醸し出しながら眼鏡を直す。
「ペイジンに穴を開ける気ですか……」
「あの程度で崩れ落ちる造りやないやろ。防空壕らしいしな、あそこ」
「……はぁ。それで、仕留めたのですか?」
「んなわけあるかい。向こうにはモグラもおるでな。ただの嫌がらせや、嫌がらせ。えぇ感じに苛立っとるでぇ~、あの猫」
「……はぁ」
ノヴは再びため息を吐くも、すぐに表情を鋭くする。
「ブラールが宮殿から2体の蟻が出てきたのを確認した。ティルガとメレオロンが確認したところ、師団長のウェルフィンとブロヴーダだそうだ」
「ほぉ~……師団長だけかいな。こらいよいよ敵さんの手駒は尽きてきたみたいやな」
「そして、護衛軍は手駒を使い果たしても、王の傍を離れる気はない……」
「ブラールには宮殿に近づき過ぎんように言うときや。下手に見つかってしもたら、メレオロンとお前が忍び込む隙が作りにくくなってまうでな」
「ええ、分かってますよ」
「モラウの方は?」
「まだ姿は見えません」
「さよで。まぁ、しゃあないか。……とりあえず、応援の師団長は何もせずにペイジンに入れるでな」
ラミナは鬱陶し気に前髪を掻き上げながら告げる。
ラミナ達の狙いは宮殿に侵入する隙を作ること。
宮殿から戦力をここに誘い出せれば、それだけ潜入しやすくなる。
同時にここで仕留めることが出来れば、作戦当日の成功率が更に上がる。
「理想は奴らが到着する前に、モラウが復帰してモグラを殺す事やけど……」
「流石にそう上手くはいかないでしょう」
「やな。とりあえず、嫌がらせ続けるとしよか! というわけで、しばらく無視!」
ラミナは地下道の入り口に背を向けて歩き出す。
ノヴも足元に入り口を開いて、身体を沈める。
その後、ラミナは再び人形兵の討伐に集中し、レオル達のことは気配を探るだけでちょっかいをかけることはしなかった。
だが、レオル達は地下道から未だに出てくる様子はなく、入り口付近でバジリャンが顔を覗かせて周囲を確認しているだけだった。
(飛び出してくる思てたんやけどなぁ。逆にキレ過ぎて冷静になったか? ……いや、あいつはそんなタイプちゃうと思うんやけどなぁ)
ラミナは顎を擦りながら訝しむ。
(……なぁ~んか嫌な感じやなぁ)
根拠はない。
(
現状が。
互いに時間稼ぎをしたいのだから、当然とも言える。
だが、あまりにも状況が
有利でもなければ、不利でもない。
勝てる確信もなければ、負ける気配もない。
NGLに来てから今まで、まともに想定通りに相手が動くことなどないに等しかった。
何故なら相手は前代未聞の新種なのだから。
なのに、あまりにも普通だ。
ラミナはそれがあまりにも気持ち悪く感じた。
(……
どこから普通になっていた?
どこから想定通りに動くようになっていた?
――ペイジンを包囲してからだ。
では、この場合、最も起きて欲しくないパターンは?
王が来ること。
(いや、それは流石に非現実的や。それなら今、王が現れんのはおかしい)
なら、次点。
護衛軍と師団長、全員が来ること。
(それもありえへん)
では次。
護衛軍が全員来ること。
(それもありえへん。すでに師団長のほとんどが、ペイジンに来とる。やとしたら、その次……
ありえない。――いいや、十分ありえる。
むしろ、何故来ないと思っていたのか。
(うちらが知っとるキメラアントの特性やない。けど、今うちらが戦っとるんは、うちらが知らんキメラアント。確かにこれまで護衛軍は常識内の行動しかしてへんかった。けど、
向こうは人間と同等以上に思考出来る生き物だ。
ならば、すでにこちらの狙いを看破されている可能性がある。
そして、それは……。
決して低い数字じゃない。
(動かされとる。向こうの狙い通りに……!)
根拠はない。ただの勘だ。
だが、ラミナにはそれで十分だった。
(護衛軍が来るとするなら誰や? ……アモンガキッド、やな。もし来るなら……ペイジンにおる師団長が死ぬか、増援の師団長が到着したすぐ後)
来てほしくないタイミングを考えるラミナ。
(増援が来た直後やったら最悪やな。モラウがおらんかったら、うちとティルガ、ブラールだけでアモンガキッドとレオル達師団長を一度に相手にせんといかん……。流石にアモンガキッドまでおったら、師団長まで相手にしてられへん……)
ティルガとブラールだけでは3人もの師団長を相手にするのは流石にまだ厳しいと言わざるを得ない。
(けど、ノヴとメレオロンにとっちゃあ最高の潜入タイミングや。時間を稼げるかどうかは、横に置いとけば、やけどな)
厄介なのは増援の師団長を先に仕留めても意味がない事だ。
逆にそれを理由にして、アモンガキッドが出しゃばってくるに決まっている。
それならレオル達だけなので、ティルガでもいけるかもしれないがかなりの賭けであることは変わらない。
(ナックル達を呼ぶか……? いや、それでナックルがやられたら目も当てられん。やっぱりモラウに帰って来てもらうんが最善やな)
だが、こちらからモラウを呼び戻す術はない。
(結局運頼み、か。タイムリミットは最大4時間っちゅうところか)
ウェルフィン達が到着するまで、後1時間ほどだろう。
到着して少し様子を見て、こっちに来ると推測するラミナ。
(それまでにモラウが戻れば、この一局はうちらの勝ち。ただし……うちとモラウはここでリタイヤの可能性が高い)
だが、もはやこの局面は終盤だ。
今更打つ手を変える時間も駒もない。
あるとすれば『投了』のみ。
つまり、ペイジンの放棄。
それもアリだが、間違いなく今後の作戦に大きく支障が出る。
ここが
そして、ラミナにとっては、ここが最大の正念場と言える。
(ここでアモンガキッドを仕留めれば……連中は間違いなく大混乱に陥るはず。『選別』の予定も狂わせることが出来るかもしれん)
十分勝負に出る価値はある。
「先手は取られた。けど、そう簡単にチェックメイトは言わせへんでぇ。人間舐めんなや」
ラミナはもはやレオルのことなど、頭の片隅にも残していなかった。
ラミナとアモンガキッド。
どちらが指し手として優秀か。
判明するまで、あと数時間。