暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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ティルガさんについて(今更)

以前『ティルガさんは雄だと思ってた……』と言われたことで。
私自身も『まぁ、あの話し方と性格だしなw』と思っていたのですが。

違いました。私の伝え方が悪かったんです(__)

そう。こう伝えれば早かったんだ。

ティルガさんは……


性格&雰囲気:ティア・ハリベル(CV:緒方恵美)


だと。

○uluでBLEACHが再配信されてたので久しぶりに見て衝撃を受けましたw

そうなんですよ。
ティルガはティア・ハリベル(見た目虎娘)だったんですw


#131 ショウネンバ×ハ×トツゼンニ

 モラウが消えてから4時間が経過した。

 

 人形兵を潰しながらレオル達の動向に注意していたラミナの携帯にノヴから『増援が到着した』とメールが届いた。

 

 一度様子を窺うため、ラミナはレオル達が潜んでいる地下道入り口近くのビルから離れた。

 

 メールに記載されていた場所に移動したラミナは、待っていたノヴと共に【4次元マンション】に入る。

 

「獅子男達の動きは?」

 

「特に変化なしや。多分、応援に来た連中と落ち合うつもりやろな」

 

「……やはり、やり過ぎたのでは?」

 

「それはないやろ。あの時の叫びは間違いなくマジ切れやった。爆弾放り込まれたくらいで冷めるもんちゃう。となると……冷めざるを得ん何かが起こったと考えるべきやな」

 

「……その何かとは?」

 

「切れたことで突っ込んで、あの爆発に巻き込まれて動けんくなったか。……モグラの方がやられたか」

 

 ラミナの言葉にノヴやティルガ達も考え込む。

 

 だが、その時。

 

「む? ……モラウとヂートゥが戻ってきたようだ」

 

 ティルガがブラールに顔を向けて、念話の内容を伝える。

 

 それにノヴが携帯を取り出す。

 

「ノヴ。モラウ迎えに行くついで、()()()()持ってきてんか?」

 

「……アレを、ですか?」

 

「おう。多分、()()()()使()()

 

 多分と言っておきながら、その言い方はあまりにも確信的だった。

 それにノヴはそれ以上訊かずに頷いた。

 

 そして、ノヴはモラウに連絡を取りながら、ドアを出て行った。

 

 ラミナはそれを見送ることなく、ティルガ、ブラール、そしてメレオロンに顔を向ける。

 

「お前らも体、解しときや」

 

「……我とブラールだけでなく、メレオロンも、か?」

 

「うちの予想が正しかったら、数時間のうちに潜入のチャンスが来る。そん時は、総力戦になるで」

 

「……承知した」

 

「あいよ」 

 

 ラミナの言葉にティルガ達は頷いて、それぞれに戦う準備を始めた。

 

 ラミナは部屋に置かれていた飲み物と携帯食を口にする。

 

 10分ほどすると、モラウとトランクを手にしたノヴが天井から落ちてきた。

 

「よぅ。悪かったな」

 

「まぁ、しゃあないやろ。んで? ヂートゥは?」

 

「逃げたよ。どうやら、奴の能力は一度破られるともう使えねぇ制約だったらしくてな」

 

「なるほどなぁ。それで能力の強化しとったわけか」

 

「発展途上だったってのもあるし、奴が馬鹿で能力を使いこなせてなかったから脱出出来たがな。他の師団長だったらヤバかったぜ」

 

「ふぅん……」

 

「で、奴は『またシャウ様に新しい能力を貰う』って言って宮殿に帰っていったぜ」

 

 モラウは肩を竦め、ラミナ同様飲み物を手に取る。

 

 ラミナは眉を顰める。

 

「それはそれで面倒やけど……。まぁ、ヂートゥを殺せば除念能力持ちがフリーになりかねんし、能力を創るために2,3日は動けんくなるやろうから、今は放置でええか」

 

「だな。それにあの頭の悪さは情報を引き出すにはもってこいだ」

 

「まぁ、次に会う時に欲しい情報があればええけどな。んで……まだ殺し合う余力はあるか?」

 

 モラウの状態を見極めるように目を細めて訊ねるラミナに、モラウは不敵な笑みを浮かべる。

 

「ったりめぇよ! 出るのに時間はかかっちまったが、そこまで消耗するような戦いでもなかったからな」

 

 モラウの言葉に嘘はないと理解したラミナは頷いて、ノヴに顔を向ける。

 

 ノヴは眼鏡を直しながら、持っていたトランクを差し出す。

 ラミナをそれを受け取ると、

 

「ノヴ、ペイジンの地図。作戦詰めるで」

 

「分かりました」

 

「モラウ、ちょいと訊きたいことあんねんけど」

 

「なんだ?」

 

 携帯食を食べているモラウを呼び寄せたラミナは、考えていた作戦をモラウに説明する。 

 

 話を聞いたモラウは腕を組んで眉間に皺を寄せて唸る。

 

「……出来ないことはねぇ。いや、まず出来る。だが、そこまでする必要性はあるのか?」

 

「あるから訊いとんねん。理由はこれから作戦詰めながら、説明するわ」

 

 モラウは未だに疑問視していたが、ノヴが地図を床に広げ、ラミナやティルガ達が集まったのを見て、その疑問を一度頭の隅に押し込む。

 

 

 もっとも、すぐに疑問は解消されることになるだが。

 

 

 

 

 

 

 ウェルフィンとブロヴーダは、バジリャンからの念話に導かれて地下道へとやってきていた。

 

 2体は地下道の一室に足を踏み入れ、盛大に顔を顰めて片腕を失っているレオルと壁際でぐったりしているモルモを見て、僅かに目を丸くする。

 

「おいおい……ボロボロじゃねぇか。大丈夫か?」

 

「途中道が崩れてたけど、爆弾でも放り込まれたのか?」

 

「……ああ。あの女、ピトー殿の人形から手榴弾を奪って、ここに放り込みやがってな。その爆音でモルモの耳が少しやられちまった」

 

 モルモの探査能力はソナーに近い。地中に響く振動や音波を、音として感知し、位置を把握しているのだ。

 

 だが、モルモは蝙蝠やイルカのように、生来音波を利用する生物が混ざったキメラアントではない。

 そのため探査中は地中に潜って、ソナーに集中する必要があるのだが、それが今回裏目に出てしまった。

 

 普通の地上であったならば、爆発しようとも多少耳が痛むくらいで済むのだが、地下道であったせいで爆発による爆音波と衝撃波による振動が、半端ないレベルでモルモに襲い掛かったのだ。

 しかも爆発したのはモルモのすぐ近くであったことも、想像以上のダメージを受けた要因でもある。

 

「ん? おい、待て。モルモが動けねぇってことは、敵がどこにいるか分からねぇってことか?」

 

「いや、完全に動けないわけじゃねぇ。ある程度近づけば把握できる。だが、俺とバジリャンだけじゃモルモを守り切れねぇと思ってな。お前らを待ってたんだよ」

 

 ウェルフィンの疑問に、レオルは怒りを全力で抑え込みながらも正直に話す。

 

 それだけレオルは追い込まれていた。

 己がラミナに良い様に挑発されていたことはすでに気づいている。だが、やり返したくてもやり返す余裕はもうなかった。

 

 ラミナが待ち構えていることは嫌でも理解させられたのだから。

 

 どんな手を使っても殺したい。

 だが、その『どんな手』がレオルの頭の中にはなかった。

 

 自分がモルモの探査能力をレンタルしても意味はない。

 

 足が速いわけでもないし、もう空を飛ぶ術もない。

 

 バジリャンを囮にするという案は浮かんだが、いくらバジリャンでも囮にされたことは気づくだろう。言うことを聞くとは思えない。

 

 つまり、今のレオルには安全に地下道を出る術がなかった。

 

 だから、屈辱と怒りに耐えて、耐えて、耐え続けてウェルフィン達が来るのを待ったのだ。

 

 

 そして今、ようやく耐える時間が終わった。

 

 

 レオルはゆったりと立ち上がって、血走った目を限界まで開く。

 

 

「さぁ……反撃の時だ!!」

 

 

 百獣の王に返り咲くために。

 

 己の(プライド)を踏み躙った獲物を噛み千切るために。

 

 己が強者となるために。

 

 しかし、結局レオルは最後まで気づかない。

 

 

 今いる戦場は、百獣の王程度では太刀打ち出来ないことを。

 

 

 

 

 

 

 雨のペイジン。

 

 モラウは【紫煙機兵隊】を率いながら、再びペイジンを駆け回っていた。

 

 周囲にラミナやティルガ達の姿はない。

 

 モラウ達は人形兵を数体倒した後、ビルの屋上で足を止めた。

 

 その数分後。

 

 

 モラウ達の前にレオル達が現れた。

 

 

「……よぉ」

 

「誰かと思えば、ネバスカの獅子男か。随分と惨めな格好に成り果てたもんだ」 

 

「っ! ……ふん、いい加減お互いに様子見も飽きてきただろ? そろそろ決着を付けようぜ」

 

 レオルは一瞬顔を顰めるも、すぐに不敵な笑みを浮かべてモラウに声をかける。もっともこめかみがピクついていたが。

 

 モラウはそれに笑い返す。

 

(苛立っちゃあいるが、仲間が来たおかげか挑発だと理解するクールさはあるみてぇだな。だが、それも結局脆い板で堰き止めた程度……。数回突けば簡単に決壊しそうだなぁオイ)

 

「こっちは別にもう少し遊んでても構わないぜ? さっきのヂートゥって奴と一緒に、逃げ帰って、傷を治してきたらどうだ?」 

 

 逃げ帰るという部分を強調して、再び挑発するモラウ。

 

 レオルのこめかみが大きくピクついたが、レオルの表情は変わらなかった。

 

「……俺様は優しいんだ。お前程度ならこれで丁度いいハンデだぜ」

 

「ほぉ~。つまり、お前さんは俺と一対一で戦うってわけか?」

 

「俺様は自分の戦いに横槍を入れられるのが嫌いでな。後ろの奴らは、あのいけ好かねぇ女と周りの雑魚共を相手させる」

 

「なるほどねぇ……」

 

 モラウは煙管を右肩に担ぎながら、左手で顎を擦る。

 

(こいつ……自分じゃラミナに勝てる自信なくしてやがるな? 他の奴に相手をさせて、自分は倒せる可能性がある俺を狙って、手柄を立てるってか? なるほど……。ラミナが猫って言うわけだ)

 

 援軍が来た瞬間に飛び出して来て、追い詰められたことを必死に強がって隠し、強気で前に出ながら最後の最後で保身を考える。

 

 

(コイツ、超小物)

 

 

 モラウは大笑いしたくなる衝動を全力で堪える。

 

(……だが、油断は出来ねぇ。思考はともかく、俺の見立てじゃあコイツはヂートゥと同程度……いや、ちょっと上か)

 

 レオルはヂートゥよりも先に能力を創っている。

 その分練度は上のはず。

 

(だが、すでに奴の能力はラミナが見破った。問題はその事実に奴が気付いているかどうかだが……今の感じじゃあ気付いて無さそうだな)

 

 一対一で戦うと言ったのがその証拠。

 自分の能力を周囲に見られたくないと考えている。

 

(ま、俺もラミナに能力の事を聞いてなかったら、あいつの言ったことを半分くらいは信じてただろうがな)

 

 モラウはフゥーと口から煙を噴き出す。

 

 煙はモラウの周囲をゆったりと漂い始める。

 

 それにウェルフィンとブロヴーダは僅かに身構えるが、

 

「ヂートゥから聞いてるぜ? そいつを色んなもんに変えられるらしいじゃねぇか」

 

 レオルは余裕を()()()、モラウの能力を知っていることを告げる。

 

(俺の能力を知ってることを教えてビビらせようってか? 甘ぇんだよ)

 

 その程度でビビるなら、こんな使い方をしていない。

 知られても勝つ自信があるからこそ、モラウはこの能力を信頼しているのだ。

 

「そいつは怖ぇなぁ。でも、俺も聞いてるぜ? お前さんの能力」

 

「……はっ。そりゃ、怖ぇな」

 

 レオルは何とか強気に返したが、僅かに反応が遅れた。

 

 もちろん、モラウはその理由を知っているので、ただただ不敵に笑うだけ。

 

 もし雨が降っていなければ、今頃レオルは冷や汗が噴き出しているのが全員にバレていただろう。

 それほどにレオルの内心は疑心暗鬼に襲われていた。

 

 

 ありえない。

 

 あの程度でバレているはずがない。

 

 きっとあの飛行能力についてという意味だ。

 

 ……だが、もし本当にバレていたら?

 

 いや、だとしても条件まではバレていないはず。

 

 ……本当に? 似た能力を持つ奴なら同じ条件を持つ可能性はあるのではないか?

 

 それをあの女が知っていたとしたら?

 

 バレている可能性がある。

 

 ということは、対処法も実は広まっているのではないか?

 

 このまま戦って本当に大丈夫なのか?

 

 

 どんどん思考の渦に呑み込まれていくレオル。

 

(いや!! はったりだ!! 俺の能力がバレてるわけがねぇ!! 仮にバレていたとしても、俺がどんな能力を保有しているかは絶対に知りようがねぇ!! 俺が有利なのは変わらねぇんだよ!!)

 

 レオルはそう己に言い聞かせて、このまま勝負に出ることにした

 

「なら、やっぱ決着つけとかねぇとなぁ。あんまり広めたくねぇんだよ。そういうもんなんだろ? 念ってのはよ」

 

「さぁ、どうだろうなぁ」

 

「ふん。ふてぶてしい野郎だ。ウェルフィン、ブロヴーダ。分かってんだろうな?」

 

「分かってるよ」

 

「ホントにお前一人でいいのか?」

 

 ブロヴーダとウェルフィンは頷きながらも、一応レオルを心配する。

 ここでレオルが失敗すれば、自分達にも何かしら被害が及びかねないというのが本音だが。

 

 レオルはその言葉を「フン」と鼻であしらい、戦いを始めようとした、その時。

 

 

 

「雰囲気を壊しちゃって残念だけどねぇ。お邪魔するよぉ」

 

 

 

 突如響いた声に、レオル達は目を限界まで見開いて弾かれたように振り返り、モラウも顔を引き締める。

 

 

 アモンガキッドが、そこにいた。

 

 

 絶対に王の傍から離れないであろうと、レオル達ですら考えていた化け物が。

 

 仲間のはずなのに、今にも喰い千切られるところを想像してしまう理解できない存在が。

 

 

 そこにいた。

 

 

 それだけで、レオルは考えていた結末が完全に崩壊したことを本能で理解した。

 

 

 もう、この戦場にはレオルの意思で動かせる者は、自身を含めていないのだと。

 

 誰もがアモンガキッドを意識せずにはいられないのだから。

 

 アモンガキッドは猫背のままゆったりとレオルの横に歩み寄って、モラウの前に立つ。

 

「やぁやぁ、NGL以来かねぇ。それとも初めましての方がいいかい? あの時、君は彼女を助けるために姿を見せなかったからねぇ」

 

「……好きな方で、構わねぇよ」

 

「あらら……ちょっと冷たいんじゃないの? 残念だねぇ。ところで、あの女ハンターちゃんはいないの? 久しぶりに会いたかったんだけどなぁ、残念残念」

 

(……マジかよ!)

 

 モラウは全力で表情筋に働きかけ、表情が歪みそうになるのを堪えていた。

  

「ア、アモンガキッド殿……! な、何故、ここに……」 

 

「いやねぇ……残念なことにちょっと苦戦してるみたいだからさ。王様が飛び出さないように気を使うのも大変じゃない? だから、手伝ってあげようと思ってさ」

 

 全く喜べない。

 特にウェルフィンとブロヴーダは何のために来たのか意味が分からなくなっていた。

 

(どうやって、ここに来た? ブラールの梟にも気付かれずに近づいたってことは、コイツも姿を隠したり、瞬間移動みたいな能力を持ってんのか?)

 

 モラウはアモンガキッドが現れた理由も気になるが、そもそもどうやって来たのかに思考を向ける。

 既に現れた以上に、そのことに何故と考えることにあまり意味はない。だが、誰にも気付かれずに現れた手段については、考えておかないと不意を突かれる可能性がある。

 

 もし、本当に姿を消したり、瞬間移動できるのであれば、今まで考えてきた作戦が根底から覆るのだから。

 

「ところで……どうやってこちらに?」

 

 すると、ありがたいことにウェルフィンがアモンガキッドに質問した。

 

「ん? どうやってって……おいちゃんの念獣に運んでもらっただけだよ。雨雲ギリギリまで上がってねぇ」

 

 アモンガキッドはあっさりと、上を指差しながらペイジンに来た方法を語った。

 

 モラウはそれに内心で納得して、ホッとした。

 もちろん、嘘の可能性はあるが、モラウの経験から今の言い方は嘘ではないと思ったのだ。

 

 十分厄介なのは変わらないが。

 

(さて……すでに俺の周りは奴さんの念獣で囲まれてると考えるべきだな……)

 

 先ほどまではレオルの動揺を隠してくれていた雨は、今はモラウにも味方してくれていた。

 

 流石に軍団長1体と師団長3体に睨まれているこの状況は絶望的にも程があった。

 

 正直、冷や汗が止まらない。

 

 

 だが、ここで逃げるという選択肢はない。

 

 

 モラウは煙管を数回振り回して、振り被る姿勢で構える。

 

 それを見たレオル達も身構え、アモンガキッドは特に構えることなく布で覆われた顔をモラウに向ける。

 

「……ふぅん。一度逃げると思ってたんだけどねぇ。流石はハンターさん。残念だねぇ」

 

「逃げる? 何故?」

 

「自分で言うのもなんだけどねぇ。流石にこの状況は厳しいんじゃないかい?」

  

「はっ!」

 

 モラウはアモンガキッドの言葉を鼻で笑う。

 

「お前さん、海を知らねぇだろ?」

 

「海ぃ?」

 

「海って生き物はなぁ、何度も顔を変えやがる。穏やかな顔、無表情な顔、笑ってる顔、怒った顔ってな。しかも、その感情に法則はねぇ。穏やかだと思ってたら、急に怒り狂う。笑ってると思ったら、急に無表情になって、大泣きする」

 

 モラウの突然の海語りにアモンガキッド達は訝しむ。

 

「俺は海で生きてきた。海の突然の荒波や嵐に比べりゃあ、この程度のピンチ、鼻唄歌いながら乗り切れるってぇもんさ」

 

 モラウは不敵に笑って宣う。

 

 それにレオルやウェルフィン達は顔を顰めるが、アモンガキッドはむしろ感心していた。

 

「凄いねぇ。怖い怖い(強がりってわけじゃなさそうだねぇ……。どうにかなる根拠があるってことかな?)」

 

 アモンガキッドが更にモラウを観察しようとした、その時。

 

 モラウが勢いよく息を吸い込み、そして勢いよく煙を吹き出した。

 

 それと同時に周囲の建物の陰から大量の【紫煙機兵隊】が飛び出し、アモンガキッド達に襲い掛かった。

 

 レオル達が討伐に動こうとしたが、アモンガキッドが手で制止する。

 

 

「動くと食べちゃうよ」

 

 

 その言葉の直後、口だけ念獣が大量に出現して【紫煙機兵隊】に襲い掛かる。

 

 あっという間に【紫煙機兵隊】は数を減らされてしまう。

 

 

 しかし、1体だけ念獣の猛攻をすり抜けて、アモンガキッドへと迫る。

 

 

「おぉ、やるねぇ」

 

 アモンガキッドは特に慌てることなく、迫る【紫煙機兵隊】を見つめていた。

 

 【紫煙機兵隊】に攻撃力がないことをすでに見切っていたからだ。

 

 レオル達もそれを感じ取っていたので、特にアモンガキッドを庇おうとはしなかった。

 

 

 キメラアント達の動きを見て、モラウは――。

 

 

 口を三日月に釣り上げた。

 

 

 直後、もうアモンガキッドの目の前まで迫った【紫煙機兵隊】が。

 

 

 

 両手に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 アモンガキッドがそれを理解した時には、

 

 

 【紫煙機兵隊】が爆散して、剣を振り始めた全身銀色に輝く衣装に身を包んだ何者かが、そこにいた。

 

 

 そして、レオル達が気付いた時には、アモンガキッドは左肩や左上腕、右脇腹などに傷を作りながら横に飛び退いており、銀色の人物は両手の剣を振り下ろした後だった。

 

 しかし、銀色の人物はそこで動きを止めなかった。

 

 両手の剣が消えたかと思うと、両手に鉤爪付きのグローブが出現する。

 

 それにアモンガキッドが動こうとしたが何故か動きを止め、念獣達が襲い掛かろうとしたら煙が行く手を遮った。

 

 更にウェルフィンとブロヴーダの周りにも煙が覆い始め、レオルには【紫煙機兵隊】の生き残りが襲い掛かる。

 

 レオルは煙から逃れようとビルから飛び降り、ウェルフィンとブロヴーダは何も出来ずに煙のドームに閉じ込められた。

 

 

 そして、アモンガキッドは全身に念の糸を巻き付けられたかと思うと、勢いよく振り回されて思い切り放り投げられた。

 

 

 銀色の人物は飛んで行ったアモンガキッドを追いかける。

 

 アモンガキッドは途中で体を縛る念の糸が消えたかと思うと、髪の毛を蛇に変えて伸ばし、ビルの縁に噛みついてブレーキをかける。

 そして、ゆっくりと地面へと下り立ち、髪を元に戻す。

 

 それと同時に銀色の人物が10mほど前に下り立った。

 

「……いやぁ~、ホントに、驚いたねぇ。ホントに……やられたよぉ。超残念なくらい、してやられたねぇ」

 

「ふん、嫌味かクソ蛇。あんだけ完璧なタイミングやった攻撃を、掠り傷で済まされるて何やねん」

 

 アモンガキッドの言葉に、その人物は苛立たし気に答えながら銀色の覆面を脱ぎ捨てる。

 

 その正体はもちろん、ラミナであった。

 

「いやいや、残念ながら運が良かっただけさ。一応、煙人形の攻撃に備えてたから反射的に動けたってだけ。殺気はもちろん、気配もオーラも()()感じ取れなかったよ。……その服が原因かな?」

 

「せやで。NGLで戦うた後に造らせた特注品や。ま、ただのアルミでコーティングしただけなんやけどな」

 

 ラミナは上着を脱ぎ捨ててタンクトップ姿になり、ズボンと靴はアルミ部分だけを引き剥がした。

  

「蛇のピット器官は赤外線。やから、ただ赤外線を反射するもんで身を包んだだけのこっちゃ」

 

「……だけにしては、随分と手が込んでたじゃないの。()()()()()()()()()なんてさ」

 

 そう、ラミナは【紫煙機兵隊】の中にずっと潜んでいたのだ。

 

「しゃあないやろ。ああでもせんと、目立ってしゃあないからな。それに、赤外線を弾けても、普通に見えるし、臭いまでは消せへんでな」

 

 ウェルフィンがいるのが一番厄介だった。

 

 だから、モラウが帰って来なければ絶対に使えない作戦だったのだが、ギリギリで帰ってきてくれた。

 

「煙で覆えば、姿も隠せて、臭いも誤魔化せる。後は【陰】で気配を隠せば、準備は完了」

 

「……まるでおいちゃんが来るのが分かってたみたいだねぇ」

 

「ああ、予想しとったで? うちらが一番来て欲しないタイミングを狙うやろうってな。お前、蛇やし。舌をチロチロさせながら、音もなく忍び寄ってくる思とったわ。やから……お前が出て来たなるシチュエーションを作ればええだけのこっちゃ」

 

 最終的にラミナが考え抜いた最も来てほしくないタイミングは『師団長との決戦時』だった。

 

 流石に戦闘中となれば、嫌でも目の前の相手に集中せざるを得ない。相手が師団長クラスであれば尚更だ。

 

 そこで護衛軍が出てくれば、絶対に後手に回り、隙が出来てしまう。

 

 

 故にラミナ達は『アモンガキッドは来る』と決めつけて準備した。

 

 

 ただそれだけのことだった。

 

「……」

 

「まさかとは思うけど……お前、うちがあの戦いから何も備えとらんと、本気で思てたんか? 暗殺者のうちが? 殺し損ねた相手の対策を1個も用意せんと思てたんか?」

 

 ラミナは首や肩をゴキゴキと鳴らして解しながら宣う。

 

「それとも何や? 兵隊長以上のキメラアントには銃器効かへんかったから、念能力だけで勝負してくると思てたんか? アホか。そこまで人間自惚れてへんし、そこまで人間未熟でもないわ。お前らの能力を無効化する技術なんざ、いくらでもあるっちゅうねん」

 

 ただ普段は持ち運べないだけだ。

 

 だが、今回はノヴという『移動倉庫』がいた。

 だから用意した。それだけのことなのだ。

 

「さて……そろそろ始めよか。そっちも()()()()()()()()()、把握しとるやろ?」

 

「あらら……やっぱりバレてるのね……」

 

「そらぁうちの能力のせいやしな。上手いこと手足が動かされへんやろ?」

 

 【矛盾する心身】で一度斬りつけたことによって、今アモンガキッドの四肢の動きは逆様になっていた。

 

「まぁねぇ。これは……ちょっと本気でやらないとダメかもねぇ」

 

 そう呟いたアモンガキッドの髪が突如異常なほど伸びて、腰から下を包み込んでいく。

 目を細めたラミナはブロードソードとレイピアを具現化する。

 

 アモンガキッドの下半身はあっという間に蛇のようになり、ナーガを思わせる姿になる。

 

「とりあえず、これで下半身は意識しないで済むかねぇ」

 

「ホンマ、バケモンやな」

 

「ところで、あのサングラスの彼はいいのかい? 手練れのように見えたけど、1人で師団長3人は厳しいんじゃない?」

 

「3匹同時やったらな。今頃あの狼とザリガニは煙で閉じ込められとるんちゃうか?」

 

「ふぅん……レオル君は閉じ込めなかったのかい?」

 

「あいつは()()()が相手しとると思うで」

 

「他の奴、ねぇ……」

 

「んなもん、お前がこれ以上気にする必要も暇も――」

 

 ラミナは一瞬でアモンガキッドとの距離を詰める。

 

「ない思うでぇ!!」

 

 アモンガキッドはそれに下半身を振ることで応える。

 

 

 ラミナの正念場が、始まった。

 

 

 

 

 モラウはウェルフィンとブロヴーダを閉じ込めた【監獄ロック】の前で、油断なく見据えていた。

 

 【監獄ロック】内では随分と暴れている気配を感じるが、今の所破られる気配もない。

 

(全くドンピシャ過ぎて逆に怖ぇぜ……)

 

 モラウはアモンガキッドが現れた時、思わず「マジかよ。本当に来やがった!」と叫びそうになったのだ。

 

 そして、ラミナの狙い通りに敵は罠に嵌った。

 

 

 

『アモンガキッドが来る可能性が一番高いんは、あの猫共と殺り合う時や』

 

『つまり、戦闘中か……』

 

『も、やな。戦いを始めようとする時に来る可能性もある。っちゅうか、そこが一番うちは嫌や』

 

『……確かにな。戦闘中は確かに敵に集中してはいるが、一番感覚が敏感でもあるからな。下手な横入りは直前で気づかれる可能性が高い』

 

『やから直前に現れると思とこか。んで、さっき話した通り、うちはモラウの【紫煙機兵隊】の中に隠れて奴を待つ』

 

『で、俺は獅子男共を呼び寄せる囮ってわけか』

 

『それとうちとアモンガキッドの戦いに邪魔が入らんようにウェルフィンとブロヴーダを煙で閉じ込めて欲しい』

 

『あん? 獅子男はいいのか?』 

 

『あいつの能力は分かっとるけど、あいつが蓄えとる能力までは流石に分からんでな。お前の能力を無効化できる可能性がある』

 

『じゃあどうすんだよ?』

 

『逃がす』

 

『はぁ?』

 

『その場からな。奴は追い詰められとる。うちとアモンガキッドが戦い始め、ウェルフィンとブロヴーダが煙で覆われれば、ヤバイと思って逃げ出すはずや。そこを【紫煙機兵隊】で追いかければ、確実にその場から更に離れる』

 

『なるほどな。それで?』

 

『始末するだけや。……お前がな』

 

 

 

 レオルは雨の路地裏を必死に走っていた。

 

「はぁ! はぁ! はぁ! はぁ! はぁ! くそっ! くそがぁ!!」

 

 後ろを振り返るとすでに煙の兵士達の姿は見当たらなかった。

 もちろん、アモンガキッドの念獣も。

 

(どうする……!? どうしたら、ここから逆転できる!?)

 

 レオルは未だに諦めていなかった。

 

 だが、すでに狩人が放たれており、すぐ近くにいることには気付いていない。

 

 

 そして、その狩人がレオルの前に下り立った。

 

 

「!?!? お、お前は……!?」 

 

「……其方と語ることは何もない」

 

 狩人――ティルガはまっすぐにレオルを見据えて言い放つ。

 

 

「恨みはない。怒りもない。だが、哀れで惨めとも思わない」

 

 

「なんで……お前が、ここに……!?」

 

「言わねば分からないのか? だから、其方は他者の掌で踊り続けているのだ。まぁ……我も他者の手に引かれ続けているだけなのだがな」

 

「っ……!! ティルガぁ……! テメェ……! 人間なんかの仲間に……!!」

 

「フラッタは我が殺した」

 

「なっ!?」

 

「言っておこう。片腕がなかろうと、手加減は出来ん」

 

「……手加減だと? お前が……? 人間如きに降ったお前がぁ!! このレオル様に手加減だとおお!!!」

 

 

「覚悟を決めろ、()()()。貴様は我が殺す」

 

 

 ティルガは両手を鉤爪に曲げ、腰を据えて両手を重ねる様に構える。

 

 

 強欲の獅子と仁義の虎。

 

 

 真逆の意志を持つ牙同士が、喰らい合う。

 

 

 




いよいよティルガさんの本格参戦です。

次回はもちろんティルガさんVSレオルです!

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