暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#132 スルドイキバ×ト×ニブッタキバ

 ペイジンで決戦が始まった頃。

 

 ノヴとメレオロンはペイジンからも宮殿からも離れた山の麓にいた。

 

 宮殿が観察でき、ネフェルピトーの【円】に入らないギリギリの場所。

 その茂みの陰に2人は雨に打たれながら潜んでいた。

 

「……【円】は変わらず、か」

 

「まぁ、消すわけねぇよな」

 

 相変わらず宮殿を中心に、アメーバのように不規則に形を変える不気味なオーラが広がっていた。

 

 その時、ノヴの携帯が一度だけ震えて、すぐに止まった。

  

「……どうやら、向こうはラミナの読みが当たったらしい」

 

「流石だな。まぁ、全然喜べねぇけど」

 

 メレオロンの言葉に、ノヴも眼鏡を直しながら小さく頷く。 

 

 今のは作戦を決めた際に決めた合図だった。

 アモンガキッドが現れればコール1回。現れなくとも、作戦通り分断に成功して戦闘が始まればコール2回。失敗したらコール3回。

 

 一度だけ震えたということは、アモンガキッドが現れたということ。

 そして、以降鳴らないということは、作戦は上手くいったということだ。

 

 それは同時に、

 

「では、行くぞ。……覚悟は出来ているか?」

 

「ここまで来て、そりゃ聞きっこなしだぜ。出来てなけりゃ、ここにゃいねぇ」

 

 ノヴとメレオロンの潜入開始の合図でもあった。

 

 護衛軍の1人がペイジンにいるという好機を逃すわけには行かない。

 

 例えネフェルピトーの【円】が健在であっても。

 

 これは間違いなく絶好の機会なのだ。

 

 そして、天は更にノヴ達に味方した。

 

 

 ネフェルピトーの【円】が突如消えた。

 

 

「……なに?」

 

「……消えた、のか?」

 

 決意を胸に茂みを出たノヴとメレオロンは、目を丸くして足を止めた。

 

 数分ほどそのまま様子を見ていたが、【円】が戻る気配はない。

 【陰】で隠している気配もない。

 

「罠、か?」 

 

「……いや、アモンガキッドがいない中で更に王を危険に晒す理由がない。アモンガキッドの念獣とネフェルピトーの【円】が消えた今、連中に接近する敵の存在を探知する術はないはず……」

 

「つまり、王かネフェルピトーに何かあった、ってことか?」

 

「そう考えるのが妥当なところだが……(罠である可能性は捨てきれないのも事実)」

 

 王が【円】を止めさせた可能性は否定できない。

 だが、先ほどもノヴ自身が口にした通り、アモンガキッドがいない中でそれを護衛軍が承知するとはとても思えない。

 

 故にやはり想定外の事象が起きた可能性が高い。

 

「……油断は出来ないが、今が千載一遇…いや、万載一遇の機会。罠であろうと、ここで行かなければ、恐らく次はない」

 

 その言葉に、メレオロンも力強く頷く。

 

 ノヴの任務は『宮殿内に出口を最低1つ設置すること』。

 

 すでに入り口は用意してある。  

 

 後は出口を作るだけ。

 

 それさえ為せば……己は戦えなくなっても構わない。

 

「……背中に乗れ。いつでも息を止める用意をしておけ」

 

「分かってるさ」

 

 メレオロンはノヴの背中にしがみ付く。

 ノヴはモラウ達に比べれば華奢ではあるが、男1人背負ったくらいで全く動けなくなるほど柔ではない。

 

「行くぞ」

 

 ノヴ達もまた一世一代の大勝負に出たのだった。

 

 

 

 

 ペイジン。 

 

 鉤爪を構えて静かに、されど鋭くレオルを見据えるティルガ。

 

 ただただ怒りに顔を歪めて、ティルガを睨みつけるレオル。

 

 両者の間に降り注ぐ雨が、ぶつかり合う殺気によって軌道が歪む。

 

 レオルが再び口を開こうとした時、

 

 

 ティルガが地面を蹴り、レオルへと肉薄する。

 

 

 鋭く突き出された右鉤爪。

 

 それをレオルは身体を横に反らして紙一重で躱すも、ティルガは先読みしていたとばかりに左鉤爪を振るう。

 

 レオルはそのまま前転してティルガの牙を躱す。

 ティルガの牙はそのまま壁に叩きつけられ、壁を抉った。

 

 レオルは素早く起き上がりながら、その結果を見過ごさなかった。

 

(触った場所を抉る能力か……!?)

 

 ティルガはレオルに身体を向けながら、再び両手を合わせるように構え、直後その場で右腕を突き出した。

 

 力強く突き出された右手から念弾が放たれる。

 

「なっ……!!」

 

 レオルは目を見開き、慌てて右腕を前に出して念弾を弾こうとしたが、念弾に触れた瞬間に爆発した。

 

「ぐおお!?」

 

 レオルは後ろに吹き飛ばされて、数回地面を転がる。

 

 ダメージはそこまで大きくなかったので、すぐに起き上がったが、その内心はもちろん穏やかではなかった。

 

(こいつ……! 放出系まで……! くそっ! この路地で戦うのは不利だ!)

 

 レオルはティルガに背を向けて走り出し、ティルガもすぐさまレオルを追いかける。

 

 レオルは道幅がある大通りに出て、更にビルの壁を蹴りながら屋上へと移動する。

 

 屋上に下り立った直後、下から3発の念弾が打ち上がった。

 

「はっ! 当たるかよ、そんなもん!」

 

 鼻で笑ったレオルだが、念弾は何故か屋上の上空で停止した。

 

「あ?」

 

 レオルが訝しんだ、その時。

 

 猛スピードで飛び上がってきた影が、空中で停止した念弾に着地した。

 

 その影がティルガであると理解したレオルは限界まで目を丸くした。

 

「なっ……!?」

 

「ふっ!!」

 

 ティルガは念弾を蹴って飛び出して他の2発にも跳び移り、最後の念弾に着地した直後、全力で蹴り抜いて飛び出す。

 

 直後念弾は爆発し、その爆風を追い風にしてティルガが猛スピードでレオルへと迫る。

 

「!!」

 

 レオルは全力で投げ出すように横に跳び、直前までレオルがいた場所を黄色の旋風が通り過ぎ、風を切る鋭い音が響く。

 

 再び無様に地面を転がったレオルは素早く立ち上がる。

 

「くそ……!(どうする? 下りるか? いや、大して意味はねぇ。地下はどうだ? 駄目だ。逃げ場がねぇ……!)」

 

 レオルは必死に逆転の糸口を探るも、ティルガの能力は比較的単純であるが故に妨害しにくいことに気づいてしまったのだ。

 

(俺のレンタル出来る能力でもある程度は邪魔できても、完全に無効化は出来ねぇ)

 

 レオルの【謝債発行機】は確かに強力ではあるが、如何せんレオルが見聞きした能力はそう多くない。

 しかも、条件の1つに『相手に貸しを作る』ことが大きかった。

 

 つまり護衛軍に貸しを作れてはいないし、師団長以下の者達にも同様であまり貸しは作れていない。

 

 ヂートゥはすでに能力を失っているのでレンタル出来ない。 

 ウェルフィンとブロヴーダはまだ能力を見れていない。

 

 兵隊長以下はほぼ殺されたので、もう使えない。

 

 そのため、レオルがレンタル出来る能力の絶対数自体がそもそも多くないのだ。

 

「どうした? 先ほどから逃げてばかりではないか」

 

 ティルガの挑発にレオルは苛立つが、それに吊られることはなかった。

 

 もっとも、冷静故の判断ではなく、恐怖による判断なのだが、未だにレオルは気づいていない。

 

 それはある意味学んだと言えるのだが、タイミングがあまりにも遅すぎた。

 

「ふん……。あんまりいい気になんなよ、ティルガ。油断していると足元掬われるぜ?」

 

「貴様に言われるまでもない。我に戦いを教授したのは、貴様の腕を斬り落とし、アモンガキッドと戦った者だ。慢心など許されるわけがない」

 

 ティルガは事実ゴン達よりも未熟者だ。そもそも生まれて半年も経っていない。

 

 特殊な生まれであったとしても、経験の蓄積は絶対的に平等である。

 1を知れば10を学ぶ者もいるが、それはまだ知識であり、経験とまでは言えない。

 

 ティルガはラミナから能力を授かってから、実戦は今回が2度目。

 それもラミナのフォロー無しとなると、初めての実戦だ。

 

 だが、ラミナからはこれまで耳にタコが出来る程戦いの極意を教わっている。

 

 故にティルガが慢心を抱くことはあり得ない。

 

 

『ええか、ティルガ。上手く相手が動いとる時こそ、全部疑え。罠かもしれん、じゃあ何でここで罠を張るんかを考えろ』

 

 

 ティルガは常にレオルの動きを観察していた。

 

(もっとも、ラミナから奴の能力を聞かされていなければ、ここまで攻められなかっただろうがな)

 

 レオルが保有している能力はそこまで多くないことはラミナから聞かされている。

 

 モラウやノヴもその意見を否定しなかったので、ティルガにそれを疑う理由はない。

 

 故に自身が取るべき策は自ずと決まってくる。

 

 ティルガは再び両手を構えて、オーラを両手に集中させる。

 

「【虎咬迅嵐(ティグレ・トルメンタ)】」

 

 両手を交互に連続で突き出し、周囲を取り囲むように念弾を設置する。

 

 レオルはそれに目を見開いて、逃げ道を探そうとしたがすでに遅かった。

 

 ティルガが全力で跳び上がり、念弾の1つに着地したかと思うとすぐに念弾を破裂させて飛び出す。

 次々に念弾へと跳び移り、破裂させながら徐々にスピードを上げていく。

 

 レオルはすでに目で追うのも難しくなってきており、もはや逃げるどころではなくなっていた。

 

 更に念弾の爆音と衝撃波に意識を逸らされ、ティルガを見失いそうになってしまう。

 

「ぐっ……!?」

 

 もはやレオルに出来るのは今更ながらの【練】を発動することのみ。

 

 そして、遂にティルガを見失った直後、レオルはゾワリと背中に怖気が走り、反射的に右に跳んだ。

 

 

 レオルの左斜め後ろから黄色の旋風が駆け抜けた。

 

 

 レオルは左脇腹に鋭い痛みが走り、視線を向けるとシャツの左脇部分がごっそりと穴が空いたように千切れており、脇腹が軽く抉られて血が噴き出していた。

 

「ぐぅおおおおおお!?」

 

 やられたことを理解してしまったレオルは、激痛と怒りに大声を上げながら蹲る。

 

 ティルガはレオルから少し離れた場所に下り立つ。

 

 レオルは痛みに顔を歪めて歯を食いしばり、目は血走っていた。

 

(ここまで追い込んでも能力を出さぬか……。それほどまでに追い込まれているのか。それとも……)

 

 ティルガは無理に追撃せず、油断なくレオルを観察していた。

 まだ放出系が未熟なのもあり、オーラを少しでも無駄にしたくない。

 

 レオルは呻きながらもゆっくりと身体を起こす。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

 肩で息をし、雨のせいで顔に髪が張り付くのも気にする余裕はなかった。

 

 レオルはしばらく呼吸を整えたかと思うと、おもむろに座り込んだ。

 ティルガはそれに訝しむと、

 

「参った……俺の負けだよ……」

 

「……どういうつもりだ?」

 

「降参だって言ってんだよ。もう俺に勝ち目はねぇし、こうなっちまったら王のところに帰っても殺されるか、餌にされるか、良くてネフェルピトーの実験体だ。だったら、お前らに捕まった方がまだマシって思っただけさ」

 

 レオルは自虐的な笑みを浮かべて肩を竦める。

 

 もちろん、ティルガがそれを信じるわけがない。

 

「ま、信じられねぇよな。いいぜ、俺が知ってる限りの情報を話してやるよ。ま、俺はここ最近お前らの相手してたから、ほとんど宮殿にゃあ帰ってねぇがな」

 

「……では、貴様が話せる情報とは?」

 

「『選別』の立案と進行は護衛軍の連中だ。王は宮殿でボードゲームで遊んでるらしいぜ」

 

「それは分かっている」

 

「……へっ、流石だな。じゃあ、これはどうだ? あの宮殿にはビゼフって外交官がいて、他の都市にいる関係者との繋ぎを行ってるってのは」

 

「それも判明している」

 

「へぇ……じゃあ、そうだな……。選別した兵士を改造してるのはネフェルピトーとシャウアプフだ。シャウアプフの能力は鱗粉と繭を利用した操作系。モントゥトゥユピーは強化系で、身体を自由に変化させることが出来るらしいぜ。腕や目を増やしたりするのは当たり前、翼まで生やせるってよ」

 

「……」

 

「宮殿に残ってる兵隊長以上の奴はビトルファンとヂートゥ、そんでヒナ……いや、ヒリンだ」

 

「……ヒリンが除念の能力持ちか」

 

「お見事。だが、ヒリンは今、ヂートゥに憑いてた念を除念してるから動けねぇ。ヂートゥは多分能力の再取得で2,3日は動けねぇだろうな」

 

「ビトルファンの能力は?」

 

「聞いた限りじゃ単純な強化系みたいだぜ。力と頑丈さを上げるって言ってたな。まぁ、それがアイツの自慢だからな」

 

「……」

 

「ウェルフィンとブロヴーダの能力は、悪いが知らねぇ。この戦いのどっかで盗み見るつもりだった」

 

 ティルガはレオルの言葉に嘘を感じ取れなかった。

 

 それは当然である。

 何故ならレオルは正真正銘事実しか話していないのだから。 

 

「どうだ? 少しは役に立ったか? ここまで正直に話したんだ。タダってことはねぇだろ?」

 

「……いいだろう。だが、命の保証は出来ん」

 

「はっ、別に構わねぇよ」

 

 レオルがゆっくりと立ち上がると、その右手には小さな機械が握られていた。

 

 それにティルガが気付いた時、すでにレオルは【謝債発行機】のボタンを押して券が発行されていた。

 

 

「お前を始末すれば全部丸く収まるんだからよぉ!!!」

 

 

 レオルは嗤いながら宣い、発行された券を噛み千切った。

 

 券はオーラとなってレオルの身体に取り込まれていく。

 

「がははははは!! 馬鹿が!! これでテメェはもう能力は使えねぇ!!」

 

「……」

 

 ティルガは顔を顰めながら、右手にオーラを集中させる。

 

 レオルは愉悦を隠すことなく、優越感に浸った笑みを浮かべていた。

 

「無駄だって言ってんだろ? テメェの能力は今、俺のモンなんだよ! テメェはもうピョンピョン跳び跳ねることは出来ねぇ!! ざまぁねぇなぁ!! がっははははははは!!!」

 

「……先ほどの会話が条件だったのか」

 

「ああ、そうさ。俺の能力はちょっと面倒でな。相手の能力を見聞きすることの他に、相手に貸しを作ってそれを承諾させる必要がある」

 

「……貴様に借り?」

 

「さっき言っただろ? 『タダじゃねぇ』ってよ。で、お前はそれを承諾した! これで条件達成ってわけだ!!」 

 

「……なるほどな」

 

「卑怯とか言うなよ? 俺達は殺し合いをしてるんだ。戦闘中にのうのうと敵の話を聞いて、真に受けたテメェが間抜けなんだよ。恨むならテメェを恨みな」

 

 レオルはニヤニヤと笑みを浮かべたまま、話し続ける。

 

 だが、ティルガの反応はあっさりとしており、嘆いたり動揺する様子は一切見せなかった。

 

 それにレオルは強がり、または事態を理解してないと思い込み、またイラついた。

 

 レオルは更にティルガを動揺させようと口を開いた。

 

「あの構えがテメェの能力の発動条件なんだろ? 片腕――」

 

 

 すると、ティルガは先ほどと変わらず、また構えを取った。

 

 

 レオルは目を丸くして、今度こそ苛立ちに顔を歪めた。

 

「テメェ……!! そこまで馬鹿だったのか!? もうテメェは能力が使えねぇって言って――!」

 

 

 だが、ティルガはレオルの言葉を無視して、猛スピードで詰め寄ってきた。

 

 

 あまりに迷いがないティルガの行動に、逆にレオルが動揺させられてしまった。

 

「このっ……!!」

 

 レオルはティルガの構えを片腕で真似をして、右腕を鋭く突き出して念弾を放とうとした。

 

 そして、念弾が右手から放たれようとした、その時。

 

 

 突如右手の前に梟が出現した。

 

 

 レオルが驚愕に目を限界まで見開いて、攻撃を中止しようとしたがすでに遅かった。

 

 放たれた念弾が梟に直撃して、レオルの目の前で爆発する。

 

「ぐおおお!?」

 

 レオルは右腕が跳ね上がり、爆風に後ろに吹き飛ばされそうになるが、全力で踏ん張って堪えた。 

 

 それは咄嗟の判断だったが、この場合は完全に悪手だった。

 

 

 両鉤爪を構えたティルガが迫ってきていたのだから。

 

 

 ティルガは爆発に驚くことなく、冷静にレオルの背後に回り込んでいた。

 

 そして、レオルの跳ね上がった右肘に左鉤爪を添え、

 

 

 一瞬で抉り千切った。

 

 

 レオルの右手が宙を舞い、血飛沫が散る。

 

 

「ぎぃあうおおおおおおおお!?」

 

 

 レオルは激痛に血走った目を見開き、悲鳴を上げて地面に倒れ込んで悶える。

 

 ティルガは素早くレオルから距離を取って、冷え切った瞳をレオルに向ける。

 

「ぐぅおおおお……!? な、何故だああ……!? 何で能力が使える……!? た、確かにテメェの能力は……!」

 

「奪われている」

 

 ティルガはレオルの言葉を引き継いだ。

 

 だが、レオルはその言葉を信じられなかった。自分が言おうとしていた言葉でありながら。

 

「じゃあ……なんで……!?」

 

「別に難しいことではない。我の【虎咬迅嵐】は、正確には武術と念弾を組み合わせた戦闘術に過ぎないからだ」

 

「ぶ、ぶじゅつぅ……?!」

 

「ああ。壁を抉り、貴様の身体や腕を引き裂いたのは【虎咬拳】という人間が編み出した武術であって、念能力でも何でもない。ただ両手を【凝】で強化しただけのモノだ」

 

「なっ……!?」

 

「故に、我の念能力は放出系能力のみと言える。貴様の能力は確かに、我から念弾を生み出す能力を奪っていた。だが……ただ強化されただけの武術は盗めなかった。それだけのことだ」

 

 レオルはティルガの説明を理解することを拒みたかったが、残念ながら理解できてしまった。

 これまでのティルガの動きについても。

 

「じゃあ……あ、あの構えは……?!」

 

 

「ただのブラフだ」

 

 

「!!?」

 

 レオルはあまりのショックに痛みを忘れて目を丸くした。

 

「貴様は徹頭徹尾、ラミナの掌の上だった。貴様の他者から念能力を奪う能力、性格、行動、全てラミナの推測通りだ」

 

「全て……だと……」

 

「ああ。貴様がその能力を得たのはあの宮殿に着いてからだ。ならば、貴様が奪った能力はそこまで多くないと考えられる。そして、以前ラミナの目の前で使った様子から、能力を奪う制約はそこまで厳しいわけではなく、されど奪った能力を使うには回数制限や時間制限がある可能性が高い。故に、戦闘中に能力を奪いに来る可能性が高いというのが、ラミナの推測だ」

 

「……!!」

 

「もっとも、貴様の能力を見抜けたのは、同じタイプの能力を持つ者が身近にいたからだそうだがな。だが、それ故に、我が貴様の相手を任された。我の能力を見れば、追い詰められた貴様は奪おうと画策するだろうとな。そして、我でも十分に殺せるほど、今の貴様は弱い、とな」

 

「………弱い? この俺が……? 俺が弱いだとおおお!!」

 

「そうだ。何故なら貴様は、自分の力だけでは戦おうとしないからだ」

 

「!!!」

 

 レオルは叫んだ顔のまま硬直した。

 

「貴様はNGLにいる頃から、狩りをする時はまず部下達に追わせて弱らせる。最初から自身で相手をしようとは絶対にしなかった。それはここに来ても変わらなかったな。常に部下達に戦わせ、このペイジンでもウェルフィン達が来るまでラミナ達に挑もうとはしなかった。その性格は念能力にもよく表れている。自分の力ではなく、他者の力を奪い、奪った力で戦う。勝てる状況が整わない限り、決して自身が前に出ようとはしない。それは……貴様が言う下等な人間の戦い方に他ならない」

 

 その戦い方が間違いとは言わない。

 

 だが、それは絶対にキメラアントの戦い方ではない。

 

 どちらかと言えば人間の戦い方。

 それも、実力がない者達が行う戦い方だ。

 

 少なくとも、『百獣の王』を自称する者が選ぶ戦い方ではない。

 

「貴様は王になることを目論んでいた。別にそれはキメラアントの特性としておかしなことではない。だが、貴様の言動や思考は全てにおいて、強欲で非力な人間のモノだそうだ。同じ人間達が揃って言うのだから、疑う余地はない」

 

「俺の考えは……非力な、にんげ、ん……?」

 

「ハギャ……貴様、己の牙を捨てたな? 己の牙を貴様が一番信頼していなかった」

 

「っ……!?」

 

 レオルはティルガの言葉に怒りが湧き上がったが、言い返すことが出来なかった。

 

 それは事実だからだ。

 

 己の牙と爪が世界の中心だと思っていた前世。

 だが、女王に喰われたことで、それが間違いだと知った……つもりだった。

 

 だから、生まれ変わった今世では己の爪と牙以外の力を学ばなければならない。

 

 そう思い、それが正しいと思い続けていた。

 

 だが結局、己が王に近づいたことは、ただの一度もなかった。

 

 前世では、己の力では頂点に立てなかった。

 

 ならば、他人の力を使えばいい。

 

 それを女王と自分達兵隊蟻との関係、そして【裏のNGL】の連中の戦い方で理解した。

 

 

 王とは、自ら動くことなく欲しいものを手に入れ、他者から捧げられる者なのだと。

 

 

 前世の自分に足りないモノはそれだったのだと。

 レオルは確信にも近い実感があった。

 

 だが、結局それはNGLという狭すぎる世界で知ったもの。

 

 それも文明を捨てた国での学び。

 

 レオルがもっと世界に目を向け、歴史を学ぼうとしていれば結果は変わっていたかもしれない。

 

「他者の力のみに固執し、己の力を蔑ろにした者が、戦場で勝てる道理はない。戦場に出るのであれば、己すらも切り捨てる駒であると、考えられる者が勝利を掴むことが出来る。そう、我は学んだ」

 

 ラミナはもちろん、同じ能力を使い集団の長であるクロロも、そしてハンター協会会長ネテロも、必要であれば自身を犠牲にすることを厭わない。

 

 普通であれば忌避し、恐怖する考え方ではあるが、それが出来るからこそ己が望む結果を手にすることが出来る。

 

「そして、貴様は王になる者を気取っていたようだが……孤独な王ほど滑稽なものはない。玉座に王がいたとしても、その周囲に誰もいなければ、その玉座はただの飾りであり、王という称号は虚構に成り下がる」

 

「俺は孤独じゃ……!?」

 

「ならば何故、貴様の周りには誰もいない? 誰も助けに来ない?」

 

「……!!」

 

「我がフラッタを殺したからか? ヒリンが動けないからか? ラミナ達が貴様の部下を殺したからか? それだけで貴様の周りに誰もいなくなったのであれば、貴様の王としての人望はその程度であったというだけだ。まさに貴様の能力の条件と同じく、貸し借りで繋がった脆い絆だ」

 

 故に、孤高の王ではなく、孤独の王。

 

 今この場に、この世界に、レオルを王と崇める者はいない。

 

 レオルの王国は、すでに滅んでいたのだ。

 

「獅子の着ぐるみを着たただの愚かな人間。それが……我らが覚えた貴様の印象だ。故に、貴様を追い詰めるのは至極、容易であった」

 

 自身で戦おうとしないから、キメラアントの身体能力や特性に怯える心配はない。

 

 人間のように王を気取っているのであれば、獅子の本能を気にする必要もない。

 

 キメラアントでも獅子でもなければ、もはや知識も経験もないただのチンピラのリーダー、または零細マフィアのボスレベルの小物。

 

 

 暗殺者が、最強最悪の幻影旅団が恐れる理由は何もない。

 

 

 慢心する気にすらならない。

 

 それほどに、レオルは落ちぶれていた。両腕が健在であろうと、その印象は変わらなかっただろう。

 

 まだザザンやマンディスの方が、王としての資質があっただろう。

 

 クロロ達がこの場に居れば、間違いなくそう言うだろうと、ラミナは思っていた。

 

「終わりだ、ハギャ」

 

 ティルガが両手にオーラを集中させ、鋭い目つきでレオルを見下ろす。

 

 レオルは頭の中でプチッと何かが切れた音がした。

 

「………だから、俺はハギャじゃねぇ……」

 

 呟いたレオルは幽鬼が如くユラリと立ち上がり、

 

 

「俺は!! 百獣の王レオル様だああああああ!!!」

 

 

 雄叫びを上げながら、口を限界まで開けてティルガの喉に噛みつこうと飛び掛かった。

 

 それをティルガは、

 

 

 予想していたかのように、静かに、されど素早く両腕を動かして、右鉤爪をレオルの頭に、左鉤爪をレオルの開いた顎に添えた。

 

 

 見開かれたレオルの目に映ったのは、僅かに輝く気高き猛虎の鋭き瞳だった。

 

 直後、レオルは頭を巨大な虎に噛み付かれた幻覚に襲われた。

 

 

「【虎咬拳】『捩咬牙(レイコウガ)』」

 

 

 ティルガは両鉤爪を全力で捻りながら、圧し潰すように両腕を振るった。

 

 レオルの頭はまるで紙風船のように、パァン!!と一瞬で肉片すら残さず擦り潰された。

 

 ティルガの顔や服に、レオルの最後の嫌がらせのように僅かな血がこびりつく。

 

 だが、それも雨ですぐに流され、頭部を失った胴体は駆けていた勢いそのままティルガの横を通り過ぎ、スライディングするかのように倒れ伏した。

 

 ティルガはそれを顔だけで振り返って確認した。

 

「……窮鼠猫を嚙む、か。残念だったな、ハギャ。我が師は、それすらも読んでいた」 

 

 それはラミナが何度も口にしていた言葉だった。

 

 

『覚えときや。殺し合いや暗殺で一番怖いんは、仕留めたと確信した時や。特に決め技で殺そうとした時は、どんなに熟練でもその瞬間に意識が向いてまう。そこで反撃されたら、ほぼ確実に喰らう。やから、決め技を使う時こそ最大限に警戒せぇ』

 

 

 ティルガはその教えに従って、50mほど離れたビルの屋上へと移動した。

 

 それでも数分は周囲を警戒しようとしたが、隣にブラールが降り立ったことでようやく警戒を解いた。

 

「すまない、ブラール。さっきは助かった」

 

「……」

 

 ブラールは小さく頷くだけで答える。

 先ほどレオルの念弾を妨害したのは、もちろんブラールの念獣であった。

 

「……正直、我もハギャに対して上から言う資格はないのだがな……」

 

 あれだけ偉そうに言っておきながら、ブラールの援護を受け、ラミナやモラウに場を整えて貰ったお膳立てによる勝利。

 

 良い所取りの勝利。

 

 それが戦争というものではあるが、やはり勝っても嬉しいとは思えないティルガであった。

 

「……」

 

「……ああ、そうだな。我は別に王にも将にもなりたいわけではない。レオルとは立場が違うが……。それでもやはり、な」

 

 すでにティルガはラミナの下で戦うと決めた身。誰かの上に立ちたいとも思っていない。

 

 レオルに憐れみも同情も覚えはしないが、ここまでラミナの掌で踊らされたとなると、少し不憫に思わないこともない。

 

 ティルガはレオルであった肉体がある方へと顔を向け、

 

「……貴様は余計なプライドを捨てるべきだったな。その鈍った牙を、本当に捨てることが出来ていれば、貴様はここではないどこかで王になることも出来ていたであろうに」

 

 もう牙は使えないと考えておきながら、その牙を持っていたことを誇りにし続けていた哀れな虚勢。

 

 それを捨てて開き直ることが出来ていれば、東ゴルトーを離れてどこかに身を潜めながら勢力を強め、本当に王になることが出来たとティルガは思っていた。

 頭が悪いわけでも、弱いわけでもなく、苦渋に耐えることが出来ないわけでもなかったのだから。

 

 だが、捨てたはずの牙に固執したことによって、悉く選択を間違えてしまった。

 

 その結果が孤立して、末端兵同然の死。

 

「……惨めだな、ハギャ。恐らく貴様は、師団長の中で最も惨めに死んだ兵隊蟻だろう……。貴様は結局我らを誰一人殺せなかったのだから」

 

 キルアが生きていると伝えなかったのは、せめてもの慈悲なのか。

 

 それはティルガ本人すらも分からなかった。

 

「行こう、ブラール。次はモルモを探す」

 

「……」

 

 ブラールは頷いて、雨の中を再び飛翔する。

 

 ティルガはそれに続いて、ビルを跳び移りながら移動する。

 

 

 少しでもラミナ達の負担を減らす。

 

 

 今のティルガが出来ることは、ただそれだけだった。 

 

 




レオルはキメラアントのカストロさん的存在だなと思っていたりする私です。
人間のように考えることが出来てしまったが故に、キメラアントの良さを悉く潰してしまった。それに加え、彼を導く存在がいなかった。
やはり、ここは大きいでしょうね。

ジャイロと組んでいたらどうだったんだろうと思う自分もいます。
拙作では、もう叶わない組み合わせですがね。
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