暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
8頭の大蛇は、微妙にタイミングをずらすことで、間髪入れずにラミナへと襲い掛かった。周りから見れば、ほぼ同時にしか見えないのだが。
ラミナは無理に反撃せず、後ろ向きに走りながら大蛇の攻撃を受け流し、躱していく。
噛まれることは死を意味するので、大蛇の動きに全神経を注がざるを得ない。
故に、
「そぉらっ!」
アモンガキッドの蹴りはほぼ反射で対応することになり、防ぎきれずに吹き飛ばされてしまう。
だが、ラミナはその衝撃を逆に利用して、アモンガキッドから距離を取る。
それによって、アモンガキッドも決定的なダメージを与えられず、膠着状態に陥り始めていた。
(まぁ、時間制限付きだけどねぇ。おいちゃんの蹴りは確実に君の身体にダメージを蓄積させてる。このまま行けば、近い内に限界が来ちゃうよ?)
もちろん、それはラミナも理解している。
だが、今のラミナの最優先事項は『時間稼ぎ』である。
少しでも長くアモンガキッドをここに釘付けにしなければならない。
レオルとモルモを倒す余裕を作るため、ノヴとメレオロンが宮殿内に出口を設置するために。
(ゆうて、どれぐらい時間経った? 30分経っとれば御の字やけど……)
流石のラミナも極度の緊張状態を強いられている戦いで、体感時間が狂い始めている。
雨というのもあり、空を見て時間を予測することも出来ない。
恐らく20分がいいところだろう。
ラミナはそう考えて、これからどう時間を稼ぐか模索する。
(逃げ回るのはまず無理。念獣が来るやろうし、この蛇がどこから来るか分からんようになってまう。それにモラウやティルガ達と鉢合わせになったら目も当てられん)
大蛇の猛攻を捌きながら、ラミナはアモンガキッドを抑え込む方法を思考する。
(向こうもかなりオーラを消耗しとるはずやけど……。ネフェルピトーの【円】の大きさと維持時間を考えたら、まだまだ余裕はあると考えておくべきやな。大してうちはもう半分もない。無理はもう出来んけど……攻めんのもムカつくわ!!)
ラミナはいきなり一歩前に出る。
アモンガキッドはそれに構わずラミナに蹴りかかるが、ラミナはすぐに一歩戻って躱す。
アモンガキッドはそれを読んでいたが、直後顎に衝撃が走る。
「!?」
突然の衝撃にアモンガキッドは後ろに数歩下がり、大蛇の動きが鈍る。
衝撃の正体は右のブーツだった。
その隙をラミナは逃さずに【一瞬の鎌鼬】を発動しながら、一気に詰め寄った。
アモンガキッドはそのまま後ろに跳び下がって、斬撃の嵐を躱す。
しかし、突如ラミナの両手からブロードソードが消えた。
(消した? いや、上!!)
頭上に二振りの剣が回転しながら飛んでいることに気づいた。
アモンガキッドは剣が囮であることを見抜き、それを無視して大蛇をラミナへと嗾ける。
だが、ラミナは【肢曲】で残像を生み出して距離を詰めてきた。
「それは意味がないって知ってるよねぇ?」
ラミナの分身を見抜いたアモンガキッドは、大蛇を操って一瞬で分身達を一掃する。
そこにアモンガキッドの
(分身? でも、さっきのとは動きが違う……?)
しかし、近づいてくる者を無視するわけにはいかない。
アモンガキッドは頭の大蛇2体を操って、背後から迫るラミナの両肩に噛み付いたが、そのラミナは霞のように身体を崩した。
やはり分身か。
そう思って、正面のラミナに意識を戻した直後、
ラミナの両手には白と黒の短剣が握られていた。
「!?(分身と入れ替わる能力……!?)」
ラミナは二振りの短剣を振るい、アモンガキッドの背中へと斬りかかる。
アモンガキッドはギリギリのところで大蛇の1頭を滑り込ます。
バツ字に剣閃が走り、大蛇が斬り飛ばされ、アモンガキッドの背中から血が噴き出すも、ラミナの手応えは微妙だった。
だが、ラミナはこれで決まるなどと微塵も思っていなかったので、気にすることなく左脚を鋭く突き出してアモンガキッドを蹴り飛ばす。
短剣を消したのと同時に、上から落ちてきた二振りのブロードソードをキャッチするラミナ。
その目の前にはすでに4頭の大蛇が迫って来ていた。
ラミナは後ろに跳び下がりながら、高速で剣を振るって大蛇を斬り飛ばす。
(くっそ……あの蛇共、髪で出来とるからか地味に硬ぅて斬りにくい……! 操作系を主体にした強化系と変化系の複合能力! 蛇の蟻やから、蛇を形作るんは息するレベルで余裕っちゅうわけか!)
本来ならば修行が必要な細かいレベルでのイメージ修行が一切必要ない。
それは間違いなくアドバンテージと成りえる。
(人の髪は束ねれば縄にもなるほど強靭さを持つ。それを強化すれば、鉄製のロープと変わらん硬さを持つっちゅうわけか! ホンマ相性悪いやっちゃなぁ!!)
顔を顰めながら大蛇の猛攻を捌く。
ラミナは一度ブロードソードを二振り共消し、ハルバードを具現化して能力を発動しながら後ろに跳び下がる。
今度はハルバードを壊されないように警戒しながら、空いた左腕で噛み付いてきた大蛇を弾く。
しかし、すぐにハルバードを消して鎧を解除し、再び両手にブロードソードを具現化する。
(ブロードソードのストックをゼロにされるわけにはいかん……!)
再び津波のように襲い掛かってくる大蛇の群れを剣戟で迎え撃つ。
だがその時、3頭の大蛇がラミナの足元に噛み付いた。
直後、アモンガキッドは身体を持ち上げて、逆立ちした。
「!?」
「ギア上げるよぉ」
アモンガキッドは勢いよく右踵落としを繰り出した。
「ちぃ!」
ラミナは左腕を頭の上に掲げて、叩きつけられる瞬間に【流】でオーラを集中し、斜め下に腰を落とす。
衝撃が左腕に走る瞬間、ラミナは後ろにわざと転んでダメージを軽減する。
四肢で地面を強く押して、大きく跳び下がるラミナ。
すでに大蛇は目の前まで迫っており、ラミナは高速の剣戟で斬り飛ばす。
その右横に、両腕の大蛇を地面に突き立てたアモンガキッドが、地面スレスレを移動してきた。
(大蛇で立体機動……!)
まるで以前戦った【アラクネー】のパスイダを思い出させる。
凶悪さは断然アモンガキッドの方が上だが。
アモンガキッドは両脚を大きく振って回し蹴りを放ち、ラミナは大きく身体を仰け反らして紙一重で躱す。
アモンガキッドの足爪がラミナの腹部に掠り、タンクトップが裂けて少量の血が噴き出す。
ラミナはブロードソードを消して地面に背中を着け、ブレイクダンスを踊るが如く身体を捻り、回転しながら両脚を振り上げる。
そして、全力で地面を押し、両腕の力だけで跳び上がる。
すかさず大蛇が襲い掛かってくるが、ラミナは限界まで目を開いてその動きを見極め、噛みつかれる瞬間に手を上顎に置いて全力で身体を捻りながら持ち上げる。
大蛇の上を一回転して、身体を両脚で蹴って横に跳び、ビルの壁に跳び移る。
すぐにビルから跳び、ブロードソードを具現化する。
「ピトっちみたいな身軽さだねぇ! ホントにミナっちって人間かい?」
「人間やし、ミナっち言うなやスケベ蛇!!」
「酷いねぇ……」
再び仕切り直しになったが、ラミナが追い詰められた状況なのは変わらない。
(めっちゃ逃げたい……!!)
そろそろ限界を感じたラミナは、内心弱音を吐くも悲しいかな逃げる隙が見つからない。
それに時間稼ぎとしては全くという程成功していない。
(まぁ、そもそもコイツ相手に数十分戦うんが無茶なんやけどな!)
正直、護衛軍相手に1人でここまで戦い抜いている時点で十分すぎる成果である。
求められる結果があまりにも高望み過ぎただけで。
しかし、ノヴ達の事を考えると、まだ求められた時間の半分くらいしか稼げていないだろう。
(せめて宮殿の敷地内に1個だけでも出口を設置しといてもらわんと、割に合わんぞ……!)
迫って来るアモンガキッドを睨みつけて、心の内で鬱憤をノヴ達にぶつけるラミナ。
【一瞬の鎌鼬】で大蛇を斬り落とそうとした瞬間、アモンガキッドはわざと大蛇を解除してラミナの剣を空振りさせた。
そして、一気にラミナの懐に飛び込んで、心臓目掛けて右貫手を繰り出してきた。
ラミナは目を見開きながらブロードソードを消して、右手でアモンガキッドの右前腕を叩いて逸らそうとするも、左脇を掠って肉を軽く抉られる。
直後、アモンガキッドの右脚が振り上がり、ラミナも左太腿を上げて防ぐ。
しかし、それも予測していたのか、アモンガキッドが左手をラミナの顔に伸ばす。
ラミナは後ろに仰け反りながら顔を傾ける。
アモンガキッドの左親指の爪が、ラミナの右頬を掠る。
「ぐっ……!」
ラミナはチャクラムを具現化して、手の中で回す。
帯電したチャクラムはラミナの右肩に移動し、ラミナの身体に一瞬電流が走って髪が逆立った。
「っ!!」
直後、ラミナの右ストレートがアモンガキッドの頬に叩き込まれる。
更にアモンガキッドの右胸、左脇腹、鳩尾にラミナの拳が一瞬で突き刺さり、アモンガキッドは後ろに吹き飛ばされる。
ラミナは追撃せずに能力を解除する。
「はぁ……はぁ……はぁ……ぐっ!!」
右頬から血を流すラミナは、息を荒げて身体に走る痺れに顔を顰める。
(あかん……。冗談抜きで限界が来とる……)
流石に【小生意気な雷童子】の連続発動は身体の動きを鈍らせる。
アモンガキッドはまだまだ動きが鈍ることはないだろう。
大蛇による波状攻撃、立体機動攻撃、フェイントまで組み合わされたアモンガキッドの攻撃を、今のコンディションでは防ぎきれない。
その予測を裏付けるかの如く、アモンガキッドがユラリと立ち上がる。
「驚いたねぇ。それは身体能力を上げるのかい?」
「さてな」
「ホントに怖いねぇ、君は」
アモンガキッドが肩を竦める。
ラミナは「フン」と鼻を鳴らして再び構える。
アモンガキッドはラミナに向かって数歩進み出るが、急に足を止めた。
突如歩みを止めたことにラミナは訝しみ、警戒を強めるが、アモンガキッドは顔を横に向ける。
「……ん~~~~?」
アモンガキッドは疑問を含んだ声を出しながら右手で顎を擦って首を傾げる。
「おかしいねぇ~~」
「……なんやねん、急に?」
「いやねぇ……そう言えば、ピトっちのお人形さんが全然見当たらないなってねぇ……」
「はぁ?」
ラミナは構えを解き、周囲を見渡して気配を探る。
すると、確かに街中にいた人形兵の姿が見当たらなかった。
更には銃声も全く聞こえず、他に戦闘している気配を感じない。
(……潜んどる感じでもない。ホンマに一体も動いてない? なんでや? ネフェルピトーからすれば、むしろ攻め時のはずや)
この戦いに手を出さないのは何となく分かるが、他で戦闘が起こってないのは流石にあり得ない。
「『選別』を再開したんか?」
「ん~~……流石にピトっちもそんな判断しないと思うけどねぇ。…………まさか?」
アモンガキッドは何かに思い至ったのか、突如跳び上がって口だけ念獣を生み出して、その上に乗る。
「あ? 急にどこ行くねん?」
「悪いねぇ。残念だけど、ちょっと戻らないといけなさそうでねぇ。帰らせてもらうよ」
ラミナは盛大に顔を顰める。
逃がすわけにはいかない。だが、帰ろうとするのを止めるとなると、向こうも早く終わらせるために本気で戦うのは想像に難くない。
(まぁ、それは覚悟しとったことか……)
流石にここで引き下がるのは無理だ。
作戦会議時のノヴ達の出発地を考えると、ようやく宮殿に近づいたところだろう。出口の設置する段階ではないはずだ。
(せめて、あと10分は稼がんとあかん!)
「逃がすか阿呆!」
ラミナはレイピアを具現化し、一気にビルの壁を駆け上がって、アモンガキッドへと突きを繰り出す。
アモンガキッドは口だけ念獣を操って、レイピアの切っ先から逃れる。
アモンガキッドは口だけ念獣から飛び降りて、ビルの屋上に下り立つ。
「やれやれ……。ここで戦ってもあまり意味はないと思うんだけ――いや……もしかしてミナっち、囮かい?」
宮殿で何かあったのではと考えていたアモンガキッドは、ラミナが無理に攻撃を仕掛けてきたことに疑問を覚え、別動隊が宮殿を襲撃したのではないかと思い至った。
ラミナの追撃が逆にアモンガキッドの推測を後押ししてしまったのだ。
だが、ラミナはここでアモンガキッドを足止めするしかないことには変わりない。
ただ、死闘が激しくなるだけのことだ。
ラミナはそれに答えずに、両手にブロードソードを具現化する。
アモンガキッドは再び8頭の大蛇を生み出して、迎え撃とうとする。
しかし、先ほどとは違ってアモンガキッドの殺気が張り詰めており、ラミナは冷や汗が噴き出すのを感じた。
それでもアモンガキッドに斬りかかるが、気づいた時には全ての大蛇が目の前にいた。
「!?」
ラミナは目を見開きながらも【一瞬の鎌鼬】を発動して、大蛇達を斬り飛ばしていくが、大蛇の1頭が右手に握っていたブロードソードに噛み付いて剣を溶かす。
直後、砲弾のように猛スピードでアモンガキッドが飛び蹴りを放ち、ラミナは直撃を浴びてくの字に吹き飛ばされた。
「がっ――!?」
「悪いけど、今日はここまでだよ」
アモンガキッドはすぐさま口だけ念獣に飛び乗った。
ラミナはビルを1つ飛び越えた先のビルの屋上に叩きつけられるように落下して、縁ギリギリまで転がる。
一瞬意識が遠のいたことでブロードソードが消滅したが、すぐに意識を取り戻してビルから落ちる前に片手で縁に捕まる。
「ゴホッ! ゴフゴホッ! ッッはぁ! はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……! くっ…そっ……!」
ラミナは痛みで顔を顰め、ビルの屋上に這いずり上がる。
「つぅ……! クソ蛇がぁ……!」
痛みに耐えながら攻撃された場所に目を向けると、
「あ?」
直系5mほどの煙の大玉が空に浮かんでいた。
モラウの【監獄ロック】だ。
「流石……! て、言ってやりたいとこやけど……!」
ラミナは大きく息を吸って、
「離れろやモラウ!!! ソイツはオーラを溶かす!!!」
大声で忠告する。
直後、6頭の大蛇が【監獄ロック】を突き破って飛び出してきた。
「クソ蛇、が……!!」
ラミナは身体に活を入れて起き上がり、全力でアモンガキッドの元へと駆け出す。
レイピアを具現化したラミナは跳び上がりながら、【監獄ロック】近くにいた一つ目念獣を【啄木鳥の啄ばみ】で仕留める。
あの一つ目念獣は戦いの始めからずっと上空からラミナとアモンガキッドを見下ろしていたのだ。
(とりあえず目を封じた!!)
ラミナは崩壊していく【監獄ロック】に跳び迫りながら、レイピアを消してバトルアックスを具現化する。
一つ目念獣が復活するが、その時にはラミナはすでに目の前まで迫っていた。
「【
オーラを限界まで籠めたバトルアックスを振り被り、目の前にいる
「――
大蛇に触れた直後、ペイジン上空にオーラが爆発して衝撃波が吹き荒れる。
モラウの煙はもちろん、流石のアモンガキッドも大きく吹き飛ばされ、ラミナもまた吹き飛ばされてビルの屋上に叩きつけられて勢いよく転がる。
今度はビルの縁に捕まることは出来ず、ビルの上から投げ出されて地面に向かって落下する。
しかし、地面に直撃する前に煙がラミナの真下に溜まり、クッションを形作る。
ボフン!!と勢いよく落ちたラミナは、フラつきながら立ち上がる。
そこにモラウが駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?」
「おう……助かったわ……。悪いけど、うちはもう限界や。オーラがスッカラカン……。もうまともに戦えん」
「十分だ!! 後は俺が何とかする!」
「アモンガキッドは無視せぇ。アイツの能力はうちらじゃ止められん。ノヴに連絡して脱出させぇ」
「ってことは、まだ【監獄ロック】から抜け出せねぇ師団長達の監視だな! 了解だ! お前はノヴのマンションの中でゆっくり休みな!!」
モラウは親指を立てながら駆け出していった。
その背中を見送ったラミナは、大きく息を吐いてビルの壁にもたれ掛かり、その場に座り込む。
「はぁ~……(【無垢村雨】でも良かったかもしれんけど、外したらシャレにならんかったし……。【天を衝く一角獣】は残り1発。ここで使うわけにはいかんよなぁ……)」
大太刀の能力【無垢村雨】は一度能力を発動すると、生物を斬らなければならない。
斬らずに能力を解除すると、無駄にストックを減らして、一週間具現化出来なくなる。
【天を衝く一角獣】は冗談抜きでストックが残り1しかない。
あの段階でもアモンガキッドを仕留める自信が持てなかったので使わなかったのだ。
ラミナは壁にもたれ掛かりながら立ち上がって、ふらつきながらペイジン内に設置されている【4次元マンション】の入り口を目指す。
アモンガキッドが来ると思っていたが、今の所来る気配はない。
(やっぱり王がおる宮殿が最優先っちゅうわけか。それにしても……やっぱ人形共がおらんな……)
ラミナは雨で濡れた前髪を掻き上げながら周囲を見渡し、街を移動する。
やはり人形兵の姿や気配を全く感じることが出来なかった。
(つまり、人形兵を操る余裕がないことが起こった? ……ノヴ達見つかったんちゃうやろな?)
宮殿の異変を知る由もないラミナは、嫌な推測が頭を過ぎる。
何とか無事に入り口に到着したラミナは、【4次元マンション】の部屋に入る。
ラミナは気だるげな雰囲気を隠すことなく、各部屋に設置してある救急箱に歩み寄り、服を脱ぎ捨ててタオルで身体を拭いてから治療を始める。
応急処置とばかりに腹部や脇の傷を消毒して、ガーゼと包帯を巻く。
すると、ティルガとブラールも部屋にやってきた。
「ん? おう、無事やったか」
「ああ」
「……」
「っちゅうことは、無事に仕留めたみたいやな」
「ハギャとモルモは間違いなく始末した。もう1人いたのだが、アモンガキッドが現れた時に姿を隠し、モルモを倒した直後にペイジンから逃げ出した」
「宮殿に戻ったっちゅうことか?」
「いや、真逆の方向だ。恐らくこの国から逃げ出す気だろう」
「……まぁ、アレくらいなら無視してええか」
ラミナは流石に戦える状況ではないし、ティルガ達を行かして、モラウ1人で戦わせるわけにはいかない。
兵隊長クラスであれば、他のプロハンターでも十分勝てる可能性があるので、少しくらいそっちに押し付けることにしたラミナだった。
「ティルガ、その箱に入っとる着替え取って」
「ああ。……大丈夫なのか?」
「まぁ、数日休めば、万全とまでは行かんかもしれんけど、十分に回復するとは思うで」
「そうか……」
ティルガはラミナに服を渡しながら安堵の息を吐く。
ブラールはティルガにタオルを渡し、互いに水気を拭う。
「……そういやぁ、どれくらい戦っとったんや?」
ラミナは携帯を取り出して、時間を確認する。
【4次元マンション】を出る直前に確認した時間から、約1時間20分が経過していた。
「……ここを出て、アモンガキッドらと対面するまで約20分くらいで……あっこからここに戻って来るまで20分、治療に10分くらいやとしたら……30分くらいか……。全っ然時間稼ぎ出来てへんやんけ……」
「いや、30分戦っただけでも十分すぎるぞ……」
思わずジト目を向けたティルガの言葉に、ブラールも大きく頷いた。
致命傷を負うこともなく、逃げ回っただけでもなく、互角ではなかったが間違いなくアモンガキッドと渡り合っていた。
ティルガとブラールも覗き見ていたが、目で追いかけるだけで精一杯だった。
自分達であれば5分も持たないだろう。
それほどの激闘だった。
(それにしても……我らの中で間違いなく最強と言えるラミナでさえも、抑え込むことすら出来ないとはな……)
ネテロと【アルケイデス】を除けば、間違いなくラミナが討伐隊の中で最も強い。
そのラミナでもアモンガキッドの攻撃を捌き切るので精一杯であるという事実はやはりティルガには衝撃的と言わざるを得なかった。
(そんな相手が他に3体……)
正直、考えるだけでも恐ろしい。
「ティルガ。悪いけど、飯が入った箱取って」
「む……ああ」
ティルガは携帯食や缶詰が入った段ボールをラミナの元へと運ぶ。
タンクトップとハーフパンツ姿のラミナは、一番上にある缶詰を手に取り、蓋を開けると勢いよく食べ始めた。
ティルガとブラールも座り、
「……本当に作戦は大丈夫なのか? 護衛軍4体を相手に同じことをするのだろう?」
「相手と戦い方次第やろ。まぁ、ゴンとキルアはちとヤバイけどな」
ゴンとキルアの能力は絡め手に向いていない。
純粋な真っ向勝負でネフェルピトーを抑え込まなければならないのだ。
「もしかしたらお前もゴンの方に行ってもらうかもしれんでな。覚悟はしときや」
「……分かった」
「とりあえず、ジジイ共が王を隔離して倒すまでは逃げまくってもええで」
「……逃げ回れる自信すらないのだが……」
「なら、倒す気で頑張るんやな」
「……」
ラミナは
ティルガは天井を見上げて、諦観に目を瞑る。
だが、ラミナは立ち上がって箱を抱え上げる。
「いっぺん出るで」
「む?」
「アモンガキッドが宮殿に戻るやろうからな。……もし、ノヴがやられたら、この空間がどうなるか分からん」
「!! ……そう、だな……。承知した」
そして、ラミナ達は【4次元マンション】を出て、雨宿りできる場所を探すのだった。
その少し前。
アモンガキッドはビルの屋上で大の字で倒れていた。
「まったく……してやられたねぇ……」
ボヤきながら体を起こす。
「本気で戦うとなると【
【
放出、操作、具現化の複合能力のため、【
同時発動出来たとしても、遠隔操作は出来ないため、自分の目の前や近くでなければならない。
「さて……これからが面白いところだったんだけどねぇ……」
アモンガキッドの衣服や顔布はボロボロではあるが、目立った外傷は見当たらなかった。
「やっぱりピトっちの人形がいないねぇ……。何があったのかねぇ」
アモンガキッドは口だけ念獣を具現化して飛び乗った。
直後、猛スピードで真上に上昇し、雨雲ギリギリまで上がる。そして、その高さのまま高速で移動を開始したのだった。
____________________
●おいちゃんの! 能力紹介ー!
・【
具現化系、放出系、操作系の複合能力でねぇ。
直系1.5mほどの鋭い牙を持つ口だけ球体の念獣を生み出すの。
残念ながら大した能力はないんだよねぇ。一杯生み出して、一杯で噛みつくだけ。
・【
これも具現化系、放出系、操作系の複合能力だよ。
直系1mの球体の一つ目念獣さ。
高性能の【凝】が出来るおいちゃんの眼。
これも同時に一杯生み出して、監視カメラみたいに使うだけだねぇ。
ちなみに元ネタは『ナザル・ボンジュウ』っていうトルコのお守りだよ。
『メデューサの眼』、または『ホルスの眼』とも呼ばれる代物でねぇ。嫉妬や羨望、悪意の視線を跳ね返すって言われてるんだよ。
おいちゃんはもちろん『メデューサの眼』をイメージしてるよ?
・【
おいちゃん最強の能力でねぇ。
操作系、変化系、強化系の複合能力だよ。
まだこの作品では出てないけど、パームちゃんの【暗黒の鬼婦神】に近いかねぇ。
髪を操作して8頭の大蛇を形作って、強化して、変化系能力で束ねた髪を蛇の見た目にして、オーラを毒に変えてるの。
毒は何でも溶かしちゃう。オーラ、つまり相手の念能力でも溶かせるんだよねぇ。
ただ、この毒は大蛇の牙からしか出せないから、噛みつかないと効果が発揮しないんだよねぇ。
それとあくまで『溶かす』だけで、毒も念能力には違いないから、ミナっちの【儚く脆い夢物語】や【不屈の要塞】には残念ながら勝てないんだよねぇ。
あ、【ポットクリン】ちゃんは溶かせるよ?
元ネタは名前の通り、伝説の魔獣『ヒュドラ』。
イメージはそうだねぇ……FGOのゴルゴーンさんの大蛇かねぇ。……レーザーは吐けないからね?
ということで、おいちゃんの能力は全部複合型ってわけさ。
だから、いくら護衛軍のおいちゃんでも全部同時に十全に発動・操作は難しいんだよねぇ。流石に集中力やオーラの消費が激しいからさ。
『足止め30分弱って短すぎじゃない?』
と、思われるかもしれませんが、実は原作でも「護衛軍戦」はここまで長い戦闘時間はなかったりします。
ナックルシュートコンビとユピーさんの戦いは、ポットクリン解除まで含めて『突入から11分弱』と言う衝撃の事実。
ラミナさんは超頑張ったんです!