暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#135 センニュウ×ト×カンバック

 時間は遡る。

 

 メレオロンを背負ったノヴは、慎重に、されど大胆に宮殿へと近づいていた。

 

 ネフェルピトーの【円】は未だに復活していない。

 すでにノヴ達は【円】の範囲内にいるのだが、少しでもメレオロンの息を温存するために姿を見せたままで移動している。

 

(ここで【円】が復活したら一環の終わり……。だが、このチャンスに怖気づいている間にアモンガキッドが戻ってきたら目も当てられない)

 

 ラミナ達が命を懸けて稼いだ時間を、命惜しさに無駄にしたとなれば、それは失敗よりも最低だ。

 死ぬ可能性を承知の上で、プロハンターの誇りを持ってここにいるのだから。

 

(失敗を覚悟するならば、ここは1分1秒でも早く宮殿に辿り着いて1個でも出口を設置すること!)

 

 ノヴは覚悟を決めて、更に強く地面を蹴る。

 雨でぬかるみ滑りそうになるも、それでも猛スピードで駆け抜けていく。

 

 作戦開始から5分。

 ノヴとメレオロンは無事に宮殿外壁入り口へと到着した。

 

「はぁ……はぁ……生きた心地がしないな……」

 

「ああ。でも、ここまでは想定以上に順調だぜ」

 

「そうだな。そして……ここからが本番だ」

 

 メレオロンは顔を引き締めて力強く頷く。

 ノヴはペイジンがある方向に顔を向けて、近づいてくる影がないか確認する。雨で視界不良ではあるが、それでも見える限りでは近づく影は1つもない。

 

 再びメレオロンを背中に背負い、ノヴは遂に宮殿敷地内に足を踏み入れた。

 同時にメレオロンが息を止めて、【神の不在証明】と【神の共犯者】を発動する。

 

 最初に踏み入れたのは、宮殿入り口前の庭園。

 

 雨ということを除いても、全くと言っていいほど人気がない。

 故に()()に目が行くのは自然なことだった。

 

 宮殿正面入り口前に、10本の樹が左右に5本ずつ並んでいた。

 しかし、樹を覆っていたのは葉ではなく、巨大な繭の群れ。

 

 ノヴは根元に潜り込んで、繭を見上げる。

 薄っすらとではあるが、繭の中には人の姿が見えた。

 

(やはりこれが『選別』されて生き残った人間達。話にあった念能力を造る繭)

 

 素早く他の樹々も観察する。

 

(1本につき約500。ラミナとキルアの撹乱で『選別』は1日で中断された。人口500万人を10日間で『選別』するとなると、1日50万人を『選別』。それでその1%が生き残ると考えれば約5000。計算は合う!)

 

 つまり、数日後にはこの樹が100本並ぶことになる。

 作戦が失敗すれば、この庭園を埋め尽くして余りあるほどの繭の林が出現する。

 

 それだけは絶対に避けなければならない。

 

(数日後には5万人もの念能力を持つ兵士が誕生する。その後ろには会長やラミナですら勝つ自信がないと言わせるほどの化け物が5体。ハンター協会に現在登録されているプロは1000人にも満たない。戦力差は完全にひっくり返る……!)

 

 最悪の事態は間違いなく実現が近づいている。

 時間の余裕は、もうない。

 

 ノヴは気を引き締め直し、指にオーラを集めて地面に丸を描く。

 指を滑らせた跡には文字が綴られた線が描かれ、魔法陣が如く円を完成させると最後に中心を軽く突く。これで出口の設置完了である。

 

(『遠い出口』だが、これで最低ラインは満たした……! だが、まだまだ遠い!)

 

 ノヴは肩越しにメレオロンを見る。

 メレオロンは小さく頷いたのを確認して、ノヴは再び駆け出す。

 

 そして『中間の出口』を宮殿入り口前に設置する。

 

 ノヴは宮殿内部に滑り込む様に侵入し、入り口傍にある大きな柱の陰に身を隠す。 

 周囲に人やキメラアントの姿は確認出来ず、外からも見えにくい場所であること、【円】や念獣などの存在もないことを確認したノヴは頷いて、メレオロンの手を叩いて合図を送る。

 

「プハ~!」

 

 メレオロンは息を吐いて、一度能力を解除する。

 

「周囲に気配はない。ゆっくり息を整えろ」

 

 メレオロンは深呼吸をしながら頷くだけで応える。

 

 ノヴは柱の陰から顔を出して、先を見る。

 

(見張りはいない……。恐らくは宮殿内にいるのは10匹弱の蟻とビゼフのみで、人間の護衛はすでに餌になったか、逃げだしたか、人形にされたか……)

 

 監視はネフェルピトーの【円】とアモンガキッドの念獣がいれば、事足りるということなのだろう。

 そう考えたノヴはやはり今が最大にして最後のチャンスだと確信する。

 

(少しでも作戦の成功率を上げるならば、ベストは宮殿3階中央玉座入り口。だが、それは王と護衛軍の鼻先まで近づくということ。メレオロンの能力があれば不可能ではない。不可能ではないが……()()()()()()()()()()()()()

 

 メレオロンの能力【神の不在証明】、2つ目の弱点。

 

 『メレオロンとその共犯者が離れれば痕跡を感知することが出来るようになる』ということ。

 

 ただの人間相手であれば、そこまで問題はない。

 

 だが、相手は動物の能力を持つキメラアント。

 『臭い』を嗅ぎ取れる者が多いのが、この潜入作戦最大のリスクなのだ。

 

 そして、()

 

 ノヴは入り口に視線を戻す。

 

 そこにはノブ達が通った跡を教えるかのように()()()()()()()()

 

(誰かがこの後、ここを通れば気づかないわけがない。臭いも残っている。追尾されれば、侵入者の存在や王に近づこうとした者がいたことがバレてしまう)

 

 ここで出来る限り水滴を落とし切るべき。

 

 そう判断したノヴは、服や髪を叩いて水滴を払う。それを見たメレオロンも素早く水滴を払う。

 

(つまり、今のベストは2階の中央階段……!) 

 

 設置場所を決めたノヴは、メレオロンに背中を向ける。

 メレオロンは素早く背中に乗り、大きく息を吸って息を止める。

 

 同時に2人の姿が消える。

 

 ノヴは一度反対側の柱へと回り、中庭を目指す。

 

 

 しかしその途中、ホールに続く廊下から1体の兵隊蟻が目の前に現れる。

 

 

((!!))

 

 警戒してなかったわけではないが、やはりこの緊張した心理状態での唐突な遭遇は動揺せざるを得なかった。

 メレオロンは口を片手で押さえて息が漏れるのを必死に堪える。

 

 ノヴはすぐに冷静になり、後ろに大きく跳び下がる。

 そして、背後に回り込んで、そのまま通り過ぎた。

 

 兵隊蟻は一瞬足を止めて周囲を見渡して首を傾げるが、ノヴ達に気づくことなくそのまま進んでいった。

 

 ノヴも振り返らずに、中庭に続く入り口を出る。

 一気に中庭を抜けたノヴは中に入る前に、一度メレオロンに呼吸させる。

 

 そして、息を整え終え能力を再発動したノヴ達が中央階段前に近づいた、その時。

 

 

 ノヴの携帯が再び震えた。

 

 

(!!)

 

 ノヴは目を見開いて、歯を食いしばる。

 

「アモンガキッドが帰ってくる……!」

 

「!」

 

 取り決めておいた作戦中断コール。

 

 アモンガキッドの足止め()()の合図。 

 

 しかし、

 

(止まるな……! ここまで来れば階段を駆け上がって、そこに出口を設置する!)

 

 ノヴは足を止めずに階段を一気に駆け上がる。

 

 だが、半ばまで上がったところで、

 

 

((!?))

 

 

 不気味で凶悪なオーラが目の前に迫ってきて、本能的に足を止めてしまった。

 

 ゆったりと壁を築くかのように階段上を満たしていくオーラに、ノヴはメレオロンの能力があっても飛び込める気がしなかった。

 

(……なんだ、このオーラは……!? この世のあらゆる不吉を孕んでいる様……!)

 

(たとえバレなくても……絡め捕られる予感がある……!)

 

 まるで蜘蛛の糸を張り巡らせたかのような。

 

 そして、一度絡まったら二度と抜け出せない予感が頭から離れない。

 

 ノヴとメレオロンは一気に冷や汗が噴き出す。

 

(これが……これが護衛軍のオーラ……!? こんな…こんな凶悪なオーラを持つ奴を相手に、ラミナは時間稼ぎのために戦ったというのか……!?)

 

 ノヴは護衛軍のオーラを間近に視たのは、これが初めてだった。

 

 化け物と呼ばれる護衛軍と言っても、所詮は師団長の1つ上。

 ノヴはどこかでそんな考えがあった。

 

 ネテロの『儂より強くね?』という言葉も単純にネテロがしばらく前線から出ていなかっただけだから。

 闇社会に生き、幻影旅団の1人のラミナが化け物と呼んでも、まだ若いのだからキルア達同様比較対象が少ない故の言葉だとどこかで思っていた。

 

 だが一番愚かだったのは自分だったと、ノヴは嫌でも思い知らされた。

 

 

 何が何でもNGLで終わらせておくべきだった。

 

 

 こんな化け物と戦うなんて、冗談ではない。

 

 

 ノヴは覚悟にヒビが入ったのを自覚した。

 

 

 だが、絶望は手を緩めない。

 

 

 

バシャン

 

 

 

 背後で水が跳ねる音がした。

 

 同時にノヴとメレオロンは心臓が握り潰されるような圧迫感に襲われた。

 

 

「ん~~~? ピトっちの【円】はないけど、戦ってる気配もないねぇ」 

 

 

 現れたのはオーラではなく、オーラの放出元。

 

 アモンガキッド。

 

 服はボロボロだが、目立った傷も出血もない。

 

 そして隠そうともしない、目の前に漂う凶暴なオーラにも負けない薄気味悪いオーラ。

 

 絡め捕られたら一息に丸呑みされそうな、闇のように底知れない不気味さ。

 

 今度こそ間近で浴びせられた化け物のオーラに、 

 

 

 ノヴの心が、覚悟が、パキリと割れた。

 

 

(動けな…い……!)

 

 前門の不吉、後門の闇。

 

 ノヴは透明になっていることなど頭から吹き飛んでいた。

 

 アモンガキッドはゆったりとした足取りで中央階段を上り始める。

 

 ノヴはそれを息を潜めて、音を立てないようにゆっくりと端へと寄る。

 

 

 その時、メレオロンがノヴの肩を叩いた。

 

 

「!!」

 

 ノヴは弾かれたように階段から飛び降りる。

 四肢を着いて着地したノヴは、頭をフル回転させる。

 

(ここは一度退く!? いや、だが奴が戻ってきた以上、すぐにこの宮殿内は念獣で溢れかえる! 奴が状況を把握する前に、ここに出口を設置するべきだ!)

 

 ノヴは階段下傍に走りながら、メレオロンを振り返る。

 メレオロンはすでに限界そうな顔ではあるが、その瞳は――

  

(まだ行ける!!)

 

 と、言っていた。

 

 ノヴはそれを信じて、何も言わずに階段の傍に屈んで、全身全霊を懸けて出口を設置する。

 

 出口を設置し終えたと同時にノヴは全力ですぐ近くの通路口へ向かって駆け出す。

 

「アモンガキッドはピット器官を持っている……! 庭園に出るまで耐えろ!!」

 

 メレオロンに声をかけて、全速力で走る。

 

 ここで【4次元マンション】を使って逃げ出すのは簡単だ。だが、ここで使えば不自然に臭いが途切れ、侵入者は特殊な移動手段があることを教えるようなもの。

 

(まだ使えない……! せめて敷地の外に出るまでは……!)

 

 今にも背後にアモンガキッドが現れそうな恐怖に耐えながら、庭園に出たノヴは足を止めずに走り続ける。

 

「今だ!」

 

「っ!!」

 

 メレオロンは勢いよく息を吐く。

 

 庭園にノヴとメレオロンの姿が出現する。

 しかし、メレオロンはそのまま息を吸って止め、能力を再発動した。

 

 ノヴはそのまま走り続ける。

 すると、周囲を猛スピードで一つ目念獣の群れが飛翔する。

 

(!? バレた……!?)

 

 ノヴとメレオロンは体が竦みそうになったが、一つ目念獣達が外壁の上や宮殿の角の上に陣取ったのを見て、

 

(いや、違う。監視網を敷いただけ……! 大丈夫だ、まだバレていない……!)

 

 だが、いつ見つかってもおかしくない布陣が完成した。

 

 ここで見つかれば、本当にアモンガキッドが、いや、全ての護衛軍が、王が、自分達を()()()()()

 

 その事実と恐怖に、ノヴの心がまたバキリとヒビ割れる。

 

 それでも走り続ける理由はただ1つ。

 

 

 早くここから逃げ出したい。

 

 

 ただそれのみである。

 

 出口を消されないようにではなく、メレオロンを逃がすためでもなく、人類を救うためでもなく、プロハンターとしてやり遂げたいわけでもない。

 

 

 ただただ、あの化け物達に喰われたくない。

 

 

 その恐怖から逃れるために両脚を動かしていた。

 

 そして、ノヴは宮殿から飛び出したのと同時に【4次元マンション】の入り口を開いて、メレオロンと共に飛び込んだ。

 

 【4次元マンション】の一室の天井から飛び降りたノヴは、そのまま四つん這いに崩れ落ち、メレオロンはその背中から仰向けに倒れて大きく息を吐いた。

 

「「はぁ! ……はぁ! ……はぁ! ……はぁ!」」

 

 2人はしばらくそのまま荒く呼吸することしか出来なかった。

 

 呼吸が落ち着いてくると、ノヴは体がガタガタと大きく震え始めた。

 ノヴは蹲ったまま両腕で身体を抱える。

 

 メレオロンは体を起こして、震えるノヴに慌てて声をかける。

 

「お、おい! 大丈夫か……!?」

 

「……なんでだ……」 

 

 ノヴは震えながら小さく呟いた。

 

「なんで、ラ、ラミナ達は……あんな……あんな化け物と、た、戦えるんだ……? 戦おうと思えるんだ……!?」

 

「……」

 

 メレオロンはその言葉で理解してしまった。

 

 ノヴの精神()が折れてしまったことを。

 

 護衛軍の恐怖に、屈してしまったことを。

 

 メレオロンは何度もあの化け物達と顔を合わせてきたので、ある程度耐性が出来ていたことがノヴとの大きな差だった。

 

「くそぉ……くそお……! 無理だ……俺はもう……あそこには行けないぃ……!」

 

 涙を流しながら必死に震えを抑え込もうとするノヴ。

 だが、それでも恐怖は大きくなれども消えることはなかった。

 

(カイトを救うため? 人類を守るため? なんで戦えるんだ?)

 

 自分よりも年下で、ハンター経験も未熟な若者達は何故あのオーラを視て、オーラに触れて、殺し合ってもまだ戦えるのか。

 

 ノヴは理解出来なかった。

 

 ゴンは死ぬことよりも、殺されることよりも、カイトをあのままにして死なれる方が嫌なだけだ。

 

 キルアはゴンが1人で死ぬ方が怖いからだ。

 

 ラミナは元よりまともな死に方が出来るなどとは思っておらず、オーラが不気味なくらいで怖がっていては闇社会では生きていけなかっただけだ。

 

 はっきりと言えば、ノヴの思考や反応が普通である。

 ラミナはもちろん、ゴンやキルアも普通の子供、普通の思考回路を持っているとはお世辞にも言い難い。

 故に考えたところで納得も理解も出来ないだろう。

 

 しかし、現状において最も活躍していて、今後も活躍が期待されているのは、間違いなくこの3人である。

 

 もっとも、今回の戦いは全てにおいて前代未聞で異常事態が常のようなものだ。

 だからこそ、普段ではズレた思考回路と常識の持ち主である者達が、優れた戦士のように見えるのだ。

 

 プロハンターは基本的に変人が多いのだが、ノヴは能力や求められる役割から常識人寄りの感性を持っていた。

 

 今回はそれが災いしてしまった。

 

 メレオロンは震えているノヴに無理に声をかけることはしなかった。

 

 すでにノヴは役割を果たした。

 これ以上下手に無理をさせると、本当に精神が壊れてしまう。その場合、苦労して設置した出口はもちろん、この【4次元マンション】が崩壊する可能性がある。

 

 

 ノヴはここでリタイヤさせた方がむしろ良い。

 

 

 メレオロンはそう判断した。

 メレオロンはノヴの背中を軽く叩くと、立ち上がって扉へと向かう。

 

 扉を開けて外に出ると、そこはペイジンの端だった。

 

 メレオロンは身体を透明にすると、周囲を警戒しながらモラウとラミナ達を探し始める。

 

(ピトーが【円】を使ってなかったことを考えると、操り人形もいないはず。アモンガキッドも宮殿に帰った。ってこたぁ、今ペイジンにいるのはハギャやウェルフィン達のはず……。後はモラウの旦那達がどこまで戦ったのかだが……とりあえず、今はウェルフィンにだけは見つかるわけにいかねぇ……!)

 

 ウェルフィンに自分がここにいることがバレれば、宮殿に残っているであろう臭いでバレてしまう可能性がある。

 

(雨である程度臭いは誤魔化せるとは思うが、宮殿内で潜んでた場所はそうはいかねぇはずだ。ここで遭って臭いを覚えられれば、俺が忍び込んだことがバレちまう……! そうなりゃノヴの苦しみが水の泡になる。それだけは許しちゃいけねぇ……!)

 

 メレオロンは素早く、されど慎重に街中を移動する。

 壁を登り、ビルの屋上に上がると、少し離れた場所に煙のドームのようなモノが見えた。

 

(あれが旦那が話してた煙の牢獄って奴か……!)

 

 メレオロンは警戒を強めながら、【監獄ロック】へと近づいていく。

 すると、少し離れたビルの屋上のモラウの姿を発見した。

 

 メレオロンはモラウの近くまで近づき、

 

「旦那、モラウの旦那……!」

 

「ん? ……誰だ?」

 

「俺だ。メレオロンだ」

 

「!!」

 

 メレオロンは小声でモラウに声をかけ、モラウはメレオロンが現れたことにサングラスの下で目を丸くするも、流石の判断力でメレオロンの名前は呼ばずに、親指で方向を示した。

 

 メレオロンは一瞬だけ姿を見せて頷き、すぐに姿を消して移動を始めた。

 モラウも【監獄ロック】から目を離さずに移動を始め、変化がない事を確認してからようやく背を向けた。

 

 移動した先はラミナ達が潜んでいた屋根があるバルコニーのような場所だった。

 

「お前が帰ってきたっちゅうことはノヴもか? それともノヴは捕まって、お前だけ【4次元マンション】で逃がされたんか?」

 

「安心しな。ノヴも無事だ……命はな」

 

「命は? おい、まさか……」

 

「怪我もしちゃいねぇよ。だが……心の方が、な」

 

 俯きながらのメレオロンの言葉に、ラミナとモラウ達はノヴの状態を察した。

 

 ラミナは僅かに眉間に皺を寄せて、

 

「……発狂する可能性は?」

 

「……そこまでじゃねぇとは思う。だが、もう護衛軍とは……宮殿には突入出来ねぇだろうな」

 

「……そうか」

 

「宮殿で何を見たんや?」

 

「お前らが戦いを始めたのと同時刻、何故か宮殿をずっと覆っていたネフェルピトーの【円】が消えた」

 

「……【円】が消えた?」

 

「ああ。罠かもとは思ったが、近づいても一向に【円】が復活する気配はなかったぜ」

 

「ペイジンの人形達が消えたのとほぼ一致するっちゃあするな」

 

「……人形だけやなくて【円】まで? つまり、警戒を全部中断するほどの何かが宮殿で起こっとった?」

 

 ラミナは顎に手を当てて考え込む。

 

「俺達も気になったが、まずは出口を設置することを優先した。で、庭園、宮殿入り口、宮殿内中央階段下側の傍に出口を設置出来た」

 

「下側? 2階は行けなかったのか?」

 

「階段を上がろうとしたら、そこにオーラが張られたんだよ。あのオーラ……多分護衛軍のシャウアプフだ。情けねぇ話だが、俺達はそれを目にしたところで足が竦んじまったんだ。……そこに、アモンガキッドが帰って来てな。ニアミスしかけた。あの時は【神の不在証明】が発動してたとは言え、心臓が止まるかと思ったぜ……」

 

「……片方はオーラだけとは言え、護衛軍2人に同時に挟まれたわけか……」

 

「ああ。何度か奴らと会ってる俺でもヤバかったんだ。初めて護衛軍を目にして、特に緊張で張り詰めてたノヴにはかなりキツかったんだろうな」

 

「……そうか」

 

「まぁ、ノヴの山場はこれで終わりや。次に働かせるとしたら、仕事が終わって撤退する時や。しばらく休ませるか、サポートでええやろ」

 

「そうだな」

 

 モラウは神妙な顔で頷く。

 ラミナは立ち上がって、モラウに顔を向ける。

 

「モラウ、もうあの師団長共逃がしてもええで。正直、流れはこっちにあるけど、うちはもう戦えんし、ノヴも動けん。ここで無理してお前やティルガまで下手に傷でも負ったら本番に響いてまう」

 

「……だな。分かった」

 

「うちはティルガ達にメレオロンも連れて、いっぺんキルア達と合流するわ。お前も一度【4次元マンション】で身体休ませや。後はこれまで通り、煙人形でペイジンを包囲しながら、あっちの動きを牽制しとって」

 

「おうよ。ノヴの方も俺がフォローしとく」

 

「任せるわ。ほな、今のうちに車でペイジン出るで」

 

「分かった」

 

「……」

 

「ああ」

 

 その後、ラミナ、ティルガ、ブラール、メレオロンは車でペイジンを離れ、モラウは【監獄ロック】を解除すると同時に【4次元マンション】に潜って身体を休めることにしたのだった。

 

 

 そして、【監獄ロック】から解放されたウェルフィンとブロヴーダが、目にしたのはレオルとモルモの無残な死体と、人気を全く感じないペイジンの街並みだった。

 

 

 




メレオロンがいたとは言え、流石にプフのオーラとキッドさんに挟まれたら心折れますよね。
書きながら本当にノヴさんには申し訳ない気持ちになりましたね……。クリスマスイヴにゴメン、ノヴさん……。

と言うことで、以前感想で『【4次元マンション】潜りながら進めば良いのでは?』という御意見があったことへの返答が今話となります。
兵隊蟻を仕留めていないので、ウェルフィンが侵入者に気付く可能性は減ってしまいましたが、『臭いや水滴、血は残る』ことから違和感を持たせないように【4次元マンション】はギリギリまで使わないということにさせて頂きました。

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