暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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メリークリスマス!

久しぶりに恐ろしく集中出来、あっという間に書けてしまったので投稿します。

今日は何ともう1話、投稿します!


#136 カクゴ×ハ×オモク

 ペイジンでの決戦翌日の午後。

 

 ラミナチーム、ゴンチーム、ナックルチームはペイジン近くの都市外れの廃屋に集まった。

 

 キルア、ゴン、イカルゴが到着した時、ラミナは亡命希望の軍部内通者から無理矢理支給させた食糧を食べていた。

 そのすぐ傍には空箱や空の缶詰が大量に転がっていた。

 

「おぉ、来たか。ほれ」

 

 ラミナはキルアに缶詰を放り投げる。

 

「……なんだよ、いきなり」

 

「どうせ果物とか魚ばっか食うとったんやろ? 食わんと体力戻らへんぞ」

 

 キルアは顔を顰めるが、ラミナの指摘通りだったので反論も文句も言えなかった。

 ゴンは首を傾げて、

 

「ラミナ、怪我は大丈夫なの?」

 

「別に致命傷は負ってへんから問題ないで。まぁ、作戦本番までは休ませてもらうけどな」

 

 食事の手を止めることなく、肩を竦めて答えるラミナ。

 

 そこにナックルが潰れたテーブルの上に色々と紙を広げ始める。

 

「よし。全員揃ったし、現状と作戦本番について打ち合わせするぜ。集まってくれ」

 

 ナックルの呼びかけにゴン達は素直にテーブルの周りに集まる。

 ラミナはキルアの横に座り、2人の間には大量の食糧が入った箱が置かれる。

 

「さて……簡単には聞いてるとは思うが、ノヴさんとメレオロンの尽力で宮殿内に出口の設置が成功した。これで突入手段の確保は完了した」

 

「……ノヴさんは大丈夫なの?」

 

 ゴンはラミナとメレオロンに顔を向ける。

 ラミナは肩を竦め、メレオロンは難し気に顔を顰める。

 

「大丈夫、とは言えねぇな。怪我は一切負っちゃいねぇが、心は間違いなく折れちまってた」

 

「やから、ノヴは作戦本番には参加させん。まぁ、元々アイツを前線に出す気はなかったけどな」

 

「これはモラウの旦那も承知済み。ってことで、当日にノヴさんのマンションから宮殿に突入するのは10人。俺、シュート、ゴン、キルア、イカルゴ、メレオロン、ラミナ、ティルガ、ブラール、そしてモラウの旦那」

 

「会長は?」

 

「会長は独自に雇った協力者と別口で突入する。ピトーの【円】の外から来ることになるから、俺達よりも数秒遅れる。そして、俺達はその数秒で王と護衛軍を分断する」

 

 ナックルの言葉にゴン達は顔を引き締めて頷く。

 それに頷き返したナックルは、宮殿の簡単な見取り図を指差して説明を再開する。

 

「宮殿に設置した出口は3か所。庭園、宮殿入り口、そして一階の中央階段傍。王と護衛軍がいるであろう場所は、その中央階段を上った三階の玉座の間だ。つまり、俺達が突入する出口の第一候補はここ、中央階段!」

 

 ナックルは地図上の中央階段を指で叩く。

 

 キルアは顎に手を当てて考え込んでいる。

 

(確かに普通に考えれば、それがベスト。けど……)

 

 キルアはメレオロンに顔を向ける。

 

「メレオロン。お前らが宮殿に侵入した時、ピトーの【円】は消えてたんだな?」

 

「ああ、間違いねぇ」

 

「ついでに奴の人形兵もペイジンから消えよったで。アモンガキッドも戸惑っとったから、まず何かしらのアクシデントが起こったんやろうな」

 

 ラミナが新しい缶詰を開けながら捕捉する。

 キルアは再び顎に手を当てて思考に耽る。それにゴンやイカルゴは首を傾げる。

 

「何か気になるの?」

 

「そりゃな。護衛軍の最優先事項は『王』。これは疑いようがない事実だ。だから、あの状況……キッドがペイジンに出ている時にピトーが【円】を消して、人形兵を引っ込めるのはありえないはずなんだ」

 

「やけど、そのありえへんことが起こった。その理由をある程度考えとかんと、突入時に想定が外れて作戦どころやなくなるかもしれんっちゅうことやな」

 

「ああ」

 

「ネフェルピトーの【円】が消えた後、宮殿の警戒に動いたんはシャウアプフとアモンガキッド。シャウアプフの【円】は二階までで、一階はアモンガキッドの念獣で補った。せやな?」

 

「ああ、間違いねぇ」

 

「つまり、ネフェルピトーはオーラを他のことに割く余裕がない状態やったっちゅうことになる」

 

 ラミナはキルアの思考を手助けするように話す。

 

 ゴンやイカルゴ、ティルガ達も腕を組んで考えるが、やはり答えは出なかった。

 

「……ラミナはどう考えてるんだ?」

 

 同じく答えを思いつかなかったシュートがラミナに訊ね、キルアも含めて全員が視線をラミナに向ける。

 ラミナは小さくため息を吐く。

 

「はぁ……少しは自分らで考える努力せぇや」

 

「それで分かんないから訊いてるんじゃん」

 

 ゴンが開き直ったようにあっけらかんと言い放ち、それにラミナは額に青筋を浮かべ、

 

(そういやぁ、コイツいっぺん殴らなあかんかったわ)

 

 と、八つ当たりしようと決めていたことを思い出した。

 

 だが、今はそれを横に置いて、待つのも面倒なので説明することにした。

 

「まずアモンガキッドが宮殿を出た以上、ネフェルピトー達が王の傍から離れるんはまずありえへん。つまり、ネフェルピトーは宮殿にいながら、王の護衛以外に意識を向ける必要があったっちゅうことや」

 

 これは先ほどにも話していたので、誰からも異論はない。

 

「ここで思い出すべきは、ネフェルピトーにはもう1つ能力があるっちゅうことや」

 

「もう1つの能力?」

 

()()()()や。腕が斬り落とされたはずのカイトを治した能力」

 

 ラミナが告げた内容に、ゴンやナックルは顔を顰め、ティルガやメレオロンは思い出した表情を浮かべる。

 

「念を使っての治療は、その範囲に関わらず極度の集中力と大量のオーラが求められる。まず間違いなく【円】や他の能力にオーラを割く余裕はないはずや」

 

「……つまりあの時、ピトーは誰かの治療をしていた?」

 

 キルアが眉間に皺を寄せて考え込む。

 

 イカルゴも眉を顰め、

 

「でもよ、ただでさえ戦力が減った状態で【円】を解いてまで、誰を治療するんだよ? 王なら分かるけど、あの王を怪我させられる奴なんていないだろ?」

 

「他の護衛軍とかじゃないの?」

 

「いや、それはあり得ない。護衛軍が他の護衛軍のために王の守護を疎かにするなど、まず考えられない」

 

「俺もティルガに同意だ。まぁ、王が命令すれば絶対とは言えねぇが」

 

「っちゅうことはや、ネフェルピトーが治療したんは王で、王を傷つけたんは王自身っちゅう結論が一番になりよるな。おもろい事に」

 

 ラミナの結論に全員が唖然とする。

 しかし、確かに一番可能性が高いのは、その結論になる。一番納得出来る。

 

 だが、そうなると次の疑問は、

 

「なんで王が自分で自分を傷つけんだぁ!? どんな状況だよ、そりゃあ!?」

 

 ナックルが全員の頭を過ぎった疑問を口にする。

 しかし、ラミナは、

 

「んなもん知るかい」

 

 とのうのうと言い放った。

 

「テメェが言ったんだろうがアァン!!」

 

「お前らが訊いてきたんやろが。うちかて確信持てへんかったから、口にする気なかったわ」

 

 だから、訊かれるまで何も話さなかった。

 推測を裏付ける情報もないのに、推測だけ語ってもただ惑わせるだけだ。

 

(けど、正直この推測が当たっとる気はしとる。それに……なんや見落としとる気がしてならん)

 

 すでに手元にあるのに、気づけていない。

 そんな気がしてならない。

 

 そして、似たような感覚をキルアも感じていた。

 

(何か良くないことが起こってる気がしてならない。このままだと、作戦自体が破綻しそうな何かがある……!)

 

 ゾルディックの血を受け入れたからこその感覚。

 あらゆる事態を想定して暗殺するタイミングを決めてきたキルアは、あまりにも想像できない事柄が多すぎて、どうにも不安が頭を過ぎる。

 

「話を戻すぞ! とりあえず、ノヴさんがいなくなっちまったが、それぞれのターゲットは変わらねぇ。それはいいな?」

 

 ナックルの言葉にラミナ以外の全員が頷く。ラミナは新しい缶詰に手を伸ばしていた。

 それにナックルは目くじらを立てるが、回復に努めているということは理解しているので必死に飛び出しそうになる怒号を呑み込んだ。

 

「一応再確認しとくぞ! 俺とシュート、メレオロンがユピー。ゴン、キルア、イカルゴがピトー。モラウの旦那がプフ。ラミナ、ティルガ、ブラールがキッドを引き付ける」

 

「ちょい待ち。ティルガとブラールには残りの師団長を相手してもらうで」

 

 ラミナがティルガとブラールを見ながら告げる。

 ティルガは一瞬目を丸くするも、意図を理解してすぐに頷いた。

 

「承知した」

 

「……」

 

「……確かに護衛軍との戦闘中に、師団長の横入りは面倒だな……」

 

 シュートが眉間に皺を寄せながら言う。

 

「でも、大丈夫なのか? 生き残ってる師団長って4匹くらいいるだろ?」

 

「別に倒せとは言わん。ジジイ連中が王を連れ去るまでの間、護衛軍に逃げられる隙を作らせたぁないだけや」

 

 キルアの言葉にラミナは食べながら答え、キルアも納得したように頷いた。

 

「問題は突入直後だ。連中からすりゃあ、俺達はいきなり自陣のど真ん中に現れる。そうなると、奴らが本能的に取る行動は――」

 

「身をもって王を守ること!」

 

「けど、ここから全員をバラバラにするのは簡単じゃないな……」

 

 守られると言えど、動きも戦闘力も最も要注意なのは王だ。

 王が攻めかかって来れば、まず作戦は失敗すると考えるべきだ。

 

「それを少しでも成功率を上げるのがパームなんだが……」 

 

「パームは昨日?」

 

「……ああ。昨日、ビゼフの野郎に呼ばれて宮殿に入ったと亡命者から連絡が入った」

 

 パームは変装して、ビゼフの貢ぎ物として潜入した。

 

 目的は王と護衛軍を目視して、脱出すること。

 

 パームは目視した者を水晶を通して動向を監視することが出来る。

 少しでも早く護衛軍の元に辿り着き、分断するための重要な任務。しかし、目視することが必要なため、化け物全員に近づく必要がある。それはつまり、相手にも見つかる可能性が非常に高い超ハイリスクな任務であるということ。特に【円】を使うネフェルピトー、ピット器官と念獣を操るアモンガキッドへの接近はほぼ自殺行為に等しい。

 

 故に成功すれば超御の字レベルで、ぶっちゃけ人柱に近い作戦なのだ。

 なので、ノヴやモラウは無理ならばビゼフのみを監視し、宮殿内の監視システムを無効化するだけに留めるようにと言われている。

 

「昨日の今日だ。流石にまだ動くに動けねぇだろうが……」

 

「宮殿にはキッドの念獣がうようよしてるしなぁ……。あれを掻い潜るのはかなり厳しいと思うぜ?」

 

 シュート、ナックル、メレオロンの言葉にゴンは心配そうに眉尻を下げる。

 

 それにキルアが口を開こうとした時、

 

「お前は人の心配しとる場合ちゃうやろ、ゴン」

 

 ラミナが冷たく言い放つ。

 

「ゴンだけやない。ここにおる全員、他人に気を配る余裕なんざないで」

 

「んだとぉ!?」

 

「他を気にして戦える相手ちゃうぞ、護衛軍は。お前とキルアは嫌という程理解しとるやろが。今度は逃げられんのやぞ」

 

 全員が猫の手も借りたいほどの状況だ。

 戦力の余分は一切ない。それどころか減ってしまったばかりだ。

 

 他人の心配して、戦いに集中できないなど現状一番許されない言い訳と言えるだろう。

 

「うちもモラウも、万全な状態で戦えん可能性が高い。お前らをサポートできる余裕はない。特にうちは護衛軍に思くそ警戒されとるやろうしな。ジジイが王を連れ去るためには、うちらは真っ向からバケモン相手に最低でも1分。時間を稼がなあかん」

 

 一度見向きもされず、全力で逃げ出した相手から1分。

 

 普通ならば余裕と言えるのだが、今回はたった1分が恐ろしく長く感じさせる。

 

「ノヴは護衛軍のオーラを視て、近づかれただけで折れよった。殺気も何も籠められとらんオーラでな」

 

 だが、ゴン達は絶対に敵意や殺気を向けられる。

 しかも、王のすぐ傍に現れた敵だ。

 

 その時のオーラは、アモンガキッドでさえ、想像を絶するほどの邪悪さが籠められているのは想像に難くない。

 

 その時、まだ戦う気力が残るかどうか、こればかりはラミナですら自信がない。

 

「ジジイ共が去った直後に殺される覚悟、しときや。どんな理由、どんな目的があろうとな」

 

 ラミナの言葉に全員が息を呑む。

 唯一護衛軍と戦ったラミナの言葉に、流石のナックルも言い返すことは出来なかった。

 

 

「お前に一番言うとるんやぞ、シュート」

 

 

 ラミナはシュートを鋭く見据える。

 

 シュートは大量の汗を掻いて固まり、ナックル達はシュートに視線を向けた。

 

「っ……!」

 

「な、なんでシュートを名指しすんだよ……!?」

 

「ナックルとメレオロンが組むからや」

 

「「!!」」

 

 ナックルとシュートは目を丸くする。

 

「ナックルの【天上不知唯我独損】を活かすなら、メレオロンの能力は絶対必要条件や。バレずに近づいて殴り、殴り返されないようにせなあかん」

 

「……」

 

「お前らが相手にするモントゥトゥユピーは強化系。一撃まともに喰らえば、確実にポットクリンは消える。つまり、ナックルは奴が破産するまで姿を見せることは出来ん」

 

「あ……!?」

 

 ゴンもようやく理解したのか、目を丸くしてシュートを見つめる。

 ティルガやイカルゴも同じく驚きを露にする。

 

「言わせてもらうで。うちの予想が正しかったら、モントゥトゥユピーが破産するまでの時間は、最低でも10分を楽に超える」

 

「なっ……!?」

 

 ラミナが口にした時間にナックル達は目を限界まで見開く。

 

「10分だとぉ!? テメェ、10分もすりゃあポットクリンのカウントは10万を越えるんだぞ!? それでも破産しねぇってのか!?」

 

「せんな。絶対にせん」

 

 ラミナは表情を変えずに断言した。

 

 それにナックルは出まかせでも何でもないと嫌でも理解させられた。

 

「……本気かよ? 10万オーラっつったら、ボスやお前よりも多いんだぞ?」

 

「アモンガキッドと戦った感じやと、うちよりも倍はある。ティルガが師団長のハギャから聞いた話やと、モントゥトゥユピーは強化系。アモンガキッドより多いことはあっても、少ないことはまずないやろな。それに……」

 

「それに?」

 

「ティルガ達の話やと、モントゥトゥユピーは身体を自由に変化させることが出来るらしい。そんで、モントゥトゥユピーには動物の特徴が特に少ないっちゅうんもな」

 

「……それがなんだってんだ?」

 

「阿呆。お前、翼を自由に生やしたり、腕を増やせる動物見たことあるか? うちはないで」

 

「でも、複数の動物が混ざった奴もいただろ?」

 

「おったな。けど、大抵は知能が低い雑魚ばっかで、師団長や兵隊長格は基本的に単一の動物の特徴が強く出る傾向にある」

 

「……確かに」

 

「もちろん、護衛軍ならありえへんとは言わん。やけど、それ以上に納得出来る獣がおる。……魔獣や」

 

 告げられた名前にキルア達は今度こそ絶句する。

 

 あれだけの戦闘力だ。そして、あの広大な自然を持ったNGLだ。魔獣とて生存していてもおかしくはないし、食料にされていてもおかしくない。

 

「オーラは生命エネルギーや。元々の生命力が高ければ、自然とオーラはデカくなる。これはもうこれまでのことから否定出来ん。となるとや、普通の獣より凶暴で生命力が高い魔獣と混ざったモントゥトゥユピーは、他の護衛軍より生命力が高いんは容易に想像出来るやろ?」

 

 そこに強化系となれば、更に身体能力が優れている可能性が高い。 

 

「理解できたか? シュート。お前はそんなバケモン相手に1人で時間を稼がなあかんねん。奴が破産するまで、たった1人で」

 

 何度も言うが、人的余裕は全くない。

 シュートを援護する人材は絶対に現れない。

 

「まぁ……ナックルが能力を発動した後に姿見せて2人で戦うっちゅう手はあるで? ただその場合、8割9割の確率でモントゥトゥユピーは倒せへん」

 

 【天上不知唯我独損】の効果範囲は半径100m。

 ずっとその中で逃げ続けるのはかなり厳しいと言わざるを得ない。更にモントゥトゥユピーがシュートを優先的に狙う可能性もある。

 

「シュートも能力を発揮するには直接攻撃せんとあかん。ナックルも姿は見せても、攻撃を食らわんようにせんとあかん。かなりシビアな戦いを強いられる。それに求められる覚悟は、お前らが思てるよりもずっと、強いで」

 

 重く告げられる言葉に、シュートは右手を握り締める。

 

 本心ではナックルにも戦ってほしい。だが、作戦を考えればナックルは潜み続けるべきだ。絶対に攻撃されてはならない。

 そのためには10分以上、1人で戦い続けなければならない。戦いが好きでもなく、得意とも思っていない自分には荷が重すぎると考えてしまう。だが、それでは何のためにナックルとメレオロンに危険を強いるのか。

 

(俺はここまで来て……まだ!!)

 

 キルア達の想いを受け取った。そして、それはまだ果たせていないではないか。

 

 

 まだカイトは救えていないではないか。

 

 

 そのために戦おうとしているゴンとキルアを見捨てて、己はまた怖気づくのか。楽で安全な道を選ぶのか。

 

 シュートは右手を握り締める。

 

 その隣でナックルも歯を食いしばっていた。

 

 俺も戦うというのは簡単だ。仲間を助けることに戸惑うことなど何もない。

 だが、それは同時にナックルもシュートも共倒れする可能性を著しく上げてしまう。そうなれば、その尻拭いをするのは、己の師や自分が一度叩き潰した未熟な後輩か、いけ好かない暗殺者だ。

 

(それで俺は仕方ねぇと死ぬのか? テメェの勝手を他人に押し付けて?)

 

 この任務に同行してから自分は何を成した?

 

 ナックルはシュートと同様に自問自答する。

 

 カイトは救えたか――否。

 

 蟻を倒したか――否。

 

 王や護衛軍と語り合ったのか――否。

 

 何一つ満足に成していない。

 なのに、ここでまた我を押し通すのか。

 

 それは違う。

 

 もちろん、本番になれば状況次第で変わるだろうが、少なくとも現段階ではナックルはシュートを信じて堪えるべきだ。

 べきなのだが……やはり、心が納得しない。

 

「……まぁ、まだ4日ある。パームのこともあるし、じっくりと考えや」

 

 ラミナは2人の葛藤を感じ取って、全員に言い聞かせるように告げる。

 

「思考を止めんな。あらゆる事態を想像せぇ。全てに対する心構えを固めとき。それが戦場で生き残る最大の武器や。あり得ないと分かっとっても、それが偶然起こる可能性を否定すんな。それが心を持つ奴を殺しに行く時の鉄則やでな」

 

 これからの戦いは、たった1秒動きを止めれば即死に繋がるのだから。

 

「うちらがここに揃っとること自体がすでにありえんかったことやと理解せぇ。やから、作戦本番でもありえんことは絶対に起きるで」

 

 ラミナはメレオロンとイカルゴに視線を向けながら言う。

 数日前まで敵だと思っていた、または敵として戦った者が、今は仲間としてここにいる。普通ではあり得ない。

 

 もうこの戦場に『当たり前』『常識』『絶対』は存在しない。

 むしろ、それらこそが疑わしい。

 

 

「もう援軍は呼んだところで間に合わんやろう。今更来ても、よほどの実力者でもない限り、奴らと相対した時に発狂して死体が増えるだけや。うちらがやるしかないねん。やから……覚悟、決め直せ」

 

 

 悪夢が実現しない戦場など、ありはしないのだから。 

 

 


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