暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
2日後、国民大会まであと2日まで迫った。
覚悟を問われたナックル達は、この2日間悩みに悩んでいた。
そして、覚悟を問うたラミナはというと――
爆睡していた。
「スゥー……スゥー……」
「……コイツ、あんだけ脅しておいてこの緊張感の無さはなんだよ……」
ナックルは悩み過ぎてもはや苛立つ気力すら湧かなかった。
ただただ部屋の隅っこで食っちゃ寝を繰り返しているラミナを、呆れながら見ていた。
シュートやメレオロン、イカルゴも同じ思いでラミナを見ていたが、
「少しでも体力とオーラを回復させようとしてるんだよ。モラウが今も動き回ってるからな」
ラミナのすぐ傍で同じく体力を回復させようと食事を続けていたキルアが、ラミナをフォローする。
モラウは今も【紫煙機兵隊】でペイジンを包囲し続けている。
ちなみにウェルフィンとブロヴーダは昨晩に宮殿へと撤退したらしい。
今はチラチラと姿を見せる人形兵とにらみ合いを続けていた。
「人形兵が戻ってきたってことは、ネフェルピトーの【円】も復活したってことだな」
「ああ」
「……パームは大丈夫かな」
部屋の中で腕立てや腹筋をしていたゴンが、再びパームの名前を口にする。
ゴンはナックルに顔を向けて、
「パームから連絡は?」
「いや……まだねぇ」
「……どうにかして連絡取れないかな?」
「無理だろうな」
キルアがゴンの想いを冷たく切り捨てる。
「キッドの念獣にピトーの【円】だ。もう脱出は不可能と言ってもいい。マルコスって亡命者から聞いた話じゃ、多分パーム達が連れて行かれたのは宮殿地下の格納庫。地下で宮殿から5kmくらい離れてるからピトーの【円】には引っかからないだろうけど、携帯は持ってないし使えないだろうし、ビゼフから奪って使えるとしても師団長の誰かに電波がキャッチされる可能性がある」
「……」
「連絡がないってことは、死んでるか潜んでるかのどっちかだ。万が一奴らに見つかったら自ら死を選ぶ。あいつはその覚悟で敵地に向かった」
「こちらから彼女の様子を探ろうとするのは、彼女の覚悟を侮辱する行為だ」
キルアとシュートの言葉にゴンは反論出来ずに俯く。
「おい、ちょっと言い過ぎだろ! ゴンはパームが心配なだけで――」
「だから、そんな余裕はないってラミナにも言われただろ?」
「んだと……!?」
「パームには脱出が不可能な時は、俺達の潜入を手助けする準備をするように言われてる。だから、俺達にとって大事なのは、パームが作戦本番に向けて準備を整えてくれてるって信じることだろ!?」
キルアの言葉にナックルは二の句が告げなくなる。
「しかし……もし見つかっていたらどうするのだ?」
ティルガが言いにくそうな顔を浮かべながら口を開く。
だが、ここで言わなければ、パームのことはギリギリまで話題にならない可能性を考慮したからだ。
キルアはそれに頷いて、
「最悪なのは、死を選んでもピトーに無理矢理治療されて生け捕りにされること。その場合、俺達のことは十中八九敵にバレてる」
「……そうなると、俺達は飛んで火に入る夏の虫というわけか……」
「どこに出口を仕掛けたかは知らないはずだけど、ノヴの能力を聞いた護衛軍なら設置候補なんて簡単に推測できる可能性がある。意気揚々と出口から飛び出したら、逆に護衛軍と師団長達全員が待ち構えてる可能性だってある」
「まぁ、やから、突入前にブラールの能力で宮殿を覗いてもらうつもりや」
いつの間にか起きていたラミナが、寝ころんだまま告げる。
「起きてたのかよ」
「こんな周りでゴチャゴチャ話されたら起きるわ阿呆」
ジト目をナックルに向けるラミナ。
そして、眠たげな顔のまま、ブラールに視線を向ける。
「突入の1時間前に宮殿内に梟を1羽飛ばしてもらうで。もちろん、姿を見えんようにしてな」
「……」
ブラールは小さく頷く。
ラミナは体を起こして伸びをする。
「ん~~!……はぁ」
「調子はどうなのだ?」
「ん~……まぁ、流石に万全は無理やろな」
右肩を回しながらティルガの問いに答えるラミナ。続いて、ラミナ以外の視線がキルアに視線が向く。
「俺はもう問題ねぇよ。傷もほぼ塞がった」
事実キルアはすでに包帯を全て外している。
露になってる腕には傷痕は全く残っていなかった。
「後はボスか……」
「……流石にモラウさんでもここまでオーラを使い続ければ、万全までは戻せないだろう」
「まぁ、モラウは戦闘よりも【監獄ロック】での足止めに集中してもらえばええやろ」
ラミナは立ち上がってストレッチをしながら言う。
そして、調子を確かめるように【練】を発動する。
それを見たナックルは違和感を感じ取った。
(ん? ……コイツ、もうオーラが完全に回復してねぇか?)
ナックルは経験と勘で相手のオーラを数値化してきた。
なので、ラミナのオーラ総量も何度か数値化している。ライバル視しているが故に。
その経験からラミナのオーラ量が以前同等まで回復してるようにナックルは感じた。
しかし、
(だが、確かにまだオーラが漲ってるとは言い難ぇ……。ってこたぁ、コイツ……! この数日でオーラの最大容量を増やしたってのか!?)
ナックルはラミナの成長度合いに目を丸くしていた。
実力的には己の師であるモラウをも凌駕し、オーラ量においても同等以上だったが、今回で完全にモラウを凌駕したとナックルは感じていた。
そして、もう1人。
キルアもまたラミナの気配が大きくなったように感じていた。
(なんか一回りデカくなったような……。近づいてたのに、また距離が開いた気がする)
ビスケやヒソカと同じ領域にいると思っていたラミナが、ここでまだ急成長するのはやはり衝撃だった。
だが、それはそれだけラミナであっても激闘だったということだ。
それは分かっているつもりだった。
分かっていたと思い込んでいた。
しかし、こうしてまた強くなったラミナを見て、キルアはやはり自分はまだまだ弱いのだと思い知らされた。
(事実、俺は護衛軍相手に数十分も戦えない。多分、爺ちゃんや親父、兄貴はラミナと同じくらい戦える……。奴らは確かに恐ろしく強い。それでも……絶対に勝てない存在でもないんだ……)
たとえ種族は違くとも、同じ念能力を使う以上、勝つ可能性は必ずある。
(つまり……単純に俺がまだまだ弱いだけなんだ……)
これも分かっていたことだ。
分かっていたつもりだった。
だが、ここまで戦ってこれて、また勘違いしそうになっていた。
ラミナと肩を並べて戦えて、浮かれていたのだ。
キルアは両手を握り締める。
(まだこれじゃダメだ……! 俺は……まだラミナと肩を並べられない……!)
ラミナと肩を並べられるほどの強さを得たい。
ゴンと共に戦うことよりも先にそう思ったことに気づき、その理由を理解するのは……もう少し先のことだった。
その夜。
宮殿、玉座の間では1つの転機が訪れていた。
「名は……なんと申す?」
王が1人の少女に名を訊ねた。
杖を手に持つ目を閉じた少女。
東ゴルトー発祥の盤上遊戯『軍儀』のプロ棋士であり、これまで将棋、囲碁、チェスなど1日足らずでプロを圧倒してきた王が数日経った今でも1勝も出来ていない。丸一日、食事とトイレ以外はずっと打ち続けていても、未だに王は少女の足を掴めていない。
それどころか、少女の覚醒はこれからだった。
一度休憩することにし、少女が王の前を辞去する際、王は初めて、少女の名を訊いたのだ。
「ワダすの、ですか……?」
「他に誰がいる」
「……コッ、ココ、コムギ! です……!」
コムギはどもりながら名を名乗る。
「コムギか……うむ」
反芻して名を頭に刻んだ王。
しかし、その直後、王は予期せぬ言葉をかけられる。
「総帥様は……」
「?」
「総帥様のお名前は……なんとおっしゃられるのですか?」
意を決した顔で訊ねてきたコムギに、王は目を丸くして固まってしまう。
何故なら王は、己が名を知らないからだ。
目が見えないコムギは返答が来ないことに首を傾げるが、その後も何も言われなかったので悲し気に眉尻を下げ、頭を下げて玉座の間から去って行った。
(余の……名前……)
王はしばらく座ったまま、自問自答を繰り返す。だが、いくら王でも知らない事柄の答えは出ない。
故に頼りにする腹心達に訊ねることにした。
王はバルコニーに出て、すぐ目の前の塔の天辺に座っているネフェルピトーに声をかける。
「ピトー!」
ネフェルピトーは呼ばれるとは思っていなかったので、少し驚きながらもすぐに目の前に移動する。
「はっ! なんでございましょう?」
しかし、王はそれに答えず、背後に顔を向ける。
「プフ!」
「はっ」
「ユピー!」
「はっ」
「キッド!」
「はい」
近くに控えていたシャウアプフ達は名を呼ばれると、すぐにネフェルピトーの左右に並んで跪く。
「いかがなされましたか?」
シャウアプフが改めて訊ねる。
どこか心ここにあらずという様子の王は、腕を組んでシャウアプフに顔を向ける。
「プフ」
「はっ」
「……そう、お前はプフだ」
突如名前を確かめ始めた王に、ネフェルピトー達は意図が分からずに内心首を傾げる。
「余の……余の名前は、なんという?」
まさかの問いかけに護衛軍は表情を変えることはなくとも、心の中では驚いていた。
「……恐れ乍ら申し上げます。王は王です。それ以外の何者でもなく、唯一無二の存在……! 今は様々な紛い物がその名を無断で使っていますが、全て排除、抹殺致します。『王』と言えば、世界中の誰もがたった1人の存在を思い浮かべる様……」
「それはただの前提であろうが。王は称号。称号は所詮冠で名前ではない」
シャウアプフの言葉に反論した王は、そのままモントゥトゥユピーに顔を向ける。
「ユピーはどうだ?」
「私には荷が勝ちすぎる問題……。到底答えを持ち得ることかないませぬ」
普段から考えることが苦手なモントゥトゥユピーは正直に答える。
その性格を理解している王は、咎めることなく次にネフェルピトーへと訊ねる。
「ピトー」
「……んー……やはり王ご自身のお気持ちが一番大事で御座います。王ご自身が最も相応しいと思われる名を付けられるのがよろしいかと……」
「ふむ……キッド」
最後に問いかけられたのはアモンガキッドである。
「そうですねぇ……。人間で言えば、多くの場合は親や目上の者から授けられます。我ら護衛軍もまた、女王から名を与えられました。しかし……」
「……続けよ」
「はい。王の御母堂であらせられる女王はすでにこの世におらず、今この地に王より目上の者など存在致しませんからねぇ……。故に、王に名を授けることが出来る者がいるとすれば……ピトーの言う通り王ご自身か、王が認めた者のみかと……」
「ふ…む……まぁよいわ」
「王よ、御名前は選別の後でも、遅くはありません。まずは明日! 滞りなく作業を完了させることが先決で御座います」
何か嫌な予感がしたシャウアプフは、無理矢理話を明日から始める選別へと話題を変えた。
しかし、やはり王はその言葉には反応を見せず、どこか上の空だった。
「……王。何か……?」
「何か気掛かりがおありならば、私め等に……。我々は、そのために此処にいます」
「……コムギの全身が、光に包まれていた」
「……コムギ?」
「アカズの女だ」
シャウアプフは咄嗟に顔を下に向けて、王から顔を隠す。
今にもコムギに対して怒りが爆発しそうだったからだ。
「覚醒したのだ。コムギは飛躍的に強くなるだろう。軍儀に限っての話だがな。……ピトー」
「はっ」
「もしもコムギを今回の……明日やる方法で『選別』をしていたらどうなっていた?」
「死んでますね。あくまで『選別』は兵士足りえる肉体と精神の持ち主を選ぶためのやり方ですから。生き残るのは戦闘能力が極めて高い者だけです」
「……うむ」
はっきりと告げるネフェルピトーに王は静かに頷いた。
「……コムギと出会って、強さにも色々あると学んだ。例えば、ここへ来る途中に余は、子供を殺した。あの子供ももしかしたら、ある分野で余を凌駕する才を目覚めさせていたかもしれぬ。その芽を……余は抓んだ。大した意味もなく……抓んだ」
まるで懺悔するかのような言い方に、シャウアプフは心が張り裂けそうになっていた。
絶対の王、唯一無二の王に、後悔の念は相応しくないと。
他者を顧みるなど、似合わないと。
しかし、
「くくく、くくくく!」
不敬と断罪されても止めようとした矢先、王が突如笑い始めた。
「だとしたら、何という強さ! 理不尽に現れ、他の数多ある脆い強さを奪い、踏み躙り壊す……! それが、余の力……!」
王は不敵の笑みを浮かべ、絶対の自信を漲らせていた。
「暴力こそ、この世で最も強い能力!!」
確信をもって断言した王は、そのまま護衛軍一同に声をかけることなく悠然と歩き去って行った。
王の背中を見送ったネフェルピトー達はゆっくりと立ち上がると、
「私は……護衛軍失格です」
突如シャウアプフが跪いたまま涙を流し始めた。
「? 何で?」
「どしたのプフっち」
「見当違いの誤解で先走り、危うく王を侮辱するところでした……。王が自分の行いに悔いているのではないかと……馬鹿なことを考えて」
「お前はいつも深読みしすぎなんだよ」
モントゥトゥユピーが呆れたように、シャウアプフに言い放つ。
「ええ……それだけのこと」
「ん~~、でも確かに王はあの娘が来てから少し変わったニャ」
「ええ、それは事実……」
「別にいいじゃないの。
「……人間などと関わったところで、成長など出来るわけがありません」
「それは王様が判断することだよ、プフっち。おいちゃん達の偏見で王様の視野を狭めるわけにゃいかないと、残念ながらおいちゃんは思うよ?」
「……」
シャウアプフは冷え切った瞳を、アモンガキッドへと向ける。
だが、空気が読めないモントゥトゥユピーが腰に手を当てて、
「どうでもいいけどよ。王にとってあの娘が邪魔なら殺せばいいじゃねぇか」
「……あぁ……私があなたと同じ思考レベルだったなんて……」
考えることが苦手なモントゥトゥユピーと全く同じことを考えていたことにシャウアプフは少なからず心にダメージを負う。
アモンガキッドとネフェルピトーは顔を見合わせて、肩を竦め合う。
「ねぇ、キッド」
「なんだい?」
「あの子になんか思い入れがあるの?」
「なんで?」
「だって、
ネフェルピトーは今も【円】を使っている。
それでコムギがいる西塔の迎賓の間で起こっていたことも当然気付いていた。
窓から飛び込んできた鷹に襲われていたコムギを、アモンガキッドの口だけ念獣が食い殺して助けたことを。
「そりゃあ、王様のお客様だからねぇ」
「ん~~、でもあの子を守れなんて言われてないでしょ?」
「でも、ここであの子が勝手に死んだら、王様は軍儀で負けたままだし、王様が自分で殺せないじゃないの。さっきの様子からすれば、王様が納得するとは思えないんだよねぇ」
「まぁねぇ……」
「おいちゃんはあの子を大事にするなら、それはそれでアリだと思うよ? おいちゃん達じゃ、王様の暇潰しの相手も出来ないんだからさ。娯楽は必要だよ、娯楽はさ」
「確かにニャア……」
「そういえば、
「んニャ。実はキッドが捕まえた後に自殺しようとナイフで自分の心臓を刺しちゃって」
「あらら……」
「どうせハンターだろうからニャ。プフと相談して改造実験に使うことにしたよ」
「ふぅん……まぁ、そっちは任せるよ。おいちゃんは他にも鼠がいないか、ちょっと地下倉庫の方にも目を光らせておくからさ」
「うん」
アモンガキッドはヒラヒラと手を振って、ネフェルピトー達の前から去る。
その視界には、迎賓の間にて傷だらけのコムギに驚いている王の姿が映っていた。
そして、王が何か声をかけると、コムギは突然大泣きし始め、王は困惑した表情で立ち尽くしていた。
「……やっぱり、王にとってあの子は特別な存在になりつつあるみたいだねぇ。さっきの名前も……あの子に訊かれでもしたかな?」
王達の様子を見ながら、王の変化について考える。
正直なところ、アモンガキッドはコムギと関りを持つことに関しては否定する気は全くない。
護衛軍は『王を守る為』にいるのであって、『王を管理する為』にいるわけではない。
故に『王とはどういうものか』を決めるのは、王自身であって護衛軍がそこに口出しする資格は一切ない。
しかし、最近シャウアプフは少々干渉し過ぎな言動が目立ち始めている。
もちろん、それは王を至上に想うが故ではあることは承知している。
だが、やはりアモンガキッドと思う在り方とは違った。
「生物統一は必ずしも圧政でしか為せないモノじゃないからねぇ。あの子の存在は、おいちゃん達にはない力を持つ存在を引き入れる架け橋になりそうな気がするんだよねぇ。……ミナっちも、あの子と会えばこっちに来てくれるかな?」
人間の記憶を持つアモンガキッドからすれば、必ずしも人間全てを下等と決めつける考えはない。
自分達とて得意不得意があるのだ。
少しでも王を支えてくれる存在が多い方がいいに決まっている。
自分達は、決して不老不死ではない。
自分達の生まれ方が、それを証明している。
「王様。もっとたくさん話しなよ。もっとたくさん触れ合いなよ。もっとたくさん迷いなよ。もっとたくさん知りなよ。もっとたくさん試してみなよ。王様の生き方は……決して1つじゃない」
アモンガキッドは唯一無二の存在をただただ見守り、支える。
その感情は、決して臣下が抱えるものではないことを、まだ気付いていない。
「王様が進みたい道を阻むモノは、ぜぇんぶおいちゃんが噛み砕いて、溶かし尽くすから」
だが、護衛軍としての在り方を見失っているわけでもない。
王を守る為に全身全霊を尽くす。
世界が崩壊しようと、護衛軍の存在意義は絶対に変わらない。
「あぁ……残念だなぁ……」
それが何を示すのか、知るのは本人のみである。
ラミナは子供の頃から念を会得しているので、オーラ量は多い方だと思います。戦い方もかなりオーラを消費するものですし。
そして、ここ最近色々と巻き込まれて(笑)、激戦ばかりなので成長しないのはあり得ないよなぁと思いましたので、超激戦を超えたここで成長させました。サイヤ人方式ですw。
私の感覚的にラミナのオーラ総量は85000くらいです。