暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
これで今年の更新は最後となります。
期間が空いたりしましたが、今年もたくさんの方々に呼んで頂き、本当に感謝しかありません。
コロナが猛威を振るう中で、拙作が少しでも皆様の支えになったのであればこれほどうれしい事はありません。
来年も楽しんで頂けるように、自身もこの作品を支えに頑張っていこうと思いますので、これからもよろしくお願い致します。
作戦まで遂に24時間を切った。
ナックルとシュート、メレオロンは先にペイジンへと潜入し、モラウと合流するために移動した。
ラミナ達とゴン達はまだペイジン近くの森小屋で待機していた。
ラミナは体の調子を改めて確認する。
(やっぱ完全回復とはいかんか。まぁ、8割は戻ったんやし良しとせなあかんな。身体も怠さは少し残っとるけど、戦闘にそこまで支障はなし)
最低限と言えるラインはなんとか満たしたと判断したラミナ。
(けど、あの蛇を倒すだけで手一杯なんは変わらなさそうやなぁ……。奴を引き連れて他の護衛軍のところにゃ行けんやろうし。奴を倒さん限り、他の場所への救援はまず無理か)
ラミナは背後でキルアと打ち合わせしているゴンに目を向ける。
(落ち着いとるようやけど……パームのことと言い、妙に不安定さが目立つ時があるんがなぁ……)
特にそれが目立つのは、誰かの死が過ぎった時であることをラミナは見抜いていた。
やはりカイトのことがあまりにも影響を及ぼしている。
それはこれまでのゴンを考えれば当然のことではあるのだが、ここ最近その不安定さがやはり嫌な予感として頭に過ぎる。
(この前も感じた見忘れた奴と繋がっとる気がしてならん)
だが、未だに何を忘れているのが分からない。
しかし、それが何よりも重要なのだと、ラミナの勘が告げていた。
(下手したら、ゴンが戦場で使いもんにならん可能性がある……。けど、あのノヴに宮殿内に入り口作れとは流石に頼めん。それこそノヴが先に壊れる)
一度突入したら、終わるまで何があっても退くことは出来ない。
ネフェルピトーは広大な【円】の使い手だ。隠れる場所は地下しかないが、それでは逃げ場が無くなってしまう。
だが、今更ゴンを外す選択肢は取れない。
誰も納得しないだろう。このタイミングで下手にモチベーションを下げるのは下策だ。
(厄介なんはゴンが死んでもキルアや他の連中に影響が出そうっちゅうことなんよなぁ)
ラミナはため息を吐く。
そこにキルアが声をかけてきた。
「ラミナ」
「あん?」
「イカルゴなんだけど、パームの捜索を任せようと思うんだ」
「ええんちゃうか? イカルゴは護衛軍との戦いには力不足やろうしな。パームと、パームと一緒に連れてかれた……」
ラミナは僅かに目を見開き、言葉を途中で止める。
「? どうした?」
突然言葉を止めて考え込み始めたラミナに、キルアやその様子を見ていたゴン、ティルガ達は首を傾げる。
ラミナは顎に手を当てて、
「そうや……他の人間……! 宮殿に連れ去られたっちゅうプロ棋士……!」
ペイジンの住民から盗み聞きした話だ。
そして、思い出すのはアモンガキッドの言葉。
『今、王様は暇潰しで人間達と戯れている。ただ殺して奪うだけの暴君じゃなくなってきてる』
つまりそれは、王が生かす価値があると認めた人間がいる可能性があるということ。
(もし、ソイツが王が自分を傷つける理由やったとしたら……!?)
ラミナは考えられる不測の事態を高速で頭の中でリストアップしていく。
(………あかん。王とソイツの関係性に確信が持てん……!)
「おい、ラミナ。どうしたんだ?」
「……いや、まだ確信が持てんからええわ」
「逆に気になんだろ」
「……数日前、王達がこの国におる盤上競技のプロ棋士を数人宮殿に連れ去ったらしい」
「プロ棋士?」
「王の暇潰しや思うんやけどな」
「……ソイツらがまだ生きてて、その内の誰かが王を傷つける原因になったって言いたいのか?」
「否定できるか?」
「……」
ラミナと思考が近いキルアは答えられなかった。
キルアも前に感じた胸騒ぎの正体がそこにある気がしたからだ。
「ブラール。突入直前の梟の監視、もう1羽増やしてんか? もし玉座の間におったら作戦の邪魔になる」
「……」
ブラールは小さく頷いた。
それにイカルゴが腕を組んで、
「もし、そんな人間がいたらパームよりそっちを先に助け出した方がいいか?」
「玉座の間におったら放置でええ。下手に連れ出したら逆に王や護衛軍が追いかけてくるかもしれんし。他の部屋におったら、うちらは作戦優先で、イカルゴに任せる」
「お、俺の判断で動くのか……!?」
「王にとって死んでほしない人間で、戦いに巻き込まれそうやったら先に逃がしたらええし。王からも護衛軍からも離れた場所におったら、とりあえず放置でええと思うで。タコのお前が声掛けるより、パームと一緒の方が説得しやすいやろうし」
「タコって言うなあああああ!!」
「ほな尖がった白い帽子探してきて、全身ペンキで白くして来いや」
「……スイマセンでした」
流石にそこまでする勇気はなかったイカルゴはラミナに凄まれて一瞬で萎む。
ティルガは腕を組んで眉を顰める。
「しかし……本当にまだ生きているのか? 【円】が消えてから、もう3日は過ぎた。もし、その者が原因で王が傷ついたのであれば、護衛軍が黙ってはいないだろう」
ティルガの言葉にキルア達も悩まし気な表情を浮かべて、ラミナに顔を向ける。
もちろん、ラミナも顔を顰めて、
「確かにその可能性もある。やけど、もし生きとったら?」
「……良くも悪くも王も俺達も引っ掻き回す爆弾になりかねない」
「そういうこっちゃな。ちっ……ジジイ共がどう王を連れ出すか分からんのが腹立つわ」
ネテロとは携帯が通じず、アルケイデスはそもそも携帯を持っていない。
ネテロ達の宮殿への接近方法が未だに不明なのだ。
もちろん、本命であるネテロの突入方法が漏洩しないためではあるのだが、こうも不確定要素が多い状態ではやはり作戦のすり合わせがしたい。
作戦を指揮する立場であるモラウは消耗し、ノヴはリタイヤ、ラミナも護衛軍への対処で手一杯になる。
つまり、ゴン達は当たり前ながら、イカルゴやティルガ達にも独自判断で動いて貰わなければならない。
そのためにあらゆる事態への対処法を教授するのが一番確実だが、あまりにも経験がないティルガ達に伝えるには時間がなさすぎる。
何より相手は王と護衛軍。
こちらの戦術は容易く予想出来るだろう。
「……なんかもう国民、殺した方が一番効果的な気ぃしてきたわ」
「そんなことしたら俺達全員A級首にされて、ハンター協会潰れちまうだろ」
「うちは問題ないでな」
「……そうだ。コイツもうA級首だった……」
「ゾルディック家のお前も大した差ぁないで」
「けど、そんなことしたら流石にモラウやナックル達がブチ切れるぞ?」
「知るかい、んなもん。元々うちの依頼者は別口や」
あくまで一番効率的だからネテロ達の作戦に参加しているだけだ。
そして、ゴンやキルアのことでジンやシルバ達に余計な口出しされないように近くで見張りたいというのもある。特にゾルディック家がメンドクサイことになりそうだった。
「くそ~……もう少し早よ思い出しとったら、【シーフ】や【チャリオット】とか呼び寄せたのに……」
「クモの連中は?」
「間に合わんわ。っちゅうか、来てええんか? クロロまで来たら、うちでも止めれんぞ。護衛軍や王を仲間にしてええんか?」
「……絶対やめてくれ」
「まぁ、クロロも師団長と遭遇したらしいから、もしかしたらもう近くまで来とるかもしれんけどな。来んことを祈っとき」
「はぁ!?」
「師団長の1匹を殺したんはクロロや。流星街とは別口みたいやし、王達に興味を持つ可能性は否定出来んでな。で、クロロが来るなら全員来るやろなぁ。……マチ姉にカルトの奴も」
「げっ!」
「まぁ、それはそれで戦力としては最高やけどな。勝った後が怖いで。ハンター協会の方は、な」
「……連絡は?」
「知りたないからしてへん。する気もない」
「……」
ジト目を向けるキルアに、ラミナは肩を竦めるだけで答えた。
これ以上この話をすると本当にクロロ達が現れそうだと思ったからだ。
(……正直、マチ姉が何も連絡してこんのがめっちゃ怖い)
マチとてクロロがキメラアントと戦ったのは知ってるはずだ。
あの姉がクロロと流星街に面倒事を持ち込んだラミナに連絡してこないのはありえない。
最低でもメール、もしくは電話1本くらいかけてくるはずだ。
だが、それが一度もない。
流星街のことでもシャルナークではなく、マチから報告のメールが来ると想像していたくらいだ。
そして、好奇心旺盛なカルトも、ラミナとキルアがいるここに来ないのも違和感がある。
どちらかが東ゴルトーに行くと言い出してもおかしくはない。
フィンクスはなんだかんだで面倒見がいいので、流星街を放っておくことはないだろうが、フェイタン辺りが来るのも想像している。
(……もしかして、ホンマに近くまで来とる? ……ありえるなぁ。めっちゃありえるわ)
比較的常識人寄りであるパクノダやシャルナークも、こういう時は『驚かせてやろうぜ』と誰かが言えばノリノリで同意する可能性がある。そうなると、ラミナに教えてくれる優しい人がいない。
本当にこの近くの山の中に潜んでても納得出来てしまうラミナだった。
だが、ここでそんなこと知れば、完全にやる気をなくす。
旅団が揃えば、ラミナの事情など気にする者はいないし、むしろ喜んで引っ掻き回す連中だ。今回はクロロもラミナのプライドなどあまり考慮しないだろう。
ジンの依頼は『キメラアントの駆除』だ。クロロ達が手出しをしても、ラミナへの依頼は成功と言えるし、言わせる気のはずだ。
ジンも今回は無理を言っている自覚がありそうなので、渋ることもないだろう。
なので、クロロ達からすれば横槍を入れない理由がない。
(ネテロのジジイは【貧者の薔薇】を仕込んどるから、王の方には誰も行かせんようにせんとあかんのもメンドイわぁ)
近場で戦わないことを祈るのみだ。
ラミナはため息を吐いて、
「そろそろ行こか。ペイジンでも移動が始まる頃やろし」
「ああ」
「アモンガキッドの念獣に気ぃ付けや」
「分かってるよ」
ラミナ達は小屋を出て、ペイジン近くにノヴが設置した【4次元マンション】の入り口に向かうことにした。
作戦決行まで、後10時間。
同時刻、宮殿。
護衛軍の4人はいよいよ始まった国民の行進に、玉座の間前のベランダに集まって打ち合わせを行っていた。
「始まったねぇ」
「これで明日の15時にはこの周囲を500万人の人間が埋め尽くすってわけか。ペイジンの方は相変わらずか?」
「うん、手練れが数人。相変わらずだニャ」
「牽制……それだけのこと」
「大会のどさくさに紛れて接近してくる可能性が高いな」
「なら一番危険なのは『選別』中だニャ」
「ええ。『選別』には王も参加なさるとおっしゃってますし」
「でもでも~それをこっちが一番警戒してるのも向こうは理解してるよねぇ、残念だけど」
「そうだニャア……」
「ハンター達が国民を巻き込むことを避けるのであれば……視界が制限される真夜中か、慌ただしくなる大会の直前か、ですか……」
「そう思っておくべきだねぇ。おいちゃんがやられたみたいに、煙人形に扮して接近されたらピトっちの【円】でも、残念ながら判別は難しいよねぇ」
「キッドの念獣じゃ駄目なの?」
「駄目じゃないけどねぇ。ん~~……なんかここに来て、一度見せた方法で来るってのは彼女らしくないかなぁってさ」
「問題はどのようにして来るかではなく、敵の目的でしょう。我々にとって最も怖いのは、王が我々の目の届かない場所に連れ去られることです。奴らの中に物質移動が出来る能力者がいると仮定して、そいつによって王だけが全く別の場所に強制移動させられてしまう場合……『選別』中でも我々の内最低1人は王の傍にいなければなりませんね」
「王が許さないだろ? ただでさえ、最近俺達が近くに居過ぎると煙たがるし」
「まぁ、それはおいちゃんがやるよ。おいちゃんの念獣なら【隠】で姿を消せるからねぇ」
「そうですね。その上で全員がすぐに王の元へ駆けつけられるように心がけるとしましょう」
話が纏まったところで、ネフェルピトーが突如ペイジンの方へと顔を向けた。
「どうしましたか?」
「……連中の気配が、完全に消えたニャ。オーラの残り香が全然感知できなくなった。恐らく【絶】を使い……人民の行列に紛れ込んだ……!」
「ふむ……行列の中に紛れ込むことで行進を止めるのが狙いかな? 止めなければ、そのまま宮殿に近づくことが出来るってわけだねぇ。……あちらさんは国民を囮にする気ってわけだ。『選別』で死ぬ可能性があるのなら、おいちゃん達を倒すために犠牲になっても変わらないってわけかねぇ……」
「……ここで行進を止めるわけにはいきません。先ほども言った通り、どんな手段で近づこうとも王に迫る前に我々で殺せばいいだけのこと」
「移動が始まった。もうボクの人形じゃ誰が誰か分からないニャ。どうする? 人形こっちに戻そうか?」
「いえ、敵を完全にフリーにするのは危険です」
「そうだねぇ。ピトっちの【円】に触れる前に列を抜け出すかもしれないし。おいちゃんの念獣も潜ませておくよ。それなら簡単に抜け出せないし、飛び出せないでしょ」
ネフェルピトーはややメンドクサそうな表情を浮かべるも、文句を言うことはなかった。
同時にアモンガキッドが周囲に念獣を生み出して、ペイジンに向けて飛ばす。
それを機に解散となり、それぞれの持ち場へと戻るのだった。
ビゼフはかなり焦っていた。
「くそっ……! あの女……!」
ビゼフは数日前に部下に頼んで女数人を王達に黙って連れ込んだ。
その内の1人、つまりパームと情事に及ぼうとしたがいつの間にか眠りについていて、起きた時には姿はすでになかった。
待機場としていた家にもおらず、他の女がいる家にもいなかったことからパームが工作員だと気づいた。
ビゼフは慌てて宮殿へと戻るエレベーターに乗り込み、関係者各位に連絡を取ろうとした。
そして、エレベーターのドアが開いた、その時。
アモンガキッドが目の前に立っていた。
「ひっ!?」
「やぁやぁビ~ゼ~フ~く~ん。お楽しみだったか~い?」
「い、いや……な、なんのこ……!?」
「まぁ、君も人間だし、1人で頑張ってるからねぇ。女を連れ込むくらい大目に見てあげたのにさぁ」
「っ……!?」
完全にバレていることに、ビゼフは死を覚悟した。
アモンガキッドはビゼフと肩を組んで、
「残念だったねぇ、ビゼフくん。隠さずに正直においちゃん達に女を連れ込みたいって頼むか、秘書として雇いたいとでも言えば良かったのに」
「……」
「まぁ、そう怖がんなさんな。逃げた女はこっちで処分済みだからねぇ。それに、まだ君に死なれたら困るしさ。ここで殺すことはないよ」
ビゼフはホッと安堵の息を吐く。
しかしその時、アモンガキッドがビゼフの喉を掴んだ。
「っ!?!?」
「でもねぇ、あんまりオイタするとぉ……流石に庇えないよ? これからは……ちゃ~んと心を入れ替えて、お仕事頑張ってほしいねぇ」
「……わ、分かりました」
ビゼフの喉から手が離れ、最後に肩を軽くポンポンと叩いてアモンガキッドはビゼフの前から歩き去って行った。
ビゼフはその場に尻もちを着くように崩れ落ち、しばらくただただ大きく呼吸して冷や汗を流し続けるのだった。
そして、作戦決行6時間前。
ラミナ達はモラウ達がいる【4次元マンション】の部屋に飛び降りた。
「よぅ、どうだ? 調子は」
「まぁまぁやな。宮殿の方はどないや?」
「着々と国民が集まって来てるぜ。さっきノヴが監視してたんだが、シャウアプフが鱗粉を使って集合した人民に催眠をかけているらしい。これで懸念の1つだったパニックが起こる可能性はグンと低くなったってことだな」
「戦闘音で催眠解けんのも、それはそれで心配やけどな」
「茶化すんじゃねぇよ……」
「モラウさん、パームから連絡はあった?」
「いや」
「そう……」
「ゴン。今さっきブラールが梟2羽飛ばしてくれたから、それを待とうぜ」
「うん」
キルアの言葉にゴンは頷き、イカルゴと雑談を始める。
ラミナは再びモラウに声をかける。
「そっちはまだ戦える余力あるか?」
「……正直厳しいが、逆に諦めがついて足止めに専念出来そうだ」
「……お前も他の連中のフォローは厳しいか」
「……そうだな」
「まぁ、全力出せても大して変わらんやろうけどな」
「確かにな」
揃って肩を竦め、ラミナは続いて申し訳なさそうな顔を浮かべているいつの間にやら白髪になって少しやつれたノヴに顔を向ける。
「ノヴ、頼んどいたモンは?」
「……ああ、あそこだ」
ノヴは部屋の隅に置かれている箱を指差し、ラミナは服を脱ぎ捨てながら箱に向かう。
それにモラウやノヴ達は呆れ顔を浮かべる。キルアとシュート、イカルゴは顔を赤くして、そっぽを向いていたが。
「お前なぁ……もう少し恥じらいってモンをだな」
「別に全裸ちゃうし。どうでもええお前らに見られたところで恥ずかしがる理由ないわ」
ラミナはジト目を向けて下着姿で言い放ち、箱を開けて中身を取り出す。
箱の中には服を始め、様々な装備が入っていた。
ラミナはタンクトップを着て、黒のカーゴパンツを履く。
ベルトを締めると、更にその上に小さなポケットがいくつも付いているベルトを嵌める。
下着ではなくなったことで平静に戻ったキルアは、ティルガと共にラミナの傍に歩み寄って中を覗き込む。
「……また随分と色々持ち込んできたな」
「オーラを少しでも節約したいでな。使えるもんは使うしかないやろ」
ラミナはポケットの蓋を開け、そこに次々と詰め込んでいく。
「でも、キッドにはバレるんじゃないのか?」
「ちゃんとポケットの中はもちろん、武器も出来る限りアルミで覆っとる」
続いて、拳銃を取り出して点検を始める。
弾倉を抜き、一度分解して異常がないか素早く確認していく。
異常がない事を確認したラミナは、手慣れた手つきで組み立て直してカーゴパンツの太腿のポケットに仕舞う。
最後に黒の革ジャンに袖を通して、ブーツを履く。
「そういえば、ビゼフとか言う奴はどうするんや? 放置でええんか?」
「理想は捕縛だが、戦闘中なら放置で良い。王に脅されていた中、女を宮殿に連れ込むような奴だ。無理して保護する価値はない」
ノヴが眼鏡を直しながらはっきりと告げる。
「ほな、他の人間が宮殿内におったら?」
「他の? どういうことだよ?」
ナックルの疑問に、ラミナとキルアはプロ棋士のこと、そしてその存在が王が自身を傷つけた原因である可能性について話した。
内容を聞いたモラウ達は顔を顰めて考え込む。
「……確かに難しいな。下手に手を出せば、王の怒りを買って予想外の行動に出る可能性があるか……」
「やから、うちらは基本放置でええんちゃうかっちゅう話になったんやけどな」
「ああ、俺もそれでいいと思う。イカルゴがパームと合流した後に、可能であれば救出してくれればいい。もし戦いに巻き込まれたら……そこは各自の判断で良い」
つまり、助けようが見捨てようが本人次第。
元々すでにネテロを始めとするハンター協会は、東ゴルトー国民はすでに死者として計算している。なので、ここでその者が死んでも、ハンター協会が責任を追及することはない。
そもそもハンター協会は世界救済でも人民救済でもなく、キメラアント討伐が最優先任務なのだから。
「結局王の能力とジジイ共の突入方法は分からんままか……」
「会長達の突入方法が分からないってのに、こっちで作戦決めて大丈夫なのか?」
「問題ない。会長ならすぐにこっちの動きを把握するだろうし、どうとでも対応できる方法を準備してるはずだからな」
「突入と同時に仕留めてくれるんが一番やけどな」
「確かにそれが一番だな! 失敗したら、悲惨どころじゃねぇけど!」
「まぁ、うちらのヤバさは大して変わらんけどな」
肩を竦めたラミナは次に食糧が詰められた箱に歩み寄る。
「ティルガ達も今のうち食うときや。戦いが始まったら、次はいつ食えるか分からんでな」
「分かった」
「……」
命運をかけた戦いまで、すでに6時間を切っている。
その事実にゴンやキルア、モラウ達は色々なことが頭を過ぎる。
しかし、ラミナは普通に食事をして、普通に横になって睡眠をとる。
今更思うことは何もない。
いつも通り、ただただターゲットを殺すだけなのだから。
故に敵が強い程度のことなど、大した問題ではない。
そして、遂に0時まで、1時間を切ったのであった。
それでは皆様。
この世情で言うのは些か場違いかもしれませんが……。
良いお年を!