暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
ネテロ達が去った西塔ではラミナとアモンガキッドの睨み合いが続いていた。
ラミナは正直ネフェルピトーとコムギのことは頭の片隅に追いやっていた。
アモンガキッドを無視してネフェルピトーを仕留めることは厳しいと言わざるを得ず、コムギに関しては生き延びようが死のうがどうでもいい。
(正直、治癒能力があるネフェルピトーがここで、あの女に釘付けにされるんは超ラッキーやな。下手に動き回って他の護衛軍を救けられたら無限地獄になっとった可能性が高かったでな)
だが、コムギの治療は王の厳命。
ネフェルピトーは絶対にコムギの治療が終わるまで他のことに動かないはずだ。たとえアモンガキッドやシャウアプフ達が致命傷を負おうとも。
アモンガキッドは王が命令するところに同席していたのでネフェルピトーに頼ることはないだろう。
そうラミナは推測するが、問題は残りの2体。
モントゥトゥユピーは恐らく『王の命令だから』と言えば納得する。
だが、シャウアプフは怪しい。シャウアプフに『王がコムギを救けよと命じた』という事実がどう影響するか、ラミナでは想像出来ない。
ラミナは視線をコムギに、正確にはネフェルピトーの【玩具修理者】に向ける。
(治療速度はそこまで速いわけやない。応急処置っちゅうレベルやなくて再生、いや再成か……。千切れて穴が開いた臓器、血管、皮膚、神経を完全に
つまりネフェルピトーはほぼ戦線離脱したと言える。
(1時間もあれば他は決着が付いとるはず……。理想はネフェルピトー以外仕留めとることやけど。まぁ、それは望み過ぎか。とりあえず、今は……)
アモンガキッドをここから引き離すこと。
それが今の最優先事項だ。
「おい、蛇。こっからどうするんや? うちは別にここでおっ始めても構わんけど」
「……やれやれ、過激だねぇ。別にこのままでもいいじゃない。そっちの目的は王とおいちゃん達の分断と足止めでしょ? 残念ながら今の所そっちの狙い通りだしさ。無理して均衡崩す必要はないんじゃないの? そっちだって彼女が助かったらありがたいでしょ?」
「どうでもええわ、そんな女。今更人間1人死のうが助かろうが大した差ぁないっちゅうねん」
「あらら……やっぱり君はそう言っちゃうかぁ……。残念だねぇ……」
今のアモンガキッドとしては、ネフェルピトーとコムギの護衛は王を追いかけるよりも重要な責務となっている。
故にここで戦うことも、ここから離れることも、避けたい事態なのだ。
だが、目の前にいるのは殺し屋である。
その事実をアモンガキッドは甘く見ていない。
むしろ、逆の立場であったらアモンガキッドも全く同じ言葉を返しただろうと確信に似た思いすらあった。
だからこそ、どうやっても自分にとっては最悪な事態になるだろうことをアモンガキッドは確信していた。
ゴンとキルアはネテロ達が去って行ったのを見届けてから、西塔へと飛び移った。
着地した2人は、そのすぐ近くに立っていたゼノに顔を向ける。
「よぉ」
ゼノはキルアに気軽に声をかける。
キルアはそれに答えず、視線だけを合わせる。
ゼノはその一瞬でキルアの成長を読み取った。
「……儂の仕事はこれで終わりじゃ。任務以外の事は何も知らん」
その言葉でキルアは、祖父はあくまで王と護衛軍の分断、運搬役なのだと理解した。
「中の事はお主らが判断せい。ラミナもおるでな」
(……中?)
どういう意味か訊ねようとしたキルアだが、ゼノはその前に背を向けて静かに、軽やかに闇へと溶け込んでいった。
しかし、キルアはその背中がどこか小さくなっているように感じ、恐らく中で祖父やラミナにとって想定外の事が起こったのだと思わざるを得なかった。
その背中を見送っていたキルアを尻目に、ゴンは塔内へと歩き出す。声をかけてくれないことにキルアは一瞬寂し気な顔を浮かべてしまうが、すぐに顔を引き締めてその後に続く。
塔の2階に上がったキルア達の眼に映ったのは、まさに想像の埒外の光景だった。
向かい合うラミナとアモンガキッド。
それは何も不思議じゃない。
ただし、まだ向かい合っていることがすでにおかしいのだが。
問題はその背後。
アモンガキッドに庇われるかのように屈むネフェルピトー。
そして、その尾と繋がった上半身だけの化け物と、その下で横たわる少女。
ラミナと言う異物が存在しながらも、臨戦態勢に移行していないネフェルピトーにキルアは強烈な違和感を感じ取っていた。
何より、アモンガキッドがいるとは言え、隙だらけにしか見えないネフェルピトーに攻撃を仕掛けないなどあり得ない。
キルアは脳をフル回転させて、この異常事態を理解しようとしていた。
だが、ゴンの視界に映っていたのはネフェルピトーのみ。
ラミナとアモンガキッドのことは認識してはいるが、
これまで抑え込んでいた憤怒を開放したかのように、ゴンの【纏】がまるで【練】が如く荒々しいオーラに漲った。
それにラミナとアモンガキッドは視線のみを向けるが、動くことはなかった。
いや、動けないのだ。
お互いに牽制し合っているから。
アモンガキッドがゴンを止めようと動けば、ラミナがその一瞬でネフェルピトーへと迫り。
逆にラミナが攻撃を仕掛けようとすれば、アモンガキッドはゴンとキルアへと襲い掛かるだろう。
それを互いに理解している。
故にラミナとアモンガキッドはとりあえず、ゴンの動向を見守ることにしたのだった。
ネフェルピトーも流石に自身へと向けられる尋常ではない殺気を無視出来ず、ゴンへと顔を向ける。
「俺を、覚えてるか……?」
静かに問いかけたゴン。
だが、答えを聞く前にゴンは更にオーラを噴き出しながら吠えた。
「俺はゴン・フリークス!!! カイトを取り戻すため、お前に会いに来た!!!」
ゴンの覇気にアモンガキッドは僅かに眉を顰める。
(残念ながら思ってた以上に強そうな子だねぇ……。流石にアレは今のピトっちじゃヤバイ……んだけど……)
ラミナとゴンの後ろにいるキルアに意識を向けて、歯軋りしたくなったアモンガキッド。
(ミナっちだけでも厄介なのに、あの後ろの坊やも厄介そうだねぇ……。冷静にこの場の状況を理解しようと努めながらも、無意識レベルでいつでも動けるように構えてる。ホント……残念なくらい追い詰められてるねぇ)
八方塞がりな状況にアモンガキッドも必死に解決策を考える。
(いったんお嬢ちゃんの治療を中断してこの場を離れる? ……駄目だ。この3人は流石においちゃんでも抑え切れない。確実にミナっちに隙を突かれる……)
ラミナもNGLやペイジンの時とは纏う気配が違う。間違いなく前回より手強い。
他に意識を向けて戦えるとは思わない方がいいだろう。
故にアモンガキッドがどう動くかはネフェルピトー次第と言えるのだが……。
そのネフェルピトーだが、ゴンの言葉どころか声すらも意識から排除し、ただただ王の命を全うするかのみに思考を支配されていた。
本能的にアモンガキッドはラミナに手一杯になるだろうことを理解していた。故にこの現状を自力で乗り切る必要があった。
ネフェルピトーは僅かに身体をゴンへと向ける。
しかし、一向にオーラを纏わないことにキルアは訝しんだ。
(この状況でも臨戦態勢にならない? さっきは【円】を使ってたのに今はオーラを出す気配すらない……。いや、そもそもラミナがいたのにまだオーラを出してないことがおかしい。さっきまでジッちゃんや会長、アルケイデスまでいたんだぞ? それに……)
キルアはゴンへと視線を向ける。
(今のゴンは無防備で対処できるオーラじゃない。そこにキッドがいたとしても、ラミナに俺もいるんだ。流石に生身で様子を見る状況じゃないはずだ)
ここで注目したのがネフェルピトーの背後にいる少女。
(あいつがラミナが言ってたプロ棋士か……。……もしピトーがオーラを出さないんじゃなくて出せないんだとしたら……あの尻尾と繋がってるのは治癒能力!!)
全てラミナの推測通り。
問題は何故この状況で、少女を治しているのかということだ。
しかし、その答えにキルアはすぐに思い至った。
(王の命令……! あの女を傷つけたのはジッちゃんの【龍星群】。俺達だってあの女の存在は直前まで分からなかったんだ。会長やジッちゃんが知ってたはずがない。……くそっ……! 最悪だ……!)
ラミナの懸念がほぼ全て的中している。
この状況でネフェルピトーが治療に集中してるのは王の命令以外あり得ない。
それならばアモンガキッドがラミナと向かい合ったままだったことにも納得は出来る。
ラミナならば無視しそうだとキルアは一瞬考えたが、
(いや、ピトーがここで治療に専念していることは、作戦を考えれば理想的な状態だ。ピトーやキッドが王を追いかけないように足止めするのも俺達の任務で、それが一番の懸念だった)
護衛軍相手に戦って、5分持ちこたえられるかどうかというのがラミナ以外の面々の懸念だった。
そして、最も足止めすべき存在はネフェルピトー。
それがモラウやキルアの出した結論だった。
(でも、少なくとも治療を終えるまで奴はここから動かない。先日の【円】が消えた時間から考えれば、恐らく最低1時間はかかるはず……。だから、ラミナからすれば簡単に会長達を追えない距離まで離れるのを待ってたんだ。キッドとしても王の命令であろう治療を妨げないならば、この状況を維持するのがベストではなくてもベターに決まってる。けど、俺らが来たことでその均衡が崩れようとしてる……!)
キルアが解決策を考えていると、ゴンから更に怒りが膨れ上がった。
「その人から、離れろ」
ゴンが一歩進んだことにネフェルピトーの緊張が高まった。
「その化け物と一緒に、その人から離れろって言ってるんだ!!!」
ゴンの眼には治療されているコムギの姿が、改造されているカイトの姿と被ったのだ。
何故オーラを纏わないのか、何故攻撃を仕掛けてこないのか、そんなことなどゴンは欠片も疑問に思っていなかった。
「そして……俺と勝負しろ!! 勝負して、カイトを――」
その時、ネフェルピトーが手の平を上にして両手を差し出し、頭を下げた。
突然の所作にゴンはもちろん、キルアやラミナ、そしてアモンガキッドすらも驚きを隠せなかった。
ゴン以外の面々はそれが『何も持っていない』『何もしません』という、無抵抗を示す所作であると知っていた。
「頼む。待ってくれ……」
その言葉にゴンも嫌でもネフェルピトーに戦闘の意思がないことを理解させられた。
だが、まさかの無抵抗にゴンは蓋を外した怒りを、振り上げた拳の落としどころを失ってしまったことに他ならない。
「っ……!! ふざけるな!! 何を待つって言うんだ!! 立て!!! 外へ出ろ!!!」
それだけでゴンとネフェルピトーの立場が変わってしまったことを、逆にゴンが追い詰められてしまったことに、当事者を除く全員が気付いてしまった。
キルアは歯を食いしばって、どうやってゴンを落ち着かせるかを考える。
アモンガキッドは感情をコントロール出来ていないゴンに先ほどまで感じていた脅威度を下げ。
そして、ラミナは……ゴンを見つめる瞳がどんどん冷たくなっていた。
ゴンが更に詰め寄ろうと足を進めた、その時。
「なんでも!! 何でも言うことを聞くから!!」
ゴンが追い詰められていることに気づいていないネフェルピトーはただただ懇願する。
「だから待ってくれ……。ボクは――」
そして、ネフェルピトーは、ついにその一撃を放った。
「どうしてもこの
キメラアントが人間を救ける。
それもこれまで何人もの人間を殺し、壊し、操り人形にしていたキメラアントが。
その事実を、ゴンは受け入れることを本能的に拒絶する。
「……タスケ……? タスケ……なに……?」
ゴンの雰囲気が更に変わったことに気づいたキルアは、主導権を捥ぎ取ろうとした。
「なんでも? お前の言う何でもって――」
「キルア」
しかし、ゴンはそれを冷え切った声で遮った。
「俺が訊いてるんだ」
その声にキルアの胸中は不安が埋め尽くし、アモンガキッドは再びゴンに漠然とした脅威を感じ始めていた。
(また雰囲気が変わった……。それも……どこかおいちゃん達に近くなった気がする……)
人間から遠ざかったような気配。
その感覚をアモンガキッドは無視出来なかった。
「タスケナクチャって……なに?」
ゴンは表情が抜け落ちた顔で冷たく問いかける。
少なからずゴンの変化を感じ取ったネフェルピトーは偽ることなく話すことを選んだ。
「この人間はボクの……ボクの大切な方が、大切にしている人です。この人間がいたから、王は…王に。この人間がいなくなったら王は……王でなくなる。それほどの……だから……ボクは彼女が……救かればそれでいい。彼女を治した後は、キミ達の望むとおりにする……! だから、待ってくれ……!」
ネフェルピトーの偽りなき言葉に、ゴンはようやくその言葉の意味を理解
「救けたいってこと? ……はぁ……はっ」
ゴンは両手を全力で握り締める。
「勝手なこと、言いやがって……!! 勝手だよ……畜生……ッ!!」
ゴンは再び湧き上がってきた怒りに震える。
「誰がッ……! 誰がお前の、お前らなんかのいう通りになんかっ……!」
もはやどうすればいいのか分からなくなったゴンは衝動的にネフェルピトーに向かって一歩踏み出す。
「ゴン! ちょっと待て!」
そこにキルアが呼び止め、ゴンも足を止める。
「その子を傷つけたのは、恐らく俺達の方だ。ジッちゃんの【龍星群】」
「……それで?」
「ピトーが今その子を治療しているのも多分本当だ。そうだよな? ラミナ」
「まぁな」
「……だから?」
「……待とう。治療が終わるまで」
「……それで待った後でコイツが俺の望み通りにするってのは? 恐らくか? 多分か!? 本当!!!? ふざけるなっ!!!」
やり場のなかった怒りが冷静に諭された故に抑えられなくなってしまった。
「ふざけんなよ!! どうかしてんじゃないのか!? こんな……こんな奴の言うこと、信じるのか!!? 信じられるわけないだろ!!!」
「……」
ラミナは混乱と怒りに叫ぶゴンを冷めた目で見つめていた。
キルアはそれでもゴンを冷静にさせようと言葉を続けようとしたが、
ボギャッッ!!
ネフェルピトーが左腕を自ら圧し折った。
「「!?」」
「ピトっち……?!」
「……」
「……望むならば、右腕も。それでも足りなければ、両の脚も……!!」
身体を持って証明しようとするネフェルピトーに、ゴンは嫌でもそれが本気だと理解させられる。
「治療が終わった後でボクが……妙な気を起こすかもしれないと思うならば、治療に…支障が出ない範囲で、ボクを壊してくれて構わない……!」
「――ッ!」
「頼むから彼女を、救けさせてくれ……!!」
ネフェルピトーの懇願にゴンは完全に逃げ場を失った。
「――ッッ!! ~~~ッッッ!!!」
盛大に怒りと困惑に顔を歪め、歯を砕かんばかりに食いしばったゴンは、湧き上がる怒りを堪え切れず、両拳を全力で床に叩きつけた。
それにキルアとネフェルピトーは事態が悪化したことを理解した。
「っ……! ずるい!! ずるいぞチクショウ!!! なんでそいつばっかり!!! カイトにはあんな非道い事したくせに!!!」
ゴンは完全に感情のコントロールを失い、涙を流し、理不尽な現実に慟哭する。
「ゴン!!!」
「なんでだよっ!!!!」
もはやキルアの声も届かなかった。
ゴンは込み上げる感情のままに叫んだ。
「なんでだあああああ!!!!」
それと同時にゴンの身体から膨大なオーラが噴き出し、暴風となってその場にいる全員に襲い掛かる。
「う……うっ、うっ……」
俯いたゴンは嗚咽をこぼしながら、遂に怒りの底に潜んでいた感情へと辿り着く。
「……ふざけんなっ……!!」
鋭くネフェルピトーを睨みつけたゴンは、右拳を構え、オーラを集中させた。
それにようやくネフェルピトーも焦りを見せ、アモンガキッドも動こうとしたがラミナが僅かに足を開いたのを見逃さずに動きを止めた。
「最初は――」
「ゴン!!!」
衝動に促されるまま能力を発動しようとしたゴンに、キルアは鋭く呼び止めた。
「そいつを殺したら、カイトは元に戻らねぇぞ」
最大限冷静に、はっきりと告げる。
ここが正念場だった。
ここで本当にネフェルピトーに殴りかかれば、確実にネフェルピトーはただではすまず、アモンガキッドもゴンに襲い掛かり、【硬】を使ったばかりのゴンも致命傷を負うか死ぬだろう。
そして、攻撃しようとしてるからこそ、己の声が届くとも考えていた。
それは見事に的中し、ゴンは【硬】を解除した。
「…………キルアは、いいよね。冷静でいられて」
ゴンは再び冷え切った声で口を開く。
「関係、ないからっ」
まさかの言葉に、キルアは一瞬心の痛みに顔を歪めてしまった。
その時、
ドゴォ!!!
ゴンの横っ面に、
ゴンはもちろん、他の全員が目を丸くして固まってしまった。
アモンガキッドもラミナの動きに注意していたが、殺意が突如自分達から外れたのでラミナの動きに一瞬出遅れてしまったのだ。
ゴンはもちろん抵抗できずに横に吹き飛び、床を転がる。
しかし、ラミナが再び一瞬でゴンの元へと移動して、
ゴンの腹に左蹴りを叩き込んだ。
「がっ――!?」
ゴンはくの字に蹴り飛ばされて、部屋の入口まで吹き飛んだ。
「ラ――!? っ!!」
突然のラミナの行動にキルアが問い詰めようとしたが、ラミナの顔を見た瞬間に言葉に詰まった。
ラミナの顔は完全に冷め切っていた。
無表情というよりも無感情。
そう言えるほどに、ラミナは冷え切った気配を纏っていた。
「キルア」
「……な、なんだよ?」
「あの
「っ……!」
「やっぱ、ガキなんぞ連れてくるんやなかったな」
ラミナはそう吐き捨てて、アモンガキッド達に向き直ろうとした。
そこにゴンが腹を抑え、えづきながら体を起こした。
「ごほっ! ごほっ! ラ、ラミナ……?」
「喋んな。もう邪魔や。お前はいらん」
「で、でも……!」
「状況も読めん。無様に感情に振り回されて、挙句の果てに目的すら忘れるなんぞ目も当てられんわ。そんなクソガキはここにはおらんはずや」
ラミナの言葉にゴンは拳を握り締めるが、当然ながらここで帰るわけにもいかないので反論しようとする。
「でも……ラミナが…殺す気を……持てって……!」
「別にネフェルピトーを殺す気になったことに呆れとるんちゃうわ。うちが呆れとるんはなぁ、クソガキ。お前、あの女も、カイトも殺す覚悟は持っとったか?」
「っ!!」
「
ラミナの言葉にゴンは俯いた。
「うちが呆れたんは、結局お前は口だけやったことや。なんや? うちらが無関係な人間殺すことにキレとった癖に、自分は殺すんか? カイトを救けたいとかほざいとった癖に、あっさり殺そうとするんか?」
「……」
「それになんやねん、さっきの言葉。『好き勝手なこと言いやがって』? 『ずるい』? 『なんでカイトにあんな非道いことしたのに』? アホか、お前は。なんで仲間でもない、しかも敵対関係の奴に配慮せなあかんねん。なんで見知った奴を優先するんがズルイねん。なんで敵対者に優しくせなあかんねん。……戦争舐めんなクソガキ」
ラミナは冷たく吐き捨てる。
「結局お前は感情に振り回されるだけの、ちょっと強いだけのクソガキや。しかも、これまでずっと自分のために身体も命も張ってきて、誰かを見殺しにしても自分を護ろうとしてくれた相棒に『関係ない』とか、うちでもよう言わんわ。そんな感情に振り回された結果、
ラミナがゴンに冷めた一番の理由は『殺したことによる結末を受け止める覚悟を持たずに、命を奪おうとしたこと』だ。
これまで何度も『殺す覚悟を持て』と告げてきた。
戦いに身を置く者やハンターは、己が意地を通す時に他者の命を奪うことは決して珍しくない。
その場合、重要なのは
相手を殺した後、親族や友人、仲間、世間から恨まれ、蔑まれ、襲われ、殺されることを、覚悟しなければならないのだ。
それがラミナの『殺し』に対する信条。
先ほどのゴンの行為はどう考えても、その信条に反するものだ。
ゴンがこの戦いでカイトを救えない可能性、誰かを巻き込んで死なせてしまう可能性を理解し、受け入れた上で殺そうとしたのであればラミナは何も言わなかった。
だが誰が見ても、先ほどのゴンの殺意は衝動的、その場を感情的にやり過ごそうとした行為だった。
それは、カイトを救うためにこれまで手伝ってきた者達全てに対する裏切りに他ならない。
ナックル、シュート、パーム、モラウ、ノヴ、ビスケ、ラミナ、ティルガ、ブラール、そして……キルアに対しての。
特に、これまで何だかんだで強くなる手解きをしてきたラミナへの。
ゴンにハンターという道を教え、導こうとしてくれていたカイトへの。
そして、カイトを見捨てたという後悔にずっと苦しんできたキルアへの。
この土壇場において、まるで自分1人で戦ってきて、1人で戦い抜かねばならないと自惚れているゴンに対して、ラミナが呆れを通り越して関わる気を失わせるには十分すぎる言動だった。
12歳と言う少年に対して、求めるにはハードルが高すぎるかもしれない。
しかし、ラミナはこれまでキルアを通し、戦いを通して、その覚悟と重要さを問い続けてきたつもりでいる。
それでも学ばず、正念場でやらかしたゴンを、これ以上自分が命を張る戦場に置いておきたいなど、ラミナは決して思わない。
故にラミナは冷酷無慈悲に告げる。
「うちの前から消えろ。ここは、覚悟を持った奴だけがおる場所や」
ゴンは両手を握り締め、ただただ震えることしか出来ず。
キルアはゴンの傍で、寂しげな顔で立ち尽くすことしか出来なかった。
そしてラミナは、武器を具現化してアモンガキッドへと斬りかかったのだった。
本当に今回は難産でした(-_-;)
ゴンの気持ちや叫びも当たり前のことで、キルアの献身も不安も当たり前のことで。
そして、ラミナの怒りと呆れもこれまで彼女を描き続けた自分からすれば当たり前のことでした。
なので……正直今回の話は何度も読み返して時間がかかってしまいました。