暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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本当に、誠に、遅くなって申し訳ございません。

何度目だよって話ですが、やはり仕事の方がコロナ禍に振り回されて、落ち着いて書ける精神状態が中々作れませんでした。

このキメラアント編の最終決戦は、集中しきれない状態では納得できるものが書けないので、これからも少し間が開くかもしれませんが頑張りますので宜しくお願い致します。


#144 コロシアウ×シカ×ミチハナイ

 ブロードソードとソードブレイカーを具現化したラミナは、ゴンとキルアを放置してアモンガキッドへと高速で斬りかかる。

 

 アモンガキッドも8頭の大蛇を具現化して迎え撃つ。

 

 【一瞬の鎌鼬】による高速の斬撃で4頭の大蛇の頭を斬り落とし、ソードブレイカーで2頭の大蛇を除念し、残りの2頭の噛み付きを紙一重で躱しながら更に詰め寄る。

 だが、躱した大蛇の頭と斬り落とした大蛇の頭が融合して、ラミナの左右斜めから襲い掛かり、正面にいたアモンガキッドの右脚が振り上がる。

 

 ラミナはソードブレイカーを消し、スローイングナイフを具現化して手首の力だけで投げ、大蛇達の隙間を飛び抜ける。

 

 そして、両脚を前後に開いて屈み、ギリギリでアモンガキッドの猛攻を躱して指を鳴らす。

 

 直後、ラミナの姿がスローイングナイフへと変わり、スローイングナイフが飛んでいた場所にラミナが現れる。

 スローイングナイフを消したラミナは、ブロードソードをもう一振り具現化する。

 

 すでに目の前には大蛇の群れが迫って来ていた。

 

 アモンガキッドは入れ替わったのと同時に大蛇を再構成して、ラミナが現れるであろう場所に差し向けていたのだ。

 

 ラミナは今度は詰め寄ろうとはせず、後ろへと跳び下がる。

 下がりながら高速の斬撃で迫る大蛇達の頭を正確に両断していくが、すぐに壁際に追い込まれる。

 

「ふっ!」

 

 ラミナは後ろ回し蹴りを壁に繰り出し、壁を蹴り砕く。

 

 そして、躊躇なく開けた穴から外へと飛び出した。

 

 アモンガキッド、ネフェルピトー、キルアはまさかの行動に一瞬戸惑ったが、

 

「ちっ!!」

 

 1秒もせずに、アモンガキッドがラミナを追いかけて穴から外へと躍り出た。

 

 キルアは追いかけるとは思っていなかったので、アモンガキッドの行動に目を丸くしたが、ネフェルピトーはアモンガキッドの行動の理由に思い至っていた。

 

(そうか! NGLで見せた超高速の閃光……!!)

 

 アモンガキッドとネフェルピトーは、【天を衝く一角獣】を実際に見て、防いでいる。

 

 故にラミナが外に飛び出したのは、ここから動かないと踏んだアモンガキッド達を長距離から狙撃するためだとアモンガキッドは考えたのだ。

 普通ならまだ仲間がいるのでありえないと考えるところだが、直前に仲間割れした光景を目の当たりにしている。

 

 アモンガキッドが把握しているラミナの性格ならば、キルア達を犠牲にしようとも自分達を仕留めるチャンスを逃すことはしない。

 

 なので、アモンガキッドは嫌でもラミナに【天を衝く一角獣】を使う隙を与えないようにしなければならなかった。

 出来ればネフェルピトーの傍を、コムギの傍を離れたくはないが、今の自分達ではあの攻撃を防ぐのは厳しい…いや、不可能に近い。故にアモンガキッドはここで退くわけにはいかないのだ。

 

 

 それがたとえ、ラミナの誘いであろうとも。

 

 

 ラミナの狙いはアモンガキッドを誘き出すこと。

 狭い空間、邪魔者が多かったあの場所では全力で戦い辛い。下手にコムギを殺してしまえば、まず間違いなく王の命令を邪魔したラミナをネフェルピトーは許しはしないだろう。

 流石に護衛軍2体が全身全霊を懸けて殺しに来れば、ラミナに勝ち目はない。

 

 故にラミナはあの場から離れ、アモンガキッドを誘き出す必要があったのだ。

 そこで思い出したのが、アモンガキッド達に一度【天を衝く一角獣】を使用したことであった。NGLの奇襲でも明らかに余裕をもって防いだわけではなかった。であれば、オーラを使えないネフェルピトーと腹に穴が開いているアモンガキッドでは、まず間違いなく使われたくない攻撃のはずだとラミナは確信を持っていた。

 

 アモンガキッド達もあの攻撃を忘れているはずはないと考えたラミナは、自分が外に出たら間違いなくアモンガキッドは追いかけてくるだろうと推測していたのだ。

 

 西塔から飛び出してきたアモンガキッドを顔だけで振り返って確認したラミナは、外壁を跳び越えて宮殿外の荒野へと移動する。

 

 アモンガキッドも躊躇なく追いかけてきて、ラミナのすぐ近くに着地する。

 

「やれやれ……完全に君の狙い通りって感じだねぇ。すっごく残念ながら」

 

「さてなぁ。うちはただ広いところで暴れたかっただけや」

 

「よく言うねぇ。まぁ……残念ながら、それも嘘じゃなさそうだけどさ」

 

 アモンガキッドは肩を竦め、能力を発動して8頭の大蛇を具現化する。

 

 ラミナは視線を上に向け、上空にひっそりと浮かぶ一つ目念獣を捉える。

 素早く視線を動かして他には念獣が存在しないことを確認したラミナは、アモンガキッドに視線を戻す。

 

(あの蛇を使うと他の念獣は最低限しか出せんっちゅうことか……。まぁ、いくら護衛軍でも念能力は人間由来のもん。無制限に使えるわけやない)

 

 ラミナはこれまでのアモンガキッドとの戦闘を思い出す。

 

(2種類の念獣とオーラも溶かす髪を媒体にした8頭の大蛇。具現化系、変化系、放出系、操作系は確定で、強化系まで使っとってもおかしない。特に大蛇の再生速度、強度、速度、毒を考えれば、かなりのオーラを消費するはず。やから球体の念獣は最低限、必要時のみ具現化しとった)

 

 それでも十分異常なのだが。

 しかし、その理由もラミナはある程度推測していた。

 

(あいつは視力がほぼない。ピット器官と念獣だけで視力を補うことで制約を強化しとるわけか)

 

 己と同じく『目』を持たない【満たされない胃袋】。

 『目』の代わりとなり、それ以外の能力を持たない【地母神の邪眼】。

 

 先天的欠陥を制約に盛り込んだ能力強化。

 

 これは珍しい事ではないので驚くことはない。

 面倒だと心底思うが。

 

「始める前にさ、最後にいいかい? ミナっち」

 

「あ?」

 

「君から見てどうだった? 王様は。正直、本当に今なら王様は君を快く仲間にしてくれると思うけど」

 

「どうでもええわ阿呆。しつこいやっちゃな」

 

「そう言わないでさぁ。君と仲良くしたいんだよ」

 

「意味ない事すんなや。理解しとるやろが。もううちらは殺し合うしかないっちゅうことくらい」

 

「……」

 

「お前らのボスがどう変わろうが、人間社会はお前らを根絶することを望んで決定した。暗殺者のうちはもちろん、ハンター協会もそれを承諾した。お前らがどれだけ人間を受け入れようが、こっちはもうお前らを受け入れん。ま、お前らがほぼ全ての国を潰したら、降伏するかもしれへんけどな。ただ、少なくともうちは死んでもする気はないで」

 

「……ん~~……」

 

 アモンガキッドは俯いて後頭部を掻きながら呻く。

 

「やっぱり駄目か~……。残念だなぁ……こればっかりは、心の底から、本当に残念だよぉ……。おいちゃん、本当にミナっちのこと気に入ってたんだけどねぇ」

 

「キモイわ阿呆」

 

「……はっきり言って、いくらアイザック・ネテロ会長でも王様には勝てないと思うよ?」

 

「……あ? なんでお前が爺の名前と顔知っとんねん」

 

「おいちゃん、前はハンターだったから」

 

 アモンガキッドの暴露にラミナは顔を顰める。

 

「……護衛軍は記憶持ちなんか?」

 

「ユピっち以外はある程度は憶えてるよ。まぁ、だから何だって話だけどさ。前が人間だろうが、今は蟻だしねぇ」

 

「……分かっとるやないか」

 

「ん?」

 

「結局蟻と人間は相容れんっちゅうこっちゃ。一度人間を食糧と見なしたお前らが、人間と共存なんて出来るわけないねん。どれだけ気に入った個体がおったかてな。()()()()()()()()()()()()()は話が違い過ぎるわ」

 

「……」

 

「人間の欲望を、蟻如きが管理できるわけない。絶対に殺したぁなんで。同じ人間ですら、殺したなるんやからな」

 

 話は終わりとばかりにラミナはブロードソードとソードブレイカーを具現化して構える。

 

 アモンガキッドはもう一度頭を掻いて、

 

「やれやれ……本当に残念だ。……本当に」

 

 小さく呟いたアモンガキッドは髪を蠢かし、大蛇を形作る。

 

「ところで、おいちゃんがハンターの記憶を持ってることには何も思わないのかい?」

 

「どうでもええわ。ここまで来たら、ただのハンターを相手にするんとなんも変わらん」

 

「あはは~……それ言っちゃう?」

 

 あっけらかんと言い放つラミナにアモンガキッドは空笑いするしかなかった。

 

 その直後、ラミナが全力で飛び出してアモンガキッドに斬りかかる。

 

 アモンガキッドはそれ以上の速さで大蛇を操り、ラミナに襲い掛かった。

 

 【一瞬の鎌鼬】と【脆く儚い夢物語】で対応し、以前のペイジン同様斬っては再生され、斬られては再生する終わりが見えないせめぎ合いが始まった。

 

「ん~~、それはそっちが不利だって理解してるよねぇ?」

 

「まぁ、なっ!!」

 

 ラミナが後ろに跳び下がりながらソードブレイカーを投げ、大蛇の1頭に突き刺して除念する。

 同時にソードブレイカーを消して、スローイングナイフを具現化してすぐさま投擲した。

 

 アモンガキッドはスローイングナイフを大蛇で呑み込もうとしたが、直前でスローイングナイフがラミナと入れ替わった。

 

 

 そのラミナの右手にはブロードソードではなく、偃月刀が握られていた。

 

 

 ラミナは左脚を振り上げて大きく口を開く大蛇を蹴り上げ、左脚を下ろす勢いを利用して偃月刀を鋭く突き出す。

 

 アモンガキッドは迫る刃を仰け反って躱しながら、両腕の大蛇で偃月刀に噛みつこうとした。

 しかし、偃月刀は途中で止まり、ラミナは体を捻りながら大きく横に薙いで周囲の大蛇を一掃した。

 

 ラミナが後ろに下がると、アモンガキッドは大蛇を再生させながら距離を詰めようとしたが、

 

 

 ラミナが指を鳴らそうとしたのを見て、足を止めた。

 

 

 その時、ニヤリとラミナが笑ったのを見て、アモンガキッドは失策を理解した。

 

 

パチン!

 

 

 ラミナが指を鳴らした瞬間、

 

 

ボボオオォン!!

 

 

 突如アモンガキッドの周囲から炎が噴き出した。

 

 

「!?!?」

 

 アモンガキッドはいきなりの炎に大きく後ろに跳び下がる。

 

「っとぉ! お~どろいたねぇ……。炎を生み出す能力? いや、それは流石に無理があるねぇ……(それに今の炎の噴き出した場所は……)」

 

 ラミナはスローイングナイフを拾い、すぐさまアモンガキッドに攻めかかる。

 

 アモンガキッドは頭の大蛇6頭をラミナに嗾け、ラミナは舞うように偃月刀を振り回して大蛇の群れを斬り飛ばしながら隙を突いてスローイングナイフを投擲する。

 

 アモンガキッドは今度は無理に撃墜せず、顔を傾けるだけでスローイングナイフを躱す。

 

 再びラミナが指を鳴らす。

 

 背後、そして炎に警戒するアモンガキッド。 

 

 しかし、炎も噴き出さず、ラミナも消えない。

 

 その事に訝しんだアモンガキッドだったが、空に浮かんだ【地母神の邪眼】が、

 

 

 消えたスローイングナイフの場所に手榴弾が出現したのを捉えた。

 

 

「!?」

 

 警戒に留めていたせいかアモンガキッドは逃げる間もなく、爆発に巻き込まれる。

 

 ラミナは距離を取り、常に軽いステップで場所を変えながら奇襲に備える。

 

「さて……どこまで効いたか……」

 

 あまり期待はしていないが、やはり少しでもダメ―ジがあるかないかは今後の戦闘プランに大きく影響する。

 それでも金に物を言わせて、小型ながら高威力の違法改造レベルのを調達したのだ。効果がなければ、苦情では済まさないとラミナは内心決めていた。

 

 そこに煙の中からアモンガキッドが姿を現す。

 

 アモンガキッドは服をボロボロにしながらも、傷はほぼないに等しかった。

 

 しかし、肌が汚れてすらいないことから、ラミナは脱皮して回復しただけだと看破した。

 

(ある程度戦いに支障をきたすと思わせるだけのダメージはあったっちゅうことか。やけど、もう同じ手は使えんやろなぁ……)

 

「いや~やられたねぇ……。それ、物とも入れ替われるのかい」

 

「自分だけしかあかんとか言うたことないでな」

 

「そりゃそうだねぇ。まったく……まさかここに来て爆弾を使って来るなんて、ホントに厄介だねぇ」

 

 もちろん、何か道具を使ってくる可能性は考慮していたし警戒していたのだが、それはあくまでアモンガキッドの目を欺くためのものだろうとどこかで決めつけていた。

 

 その裏をかくのがラミナの戦術の1つだったのは理解していたはずなのに。

 

「うちは別に念能力で殺すことに拘っとるとか言うたことないで。使えるもんは全部使う」

 

「そうだよねぇ……ミナっちはそう言う子だよねぇ」

 

 ラミナはそれには答えず、スローイングナイフと偃月刀を構えて攻めかかる。

 

 アモンガキッドもおしゃべりを止めて大蛇を操り、ラミナへと襲い掛かる。

 

 猛スピードで迫りくる大蛇を紙一重で躱し、時に偃月刀で首を斬り落とし、スローイングナイフを額に突き立てる。

 

 そして、アモンガキッドに隙が出来た瞬間、ラミナはスローイングナイフを高速投擲して指を鳴らそうとする。

 

 今度はスローイングナイフを先に壊そうと、アモンガキッドは大蛇の1頭を嗾ける。

 

 しかし、噛み付く直前にスローイングナイフが消滅し、ラミナが指を鳴らすと再び何もない空間から炎が噴き出して大蛇数頭とアモンガキッドの右腕を焼く。

 

「ぐっ……!」

 

 後ろに跳び下がるアモンガキッドに、ラミナはスローイングナイフを再び具現化して投擲する。

 

 アモンガキッドは蹴り払おうとしたが、その前にラミナは【妖精の悪戯】で入れ替わり、振り上げられたアモンガキッドの脚に乗って偃月刀で突きを放とうとしたが、再成した大蛇がラミナに襲い掛かる。

 ラミナは左手にブロードソードを具現化して、大蛇の首を刎ねてアモンガキッドの脚を斬り落とそうとしたが、首を刎ねた大蛇がそのまま飛び掛かってきて舌打ちしながら後ろに跳び下がる。

 

 下がりながらラミナはブロードソードを投げて指を鳴らし、スローイングナイフと入れ替えてブロードソードを消す。

 

 ラミナは偃月刀を片手で振り回しながらアモンガキッドと大蛇を牽制し、その隙間を縫うようにスローイングナイフを投げる。

 

 アモンガキッドの後ろにスローイングナイフが抜けた瞬間、ラミナは指を鳴らす。

 

 アモンガキッドは背後に意識を向けるも現れたのは偃月刀だった。

 

(フェイント……!)

 

 ラミナに意識を戻すと、その時にはすでにラミナは再びスローイングナイフを投擲していた。

 

 

 同時に手榴弾を2つ。アモンガキッドの足元に放り投げて。

 

 

 アモンガキッドは手榴弾を対処しようとした、その時、

 

 ラミナは再びニヤリと嗤って指を鳴らし、アモンガキッドの後ろの偃月刀が手榴弾に変わり、偃月刀はラミナの背後に現れる。

 

(二重(トラップ)……!) 

 

 手榴弾の1つを自分の背後に投げておき、【妖精の悪戯】で入れ替える。

 

 しかし、何故それに気づけなかったのか。

 

 アモンガキッドは足元に放り投げられ手榴弾に意識を向けると、手榴弾が銀の膜で覆われているのを捉えた。

 

(前に使った……アルミコーティング!)

 

 そして、上に浮かぶ【地母神の邪眼】に見られないようにジャケットの内側に投げていたのだ。

 

 ラミナは更に後ろに下がりながら偃月刀を右手で掴み、左手で指を鳴らそうとする。

 

 

 その左手には手榴弾が握られていた。

 

 

「ちょっ……!?」

 

 驚きを露にするアモンガキッドを尻目にラミナは手に持つ手榴弾を軽く投げて指を()()鳴らした。

 

 直後、スローイングナイフが手榴弾と入れ替わり、更にアモンガキッドの目の前で炎が噴き上がって、その炎が手榴弾を呑み込んだ。

 

「やりす――」

 

 

ドドドドォオオオオン!!!

 

 

 4つの手榴弾が炸裂し、ラミナは爆発の瞬間に大きく後ろに跳び、爆風に吹き飛ばされながら距離を取る。

 

 数回地面を転がり、起き上がったラミナはスローイングナイフを空へと投擲し、偃月刀を消してブロードソードを具現化し指を鳴らす。

 

 そしてラミナはスローイングナイフと入れ替わって空中の一つ目念獣の目の前に現れる。

 高速の斬撃で一つ目念獣を両断し、再びスローイングナイフと入れ替わって、スローイングナイフを消す。

 

「ふぅ~……」

 

 大きく息を吹いたラミナは油断せず爆煙を見据える。

 

(さて……上手く嵌まったはええけど、これで手榴弾は残り2発。同じ技はもう使えん。【炎蛇瞬来】もオーラ残量を考えれば、そろそろ厳しいか)

 

 偃月刀に付与された能力【炎蛇瞬来(えんだしゅんらい)】。

 切っ先から剣筋に合わせて極細のオーラを線状に這わせ、更にごく少量のオーラを散布する。散布したオーラは周囲の酸素と水素と吸収して線状オーラへと集め、指を鳴らすことで線状オーラが炎へと変化して周囲に集められた水素と酸素と反応して一気に燃え上がる。

 

 しかし悲しいかな、発動の制約がそこまで厳しくないことと放出系と相性が悪いラミナでは、一気に人体を燃やすほどの威力は出せなかった。

 

(まともに浴びせてもアイツにゃ軽い火傷レベルっぽかったし。大蛇も表面を焼いただけ。フェイントには最適やけど、決定打にはならへんな。これ以上の削り合いでは不利、か)

 

 次の作戦を練るラミナ。

 

 その時、宮殿の中央塔付近からラミナが起こした以上の爆発が起きた。

 

「今のは……」

 

 

「君のお仲間の仕業かい?」

 

 

 煙から声がして、ラミナは視線を鋭く戻す。

 

 煙からヌルリとアモンガキッドが現れる。

 

 アモンガキッドの身体はところどころ血が流れ、火傷を負っていた。しかし、それもボロボロと皮膚が崩れ落ちていくたびに綺麗になっていく。

 

「やれやれ……流石に今のはちょっと焦ったよ。ホント、残念なくらいこっちの裏をかいてくるねぇ……」

 

「それが格上を殺す常套手段やろが」

 

「いやいや、格上って……。そこまで差はないでしょうに」

 

「よう言うわ。まだ本気出しとらんやろ。ペイジンの時の動き見せてへんしな」

 

「いやぁそれはそうなんだけど……それは単純にミナっちの手が読めないから攻めるに攻められないだけなんだよねぇ……。ところでさっきの爆発、あれは君のお仲間の手榴弾かい?」

 

「さぁな。他の奴らがどんな装備で動いとるかまでは知らん」

 

「その嘘は下手だねぇ。ミナっちがお仲間の実力や装備を把握してないわけないじゃないの」

 

「知らんもんは知らん。そっちこそ、他の護衛軍か師団長ちゃうんか?」

 

「ん~~……おいちゃんは心当たりないねぇ。流石にあんな爆発する能力を持つ子を宮殿内に置いときたくないからねぇ」

 

 爆発の原因は護衛軍のモントゥトゥユピーなのだが、それはモントゥトゥユピー本人も自覚していなかったことなので、誰も知らなくても仕方がないことだった。

 

「ところでミナっち。訊きたいことがあるんだけどさ」

 

「……まだあるんかい……」

 

 

「君、さっきからずっと戦ってる理由として『暗殺者』って言ってるけど……()()()()()()()()どうなんだい?」

 

 

「……」

 

「ペイジンで君と戦った後、ビゼフ君にお願いして幻影旅団の情報を集めて貰ったんだけど……君のイメージと幻影旅団のイメージがどうにも合致しなくてねぇ。共通してるのは君や幻影旅団の面々が流星街出身だったってことくらい? 他の集めた情報からだと、どうにも君が団長を王として崇めるほどの存在じゃないように思えるんだよねぇ」

 

 アモンガキッドは集めた情報が所詮は上辺面であることは理解している。それで個人の性格や主義の全てを把握できるわけがない。

 ただでさえ幻影旅団の活動は一貫性が無いことで有名で、プロファイリングのプロでも『訳が分からない』と言われているのだから。

 

 それを考慮に入れたとしても、ラミナの性格と幻影旅団の在り方が合わないように感じて仕方が無かったのだ。

 

「それに流星街出身としては、今の世界の在り方が壊れることに文句はないでしょ? むしろ、おいちゃん達が暴れ続けた方が君達にとっては都合いいんじゃないの?」

 

 アモンガキッドは首を傾げながら訊ねる。

 

 ラミナはそれを冷めた顔で見返し、

 

「もううちらは流星街から出た身やから爺共がどう考えようが知ったこっちゃないわ。それにうちはお前らと違て別に何でもかんでも王のために~とか言うタイプちゃうねん。気に入らんかったら気に入らんて言わせてもらうで」

 

「あ~……うん。それは納得。でも、それなら尚更君は所属してる理由がなさそうだけどねぇ」

 

「クモは別に常に一緒に行動してへん。招集がかかれば話は別やけど、そうでないなら何をしようが個人の自由やねん。盗もうが、人助けしようが、殺しまくろうが、ハンターになろうがな」

 

「ふぅん……」

 

「ちなみに団長はこの依頼を受ける時、一緒に話聞いとったし、許可も貰とるでな。それ以降は特になんも連絡も命令もない。やから別に気にする必要ないわ」

 

「ん~……」

 

「ただし」

 

「ん?」

 

「NGLを出た元師団長が2匹。片方はうちの王に手ぇ出して、片方は流星街を占拠しようとして暴れたらしくてな。どっちもうちらクモが殺しとる」

 

「あらら……。それはざんね――」

 

 

「つぅまぁりぃ、お前ら蟻はうちらクモにすでに喧嘩売っとるっちゅうことや」

 

 

「いやいやいや、流石にこっちに来なかった師団長達の暴走をこっちのせいにされても」

 

「それを決めるんはうちらや。流星街の方は確かにあんま関係ないけど、お前らの『選別』と同じことしとったらしいでな。お前らをこのまま放置したら、また流星街で同じことが起こる可能性は高い。やから、また依頼される前にここでお前らを潰すっちゅうんはおかしなことか? ただでさえNGLでお前らを仕留められんかったせいで流星街や他の団員に借りが出来てしもたからな。これ以上手ぇ煩わせると、しばらく奴隷扱い確定や」

 

 ラミナは肩を竦めながら言うと、アモンガキッドは右手で顔を覆って天を仰ぐ。

 

「なるほどねぇ~……。あ~……それは納得出来るし、残念ながらすっごくしっくり来たよ」

 

「まぁ、ぶっちゃけた話。団長やったらお前らを面白がって仲間にしたがるかもしれんな。もっとも、お前らが団長に従うんやったらの話やけど」

 

「いや~残念だけど、それは無理じゃないかなぁ」

 

「やったら……やっぱうちらは殺し合うしかないわ」

 

 王に対するスタイルは違っていても、絶対に譲れないことがある。

 

 

 自分の王が誰かの下に就くこと。

 

 

 それだけは絶対に納得出来ないし、許すわけにはいかない。

 

 クロロがどこかの国の王などになったら爆笑する自信があるが、それでもクロロが誰かの下で命令を聞く姿など想像もしたくないし、見たくもない。

 

 幻影旅団(クモ)団長()は無秩序で自由だからこそなのだから。

 

 

 故に、ラミナとアモンガキッドが手を握ることはありえない。

 

 

 殺し合うしか道はないのだ。

 

 

「もう話すことはなんもない。次にどっちかが話すとしたら……遺言の時や」

 

「……そうだねぇ。残念だけど、それしかなさそうだ」

 

 アモンガキッドはゆっくりと俯き、

 

 

 直後、禍々しいという言葉ですら足りないほど不気味なオーラを放出しながら8頭の大蛇を生み出す。

 

 

 その姿は先ほどとは違い、殺気と怖気しか感じさせない。

 

 

 完全に殺す気になった様子のアモンガキッドに、ラミナも剣のように鋭い殺気が籠められたオーラを纏う。

 

 

 そして合図もなく、全く同時に駆け出した。

 

 

 クモと蟻の戦いは、もはや誰にも止められない。

 

 

 




偃月刀の能力説明は次回にさせて頂きます。

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