暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
本当に遅くなり申し訳ありません。
スランプ気味だったり、メンタル荒れてたり、中々執筆が進みませんでした。
これからも時間はかかるかもしれませんが、更新は止めませんので、よろしくお願いします。
ラミナがアモンガキッドを誘い出した直後、ゴンとキルアは茫然とラミナ達が飛び出した穴を見つめていた。
ネフェルピトーはゴン達に意識を向けながらもコムギの治療に専念する。
(どうする? ネフェルピトーは動けないし、あの訴えは嘘じゃない。だから、あの女の治療が終わるまでは絶対にこっちを攻撃してくることはない。脅威度は格段に下がる以上、無理にここに留まる理由はない。けど……ゴンをここに置いて行くのも、連れていくのも不安だ……!)
キルアは頭の中で自分はどう動くべきか考えていた。
そのすぐ傍でゴンは未だに項垂れている。
(それに動くとしてもどこに合流する? ラミナを追うならゴンは絶対に連れていけない。モラウはプフと【監獄ロック】で閉じこもってるから合流は無理。ということは行くならナックル達のところになるけど……一番激しい戦闘が予想される場所に今のゴンはやっぱり連れていけない……。なら、ティルガ達の方か? それか……イカルゴの方? いや、駄目だ。もしパームが死んでたり、改造されていたらゴンはもう耐えられない……!)
やはり全てはゴン次第。
あんな言葉を投げつけられても、どれだけ心を傷つけられても、キルアはゴンを見捨てるという選択肢だけはありえない。
それがキルアが決めた覚悟なのだから。
その時、ゴンがゆらりと立ち上がった。
「っ……!? ゴン……」
「……」
ゴンはゆっくりとネフェルピトーに向かって足を進める。
「おい、ゴン! 大丈夫なのか?」
何に対して大丈夫なのか。それとも全てに関してなのか。
「ああ……もう、大丈夫……」
しかし、ゴンから返ってきた言葉は短かった。
その顔は虚ろに過ぎて、どう見ても大丈夫そうではなかったが、キルアはそれ以上何も言わなかった。
少なからず先ほどまでの怒りと混乱は消えている。だが、それでも決してキルアやラミナが求めた答えにも行きついていない。
キルアはそれを理解してしまった。
思わず寂しさを顔に浮かべるが、今はゴンの動きを注視することにした。
ゴンはネフェルピトーの前で足を止める。
「……時間は? どれだけ待てばいい?」
ゴンの問いかけにネフェルピトーは背後のコムギに視線を向ける。
「……完全に回復させるには……3~4時間はかかると思う」
「駄目だ。待てない」
一切表情を動かさず、間も置かず、冷徹なまでに切り捨てるゴン。
ネフェルピトーは数秒考え。
「……1時間もあれば……重大な危機を乗り切れるところまでは治せる。お願いだ……頼む……!」
「……」
キルアは今のネフェルピトーの交渉が罠であることに気づいていた。
以前の【円】が消えていた時間を考えれば、いくら何でも長すぎる。故に今のは『値切り』の交渉と同じ。長めの時間を最初に言い、その次に本命の時間を言うことで譲歩したように思わせる手法。
「……一時間したら俺と一緒にペイジンに行き、カイトを元に戻してもらう。……約束するか……!?」
「……必ず、約束する……!」
一時間が本命であったとしても、それだけ足止め出来れば十分すぎる。これを拒否する理由はなかった。
するとゴンはその場で片膝を立てて座る。
「一時間、ここで待つ」
ネフェルピトーは安堵すると共に、根拠不明の不安も込み上げてきていた。
目の前の相手がどう動くか全く読めなくなったからだ。
情緒の不安定さが隙ではなく、不気味さを生み出している。
それは本来自分たちキメラアントの特性であったはずなのに、今は相手が勝っている。
ネフェルピトーはここに来て、正体不明な存在と相対する漠然とした恐怖を知った。
それほどまでにネフェルピトーは追い詰められ、コムギの治療を絶対の使命と考えているのだ。
そして、それを見届けたキルアは、
静かに歩き出して、その場を後にしたのだった。
その少し前。
ティルガとブラールは宮殿廊下に開いた穴から裏庭に飛び出して、頭部を失った無残な死骸を跳び越える。
直後、その穴を更に広げるように壁が爆ぜ、ビトルファンが飛び出してくる。
「ブファファファファファア!! どうしたどうしたぁ!! それではオイラは倒せんゾォウ!!」
「っ……!(広い場所で戦うことを選んだはいいが……! 奴を倒す方法が思い浮かばん……!)」
狭い屋内ではティルガの高速立体機動が活きるが、ビトルファンの能力にも有利に働く。
故に屋外で戦うことを選択したが、ここからどう戦うべきかが思い浮かばない。
(奴を倒すには攻撃をしなければならんが、攻撃をすればするほど奴の攻撃力は上がり、一撃でも浴びれば即死する可能性が高くなる。ブラールは絶対に近づけさせられない。我とて無理に近づくことは出来ん。……理想は一撃で仕留めることだが……)
ラミナの教えからすれば、一撃必殺が可能なのは格下相手のみ。
『同等、格上相手に一撃必殺を当てるんやったら相討ち覚悟か、直前までコンビネーションが意味分からんくらい上手く嵌まるかくらいで、それ以外はもはや誘いやと思とき。念使いの戦いは基本初見。全部の攻撃を警戒されて然るべきやでな』
その言葉をティルガは正しいと思っている。
基本的にオーラが含まれた攻撃は絶対に喰らうわけにはいかない。
そもそも念使いの戦いは拳一発が一撃必殺になる可能性があるのだ。
その一発が一撃必殺なのか、その一発が一撃必殺のトリガーとなるのか、違いはただそれだけ。
ティルガは『一発が一撃必殺』タイプなのだが、問題は相手がビトルファンであること。
(奴の硬さはただでさえ師団長、いやキメラアント一と云われていたほど。力もビホーンには劣るが、次点にはいるだろうと云われていた。オーラを得て、能力が発動している今では我の【虎咬拳】でも抉るどころか掠り傷がやっとの可能性がある)
すでに少なくない強化を行っているであろうビトルファンの様子に、ティルガは自分の推測が正しいと直感している。
恐らく普通の一撃ではまともに傷はつけられない。
(ビトルファンは耐久力に自信があるからこそ、誘いを前提とした能力を創ったわけか……。『肉を切らせて骨を切る』を前提とし、最後には『肉も切らせず骨を潰す』。我の天敵に近い……。速さで翻弄しようにも、奴からすれば攻撃されるまで待ち構えればいいわけだから焦る必要もない……)
互いに強化系に特化した能力故に、地力が勝負の流れを支配していた。パワーも耐久性もティルガの上を行くビトルファンに真っ向勝負では絶対に勝機はない。
だが、ティルガは性格的にも知識でも小細工が得意な方ではない。
(理想はナックルと交代することだ。だが、ユピーと戦っているナックルに更に負担をかけるのはあり得ない)
【天上不知唯我独損】はポットクリンを憑けた相手の半径100m圏内にいなければカウントが進まない。
ユピー相手にメレオロンの能力を使っていると言っても、100m以内に居続けるのは想像を絶する緊張を強いられているはずだ。
ここで更に対象を増やすのは本当に潰れかねない。
だが、このままでは本当に足止めするだけで限界だ。
それでは他のメンバーのフォローなどする余裕がなく、もし誰かが倒れたら一気に瓦解してしまう。
どうにかして倒す算段を立てなければならない。
その時、
ドオオオオオオォォォンン!!
中央塔の1階部分が突如内側から爆発した。
「なっ……!?」
「ヌゥオ!?」
ティルガ達は突然の爆発と宮殿の崩壊、そして支えを失った中央塔の上階部分がティルガ達のいる裏庭側に倒れてきているのを見て、驚きを隠せなかった。
中央塔上階部はそのまま東西の塔を繋ぐ通路を潰して着地する。
モラウの【監獄ロック】がクッションの役割を果たし、完全に崩壊することは免れた。
(今のは誰の仕業だ? 我らにあのような攻撃が出来る者はいないはず……。ラミナならば可能性はあるが、ブラールの情報ではラミナは宮殿の外に出ている。そして、何よりあそこで戦っていたのはナックル達とユピー……。まさかユピーが?)
「ぬぬゥ!? 宮殿が破壊されタぁ!? 他にも敵が忍び込んでいたカァ!!」
ビトルファンは崩れた中央塔を見て、拳を握りしめて猛る。
それを見たティルガは、頭にある作戦が思い浮かんだ。
(……奴の能力は力と耐久を上げるに反比例して知能が下がる、と考えられる。ならば、もしや……? ………試す価値は、ある!)
ティルガは覚悟を決めるとほぼ同時に地面を全力で蹴って、身を低くしながら猛スピードでビトルファンへと迫る。
「ムムッ!?」
「フゥ!!」
ビトルファンがティルガに気付いたのは、ティルガの爪が右脇に叩きつけられたのと同時だった。
だが、ビトルファンの体には掠り傷1つ付いていない。
「ブファファファア! 効かんゾォ!!」
もちろん、そんなことは織り込み済みであるティルガは駆け抜けざまにスピードを緩めぬまま方向転換し、崩れた通路の中に飛び込んだ。
「ブッファーー!! また逃げるカァ!!」
ビトルファンはすぐさま叫びながらティルガを追いかけて、頭の角で通路の壁を吹き飛ばして中に入る。その衝撃で通路の天井が砕けて崩れ落ち、ビトルファンの体に当たる。
更に崩れて通路に落ちていた瓦礫を腕を振るって吹き飛ばす。
すると、ティルガも小さな瓦礫をオーラを籠めながらビトルファンに投げつけ始めた。
「ヌヌゥ!! 鬱陶しイイイ!!」
ビトルファンは苛立ちを露わにしながら両腕を無茶苦茶に振り回し、投げ付けられた瓦礫や落ちていた、落ちてきた瓦礫を殴り飛ばす。
一気に能力が発動したビトルファンは、ビキビキ!と体を膨れ上げ始める。
甲殻にヒビが入った直後に、甲殻が弾け飛んで前のより更に大きな新しい甲殻が作り出される。
「ブボォ…ブヴォオ……! ゴザ…カジイゾォウ゛……!!」
身体が二回り近く膨れ上がり、息遣いと言葉が怪しくなってきたビトルファンを見て、ティルガは冷や汗を流すも狙いは上手く行っていることを確信する。
しかし、
「ガブァ……ガゥヴァオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛ン゛!!!」
通路の壁を両腕で吹き飛ばして雄叫びを上げたビトルファンのオーラはあまりにも膨大で、危険も増したこともまた事実だった。
(もう近づくことは出来んな。掠っただけでも肉が吹き飛ぶだろう。もはや、奴も護衛軍の1匹と思う方が良いな)
「だからこそ……!」
ティルガは左手にオーラを籠めて、右側の壁に叩き込んで穴を開ける。
「こっちだ! ウスノロ!!」
挑発して穴から外に出る。
「ヴァオオオ!!」
ビトルファンも躊躇なく壁を突き破って、外に飛び出す。
ティルガは足を止めずに走り始めるも、目にした光景に目を丸くする。
中央塔があった場所には巨大なクレーターが出現しており、その中心にはモントゥトゥユピー。
「うぅらああ!! どこ隠れたぁ!!」
何やら叫びながらクレーター内を歩き回っていた。
クレーターの外にはナックルがおり、シュートとメレオロンの姿はなかった。
(メレオロンはシュートといるのか? だが、何故逆に……? いや! 今はそんなことはどうでもいい! 今は――)
「ユゥピィーー!!」
ティルガはモントゥトゥユピーの名を叫びながらまっすぐクレーター目掛けて走り、ビトルファンが追いかけてくることを確認する。
いきなり現れたティルガとビトルファンに、ナックルは目を見開く。
そして、モントゥトゥユピーは「ああん?」と訝しみながら顔を上げる。
ティルガは躊躇なくクレーターに飛び込み、まっすぐモントゥトゥユピーに駆け迫る。
「ブヴァオオオオオオ!!!」
ビトルファンもティルガを追いかけてクレーターに飛び込む。
「あぁ? なんだぁ? ちっ、アイツじゃねぇのかよ。邪魔しやがって」
モントゥトゥユピーは僅かに苛立ちを露わにしながら右手を3本爪の鞭のように変化させる。
ティルガはゾッとするほどの強大で凶暴なオーラに挟まれ、大量の冷や汗を流し、頭の中で大鐘が鳴らされていると錯覚するほどの死を予感させる警鐘を必死に無視して、全力で両脚を動かす。
(チャンスは一瞬……! 失敗は死……! だが……ここでやらねば、師に負担を強いてここに来た意味はない!!)
「ウゥル゛ル゛ル゛ル゛ル゛……!!」
全神経を注ぎ集中するティルガの瞳が更に細まり、牙を剝き出しにして唸り、身を低くして地を駆ける。
クレーターの外で動向を見守っていたナックルの目には、ティルガが本物の猛虎のように見えた。
そして両手と両足にオーラを集中させ、更にスピードを上げる。
「邪魔だ。とっとと死ねぇ!!」
モントゥトゥユピーが攻撃を仕掛けようとした瞬間、ティルガは両手を突き出してモントゥトゥユピーの目の前に視界を埋め尽くすように念弾を放つ。
モントゥトゥユピーは攻撃を一瞬止めてしまい、その隙をティルガは逃さずにスピードを緩めることなく、念弾に跳び乗った。
ティルガは跳び上がると同時に念弾を爆破して、一気に高く跳び上がった。
爆発した念弾で視界が更に塞がれたモントゥトゥユピーは、ティルガがジャンプしたことに気付かず、顔を顰めながらも前方に向かって高速で3本の鞭爪を振るう。
しかし、その攻撃はティルガではなく、その後ろから突っ込んで来たビトルファンに直撃する。
「ブボヴォオ!?」
「……あぁん?」
「ブファ…ブバボオオオオオン!!」
攻撃されたビトルファンは雄叫びを上げて、モントゥトゥユピーに突撃する。
モントゥトゥユピーは舌打ちして更に追撃を繰り出すも、ビトルファンはモントゥトゥユピーの攻撃を無視してショルダータックルを放つ。
モントゥトゥユピーは左腕を盾にしてタックルを防ぎ、後ろに吹き飛ばされるも倒れることなく堪える。
「っ……! テメェ……さっきの奴と言い、蟻のくせして俺らに、王に逆らおうってぇのかぁ?」
ビトルファンであることに気付いていないモントゥトゥユピーは更に苛立ちを強める。
「ブヴォオオオオン!!」
しかし、ビトルファンはモントゥトゥユピーの問いかけを無視して右腕を振り被って殴りかかる。
モントゥトゥユピーも右腕を大きく太く変化させて振り被り、ビトルファンの拳に合わせる。
拳と拳がぶつかった衝撃に両者の間の地面が割れる。
ティルガはクレーターの外に着地して、大汗を流し息を荒く吐きながら、ゴングが鳴ったバケモノの戦いを見下ろしていた。
「はぁ! はぁ! はぁ! ……なんとか、上手く、行ったよう、だな……はぁ! はぁ!」
「おい、ティルガ!」
ナックルが身を低くしながら素早くティルガの元に駆け寄ってきた。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……ナックル…無事だったようだな」
「まぁ、俺はずっとメレオロンと隠れてたし、逃げ足にも自信があっからな。それよりもお前、ありゃなんだ?」
「ビトルファンだ。奴の能力は攻撃を受ければ受けるほど力が増し、攻撃して何かを壊せば壊すほど頑丈さが上がるそうだ。だが、その反動なのか、力が増せば増すほど知能が下がるようだ」
「知能が下がる……。なるほどな。それで相手が護衛軍かどうかも分かんなくなっちまったわけか」
「ああ。情けないことだが、我とブラールではビトルファンには勝てん。相性が悪すぎる。だから、わざと能力を発動させ、知能を下げた状態でモントゥトゥユピーとぶつければ、仲間割れする可能性が高いと考えた」
「それがさっきの特攻ってわけか。だが、悪くねぇ作戦だ。あれならユピーも少なくねぇオーラを消費するし、隙も出来るはず……。俺らも突っ込んで乱戦に持ち込みゃあ、ユピーをぶん殴ることが出来るはずだ……!」
ナックルの言葉にティルガはギョッとする。
「殴るだと!? あの死地の中にわざわざ飛び込むというのか!?」
「ああ。まだ……まだユピーがトぶまでにゃ10分近くはかかる……! 最低でももう1回、さっきの爆発を起こさせる必要がある。……それにシュートと約束しちまったんだよ。あいつの顔面に拳を叩き込んでやるってな!!」
「……」
その言葉にシュートはもはや戦えないのだと理解したティルガ。
止めなければならない。
ラミナであれば、絶対にぶん殴ってでも止めるだろう。
だが、ティルガは何故かナックルの暴走を止める気になれなかった。
「奴のあの爆発の引き金は『怒り』。俺らとの戦いや今のビトルファンの暴走は確実に奴を苛立たせてるはずだ……。奴がブチ切れて爆発する瞬間が勝負だな」
「……本気、なのだな?」
「ったりめぇだ」
「……ならば、我はその爆発の瞬間にビトルファンをユピーの傍から逃がさんようにしよう。あれだけの爆発だ。いくら奴でもただではすむまい」
汗を拭い、両手に力を籠めながら作戦に乗るティルガ。
無茶苦茶な作戦に乗ってきたティルガに、ナックルは好戦的な笑みを浮かべて頷く。
作戦を考えれば絶対にここは無茶をする場面ではない。
だが、それでもやらねばならない意地がある。
死ぬことになっても、貫かねばならない誇りがある。
どんなに周りから、師から怒鳴られ、呆れられ、失望されようとも、譲れないものがある。
命を懸けた戦場だからこそ、使命よりも重いものがある。
だから、死地へと飛び込むことに躊躇はない。