暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
ブロヴーダを無力化したイカルゴは大きく息を吐いて、椅子に座り込む。
「はぁ~……(これでブロヴーダは当分起きないはず……起きる頃には戦いは終わってるはずだ)」
これでブロヴーダは戦線離脱したも同然だ……だが。
(いや! 駄目だ! 戦いが終わってもあの奥にはまだ人間が残ってる! あそこに放置してたら駄目だ! 理想は……ブロヴーダを殺すこと……!)
イカルゴは導き出した結論に吐き気がこみ上げそうだった。
(ブロヴーダが眠りに落ちる瞬間にウェルフィンやビトルファンに通信を飛ばした可能性がある! ブロヴーダを殺して、その死体を利用して敵を混乱させる! それが一番皆の助けになるはずだ!)
イカルゴは催眠ガスを止めて、シャッターを僅かに開ける。
そして、重い足取りでシャッターの前まで歩み寄る。イカルゴであれば数㎝の隙間があれば、通り抜けることが出来るため、シャッターを操作されない限り邪魔者が入ることはない。エレベーターも扉が閉まらないようにしているので、誰かが下りてくることもない。
つまり、このシャッターを越えれば、ブロヴーダを殺すしかなくなる。
(怖気づくな! ここには俺しかいないんだ!! わざわざブラール達をこんなところに呼ぶわけにいかないだろ!! 俺が……俺がやらなきゃ……!!)
イカルゴは大きく息を吸って止め、隙間に潜り込む。
ニュ~~っと分厚いシャッターを潜り抜けて中に入り、ブロヴーダを視界に捉えた瞬間……吐き気が込み上げた。
「うぷ……!」
片足が無意識に後ろに下がるも、すぐに身体に活を入れてゆっくりとブロヴーダへと歩み寄りながら手の一本を狙撃銃に変える。
近づくほどに体が震え、涙が浮かび始める。
しかし、後2,3歩と言うところで、今度は本当に胃から何かが込み上げてきた。
「う!」
イカルゴは手を戻し、口を押さえながらシャッターに戻って再び隙間をニュ~~っと潜り抜ける。
そして、隙間から出たところで限界を迎えた。
「うぉえっ……げぇ……!」
膝をついて、上がったきたものを吐き出す。
「はぁ……はぁ……うぅ……うっ!」
あまりの情けなさに涙が溢れだすイカルゴ。
(出来ない……! 出来なかった……! 情けない……! ティルガやブラールも乗り越えてきたのに……俺は、こんな土壇場になっても……!!)
今地上では、ゴンが、ティルガが、ブラールが、メレオロンが、ナックルが、シュートが、モラウが、ラミナが、そしてキルアが命懸けで戦っている。しかも、自分より格上と分かっている護衛軍相手に。
自分は戦いに参加することを望まれなかったとは言え、同じ戦場に立つ以上自分も覚悟は決まったと思い込んでいた。仲間のためならば、友のためならば、敵を殺すこともできると思い込んでいた。
だが、結果はこの体たらくだ。
戦場に立ってまで、最高のチャンスが目の前にあってまで……自分は引き金も引くことも出来ない。
死ぬ可能性の低い足や腕なら撃てる。相手の体格などに左右される失血死狙いの蚤弾ならば撃てる。
なのに、確実に、直接殺す弾丸は……撃てない。
(なんて中途半端……! 俺は……俺は……卑怯者だ……!)
「うぇ……うえぇえぇぇん!!」
イカルゴは人の眼を気にする余裕もなく、周りを警戒する余裕もなく、その場で地面に蹲って大泣きし始めた。
その隙にモニター室へと忍び込む存在がいたことには、全く気付かなかった。
またまた少し時は戻って、地上。
崩れた中央塔3F玉座の間外縁にて、【監獄ロック】内で睨み合っていたモラウとシャウアプフであったが、モラウの内心はとても順風満帆とは言える状況ではなかった。
モラウがシャウアプフを閉じ込めた直後、シャウアプフはなんと敵であるモラウの目の前で蛹に変態したのだ。
モラウは当初戦闘形態へ移行するためだと思い、時間稼ぎには持ってこいだと思っていたが、数分経過したところで流石におかしいと気付いた。
護衛軍であれば何より王の元へと赴くために急ぐはずだと、考えていた。
しかし、未だにシャウアプフに動く気配はなく、先程やってきたモントゥトゥユピーの呼びかけに反応する素振りすら見せなかった。
(何故動かねぇ……。俺の息だって無限に止められるわけじゃない。コイツの催眠鱗粉と身体能力なら十分俺を倒すことは出来るはずだ。……もちろん、簡単にやられるつもりはねぇが)
そもそもいきなり蛹に変態したのも違和感があった。
出会い頭はモラウを無視して飛び出そうとしていたのに、逆に全く動けなくなる蛹になるなど普通は選択しない。
(何かの能力か? 一定時間身動きが取れなくなる事を制約とした一発逆転狙いの博打技……ありえない話じゃねぇ。だが一番厄介なのは、俺が攻撃することで発動するカウンター能力!)
普通であれば、こんな無防備な相手が目の前にいたら、まず攻撃するだろう。
それを狙った能力であれば確かに効果的ではあるが……。
(俺の狙いが王との分断、時間稼ぎなのは奴も理解しているはず……。なのに、悠長にカウンターを待つ
理由はなんだ? 【監獄ロック】を脱出できるほどの能力? ……いや、いくら何でも蛹になる程度じゃ、除念だろうが自爆だとしても不可能だ)
カウンタータイプの除念であれば、基本的に除念したい能力で攻撃される事が絶対条件となる。
自爆だとしても、それも与えられたダメージに比例するはずで、増幅するには更に達成すべき制約が必要となる。
モラウの攻撃手段は基本的に巨大煙管による打撃。
自爆したとしてもたかが知れている。
(そうでないならば、何が目的だ? ……もし本当に蛹になっているのだとしたら、中身はドロドロで生物の形も、それどころか意識すら保てていないはず……。するか!? こんな場面で、そんな致命的なミスを……!?)
モラウは攻撃するべきか、このまま待ち続けるべきか悩む。
しかし、直後抱いていた違和感に気付く。
(待て……こいつは俺の狙いを理解した上で蛹になったということになる? その状態で動けず、意識も保てなくなるかもしれない蛹になるってことは……ミスリード?)
モラウは煙管を握る力を僅かに強める。
(蛹になった生き物は動けない、反応出来ないという情報を利用したミスリード! そう、蛹になったからと言って、
自虐に内心で苦笑するモラウ。
それを【麟粉乃愛泉】で読み取ったシャウアプフは蛹の中で眉を顰める。もちろん、一切反応は見せないが。
(……困惑、迷いの色が自虐へと変わった……? この状況で浮かべる感情としてはやや歪……しかし、だからこそ油断はできませんね)
この状況で浮かべる感情ではないからこそ、見逃してはならない。
そして、それが正しかったことはすぐに証明された。
モラウの感情が自信と覚悟の比率が上がった。
それを表すようにモラウが煙管を肩に担いで、振り被る構えを見せた。
(っ! やる気ですか……!? 初志を捨てて、根拠のない答えに身を投じると?)
シャウアプフは理論的ではないモラウの行動に、内心小さく驚く。
対してモラウは、
(確信はねぇ。だが……やはり反応もねぇ! つまり、コイツはどうやってか【監獄ロック】を抜け出している!!)
【監獄ロック】は一見逃げ場がない正しく監獄に思えるが、実は隙間が存在する。
ただし、その隙間は人が到底通ることが出来ない大きさだ。だから、本来であれば気にすることはない。
(蛹の後ろから液体かどうかは知らねぇが、少しずつ【監獄ロック】から抜け出していた。俺が迷えば迷う程、時間稼ぎに徹底すればするほど、奴は外で好き放題に暴れることが出来るってわけだ。俺の狙いを利用した、良い作戦だ。……たとえ、これすらも罠だとしても関係ねぇ!! それならそれでやりようはあるってもんよ!!)
モラウは躊躇なく煙管を豪快に振り抜き、蛹を破壊する。
蛹は簡単に粉砕され、その中身は空っぽだった。
やはり蛹がフェイクだったことを確信したモラウは、煙管を肩に担いで能力を解除する。
煙のドームが解除されて煙が霧散すると、シャウアプフが【監獄ロック】の範囲外で背中を向けて立っていた。
『……よくぞ、決心されましたね?』
「考えてみりゃ簡単なことだ。お前の蛹は後出しだった。こっちの意図を把握した上での待機なら、それがお前のトラップなのさ」
『……それだけですか?』
「いや? ダメ押しは最後の煙管を構えた時。気を入れた瞬間の反応の無さだよ。ありえねぇだろ。反応すまいとする気配すらないなんてよ。それで蛹の中にお前さんがいないのは決定的さ」
『……くっくっくっ』
モラウの言葉を最後まで聞いたシャウアプフは突然笑い出し、それにモラウは訝しみながら僅かに両足を開いて構える。
『……15分』
「あ?」
『そう……15分。貴方が煙の結界を解除を決断し、実行するまでに消費すると踏んだ時間です。私はその間に煙の隙間をそっとすり抜け、自由に動き回るつもりでした。私を結界に閉じ込めたのは王、そして他の護衛軍達との分断でしょう? つまり、煙の牢獄がある限り、それを見た貴方の仲間は『まだあの中に私はいる』と判断する』
丁寧な説明を始めるシャウアプフに違和感を感じ始めるモラウ。
(……なんでこんな悠長に話してやがる? どう考えても、俺があの蛹を破壊した瞬間が離脱するにはベストだったはずだ。そのためにあんなフェイクを使ったんじゃねぇのか?)
モラウが疑問を抱いている間も、シャウアプフは話し続けていた。
『その誤解を突き、貴方の仲間を静かに始末していく。実行するのに十分な時間、貴方は迷っているだろうと……』
「15分もの間、抜け殻を前にか? 随分と見くびられたもんだなオイ」
『いいえ。私は買い被っていたのです……貴方を!!』
シャウアプフが勢いよく空に跳び上がる。
モラウは逃がさないと能力を発動しようとしたが、シャウアプフの身体の輪郭が揺らいだのを捉えて、思わず動きを止める。
その直後、シャウアプフの身体が――花火のように炸裂して散り散りとなった。
「!?(一瞬にして超細かい粒子に……!! 液体じゃなくて、これで【監獄ロック】をすり抜けてたんなら、一粒一粒は目に見えねぇわけだ)」
すると、粒子があちこちで集まりだした。
『『『くすくす』』』
『『『『くすくす』』』』
そして、笑い声が響き渡る。
(これは……!?)
『貴方はもっと待つべきだった』
『なぜならこのすり抜けは』
『苦肉の策』
『正直、私は困っていたのですよ』
『閉じ込められている状況に』
モラウの目の前に広がるのは、ハチサイズのシャウアプフ
(体を小さく分裂させる能力……! あり得ないわけじゃねぇが、ここまでのサイズは人間に出来る技じゃねぇぞ……?!)
「っ……! 下手な陽動だな。矛盾してるぜ! お前はちゃんとすり抜けただろうが」
モラウは動揺を隠して、シャウアプフの言葉に言い返す。
『たったそれだけのこと、だったのですよ。あの時点ではね』
シャウアプフの能力【
自身の身体を最小ナノサイズまで分解することが出来る能力。
様々な大きさ・数に分割することが出来、サイズが小さければ小さい程数を増やすことが出来るが、司令塔となる本体は『ハチ』サイズまでしか小さくできない。
そして、この能力の弱点は『他の能力と併用が出来ないこと』。更に『オーラも分割しているため、戦力も比例して低下すること』にある。
つまり、シャウアプフの本体は蛹の中で隠れていただけで、抜け出せたのは分身だけだったのだ。
そして本体がオーラの源であるため、分身の戦闘力はそこまで高くなく、本体も格段に弱くなってしまう。
『私は貴方がもっと優秀な兵士だと思っていました。初志を貫徹、任務に忠実……しかし、拙い理に走り、結界を解いた。本当に有難う』
『有難う』
『有難『有難う』』
『有『有難『有難う』』』
『有難う』『有難う』
モラウはシャウアプフの挑発を無視して、煙管を咥えて煙を吸い、一気に吹き出して【紫煙機兵隊】を発動する。
煙の兵士はシャウアプフの群れに突撃し、腕を振るって数体のシャウアプフを叩き砕く。
身体を砕かれたシャウアプフ達は消滅するかと思われたが……なんと身体を再び鱗粉に戻り、すぐにまた集まり出した。
「!!」
数秒と経たずに、新たなシャウアプフの群れが再出現した。
『『『『キャハハハハハ!! ザンネンでしたー!!』』』』
(破壊、出来ねぇ!? 鱗粉に分裂し、また集まるだけ!? ……無敵!?)
モラウは一瞬最悪を想像したが、すぐに否定する。
(ありえるわけねぇ!! 奴の能力の真髄は『鱗粉』! ただそれを自分の姿に模してるだけ! そして、この手の能力は必ず操る本体がいるはずだ! そいつを見つけ出さねぇ限り、周りをどれだけ倒しても意味はない!)
すぐさまシャウアプフの能力を見極める。
しかし、対策に打って出る前に、シャウアプフ達も動き出した。
『『『キャハハハ!! サンキュー! バイバーイ!!』』』
シャウアプフ達は高笑いを上げながら、高速で上空へと飛び去っていった。
「ぐ……!」
モラウは歯嚙みするが、すぐに意識を切り替えて外縁を飛び降りる。
(騙されるな! これは奴の心理作戦! あの時点での蛹への攻撃はベストの選択だった! 奴の本体がもし【監獄ロック】の中にいたとしても、奴の分身が動き回れば意味はねぇ!)
あの手の能力は分身が見たもの、聞いたものを本体と共有することが出来るのがセオリー。
つまり、分身が自由に動き回って情報を集めれば、本体が解放された瞬間に王の元へと一目散に飛んで行っていたはずだ。
だが、今ならばまだシャウアプフは情報を手にしていないはず。
まだ十分に挽回するチャンスはあるとモラウは判断した。
(奴が次に狙うとすれば……『他の護衛軍との合流』『俺以外の敵を発見・殲滅』、そして『王との再会』!! これは全て俺の利害と一致し、全てが繋がっている!)
この状況を考えれば、他の護衛軍と合流すれば自然と敵を見つけることが出来、加勢することで仕留めることが可能。敵を倒せば、王の元へ赴く障害はなくなる。
(まだ突入して10分も経っていない! 爺さんは上手く王を連れ出したとしても、どこまで離れているかは不明! まだ追いつかれる可能性は十分にある! 護衛軍の誰のところに行くのかは分からねぇが、一番最悪はアモンガキッド! ラミナのところだ!)
最大戦力であるラミナが倒れれば、一気に戦況は瓦解する。
逆に言えば、ラミナが無事ならばモラウや他の誰かが倒れても、まだ任務を継続できる可能性は残っているということだ。
故にラミナだけは守らなければならない。
しかし、モラウもまたラミナの居場所をまだ知らない。
(煙で宮殿を覆うか……?! オーラはかなり厳しくなるが、奴の目くらましにもなるし、居場所を探ることも出来る)
一か八かの博打に近いが、少しでもシャウアプフの動きを妨害するために足を動かしながら作戦を練るモラウ。
その時――突然背中にシャウアプフが出現した。
「!!」
モラウが後ろを振り返ろうとしたのと同時に、シャウアプフはモラウの煙管を掴んで、モラウの背中を踏み蹴った。
完全に不意打ちを浴びたモラウは堪え切れずに煙管から手を放してしまい、地面に倒れてしまう。
「キャハハハハハ!! イタダキィー!!」
シャウアプフは馬鹿にするように笑いながら、一瞬で猛スピードで飛び上がって宮殿の外へと飛び去っていった。
煙兵がシャウアプフを捕えようとするが、残念ながら触れるどころか近づくことすら出来なかった。
(速い! くそったれ! 飛び去ったふりして鱗粉に戻って、近づいてやがった!)
「コイツは大事に捨てておくよー!! キャァハハハハ!!」
(やられた……!! これでもう新しい技は出せねぇ……)
モラウの能力は『煙』。
一度吐き出してしまうとある程度姿形は変えられても、能力の『核』に込めた命令は変えられない。
つまり【紫煙機兵隊】を【監獄ロック】にすることは出来ない。人形一体一体に姿と行動を指定する『核』となるオーラが存在するからだ。
『核』を解除すると煙が霧散してしまう。新たな煙を出すには煙管がいる。
故に【紫煙機兵隊】を解除すれば、モラウは完全に丸腰になってしまう。
モラウは頭をフル回転させて打開策を考えるが、残念ながらその時間を与えてくれる程、そこにいる怪物は甘くなかった。
「バゴオオオ!?」
「!?」
すぐ近くのクレーターから巨人が吹き飛んで、モラウの反対側の宮殿に落下する。
更にそれに続いて、モントゥトゥユピーがクレーターから飛び出てきた。
「ちっ……いい加減鬱陶しいんだよ。……あん?」
モントゥトゥユピーは振り返って、モラウの姿を捉える。
モラウの周りにいる煙兵を見て、モントゥトゥユピーは額に青筋を浮かべて口を吊り上げる。
「……お前も階段で見たなぁ。……よぉ、テメェがエスパーか?」
「っ……!」
モラウはモントゥトゥユピーの問いには答えず、両手を握り締める。
(くっ……! シュートとナックルはやられた……いや、ポットクリンがまだ憑いてる! ナックルは無事! メレオロンと潜んでいるか……シュートが限界を迎えたか。さっき吹っ飛ばされたのが誰かは知らんが、ナックル達が姿を見せねぇってことは少なからず味方ってわけじゃなさそうだな……)
しかし、この状況で姿を見せないという事は、この近くにはいない可能性が高い。
つまり、モントゥトゥユピーの相手をモラウがしなければならないということだ。
(……こりゃあ、本当に覚悟を決めねぇといけねぇようだな)
シャウアプフとは戦ったわけではないが、数分間息を止めて、【監獄ロック】を維持し、相手の動きに警戒し続けるのはかなりの精神力を消耗し、体力も決して軽微とは言えないレベルで消耗していた。
そこにシャウアプフより戦闘に特化しているモントゥトゥユピーと戦えば結果は目に見えている。
ただでさえ、もう技を出すことは出来ない状況なのだから。
(奴は身体を変化させることが出来る。それにあのクレーター……ナックル達じゃ出来ねぇ以上、奴の能力と考えるべきだ。後何発放てるかは分からねぇが……まだポットクリンが生きてるなら、一発でも撃たせて破産する時間を早めるしかねぇな!!)
やるべきことが決まればモラウに迷いはない。
モントゥトゥユピー相手に少しでも時間稼ぎをしようとした、その時。
モントゥトゥユピー以上の怒りが全身から迸るナックルが姿を現した。
(ナックル!? 馬鹿野郎! 何出てきて――)
「シュート、どこやったコラァ……!」
(っ! ちぃ! ブチ切れて頭に血が上ってやがる!! こんな時に、大馬鹿弟子が!!)
モラウは腕を振るい、煙兵をモントゥトゥユピーに嗾ける。
モントゥトゥユピーはすぐさま撃退に動こうとしたが、煙兵の姿が全てナックルに変わったことで一瞬動きを止めてしまう。
ナックルの大群はモントゥトゥユピーを囲い込むように移動する。
その中に本物のナックルも紛れたことで、モントゥトゥユピーはすぐさまモラウ達の狙いを看破する。
(狙いは分かった。いいぜぇ、一発はくれてやる。だが……代わりに、命を貰う!!)
命の駆け引きが、再び始まった。
そして、吹っ飛ばされたビトルファンは、覆い被さった瓦礫を押し退けながら起き上がった。
「ブボハアアァァ……!」
ビトルファンの身体はもはや元の面影を失いつつあった。
3mに及ぶ背丈に、腕や脚はゴンやキルアどころか、ラミナすらすっぽり収まりそうな程の太さになり、頭部は膨れ上がった身体にほとんど埋もれていた。
「ブボボオオォォ……」
立ち上がったビトルファンは周囲を見渡して、標的を探す。
そして、その視線がナックル達に向けられようとした時、
「こっちだ」
背後から声をかけられ、ビトルファンはズシン!! ズシン!!と地面を揺らしながら素早く振り返る。
そこにいたのは、ティルガだった。
「お前の相手は我では厳しかった故、出来ればモントゥトゥユピーと相討って欲しかったが……流石にあの戦いにお前を突っ込ませるわけにはいかぬ」
ティルガは一度イカルゴの元へ行こうとあの場を離れたが、ブラールの梟からの映像で手出しは難しいと判断し、イカルゴの代わりにパームを探そうとしていた。
その矢先に突如モラウとシャウアプフが解き放たれ、2人の動きを見定めようとしたところに、ビトルファンが目の前に殴り飛ばされてきた。
「シャウアプフが解き放たれた今、混戦は不利……。元より我の役割はお前達の足止めだ。我も覚悟を決め、命を懸けよう」
「ブゥヴォバアアアア!!」
ビトルファンが両腕を振り上げて、ティルガに攻めかかってくる。
ティルガは両手を構え、牙を剥き出しにして瞳を縦に細める。
「ウ゛ゥオオオオオオ!!」
雄叫びを上げて、ビトルファンに飛びかかった。
その頃、シャウアプフは宮殿を離れ、煙管を捨てるために高速で飛んでいた。
回収される可能性を少しでも減らすために、戦場から遠く離れた場所に捨てるつもりだった。
人間は空を飛べないし、例え一瞬で場所を移動出来る能力を持っていたとしても、捨てた場所が分からなければ意味はないと考えて。
だからこそ、シャウアプフは油断していた。
もっと周囲を警戒すべきだった。
シャウアプフの遥か下――地面スレスレを無音で飛んで追跡している存在がいることを。
シャウアプフは最後まで気付かなかった。
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ラミナ'sウェポン!(お久し!)
・【
偃月刀に付与された能力。
切っ先から振り抜かれた剣筋に合わせて極細線状のオーラを這わせ、更にそのオーラの周囲に極少量のオーラを散布する。
散布したオーラが周囲の酸素と水素を吸収して、線状オーラへと集め、指を鳴らすことで線状オーラを炎に変化させて、周囲に集められた酸素と水素と反応して、一気に燃え上がる能力。
制約がほぼ無いに等しいのと、ラミナが放出系が得意ではないでの火力はそこまで高くない。
更に雨が降ったり、海や湖の傍など水気が強い場所では、更に火力が下がってしまう。
見た目と違い、オーラの消費も激しいので、中々に使いどころが難しい。
指を鳴らすのが発動条件のため、【妖精の悪戯】とのコンビネーションが可能。
シャウアプフの【蠅の王】って、本当に念能力なのか疑いたくなりますよね?