暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#15 オウチ×ニ×ゴショウタイ

 キルアの失格と言う形で終了したハンター試験。

 

 レオリオ、クラピカは納得出来ない部分もあるが、ゴンが目を覚ますまで待つことにした。

 翌日にハンター証についての講義があり、それが終了すれば晴れてハンターの仲間入りとなる。

 

 ラミナは与えられた部屋でのんびりしながら、電話を掛ける。

 

『……ラミナか?』

 

「久しぶりやな、クロロ」

 

『どうした、急に?』

 

「……人にハンター試験受けさせといて、その言い方かい」

 

『ああ、すまない。そうだったな。それで? 合格したのか?』

 

「受かったで。明日、ハンター証を受け取れることになっとる」

 

『流石だな』

 

「それで? 何させるつもりやねん」

 

『9月1日からヨークシンシティで行われるオークションは知っているな?』

 

「もちろん」

 

『お前にはそれまでにどこかのマフィアの用心棒として潜り込んでほしい。出来れば十老頭に近いマフィアでな』

 

「簡単に言うことちゃうぞ、オイ」

 

『お前の実力なら問題ないはずだ。潜り込めたら、また連絡をくれ』

 

 一方的に切られてしまい、ラミナは苛立ちながら携帯を見下ろす。

 

「簡単に言いよってからに……!」

 

 マフィアとの繋がりを持つのは簡単ではない。

 【リッパー】の名で近づくわけにもいかないので、ラミナの名で近づかなければならない。

 問題はこの姿のまま近づくかどうかだ。

 暗殺者は賞金首になりやすい。なので、あまり堂々と姿を見せたくはない。

 

「……まぁ、マフィア相手に気にするだけアホらしいか。はぁ……」

 

 ラミナはため息を吐いて、段取りを考える。

 その時、再び電話が鳴る。画面に出たのは見たことがない番号だった。

 

「誰や? ……はいな」

 

『リッパーだな?』

 

「どちらさん?」

 

『シルバ・ゾルディックだ』

 

「……」

 

 何故かゾルディック家当主から電話がかかってきた。

 もちろん教えたのはイルミだろうが、まさか向こうからかかってくるとは思わなかった。

 

「用件は……?」

 

『イルミからキルアの話は聞いた。針の事も、試験の事も』

 

「さいでっか」

 

『それについて直接会って話をしたい。試験の後、パドキア共和国のククルーマウンテンに来てくれ』

 

「……はぁ~。まぁ、当主に埋め合わせするて言うたからなぁ。分かった。終わり次第向かうわ」

 

『待っているぞ』

 

 ブツリと通話が切れ、ラミナはため息を吐く。

 

「バケモンの親玉共は気軽に人に言うてくれるわ、ホンマ」

 

 ラミナは携帯を放り投げて、ふて寝することにした。

 

 

 

 翌朝、ハンター証を各自受け取った合格者達は講堂に集まっていた。

 

「ゴンはまだ寝とるんかいな」

 

「ああ、恐らく疲れもあったのだろう」

 

「骨もハンゾーが綺麗に折ってたみたいでな。早く回復するそうだ」

 

「そら、よかった」

 

 適当に座って待っていると、ネテロを始めとする試験官達が入室してきた。

 

「おはようじゃ、諸君。良き朝を迎えられたかの? では、これよりハンター証などについて改めて説明を行う」

 

「それでは不肖ながら私、ビーンズが説明させていただきます」

 

 その時、部屋の後方の扉が勢いよく開く。

 

 全員が目を向けると、現れたのは真剣な顔をしたゴンだった。

 ゴンは注目されていることなどお構いなく歩き出し、イルミの元へと向かう。

 

「ゴン」

 

 レオリオが声を掛けるが、ゴンは無視をしてイルミの横で止まる。

 そして、イルミを鋭く睨みつけて、

 

「キルアに謝れ」

 

 力強く言い放った。

 

「謝る? 何を?」

 

「……そんなことも分からないの?」

 

「うん」

 

「お前に兄貴の資格はないよ」

 

「? 兄弟に資格がいるのかな?」

 

 その瞬間、ゴンはイルミの右腕を右手で掴み、片腕でイルミを振り上げた。

 ゴンの力に見ていた者達は僅かに目を見開く。

 

 イルミは緩やかに着地するも、その顔は僅かに驚きに染められていた。

 

「友達になるのにだって資格なんていらない!!」

 

 ゴンはイルミの腕を握り締めながら言い放つ。

 すると、ゴンが後ろを振り返り、

 

「キルアの元へ行くんだ。もう謝らなくたっていいよ。案内だけしてくれればいい」

 

「そして、どうする?」

 

「決まってんじゃん。キルアを連れ戻す」

 

「まるで誘拐されたような口ぶりだね」

 

「俺の命を人質にされて無理矢理従わされたんだから、誘拐されたも同然だ!」

 

 ゴンは怒りを露わにして、イルミに向かって言う。

 どうやら誰かから話を聞いたようだった。

 

(これはどうしたもんやろか。うちがゾルディック家にお呼ばれされたん教えた方がええんか?) 

 

 ラミナはまた話がややこしくなってきて顔を顰める。

 ここでゴンが出てくると、シルバとの話がこじれそうだと考える。

 しかし、ゴンの怒りも正当なものだと思うので、邪魔する道理はない。

 

「もしも今まで望んでないキルアに、無理矢理人殺しをさせていたのなら、お前を許さない」

 

「……許さないか。で、どうする?」

 

「どうもしない。お前達からキルアを連れ戻して、もう会わせないようにするだけだ」

 

(なぁんでゴンと言い、レオリオと言い、相手関係なくあそこまで啖呵切れるんやろなぁ。まぁ、キレとるからなんやろうけど)

 

 ラミナがどうでもいい事を考えていると、イルミが左手をゴンに向ける。

 イルミのオーラが僅かに強まった瞬間、ゴンはイルミから手を放して跳び下がる。

 

「ほぉ……気づいたんか」

 

 イルミのオーラを躱したことに感心するラミナ。

 禍々しくはあったが、殺気をそこまで乗せていなかったので、キレた状態なら気づかないかと思っていた。

 ゴンはイルミの正体不明の圧迫感に警戒して近づかない。

 

 そこにネテロが声を掛ける。

 

「さて諸君、よろしいかな? とりあえず、キルアの所に行くにしても、まずは説明をしっかりと聞いた方が良いぞ」

 

 その言葉を聞いたゴンは苦い表情を浮かべるも、大人しく席に座る。

 イルミも大人しく席に座り、説明会が再開する。

 

「それでは改めて。皆さんにお渡ししたカードがハンター証です。カード自体は見た目は地味ですが、偽造防止のためあらゆる最高技術が施されている以外は他のものと変わりません。ただし、効力は絶大! まず、このカードで民間人が入国禁止の国の約90%と立ち入り禁止区域の75%まで入ることが出来ます」

 

(……もしかしてクロロの雲隠れってこれが理由か?)

 

「公的施設は95%が無料。銀行からの融資も一流企業並みに受けられます。売れば人生7回くらい遊んで過ごせますし、持ってるだけでも一生何不自由なく生きていくことが出来ます。それだけに紛失・盗難には気を付けてください。再発行は致しません。我々の統計ではハンターに合格した者の5人に1人が1年以内に何らかの形でカードを失っております。プロになられたあなた方の最初の試練は『カードを守ること』と言っていいでしょう!」

 

「次に協会の規約についてですが、十か条というものが定められています」

 

【その1】

 ハンターたるもの何かを狩らなければいけない。

 

【その2】

 ハンターたるもの最低限の武の心得が必要である。

 

【その3】

 一度ハンターの証を得た者はどのような事情があろうと取り消されることはない。ただし、再発行はどのような事情があろうとも行われない。

 

【その4】

 ハンターたるもの同胞を標的にしてはならない。ただし、甚だ悪質な犯罪行為に及んだ者に対してはその限りではない。

 

【その5】

 特定の分野に於いて華々しい業績を残した者には星が1つ与えられる。

 

【その6】

 5を満たし、かつ上官職に就き育成に携わった後輩ハンターが星を1つ得たとき、その先輩ハンターには星が2つ与えられる。

 

【その7】

 6を満たし、かつ複数の分野に於いて華々しい業績を残したハンターには星が3つ与えられる。

 

【その8】

 ハンターの最高責任者たるもの最低限の信任がなければ、その資格を有することができない。最低限とは全同胞の過半数である。

 会長の座が空白になったとき、直ちに次期会長の選出を行い、決定するまでの会長代行は副たる者に与えられる。

 

【その9】

 新たに加入する同胞を選抜する方法の決定権は会長にある。ただし、従来の方法を大幅に変更する場合は、全同胞の過半数の信任が必要である。

 

【その10】

 ここにない事柄の一切は会長とその副たる者参謀諸氏とでの閣議で決定する。副たる者と参謀諸氏を選出する権利は会長が持つ。

 

 これらを最低限憶えておけば、ハンターとして活動できるとのこと。

 

(……【その4】って、うちはどうなんやろなぁ……。暗殺者って悪質な犯罪者ちゃう? それにハンター証渡すんって矛盾しとらんか?)

 

 ラミナは色々と疑問を覚えたが、貰えるのだから大人しくもらっておくことにした。

 そこをツッコむと他2名ほど、ラミナより悪人がいることにツッコみが飛びそうだったからだ。

 

「さて、以上で説明を終わります。後はあなた方次第です。試練を乗り越えた自身の力を信じて、夢に向かって前進してください」

 

 ビーンズは締めくくる様に告げる。

 

「ここにいる9名を新しくハンターと認定致します!!」

 

 説明会が終わって、立ち上がるラミナ達。

 すると、ゴンがさっきの続きとばかりにイルミに話しかける。

 

「キルアの居場所を教えてもらう」

 

「……止めといた方がいいと思うよ?」

 

「誰が止めるもんか! キルアは俺の友達だ! 絶対に連れ戻す!」

 

「……後ろの2人も同じかい?」

 

 イルミの言葉にゴンは後ろを振り返る。そこにはレオリオとクラピカが立っていた。

 さらにそこに、

 

「うちが知っとるで」

 

「ラミナ!」

 

 ラミナも歩み寄る。

 イルミが睨みつけてくるが、ラミナは肩を竦めて躱す。

 

「うちを呼んだんはそっちやでな。それに誰かが付いてくるだけや。まぁ、安心しぃ。流石に敷地前までの案内や」

 

「……ならいいけど。来たところでどうせ辿り着けないだろうし」

 

 そう言って、講堂を後にするラミナ達。

 ヒソカとイルミの視線を感じたラミナは、面倒くさげにするも一度話をしておくことにした。

 

「クラピカ。悪いんやけど『パドキア共和国』行きのチケット頼むわ。目的地は『ククルーマウンテン』」

 

「パドキア共和国のククルーマウンテンだな。分かった。一度めくって、私達のと合わせて確保しておく」

 

「すまんな。すぐに合流するわ」

 

 クラピカに頼んで、ラミナはヒソカ達の元に歩み寄る。

 

「なんやねん?」

 

「くく♣ 君も物好きだと思ってね♥」

 

「ああいう輩は満足するまでやらせた方が諦めも早いやろ」

 

「諦めればいいけどね」

 

「そこはゴン次第やからな。うちが何をしようと変わらへんわ」

 

「かもね♠ それにしても……」

 

「ん? ああ、これ?」

 

 イルミはゴンに握り締められた腕を見下ろす。

 

「うん。折れてるよ」

 

「ほぉ」

 

「確かに面白い素材だね。お前達が見守りたいって気持ちがよく分かるよ」

 

「だろ♥」

 

「暗殺者と戦闘狂に面白い言われても嬉しないやろうけどな。ところでヒソカ」

 

「なんだい?」

 

「クラピカに何言うたんか、聞いてええか?」

 

「……内緒♠」

 

「……ヨークシンのことやな?」

 

 ラミナは目を鋭くしてヒソカを睨みつける。

 ヒソカは笑みを深めるだけで、何も答えない。

 

「……まぁ、うちは団員やないからお前が何を企んでようがどうでもええけど……。むやみやたらに引っ掻き回すだけやったら……お前の数字、うちが切り取りに行くで?」

 

 殺気を醸し出して、ヒソカを睨みつける。

 

「それは楽しそうだね♥」

 

「……変態が」

 

 ラミナは眉間に皺を寄せて、吐き捨てながら2人の前から去る。

 そのままゴン達の元へと向かう。

 ゴン達の元に向かうとハンゾーとポックルと話していた。

 

「あ、ラミナ」

 

「お。ちょうどいいところに。ほれ」

 

 ハンゾーはラミナに名刺を渡す。

 『雲隠れ流上忍 半蔵』と書かれており、ホームコードと電話番号も書かれていた。

 

「……ホンマに忍か?」

 

「うっせぇな。ほれ、お前さんのもくれよ」

 

「俺も貰っていいか?」

 

 ポックルもホームコードを渡してくる。

 ラミナはそれを受け取るも、肩を竦める。

 

「後で送るわ。うちのホームコードは裏の仕事の奴でな。持ち歩いてないねん」

 

「わ、分かった」

 

「それでよく仕事来るな?」

 

 ポックルは堂々と殺し屋発言されて引き、ハンゾーは首を傾げる。

 

「そりゃあ仲介者やマフィア相手にしとったら、そこそこ情報は広がるでな」

 

「それもそうか。じゃあな」

 

「達者でな」

 

 ハンゾーとポックルは手を上げて去っていく。

 見送ったラミナはゴン達に顔を向ける。

 

「チケットはこれからか?」

 

「ああ」

 

「ちょっとあんた」

 

「ん?」

 

 チケットを予約に行こうとしたら、メンチが声を掛けてきた。

 ラミナはクラピカ達を先に行かせて、話を聞くことにした。

 講堂に再び戻ると、ネテロやサトツ達もいた。

 

「なんや?」

 

「念のことについてよ」

 

「念の?」

 

「さよう。実はハンター試験はまだ終わっておらんのじゃよ。お主とヒソカにギタラクル以外はの」

 

「……念の習得も試験なんか」

 

「そうです。先ほどの説明されたハンター十か条【その2】は念の修得の事を指します」

 

「裏ハンター試験って言われててね。プロハンターが教えることになってるの」

 

「せやから、うちから念の事を話すなと?」

 

「いや、もし話すのであれば、しっかりと教え込んでくれと言うことじゃ。中途半端に会得すれば、下手に死にかねんからの。そして、もし教えたのであれば、協会の方に一報を入れてほしいのじゃ」

 

「なるほど。まぁ、今んところ教える気はないさかい、大丈夫やと思うけどな」

 

「それともう1つ。キルアのことじゃが」

 

「あん?」

 

「受ける気があるならば来年も受けるように伝えてやってくれ」

 

「……それはゴンに任せるわ。うちやとキルアをあの家から引っ張り出せんでな」

 

「果たしてそうかのぉ」

 

「あの兄貴と同じ穴の貉が説得してもな。ゴンやったら、大丈夫やろ。話はそれだけか?」

 

「うむ。達者でのぉ」

 

「あ。今度仕事一緒にしない?」

 

「時間があれば構へんで。まぁ、うちの暗殺者用のホームコードに連絡入れてや」

 

「教えなさいよ」

 

「持ち歩いてへんねん。マフィア連中が探せるんやから、プロハンターならすぐに見つけられるやろ」

 

「ぐぐ……!」

 

「ほっほっほっ!」

 

「ほなな」

 

 講堂を出て、再びクラピカ達の元に向かう。

 クラピカ達はパソコンの前に集まっており、ラミナも顔を覗かせる。

 

「見つかったんか?」

 

「おう。今日の夜に出発の飛行船を予約したぜ。大体3日くらいだとよ」

 

「了解や。それで? なんか調べとったんか?」

 

「親父の事だよ」

 

「ゴンの?」

 

「うん。ジン・フリークスって言うんだ。けど、ゴクヒカイイン?って奴みたいで何も分からなかったけど」

 

「電脳ページの極秘会員? なんや、大物やったんやな」

 

「うん。ダブルハンターだってサトツさんが言ってた」

 

「ほぉ。ベテラン中のベテランやな。まぁ、新人ハンターですら意味分からんくらいの好待遇なんや。ダブルハンターまで行くと、それだけの権力と資金は楽に手に入るんやろうな」

 

「ひえ~……プロハンターってのはホントやべぇな……。一体何億くらい資産あんだ?」

 

「兆の単位やと思うで? 一暗殺者のうちが8億持っとるし」

 

「8……!? なんでそんなに稼いでんだよ!?」

 

「マフィアなんざ敵対しとる奴殺すのに、5000万や1億とかポンポン出しよるでな。ゾルディック家やったら100億単位やないと雇えんのちゃうか?」

 

「……う、裏の世界って凄まじいんだな……」

 

「ハンターになった奴が言うセリフちゃうぞ」

 

 ラミナは呆れながらレオリオを見て、ゴンに目を向ける。

 ゴンはどこか嬉しそうに薄っすらと笑みを浮かべている。

 

「ほな、行こか」

 

「そうだね! キルアに会いに行こう!」

 

(そんな簡単ちゃうやろうけどな)

 

 そして、ゴン達は飛行船に乗って パドキア共和国を目指す。

 

 

 

 3日後、パドキア共和国に着いたラミナは、呆れた顔でゴン達を見ていた。

 

「観光ビザで入国せんでもええやろ。せっかくハンター証ゲットしたのに」

 

「コレはまだ使わないって決めたから」

 

「頑固なやっちゃな。レオリオとクラピカまで付き合わんでええやろ」

 

「俺はゴンとキルアに合格させてもらったからな。せめてキルアを連れ出すまではな」

 

「ということで、2人が使わないなら私も付き合うことにした。どっちにしろゴンとレオリオがここを去れば、私も引かざるを得ないしな」

 

「真面目な連中ばっかりやなぁ」

 

 もちろんラミナはハンター証を使っている。

 ラミナの目的はシルバに会うことなので、期限を設定するわけにはいかないからだ。

 ちなみにもうすでにシルバには到着の連絡は入れてある。もちろんゴン達の事も伝えてはあるが、中まで連れて行く気はないことも言ってある。

 

 ククルーマウンテンがあるデントラ地区までは列車で向かう。

 

「見えてきたぜ」

 

 列車の窓から巨大な山が見える。

 標高3722mの死火山で、周囲は樹海で囲まれており、そのどこかにゾルディック家の屋敷があると言われている。

 

「暗殺一家のアジトか……。実際見ると嫌な雰囲気だな」

 

「うむ……周囲の聞き込みから始めるか」

 

「まず宿を確保して作戦を立てようぜ」

 

「なんで? 大丈夫だよ。友達に会いに来ただけなんだから」

 

 ゴンが不思議そうな顔をしてレオリオとクラピカに言う。

 それにラミナも含めて「脳天気な……」と呆れる。

 

「まぁ、聞き込みはいらんやろ。ゾルディック家の門までは観光バスが出とるでな。そこに行くまでは簡単や」

 

「観光バスぅ!?」

 

「調べたんちゃうんか?」

 

 ラミナは再び呆れる。

 デントラ地区では1日1回。山景巡りの観光バスが出ており、その山がククルーマウンテンである。そのため、必然的にゾルディック家のことも観光の目玉とされている。

 

「……暗殺者のアジトが観光名所?」

 

「うちもそうやけど、暗殺者言うたかて別に目につく人間全員殺すわけないやろ。基本的に金にならん殺しはせん。まぁ、目標を殺すためやったら他人を巻き込むことは躊躇わんけどな。せやからゾルディック家からすりゃあ、家の前でチョロチョロしとっても気にせんのやろうな」

 

「ハンターが来たらどうすんだよ?」

 

「んなもん、返り討ちにするだけやろ。あの敷地内におる連中、使用人も含めて全員殺しのプロやぞ」

 

「……マジかよ」

 

「……想像以上に厄介な家庭のようだな」

 

「言っとくけどな、ゴンの思っとるように行かんと思うで。あそこはマフィアみたいなもんや。そこの御曹司にそう簡単に会えるとか思うか?」

 

「思えねぇよなぁ……」

 

 ゴンは裏の世界を甘く見過ぎている。

 正確に言えば、理解していないだけなのだろうが、そこを理解しようとせずに意地を張っているような様子に見える。

 暗殺者の一家からすれば、友人など一番警戒する対象になるのは『普通』である。

 殺しを生業にしている以上、逆に殺されることなど日常茶飯事なのだから。

 

 人間の心の内など誰にも分からない。

 だから、必要以上に人を遠ざけることは間違っていない。

 

 キルアを縛り付けているのは、キルアを守るためでもあるのだから。

 

「ところでラミナは何でキルアの家に行くの?」

 

「ゾルディック家当主、つまりキルアの親父さんからお呼ばれされたんや。ちょいと色々あってな」

 

「……確か前に命を狙われたのではなかったか?」

 

「もうその依頼主はおらんし。大丈夫やろ」

 

「なんでそこで確信持てるんだよ……」

 

「同業者やからな。あっちのやり方はなんとなく理解出来たんや。少なくとも当主は金にならん殺しはせん。余計なことをせんかったらな」

 

 と言っても、その余計なことをした可能性があるのだが。しかし、面と向かって話す以上、無闇に殺す気はないのだろうとは考えている。無理難題は吹っ掛けられそうだが。

 嫌な予感がしているが、逃げられる気もしないので頑張って取引を仕掛けるつもりなラミナだった。

 

(下手な取引したら、今度はマチ姉に殺されそうやしな)

 

 優しくもおっかない姉は意外と沸点が低く、ラミナを『自分のもの』扱いしている所がある。

 ゾルディック家に盗られたと思ったら、ウボォーなどを嗾けて戦争を仕掛ける可能性が高い。そうなれば、一番駆け回るのは間違いなくラミナであり、マチだけでなく、クロロやシルバに更に借りを作ることになるだろう。

 それだけは勘弁だった。

 

(……クロロに連絡入れとこ)

 

 先に予防線を張ることにしたラミナであった。

 

 

 

 

 デントラ地区の街に着いたラミナ達は、早速観光バス乗り場に向かいバスに乗る。

 

 バスガイドが明るい口調でゾルディック家について、説明している。

 バスの中には一般の観光客に混じって、賞金首ハンターのような者達が4名ほど混じっていた。

 

「……明らかにカタギじゃねぇ奴らが乗ってるな」

 

「ほっときぃ。ゾルディック家の噂を甘く見とるお調子もんやろ。実力はレオリオと同じくらいや。ゾルディックに会う前に死ぬやろ」

 

 纏っている【纏】もお粗末なものだった。

 恐らくは基本四大行の修得だけで満足した愚か者の類。殺し屋と呼ぶ気にもならない。

 

「さて、皆さま。これよりゾルディック家の正門前にて一時停車致します。あまりバスから離れないようにお願いいたします」

 

 そのアナウンスの5分後にバスは停止し、ラミナ達は降車する。

 

 目の前には巨大な門があり、7までの数字が記されている。

 門の横には守衛室と思われる小屋があり、その隣は小さな扉があった。

 

「ここは通称『黄泉の門』と呼ばれております。入ったら最後、出られないという意味だからです。ちなみにここから先はゾルディック家の私有地となっておりますので、見学は出来ません」

 

「なにぃー!? まだ山までかなりの距離があるぜ!?」

 

「はい。ここから先の樹海はもちろんククルーマウンテンも全て、ゾルディック家の敷地となっております」

 

「……マジかよ」

 

「まぁ、長いこと仕事しとれば金くらい貯まるやろ」

 

 レオリオは唖然と目の前の門を見上げる。

 ラミナは特に意外でもないので驚きはしない。

 

 ゴンはその横で悩まし気に門を見上げている。恐らくどうやって入ればいいのか考えているのだろうとラミナは推測する。

 その時、ラミナに近づいてくる人影が現れる。

 

「ご歓談中に失礼いたします。リッパー様でございますでしょうか?」

 

 声を掛けてきたのは眼鏡をかけた執事服の男。

 ピシッと背筋を伸ばして礼儀正しい口調だが、纏う気配には一分の隙もない。

 

 ラミナが頷くと、執事は頭を下げる。

 

「お待ちしておりました。私、ゾルディック家に仕える執事のゴトーと申します」

 

「わざわざおおきに」

 

「とんでもございません。それではご案内させていただきます。……ただし、お連れ様はここまでとさせていただきます」

 

「わぁっとる」

 

 ゴトーの言葉にラミナは頷いて、後に続く。

 しかし、もちろんゴンがこの機会を逃すわけがない。ゴンはゴトーの前に立ち塞がる。

 

「待って! 俺、キルアの友達のゴンと言います。俺達も中に入れてもらってもいいですか?」

 

「キルア様に友達などおりません。お断りいたします」

 

「……キルアに聞いてくれれば分かる」

 

「それは今、あなたを中に入れる理由にはなりません」

 

「っ! ……キルアに会わせてくれるだけでいいんだ」

 

「くどい。仮に、本当にキルア様の友人にゴンと言う少年がいて、それが君だと言う確証もない。そして、本当にゴン本人であったとしても、私は何も聞いていない以上、その程度でキルア様に会わせるわけにいかない」

 

 ゴトーの口調が高圧的なものに変わる。

 僅かに殺気も溢れ出しているが、それでもまだ冷静かつ丁寧に理由を話して拒絶する。

 

 ゴトーとゴンの会話が聞こえたのか、周囲の観光客や例の賞金首ハンター達も2人に注目する。

 

「君がキルア様……ゾルディック家の方々を狙う者に操られていないという確証は? その友人である自体、演技ではないという確証は? 全ての可能性がゼロにならない限り、我々執事が君の要望に応えることはない。ゾルディック家の生業は暗殺。自然、そこの輩のように敵も多くなる。そのような外敵から、命を懸けて主を守るのが我々の役目だ。故に、私はここで殺されても、そして逆に君をここで殺しても、案内する気はない」

 

 力強くはっきりと告げるゴトーに、ゴンは歯軋りして両手を握り締める。

 

「お待たせして申し訳ありません。では、参りましょう」

 

「へいへい」

 

「っ! ラミナ!」

 

 ゴンは最後の望みとばかりにラミナに呼びかける。

 しかし、

 

「悪いけど、うちに決定権はない。頼むことも出来ん。うちからすれば、ゴトー殿の言い分は正しいでな」

 

 ラミナはゴンの希望を切り捨てる。

 言ったようにゴトーの立場上、ゴトーの態度は全く間違っていないと思っているからだ。

 これに関してはゾルディック家特有と言う話ではなく、マフィアだろうが王族だろうが、要人警護をする者ならば同じ対応をするだろうからだ。

 

 故に客人に過ぎないラミナが、そこに口出しするのはお門違いであり敵対行為に等しい。

 

「けど、キルアに確認を取るくらい……!」

 

「それを決めるんはゴトー殿やない。キルアを始め、ゾルディック家のもんや。そして、ゾルディック家当主が『キルアに取り次ぐ必要はない』って言うてたら、キルアがどう言おうと使用人達はそれすらも出来ん。相手を間違えたらあかんで、ゴン」

 

 そう言ってラミナは歩き出す。

 ゴンは項垂れてしまい、追いかけることは出来なかった。レオリオとクラピカはゴンを心配そうに見つめて、傍に寄る。

 そこに今度は賞金首ハンターと思われる2人の男がゴトーとラミナに近づいてくる。

 

「待ちな。俺達も連れて行ってもらお――」

 

ズパァン!

ズパァン!

 

 突如、近づいてきた男達の頭が吹き飛び、脳みそを撒き散らしながら即死する。

 

「うわあああ!?」

 

「ひぃいいい!?」

 

 目の前で人が死んだのを目撃した観光客達は悲鳴を上げて、ゴン達や残った賞金首ハンター2人も目を見開く。

 殺した張本人であるゴトーは眼鏡の位置を直しながら、死体を見下ろす。

 

「言っただろうが。主に危害を加える者は殺してでも案内する気はないってな……」

 

「中々おもろい技やな」

 

「光栄です」

 

 ゴトーの攻撃をしっかりと視ていたラミナは素直に称賛する。

 ゴトーはすぐに殺気を収めて、笑みを浮かべる。

 そのまま巨大な門に近づいて行く。

 

「こっちから入るんか」

 

「はい。もう一方の扉は侵入者のものですので」

 

「ほぉ~」

 

「それでですね。この扉はあなた様に開けて頂きたいと思います」

 

「……なんかあるんか?」

 

「この門は正しくは『試しの門』と申しまして。1の扉は片方2トンあります。全部で7まで扉があり、1つ増えることに重さが倍に変わります。そして開ける者の力に応じて、大きい扉が開く仕組みです。この門には鍵がなく、この門から入れば侵入者用のトラップは発動しません」

 

「なるほどなぁ。どれ……」

 

 扉に手を掛けたラミナは、特に気合も入れずにゆっくりと力を籠めて押す。

 

ギィオオオオオ

 

 音を響かせて開いた扉は4つ。

 計32トンの扉が軽々と開き、ゴトーも一瞬目を見開く。

 

「……そのままお入りください。扉は手を放すと、すぐに閉まります」

 

「ほな、早よ入って。ゴンとかが来ても困るでな」

 

「ありがとうございます。失礼いたします」

 

 ゴトーが中に入り、ラミナも続いて中に入って手を放す。

 ドオオォン! と音を立てて、扉が勢いよく閉まる。

 

「これって複数人で開けられたらどうするんや?」

 

「別に何も。1人で1の扉も開けられない者共程度、執事見習いで十分ですので」

 

「なるほど。ん?」

 

 再びゴトーの案内で歩き出すと、すぐ近くの茂みから音がする。

 

 現れたのは巨大な犬型の獣。

 

「お~」

 

「こいつはミケという番犬です。ゾルディック家の命しか聞かず、トラップ用の扉から入った者は誰であれ噛み殺します。今はあなたの事を覚えようとしているのでしょう。あなたが敷地内を歩き回っても襲わないようにね」

 

「頭ええなぁ」

 

 すると、ミケが弾かれたように立ち上がり、猛スピードで森の中に消えていく。

 

「お?」

 

「どうやら侵入者のようですね」

 

「ゴンでないとええけど……」

 

 直後、悲鳴が聞こえる。

 

「違う奴やな。残っとった賞金首ハンターか」

 

「それは良かった」

 

「で、どこまで行くんや?」

 

「途中で乗り物をご用意しております。それで本邸までご案内します」

 

「頼むわ」

 

 こうしてラミナはゴンと言う不安要素を残したまま、伝説の暗殺者一族の巣に足を踏み入れたのだった。

 

 


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