暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#150 カベ×ヲ×ヤブル

 時は戻りに戻って、モントゥトゥユピーが一度目の爆発をした、少し後。

 まだキルアがメレオロンと合流する直前の頃。

 

 すでにラミナとアモンガキッドの戦いはピークを迎えていた。

 

「しぃっ!!」

 

「シャアッ!!」

 

 ラミナは二振りのブロードソードで高速の斬撃を放ち、アモンガキッドは8頭の大蛇を斬り飛ばされながら右貫手を繰り出す。

 ラミナは首を傾げるだけで躱すも、斬り飛ばした大蛇の1頭が反対側から口を大きく開けて飛び迫ってきた。

 

「ちぃ!」

 

 後ろに仰け反って大蛇の嚙みつきを躱そうとしたが、今度は正面からアモンガキッドの髪から再生した大蛇が、飛びかかってきた大蛇を取り込みながらラミナに迫る。

 ラミナは再び高速の斬撃を全方位に繰り出して、大蛇の群れを細かく斬り刻みながら後ろに跳び下がる。

 

 しかし、アモンガキッドは逃がさないとばかりにラミナに詰め寄り、両腕の大蛇は解除して連続で貫手を繰り出しながら、頭の大蛇6頭で取り囲んで逃げ道を塞ごうとする。

 

 ラミナは左手のブロードソードを消してハルバードを具現化し、【一瞬の鎌鼬】で貫手を放つ両腕を斬り落とそうと斬撃を放ちながら、後ろに下がって大蛇の群れに飛び込む。

 

 アモンガキッドは貫手の軌道をずらして、高速の斬撃を全て払い除ける。両腕がいくつか斬られて血が少量吹き出すも、すぐに皮膚が捲れて傷が消える。

 ラミナはブロードソードを消して、【不屈の要塞】を発動して大蛇達を無力化しながらハルバードが溶かされないように素早く振り回して、大蛇を斬り払う。

 

 そこに両手を突き出していたアモンガキッドの両腕を、髪が高速で蠢いて覆って大蛇を形成し、まるで砲撃の様に勢いよくラミナに向かって飛び出してきた。

 

 ラミナは無力化されることを分かっていながら放ってきたことに訝しみながらも、大蛇2頭を対処しようとした、その時、

 

 突如大蛇が直角に下に曲がり、地面に嚙み付いた。

 

「!!」

 

 ラミナがアモンガキッドの狙いを理解したのと同時に、アモンガキッドは以前ペイジンで見せた大蛇をスリングショットのように扱う技で、高速の飛び蹴りを放った。

 ラミナは鎧とハルバードを解除して、両腕をクロスして【硬】でガードするも、踏ん張り切れずに後ろに吹き飛ばされる。

 

「ぐっ……!?」

 

 地面を数回転がったところで、体勢を整えて滑りながらも立ち上がる。

 

「まだまだ行くよぉ」

 

 しかし、アモンガキッドが大蛇の頭を蜘蛛の足の様に支えにして、再び高速ですぐ目の前まで迫ってきていた。

 ラミナは顔を顰めるも偃月刀を具現化して、冷静に薙いで斬撃を繰り出す。

 

 だが、空中にいたアモンガキッドは大蛇の脚を伸ばして上に移動して楽々と斬撃を躱し、更に振り子が弧を描くようにラミナの横に回り込んで左蹴りを放つ。

 

パチン!

 

 しかし、ラミナが指を弾くと、ラミナがいた場所にスローイングナイフが出現し、アモンガキッドの後方にラミナが現れる。

 ラミナは先程偃月刀を具現化した時に、もう一方の手でスローイングナイフを【陰】の状態で具現化し、投げておいたのだ。

 

(ペイジンと違て、ここは平地。壁も段差もない場所やったら立体機動にも限界がある。軌道は読み易い……。やけど、それは向こうも承知しとるやんな)

 

 それを証明するかのように、脚にしている大蛇から新たな大蛇が出現して、ラミナに襲い掛かる。

 

 ラミアは偃月刀とスローイングナイフを消し、ソードブレイカーとブロードソードを具現化して、大蛇を斬り捨てる。

 

 するとその直後、ラミナの周囲に口だけ念獣の大群が出現し、

 

 

「平地だから立体機動もたかが知れてるって思ったかい?」

 

 

 と、アモンガキッドが()()()()()()()()()しながら、空中を高速で縦横無尽に移動しながら言い放った。

 

「残念だったねぇ」

 

「阿呆。お前も忘れとるやろ」

 

 ラミナはブロードソードを消してファルクスを具現化し、【円】を発動する。

 

「!」

 

「消えろ」

 

 ラミナはファルクスを二度振り、アモンガキッドは反射的に【堅】を発動する。

 直後、【狂い咲く紅薔薇】によって口だけ念獣はバラバラに分断され、アモンガキッドも右腕、左足、胴体、大蛇の2頭に切り傷が走る。

 

「っ……!」

 

 アモンガキッドの動きが一瞬止まった。

 

 ラミナはその隙を見逃さず、ファルクスを消すと同時にチャクラムとブロードソードを具現化して、【小生意気な雷童子】を発動し、その動きが止まった一瞬の内にアモンガキッドの懐に飛び込んだ。

 

 

 そして、【小生意気な雷童子】によって速度が更に跳ね上がった【一瞬の鎌鼬】による超超高速の斬撃が、アモンガキッドの首へと放たれた。

 

 

 しかし、斬撃が首に触れる直前で、アモンガキッドとラミナの合間に口だけ念獣が現れて、ラミナとアモンガキッドはそれぞれ後ろに押されてしまう。

 

 その結果、超超高速の斬撃はアモンガキッドの首には届かず、首元を僅かに斬りつけるだけで終わった。

 

「ちぃ!」

 

 ラミナは口だけ念獣を蹴って、後ろに高速で跳び下がる。

 その直後、ラミナがいた場所に漆黒の大蛇4頭が通り過ぎ、勢いよく閉じられた口は空振りに終わった。

 

 ラミナはチャクラムを消して地面に着地し、それに続くようにアモンガキッドも地面に下り立つ。

 

「ふぅ……今のはかなり焦ったよ。具現化に間に合わなかったら、やられてたねぇ……残念だったけど」

 

「……」

 

「ペイジンでその能力は見させて貰ってたからねぇ。隙が出来たら来るとは思ってたんだ。まぁ、残念なことに全くおいちゃんの誘いには乗ってくれなかったけどねぇ」

 

 アモンガキッドは【小生意気な雷童子】の詳細までは、まだ看破出来ていないが、それでもその能力を使えば体に負担がかかることは気付いていた。

 だから、ラミナの性格と戦い方からして、必ずトドメを刺す時に使ってくるはずだと予想していた。だから、この戦いが始まってから時折怪しまれない程度にわざと隙を作って誘っていたのだが、ラミナは全く使う様子を見せず、ラミナもアモンガキッドの考えに気付いていると理解したのだ。

 

(さてさて……参ったねぇ。残念なことに……()()()()が結構響いてきてる)

 

 コムギを庇った際に負った腹部の傷。

 

 人間であれば普通にとっくの昔に失血死しているレベルの致命傷なのだが、キメラアントの生命力でこれまで何ともないように動いていたが、何も影響がないわけがなかった。

 

(流石においちゃんの脱皮でも、内臓や骨までは戻せないからねぇ。血を止めて穴を隠すだけで精一杯。でも、これまでのミナっち相手だったら、それでもそこまで支障がないと思ったんだけど……)

 

 手榴弾の爆発が()()()()()()()()

 

 流石に身体の内側からの、内側を走る衝撃は、アモンガキッドに少なくないダメージを与えていたのだ。

 

 そして、何より――

 

(脱皮のし過ぎと念獣を消費し過ぎた……。おいちゃんのオーラも……限界が近い)

 

 元々念獣は戦闘用ではなく、あくまで偵察と【凝】、そして威嚇を目的にしている。

 単純な仕様のため、一体一体に消費するオーラはそう多くはないが、重傷を負い、極限状態での戦いをしている状況では馬鹿に出来ない消耗になりつつあった。

 そこに加えて、脱皮による再生だ。別に無視してもいいのだが、ラミナ相手では掠り傷1つ油断できない。

 

 前回も斬られたことで手足の動きと視界を妨害されたのだから。

 他にも同じように斬られたり、傷を負う事で、どんな能力を仕掛けられるか分からないのだから、脱皮しないわけにはいかなかった。

 

 それに脱皮することで、ラミナに攻撃は無駄だと思わせる狙いもあった。

 全くの無駄であったが。

 

(でも、ミナっちだってかなりオーラを消耗してるはず……。今のペースで行けば、おいちゃんよりも先にオーラが尽き――)

 

 

キィン

 

 

 ラミナがズボンの太腿ポケットから、手榴弾とは異なるピン付きの細いアルミ製の筒を、ピンを指に引っかけながら一瞬で取り出し、放り投げながらピンを引っこ抜いた。

 

「――げっ」

 

 それが『閃光弾』であることを理解したアモンガキッドから声が漏れる。

 

 その直後、強烈な閃光が戦場を包む。

 

 光熱によりピット器官を封じられ、閃光により念獣の視界も封じられる。

 

 即座にアモンガキッドは【円】を発動して、ラミナの動きを探る。

 

 ラミナはすでにアモンガキッドの背後に回り込んでおり、ブロードソードを構えていた。

 

(ホンット……! ここぞって時ほど殺気が全くないねぇ!!)

 

 アモンガキッドは【円】を引っ込めるのと同時に後頭部から1頭の大蛇が飛び出し、ラミナへと襲い掛からせながら振り返ろうとした。

 

 しかし、ラミナはそれを読んでいたかのように大蛇が噛み付く直前にブロードソードを消し、両腕を胸の前に抱くようにして身を翻して、アモンガキッドに背中を向ける。

 

 まさかここで視線を外して背中を向けるというラミナの行動に、アモンガキッドは虚を突かれてその狙いを探るために思考が一瞬占領されてしまった。

 

 ――そして、

 

 

ドパン!!

 

 

 音と共にラミナの革ジャン左脇側から何かが高速で貫通して飛び出し、ちょうど振り返ったアモンガキッドの左肩に直撃して、血が噴き出す。

 

「ぐぅ!?(拳銃?!)」

 

 まさかの攻撃にアモンガキッドは反射的に後ろに跳び下がる。

 

 しかし、ラミナは左手にブロードソード、右手に拳銃を握った状態で振り返り、アモンガキッドに追い迫る。

 

「そこま…で!(プライド捨てるのかい……!?)」

 

「阿呆。ターゲットを殺す以上のプライドやあるかい」

 

 別に刃で殺すことに執着しているわけではないし、能力で殺すことに躍起になっているわけでもない。

 

 ただ剣や槍が好きなだけ。

 

 依頼に必要以上の私情は挟まないのがプロだ。

 

 故に今のラミナにとって最も重要なことは、()()()()()ではなく、()()()()()()のみである。

  

 ラミナは【一瞬の鎌鼬】で接近を阻もうとする大蛇を斬り飛ばし、銃口をアモンガキッドの胸に向けて迷うことなく引き金を引く。

 アモンガキッドは半身になりながら、大蛇を胸の前に滑り込ませて弾丸を防ぐ。

 

(貫通力は低いけど……! 当たった直後に弾丸が裂けたように広がる……! 弾丸が、異物が身体に残る!)

 

 最初に撃たれた左肩も貫通はしておらず、弾丸は肩内部に未だ残っており、更に撃たれた場所よりも広範囲にダメージが入っている。

 

(これじゃあ脱皮が意味を為さない! ペイジンの戦いだけで、どこまで対策を……!?)

 

 本来、アモンガキッドが万全の状態であれば、この銃弾とてそこまでダメージはなかった。

 しかし、重傷を負った今では、このダメージはかなり痛手となるものだった。

 

(これ以上銃弾を受けるのはマズイ!!)

 

 アモンガキッドは意識が拳銃の銃口に集中してしまう。

 

 その隙を見逃すラミナではなく、ブロードソードを高速で背中に振り抜いたその時。

 

 ブロードソードを手放し、直後にレイピアを具現化した。

 

「!!」

 

「ふっ!!」

 

 鋭く突き出されたレイピアを、アモンガキッドは大袈裟に思えるほどに無理矢理身を捻じって切っ先から逃れる。

 ラミナはすかさず銃口をアモンガキッドの左太腿に向ける。

 

 アモンガキッドは当然それを見逃さずに、足を動かそうとした。

 

 しかし、ラミナはアモンガキッドの動きを読んでおり、真上に刺突を放って空中にいた一つ目念獣を仕留め、更に指を鳴らしてアモンガキッドの背後に瞬間移動して、ラミナが先程までいた場所にはスローイングナイフが出現した。

 

「ちぃ!!」

 

 アモンガキッドは大蛇2頭をラミナに向かって突撃させる。

 

 だが、ラミナが指を鳴らそうとしたのを見て、一瞬動きを止めるが、すぐさま他の大蛇をスローイングナイフに向かって伸ばし、最初の2頭はそのままラミナに襲い掛かる。

 

パチパチン!!

 

 ラミナが指を2()()鳴らす。

 

 ラミナがいた場所にはスローイングナイフが出現した。

 

 そして、スローイングナイフがあった場所には――手榴弾が現れた。

 

「!!」

 

 ラミナはアモンガキッドから5m程離れた場所に移動しており、銃口をアモンガキッドに向けていた。

 ラミナは後ろに跳び下がりながら連射する。

 

 手榴弾が爆発し、爆煙がアモンガキッドを覆う。

 しかし、ラミナはすぐさまポケットから再び閃光弾を取り出して、上空に放り投げる。更にスローイングナイフを具現化して、アモンガキッドから少し逸れた場所目掛けて投擲する。

 

 閃光弾が炸裂して再び強烈な光に覆われる。

 

 それとほぼ同時に指を鳴らしたラミナは、爆煙の中に飛び込んだスローイングナイフと入れ替わり、アモンガキッドのすぐ傍に一瞬で移動する。

 

 そして、気配がする方へ拳銃を構えて引き金を引こうとした、その時。

 

 

 突如、黒蛇が口を開きながら煙を突き破って飛び出してきて、一瞬で銃口部分を噛み抉った。

 

 

 更に指ほどの太さの黒蛇が続くように3頭、ラミナに猛スピードで襲い掛かり、ラミナは目を見開きながら拳銃を投げ捨てて後ろに全力で跳び下がる。

 

 黒蛇達はそれこそまるで銃弾が如く猛スピードでラミナを追尾してくる。

 ラミナは顔を顰めながらブロードソードを具現化して高速の斬撃を繰り出すも、

 

 その全てを黒蛇は躱して掻い潜り、ラミナへと噛み付きにかかる。

 

「なっ……!?」

 

 ラミナは目を丸くしながらも無理矢理体を捩じりながら噛み付きを躱そうとする。

 しかし、黒蛇はその動きすら対応し、一瞬でラミナの体を締め付けるように巻き付き、3方向からラミナの顔面に噛み付こうとした。

 

 ラミナは歯を食いしばって、ギリギリ縛られなかった左腕で顔を庇い、右手で指を鳴らす。

 

 【妖精の悪戯】でスローイングナイフと入れ替わり、スローイングナイフが砕かれる前に武器を消す。

 

 

 しかし、その直後ラミナの背筋に悪寒が走った。

 

 

 反射的に横に跳ぼうとしたラミナ。

 だが、その前にラミナの顔面に、アモンガキッドの足裏が迫っていた。

 

 ラミナはギリギリで左手を差し込んで顔面への直撃は避けるも、勢いは全く防げずに勢いよく蹴り飛ばされる。

 

「っっ――!!」

 

 数回地面を転がり、すぐに立ち上がったラミナであったが――

 

 

 すでに目の前に両手と()()()大蛇を纏うアモンガキッドがいた。

 

 

 頭の大蛇5頭はそれぞれ指ほどの細さの黒蛇に変わっており、両手を覆っていた大蛇も最初より小振りになって、ほぼ両手を薄く覆っているような状態になっていた。

 

 しかし、それを視認した瞬間、ラミナは全身に鳥肌が立つほどの悪寒が走った。

 

 

(こいつ……! この土壇場で()()()()()()!!)

 

 

 アモンガキッドの大蛇は小さくなったのではない。

 

 更に()()()()()のだ。

 

 髪の量は減るどころか増えており、それを極限まで圧縮して束ねたことで硬度を増し、それにより攻撃力と速度を向上させた。

 それだけでも厄介だというのに、アモンガキッドは遂に脚にまで大蛇を纏い、殺傷力を上げていた。

 

 それらをオーラと圧から感じ取ったラミナはソードブレイカーとブロードソードを具現化して、対抗しようとする。

 

 そして、武器を振ろうとした瞬間――気付いてしまった。

 

 

 大蛇と黒蛇に――両目があることを。

 

 

 その目が――あの一つ目念獣であることを。

 

 

(ふざけ――)

 

「ありがとねぇ、ミナっち」

 

 

 アモンガキッドは纏う殺気とは裏腹に、穏やかな口調でラミナに礼を告げた。

 

 

「君のおかげで……おいちゃん吹っ切れたよ」

 

 

 

 

 

 

 前世の記憶があろうと、アモンガキッドもまた生まれたてのキメラアントには違いない。

 

 前世の記憶があろうと、アモンガキッドは自分が前世とは違う存在であることは理解していた。

 

 

 だが、それを受け入れていたかと言えば、答えは――『否』であった。

 

 

 アモンガキッドもまた揺れていたのだ。

 

 人間と蟻との狭間で。

 

 人間と蟻は共存出来る。だから、自分もまた人間のような存在なのだと。

 

 そう、心の奥底で思っていたのだ。

 

 それがラミナをしつこく勧誘していた理由である。

 

 王のためではなかった。人間のためではなかった。

 

 

 己が、自分達が、人間と近しい存在であり、この世界に受け入れられる存在であると、認めて欲しかったのだ。

 

 

 だが、ラミナに否定された。

 

 何度説得しようとしても否定された。

 

 何度認めてもらおうとしても否定された。

 

 何度受け入れてもらおうとしても……殺そうとしてきた。

 

 それはラミナが暗殺者、殺し屋だからだ。

 そう思おうとした。実際はその通りなのだが、それだけではないと、何かを感じていたアモンガキッドであったが、その答えは……何度考えても、やはり『己がキメラアント』であるという結論に至る。

 

(そんなにその違いはダメなのかい? そんなに……その違いは絶対的な壁なのかい?)

 

 アモンガキッドはずっと自問自答を繰り返していた。

 

 だがやはり、結論は変わらない。

 

 

 人間とキメラアントは分かり合えない。

 

 

 しかし、ラミナの仲間にはキメラアントもいる。

 なのに、何故自分は受け入れてもらえないのか。

 

 その結論もすぐに出た。

 

 王だ。

 

 アモンガキッド達は王を何より最上位に置き、最優先に考えている。

 

 絶対にそれが変わることはなく、変えることもない。

 

 アモンガキッドがどんな人間と手を繋ごうとも、王が『殺せ』と言えば殺す。どんなに気に食わない人間であろうとも、王が『守れ』と言えば守る。

 

 そして、王が『人間を全て殺せ』と言えば、人間全てを殺す。

 

 アモンガキッドがどう言って、どう思おうと、結局は王次第。

 

 アモンガキッドには……『己』が存在しない。

 

 『キメラアントの護衛軍』以上の『己』になれない。()()()()()()()()

 

 

 それこそが、アモンガキッドとラミナの道が絶対に交わらない壁。

 

 

 それを理解した瞬間、アモンガキッドは打ちひしがれて……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(そうだったねぇ……。おいちゃんは、蟻。王様を守る護衛軍。前世が人間だろうがハンターだろうが関係ない。おいちゃんは……アモンガキッドなんだから)

 

 

 我は毒。

 

 

 身を以て、王を護る。

 

 

 我が想いは、王の意思に非ず。

 

 

 王に仇なす者は、須らく溶かすべし。

 

 

(おいちゃんは……ミナっちを殺す)

 

 揺れが定まった。

 

 ただそれだけで、アモンガキッドは壁を破ったのだ。

 

 

 

 

 

 アモンガキッドの両手の大蛇がうねりながらラミナに迫る。

 

 ラミナはブロードソードを高速で振り、まずは右腕の大蛇を斬り捨てようとしたが、

 

ガギン!

 

 と、大蛇の鱗に弾かれた。

 

「っ!(かった……!)」

 

 ラミナはすぐに意識を切り替えてソードブレイカーで左腕の大蛇を斬りつける。

 【脆く儚い夢物語】により大蛇は髪に戻るが、アモンガキッドはそのまま左腕を突き出して、ラミナの鳩尾に叩き込んだ。

 

「ごぉっ――」

 

 ラミナは後ろに吹き飛び、そのおかげで右腕の大蛇の噛み付きを回避できた。

 しかし、

 

「シッ!!」

 

 頭の黒蛇5頭が弾丸のように高速で放たれ、ラミナに追い迫る。

 ラミナは空中で体勢を整え、ブロードソードとソードブレイカーを構える。

 

 すると、黒蛇が途中で動きを止めた。

 ラミナはその不可解な動きを訝しむと、なんとアモンガキッドが黒蛇の頭に引っ張られるようにラミナに跳び迫ってきた。

 

「なっ!?」

 

「残念だったねぇ。仕込んでるのは【地母神の邪眼】だけじゃないんだよねぇ」

 

「! あの口だけか……!」

 

 アモンガキッドは【地母神の邪眼】のみでなく、【満たされない胃袋】も蛇の口に組み込んでいたのだ。

 あくまで組み込んでいるだけなので、先程のように立体機動の足場にすることが可能だった。

 

(ブロードソードじゃあかん!!)

 

 ラミナはブロードソードを消して、もう一振りソードブレイカーを具現化し逆手に握る。

 

(あの毒だけは絶対に受けたらあかん!!)

 

 アモンガキッドはまるで空中を飛んでいるかのように身を捻りながら移動し、ラミナの左斜め上空から右足の大蛇を鋭く突き出す。

 ラミナは上半身を後ろに反らして紙一重で躱しながらソードブレイカーの刃を掠らせて解除する。

 

 ラミナも左脚を振り上げて、【打蠍】でアモンガキッドの鳩尾を狙う。

 

 そのラミナの脚を、アモンガキッドは黒蛇で難なく巻き掴む。

 

 ラミナはすぐさま関節を嵌めて、巻きつかれた脚を支えにして体を持ち上げ、巻きつかれた黒蛇を斬りつけて除念しながら、もう一振りのソードブレイカーでアモンガキッドに突きを放つ。

 

 その鋭い突きを、アモンガキッドは右前腕で受け止めた。

 能力は解除され、刃は右前腕に突き刺さるが、アモンガキッドはそんなことなど気にも留めずに、左貫手をラミナの顔目掛けて繰り出した。

 

 ラミナはそれを恐れずに逆に距離を詰め、ソードブレイカーを更に右腕に刺し込みながら、右手のソードブレイカーを消してブロードソードを具現化する。

 

 顔を傾けてアモンガキッドの貫手を躱すが、右頬を掠って皮膚が裂け、サングラスの右目側にヒビが入る。

 それを無視してラミナはアモンガキッドの首を狙って高速の斬撃を放つ。

 

 しかし、アモンガキッドも頭を前に出して間合いの内側に入り込み、ラミナの額に頭突きを浴びせて斬撃を躱す。

 

 超至近距離で睨み合うラミナとアモンガキッド。

 

 アモンガキッドが右腕に力を入れたのを感じて、ソードブレイカーを折ろうとしているのを即座に見抜いたラミナは、逆にソードブレイカーとブロードソードを解除して、アモンガキッドの両腕を両手で掴み、アモンガキッドの鳩尾に左膝を叩き込んだ。

 

 僅かに距離が開いた瞬間に、右脚を振り上げてアモンガキッドの顎を蹴り上げる。

 

「っ!」

 

 アモンガキッドは頭を仰け反らしながらも、頭から5頭の黒蛇を具現化する。

 

 しかし、その前にラミナも蹴りの勢いを利用して、後ろに下がって距離を取っていた。

 

(くそっ……反応も上がっとるな。可能性としては考えとったけど……)

 

 キメラアントと戦う際に一番恐れるべき事態。

 それが『追い詰められたことによる成長と能力の発展』であった。

 

 特に護衛軍は追い詰められたことが少ない。というか無いに等しい。

 

 故に決戦になった際、死や王の危機を目の前にして精神的に追い詰められた時に、どのような変化が起きるか予想し切れなかったのだ。

 

 しかし、アモンガキッドはこれまでの戦闘や会話から、かなり精神面でも成熟しているとラミナは思っていた。

 

(正直、ここで急に成長するタイミングやなかったと思うんやけど……。まぁ、してもうたんはどうしようもない。問題は、あの硬さと速さ。ブロードソードが弾かれるってことは大抵の剣が弾かれる。やけど、バルディッシュとかの長物やとあの速さに付いていけへん。もう拳銃も閃光弾も効果はないと思うし、手榴弾も後一個。オーラもぼちぼち限界()()()

 

 完全にジリ貧に追い込まれていた。

 

(奴も大分オーラ消費したはず……腹の穴を塞ぎ、傷をつける度に再生し、念獣や蛇もかなりの数除念した。奴もそろそろ底が近いと思うんやけど……今の能力もオーラの消費量は大して変わらんか、むしろ増したはず)

 

 しかし、敵もまた限界が近いはずだと推測する。

 

(さて、どうしたもんか、っちゅうても……もうやれることは限られとるなぁ)

 

 兵器も限界で、格闘戦はかなり厳しい。

 やはり念能力で戦うしかない。

 

 だが、それには今のままでは決定打を生み出せない。

 

(まぁ……ここまで来たら撤退するんも厳しいっちゅうか無理やろうしな。()()()()()()()()()()()()()()

 

 ラミナはいつも戦闘後の余力を計算に入れて作戦を考える。

 標的を仕留めても死んでしまっては意味がない。雇われの殺し屋なのだから、それは当たり前の事。

 

 しかし、それがアルケイデスやマチ達が思うラミナの弱点であり、『枷』になっていた。

 

 オーラの消費量やストックの消耗を常に把握しておかないといけないのだから、下手に全力を出して仕留めきれなかったら最悪だ。慎重になるのも仕方がないことではある。

 だからこそ、ラミナは常に色々な武器や能力を試行錯誤し、基本戦闘技術や情報収集能力などを磨いているのだ。

 

 だが、それを考えていてはアモンガキッドを仕留めきれないのは明白だ。

 

 更に王と護衛軍の分断、ネテロと王を宮殿から離すという最低限の作戦は成功した。

 

 護衛軍は厄介ではあるが、仕留められないわけではないことはこれまでの戦闘経験上間違いない。

 

 つまり、今回ここで仕留められなくても、それこそゾルディック家や十二支ん、名のある実力者達を動かせば犠牲は半端なく出るだろうが、キメラアント殲滅という仕事は達成出来るだろう。

 

(なら、うちはコイツだけでも仕留めれば……依頼の最低ラインは達成したってジンには言えそうやな)

 

「……ふぅ~~」

 

 ラミナは息を大きく吐いて、呼吸を整える。

 

 それにアモンガキッドは本能的に足を止めて、ラミナの動きを注視する。

 

(……ちょっと雰囲気が変わったかねぇ。出来ればこのまま攻め切らせてもらいたいんだけど……)

 

 ちなみにアモンガキッドは先程の手榴弾の爆発はもちろん、銃撃も2発、左脇腹と左上腕に直撃していた。傷はすでに塞いだが、やはり銃弾の破片が体内に残り、今も内側から筋肉を傷つけている。

 

(参ったねぇ……これはミナっちを倒せたとしても、ピトっち達を守り抜くまでの力は残らないかも)

 

 

 その時、宮殿内に雷が落ちた。

 

 

「!!」

 

 まさかの落雷に、アモンガキッドは一瞬そちらに気を取られてしまった。

 

 雨雲もないのに、いきなり雷が発生したのだ。

 気にするなという方が無理だろう。

 

 それがキルアの能力だと知らなければ。

 

 アモンガキッドは失態に気付いた時には――

 

 

 すでにラミナはすぐ目の前まで迫ってきていた。

 

 

 アモンガキッドが迎撃しようとした直後、ラミナがアモンガキッドの真上に跳び上がる。

 

 すぐさま黒蛇を放とうとしたアモンガキッドであったが――

 

 

ドドドドド!! 

 

 

「!?」

 

 突如アモンガキッドの周囲にラミナが具現化した剣や槍などの武具が降り注いで突き刺さった。

 

 まさかの武器のばら撒きに、アモンガキッドは再び思考がラミナの狙いへと集中してしまう。

 どんなにそれが罠だと分かっていても、気になってしまう。

 

 それが、強敵を前にした時の当然の思考だ。

 

 そして、それはやられた時点で、すでにもう罠にかかっているのだ。

 

 ラミナが両腕を高速で動かし、柳葉飛刀10本を投げ放つ。

 

 アモンガキッドは黒蛇で打ち落とそうとしたが、直後にラミナが指を鳴らして、アモンガキッドの左横に一瞬で移動し、すぐ傍に置かれていたハルバードを掴む。

 

 アモンガキッドは黒蛇の2頭をラミナに放つも、ラミナは鎧を纏って黒蛇の噛み付きを防ぐ。

 更にアモンガキッドは右腕の大蛇を蠢かして、自分に直撃しそうな柳葉飛刀を3本ほど噛み砕く。

 

 残った7本の柳葉飛刀は地面に突き刺さる。

 

 直後、アモンガキッドは身体が硬直し、能力が解除される。

 

(っ!? なに――)

 

 アモンガキッドの思考が驚きに染まったその瞬間に、ラミナはハルバードを地面に突き刺して鎧を解除しながら指を鳴らし、アモンガキッドの背後へと瞬間移動する。

 

 移動すると同時に左右に突き刺さっていたフランベルジュと斬首剣を掴んで斬りかかる。

 

 アモンガキッドは歯を食いしばって全身に力を籠め、オーラを全力で放出してこの謎の拘束を振り払おうとする。

 

 ラミナの刃が届く0.5秒前に拘束が解除され、アモンガキッドは全力で跳び下がって斬撃を躱そうとしたが、斬首剣の刃が右脇腹を掠って血が噴き出す。

 

「ぐっ……!!」

 

 アモンガキッドは武器の包囲網から抜け出して、距離を取る。

 

 そして、脱皮して傷を治しながら、生まれて初めて冷や汗を流す。

 

「……やれやれ……ここに来て……まだ上がるのかい?」

 

 斬撃を躱されたラミナは両手の剣を地面に突き刺す。

 

「あ~……もう、ええわ」

 

 そして、割れたサングラスを投げ捨て、頬に流れる血を袖で拭う。

 

「やったろうやないか。見せたるわ、蛇」

 

 そう言って、すぐ傍に突き刺さっていたレイピアを掴む。

 

 

「全力全開や」

 

 

 




アモンガキッドさんもね、ユピーやピトーさん達のように何かしら変化がないと。

さて、いよいよ次回。決着です。
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