暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#151 ゼンリョク×ノチ×ケッチャク

 ラミナはレイピアを鋭く突き出すと同時に、もう片方の手で指を鳴らす。

 

 【啄木鳥の啄み】を躱すアモンガキッドの右側に【妖精の悪戯】で瞬間移動し、レイピアを投げ捨ててフランベルジュとブロードソードを掴んでアモンガキッドに斬りかかる。

 

「くっ!」

 

 アモンガキッドは黒蛇3頭をラミナに放つ。

 

(その武器じゃ斬り落とせないはず!)

 

 アモンガキッドがそう判断したが故の攻撃だが、ラミナが二度連続で指を鳴らし、フランベルジュが一瞬スローイングナイフになり、更にソードブレイカーになったところで甘かったことを理解した。

 

 しかし、ラミナは更にその上を行った。

 

 ラミナがソードブレイカーで黒蛇を斬りつけようとした、その瞬間。

 

パチン!

 

 と、指が鳴り、ラミナがアモンガキッドの背後に現れた。

 

「!?(しまっ――)」

 

 すでにソードブレイカーの刃がアモンガキッドの首を斬りつける直前まで迫ってきていた。アモンガキッドは反射的に左手を差し込んで刃を防ぐも、【脆く儚い夢物語】が発動して能力が解除される。

 その瞬間を狙っていたラミナは【一瞬の鎌鼬】で高速の斬撃を放ち、アモンガキッドの背中を斬りつける。

 

 しかし、アモンガキッドは無理矢理前に出ることでダメージを最小限にし、すぐに能力を再発動して黒蛇を放とうとするが、その前にラミナはブロードソードを投げ捨てて再び指を鳴らし、アモンガキッドの左側に瞬間移動する。

 そして足元に突き刺さっている鎖鎌を蹴り上げて掴む。

 

「どうやら……こっちを先に潰しておく方が、良さそうだねぇ!!」

 

 アモンガキッドは黒蛇5頭と両腕の大蛇を全方位に放ち、周囲に突き刺さる武器を破壊しようとした。

 

 しかし、

 

「甘いわ阿呆」

 

 黒蛇が武器に噛みつこうとした瞬間、全ての武器が消えた。

 具現化を解除したのだ。

 

 ラミナはその隙を逃さず、攻撃を空振りした黒蛇たちに鎖鎌を投擲する。

 【親愛なる妹のペット仲間】により巨大な狼頭が、アモンガキッドへと襲い掛かる。

 

 黒蛇たちは高速で動き、鎖に噛みつこうとしたが、鎖鎌もまた噛みつかれる直前に消滅する。

 

 その隙に猛スピードでアモンガキッドへと詰め寄るラミナ。

 

 アモンガキッドは慌てることなく黒蛇と大蛇をラミナへと嗾ける。

 

 ラミナは全方位から襲い掛かってくる蛇たちを紙一重で躱し、アモンガキッドの真上に跳び上がる。

 

 そして再びアモンガキッドの周囲に武器が降り注いで取り囲む。

 

「くっ……!(こりゃ厄介だねぇ……)」

 

 アモンガキッドはこの戦法に歯噛みしていた。

 

(武器を狙ってもオーラに戻されるだけ……。でも、ミナっちに集中すれば武器の能力に振り回される。両方に意識を割けば、隙が出来ちゃってミナっちの対応が間に合わない)

 

 しかもまだラミナは拳銃や手榴弾を隠し持っている可能性もある。

 アモンガキッドはラミナが動く度に、動きを変える度に、武器を変える度に、その狙いを看破しようと思考が動いてしまう。

 

 それにより行動が半歩遅れてしまう。その隙をラミナが的確に突こうとしてくるため、行動が後出しになってしまい対応がギリギリになってしまう。

 

(まさか出せる武器の数と場所に制限がなかったなんて、残念なぐらい読み間違えたねぇ) 

 

 

 

 

 ラミナの能力【刃で溢れる宝物庫(アルマセン・デ・エスパダ)】の制約は以下の通り。

 

 

『【月の眼】発動時のみ、本体となる武器収納が可能。ただし、必ず刃を持っている武器であること』

 

『一度収納すると、壊れるまで本体を取り出すことは出来ない』

 

『収納できるのはオーラを纏っている武器のみ。ただし、他者の念により具現化された武器は収納できない』

 

『形状が80%以上一致している武器は収納できない。ただし、長さが1m以上、および大きさが3倍以上の差があれば認められる』

 

『具現化した武器が10回破壊されると、収納している本物も砕ける』

 

『ストック数はいかなる手段をもってしても回復しない』

 

『同じ能力は2つ以上の武器には付与できない。付与したい場合は、現在その能力を付与されている武器を破棄しなければならない』

 

『具現化した武器は、5()()()()()()()()()()()()()()()()()砕けてストックが減る』

 

『【月の眼】を一度発動すると、必ず武器のストックが最低1つ減る。発動後3分経過ごとに、ストック減少数が1つずつ増える』

 

『武器に付与できる能力は、収納した武器が持っているオーラの量、質によって限界がある。【月の眼】状態でなければ発動できないかどうかは、作ってみなければ分からない』 

 

『【刃で溢れる宝物庫】に収納されている武器が0になると、二度とこの能力は使用できない』

 

 

 

 そう、ラミナの能力に『具現化数』と『具現化場所』の制限は存在しなかった。

 

 

 

 ストックが0にならない限り何十本であろうと同じ武器を具現化出来、必ずしも両手に具現化しなければいけないわけではない。

 

 だが、基本的に具現化された武器は『振るうことで発動』するため、大量に具現化することに意味はなく。更にストックが減るリスクを少しでも減らすために両手に具現化するのが一番安全だったため、ラミナはこれまでこの戦法を選ぶメリットがほとんどなかったのだ。

 もちろん、今回のような時の為のブラフとして考えてはいたが、ラミナからすれば消耗が激し過ぎるため、この戦法を使う気はなかった。

 

 なので、アモンガキッドが勘違いしたのも無理はない。むしろ当然だったのだ。

 

 だが、ラミナも、アモンガキッドも、気付いていなかった。

 

 そして、今揃って気付いてしまった。

 

 この戦法の恐ろしさを。

 

 

(あの位置を入れ替えるナイフ。そして……()()()()()()()を、無視出来ない……!!)

 

 

 武器の包囲網の端に、あのNGLで見た超高速の閃光を放った螺旋剣が突き刺さっていた。

 

 

 アモンガキッドはキメラアントの中で唯一、【天を衝く一角獣(ウニコルニオ・レランパーゴ)】を放つ瞬間を、ラミナが螺旋剣を振るう瞬間を目撃していた。

 

 故にその存在を絶対に無視出来ない。

 

 そのすぐ隣にスローイングナイフが刺さっていれば猶更。

 

 特に【妖精の悪戯】を擁するスローイングナイフは至る所に突き刺さっていた。

 どこにでも移動して、どの武器でも取り寄せることが出来るように。

 

 それが、アモンガキッドの動きを鈍らせる。

 

 

 そう、この戦法は……ラミナや武器の事を知れば知るほど思考を鈍らせるのだ。

 

 

 そして、その危険度はアモンガキッドが消耗すればするほど増していく。

 

(次はどれで来る? そのまま斬りかかってくるのか? 入れ替わるのか? 武器を変えるのか? そう見せかけて拳銃を使ってくるか? 手榴弾を使ってくるか?)

 

 ラミナが一歩前に進む度に、アモンガキッドの頭に大量の選択肢が浮かび上がる。

 

(あの速い斬撃? レイピア? 全身を斬る剣? 視界と手足の動きを逆にする剣? 除念? 鎖鎌? 鎧を纏うハルバード? 火を生み出す槍? 高威力の大斧? チャクラム? あの螺旋の剣? どれだ? どれで来る!?)

 

 黒蛇の眼で全方位を絶え間なく見渡し続ける。

 

(待てよ? そもそも全部の武器を具現化してるのか? チャクラムもさっきの手裏剣も見当たらない。あの糸を出すグローブみたいなのもない。爆発する籠手も。それに全部の武器をもう見たのか? 他にもとんでもない能力を持つ武器があるんじゃないのか? 他にも武器を隠し持ってるんじゃないのか?)

 

 見えるモノ、見てきたモノ全てが疑わしく思えてならないアモンガキッド。

 

 一度頭に浮かんでしまうと思考が止まらない、止められない。

 

(そもそも何で今この能力を出した? ペイジンでも使えたはず。いや、ペイジンの方がもっと効果的だったはずなのに……。あぁ……駄目だ。考えれば考えるほど、ミナっちのことが分からなくなってきた)

 

 もはやこれまで築いてきたラミナへの印象すらも崩壊してきていた。

 

 出し惜しみを止めたラミナの力は、これまでの暗殺・戦闘経験の引き出しを全て吐き出すことに等しいものだった。

 

 故にこそ、アモンガキッドは思考を定められない。

 

 

 ラミナという存在と能力が、まさに闇に染まっていくかのように分からなくなっていく。

 

 

 アモンガキッドの頭には、ペイジンでのラミナの言葉が頭を過った。

 

『目に見えとるなら、逃げることも出来る。対策を考えることも出来る。倒すことも出来る。なんとか出来る可能性があるなら、怖がっとる合間に動く方がええに決まっとるやろ』

 

『やから、うちは見えんもんの方が怖い。見えんもんは対処しようがないでな。どこから来るか分からんのやから逃げようがない。どんな姿か分からんのやから対策を考えることも出来ん。見えん奴に攻撃なんざ当たらへん。何をすればええのか、全く分からん。そっちの方が断然怖い』

 

 今、まさにアモンガキッドはその言葉の意味を理解した。

 

 ラミナが見えなくなったわけではないのに。武器が見えなくなったわけでもないのに。

 

 あまりの選択肢の多さに、アモンガキッドは見えていないに等しい状況に追い込まれていた。

 

 

 アモンガキッドにはラミナの姿が()()()()()()()。だから対策が考えられない。逃げ道が見つけられない。攻撃が当たるイメージが浮かばない。

 

 

 だと言うのに、あらゆる方向から襲い掛かってくるラミナが、まるで分身でもしたかのように思えてしまうほどに全方位を埋め尽くすほどのラミナの姿が()()()()()

 

 

 どれから対処すればいいのか、どれが一番危険なのか分からない。

 

 

 故にどう動けばいいのか、何をすればいいのか分からない。

 

 

 ラミナの動きが、視え過ぎて視えない。読め過ぎて読め切れない。

 

 

 キメラアント護衛軍軍団長の優れた能力と前世の記憶を持つアドバンテージで上に立ち続けてきたアモンガキッドであったが、ここに来て己の持つ経験と予測を越える相手を前に、恐怖を覚えた。

 

 更にアモンガキッドはある事実に気付いた。

 

(ミナっちのオーラが……まだ増えてる?)

 

 先程よりもラミナから感じるオーラが力強くなっていた。

 

(ここに来て、まだオーラを出し惜しみしてたのかい? 全く……本当に残念なことになったぁ……)

 

 アモンガキッドは諦観にも似た感情が湧きつつあった。

 

 ちなみに当の本人のラミナだが……同じく違和感を感じていた。

 

(オーラも限界に近いと思とったんやけど……なんかまだ行けそうやな)

 

 武器の具現化で消費したオーラもある程度は回収出来ているが、全てではない。 

 確実にオーラを消費しているはずなのに、まだオーラが尽きる気配がなかった。

 

 

 オーラは生命力であり、そして精神に影響される。

 

 ラミナはこれまでも述べてきたように、ずっと力をギリギリまで温存する戦い方と生き方をしてきた。

 それは精神面にも当然大きな影響を与え、その影響は――オーラにすらも及んでいた。

 

 ラミナは、無意識の内にオーラを制限していたのだ。

 

 ヨークシンにおけるウボォーギンとの戦いでも、オーラを使い切ったように見えて何だかんだ動き続けていた。

 

 そして、ペイジンにおけるアモンガキッドとの戦いにおいても、スッカラカンと言っておきながら気絶することもなく鈍くはあるが動き続けていた。

 

 そう、ラミナはそもそも戦闘においてオーラを完全に使い切ったことがほぼない。

 

 ラミナが最大と思っていたオーラ量は、どんな状況であろうと生き延びることを常に頭の片隅に置いていたラミナの無意識下で、制限されたオーラ量だったのだ。

 

 それを今、完全に解き放った。

 

(まぁ、言うて微々たるもん。限界は着実に近づいとる。これで決められんかったら、終わりや!!)

 

 ラミナの頭には多くの攻撃ルートが視えていた。

 

 アモンガキッドがどう動こうと、どうとでも軌道修正出来ると確信出来るほどに。

 

 

(あぁ……()()()()

 

 

 これまで培っていた経験を放棄し、勝つために全てを投げ出した捨て身の戦い方だ……そう思ったのに。

 

 逆に全ての経験を活かす事が出来ているという皮肉。

 

 暗殺者の理想――相手に『何をしてくるのか』と恐怖を感じさせる戦い方。

 

 それが今出来ている事をアモンガキッドの様子から容易く理解させられてしまった。

 

 だと言うのに、これまでの自分を否定されたようにも感じてしまう。

 

 故に――腹立たしかった。

 

 別に特別な能力を使ったわけでもない。特別な戦法というわけでもない。切り札と呼べるほどのことでもない。

 

 ただ、解き放っただけだ。

 

 それだけで、ラミナはアモンガキッドから感じる圧が一気に小さくなったように感じた。

 

 これに苛立たなくて、何に苛立てと言うのか。

 

 そう思う程に、ラミナは胸の奥から湧き上がってくる激情を必死に抑え込んでいた。

 

 

「さぁ……殺したる」

 

 

 

 

 

 ラミナが偃月刀とレイピアを掴んで、レイピアを連続で突き出しながらアモンガキッドに迫って、偃月刀を振り下ろす。

 

 アモンガキッドは紙一重で躱しながら、偃月刀の刃を右腕の大蛇で、ラミナの顔面を黒蛇で噛み付こうとする。

 

 しかし、直前で両手の武器を消したラミナが指を鳴らして姿を消し、アモンガキッドの右に現れる。

 

 そしてすぐ傍にあったバルディッシュを左手で掴んで、片手で回してオーラを増強させながら猛スピードでアモンガキッドに突っ込む。

 

 アモンガキッドはすぐさま黒蛇を方向転換させ、更に3頭の黒蛇をラミナに全力で放つ。今のアモンガキッドにはラミナと入れ替わったスローイングナイフを破壊する余裕すら無くなっている。

 

 だが、ラミナは再び指を鳴らして、アモンガキッドの背後に瞬間移動する。

 

 アモンガキッドはそれを予測しており、両腕の大蛇をラミナに向かって伸ばす。

 

 それと同時にラミナは右手に柳葉飛刀1本を具現化し、すぐさま先程いた場所に向かって投擲する。

 

 高速で飛ぶ柳葉飛刀の先には――銀色に輝く筒が転がっているのを、アモンガキッドは捉えた。

 

 それに対処する前に柳葉飛刀は筒に突き刺さり、直後強烈な閃光が弾ける。

 

 【地母神の邪眼】の視界を封じられたアモンガキッドは、すぐさま【円】を発動し、ラミナの動向を探る。

 

 ラミナはまた【妖精の悪戯】でアモンガキッドの右斜め前方に移動し、一対の白黒の短刀を掴んで駆け出す。

 

 視界が回復したアモンガキッドは【円】を引っ込めながら黒蛇2頭をラミナに放つ。

 

 ラミナはまた指を鳴らし、反対側に瞬間移動してアモンガキッドに斬りかかる。

 

 アモンガキッドはすぐに黒蛇を方向転換しようとしたが、正面にもラミナが現れたことに一瞬動きを止める。

 

 すぐにオーラによる分身を判断したアモンガキッドは、本体と分身両方に黒蛇を2頭ずつ嗾ける。

 

 黒蛇が牙を突き刺そうとした瞬間に、分身が消えてラミナ本体も消え――螺旋剣の横に瞬間移動した。

 

「っ――!!」

 

 罠だと分かっていても、アモンガキッドは動かざるを得なかった。

 

 黒蛇5頭全てを螺旋剣とラミナに向かって、一直線全速力で飛ばす。

 

 ラミナはそれを嘲笑うかのように螺旋剣を消し、指を鳴らしてその場から消える。

 

 アモンガキッドは能力を解除して、すぐさま再発動。頭に黒蛇を出現させて全方位に放てるように構える。

 

 ラミナは左斜め後ろに現れ、ブロードソードを右手で掴んで、左手にソードブレイカーを具現化して同時に駆け出し、アモンガキッドに詰め寄る。

 

 黒蛇5頭はすぐさま放たれ、ラミナへと襲い掛かってくる。

 

 アモンガキッドは両腕と右脚の大蛇を構え、再び瞬間移動した時に備える。

 

 しかし、ラミナは今度は【妖精の悪戯】を使わずに堂々と真正面から突破しようとした。

 

 噛みつきを紙一重で躱すと同時にソードブレイカーで除念し、ブロードソードで黒蛇を弾いてソードブレイカーで除念して突き進む。

 

 黒蛇を再発動しながら両腕の大蛇をラミナに放とうとしたアモンガキッドだが、指が鳴る音がしてラミナの姿が消える。

 

 ラミナは両手の武器を消して、両手にスローイングナイフを合わせて8本具現化し、上空に放り投げる。

 

 そして連続で指を鳴らし、アモンガキッドを翻弄・挑発するように上空と周囲を連続で瞬間移動する。

 

 移動すると同時に柳葉飛刀を2枚ずつアモンガキッドに向かって投擲し、アモンガキッドは全方位から迫る柳葉飛刀を黒蛇3頭で一掃しようとしたが、これも攻撃を加える直前で消えた。

 

 それと同時に、ラミナがアモンガキッドのすぐ目の前に現れた。

 

 右肩に電気を帯びて高速回転するチャクラムを携えて。

 

「っ!?」

 

 アモンガキッドは上空の柳葉飛刀に気を取られ、【陰】で足元に滑り込まれたスローイングナイフに気付けなかった。

 

 ラミナは両手に柳葉飛刀を持っており、現れると同時に超高速でアモンガキッドの影に全て突き刺した。

 

 アモンガキッドは身体が視えない鎖で拘束されたかのように動けなくなり、能力が強制解除された。

 

 そして、大太刀を具現化して電流を最大で身体に流し、大太刀を超超高速で振り上げる。

 

オオオオオオオ!!!

 

 アモンガキッドはこれまでの飄々さからは想像出来ない雄叫びを上げて、渾身の力を振り絞って右腕を動かして斬撃を掴み止めようとした。

 

 僅かにオーラを出すことは出来たが、能力を発動することまでは出来ず。

 

 ラミナの超超高速の斬撃が右腕に斬り込んでいくのを感じ取った。

 

 【無垢村雨】による斬撃はアモンガキッドの右親指を斬り落とし、大太刀はそのままアモンガキッドの右腰から左脇を一閃し――

 

 

 アモンガキッドを上下に斬った。

 

 

 だがラミナはそれでも止まらず、大太刀を振り抜いた勢いを利用して上に跳び上がる。

 

 そして、全ての武器を消し、右手にバトルアックスを具現化する。

 

 

「――終わりや」

 

 

 そう呟いたラミナは、バトルアックスを振り被って右肩に担ぐ。

 

 下半身はうつ伏せに、上半身は仰向けに倒れていくアモンガキッドは、ラミナを見上げる。

 

「……あぁ」

 

 アモンガキッドは何故か息を吐いて、力を抜いた。

 

 ラミナはそれに疑問を感じつつも、最後の一撃を放つ。

 

 

「【敬愛する(ビッグバン)――兄の剛腕(インパクト)】ォ!!!」

 

 

 膨大なオーラを纏う大斧を、【小生意気な雷童子】によって強化された力で振り下ろして、猛スピードでアモンガキッドに落下する。

 

 

 アモンガキッドは、それでも一切抵抗する素振りを見せず、

 

 

 

「――残念だなぁ」

 

 

 

 そう呟いて、

 

 

 

ドッッゴオオオオオオオォォン!!!

 

 

 

 宮殿内の爆発にも負けない衝撃と轟音が轟いた。

 

 アモンガキッドに叩きつけられた猛烈な一撃は、地面を吹き飛ばしてクレーターを生み出しながら地面を抉る。

 

バキン!

 

 もうもうと土煙が立ち上がるクレーターの中心付近で、大斧が砕けて消滅したラミナは大斧を振り下ろした体勢のまま肩で息をしていた。

 

「はぁ! ……はぁ! ……はぁ! ……はぁ!」

 

 【小生意気な雷童子】も解除して、地面に落ちたチャクラムを消す。

 

 しばらく同じ体勢のまま肩で息をして大汗を流すラミナは、ゆっくりと上半身を起こしながら後ろに数歩ふらついて下がり、足を止めて夜空を見上げ――そのまま大の字に倒れた。

 

「はっ……はっ……はっ……はっ……」

 

 汗が止まらないラミナは、ゆっくりと呼吸を整えながら、視線だけを横に動かす。

 

 そして僅かに顔を顰めて、

 

「はっ……くそっ……たれ……はっ……はっ……」

 

 そう、呟いた。

 

 

 

 苦々しい顔の勝者の視線の先に映るのは――

 

 

 地面に開いた、穴であった。

 

 

 

 




なんかサラッと勝った感じになってしまいましたが、アルケイデスの言葉通りと言う事で(最後のウボォーさんは派手ですが)。
でも、やはりラミナがあまりド派手に勝つイメージが湧かなかったんですよ。【天を衝く一角獣】さんは警戒され過ぎて使えませんでした。
うん……この2人の戦いは必殺技を待って真正面から受けて立つ!ってイメージではなかったんですよ。

さて、次回は最初に宮殿方面を見た後、いよいよ頂点決戦に場を移します。

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