暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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すいません。

一番重要なアルケイデスの能力名が一部抜け落ちてましたm(__)m


#152 ナマエ×タテマエ×オトコマエ

 煙管を川に投げ捨てたシャウアプフは、満足げに頷いた。

 

「これで煙使いは脱落ですね。次は……宮殿に戻り現状を把握し、王の元へ」

 

 シャウアプフは宮殿を飛び出しながら【蠅の王】を発動して、無数の分身を生み出す。

 そして分身達を宮殿へと放ち、一気に宮殿の状況を掌握しに走る。

 

 あっという間に分身達は宮殿中に散り、戦場を俯瞰する。

 

 しかし、得られた情報は信じ難いものばかりだった。

 

 ネフェルピトーは何やらコムギの治療をしているが、その傍に見知らぬ人間の子供―ゴンが座り込んでいた。

 だが、コムギを治療していて無防備のネフェルピトーを攻撃する素振りもない。

 

 モントゥトゥユピーは煙管を奪ったモラウと大量の謎のヤンキー―ナックルと戦っていた。

 シャウアプフはすぐにそれが先程の煙人形だと見抜き、どんどん数を減らしていることからもう新たに分身を出すことが出来ないと判断した。

 

 それならばモントゥトゥユピーであればすぐに殲滅させることが出来るだろう。

 だが、モントゥトゥユピーの傍にいる変なとんがり頭は何だ?とシャウアプフは眉を顰めるが答えは出なかった。

 

 更に宮殿北部外壁傍でビトルファンが戦っていた。

 それは問題ない。だが問題なのはその相手がキメラアントだという事。

 

(あの者は確か師団長の……どうやら人間に与したようですね。まぁ、それだけのこと。我々の障害にはなりえないでしょう)

 

 その他はウェルフィンやビゼフがウロチョロしていたが、やはり問題は王とアモンガキッドの姿が見当たらない事だった。

 

(王はどこに……!? キッドと共にいるのでしょうか? ならばピトーとユピーが宮殿に留まっている事にも納得が――)

 

 その時、分身の1体が宮殿外の惨状を目にした。

 

(これは……!?)

 

 クレーターが出来ており、いくつもの爆破跡が刻まれていた。

 

 そのクレーターの底付近には1人の女が倒れており。

 

 そして……クレーターの端付近に、()()()()()()()()()()()()()

 

(あれは……もしやキッドの……!? まさか……キッドがやられたというのですか!?) 

 

 シャウアプフは同志の死に衝撃を受ける。

 

(あの女は……例のNGLで暴れた女ですか! まさか……キッドを倒すほどの実力があったとは!?)

 

 シャウアプフはアモンガキッドがコムギ同様ゼノの【龍星群】によって傷つけられたことを知らない。もっとも、知っていたとしても、アモンガキッドが人間程度にやられるとは思ってもいなかっただろうが。

 

(では王はどこへ?! 王がいない!? 皆さん、一旦戻ってくるのです!)

 

 分身に呼びかけて、身体を再構成する。

 小さくなったままでは速度もパワーも全力を出せないからだ。

 

 そして、分身達が続々と戻り、身体を再構成していると、モントゥトゥユピー達が戦っていたはずの場所でオーラの爆発が起こった。

 

(オーラの爆発!? ユピーの!? あの状況から使う程の技ですか!? くっ!)

 

 アモンガキッドの死が再び頭に過り、最悪を考えてしまう。

 

(……気にはなりますが、今優先すべきは王の行方を知ること!!)

 

 故にシャウアプフは、唯一会話が出来そうな者の元……ネフェルピトーの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 そして、その肝心の王は……宮殿より遥か南の荒野にやってきていた。

 

 ゼノが生み出した【龍頭戯画】の前脚に尻尾で掴まっていた王は、一切の不安もなく、それどころか空からの景色を楽しんでいるようにさえ見えた。

 

 その時、龍がその姿を消し、王とネテロ、アルケイデスは空中に放り出された。

 

 しかし、誰一人として慌てることなく、楽々と地面に着地する。

 

「……ここは戦争兵器の実験場じゃよ。好きに暴れていいぜ」

 

 ネテロは周囲を見渡す王に説明する。

 正々堂々気兼ねなく戦うことが出来るように。 

 

 アルケイデスはすぐにでも始めるつもりだったが、ネテロも王も全く闘気すら纏わないので呆れた顔でネテロの後ろで立っていた。

 

 すると、王は視線を横に向けたまま口を開いた。

 

「……何故戦う?」

 

「……は?」

 

 まさかの問いかけにネテロは呆気に取られ、アルケイデスは眉を顰める。

 

「其の方らに勝ち目はない。死に急ぐことはあるまい」

 

 結果は分かり切っていると傲慢不遜に言い放つ王に、ネテロは少し不貞腐れたように耳に指を入れて穿る。

 

「やってもみねぇで分かるかよ。儂らのこと何も知らんだろうが。見た目で判断すると足元を掬われるぞ?」

 

「……くくく!」

 

 ネテロに対してアルケイデスは愉快そうに笑う。しかし、その内側に殺気が膨れ上がったのをネテロは感じ取っていた。

 それでも尚、王は涼しい顔をして2人に視線を向けた。

 

「逆だ。戦局が読めぬほど、凡庸な指し手には見えぬ」

 

 だがしかし、王の言葉は2人が強者、それも並外れた実力を抱くからこその言葉だった。

 ネテロとアルケイデスが極致にも至る強者だからこそ、このまま戦えばどうなるかなど理解しているはずだと、王も理解していた。

 見た目子供でしかないアルケイデスを、見た目通りに侮らない時点で、ネテロ達も王の実力の一端を嫌でも理解させられていた。

 

「余はこの世を統べるため生を受け、当初人間等に家畜以上の感情を持ち得なかったが、今は違う。僅かながら生かすに足る人間がいることを知った。あの娘がそうだ」

 

「「……」」

 

「お主らにも同じものを感じる。今、矛を収めるなら、許してやらんでもない」

 

 それでもやはり己が絶対強者で王であると言う態度は変わらない。

 あくまで王の慈悲で生存を許されている事実を強調するかのように。

 

「……それは、儂らだけをって話だろ?」

 

 ネテロは顔を引き締めて、ゆっくりと両腕を広げていく。

 

「そいつは立場上、聞けねぇ相談だわな」

 

「そうじゃのぅ」

 

 アルケイデスもコキリと首を鳴らして、ゆっくりと殺気を身体に纏わせていく。

 

「……負けを覚悟の戦いか」 

 

 王はそれでも構えようとすらせず、まっすぐに2人を見据える。

 

「理解出来ぬな……人類という種のためか? ならば、余の行為はむしろ()()だと言っておく。……例えばお前達の社会には国境という縄張りに似た仕切りがあっただろう。境の右では子供が飢えて死に、左では何もしないクズが全てを持っている。狂気の沙汰だ」

 

「「……」」

 

 ネテロ達は王の言葉を静かに聞いていた。

 

「余が壊してやる。そして与えよう。平等とは言えぬまでも、理不尽な差のない世界を!」

 

「……ん~」

 

「……くっ!」

 

 ネテロは思わず構えを解いて頭を掻き、アルケイデスは顔を背ける。

 そんな2人の反応を無視して、演説を続ける。

 

「始めの内は『力』と『恐怖』を利用することを否定しない。だが、あくまでそれは秩序維持のためと限定する。余は……何のために力を使うかを学習した。弱く、しかし生かすべき者を守るためだ。敗者を虐げるためでは決してない」

 

「ぶっはっ! くっ、くくくく!!」

 

 非の打ち所がない高尚な王の演説が終わった瞬間に、アルケイデスが吹き出して腹を抱えて笑い出す。

 

 それに王は初めて顔を歪め、ネテロは視線をアルケイデスに向ける。

 

「……何がおかしい?」

 

「いやいや……くくく! すまぬすまぬ。まさか蟻の口からそのような()()が出て来るとは思ってもおらなんだでのぅ」

 

「……戯言だと?」

 

「おお、戯言も戯言だの、蟻の王とやら。残念ながら、お前は()()()()()()()()()()()

 

「……」

 

 

「人間は、この世で最も下等な生き物よ」

 

 

 アルケイデスは悟り切った、清々しいとすら言えるほどに曇りのない微笑みを浮かべて言い切った。

 

「この世に生かすべき人間などおらぬよ。じゃが、この世に死ぬべき人間もまたおらぬ」

 

「……どういう意味だ」

 

「別に難しいことではない。例えば、無償で人々に食べ物を分け与え、寝床を提供し、治療を施す者がいたとしよう。さて、この者は生かすべきか?」

 

「当然だ」

 

「ほう、なるほどなるほど。じゃが、その者が無償で施したせいで、料理屋や宿屋、病院が儲けを失った。それはどう思う?」

 

「……」

 

「これだけだと料理屋などの方が矮小に見えるやもしれん。されど、その者達も守るべきものがある。家族であったり、従業員であったり、店であったりな。そして、それらの店が潰れれば、その店と契約していた店や者達もまた儲けを失い、潰れるやもしれん。……さて、そう考えると、その慈善溢れる者は……悪行を尽くしたとも言えるのではないか?」

 

「……」

 

「では、今度は盗賊がいたとしよう。いくつもの村や町から食料や物を盗み、村人を殺し傷つける者達。さて、今度は殺すべきかの?」

 

「……殺すべきであろう」

 

「そうかの? もし、その盗賊の行いは同じように行き場を失くし、他の場所へと逃げられぬ弱者達のためであったならば? そして、その襲われた村や町の者達が、その者達から搾取し苦しめ、追放した張本人達であったならば? そう考えると……その盗賊は善行を為したと言えるのではないか?」

 

「……」

 

「つまりじゃ。お主が無価値と思う人間は、お主以外の者からすれば価値ある人間であるやもしれぬし。お主が価値あると思う人間は、それはもう死んで欲しいと思われ、儂のような殺し屋に依頼される程の愚か者やもしれぬ。故に、あり得ぬのじゃよ。平等な社会など、理不尽な差がない世界など。何故ならば、それを()()()()()()()という時点で、それはもう()()()()()()()()()()()()()()()()の」

 

 どんなに心掛けようと、複数名による議会制にしたとしても、どれだけ客観的な判断材料を集めようとも。

 それが他でもない『誰か』が作った基準であるならば、それはそこに関われなかった者からすれば不平等で、理不尽な決定だろう。自分の意思関係なく決められたのだから。

 

「そう、人間はの、他人の定めた基準に従うという事実が耐え難い愚か者なんじゃよ」

 

「……だが、貴様ら人間は国を作り、法を作り、規則を作り、それを順守しているではないか。だというに、それが本当は耐え難いものだと?」

 

「いかにも。だが、仕方なかろう? そうしなければ、自分は()()()()()()()()()()()()()()を叩きつけられ、人間社会から追い出されてしまうのだからの」

 

「何?」

 

 

「『人間』とは種族の名前ではない。カテゴリー……ただの巨大な集団の名称に過ぎん」

 

 

「……どういう意味だ?」

 

「確かに儂らは見た目、体の構造は似ておる。それに子も為せる。そのせいか社会を形成することが出来ておるが……儂らは本能的に気付いておるんじゃよ。()()()()()()()()()()()()()()()。だからこそ、儂らは他人を傷つけ、貶め、殺すことが出来る。たとえ、肉親であろうともな」

 

 世界最高峰の殺し屋であり、世界からその存在を抹消されている流星街の生まれのアルケイデスだからこそ、至った『人間という存在』への結論。

 

「知能を得たが故に、人間()()()()()()()()()()は本能的な同族との繫がりを感じ取れなくなってしもうた。それこそ理由がない限り、他者を思いやる、愛しようという感情が芽生えぬ哀れな生き物じゃ」

 

 親は己と血が繋がった、自分が腹を痛めて産んだ子供だからこそ愛する。しかし、その子が自分と血が繋がっていないと判明した瞬間に、これまで愛してきた事実がなかったかのように捨てる。

 もちろん、そんな親ばかりではないが、それでもそれは『これまで自分の子供として育ててきた』事実があるからだろう。

 

 恋人も友人も同じだ。

 愛する恋する慕うに理由はないと言う者は多いが、結局それも見た目であったり、性格であったり、居心地であったりと理由がある。

 

 そして、それは容易く裏返ることも、また誰もが知っている。

 

 愛はきっかけ1つで憎悪になり、恋は理由1つで嫌悪になり、友情は時に大した理由もなく、あまり会わなくなったと言う程度で無関心になる。

 

 そのような感情は、全て知能から生まれると、アルケイデスは理解した。

 

「儂は殺し屋故に、これまで様々な理由で殺しを依頼されてきた。『あいつが気に入らないから』『あいつがいると俺が上に立てないから』『あいつは俺を馬鹿にしてるはずだから』『あいつは太ってるから』『あいつが女だから』……『あいつが生きてることが気に食わない』。挙げればきりがない。そして、そんな依頼は、驚くことに周囲からは人徳者と云われている人間がしてくることが多い」

 

 元は本当に人徳者だったのだろう。

 だが、周囲に持て囃され、いつしかそれが当たり前になり、ずっとその状態を維持したいために()()()()()()()()。 

 

「それでも変わらぬ者もおる。だが、そんな者でものぅ……社会から弾き出されるか、追い出されようとされると、自分を苦しめる悪やその現実に屈する。そして……闇に手を伸ばす」

 

 つまりは殺し屋などのアウトローを頼ったり、自分自身が犯罪に手を染めるようになる。

 

『そうしなければ、生きていけなかったから』

 

『そうしなければ、全てが奪われていたから』  

 

『そうしなければ、自分はこの社会で生きていけない』

 

 と、()()()()()()

 

 少し前まで慈しんでいた人々を手にかける。

 

 『人間』と言う超巨大なコミュニティーで生きていたいから。

 

 ただそれだけの為に。

 

 それはアウトローな者達も同じだ。

 流星街の住人達も結局のところ、コミュニティーがなければ生きていけない事実は変わらない。

 

 

「結局のところ、人間という生き物は、()()()()()()()()()()()()が重要なんじゃよ。決して他人のためでは動けぬ。そんな生き物は、どう考えても家畜以下じゃろうて」

 

 

 アルケイデスの言葉に、王は理解不能とばかりに顔を歪める。

 

「ならば、何故余と戦う? 人間を下等と、己とは異なる生物というのであれば、戦う理由はないはずだ」

 

「そりゃあ儂が殺し屋だからに決まっておろう。依頼され、引き受けた以上、仕事は熟さねばのぅ」

 

「……やはり、理解に苦しむ」

 

「かっかっかっ! 出来るわけなかろう、たかが小童に。知能が高いからと言って、全ての物事が理解出来るわけがない。そんな事を思えるのは、世界を知らぬ粋がった小僧だけじゃて」

 

「……ならば、猶更戦う必要はなかろう」

 

「……ほぉ?」

 

「互いに理解出来ぬのであれば、理解出来るまで論を交わせば良い」

 

 王はそう言い放ち、その場に腰を下ろす。

 

「やはり、貴様らとは戦わぬ。ここに来たのは、忌憚なく論を交わすために過ぎぬ」

 

「……」

 

「近う寄れ」

 

 座るように促す王に、アルケイデスはネテロに視線を向ける。

 

 ネテロは先ほどからずっと王を観察していた。

 

(……奴は揺れている。人間と蟻の狭間で)

 

 人間の性質を受け継いだせいか。人間以上の身体能力と知能を手にしたが故の結果か。コムギという戦闘能力とはかけ離れた存在と関わったからなのか。……あるいはその全てか。

 

 王は人間と同じように言葉を交わすことが出来、思考することが出来るからこそ、共に在ることが出来るという結論に至っている。

 

 ――だが。

 

(まだ気付いていない。その2つが絶対に交わらないことを!)

 

 人間として在るのであれば、蟻の王としての能力や思考は不要だ。

 そして、蟻として在るのであれば、人間への慈悲と共存は絶対に成立しない。何故なら今のキメラアントにとって、人間は家畜であり――『食料』なのだから。

 

(……だが、そうだな。どちらに傾いたとしても、結論は変わらない)

 

 人間として在ることを選んだ場合、NGLと東ゴルト―を侵略・占領した事実によりテロ主犯として極刑になるだろう。

 そして、蟻としてであれば……これまで通り危険生物として処理しなければならない。

 

 もはや王の存在を認めることはない、ハンター協会会長として認めるわけにはいかないのだ。

 

 そう、再確認したネテロは、一歩踏み出す。

 

 

――早めに闘っちまった方が良い

 

 

「王よ」

 

  

――心が、ぶれる前に

 

 

「お互い大変だな」

 

 

 片や互いを認め、共存の道を探ろうとする怪物。

 

 片や『人間社会の平穏の為に』という建前の為に、手を差し伸べてくる怪物を殺す狩人。

 

 もはやどちらが世の為に戦っているのか分からない状況で、狩人は怪物の期待を裏切らなければならず、怪物は狩人に()()()()()()()()殺されようとしている。

 

 独り言のように呟いたネテロを訝しんだ王は、その瞬間周囲と己の時が止まったかのように錯覚した。

 されどその中でもネテロは当たり前のように動いており――王の見開く瞳に見惚れるほど澱みのない流線を描く合掌が映される。

 

 その直後、合掌より光が輝き、ネテロの背後に巨大な仏像が出現した。

 

 王がそれを認識したと同時に、

 

「【百式観音】『壱乃掌』」

 

 巨大な手刀が叩きつけられた。

 

 王は防御する暇もなく地面へと沈む。

 

 アルケイデスはゴキゴキと指を動かして鳴らし、追撃に出ようとしたがネテロが手を上げて制する。

 

 抉れた地面を鋭く見据えるネテロとアルケイデスの目に、当然のように立ち上がる王の姿が映る。

 

「……ぺっ」

 

 王は口から血を吐き出すも、その身体には傷は全くなかった。

 

「ほぅ……」

 

「……(直撃したはず……硬い!)」

 

 王は悠々と穴から外に出てくる。

 

「いい技だ。太刀筋が見え――」

 

 褒め讃えようとした王の目の前に、脚があった。

 

 これまた王は防御することも出来ず、直撃して顔を跳ね上げる――が、それだけで吹き飛ぶどころか倒れることもなく、足を開いて堪えた。

 

 そして、視線をすぐに攻撃の主へと向ける。

 

 空中に脚を振り抜いたアルケイデスがいた。

 

「ほぅ……本に硬いの」

 

 心底楽しそうな笑みを浮かべながら呟くアルケイデス。

 完全に不意を突かれたことに王は声をかけようとしたが、

 

 そこに再び輝く巨大な掌が両側から迫ってきていた。

 

 アルケイデスは地面に倒れて身を低くして躱していたが、王は今度も避けることも出来ずに両掌に挟まれる。

 

「【百式観音】『参乃掌』」

 

 両腕を交え、王を叩き潰そうとしたネテロだが、手応えから仕留められていない事に気付いていた。

 

 すると、力強く閉じられた両掌がネテロの意に反して、ゆっくりと開かれていく。

 

 それと同時に掌の隙間から、ネテロやアルケイデスですら背中に怖気が走る怒気が溢れる。

 

 

――そんなに、死にたいか?

 

 

 それは王からすれば、聞き分けの無い子供に向けるような僅かな苛立ちでしかなかったが、生物としての次元が少し上であるため、その稚児に向ける程度の苛立ちでさえも、そこら辺の一般人であればショック死するレベルの物であった。

 

 その怒気に対して、2人の反応は正反対だった。

 

 

 ネテロは後ろに跳び下がって王から先程の倍以上の距離を取り。

 

 

 アルケイデスは、狂気を孕んだ笑みを浮かべながら、手刀を構えて王の背後に迫る。

 

 

 王は鋭く放たれた手刀を僅かに屈んで躱し、尻尾をアルケイデスに叩きつけようとしたが、アルケイデスは左脚を絡ませてポールダンスのように尻尾を軸にして回転して躱す。

 

 回転の勢いを利用して右肘を繰り出すアルケイデス。

 王は左腕で受け止め、振り返りながら右拳を放つ。アルケイデスはそれに左ストレートを放って、王の拳に打ち合わせる。

 

 拳と拳の間の空気が衝撃となって弾け、それをゴングとして王とアルケイデスの更に激しい拳の応酬が始まる。

 

 僅か5秒。

 

 その間、五十にも及ぶ衝突が空気を揺らし、その結末は――

 

「ぐぅ!」

 

 アルケイデスの押し負けで決着がついた。

 

 アルケイデスは後ろに勢いよく吹き飛び、背後の岩壁に背中から突っ込んだ。

 

 そしてその間、ネテロは……己の後退に果てしないショックを受けていた。

 

 死を決意したはずの己が、()()()()で後ろに下がったという事実は、己の覚悟を嘲笑われたに等しいのだから。

 

 王はそんなネテロに視線を向け、

 

「悟れ」

 

 と、先程の怒りを全く感じさせずに言い放った。

 

「其の方らが余と交わすことが叶うのは、言葉だけだ」

 

(……産まれたての、餓鬼がッ)

 

 まさしく稚児に優しく理解させるようにネテロに告げてくる王に、ネテロは遂に感情の手綱を手放してしまった。

 

(それが出来れば、苦労はしねぇ!!)

 

 ハンター協会会長という重責を背負って死地に立ったネテロからすれば、好き勝手に振る舞う王に苛立ちを感じるのも仕方がないことだろう。

 更にこれまで己が積み上げてきた力が通じないことも、また拍車をかけた。

 

 その怒りのまま飛び出そうとしたネテロだったが、直前であることを思い出して踏み止まった。

 

(……待てよ。言葉、か……)

 

 ネテロは構えを解いて、王を見据える。

 

「王よ……自分の名を知りたくはないか?」

 

 まさかの問いかけに王も流石に一瞬反応が遅れてしまう。

 

「……何故貴様が、余の名を知っている?」

 

 興味を引けたことで、ネテロはようやく流れを掴んだことに僅かに口端を上げる。

 

「部下がお主の母親の臨終に立ち会ったのよ。今際の言葉がお主の名前だったそうだ」

 

 ネテロは右手で顎を撫でながら、笑みを浮かべる。

 

「その部下も護衛軍との戦いで死んじまったかもなァ……。闘る気になったかね? 儂に負けを認めさせれば……教えてやらんでもないぞ?」

 

 王はそれがネテロの挑発だと理解していた。

 しかし、その挑発が今最も自分が知りたかった情報であったことから、王はその挑発に乗るしかなかった。

 

「……殺さず、気の済む迄…か」

 

 王は呟きながら立ち上がる。

 

「飛車角落ち、と言ったところだな。まぁ……」

 

 そして、ゆっくりと身構える。

 

「すぐに詰んでやろう」

 

 王がそう応えると同時に、王の後方にある岩壁から岩が勢いよく飛び出した。

 

 それに動こうとした王とネテロは揃って足を止めて、意識をそちらに向ける。

 

「やれやれ……まさか、己が名前で釣れるとはのぅ」

 

 土煙から現れたアルケイデスは、汚れてはいるが王同様一切傷らしい傷はなかった。

 

「世界を支配しようとする王ともあろう者が、自分で殺した母が残した名前に今更興味を持つとは、随分と軟弱なことだの」

 

「……なんだと?」

 

「名など己の好きなように決めればよいものを。所詮名など記号、称号と変わらぬと言うに」

 

「……だが、貴様とて親より名を授かったのであろう?」

 

「いや? ()()()()()()。儂は生まれたと()()()()()()()()()()の」

 

 【アルケイデス】は周囲が付けた名に過ぎず、誰一人、ネテロでさえもアルケイデスの本当の名を知らない。

 

 何故ならアルケイデス自身も名を知らないだから。

 

 流星街の端で母親が人知れず産み落とし、そのままその場に捨て置かれた赤子。

 

 それがアルケイデスだった。

 

 捨て子を拾い育てるという流星街の慣習がなければ、この世にはいなかっただろう。

 だからこそ、その恩返しの一環として、アルケイデスはラミナやクロロ達など流星街出身の若者の面倒を見てきたというのもある。

 

 だが、アルケイデスは絶対に己に『名前』を付けず、付けさせなかった。

 

 

 それこそ、名を付けようとしてくれた育ての親を殺してでも。

 

 

 己は社会から抹消された異端であり、この世界の闇に生きる者なのだから。

  

「まぁ、闘る気になったのであれば理由はどうでも良いか。儂はただ、お前を殺すのみじゃて」

 

「……」

 

「じゃが、流石に()()()では勝ち目はないのぅ」

 

「……」

 

 王はアルケイデスに不気味な雰囲気を感じ取って、出方を窺っていた。

 

 ネテロも同じくアルケイデスの動向を窺っていた。

 何故なら、アルケイデスはネテロにも殺気を放っているから。

 

「やれやれ……()()はそこの爺に使うつもりだったんじゃがなぁ。まぁ、良いか。お前を殺して、そのまま爺を殺すとしよう」

 

 そう言ったアルケイデスは上着を破り捨てる。

 

 

 露わになったのは、まるで岩のように鍛え抜かれた筋肉の身体と、その身体に刻まれた大小無数の傷痕。

 

 

 王はその身体が見た目以上の年月をかけて鍛え上げられたものだとすぐに看破した。

 

 アルケイデスは両脚を肩幅に開き、僅かに腰を落とす。

 

 その動きに王とネテロは、先ほどの最初の【百式観音】発動時のネテロの姿を重ねた。

 

 アルケイデスはゆっくりと両手を胸のあたりまで上げ、本当にネテロのように胸の前で合掌し――

 

 

 合わせた両掌を下に向けた。

 

 

 その直後、膨大なオーラが噴き出したかと思うと、一瞬でアルケイデスの背後に巨大な仏像が出現した。

 

 だが、それはネテロの【百式観音】とは似て非なるものだった。

 

 白金に輝く巨大な仏像。

 

 その両肩から伸びる両腕は、数十本もの太細様々な腕が束ねられたもので、それは全て――アルケイデスの全身を握り潰すかの如く握り締めていた。

 

 頭部は完全に掌で埋め尽くされており、目、鼻、耳、口が指の隙間から覗いている。首はもちろん胴体や両腕両脚も、指すらもほぼ隙間なく握り締められていた。

 

 

「【重愛慈縛(じゅうあいじばく)千手如来】」

 

 

 王とネテロは現れた如来像に目を見開く。

 

 今もギリギリ!と耳に届きそうな程力強く握り締められており、今にも潰れて千切れそうだった。更に上からも押さえつけるように力を掛けられていた。

 

(なんだアレは……? 他者ではなく己を押さえつけて何の意味がある? それに先程の……いや、これまで奴は()()()()()()()()()()というのか?)

 

 どう考えても、あの状態ではまともに動けるはずがない。それほどまでにギチギチに固められている。

 

 王はアルケイデスの能力の意図が読めずに警戒心を高める。

 

 だが、

 

「安心せい。これは正真正銘、ただ自分を押さえつけ、()()()()()()()の能力じゃよ」

 

「……鍛えるだけ、だと?」

 

「おうさ」

 

 アルケイデスは目、鼻、口、耳だけが指の隙間から剥き出している不気味な姿で軽々と応じる。

 

「六十年」

 

「……?」

 

「儂がこの能力を発動し続けた年月じゃよ。儂は六十年、この状態で生きて、戦い、殺して来た。ただ……あそこの爺を殺すためだけに、の」

 

 ただ宿敵を殺すために、アルケイデスはずっと己を縛り、過重を重ねてきた。

 

「この能力は年々、徐々に、本に少しずつ力と重さを増してゆく。そうして我が身体を限界以上に鍛えとるんじゃよ」

 

 増していく重さは己が勝ち、生き残るための『自愛』であり。強まる縛りも己を生かし、勝ち残るための『慈愛』である。

 

 されど孤独の暗殺者故に、殺して来た者達の無念を背負った如来が、その無念を無数の手として己を地獄に突き落とすかのように。

 

 または、悪を為す己であっても人間として生きよと、重すぎる『慈愛』と『慈悲』を押し付けるかのように。

 

 そして、それを振り払おうとする己は――最低最悪の生き物だと自覚し続けることが出来る。

 

 ただただ、それだけの……己を縛るだけの能力。

 

 ただ一人の武人を殺す力を得る為だけの能力である。

 

 

 それを今、解き放つ。

 

 

 アルケイデスは下に向けていた合掌を、上に向ける。

 

 

「 反 解 」

 

 

 解除の号を告げると同時に、全身を覆う全ての掌が解放された。

 

 

 直後、強烈な闘気が突風となって王とネテロに叩きつけられる。

 

 

 そして、アルケイデスの身体が変化を始める。

 

 

ギヂヂ! ゴギ! ビギギ!

 

 

 どう考えても身体が傷ついているようにしか思えない音を鳴らしながら、アルケイデスの身体が大きくなっていく。

 

 アルケイデスの身体はビスケとは違い、念に加えて【重愛慈縛千手如来】の圧力によって少年サイズまで()()()()()()()()()()()()

 

 それによって肉体に常に負荷をかけ続け、鍛え抜いてきた。

 

 それを解放した今、アルケイデスの身体は最も戦闘に適した状態へと()()

 

 身長は170㎝ほどまで伸び、手足は太くなったが王やモラウ達などに比べれば細いが、岩鋼のように極限まで引き締まった筋肉が覆っている。

 胴体も同じく極限まで引き締められた腹筋が晒され、王はもはや本当にこれまで見てきた人間と同じ肉を持つ身体なのかと疑問が過ぎった。

 

 顔は30代ほどに見えるほど若々しく、老人とは思えない見た目をしている。

 

 そして、纏うオーラは【纏】のように見えるが、感じる圧は【練】にも等しい。

 

 だが、最も注目するべき変化は『額』だった。

 

 

 アルケイデスの額には、縦に開く『金に輝く瞳を持つ第三の目』が出現していた。

 

 

「【戦極(せんごく)阿修羅明王】」 

 

 

 殺し屋の王が、降臨した。

 

 

 




キリが良いところが見つけられない(-_-;)
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